「愛している」しか言えません(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 その日は、結婚記念日だったんです。ちょうど二十周年の、結婚記念日。
「ダイヤモンドなら二つですね」
 妻は私をからかうように笑いましたが、残念ながら私にそれだけの甲斐性はなく、外食をするということに落ち着きました。
 それでも妻は、たいそう喜んでくれました。
 私は仕事人間で、帰宅は毎日深夜近く。彼女の誕生日にも薔薇の花一輪送ったことはなかったんです。
 それがどうして今回の記念日は違ったのか、ですか?
 実は、私、事故で怪我をしまして。療養中だったんです。
 仕事はね、悲しいことに、私がいなくてもなんとかなるんです。最初の頃は見舞いもありましたが、入院してしばらくたつと、それもなくなりましてね。通ってくれたのは妻だけでした。それも朝から晩までつきっきり。私たちに子供がないからもあるでしょうが、実にかいがいしく、世話を焼いてくれたんです。
 そんな間の記念日でしたから、その日ばかりはお医者様に許可をいただいて、外出をしました。
 病院から徒歩五分の、パスタのお店です。本当は遠出をして妻の好きなものを食べさせてやりたかったが、車いすの移動では難しくて。
 私は、その店で、きのこの入った和風パスタを、妻はカルボナーラを食べました。
 記念日というのに、黙々とね。
 私、愛の言葉ひとつ言えないんですよ。性分なんです。
 しかしその日は違っていました。パスタを一口食べたときに、不思議なことに、口からするりと「愛している」という言葉が飛び出しました。
 妻は仰天していましたよ。私だって驚きました。
 いや、これは、と思わず言い訳をしようと口を開き、その後は驚いたなんてものじゃありません。何を言おうとしても、「愛している」という単語しか出てこないんです。
 私の体にいったい何が起きてしまったのか。口を閉じて困惑していると、店主がばたばたと私たちの前にやってきて、深く頭を下げました。
「お客様、申し訳ありません! 食材を間違え、アイタケを使ってしまいました!」
「……アイタケ?」
 妻が首を傾げます。店主は顔を上げ「はい」と小さく返事をしました。
「アイタケはマイタケに似た見た目の、毒きのこです。しかし! 命に別条はありません。ただ、一定時間の間『愛してる』としか言えなくなってしまうんです」
 なるほど、と合点がいきました。聞けば時間の経過とともに症状は治まるとのこと。私はほっと安心しました。妻が面白がって嬉しがって、私をなんとか喋らせようとするのには困りましたけどね。まあ、たまにはこんなことがあってもいいだろうと思って、精一杯言っておきましたよ。愛してるって。
 だって今なら、全部きのこのせいにできますからね。

解説

食べた人は「愛している」としか言えなくなってしまう毒きのこ、アイタケを、あなたは食べてしまいました。
何を言おうとしても、口から出てくる言葉はすべて「愛している」です。
違うことを言いたいのに「愛している」になってしまって、言っている本人も驚く感じです。

さすがに人前で「愛している」連発では大変です。店主は二人を奥の間に案内してくれました。そこは店員の休憩室で、二人掛けのソファと小さなテーブルがあるだけの部屋です。
もちろん、部屋を移動するのを断って、そのまま食事を続けることもできます。
きのこは「愛している」と言ってしまう以外の害はありません。

さて、ウィンクルムはどのような反応をするでしょうか。
話は二人がパスタを食べるところから始まります。
神人さん精霊さんのどちらか、または両方がきのこ入りのパスタを食べることになりますが、二人で食べると、会話が「愛している」のみになりますので、ご注意ください。
なお、性格等は特に変化はありません。
きのこの効果は三十分ほどです。

パスタのメニューは、一人前 150jr。ミートソース、ペペロンチーノ、クリームパスタ等、一般的なものをご記入ください。
「愛している」しか言えなくなってしまう神人さん、または精霊さんには、きのこ入りのメニューを指定してください。


ゲームマスターより

突然「愛している」しか言えなくなった相棒。
さて、「愛している」と返しますか。それとも笑い飛ばしますか。
ジャンルは一応「ロマンス」になっていますが「コメディ」でも大丈夫です。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

スウィン(イルド)

  アイタケ→神人
海老と茸のクリームパスタ

「愛してる!(美味しい)…ッ?!」
違う言葉が出て驚き
イルドと無言で顔を見合わせ暫く固まる
「あ、愛してる?!愛してるーッ!?
(違うのよ、何かの間違いよ)」
混乱してるところで店主に説明され奥の間に
「愛してる…(何でこんな事に…/しょんぼり)」
今日は外食で美味しいパスタ!と思ってたら、どうしてこうなった
でもある意味面白いかも?
と思い直して色んな言い方をしてみる事に
「愛してる~!愛してる♪愛してる☆あ・い・し・て・る」
ウインク・投げキッス等やりたい放題
言われた通り黙ったらそれも不満って…どうしたらいいのよ(笑)
茸のせいで大変だったわ!…そう、全部茸のせい、ね…



栗花落 雨佳(アルヴァード=ヴィスナー)
  注文;ポルチーニと色々キノコのクリームソース

ふふふ『愛してる』魔法の言葉だね

味は普通のキノコだったんだけどなぁ…(皿にフォークを伸ばし)
…え、だって勿体無いし…
うん、トマトソースも美味しいね
たまには違うもの頼んでみようと思って…(口に手を当ててふさがれる)

今日は良く喋るなぁ…何だか挙動不審だし…いや、最近のアルはずっとこんな感じかも
どうしたんだろう…

(何となく落ち着きのないアルの横に座り覗き込むようにして顔を見るが、目をそらされるのでちょっと悲しくなる)

…どうして?

…良く、分からないけど…

僕はそんなに簡単に傷付いたりしないのに…

(眼鏡を外して)

君の顔をちゃんと見たいのにな…


セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  ■カルボナーラ
よく食べるなあと微笑ましく見守り、料理に口をつけようとし
タイガの言葉に固まる

タイガ、ストップ!…驚いてるのはわかったから
言わないで。恥ずかしいだろ…
移動しよう

この食いしん坊…っ まったく

■居心地悪そうに無言
会話できないのも案外辛いものだね
具合悪くない?
だから!(赤面)頷けばいいだろ、喋るの禁止(拭い)


「愛してる」って大事な言葉だろ
本心だって中々言える言葉じゃないのに、違うのなら尚更いい迷惑だよね。アイタケも罪深いな

タイガ?
(言いたい事あるのかな)
あ!メモで会話すればいいんだ


…今のは…(本心?いやまさか)真剣な顔、珍しいから心配した
勘違いしそうだ(赤く呟き)本当は何て言ったの?



天原 秋乃(イチカ・ククル)
  きのこ入りのクリームパスタを注文

「愛している」
……あれ?
俺、今『うまい』って言ったつもりだったんだけど
何を言っても「愛している」と言ってしまうことに混乱

アイタケ?
そのせいでこんなことになってるのか、なんて恐ろしいキノコなんだ…!!

『人前で「愛している」連呼なんて恥ずかしい真似はできない。俺は部屋を移動する!!』

…って言いたいのに「愛している」しか言えねえ…!!
くそ、イチカの奴俺が反論できないのわかっててわざと「移動しない」って言いやがったな
周りの視線が突き刺さる。なんだよこれ、すげぇ恥ずかしい…

「(お前、後で覚えてろよ…!!)」
ああもう、また「愛している」って言っちゃったよ!!


エルド・Y・ルーク(ディナス・フォーシス)
  【神人:ミートソース、精霊:クリームパスタ・
精霊:アイタケ】

「本日働いた報酬は『パスタでミスターの奢り』ですね。
更にお酒等が一緒にありましたら、言う事無しです」
「冒頭から要求が激しいですが、お酒があるかどうかはわかりませんよ」

頼んだパスタは美味しそうです
ところでこのパスタ、若干不穏な気配がします。特にキノコが
今回はキノコは念の為、避けておきましょう

「ミスターどうしてキノコを残し──愛している」
ああ、なる程こういう事でしたか。食さないで正解でしたねぇ

「愛している!!」
はい『何ですか、これは!』ですね

「愛して愛している!」
『愛してなんかいません!』ですね分かります


最後に、おや…
…困りましたねぇ……




●I

「愛してる……」
 相棒の口からその言葉を聞いたとき、アルヴァード=ヴィスナーは思わずフォークと落とした。
 今はパスタの店で、食事中だったはずだ。アルヴァードは、チーズとトマトのおいしいアマトリチャーナを、向かいに座る栗花落 雨佳はポルチーニと色々きのこのクリームソースを食べていた。どこに愛してるなんて言う要素があったんだ。
 雨佳も手が止まっているから、からかわれているわけではないらしい。

 その後すぐさま店主の説明が入り、アルヴァードはため息をついた。

「ったく、仕入れくらいちゃんとしろよ。もうこの店は二度と来ねえ」
 しかし雨佳は、話を聞いてなお、さらにフォークを動かそうとしている。
「おい! 何まだ食おうとしてるんだよ!」
「……愛してる……」
「毒きのこのせいでそうなってんだろ! 腹減ってるんならこっち食え!」
 アルヴァードは、食べかけのパスタがのった皿を差し出した。
「うん、愛してる」
 おっとりとした笑顔で受け取りフォークを動かす雨佳が言うのは、美味しいとかありがとうとか、そんなところか。
「ったく、いつもクリーム系なんて食わねぇくせに、なんで今日に限って……」
「愛してる、愛して……」
 言いかけた、トマトソースがついた唇に、アルヴァードは手を伸ばす。
「いい、喋んな!」
 口と鼻をまとめて手のひらで覆い、先は聞きたくないのだと知らせてやれば、雨佳は怪訝な顔をした。
 ……わかっている。普段の自分に対して喋りすぎなことくらい。
 きのこのせいだ。
 そうじゃなくたって、こいつの言葉は嘘か本当かわかりゃしねぇのに……。こんな、無理やり言わされてる言葉に動揺して、馬鹿みてぇ。
 もともと愛想の良いわけではないアルヴァードの顔が、いっそう不機嫌になっていく。
 最近のアルはずっとこんな感じだ。喋ったり、黙ったり、突然挙動不審になったり。
 ……どうしたんだろう。
 雨佳は、眼鏡の奥の瞳を細め、アルヴァードの金の瞳を見つめた。しかしそうして見入っても、視線はそらされてしまう。
 ……本当に、どうして。
 2人の間で、元凶のパスタが冷たくなっていく。安い愛を紡ぐ、甘い毒を含んだきのこの。
「……愛してる」
 雨佳はぽつりとつぶやいた。アルヴァードがはっと顔を上げ、うつむく。
「頼むから、そんな目で見ないでくれ」
 雨佳の奔放さに侵されて、傷つけるような真似はしたくなかった。互いにとって違うだろう、毒に満ちた言葉の価値に、身を震わせる。
 雨佳は眼鏡を外し、それをテーブルの上に置いた。ガラスを通してではなく、直接、相棒の瞳を見たかった。小さな魔法をもたらしたきのこに、アルヴァードが翻弄される意味を知りたくて。
 何かを言いたい。でも言えば、アルヴァードの顔は、憂いに歪んでしまうだろう。そう思ったから、雨佳は黙したまま。
 不意に店内に、笑い声が上がった。隣の若いカップルだ。その後続くのは、「愛してる」で、こちらもアイタケを食べたのか、そうでないのか。
 ただ、あんな風にはなれないと、雨佳は思う。
「悪かったな、笑い飛ばせなくて」
 ――かといって、流すこともできなくて。みっともなく、動揺して。
 アルヴァードは嘆息し、雨佳の頭をそっと撫ぜた。

●love

 火山 タイガは、大盛りのミートソーススパゲティを食べている。
 そんなタイガの豪快な食べっぷりを、セラフィム・ロイスは微笑ましく見守っていた。
「うっめえ! そっちはどうだ?」
 そう言うタイガの口からは、きのこの端っこが飛び出ている。ミートソースにきのこなんて、ちょっと珍しいかもと思いながらも、カルボナーラを一口。
「うん、こっちも美味しいよ」
 と、返したところ。
「愛してる!」
「……え?」
 セラフィムはフォークを持つ手を止め、正面のタイガを見やった。彼自身も、目を見開き、セラフィムの顔を見つめている。
「や、え? あ、愛してる! 愛、愛して……っ」
 タイガは真っ赤になってパタパタと手を振るのだが、焦っている分声が大きい。しかも口から出てくる言葉は「愛している」のみ。
「ちょ、ちょっと、どうしたのタイガ? って待って、ストップ!驚いてるのはわかったから、言わないで」
 恥ずかしいだろ、とセラフィムは頬を染めて視線をそらした。そんなところにやってきたのが、この店の店主である。

「……そういうことか」
 毒きのこ、アイタケの説明を聞いて、セラフィムは小さく嘆息した。
「わかった、部屋を移動しよう」
 そう言った矢先、タイガの大きな瞳が、テーブルの上のパスタを見る。がっと皿を掴んで残りのパスタを一気食い。もったいないと思ったのだろうが。
「この食いしん坊……っ、まったく」
 セラフィムは、自分の皿の上に残ったカルボナーラに視線を向けた。タイガに「愛してる」を連発されて、落ち着いて食べられるはずもない。それになんていうか、もう胸が一杯だ。
「……食べかけだけど、これも食べる?」
 食欲旺盛な相棒に差し出してやれば「愛してっ!」と元気に返事をした後に慌てて口をつぐみ、彼は大きくうなずいた。

 とりあえず薬の効果が切れるまでと、部屋を移動した。店の喧騒が届く部屋で、沈黙を保っている。
「会話できないのも、案外辛いものだね。具合悪くない?」
 セラフィムの言葉に返事をすべく、タイガは口を開いた。が、やっぱり出てくるのは「愛してる」で、セラフィムの顔は一気に紅潮する。
「だから! 頷けばいいだろ。喋るの禁止!」
 セラフィムは、タイガの口の周りについている、ミートソースとホワイトソースを、ペーパーで拭った。こんな食べ方をしていると幼く感じるが――。
 タイガはどんな気持ちで言っているのだろうと、ふと思う。
 愛してるなんて、本心だって、なかなか言える言葉じゃない。それが、自分の意思に反して口から出てしまうのだから。
「アイタケも、罪深いよね」
 その言葉に、タイガは目を見張った。
 罪深い……罪。その言葉に、彼が何を思って反応したのかはわからない。
 が、強く腕を惹かれ、気付けばセラフィムは、タイガの腕の中だ。
「愛してる、愛してる、愛してるっ!」
「ちょっと、タイガどうしたの?」
 体を離しタイガの顔を見ようにも、体はきつく抱きしめられている。ぎゅっと抱えられた肩が少しばかり痛くて、それなのに、そうと言えないのは、聞こえるタイガの声が、思いのほか真剣なものだったからだ。
 ……タイガ、それじゃ勘違いしちゃうよ。
 動くことができない場所で、セラフィムはひっそりと目を閉じる。こんなきのこの毒に侵された最上級の愛の言葉を貰うより、笑顔のひとつも見せてくれた方がよほどいい。その方が断然うれしい――。
「……で、タイガ、本当はなんて言ったの? あ、答えるのはきのこの効果が切れてからでいいよ」
 ゆるくなった締め付けに顔を上げると、タイガはくしゃりと顔を歪めた。少しだけ口を尖らせて、頬を染めて。
「愛してる!」
 特大の声は、きっと店まで届いただろう。

●you

「愛している」
 天原 秋乃の口から飛び出た言葉に、イチカ・ククルは手にしていたフォークを落とした。しかし、からん、とテーブル下に転がったそれを、拾おうとも思わない。それくらい、衝撃的だったのだ。
 秋乃があんなこと言うはずがないし、きっと僕の勘違いだよね。
 自分の中で早々に結論を出して、イチカは秋乃を見つめる。
「秋乃、もう一回言ってみて?」
 しかし秋乃から出た言葉はまたまた「愛している」で、しかも秋乃は言った直後に目を見開いて、口を手で覆ったから、まったく意味がわからない。

 そこに店主がやってきて、毒きのこアイタケについての説明をされた。
「アイタケ? なるほど、それで『愛してる』しか言えないんだね」
 イチカが納得して呟く横で、秋乃もまた深くうなずいた。
「愛してる? 愛して……」
 顔を歪めて、愛してるを連発しているあたり、たぶん恐ろしいきのこだとか言っているのだろうけれど、それがイチカにしたら、愉快でもある。
 だってこんな言葉を言う秋乃、そうそう見ることができるものではないのだから。
 だからあえて、部屋の移動を進める店主に首を振ったのだ。
「別に部屋を移動するほどのことじゃないから、このままでいいよね?」と。
 秋乃はびくりと肩を揺らして、店内を見渡した。隣では初々しいカップルが、後ろには賑やかな家族連れが、ちらちらとこちらを見ながら食事をしている。
 おそらく、秋乃の顔にはその視線が、ぶすぶすと突き刺さっているんだろうなと思っていると、案の定、正面の顔が眉をひそめた。
「愛してる、愛して、愛してる!」
 抗議の言葉もすべて愛の言葉に変換されて、衆目はますます集まっていく。そして秋乃の顔は、どんどんと苦渋に満ちていく。
「あはは、秋乃は顔に出るからわかりやすいなあ~」
 この毒きのこが命に関わるものじゃないから、効果がすぐに消えるものだから、そんな言葉も言えるのだ。じろりの睨む秋乃の視線がかなり怖いことになっているけれど、頬が赤いから、イチカの頬は自然と緩む。
「……愛している」
 緑の瞳がイチカを捕らえ、じっとりと見据える。恨みのこもった眼差しに、嘘の言葉が相まって、なんだか見つめられている気さえした。
 が、秋乃が直後に頭を抱えるから、もうイチカは笑うしかない。
「秋乃にこんなこと言ってもらえる機会なんてなかなかないんだし、楽しませてよ」
 口をつぐんだ秋乃に言って、彼が頼んだきのこ入りのクリームパスタを勧めてみる。学習した秋乃はぶんぶんと首を横に振り、さらにフォークに絡めてイチカに差し出してきた。
「いや、僕は遠慮しとくよ。……だって恥ずかしいじゃない。愛してるの連発なんて」
 イチカは微笑んで、悔しそうにしている秋乃を見つめる。秋乃は知らないのだ。例えばイチカが、秋乃に好かれていようが、嫌われていようが、どうでもいいと思っていることを。できれば笑っていて欲しいけれど、怒っていても、問題はないということを。
 ――僕は、君さえ傍にいてくれれば……、それで……。
 自らが頼んだミートソースのパスタを、フォークで丸めて秋乃に差し出して。
 イチカはにっこりと微笑んだ。

●me

「本日働いた報酬はミスター奢りのパスタですね。さらにお酒が一緒にありましたら、言うことなしです」
「冒頭から要求が激しいですが、お酒があるかはわかりませんよ」
 エルド・Y・ルークはそう言って、テーブルの上に置かれたメニューのページをめくった。お酒お酒と歌いながら、並んで覗き込むのは、ディナス・フォーシスだ。
「クリームパスタにあうお酒ってなんでしょうね」
「好みもありますからね、難しい問題……おや? ディナス、悲しいお知らせがあります」
「……それはまさか、ミスター……」
「お決まりのパターンではありますが、アルコールのページがありません」
「ええっ!?」
 ディナスは大げさに声を上げた。もう既に飲んでいるかのように見えはするが、今日は一滴たりとも飲んでいない。ただ期待が大きかったから、失望も大きいというだけだ。
「まあまあ、パスタにデザートをつけていいですから」
「本当ですか? じゃあ僕はこの特大マロンパフェを」
「なるほど、ずいぶん大きく出ましたね。では私はこちらのバナナパフェにしましょう。特大ではない普通のやつです。パスタはミートソースですね」

 しばらく後、頼んだ品がやってくると、エルドはまじまじとそれを見つめた。
 ――ミートソースは美味しそうですが……若干不穏な気配がしますね。特にきのこが。
 見た目は普通のきのこだから、そう思ったのは100%勘である。だが、ただの直感と侮るなかれ。長くファミリーをまとめてきたドンの危機回避能力は、そこらへんの若者には理解できない深さがある。
 若者、もといディナスはうまそうにクリームパスタ(きのこ入り)を食べている。
「ミスター、どうしてきのこを残し――」
 と、そこまでいったところで。
「愛している」
 不意に口から飛び出した言葉に、ディナスはきょろきょろと辺りを見た。誰が言ったのかと確認したいと、そういうことだろう。
 しかしエルドは、その愛の言葉は、ディナスが紡いだものと知っている。ただ本人は納得できていないから、もう一度口を開き「愛してる」と言ってしまい、だん、と強くテーブルを叩いた。
「愛している!」
 必死な形相のディナスから飛び出る告白の言葉に、エルドはなるほど、と首を振った。
「こういうことでしたか。あのきのこ、食さないで正解でしたねえ」

「愛している!!」
「はい、『なんですか、これは!』ですね」
「愛して愛している!」
「はい、『愛してなんかいません!』ですね、わかります」
 ゆったりと微笑むエルドに対し、ディナスは涙目だ。はいはい、とエルドはディナスの頭に手を乗せた。まるで駄々っ子をおさめるしぐさに、ディナスはまた口を開きかけ――。
 すっと目を閉じ、息をついた。
 立ち上がり、エルドの背後へゆっくり向かう。白髪の後頭部を見下ろして、抱きしめようと思ったけれど、既に「愛している」の連発で衆目を集めている身、襟をつかむだけに自制した。
 背後から、耳元に唇を寄せて。
「……愛している」
 嘘っぽい本音。本音っぽい冗談。ふっと漏れたディナスの笑みが、エルドの耳穴に触れ、目を細める。
 ――おや、困りましたね。
 お酒があれば、ごまかせたのですが。
 今は、気付かないふりをするしか。

 人の心の欠片から真実を読み取れなければ、ファミリーをまとめることなどできやしないのだ。
「さてディナス、パフェでも食べましょうか。特別にバナナをわけてあげますよ」
 エルドはなにも知らぬ風にそう言って、ディナスのマロンパフェの上に、バナナと、大量のクリームをのせたのだった。

●too.

「愛してる! えっ!?」
 スウィンがにっこり笑顔で告げた愛の言葉に、イルドは、パスタを食べようと口を開けた姿勢のまま、固まった。正面では、言った本人も同じ様子で固まっている。互いの目が語るのは「どうした? なにが起こった?」ということだ。その間に、イルドの頬がじわじわと赤く染まっていく。
「い、いきなり何言ってんだ!?口に入れてたら吹きだすとこだったぞ!」
 イルドは、注文のブッタネスカを絡めたフォークを皿の上に置いた。しかしスウィンはごめんねと謝る様子はない。それどころかなぜか深刻な顔で、小さく口を開いた。あ、と聞こえたのは弱い声。でも続くのは、結構な大音声。
「あ、愛してる? 愛してるーッ!?」

 そこに駆け寄ってきて、頭を下げたのが店主である。

 部屋を移動してからは、互いにパスタを前に黙っていた。スウィンの前に置かれている海老ときのこのクリームパスタは、取り残されたまま。イルドは自分のものを食べているが、はっきり言って味はわからない。しゅんとしたスウィンに、声がかけられずにいる。
「愛してる……」
 肩を落としたスウィンには同情するが、呟く言葉は攻撃力が半端ない。聞くたび顔が熱くなり、冷ますつもりで飲んだ水で、お腹はすでにかぽかぽだ。
 お、落ち着け! ただの毒きのこの効果で、意味なんてねーんだ!
 なんとか自分の分を食べきって、思いきってまっすぐに顔を上げてみた。
 と、スウィンが笑っている。
 なんだコイツ、さっきまでへこんでたのに、どうして――?
 大丈夫かと聞こうとした、そのとき。

「愛してる~!」
「愛してる♪」
「愛してる☆」
「あ・い・し・て・る」

 ウインクに投げキッス。身振り手振りまでつけて、様々な『愛している』を見せるスウィンに、イルドはだん、と立ち上がった。
「だー! もう喋るな! 黙ってろ!」

 しかしそうしておきながら、スウィンが黙ると場の空気はいっきに落ち着かないものになる。明らかに不機嫌顔のイルドを見ているからだろう。スウィンもむっつり不満をあらわにした。言いたいことは、おそらくこうだ。
 言われた通り黙ったのに、どうしてそんなに怒ってるのよ。どうしたらいいの。
 そんなの俺も知るものかと、黙りこくってスウィンを睨み付けた。今彼が、愛の言葉しか言えないことはわかっている。そして言われれば、自分が平常心でいられないことも。でも、それでも。
「……やっぱなにか喋れよ」
 イルドはそう言って、スウィンから視線をそらした。愛しているとまた言うだろうスウィンを、正視する勇気はなかった。
 願わくば、早くもとのスウィンに戻ってほしい。
 愛してるなんて、毒のせいで言われても嬉しくなんか……と思いかけ、ぶんぶんと首を振る。だってちょっとは、嬉しい。いや、かなり?
「くそ、馬鹿か俺は!」
 突然のイルドの言葉にスウィンは首を傾げ――微笑み言った。
「愛してる」



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月26日
出発日 11月03日 00:00
予定納品日 11月13日

参加者

会議室

  • [6]エルド・Y・ルーク

    2014/10/31-23:14 

     ディナス:

    アイタケ、ですか。ここは当然ミスターに食べてもらって、余りの不思議光景に僕が腹筋と肺を鍛える予定です。

    ……あれ? どうしてミスターはキノコを選り分けているんです? 僕は最初気付かずにきちんと食べていたというの…に……(死亡フラグ発生)

  • [5]天原 秋乃

    2014/10/31-02:14 

    えっと、天原秋乃だ。よろしくな。
    アイタケ…とんでもないキノコだな。できれば俺は食べたくないんだが…どうなることやら…。
    (PL:十中八九、秋乃が犠牲になる予定です)

  • [4]セラフィム・ロイス

    2014/10/30-00:41 

    タイガ:
    よーーっす!こんばんわー!
    こっちもまだ食べてないからどっちか当たるかわかんねーけど(PL:多分タイガ)

    皆、がんばってこうぜー。この試練(?)をさ

  • [3]栗花落 雨佳

    2014/10/29-22:51 

    こんばんは。
    栗花落雨佳とアルヴァード・ヴィスナーです。よろしくお願いします。

    どちらがキノコを食べてしまうかはまだ未定ですが……ふふ、どちらにせよ楽しそうですね。

  • [2]エルド・Y・ルーク

    2014/10/29-00:39 

  • [1]スウィン

    2014/10/29-00:27 


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