寒くなってきたので体調ご自愛下さい(山崎つかさ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●流行り風邪!?

 やや肌寒く感じるようになってきた、清々しい秋の季節。
 新人のA.R.O.A.男性職員が、髪を振り乱しながら廊下を全力疾走していた。

「大変ですみなさあああああん!」
「うお、ばか! いきなり開けると倒れるだろ!?」

 新人の男性職員が勢いよく事務室の扉を開け放った瞬間、その衝撃で、事務室のデスクに積み上げてあった大量の薬の瓶が床に転がった。
 ころころと盛大に転がる薬瓶を、扉の近くにいた先輩男性職員が拾い上げる。

「まったく、気を付けてくれよな、このドジっ子!」
「て、てへっ、ドジっちゃいました……じゃなくて! こんなに薬が!? もしかして、もうこちらにも連絡が入ってますか!?」

 新人の男性職員が目を剥くと、瓶を拾っていた先輩男性職員が当然とでも言うように頷く。

「入ってる入ってる。その件で、朝から連絡が多くてな。……例の秋風邪のことだろ?」
「はい、そうなんです。なんでも、精霊さんだけに高熱が出る秋風邪が流行ってしまって、神人さん達が心配されて大騒ぎになってるんですよ。それで、A.R.O.A.も対処を急ぐようにと通達があって……!」

 そう、突然の流行り風邪が原因で、次々と精霊の皆さまが高熱を出して倒れてしまっているのだ。
 38度くらいの熱と全身のだるさ、あとは軽い咳が出るくらいなので、症状はそんなに危機的ではないのだが、早めの対処が必要だ。

「……とはいっても、取り急ぎ俺たちにできることといえば、こうやって市販の薬やマスクを配給することだけだしなあ。それに、精霊さんの看病は、パートナーの神人さんにお願いするのが一番いいと思わないか? 気心が知れてるだろうし、そのほうが精霊さん自身も安心するだろうしな」

 多量に取り寄せた薬とマスク等を見やりながら、先輩男性職員が提案する。

「そうですね。今のところ、神人さんに風邪がうつったことはないみたいですし……。僕たちにできることは、神人さんと精霊さんが病院に行くための足を手配したり、なんかこう、ひゅーひゅーお二人さん連れ添ってて熱いねぇってひやかしたりすることですかね!」
「ひやかしてどうすんだよ! ともかく、高熱が出てしまっている精霊さんの神人さんには、急いでタブロスの総合病院に行ってもらって、その後、今日一日は家で療養してもらわないとな」

「ええ、愛のある看病、よろしくお願いします!」

解説

【解説】
ご覧いただきありがとうございます。山崎つかさ(やまざき・―)です。
なぜか精霊さんの間だけで流行っている高熱が出てしまう秋風邪を、神人のみなさんで愛の看病をして全快にしよう、という日常系ラブコメディです。

【課題】
・病院診察代、薬代など…300Jr

・病院への付き添い模様
どうやって精霊さんと一緒に病院で診察を受けるかご記載ください。
1.心配しながら待合室まで同行して、そわそわしながら待つ。
2.お母さんの如く診療室までぴたりと付き添う。
3.「お医者さんいやだ!」と駄々をこねる精霊を引っ張って病院に放り込む。等。

・帰宅してからの看病の模様
診察を終えて、家で薬を飲んで休んでいる精霊さんをどう看病するか、ご記載ください。
1.塩と砂糖を間違えた愛情たっぷりの地獄おかゆを振る舞う。
2.一緒に添い寝してそのまま隣で寝てしまう。
3.おでことおでこで熱を測ってどきっとさせてみる。等。

以上2個の課題をプランに書いていだだけると助かります。
皆さんの愛情たっぷりの看病があれば、きっと精霊さんの熱は一日で下がるはずです。どうか、よろしくお願いします。

ゲームマスターより

今回は、看病のラブコメディ依頼のお誘いです。
2つめのエピソードとなりますので、気合いを入れて頑張ります。
急激に寒くなってまいりましたので、皆さまも体調ご自愛ください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ☆病院へ
凄い熱…ちゃんと病院行かないとダメだよ(泣きながら精霊の手を引っ張り病院へ連れていく)
大袈裟じゃないよ、恋人が具合を悪そうにしていたら心配するのは当たり前のことでしょう?
エミリオさん!?
高熱があるからなのかな、エミリオさんがこんなことするなんて(ドキドキしながら俯く)

☆看病
(宿屋、エミリオの部屋にて)
エミリオさん、ちょっと待っててね今おかゆを作るから(スキル:調理、栄養バランス知識使用)

ううん、私今夜はずっとエミリオさんの看病してるよ
っ、エミリオさん…い、痛いよ
逃げないから、私、貴方のお父さんがかけた洗脳には負けない
いつか必ず貴方を救ってみせる

☆関連エピソード:No.54魔女たちの夜会



篠宮潤(ヒュリアス)
  「ヒューリも…風邪、ひくんだね」
どこか安心(ど失礼)

●病院へ
「僕が、治るまで何日もずぅぅっっと居るのと、どっちが、いい?」
どうして男の人は病院嫌がるんだろう…
男所帯だから病院嫌がる男性連れてくの慣れてて良かった
…少し複雑な気もする、けど…;

待合室で待機
しまった…ついてった方が良かった、かも…
診察結果、ちゃんと教えてくれるかな…
本当?大きい病気じゃ、ない?

●家まで送り
病人なんだよ。今は強く言われても聞かない
「少しの間だけ、だから」

「うん!何でも手伝う、よっ」
「ご、ごめんーっ」
いつか病気の時じゃなくても、頼って貰える自分になれれば…
そういえば、ヒューリの家族の話、聞いたことない…
(少しずつ興味が)



楓乃(ウォルフ)
  辛いよね…。私が支えるから体預けて。
(診察室に連れて行ったら待合室で待機)
こうゆう時どうしたらいいの…?いつも看護される側だったから全然わからない…。
あ、この雑誌「家庭薬膳」って書いてある。参考にならないかしら。

お薬貰えたのね。よかった…。体冷やさないように早く帰りましょ?

料理は苦手だけど…。こんな時くらいしっかりしないと…!
この間のクッキングスタジオでも頑張ってやり遂げたもの…!大丈夫!

ウォルフ、起きた?
サムゲタン風のお粥作ってみたんだけど食べれる?
熱いから冷ますね。ふー、ふーっ。はい、あーん。

ふふ。珍しく素直ね。
(眠ったウォルフを見て)
…いつもありがとう。これからは私もあなたを支えるから。



クラリス(ソルティ)
  ふっふっふ、「病人看病マニュアル(謎)」を熟読したわっ
安心して任せ…ちょっと、なんで逃げるのよ!

▼病院
当然、診察室の中まで付いていくわ
待ってる間にソルが注射打たれて泣いてたりしたらおもしろ…可哀想だもの
それに風邪だと思っていたのに実は違う病気の可能性もあるじゃない?

▼帰宅後
今日は一日寝室から出させないわよ。家事も禁止!料理くらいあたしが作るわよ
看病が出来る女に男は弱いらしいじゃない?イチコロよイチコロ
まずお粥を作るわ。米と青汁とニンニクに鮪の頭…これは丸ごと入れるべきね
さぁ召し上がれ!栄養たっぷり最高傑作よ!
…効いたのかしら(額で熱を測り)
過保護も程々にして甘えなさいよね…パートナーなんだから


 小鳥のさえずりが耳に心地良い、のどかな朝。
 それは突然、やってきた。

「エミリオさん、なんだか具合悪そうだよ? ちょっと熱を測らせて」

 優しい栗色の髪をした少女ミサ・フルールが、彼女の精霊であるエミリオ・シュトルツの暮らす宿屋の一室を訪ねる。
 するとエミリオが、深紅の宝石のような美しい目をぼんやりと揺らして、上体を起こした。

「エミリオさん、凄い熱! ちゃんと病院行かないとダメだよ」
「大袈裟だな、ミサは。これくらい平気だよ」
「もう、大袈裟じゃないよ! 恋人が具合を悪そうにしていたら、心配するのは当たり前のことでしょう?」

 ミサが彼の頬に両手を添えると、彼女の気迫に、エミリオが観念したよう笑う。

「ミサは優しいね。病気になっても心配されたことなんてなかったから、嬉しいよ。……昔は、病気になった時、牢屋に入れられていつまでも放っておかれたっけ。父親のアイツは、俺がどうなろうが見向きもしなかったからね」

 自嘲気味に呟いたエミリオの言葉に、ミサの心が揺れる。
 彼のことを想うと胸が締め付けられて、ミサの頬に自然と一筋の涙が伝った。

「ちょっと、何でミサが泣くの。ミサが泣く必要なんてないでしょ?」
「だって、エミリオさんが泣かないから。だから、私が代わりに泣くの」
「……どうしてミサは、そんなに優しいんだよ」

 ――そんなにも優しくされると、壊してしまいたくなる。

 自分の衝動的な思考に、エミリオは息を呑む。
 この間から、自分に制御できない歪んだ感情が湧き起っている気がする。
 隣の彼女を見ると、彼女はエミリオのためにとめどなく涙を流していた。

「……分かった。分かったから、もう泣かないで、ミサ」

 渦巻く気持ちを振り払うように、エミリオは彼女の目元に唇を寄せて、その涙を掬う。

「エ、エミリオさん!?」

 戸惑う彼女に構わず、エミリオは掬った涙をそっと飲み込む。
 それはとても温かくて、優しい味がする。彼女を表しているかのように。

(熱があるからかな。エミリオさんがこんなことするなんて、思わなかった……)

 彼に触れられた目元が熱くて、ミサは恥じらうように俯く。

 そして、ミサに手を引かれる形で2人が病院へ向かうと、秋風邪との診断を受けた。
 待合室に残したミサにそれを説明すると、彼女がほっとしたように微笑む。
 それに笑顔で応えながら、エミリオは、自分の心に制御しがたい変化が訪れていることを感じていた。



 一方、鮮やかな紫色の髪を靡かせた少女――篠宮 潤が、精霊のヒュリアスに借りた本を返すため、実家裏のアパートに一人暮らしをしている彼の家を訪れていた。

「ヒューリ、おは、よう。いる、かな?」

 遠慮がちにノックをしてから、玄関の扉を開ける。
 すると、足元がおぼつかない様子で、空のような青色の髪を結わえた美丈夫が出迎えた。

「……何故、今日に限って朝からやってくるのかね、ウル」
「え、と、借りた本を、返そうと思った、から。ヒューリ、なんだか、顔赤い?」
「鋭いな。不覚だが、風邪をひいてしまったのだよ。体調管理を怠ったつもりは無かったのだが」
「え、ヒューリも……風邪、ひくんだね。どこか、安心、した」
「それはどういう意味かね、ウル?」

 思わずジト目で睨みつけてくるヒュリアスに、潤はぶんぶんと首を振る。

「なんでも、ない。それよりも、風邪なら、病院……行ったほうがいい、よね?」
「病院など、俺には必要のないものだよ。風邪くらい寝ていれば治る。そもそも現代医学において投薬を受けることは自然治癒と免疫力の低下に繋がりひいては病気を引き起」
「ヒューリ! 病院に行くのと、僕が、治るまで何日もずぅぅっっと居るのと、どっちが、いい?」

 ヒュリアスの炸裂するうんちくを遮って、潤が上目遣いで彼を見上げる。

「ヒューリが、病院に行かないっていう、なら、僕は、ヒューリの病気が治る、まで、ずっとここにいる、から……!」
「……本気かね、ウル?」

 いつになく頑として譲らない潤に、ヒュリアスが瞬く。

「本気、だよ! ヒューリは、病人なん、だよ。今は、強く言われても聞かない、から」
「……珍しいな。ウルがそこまで言うのなら、病院くらい行っても構わんがね」

 正直、彼女がこんなにも強情に出てくるとは思わなかった。
 これも、自分のことを気遣ってくれているからだろうか。
 言い負かされて、ヒュリアスは戸惑ったように後ろ頭を掻く。

(それにしても、ウルにも意外な……しっかりした面があったのだな。家で苦労でもしているのだろうか、大丈夫なのか)

 熱のせいか、いつもと違ったあらぬ方向へ思考がいってしまい、ヒュリアスはふと顎に手を当てる。
 自分は、思っている以上に潤のことを気にかけているのかもしれない。

「僕、家が男所帯だ、から、病院嫌がる男性連れてくの慣れ、てて、良かった。少し複雑な気もする、けど」

 どうして男の人は病院嫌がるんだろう、潤は首を傾げる。
 その呟きをどこ吹く風で聞き流しつつ、ヒュリアスは密かにがっくりと肩を落とした。

「……まさか突然訪ねてきたウルにバレるとは。本なら、なにも今日返しに来んで良かったのだよ……」
「ヒューリ、何か、言った?」
「いいや。ウルが来てくれて非常に助かった、と思っていただけだよ」
「本、当?」

 ぱあっと表情を輝かせる潤の頭に、ヒュリアスが軽く手を乗せる。
 そして、無事に病院に着いた二人だったが、潤はすぐさまヒュリアスに「待合室で待機」と説得され、そわそわしながら長椅子に腰かけて待つことになった。

「しまった、心配で落ちつかない。ついてった方が良かった、かも……。診察結果、ちゃんと教えてくれるかな、ヒューリ……」

 彼は、素直じゃないところもあるというか、強がりなところもあるし。
 ぐるぐると考えていると、件のヒュリアスがふらりと診察室から出てきた。

「ウル、心配かけてすまんな。ただの秋風邪だそうだ」
「本当? 大きい病気じゃ、ない?」
「嘘など言っとらん。そう心配してくれるのは、素直に嬉しいがね」

 肩を竦めるヒュリアスと一緒に、二人は彼のアパートへ帰宅する。
 潤の心配に素直に感謝するヒュリアスと、少しだけ、心の距離が近づいた気がしながら。



「……頭がボーっとしてすげぇだりぃ。悪ィ、肩借りるわ、楓乃」
「うん、遠慮しないで。体、だるくて辛いよね。私が支えるから体預けて」

 頭にターバンを巻いた黒髪の精霊ウォルフに肩を貸しているのは、紫陽花のように美しい紫色の髪を持つ女性、楓乃だ。

「まさかウォルフが風邪ひくなんて……。きっと、ウォルフだけだったら、病院なんてめんどくせぇって言って放っておいたでしょ?」
「なんだよそれ。まあ、あながち間違ってはいねぇかもな」
「もう、自信満々に言わないの。それよりほら、ウォルフ、診療室入って」

 ふらふらのウォルフを診療室に連れこんでから、楓乃は一人で待合室に戻る。

「こうゆう時、どうしたらいいの? いつも看護される側だったから全然わからない……。栄養のある食事を作ればいいのかな……」

 自分が失明していた過去を思い出していた楓乃は、ふと、傍らに置いてある本に目がいく。

「あ、この雑誌『家庭薬膳』って書いてある。参考にならないかしら。ウォルフが好きそうなもの、載ってるといいんだけど」

 具合の悪い彼を、元気づけられるような料理を作りたい。
 それは一重に、ウォルフの笑顔が、見たいから。
 楓乃は、彼の存在が自分の中で少しずつ大きくなっていることに気付く。
 もう心配をかけたくない、今度は自分がウォルフの力になりたい、そう思えるくらいに。

「待たせたな、楓乃。ただの秋風邪だってよ」

 そこへ、診察を終えたウォルフが戻ってくる。
 その手には、処方された薬袋が握られていた。

「お薬貰えたのね。よかった……。体冷やさないように早く帰りましょ?」
「おう! 今ならベッドに入った瞬間寝れる自信あるぜ」

 ウォルフが軽口を叩くと、楓乃がほっとしたように微笑んでから歩きだす。
 彼女の背中を見つめながら、ウォルフは誰に伝えるわけでもなく口を開く。

「……そっか。ただの秋風邪か。へへ、よかったぜ」

 正直、もし変な病気だったら……と、少しだけ不安になっていた。
 風邪のせいか、変に弱気になっていたのかもしれない。

「まだ、アイツを守ってやれるんだな。――楓乃、オレがオマエの力になるからな。今、オマエの傍にいるのは、他の誰でもねぇ、オレなんだから」

 誰よりも近くで、彼女のことを守れたらいい。
 頑張り屋な彼女が、もしも無理をして倒れてしまった時に、自分が手を差し伸べられるように。

「ウォルフ、どうしたの? 肩貸そうか?」
「平気平気! いつもありがとな、楓乃!」

 振り返る楓乃に笑いかけて、ウォルフは彼女に歩み寄る。
 心から守りたいと思える大切な彼女を、どこか眩しく感じながら。



「当然、診察室の中まで付いていくわ! 待ってる間にソルが注射打たれて泣いてたりしたらおもしろ……可哀想だもの」
「いや今なんか良からぬことを言いかけたよね、クラリス!?」

 所変わって、病院で元気なやり取りをしているのは、浅い海のような青髪の女性クラリスと、その相方の精霊で、優しげな風貌をしたソルティだ。

「絶対面白がってるだろ。……仕方ないなぁ。ついてきてもいいけど大人しくしてろよ?」
「わかってるわよ。風邪だと思っていたのに実は違う病気の可能性もあるじゃない? だから、診察には保護者が必要だと思うのよね」
「保護者ねえ。どっちが保護者なんだか」

 頭を抱えてみるが、どうにも熱があるせいで額が熱い。

「まさか風邪ひくなんて……。今日に限ってご飯の作り置きないしなぁ。うーん、クラリスが変な気を起こさなきゃいいんだけど……」
「……その呟き、丸聞こえよソル。大丈夫、なにも問題ないわ! ふっふっふ、なぜならあたしは、この『病人看病マニュアル(謎)』を熟読したんだものっ! だから、安心して任せ……ちょっと、なんで逃げるのよソル!」
「逃げるが勝ちって言うからね!」
「待ちなさあああい!」

 クラリスが本を出した瞬間に、ソルティがすたこらさっさと逃げ出す。
 それを追いかけて診療室に一緒に入り込むと、医者から出された診断は流行りの『秋風邪』。

「ふうん、ソルも風邪ひくのね。健康管理とかしっかりしてそうなのに、珍しいじゃない」
「たぶん、クラリスの面倒で日々精神的にも肉体的にも追い込まれてるせいだと思うよ」
「どういう意味よ!?」

 相変わらず仲の良いやりとりをしながら、二人はタブロス市内の家に帰宅する。

「今日は一日寝室から出させないわよ。家事も禁止! 料理くらいあたしが作るわよ」
「料理くらい!? その心意気は有難いけど、有難いんだけどねっ? むしろ出来れば何もしないでいてくれた方が……!」
「失礼ね! 看病が出来る女に男は弱いらしいじゃない? ソルの心、バキューンっとイチコロよ、イ・チ・コ・ロ!」
「いやイチコロって、本当に俺死んじゃうから! 天に召されちゃうから!」

 あなたのハートを撃ち抜くわよっと銃で心を撃つ仕草をするクラリスに、ソルティは「ないないっ」と顔の前で手を振る。

「……今日は、クラリスが殺人兵器並の料理を生み出さないように祈りながら寝よう」

 嘆きながらベッドに潜り込んでいくソルティを見送った後、クラリスは慣れないキッチンに立つ。
 そして、熟読しすぎて表紙が折れ曲がった『病人看病マニュアル(謎)』を開いた。

「まずお粥を作るわ。米と青汁とニンニクに鮪の頭……これは丸ごと入れるべきね! それから、とろみを出すために片栗粉が必要かしら。消化を促進するヨーグルトを隠し味に混ぜてもいいわね。意外とお粥って難しいわね……」

 ……とても嫌な予感がする。
 そして、手当たり次第に食材を煮込んだ渾身の謎お粥が出来あがるのだった!

「ソル、お待たせ! できたわよ!」

 クラリスが、ベッドで休んでいるソルティにお粥を持っていく。

「あ、ありが……って、うっ……何この悪臭……お粥!? いやいや、目玉浮いてるんですけど! 魚の頭!?」
「さぁ召し上がれ! 栄養たっぷり最高傑作よ!」

 ずいっとお粥を差し出され、ソルティはおそるおそる謎のどろどろ物体を口の中に運ぶ。

「こ、これはっ……! 口の中に広がるめくるめく楽園に、なんだか遠くに綺麗なお花畑の幻覚が見え……」
「ソル!? しっかりして! そんなに美味しかったの!?」
「え、いや、違っ」

 否定したい! 申し訳ないけれど全力で否定したい!
 だが、強烈な味に意識朦朧のソルティは、焦点の合わない目でクラリスを見つめる。

「もしかして、お粥が効いたのかしら。大丈夫、ソル?」

 急に黙り込んだソルティに、クラリスはおもむろに額を寄せて、彼の熱を測る。

「わ、クラリス!? や、あ、うん、大丈、夫、かな、たぶん!」

 至近距離に迫った彼女の可愛らしい顔に、緊張だか熱だかわからないままソルティが顔を赤らめる。不意打ちだ。

「まだ熱がありそうね。ソル、過保護も程々にして甘えなさいよね。パートナーなんだから」
「……そうだね、ありがとう。お言葉に甘えて、少し休もうかな」

 そうして、ソルティは満腹になって眠りにつく。
 彼女の優しさに小さく高鳴る胸と、ごろごろぴーっと鳴り始めた胃腸を押さえながら。



「エミリオさん、ちょっと待っててね。今おかゆを作るから」

 宿屋着いたミサとエミリオは、ミサが栄養バランスの知識を駆使して作ったおかゆをこしらえていた。
 それを綺麗に完食してから、エミリオがミサに笑いかける。

「ご馳走様、おかゆをどうも有難う。薬を飲んだら寝るから、ミサは自分の部屋に戻っていいよ」
「ううん、私今夜はずっとエミリオさんの看病してるよ。心配、だから」

 ミサがエミリオの提案を断ってベッドの脇に腰かけると、エミリオが少し眉根を寄せる。

「いいって言ってるでしょ……。いつも大袈裟なんだよ、ミサは」
「でもっ……」

 なおも食い下がるミサに、エミリオは自分でも抑制できないほど、理性が無くなったように頭に血が上る。

「お願いだから、早く……帰れ!!」
「エミリオさん!? きゃっ……」

 別人のように豹変したエミリオが、ミサの華奢な身体を力任せにベッドに押し倒す。
 軋んだ音を立てるベッドと、衝撃でくしゃりと乱れるシーツ。

「っ、エミリオさん……い、痛いよ」
「この間からずっとだ……。俺は、お前が愛おしくて憎くてたまらない……! このままじゃ、おれ……はっ」

 いつか本当に、お前のことを、傷つけてしまうかもしれない――……!
 渦巻く愛憎の気持ちを抑え込もうとした瞬間、何かがふっと切れたように、エミリオの意識が途切れる。
 力を失って、ミサの胸元に倒れ込むエミリオの体。
 意識を手放してしまった彼の頭を撫でながら、ミサは決意を秘めたように呟く。

「逃げないから。私、貴方のお父さんがかけた洗脳には、負けない」

 いつか必ず、貴方を救ってみせる……!


 一方、アパートに帰宅した潤とヒュリアスだったが、家に入ろうとする潤をヒュリアスが留めた。

「ウル、帰りたまえ。一人暮らしの男の家にむやみに入るものではないよ」
「ヒューリ、父親みたいな、こと、言うんだね」
「……ウルは、俺のことをそう認識しているのかね?」

 なんとなく含んだ物言いをするヒュリアスに、潤は可愛らしく首を傾げる。

「よくわからない、けど、少しの間だけ、だから。ヒューリのこと、心配、だよ」
「心配? まあ、少しの間だけなら、正直助かるがね」

 口角を持ち上げるヒュリアスに、潤も嬉しそうに微笑む。

「うん! 何でも手伝う、よっ」
「ならば、湯沸し頼む。手がおぼつかん」

 布団に横になるヒュリアスを脇目に、潤が鼻歌でも唄いそうな勢いで湯を沸かす。
 ヒュリアスの役に立てるなんて嬉しい、もう気分はうきうきであった。

「よ、し、沸いた! ヒューリ、お茶、淹れてみっ……わ、わ、わあああ!?」
「ウル!?」

 お茶を運ぼうとした矢先、気持ちが急いたためか、でっぱりに躓いてウルがつんのめる。
 ヒュリアスは、盛大に飛んできたお茶をとっさに座布団を構えてガードした。

「ご、ごめんーっ」
「ウル……俺を殺す気かね」

 冗談任せに言ってみれば、潤がしゅんと縮こまりながら小さくなる。

「ごめんなさい……。ヒューリに、頼ってもらえて、嬉し、くて。それで、いつか、病気の時じゃなく、ても、頼って貰える自分になれればって、思って……」
「何を言っているんだね。ウルは充分に頑張っているよ、俺がよく知っている。火傷はしなかったかね?」

 何気なく潤の手を取ってしまって、ヒュリアスは慌ててその手を離す。

「……と、すまん。女性の手に気安く触れるものではなかったな。失礼した」
「え、あ、え、大、丈夫……! そういえば、ヒューリの家族の話、聞いたことない、な。ご両親、とか、兄妹姉妹はいるのか、とか」
「ふむ、俺の話? まあ、風邪が治って気が向いたら……な」

 会話が苦手なはずの潤が、自らヒュリアスの話を聞きたいと言い出すとは……。
 彼女の成長ぶりを感じで、ヒュリアスはこっそりと微笑むのだった。



 すっかり寝ているウォルフの寝顔を見守りつつ、楓乃はおかゆの作成に勤しんでいた。

「料理は苦手だけど……。こんな時くらいしっかりしないと! この間のクッキングスタジオでも頑張ってやり遂げたもの! 大丈夫!」

 前回のお料理教室で渾身のモンブランを作り上げた楓乃は、自分の料理の腕前が確実に上がっていることを確信していた。
 今日挑戦するのは、鶏肉と野菜を生姜と料理酒で煮込んだ、サムゲタン風の薬膳おかゆである。
 手の込んだ料理であるが、楓乃は手慣れた手つきでおかゆを仕上げていった。

「ウォルフ、起きた? お粥作ってみたんだけど、食べれる?」
「……ん? どうした楓乃?」

 とろんとしているウォルフが、楓乃の手にあるお粥を見るなり、はっと目を見開く。

「え? オマエそれ……。マジかよ、すげぇ美味しそうじゃねぇか!」

 あのドジな楓乃がオレのために作ってくれたなんて、とウォルフは自然と頬が緩む。

「熱いから冷ますね。ふー、ふーっ。はい、あーん」
「あ、あーん……」

 照れながら開いたウォルフの口に、そっと運び込まれる楓乃の愛情たっぷりのおかゆ。

「……ん、うまいな。体に染み渡る……」
「よかった! 頑張って作った甲斐があったわ。ふふ、今日は珍しく素直ね」

 くすくす笑うと、釣られたようにウォルフも幸せそうに微笑む。
 そしてしばらくおかゆを食べた後、ウォルフが眠そうに目をこすった。

「悪ィ、折角作ってくれたけど、オレ、もう……」
「わかった。ゆっくり休んでね、ウォルフ。おやすみなさい」

 穏やかな寝息をたてるウォルフの髪に、楓乃は少しだけ指を通して、軽く梳いてみる。

「……いつもありがとう。これからは、私もあなたを支えるから」

 いつだって傍にいて、あなたの力に、なれるように。



 翌日、熱の下がったエミリオが目を覚ますと、ミサが椅子にもたれたまま眠っていた。

「ミサ……怖かっただろうに、ずっと俺の傍にいてくれたの……?」

 記憶が曖昧だが、自分は、ミサを追い詰めるようなことをしてしまった気がする。
 それなのに、一晩中傍にいてくれたのか。

「ありがとう……、ごめん、ミサ」

 すやすや眠る彼女の唇に、掠めるように自分のそれを重ねる。
 恋人である自分は、彼女の傍にいていいのだろうか。その資格があるのだろうか。
 エミリオの心は、少しずつ揺れ動いていく。



 同時刻。
 全快になったソルティの脇、クラリスが隈のできた顔で机につっぷして寝ていた。
 彼女の枕代わりになっているのは、大量の付箋でマークされた例のマニュアル本。

「……クラリス、俺のために頑張ってくれたんだね」

 そっと、手近にあった毛布を彼女の背に掛ける。
 あどけない彼女の寝顔を見つめながら、ソルティは心から微笑んだ。

「いつもありがとう、クラリス」


 こうしてまた、皆の絆が深まっていく。
 病める時も健やかなる時も、お互いに支え合って生きていけたらいい。
 たとえ、それぞれに抱えるものがあったとしても。

 ――彼女の笑顔こそが、自分たちにとって、最高の特効薬なのだから。



依頼結果:大成功
MVP
名前:クラリス
呼び名:クラリス
  名前:ソルティ
呼び名:ソル・ソルティ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 山崎つかさ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 10月29日
出発日 11月06日 00:00
予定納品日 11月16日

参加者

会議室

  • [4]楓乃

    2014/11/02-22:01 

    ミサちゃん、潤さんこんにちわ!(駆け寄ってにこっと微笑み)
    クラリスさん、初めまして。楓乃(かのん)と申します。
    どうぞよろしくお願いします。

    あら、なんだか素敵な本をお持ちですね!(クラリスさんの本を覗き込み)
    そうですね。風邪で弱っているんだもの、ちゃんと栄養つくもの作らなくちゃですよね!

    普段ウォルフに色々任せっぱなしだし、こうゆう時こそ頑張らなくちゃ!
    こないだクッキングスタジオにも行ったし!
    今日の私は一味違う気がします…!(虚空を見つめ

    看病、頑張ります!!(ぐっ


  • [3]篠宮潤

    2014/11/02-21:40 

    クラリスさん、初めまし∑!?
    …そ、ういう、本もある、んだね…っ。僕も、今度調べてみよう、かな…
    あっ。僕は、篠宮潤(しのみや うる)という、よ。よろしく、ね。

    ミサ、楓乃さ、ん、こんにちは、だ。

    ……ヒューリ、って、風邪、ひくんだね……(ものすごく意外そうにど失礼なことを言っている)
    病院、素直に行ってくれる、かな……;
    いろいろ攻防になりそう、だよ……(遠い目)
    みんな、看病がんばろう、ねっ

  • [2]クラリス

    2014/11/02-10:07 

    皆さん初めましてね、クラリスよ。宜しく!

    珍しくしんどそうにしてたから何事かと思ったら精霊さんの風邪が流行ってるのね
    こんな事滅多にないし、看病してあげようかしら…
    栄養あるもの…マグロの頭と青汁にドリアン?意外とお粥って難しいわね…(怪しい料理本を読み)

  • [1]ミサ・フルール

    2014/11/01-16:56 


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