プロローグ
●『キズナ・クロニクル』
「ゲームは好きか?」
A.R.O.A.職員のあまりにも端的な問いに、集まっていたウィンクルムたちは首を傾げる。その様子に気づいて、男は言葉を足した。
「『キング・プロジェクト』というゲーム開発会社があってな。そこから、ウィンクルムに新作ゲームのモニターになってほしいとの申し出があった」
『キング・プロジェクト』の社長はウィンクルムの活動に興味があるらしく、是非ウィンクルムにモニターを! というのはそんな彼の意向らしい。ゲームの名前は『キズナ・クロニクル』。原点回帰がコンセプトの、冒険者となって世界を救う王道ファンタジーRPGだ。内容はシンプルだけれど、このゲームには画期的な特徴があって。
「主人公は自分――自分の分身を動かすんじゃなくて、特殊な装置で、自分の意識をそのままゲームの世界に連れていって異世界の冒険を楽しむらしい。奇妙な話だが、現実世界で行動するのとほぼ同じ感覚だそうだ」
『キズナ・クロニクル』の世界では、冒険者は2人1組のパーティーを組む。そしてゲーム開始前――ゲームの世界に旅立つ前に決めたジョブの力を用いて敵を倒しながら、旅を続けるのだという。
「今回のモニターで行けるのは、はじまりの村~村外れの洞窟まで。所謂チュートリアル部分だな。洞窟の奥にいる敵ボスを倒せばミッションクリアーだ」
興味のある者は是非協力してくれと、男はウィンクルムたちにゲームの説明書を手渡した。
解説
■説明書
●はじめに
『キズナ・クロニクル』の世界ではあなたとそのパートナーが主人公です。
パートナー以外の冒険者(プレイヤー)との接触はありませんことをご了承ください。
●チュートリアル
チュートリアル部分は、はじまりの村~村外れの洞窟までとなっております。
あなたとパートナーが、駆け出しの冒険者としてはじまりの村を訪れたところからゲームスタートです。
村の人たちは村外れの洞窟に住むダンジョンボスを恐れていますが、今のところ特に被害はありません。
●ジョブ
以下の4つのジョブから1人1つ自分のジョブを選択してください。
※プランにてそれぞれご指定ください。
○ウォリアー
剣や斧での攻撃を得意とする前衛職。
魔法は使えませんが打撃攻撃力は随一です。
○ハンター
2本のナイフでの近接攻撃を得意とする前衛職。
魔法は使えませんが素早さは他のどの職業にも負けません。
○メイジ
攻撃魔法を得意とする後衛職。
前に立って戦うのには向きませんが魔法の力でパートナーを助けます。
○プリンセス
回復魔法と補助魔法を得意とする後衛職。
前に立って戦うのには向きませんが魔法の力でパートナーを助けます。
冒険開始時の装備は、イメージの力で決まります。
但し、プリンセスは男女問わずドレス姿(詳細は自由)です。
※こちらも希望がございましたらプランにてご指定を。
※ご指定ない場合、装備はお任せとなります。
●技
ウォリアーとハンターは必殺技、メイジは攻撃魔法、プリンセスは回復・補助魔法を使えます。
技名やその効果は、そのジョブに合ったものでしたら基本的に自由に想像して作れます。
●敵ボス
○ゴーレム
土と岩から生み出された魔法生物。
動きはノロいですが攻撃力と防御力は高いです。
■追記
モニター自体は無料となっておりますが、会場までの交通費(2人で300ジェール)は各自ご負担いただきますことを何卒ご了承くださいませ。
ゲームマスターより
お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!
戦闘スタイルも、装備も、技も。皆様の想像力次第です!
なので、神人さんが前衛職になって、パートナーをカッコよく守ってもいいんです!
精霊さんも実際のジョブとは全然違う戦闘スタイルに挑戦してみてもいいんです!
但し、あまりにチートなものやいかにもな版権物はマスタリング対象ですので、想像力を駆使していただくことを強くお勧めさせていただきます。
道中起こる出来事等もウィンクルム様毎にまちまちでOKですので、希望がございましたらプランにご記入くださいませ。
それぞれの冒険を楽しんでいただけますと幸いです。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!
また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)
ジョブ:ウォリアー(使用武器はハルバード) 必殺技:疾風斬 (武器に風を纏わせ、渾身の一撃を喰らわす) 自分の意識がゲーム内に入るなんてすごいと思う。 今回は戦士で前に出て戦えるのは嬉しい。 思い切り戦おう! 【ゲーム内の行動】 はじまりの村で、アイテムを購入したりして旅立ちの準備を整える。 村外れの洞窟について詳しい村人っているのかな? いたらちょっと洞窟について聞いてみたい。 備や情報収集を終えたら洞窟に向かう。 戦闘では、前衛でバリバリ武器を使って攻撃する。 ゴーレム戦では、相手の攻撃を避けつつ、ゴーレムの隙をついて背後から攻撃をする。 弱まってきたら、トドメに必殺技を喰らわす。 いざとなったらジャスティを守る。 |
日向 悠夜(降矢 弓弦)
●ハンター 必殺技は2本のナイフで何度も切りつける「双連舞」 服装はシーフのイメージで胸元が大きく開いた軽装 ●心情 ゲームの世界に入って遊ぶなんて、面白そうだね 降矢さんは大変そうだけれど…折角の機会なんだからめいっぱい楽しんでもらわないと!頑張ってサポートするね? 最初に村で情報を集めて回復アイテムも入手しないとだね 色々作りこまれてるんだね…凄いなぁ 降矢さん、動きがぎこちない気がするね ボスに挑む前に戦闘を何度かして慣れてもらわないと心配かなぁ… ボスは動きが遅いけれど攻撃は強力でナイフじゃ攻撃も通らないみたいだからね… 降矢さんを信じて時間を稼ぐよ 素朴な疑問。痛みは感じるのかな …あんまり痛くないといいなぁ |
八神 伊万里(アスカ・ベルウィレッジ)
今回は普段と逆の役割 お互い逆の立場を体験することで見えてくるものもあるはず 神人:ウォリアー 精霊:プリンセス スリムなシルエットの金属鎧に両手剣 必殺技:ハードブレイカーのグラビティブレイクに似た技【重力破断】 アスカ君、可愛い…っ 折角だしタイムアタックに挑戦しよう なるべく効率のいいルートを割り出すね(スキル:計算) …サクサク進みすぎて低レベルでボス戦になっちゃった でもここまで来たんだから、絶対に勝とう 支援もある、普段のアスカ君のように動けばきっと… えっ?アスカ君!?どうして… 即座に駆け寄って抱き起こし 改めて実感したよ…アスカ君が守ってくれてるから 後方から落ち着いて指示を出せるんだよね いつもありがとう |
クロス(オルクス)
アドリブ可 ウォリアー 青龍桜紅月剣 腰迄の髪を下ろしサラシを巻いて胸元開けた黒基調男装 必殺技 「風魔衝撃波(ジャンプで上から居合いで衝撃波を出す」 「幻夢斬(瞬時に背後を取り斬る」 「集いし無限の力!全ての気を凝縮し剣に込めて解き放つ!コレで止めだ…!俺達の奇跡の絆を受け止めろ!インフィニティレガルジーア!(素早く四方八方斬込み最後は上からたたっ斬る」 「オルク美人だな♪ くくっ俺に任せたのが運の尽きって事で☆ ほら行こうぜ姫様? 俺が必ずやお守り致します…(跪き手の甲にキス」 道中 ・村人から情報収集 ・手を繋ぎ洞窟へ ・雑魚は早々に片付ける ボス戦 「此奴がボスか… オルクサポート任せたぞ! いっちょ派手にやりますか!」 |
ジェシカ(ルイス)
こういうのってわくわくするわね じゃあ私は斧装備のウォリアーにするわ 普段は後ろから見てるだけなんだもの こういう所でくらい私にも前に立たせてよ 防御面が不安? やられる前にやればいいのよ(脳筋思考 じゃあ善は急げよね 早速洞窟に…え、なに?何で止めるのよ えー、情報収集とかいるの?殴ればわかるじゃない 仕方ないわね この洞窟結構リアルね まあ前衛は任せといて! 戦闘ではどんどん前に出て力押し いたわ!ボスよボス! 私達の実力見せてやりましょう あ、これチャンスじゃない? 戦闘中隙を見つけて突撃 が、足を取られて転ぶ いけると思ったんだけど中々難しいわね… ありがとう、助かったわ 何よ人を暴れ馬みたいに これでも頼りにしてるんだからね |
●貴方がいるから
「今回は普段と逆の役割だよ。お互い逆の立場を体験することで見えてくるものもあるかなって」
というわけで、ゲームの世界の八神 伊万里はスリムなシルエットの金属鎧に身を包み腰には両手剣を携えたウォリアーだ。一方のアスカ・ベルウィレッジは。
「逆の立場か。良い案かもしれな……って、何じゃこりゃー!?」
ふと自分の姿に視線を落として、思わず叫び声を上げるアスカ。ふわりと揺れるツインテールとゴシック・アンド・ロリータな黒のミニドレスの裾。ニーソックスで露出度が下がっているのは幸いなのか否か。魔法少女風のステッキを片手に、アスカは短いスカートを抑え、僅か俯いて顔を赤らめる。
「何でこんなことに……なんかスースーするし……」
「アスカ君、可愛い……っ」
「……へ?」
声に顔を上げれば、伊万里はアスカのプリンセス姿に碧の瞳を輝かせていた。その表情に寸の間ぐらりとなるも、アスカはこのままではいけないと思い直す。
「ああもう! こんな格好いつまでも続けてられるか! さっさと終わらせるぞ!」
「こんな格好って……可愛いのに。でも、そうだね。折角だしタイムアタックに挑戦しようか」
なるべく効率のいいルートを割り出すね、と伊万里は道具袋の中からマップを取り出した。
「……なあ、伊万里。まだ回復しなくてもいいのか?」
村外れの洞窟、下層。ここまで来ると前衛職たる伊万里の生傷は絶えない。が。
「まだ大丈夫だよ。ありがとう、アスカ君」
「だけど……!」
言いかけた言葉を、アスカはすんでのところで飲み込んだ。頬に血を滲ませながらも、今は凛々しい女戦士の伊万里が、アスカへと優しく頼もしい笑みを向けていたから。彼女を案じる言葉の代わりに、ため息を零すアスカ。
(……いつもこんなハラハラしながら俺たちを見守ってくれてるんだな……)
前へと進もうとする伊万里の背にアスカは声を掛ける。
「伊万里」
「? どうしたの、アスカ君?」
「……支援の重要性がよく分かった、いつも助かってるよ」
アスカの言葉に、振り返った伊万里ははにかんだような笑みを零した。と、その時。洞窟全体をびりびりと揺らすような叫び声が、前方から聞こえた。近づいてくる重たい足音。いけない、と伊万里が固い声を出す。
「サクサク進みすぎて低レベルでボス戦になっちゃったみたい」
言いながらも、油断なく両手剣を構える伊万里。
「でもここまで来たんだから、絶対に勝とう! ここからは魔法の出し惜しみはなしだよ、アスカ君」
「ああ!」
応えて、アスカもステッキをぎゅっと握る。そのうちに、巨大なゴーレムが2人の前に姿を現した。
(支援もある、普段のアスカ君のように動けばきっと……)
剣を手に、伊万里はゴーレムへと一直線に駆けた。アスカの放った癒しの魔法が、伊万里の身体を軽くする。
「行きます! 重力破断!」
重い一撃が岩の破片が飛び散らせ、ゴーレムの防御力を下げる。けれどゴーレムの岩の拳もまた、伊万里へと迫っていて。
(!? 避けきれない……!)
碧の目が見開かれたその時、伊万里はどん! と突きとばされた。代わりに攻撃を受けたのは――。
「アスカ君!?」
吹きとばされ、地に崩れるアスカ。伊万里、すぐに彼の元へと駆け寄りその身体を抱き起こす。
「アスカ君、どうして……」
「……どうしても、だよ……無事か、伊万里」
戦術的には悪手だとしても伊万里を守るのはいつだって自分でありたいと、その想いがアスカを突き動かして。
「改めて実感したよ……アスカ君が守ってくれてるから、後方から落ち着いて指示を出せるんだよね。いつもありがとう」
伊万里の言葉に、アスカはふっと笑みを漏らした。そうして、残された力を振り絞り攻撃力増加の魔法を発動する。碧の光が、伊万里を守るように包んだ。
「今だ! 伊万里、攻撃を!」
アスカが叫ぶ。応じるように、ゴーレムへと走る伊万里。
「これが俺たちの……絆だ!」
アスカの声に応えるように、伊万里の剣がゴーレムを叩き斬った。
●絆の呼ぶ力
「ゲームの世界に入って遊ぶなんて、面白いね。それにしても、色々作りこまれてるんだね……凄いなぁ」
はじまりの村にて。日向 悠夜は村の様子を見回しながら楽しげに顔を綻ばせたが、その少し後ろを歩く降矢 弓弦は何とか悠夜の後を追うので精一杯という様子。
「機械に慣れたいと思ったは良いけれど……ゲームへ意識を入れるというのは、急ぎ過ぎたかな」
などと神妙な面持ちでぶつぶつ呟く弓弦、ここが苦手な機械の中だと思うと緊張が先に立ち、手と足が一緒に出るような始末である。悠夜が苦笑した。
「……降矢さん」
「へ? あ、な、何だい?」
「何だか大変そうだけれど……折角の機会なんだから一緒にめいっぱい楽しもう!」
頑張ってサポートするね? との悠夜の言葉と笑顔に、弓弦の表情がやっと僅か緩む。
「ありがとう、悠夜さん」
「いえいえ。そうだ、ゲームだって思わなければいいんじゃないかな? ほら、こうして普段と同じ様に体が動くんだし」
言って悠夜がくるり回ってみせれば、弓弦は目を明るくした。
「成る程、普段と同じ様に体を動かすか……うん、良い選択だと思うことにしよう」
自分に言い聞かせるように言葉零した弓弦、「ところで」と首を傾げる。
「先ずは何をしたらいいのかな? ゲームのお約束、というのが僕には分からなくて……」
「そうだね……先ずは村で情報を集めて回復アイテムも入手しないとかな?」
「情報収集に旅の支度、だね。うん、それなら僕にも……」
できそうだと言いかけて、弓弦が不意に言葉を忘れる。悠夜の姿を捉える金の視線。
「……降矢さん?」
「……悠夜さんの服装も、ゲームのお約束なのかい……?」
今の悠夜は女ハンター。シーフをイメージした装備は、胸元が大きく開いた軽装だ。ようやくパートナーの服装に意識がいくくらいに緊張が解れた弓弦、不意に湧いた疑問を何とはなしに零してしまい、ある意味直球な問いに悠夜が僅か照れたような困ったような顔で視線を逸らした段階で初めて、自分の失言に気がついた。
「あ! いいいいやその、こ、これは別に変な意味じゃ……!」
「えーと……道具屋、探そうか」
「……ハイ」
そんなこんなで、2人の冒険は幕を開けた。
「双連舞!!」
村外れの洞窟の最下層にて、2人はゴーレムと対峙していた。悠夜の両手のナイフが、ゴーレムを何度も切りつけてその岩の肌を削る。
(だけど……固すぎてナイフじゃ攻撃が通らないみたいだね……)
ブン! と大きく振り回された敵の岩の腕を、悠夜は素早い動きでひらりと避けた。けれど、威力ある一撃の風圧に頬に血が散る。悠夜はきゅっと唇を噛んだ。
(痛みは感じるのかなって素朴な疑問だったけど、やっぱり多少は痛むんだね)
頬に鈍い痛みを感じながら、それでも悠夜は舞うようにゴーレムを引き付ける。
(時間を稼がなくちゃ。……降矢さんを、信じてるから!)
悠夜はちらと後方の弓弦を見やった。杖の代わりに弓を装備した一風変わったメイジたる弓弦は、真剣な面持ちでゴーレムへと照準を定め、魔法で生み出した風の矢に魔力をチャージしている。悠夜のアドバイスで常と似るような戦闘スタイルを選んだ弓弦。そのおかげか、洞窟での雑魚モンスターとの戦闘を経て、最初こそぎこちない戦いぶりだった彼も今や見事に自身の力を使いこなしていた。
(もう少し……悠夜さん、待っていてね。この一撃で、必ず……!)
悠夜が弓弦に信を置いてナイフを振るうように、弓弦もまた悠夜がいるからこそ、落ち着いて魔法の矢にエネルギーを溜め込むことができる。交わす言葉は少なくとも、2人の心は一つだった。
(今だ……!)
巨大な風の矢が、ギュルギュルと音を立ててゴーレムへと迫る。
「悠夜さん、避けて!」
応える代わりに悠夜がするりとゴーレムから身を離した。狙い澄ました一撃がゴーレムの急所を抉り、地鳴りのような断末魔を残してその身体が崩れ落ちる。
「「やった!」」
2人の声が、笑みが重なった。
●守りたいもの
「自分の意識がゲーム内に入るなんてすごいわよね」
はじまりの村の前。手をグーパーして常と変わらない感触を確かめながら、リーリア=エスペリットは笑み零した。
「前に出て戦えるなんて嬉しい! 思い切り戦おうっと!」
今のリーリアはハルバード使いの女ウォリアーだ。好戦的で、普段から体を鍛えているリーリア。今すぐにでも洞窟へと向かい前に立って戦いたい! とばかりにうずうずしている彼女の喜びようを見て、ジャスティ=カレックもごく密かに目元を和らげる。リーリアが楽しそうなのは、ジャスティにとっても嬉しいことだ。けれど。
(はしゃぐリーリアを見るのは悪くありませんが……どうやら今回は、僕が守られる側になってしまいそうですね)
普段は前線で戦うシンクロサモナーだが、今のジャスティは後方からリーリアを支えるメイジだ。彼女の花咲くような笑みを良しとする想いと彼女を守るのは自分でありたいという想いの間で、ジャスティの心は複雑に揺れる。
「それじゃあ、村で旅立ちの準備を整えましょうか。村外れの洞窟について詳しい村人っているのかしら?」
いたらちょっと洞窟について聞いてみたいと、リーリアは村の中へと足を踏み入れる。まだ感情の整理がつかないままに、ジャスティは前を行くパートナーの後を追った。
「はああっ!」
気合と共に振るわれたハルバードが、洞窟に立ち塞がる雑魚モンスターを一閃の元葬り去る。また一つ戦闘を終えて、リーリアは得物をくるりと回し口の端を上げた。
「うん、絶好調ね」
至極生き生きとしている彼女の後ろ、ジャスティはため息を零す。今のところの行程は順調、リーリアに怪我はない。けれど、村で手に入れた情報によると――ボスの住処は、もうすぐのようだった。
(このまま何事もなく無事に終わればいいのですが……)
ジャスティが紫の瞳を僅か伏せたその時。洞窟の奥から、地面の震えるような雄叫びが聞こえてきて彼の思考を遮った。リーリアが武器を構え直す。
「やっとボスのおでまし? 待ちくたびれたわ」
爛々と瞳を輝かせるリーリアを見て、益々募るジャスティの不安。
「来るわよ、ジャスティ!」
「はい……リーリア、無茶はしないでくださいね」
「大丈夫大丈夫!」
不敵に笑うリーリアの後ろで、魔法発動の準備を整えるジャスティ。間もなく、2人の目前に巨大なゴーレムが現れた。
「先手必勝!」
リーリアが、欠片の迷いもなくゴーレムへと向かっていく。その姿を見留めて振るわれた岩の拳を、リーリアはすんでのところで避けた。舞う土埃に紛れるようにして、敵の背後からハルバードの鋭い攻撃を食らわせるリーリア。だが、敵にまだ沈む気配はない。
「面白いじゃない、そうこなくっちゃ!」
激しい攻防から少し離れた所で、ジャスティは魔法を構築する。宙に鈍く光る、闇から生まれた幾らもの剣。
(関節を……敵の脆い部分を突く!)
ジャスティが大掛かりな魔法の構築に集中できるのも、リーリアがジャスティを守るように敵を引き付けてくれているおかげだ。リーリアが怪我をしないうちにと、ジャスティは魔法を放った。
「一気に終わらせましょう、リーリア。シャドウブレード!」
数多の闇の剣が、ジャスティの意思のままにリーリアを避け、敵の関節部に幾らともなく突き刺さる。痛みにゴーレムがのたうつ、その隙をリーリアは見逃さなかった。
「ええ、これで終わりよ! 疾風斬!」
風を纏ったハルバードがゴーレムへと渾身の一撃を叩きつけ――ゴーレムはその命を手放した。
「やった! ミッションクリアーね!」
土埃に塗れながらも清々しく笑うリーリア。そんなリーリアを見て、ジャスティは再びのため息を零す。それに気づいたリーリアが不思議そうに首を傾げた。
「何よ、ジャスティ。ため息なんかついちゃって」
「いえ……リーリア、やはり僕には、前衛職の方が向いているかもしれません」
リーリアを守りたいからと、その言葉は胸に飲み込んで。
●正しいカタチ
「こういうのってわくわくするわね!」
斧の柄の感触を確かめながら、今はウォリアーたるジェシカは元気良く笑み零した。一方のルイスは魔導書を手にしたメイジ。本当はライフビショップやエンドウィザードになりたかった彼だから、その選択も自然なものかもしれない。現実世界の彼は、ジェシカのハードブレイカー推しの前に屈したのだけれど。
「や、やっぱり危ないんじゃないかな、ジェシカ……」
「あら? 普段は後ろから見てるだけなんだもの、こういう所でくらい私にも前に立たせてよ」
おろおろと言うルイスへと、ジェシカはけろりとして返す。ルイスは困ったように眉を下げた。
「気持ちは分かるんだけど……防御面に不安が……」
ジェシカの装備は機動力に重きを置いた軽装だ。ゲームの中とはいえジェシカが大怪我でもしたらと思うと、ルイスからしてみれば気が気でない。けれど、
「そんなの、やられる前にやればいいのよ」
と、ジェシカはルイスの心配などどこ吹く風で。
「うーん、大丈夫……なのかな。ゲームだし何とかなる、かな……?」
「そうそう、大丈夫よルイス! じゃあ善は急げよね!」
と、早速洞窟へと足を向けようとするジェシカを、ルイス、服を掴んで慌てて引き留める。
「……え、なに? 何で止めるのよ」
「その、ヒントがあるかもしれないし少し村を探索してみない?」
「えー、情報収集とかいるの? 殴ればわかるじゃない」
「でもほら、役に立つ物とかあるかもしれないし……」
「……もう、仕方ないわね」
唇を尖らせながらも村へと引き返すジェシカを見て、ルイスはほっと胸を撫で下ろした。
「うん! 楽勝楽勝!」
村外れの洞窟にて。モンスターの群れを退治して、ジェシカはえへん! とばかりに腰に手を当てる。その後ろで、ルイスは疲れた顔でため息をついた。前衛は任せといて! とどんどん前に出て力押しで敵をねじ伏せようとするジェシカ。そんなジェシカをサポートするのは中々にはらはらする仕事だった。ここまでも何度も役に立っている、村で買い求めた回復用の魔石を手に弄びながら、ルイスはジェシカの勇ましい後姿をそっと見やる。
(やっぱり、準備をしてから洞窟へ来て良かった。ピンチの時のために、余力も残しておかなくっちゃ)
改めてそう思い決めた、その時。地を揺るがすような咆哮が、洞窟の奥から聞こえた。ジェシカが碧の瞳を輝かせる。
「いたわ! ボスよボス! 私たちの実力見せてやりましょう!」
「あ、ま、待ってよジェシカ……!」
足取り軽く声の方へと駆けていくジェシカを、ルイスは急ぎ追いかけた。走りながら、ジェシカが斧を構える。そうして、ゴーレムの姿を目に留めるや否や、
「これ、チャンスじゃない?」
と、動きの鈍い相手が反応する間もなく突撃し――ようとして、その手前で石に躓き思い切りよくすっ転んだ。ゴーレムが敵を叩き潰さんと岩の拳を振り上げる。
「ジェシカ!」
その名を叫び、ルイスは蓄えていた魔力を一気に解放した。眩い光が洞窟を包み、暗闇に生きる魔物を襲う。断末魔さえなしに、ゴーレムはその場に崩れ落ちた。
「ジェシカ、大丈夫?」
「いけると思ったんだけど中々難しいわね……ありがとう、助かったわ」
ジェシカの笑顔を見て安堵の息をつくルイス。見たところ、怪我は転んだ時の擦り傷くらいだ。
「……あのね、ジェシカ」
魔石でジェシカの怪我を癒しながら、ルイスは静かに言った。
「僕は、ずっと僕たちの立場が逆だったらなって思ってたんだ。ほら、気質的にもジェシカが戦ってる方がしっくりくるし……でも、やっぱり今の形でよかったのかも」
「ルイス……?」
「だってジェシカは無茶ばっかりで心配だし、心臓がいくつあっても足りない」
だから、この形で間違ってないんだと思うと晴れた笑みを向ければ、ジェシカはつんとして視線を逸らした。
「何よ人を暴れ馬みたいに……これでも頼りにしてるんだからね」
照れたような呟きに、ルイスはふんわりと笑み零した。
●穿つは愛の力
「オルク美人だな♪」
腰までの髪を下ろし、黒基調の男物の装備に身を包んだクロス。開いた胸元からは抜かりなくサラシが覗き、その姿はまさに凛々しくも美しい男装の麗人だ。オルクスの姿を見やりにやりと笑うその些細な仕草さえ、様になっている。
「クー、キミがオレに似合うのを設定すると言うから任せたら……!! 普通逆じゃないか!? そりゃ前にも女装したことあるが!」
「くくっ、俺に任せたのが運の尽きってことで☆」
至極楽しげなクロスの様子に、オルクス、抗議を諦めて「はぁ……」と疲れたようなため息を零す。今はウォリアーとなっているクロスに対し、オルクスはふんわりとしたシルエットの丈の短いシルバードレスに黒のズボンとブーツを合わせたプリンセス姿だ。
「全く……オレが姫ならクーが騎士か……」
「あ、それいいな!」
オルクスの呟きを捉えて表情を益々明るくしたクロス、その場に跪き、オルクス姫の手を取るやその手の甲に口づけを零す。
「俺が必ずやお守り致します……なんてな」
「……まぁ今回は護られてやるよ、騎士様?」
誓いの言葉に応じて、ニヤと口の端を上げるオルクス。立ち上がったクロスが、村の方を指差して言った。
「先ずは情報収集だな。ほら、行こうぜ姫様?」
促せば、自然と重なる2人の手。仲睦まじく手を繋いで、騎士と姫君は村へと足を踏み入れた。
「食らえ! 風魔衝撃波!」
跳躍したクロスの流れるような居合い。そこから繰り出されるのは、青龍桜紅月剣が放つ衝撃波だ。村外れの洞窟に巣食う雑魚モンスターの群れは、その一撃に成す術もなく屈した。剣を仕舞い、クロスはふぅと息をつき額の汗を拭う。
「騎士様、お疲れさまだ。怪我すんなよ、ヒール!」
戦闘中は十字架を模した杖で敵を殴っていたオルクスが、その杖をかざしてクロスを癒す。淡い光が舞い、連戦でクロスの身体に蓄積されていた疲労をすぅと癒した。オルクスへと屈託のない笑みを向けるクロス。
「サンキュー、オルク」
その時だ。洞窟の奥から、身の毛のよだつような咆哮が一つ、聞こえた。足音が、地を震わせながらこちらへと近づいてくる。やがて2人の前に姿を現したのは、巨大なゴーレムだった。
「此奴がボスか……」
「クー、油断すんなよ?」
「勿論! オルク、サポート任せたぞ!」
「あぁ任せとけ! オレの分まで宜しくな♪」
言って、十字架の杖から光を放つオルクス。
「とりあえず、攻撃防御アップしとくか? パワープロテス!」
クロスの身体に、満ち溢れる力。ふっと笑って、クロスはゴーレムへと真っ直ぐに駆けた。
「それじゃ、いっちょ派手にやりますか!」
ここまで来たら出し惜しみはなしだ。ゴーレムが拳を振るうよりも早く、
「幻夢斬!」
瞬時に敵の背後を取ったクロスの剣が、ゴーレムの背を斬り付ける。効果的な一撃は、しかし、想像以上に敵を猛らせて。無茶苦茶に振るわれた腕が、クロスを強かに打った。
「ぐっ……!」
「クー! くっ、傷を癒せ、キュア!」
呪文を唱えれば、痛みが、抜けるようにクロスの身体から消えていく。しかしまだ立ち上がること叶わずにいるクロス。彼女を無視して、ゴーレムは攻撃の矛先をオルクスへと向けようと一歩踏み出した。その背に、クロスは手元の石を思い切りよく投げつける。
「オルクに手を出すな! 俺が相手だ!」
「クー!」
「言っただろ、必ず守るって!」
クロスは銀の瞳で、再び自分へと向き直るゴーレムを睨みつけ、凛として立ち上がった。先ほど食らった攻撃の効果か頭のくらりとするのを、オルクスのリカバーの魔法が癒す。剣がきらり光った。
「集いし無限の力! 全ての気を凝縮し剣に込めて解き放つ! コレで止めだ……! 俺達の奇跡の絆を受け止めろ! インフィニティレガルジーア!」
風のような斬撃が四方八方からゴーレムを襲う。よろめくその身体に、駄目押しとばかりに振り下ろされる強力な一撃。肩口から叩き斬られて、2人の絆の前にゴーレムは遂に沈んだのだった。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:八神 伊万里 呼び名:伊万里 |
名前:アスカ・ベルウィレッジ 呼び名:アスカ君 |
名前:ジェシカ 呼び名:ジェシカ |
名前:ルイス 呼び名:ルイス |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 巴めろ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 10月28日 |
出発日 | 11月04日 00:00 |
予定納品日 | 11月14日 |
参加者
- リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)
- 日向 悠夜(降矢 弓弦)
- 八神 伊万里(アスカ・ベルウィレッジ)
- クロス(オルクス)
- ジェシカ(ルイス)
会議室
-
2014/11/03-23:50
-
2014/11/03-23:23
-
2014/11/03-23:23
遅くなりましたが改めて、八神伊万里です。
皆さんよろしくお願いします。
私達は、普段と逆の役割のジョブを選んでみようかと思います。
ゲーム、楽しみです。 -
2014/11/03-16:22
挨拶が遅くなってごめんね。
日向 悠夜って言います!
折角の機会だから普段と違う役割で戦闘したいけれど…降矢さんがゲームってだけで緊張しているみたいだからあんまりにも違う職業には挑戦しないかな?
皆の戦闘を楽しみにしているね。
ふふ、めいっぱい楽しもうね! -
2014/11/02-21:05
ジェシカよ。よろしくね!
ゲームとかわくわくするわね。
どんな感じになるのかすっごく楽しみだわ!
-
2014/11/01-19:36
こんばんは。
私はリーリア。よろしくね。
ジョブは、私がウォリアーで、ジャスティがメイジの予定。
どういう技を使おうかしら。
みんながどんなジョブで戦うのかも楽しみ! -
2014/10/31-00:08
-
2014/10/31-00:07