赤ちゃんがやってきた!(まめ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

ある日の早朝。
男性職員がA.R.O.A本部の玄関口を掃除していると、赤ん坊を抱えた一人の女性が現れた。

その女性はその身なりはお世辞にも綺麗とはいえず、顔や体も痩せ細った状態であった。
しかし、胸に抱く赤ん坊は、顔色もよくとても幸せそうに笑っている。

男性職員が不思議そうにその女性と赤ん坊を見つめていると、視線に気づいた女性が声をかけてきた。

「あの、あなたはA.R.O.A本部の方?」
「え?あぁ、はい」

職員が訝しげに頷くと、女性はその表情を気にすることもなく、にこりと微笑んだ。
そして抱いていた赤ん坊を、ずいっと職員に押し付けてきた。

「まだ依頼受付前だということは重々承知しております。けれど、私にはもう時間が無くて……。すみませんが、1日だけこの子を預かっていただけませんか?」
「えええ?!」

女性の突然の申し出に目を白黒させた男性職員は、混乱するままに胸に押し付けられたその赤ん坊を受け取ってしまう。
その行動を”承諾”と受け取った女性は、一度、頭を深く深く下げると、くるりと体を翻し、あっという間にその場を後にしてしまった。

「うそだろ……?!」

残された男性職員。そしてその腕には可愛い赤ん坊。

正規の手続きもふまず、こんな依頼受けれるはずがない。
しかし、依頼者はあっという間に姿を消してしまって行方どころか名前すらわからない。

男性職員が赤ん坊を抱えたまま固まっていると、ちょうど出社してきた女性職員と鉢合わせた。

「え?どうしたのその子……?」
「いやぁ、かくかくしかじかで……」

男性職員が事のあらましを伝えると、女性職員はにやりと妖しい笑みをうかべた。

「私たち職員は仕事があるから、残念ながらその子のお世話をみてあげることはできないわよね?」
「ん、まぁ……そうだけども。」
「見たところ、その赤ちゃんは精霊の赤ちゃんみたいだし、精霊に詳しい人が面倒を見てあげたほうが安全よね?」
「ん、まぁ……そうだな。」
「まだ幼いし、パパ役とママ役の2人が傍についていた方がいいわよね?」
「ん、いや……そうか?」
「そうよ!そうにきまってる!!」

男性職員の言葉を遮る勢いで、女性職員はぐっと握りこぶしを握った。

「さーてと、さっそく掲示板に貼りださなくちゃね!」
「ん?おい、話が見えないぞ?」
「いいからいいから、私に任せなさ~い!」

胸をどんと叩くと、女性はスキップしながら本部の建物の中へと消えてった。
残された男性職員は、胸に抱えた赤ん坊を見ながら、「?」と首を傾げたのだった。

解説

■依頼の概要
ウィンクルムの皆様に、精霊の赤ん坊のお世話をしてもらおうと女性職員が依頼を掲示板に貼りだしました。
お世話の期間は1日だけです。
神人と精霊のペアで赤ん坊のお世話をお願いします。
場所は自身のお家、または本部の休憩室を貸し出すことができます。

また、ベビー用品一式はレンタルすることができます。
レンタル料金は500Jrになります。

参加者が複数人となりますが、同時に赤ん坊の面倒をみるということでは無く、
参加者Aさんの場合…、参加者Bさんの場合…
と、別のパターンでそれぞれのお話が進行します。

■赤ん坊の状態
生後6ヵ月程の精霊の赤ちゃんです。
少しだけ座ることができたり、手足を活発に動かしたりします。
また、人懐っこい性格をしているため、神人が近づくと両手を広げて抱かれようとしてくる仕草もします。

※赤ん坊の種族について
5種族中、どの種族かは参加者様によって違います。
パートナー精霊と同じ種族にしてもいいですし、まったく違う種族にしてもOKです。
こだわりがあれば、プランに赤ん坊の種族の記載をお願いします。
無ければこちらで選ばせていただきます。

■母親について
色々事情があるようです。
翌日赤ん坊を引き取りに来た時に事情を聞けばお話してくれますが、
特に触れなくても問題ありません。


ゲームマスターより

こんにちは。まめです。
最近知り合いに子供が産まれたので、その幸せ気分から今回のエピソードを申請させていただきました。

赤ちゃん、可愛いですよね。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)

  赤ちゃん可愛いですねぇ…(へにゃり)
はっ!つい表情もだらしなくなってしまいます。
子供は好きなんですけど赤ちゃんをお預かりするとなるとやっぱり緊張しますね。
赤ちゃんのお世話は近所の子をあやしたりくらいしかしたことがなくて。
ベビー用品一式は何とか揃えましたが…私にお母さんが務まりますかねぇ…ちょっと心配です。

この赤ちゃん、イヴェさんと同じマキナの子みたいですね。こんなに小さいのにやっぱり耳が変わってて。
イヴェさんも赤ちゃんの頃はこんな感じだったんですかね。
あぁ、ぐずってしまいましたね。よしよし(抱っこ)
早くお母さんが迎えに来てくれるといいね。それまでは私がお母さんですから。甘えてください。


月野 輝(アルベルト)
  赤ちゃん…可愛いけど、どうしたらっ
(赤ちゃんのお世話をした事無し
そ、そうね、とりあえずお母さんが帰ってくるまで休憩室でお世話しましょ

アル、お世話の仕方知ってるの!?ちょっと意外…
じゃあ、教えて
おむつの替え方とか、ミルクの作り方とか
ふふ、何だか予行演習みたい

……
ち、違うわよ!?
別にアルとの予行演習って意味じゃっ

もう、何言ってるの、私(がっくり
そう言えばこの子マキナなのね
アルの子供ってこんな感じなのかしら…

この子人懐っこいわね
(おいで~と両手広げ抱っこ
ふふ、赤ちゃんの匂いがするわ

もうっ
ダメでしょいじめちゃ(抱っこし直し


お母さんがお迎えに来て良かったわね
ちょっと寂しいかも
え?何言ってるのよ(真っ赤



手屋 笹(カガヤ・アクショア)
  赤ちゃんの面倒を見るなんて
かわいいですけどとても緊張しますね…
でもわたくしが面倒見たいです。
完全に初心者なので今回はカガヤだけが頼みです
お願いですから目を離さないでくださいね!
(カガヤの服の裾を掴む)

ベビー用品はお借りします。

カガヤの手も借りつつ、助言を受けながら
お腹が空いてる時には
赤ちゃんが飲み易いようにゆっくりミルクをあげたり、
眠そうだったら寝かしつけたりしましょう…。
私自身が不安になり過ぎないように、
慎重に慎重に。

この子自身はそんな意識無いと思うのですが…
家族と離れてしまっている状態なのがどうも…
せめてお母様が戻るまでは守らないといけないように思えたのです…カガヤ、ありがとうございます…


アマリリス(ヴェルナー)
  まあ、可愛らしい
…で、わたくし達は別の依頼を受けに来たのではありませんでしたか?

引き受けた以上責任持って果たしましょう
有事の際協力を仰げるよう本部の休憩室を借りる

やる事が多くて大変ではありますが、それ以上に可愛いですわね…
笑顔も穢れありませんしほっぺも柔らかくて暖かいです
ヴェルナーもそんな恐々と見ていないで抱いてみてあげたらいかが?

そうしていると本当の親子のようですわね
となるとわたくしは母親かしら
いつか実際にこんな風に過ごす日がくるのかしら
…まあ、今のままじゃ来ませんわね
わたくしは主人であって、対等にさえ思ってもらえてませんもの

(他人のフリがしたい…
案外ヴェルナーはいい父親になりそうですわね



リセ・フェリーニ(ノア・スウィーニー)
  あなたと私の子供?そんなわけないでしょう!
見ての通りテイルスの子じゃない。ファータじゃないわ

ふふ、私のことを母親と勘違いしているのかしら
抱っこしてあげましょう

って、泣かないで!?
あぁもう、全然泣き止んでくれない
抱き方が悪いのかしら?でもよくわからないし…
もう…言ってくれないとわからないわよ

お腹が空いていたの?
お腹が空いても泣くのね。知らなかったわ

あなた、意外と面倒見がいいのね
私には兄弟がいないから、赤ん坊の相手なんてしたことないもの
誰がお兄ちゃんよ、まったく…

お腹がいっぱいになったら眠ってしまったわね
本当に子供の寝顔ってかわいい
あなたの寝顔がかわいかろうとかわいくなかろうと
膝枕なんてしませんっ




●カガヤと笹の場合

2人がいるこの場所は『手屋 笹』が暮らすアパートの1室、和室のワンルーム。
そして笹の腕の中では、柴犬テイルスの赤ん坊がスヤスヤと寝息を立てて眠っている。
『カガヤ・アクショア』は、持っていたベビー用品を部屋の隅へと並べて置いた。
オムツに粉ミルクに哺乳瓶、タオルやガーゼハンカチ……他にも必要な物は全てあの紙袋の中に入っている。
笹はそれらをちらりと横目で確認すると、腕の中で眠る赤ん坊へと視線を落とした。

「赤ちゃんの面倒を見ることになるなんて。かわいいですけど、とても緊張しますね……。でもわたくしがちゃんと面倒見たいです」

そう言った笹の目には強い想いがこもっていた。
けれど微かに震える手が、緊張していることを物語っている。

「そんなに緊張しなくても大丈夫!こっちが不安でやってると赤ちゃんも感じ取っちゃうから気楽にね」

安心させようとカガヤが笹の頭を軽くぽんっと叩くと、笹はそれに笑顔で答える。
その不意打ちともいえる笑顔に、カガヤの胸は大きく跳ねた。

「完全に初心者なので今回はカガヤだけが頼みです。お願いですから目を離さないでくださいね」

カガヤの服の裾を掴んでじっと見つめてくる笹。
不安が残っているのか、上目づかいの瞳が少し潤んで艶っぽい。

「……俺自身も初心者だけどね。うん、手伝うよ」

カガヤは笹の瞳から逃げるように、眠る赤ん坊へと視線を落とした。
丁度目を覚ましたらしく、赤ん坊はまだ眠気の残る目を小さい手でごしごしと擦っている所だった。
けれど赤ん坊はすぐに顔をしかめてぐずり始めてしまう。
そこをすかさずカガヤがフォロー。

「笹ちゃん、抱っこはしっかりやってあげてね。ぐずったら優しく背中をぽんぽんって叩いてあげて、そうそうそんな感じで……」

笹はカガヤの助言に従いながら赤ん坊をしっかりと抱き直すと、背中をぽんぽんと軽く叩いてみる。
けれど赤ん坊のぐずりは止まりそうにない。

「もしかしたらお腹が空いているのかもしれないね」
「あ……じゃあ私がミルクを作ります!」

笹がミルクを作っている間、カガヤは赤ん坊の背中をさすったり、揺すったりして様子を伺う。
この時期の赤ん坊は理由も無く泣き出したりすることもあるそうだが、果たしてお腹が減っているのか、どちらだろうか。

「お待たせしました。ちゃんと人肌にしてきました」
「ありがとう。じゃあ笹ちゃんミルクあげてみて。哺乳瓶と赤ちゃんの口が直角になるくらい傾けて……そうそう上手だよ」

不安になり過ぎないように、慎重に慎重に。と、自身に言い聞かせながら笹は赤ん坊にミルクを与える。
赤ん坊も小さい口を動かしながら、ゆっくりとミルクを飲み始めた。
軽く背中を叩いてゲップを出してあげると、落ち着いたのか赤ん坊はまた静かな寝息を立てて眠りについた。

「……赤ちゃん、可愛いですね」
「うん、そうだね」

2人は優しい顔で小さな赤ん坊を見つめる。

「この子自身はそんなに意識は無いと思うのですが、家族と離れてしまっている状態なのがどうも……」

どんな理由があってかは判らないが母親と離れてしまっているこの赤ん坊を通して、笹は自分の姿を見てしまっていた。

「せめてお母様が戻るまでは、守ってあげないといけないように思えたのです。だから、カガヤ、ありがとうございます……」

少し寂しそうな表情を浮かべて呟く笹。
カガヤはそんな笹の気持ちにちゃんと気づいていた。

「笹ちゃんも家族の人達と離れてタブロスに居るんだもんね。大丈夫、戻ってくるよこの子のお母さん」

笹の寂しい気持ちを吹き飛ばすような笑顔を浮かべてカガヤは強く答える。

「それにいつまでも笹ちゃん取られてるのも俺が癪だし、笹ちゃんはお前のじゃないからね~」

いつもの軽くからかう調子で、カガヤは眠る赤ん坊の頬をぷにぷにと突っつく。

「もう……カガヤってば。……あ、ぷにぷに」

赤ん坊の魅惑的な頬の魔力に負けて、堪らず笹も突っついた。


●アルベルトと輝の場合

目の前に置かれたベビーカー、そしてその中で幸せそうに眠る赤ん坊を前に『月野 輝』と『アルベルト』は互いに顔を見合わせた。

「この子は精霊の赤ん坊ですか?だからと言って何故A.R.O.Aに……いつからここは託児所になったんでしょうか」
「赤ちゃんは可愛いけどどうしたら。私、お世話なんてしたことないわ……」

大きな溜め息をつくアルベルトとは対照的にオロオロと慌てた様子の輝。

「まあ、ここでこうしてても仕方ありません。とりあえず休憩室に行きましょう」

休憩室はすでに職員が準備をしていたようで、赤ん坊の面倒を見るために必要な道具はあらかた揃っているようだった。

「ふむ、ベビー用品は揃ってるんですね。これなら何とかなりますか」

それでも不足している物が無いかを確認するように、アルベルトはベビー用品一式に目を通す。
そこで不意にベビーカーから泣き声があがった。
アルベルトは颯爽と近づくと、赤ん坊を抱き上げあやすように体を揺する。
無駄の無いその動きに赤ん坊もすぐに落ち着きを取り戻した。

「アル、もしかして赤ちゃんのお世話の仕方知ってるの!?ちょっと意外……」
「研修医時代に小児科にも行ってますからね。一通りの事はできますよ」

目をキラキラとさせて見つめる輝に、思わずくくっと笑うアルベルト。

「教えて!おむつの替え方とか、ミルクの作り方とか」
「ええ、構いませんよ。ん?丁度オムツ交換のタイミングのようですね。輝、そこの布とオムツを取っていただけますか?」

アルベルトの指差した先には、青い水玉模様のガーゼケットと紙オムツがあった。
輝からガーゼケットを受け取ると休憩室のカーペットの上に広げそこに赤ん坊を寝かす。

「それでは輝、私が指示を出すのでやってみてください」
「わ、わかったわ」

アルベルトから指示を受け、輝は緊張しながらも慎重に赤ん坊に触れる。
途中、おむつの前面と後面を間違いそうになったりしたものの、的確な指示のおかげで無事に交換が完了した。
新しい清潔なオムツに変えられたことで赤ん坊もスッキリしたのか嬉しそうに笑っている。

「ふふ、何だか予行演習みたい」
「予行演習ですか?」

不意に出てしまった言葉に、輝は顔を真っ赤にして慌てて首を振る。

「……ち、違うわよ!?別にアルとの予行演習って意味じゃっ!!」
「誰も相手が私だなんて言ってませんよ」

墓穴を掘ってしまった輝は、さらに湯気が出そうなほど顔を真っ赤にして俯いた。
肩身狭そうに縮こまる輝の横で、アルベルトはくくっと押し殺したような笑い声をあげている。
そんな2人のやり取りが面白かったのか、赤ん坊はキャッキャッと笑い声をあげた。
輝が赤ん坊を抱き上げると、赤ん坊も嬉しそうに輝の胸にすりすりと頬ずりをする。

「ふふ、赤ちゃんの匂いがするわ」

幸せそうに笑っている輝の真横で、ピキッと顔を強張らせるアルベルト。
視線の先には輝の胸に顔をうずめる赤ん坊の姿。

「赤ん坊と言えども男。油断はできませんね」

(冷静に言葉を紡ぐも顔が全然冷静では無い)アルベルトは、そう言って輝から赤ん坊を引き剥がした。

「もうっ!ダメでしょいじめちゃ」

輝はアルベルトから赤ん坊を奪い返すと、再度自身の胸でしっかりと抱きしめ直す。
その様子をみてまたも歯がゆい思いを抱えるアルベルトであったが。
『アルベルトよ。赤ん坊にヤキモチを妬くとは何事じゃ』と、天からの謎のお告げを受け、渋々とその様子を見守るのであった。


翌日。
赤ん坊の母親は2人に何度も頭を下げてお礼をすると、赤ん坊を抱きその場を去って行った。

「お母さんがお迎えに来て良かったわね。でも、ちょっと寂しいかも」

その背中を名残惜しそうに見送りながら、輝はぽつりと呟いた。

「寂しいなら自分で赤ん坊を産むと言う手がありますよ。お手伝いしましょうか?」
「え?……何言ってるのよ!」

思わぬ言葉に輝の頬は紅を散らしたように赤くなる。
どこまでが冗談で、どこからか本気なのか。
本音の読めない笑顔を前に、輝はもう少しこのままでもいいかもしれないと思ったのだった。


●イヴェリアと咲の場合

「赤ちゃん可愛いですねぇ~」

赤ん坊のまんまるの瞳と自身の瞳を交差させて『淡島 咲』は顔をふにゃりと崩して微笑んだ。
赤ん坊のぷにぷにの頬に、紅葉のような小さな手や足。
その全てが可愛らしくて堪らない。

「サク、顔……」
「はっ!」

赤ん坊と同じマキナである精霊『イヴェリア・ルーツ』に、崩れていた表情を指摘されると、咲は慌てて顔を引き締める。
その顔の変化が面白かったのか、赤ん坊はキャッキャッと声をあげて笑っている。
また緩みそうになる顔を抑えながら、咲は赤ん坊をそっと抱き上げた。

「子供は好きですが、赤ちゃんをお預かりするとなるとやっぱり緊張しますね。赤ちゃんのお世話は近所の子をあやすくらいしかしたことがなくて」

抱き上げてみると思っていたより重さがある。
腕の位置を調整してしっかりと抱きしめ直すと、咲は赤ん坊の背中を軽くぽんぽんと叩いてやる。

その行動を見たイヴェリアは、少し複雑そうな顔を浮かべていた。
緊張すると言いつつも、咲の動きには迷いが無い。
自分だったらどうであろうか。
きっと怖くて触ることもできない。わずか爪の先だけでも、触れたら傷つけてしまいそうだった。

「ベビー用品一式は何とか揃えましたが。私にお母さんが務まりますかねぇ。ちょっと心配です」

幸いなことに、必要なベビー用品一式はレンタルで揃えることが出来たのだが、実際にこれら全てを使った世話などしたことが無い。
解説書も付いているので無理だということはないだろうが、さすがに不安な気持ちは拭えない。
そんな咲の様子に気付いたイヴェリアは、優しく肩に手を置き、大丈夫だと囁いた。

「お母さんができるかなんて心配しなくていい。サクは十分面倒をみれてるさ」
「イヴェさん……。今はイヴェさんも傍にいてくれますしね。……ありがとうございます」

今は2人一緒だからと思うと、先程まで感じていた不安があっという間に消え失せる。
大変な時はお互い頼り合えばいい。
咲はイヴェリアに感謝の気持ちを告げると、ふふっと微笑んだ。
そしてふいに落とした視線の先に、赤ん坊の機械の様な耳が映る。

「そういえばこの赤ちゃん、イヴェさんと同じマキナの子ですね。こんなに小さいのにやっぱり耳が変わってて」

小さいマキナの赤ん坊。そして黒髪に綺麗な金の瞳。
もしかすると隣にいる彼も、赤ん坊の時はこんな感じだったのかも知れないなと、咲は想像に胸を膨らました。

「同じマキナの子か、大きくなったらお前もウィンクルムになったりするのかもしれないな」

同じようにイヴェリアも自身の昔の姿を連想する。
成長して、初めて咲に出会って、一目で惹かれた彼女と契約して今ここに居る。

「俺がサクに出会えたように。お前が素敵なパートナーに出会えることを祈ろう」

私も、貴方と会えてよかったと咲が呟こうとした時、腕の中の赤ん坊が急に泣きだしてしまった。

「あぁ、ぐずってしまいましたね。よしよし」

左右にゆっくり優しく揺らしながら、赤ん坊をなだめる。

「早くお母さんが迎えに来てくれるといいね。それまでは私がお母さんですから。お父さんはイヴェさんですよ。甘えてくださいね」

咲の『お母さん』『お父さん』発言に、イヴェリアの胸がどきりと音を立てる。

「今は、その、サクが母親役で俺が父親役か……そう言われるとなんだかくすぐったい」

お父さんと言われた今ならば、この赤ん坊に触れられるかもしれない。
イヴェリアは恐る恐る赤ん坊の頭に手を伸ばした。
指先で触れた感触はとても柔らかく暖かい。
手の平を頭の上に添えると、イヴェリアは優しく赤ん坊の頭を撫でた。

「サクはきっと優しいお母さんになれる。その時に俺も隣に居られたら……。いや、生まれた子のお父さんでいられたら幸せだろうな」

赤ん坊に夢中だった咲は、ぽつりと呟いたイヴェリアの言葉に気付くことはなかったが、イヴェリアはそれでいいと思っていた。
そんな事を言ったら、きっと咲を困らせてしまうから。


●ノアとリセの場合

A.R.O.A本部の休憩室で、神人の『リセ・フェリーニ』と精霊の『ノア・スウィーニー』は穏やかな時間を過ごしていた。
2人の前には可愛いテイルスの赤ん坊が、ふかふかのカーペットの上でごろんと寝転がっていた。
頭の上でぴょこんと揺れる猫耳がとても可愛らしい。

「かわいい赤ちゃんだねぇ。さすが俺とリセちゃんの愛の結晶!」
「あなたと私の子供?そんなわけないでしょう!見ての通りテイルスの子じゃない。ファータじゃないわ」

軽口を叩くノアを叱りつけるとリセは大きくため息をついた。

「え、違うの?そうだよねぇ、まだリセちゃんと手も繋いだことがないもんね。寂しい話だ」

いつも柔らかな笑みをたたえながら、軽薄なセリフばかりを言うノア。
こうやってあしらうのは何度目のことか。
そんなリセの気持ちを知る由も無く、目の前の赤ん坊はただただ無邪気に笑っている。
小さな手を伸ばしてリセに抱っこをねだっているようだった。

「ふふ、私のことを母親と勘違いしているのかしら。抱っこしてあげましょう」

リセは赤ん坊へと手を伸ばすと自分の腕の中へと引き寄せた。

「あ、かわいいツーショット。写真撮っていい?」

顔の前でカメラを構えるポーズをとるノア。
リセはもう無視することに決めたのかくるりと背中を向けてしまう。
少しばかりギスギスした雰囲気になってしまい、それを感じとった赤ん坊は顔をしかめて泣き始めた。

「……って、泣かないで!?」
「あらあら、泣き出しちゃったか」

突然泣き出した赤ん坊に狼狽えるリセ。
赤ん坊を抱えたまま周囲をキョロキョロと見渡すが、どう対処すればよいのか全くわからない。

「うーん……」

一方、冷静な様子で赤ん坊を観察していたノアは、ベビー用品の中からミルクと哺乳瓶を探し出すと休憩室を後にした。
それから数分、リセは赤ん坊を泣き止ませようとあの手この手を試すが、一向に泣き止む気配は無く憔悴しきった様子で床にへたり込んでいた。

「あぁもう、全然泣き止んでくれない。もう、言ってくれないとわからないわよ!」
「お待たせ!ミルクだよ~!」

片手に哺乳瓶を持ったノアが赤ん坊の元へと駆け寄ってくる。
口に哺乳瓶の先を近づけると、赤ん坊は待っていたと言わんばかりにしゃぶり付く。

「おぉ、すごい勢い。やっぱりお腹空いてたんだねぇ」

呆けた様子で赤ん坊を見つめるリセ。

「お腹が空いていたのね。私、全然わからなかったわ」
「んー、俺、弟と少し年が離れていてね。こうやってミルクをあげたりしてたんだよ。だからさっきの泣き方で何となくこれかなーってね」

普段ふざけたような態度ばかりとっているノアだけれど、こんな一面も持っていたりするんだなとリアは感心した様子で見つめる。

「意外と面倒見がいいのね。私には兄弟がいないから……」
「リセちゃんはひとりっこなのか。じゃあさ俺のこと、お兄ちゃんって呼んでもいいよ?」

……前言撤回。

「誰がお兄ちゃんよ。まったく……」

ミルクを飲み干した赤ん坊は、リアの腕の中で夢の中へと意識を手放していた。
すぅすぅと寝息を立てて眠る赤ん坊の寝顔はとても可愛らしい。

「お腹がいっぱいになったら眠ってしまったわね。本当に子供の寝顔ってかわいい」
「ほんとかわいいねぇ」

2人で赤ん坊の寝顔を見つめていると、ノアがにやにやした笑顔を浮かべだした。
ノアがこうゆう顔をする時は大抵、リアが呆れるようなことを言う時だ。

「ねぇ、リセちゃん!俺も寝顔かわいいって言われたことあるんだけど見てみたくない?リセちゃんが膝枕してくれたらすぐ眠れると思うんだけどな~」
「あなたの寝顔が可愛かろうと可愛くなかろうと、膝枕なんてしません!」

想定していた軽口が飛んできてリアはツンとそっぽを向く。
ノアが本心を見せる時、それは一体どんな時でどんな顔を見せてくれるのか。
いつか来るかもしれない日々に、リアはこっそりと胸を弾ませたのだった。


●ヴェルナーとアマリリスの場合

「まあ、可愛らしい」

掲示板の前に止められているのはその場に不釣り合いなベビーカー。
ベビーカーに乗る赤ん坊と目の高さを合わせるようにしゃがみ込むと『アマリリス』はにこりと微笑んだ。
そして身体をくるりと翻して、後ろに立つパートナーの精霊をじろりと見つめる。

「で、わたくし達は別の依頼を受けに来たのではありませんでしたか?」

その鋭い瞳と言葉にぎくりと肩を揺らすと『ヴェルナー』は申し訳なさそうにうなだれる。

「別の依頼を受けにきたが、赤ちゃんと目が合ってしまい素通りができなかった。申し訳ありません。しかし放っておくこともできず」

アマリリスは仕方が無いですね、と小さくため息をついた。

「引き受けた以上、責任持って果たしましょう」
「……ありがとうございます!こちらは素人ですし、子育て経験者の職員がいたら知識のご教授をお願いしてみます」

休憩室についた2人は、ベビー用品が入った紙袋と、職員から伝授されたお世話メモを手に赤ん坊を世話する環境を整え始める。
紙袋の中には使い方の全くわからない物が沢山入っていた。
メモには几帳面なヴェルナーらしく、メモには道具の使い方から注意すべきことまで、事細かに書き込みがされていた。
書き間違えた所にさえ、訂正線がニ本まっすぐに引かれていたのにはあまりにも彼らしくて笑えてしまう。

「見たこともない道具が多くて大変ではありますが、それ以上に可愛いですわね。笑顔も穢れありませんしほっぺも柔らかくて暖かいです」

ベビーカーの中で赤ん坊は無邪気な顔で笑っていた。
アマリリスがつんと赤ん坊の頬に触れると、柔らかい弾力が指先を押し返す。
その様子を一歩後ろから見つめていたヴェルナーは、赤ん坊相手にどう振る舞えばいいかわからず戸惑いを隠せずにいた。
こんな時こそメモを見れば良いのだが、赤ん坊から目が離せず無意識に両手を前に出して固まってしまっている。

「ヴェルナーもそんな恐々と見ていないで抱いてみてあげたらいかが?」
「は、はい……」

突き出した両手を緊張で震わせながら、ヴェルナーは赤ん坊へゆっくりと近づいた。

「赤ちゃんを抱っこするには……」

メモを参考に、アマリリスはヴェルナーに助言を送る。
ヴェルナーもその助言に従い、赤ん坊をゆっくりと自身の胸へと抱き寄せた。

「赤子とはこんなに小さいものなんですね。これから大きくなるというのがすごく不思議な気持ちです。この子はどんな道を歩むのでしょうか」

そう言って優しく微笑むヴェルナーは、まるで赤ん坊の本当の父親であるかのよう。
今や先程までの緊張感は無く、赤ん坊を暖かく優しい何かで包み込んでいるような、そんな雰囲気だった。

「そうしていると本当の親子のようですわね。となるとわたくしは母親かしら」

ヴェルナーの腕から今度はアマリリスの腕の中へ。
2人を暖かな時間が包む。

(もしかすると、いつか実際にヴェルナーとこんな風に過ごす日がくるのかもしれない)

そう思ったアマリリスだったが、すぐにその甘い考えを振り切ってしまう。

(……まあ、今のままじゃ来ませんわね。わたくしは主人であって、対等にさえ思ってもらえてませんもの)

アマリリスの複雑そうな表情の変化に気づく様子もなく、ヴェルナーは赤ん坊へありったけの愛を注いでいた。

翌日の早朝。
本部入口では、すっかり情が移り赤ん坊との別れが辛くて泣く24歳男の姿があった。

(他人のフリがしたい……)

アマリリスは泣きじゃくるヴェルナーから一定の距離をとると、大きなため息をついた。
大の大人がみっともない事この上ない。
でも。

「案外ヴェルナーはいい父親になりそうですわね」

こんな彼だから一緒にいるというのもまた事実なわけで。

「そうなれればいいのですが……」

ヴェルナーに自身のハンカチを手渡すと、アマリリスは静かにくすりと微笑んだのだった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:アマリリス
呼び名:アマリリス
  名前:ヴェルナー
呼び名:ヴェルナー

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター まめ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 3 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月29日
出発日 11月06日 00:00
予定納品日 11月16日

参加者

会議室

  • [7]淡島 咲

    2014/11/04-20:02 

    わわっ、私もスタンプ押したままでした~。
    淡島咲です。
    パートナーのイヴェリアさん共々よろしくお願いしますね。

    赤ちゃん可愛いですねぇ。子供は好きなんですけど。
    赤ちゃんとなるとちょっと緊張しちゃいますね。

  • [6]リセ・フェリーニ

    2014/11/03-23:31 

    みなさんご一緒させていただくのは初めてね。
    リセよ。今後ともどうぞ宜しくお願いするわね。

    赤ん坊の面倒なんてみられるかしら…
    こんな仕事まで回ってくるなんてA.R.O.Aはよくわからないところね。

  • [5]月野 輝

    2014/11/02-16:04 

    スタンプ押したっきり、ちゃんと挨拶してなかったわ。
    リセさんとノアさんは初めまして、他の皆様はお久しぶりだったりいつもお世話になってますだったりよね。
    皆さん、よろしくお願いしますね。

    私も赤ちゃんの面倒見るのって初めてなの。
    兄弟も居ないし、周りに赤ちゃんいる人いなかったのよね。
    でもアルが意外と手際よくてちょっとビックリ。

    なのでお世話の仕方を習おうかなって思ってるの。

  • [4]手屋 笹

    2014/11/02-13:00 

    手屋 笹です。
    リセさんは初めまして。
    よろしくお願いします。

    赤ちゃんの面倒を見るのは初めてなのですよね…
    うまく出来るでしょうか…。頑張ります!

  • [3]アマリリス

    2014/11/01-16:16 

  • [2]淡島 咲

    2014/11/01-03:08 

  • [1]月野 輝

    2014/11/01-00:08 


PAGE TOP