まつ、たけ、うめぇ…(うち マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 ●毎度お馴染みA.R.O.A.事務所

「なぁナカムラ」
「どうかしたっすか? スギバヤシさん」
「秋といえば何だ?」
 気紛れな男性職員スギバヤシの一言はいつも唐突だ。
「秋……? 読書の秋とかそういうのっすか?」
 面倒臭そうにしつつもなんだかんだでノッてくれる新人女性職員ナカムラのノリの良さも大したものである。

「読書の秋も良いがやっぱり秋といえば秋の味覚。食べ物に帰結すると言っても過言ではないだろう?」
「いや、そんなドヤ顔で言われても知らないっすよ」
「では、秋の味覚といえば何だ?」
 ナカムラのツッコミは無視してスギバヤシは話を続ける。
「……秋の味覚、栗とか秋刀魚とかっすかね?」
「うむ、悪くない悪くないが……違うだろ? 秋の味覚って言ったら松茸っ! 松茸だろうが!」
「あ~、そうっすね松茸も良いっすよね」
「で、そのなんだ……折角季節も秋なんだし今度秋の味覚、松茸を食べに行かないか? 具体的に言うと次の休みなんだが」
「えっマジっすか! 良いっすね! 勿論行くっすよ!」
「お、食い付きが良いな。ここの高級料亭に行くつもりなんだけど、どのコースが良い?」
「松竹梅のコースっすか……私が選んでも良いんっすか?」
「付き合って貰うんだし選んでくれ」
「それじゃあ遠慮なく……松コースでお願いします」
 と、キメ顔でナカムラは言ったのだが、スギバヤシは奢るとは一言も言ってない。
 次の休みにナカムラは泣きを見るのだが、それはまた別の話である。

解説

 ●目的
 松茸を食べに行きます。

 ●松コース
 高級松茸御膳 600Jr(二人分)
 松茸ご飯、松茸茶碗蒸し、松茸土瓶蒸し、松茸の天麩羅、松茸入りすき焼きのコースです。

 ●竹コース
 松茸御膳 500Jr(二人分)
 松茸ご飯、松茸のお吸い物、松茸土瓶蒸し、肉じゃがのコースです。

 ●梅コース
 焼き鮭定食 300Jr(二人分)
 松茸ご飯、松茸のお吸い物、焼き鮭のコースです。

ゲームマスターより

 松茸料理食べながらパートナーと会話しましょう。
 反省会をするのも良し、これからの事を話すのも良し、何も考えずに松茸料理貪るのも良しです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

キアラ(アミルカレ・フランチェスコ)

  アドリブ歓迎

▼前提
お金には無頓着
色々苦労かけてる精霊を労う為に外食に誘った
奢る宣言付きで

▼行動

>コース選択
「私も食べるしね、やっぱ折角だし松を」
が、精霊の圧力に負ける
「まぁ元々はアンタの為だしね」

>食事
喋る際は、口に食べ物がない状態で
もしくは手で隠す
御飯粒一粒残らず綺麗に平らげる

▼対アミルカレ
「アンタ細いからさ、なんかちゃんと食べてるか心配になるんだよ」
「節約するのも悪くないけどさ、偶には贅沢してリフレッシュするのも必要だよ」

戦闘に駆り出しているのは、内心少し申し訳なくは思ってる
でも“前の私”と違って“今の私”はオーガを相手に出来る
そう思うと動かずにはいられない

これは、まだ伝えられそうにはない


エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
  心情
親睦を深めるには食事ですね。と、軽い調子でラダさんを誘います。

行動
松コースで茶碗蒸しを堪能。途中、ラダさんの異変に気づきます。
こういった場所で食事をするのに慣れていなかったのですね。
親睦を深めるといっておきながら、ラダさんのことを考えていませんでした。もっとパートナーのことを理解しておく必要がありそうです。そうすれば、戦いの場でも効果的に動けるはずですから。
ラダさんの話に耳を傾けます。得た情報はデータとして頭に記憶しておきます。
さて、ラダさんの照れ笑いは無防備で可愛い! という情報が果たしてこの先の戦いで活かされることはあるのでしょうか。いえ、大事なことです。しっかり記憶しておきましょう。



桜倉 歌菜(月成 羽純)
  いつも一緒に頑張ってくれる羽純くんに美味しい松茸を…!
と張り切ったのですが…
松コースは、私には高額でしたっ

ご、ごめんね
一番お安い梅コースになっちゃって…

羽純くん、優しい…(じーん
そうだね、私も焼き鮭大好き♪

そうだ、羽純くんて、普段どういう食生活を?
(この機会にリサーチです!
へぇ…羽純くん、料理出来るんだ

よかったら、忙しい時はうちのお祖父ちゃんのお弁当屋さんにおいでよ
羽純くんには特別割引しちゃうから
私もお手伝いして作ってるんだよ
今の季節なら山菜おこわと山菜パスタがお勧め!

うん、松茸のお吸い物いい香りだね♪

(今なら言えそう
えっと…今度、羽純くんがシェイカー振っている所、見に行きたいなぁって…駄目?



メイ・フォルツァ(カライス・緑松)
  ハロウィンの次は、秋の味覚!
折角、舌で楽しむんだから、ボリュームある方がいいわよね!

というわけでアタイ達は松コースを注文。
あっ、リョク!ちょっと待って!
この料理、写真で撮っていいか、店の人に聞いてみるから!
で、聞き終わったら今度こそ食べるわよ?

(従業員が近くにいないのを確かめてから、小声で緑松と話す)
でも、こうやって食べられるなんて、アタイら幸せじゃない?
松茸ってさぁ、人の手で栽培出来ないらしいわよ?
だから、ここの松茸のほとんども自然界の賜物かもね!
仮に収穫できても、良い松茸に選ばれるのは難しいのよ?

アタイらが今日この日に感謝できるのは、山の幸のおかげって事!
リョク、お腹壊してでも食べるわよ!




春加賀 渚(レイン・アルカード)
  松が600Jr?お手ごろな値段だね
えっ

……私、梅でいいよ?
本当にいいの?
大丈夫なのなら、私もそれでいいけど
え、奢り?ほ、本当に大丈夫…?

やっぱり秋は食欲の秋だね
美味しいものを目一杯味わえるなんて素敵だよ

天麩羅気に入ったの?じゃあ私のもどうぞ
今お腹一杯でね
残しちゃうくらいならレインさんに食べて欲しいな
ふふ、ありがとう
いっぱい食べてね
レインさんてすごく美味しそうに食べるから見てて楽しいな

ああ美味しかった
あれ、どうしたの?
……う、うん、それは構わないけど
うっかりは誰にでもあるよね
気にしないで

でもレインさん慣れてそうだね…土下座
フォームがとても綺麗だよ

見た目は格好いいのにね
なんだか雰囲気が可愛いよね…



 ●高級料亭

 タブロス市の端にひっそりと佇む老舗の高級料亭『あきは』。
 その季節に合った旬の料理を楽しむ事が出来るこの店では、秋の味覚の松茸料理が噂になり、客が客を呼ぶといった状況になっているようだ。
 そんな噂を聞きつけ、休日に合わせてウィンクルム達もこの店に足を向けたらしい。



 ●メイ、緑松の場合

「ハロウィンの次は、秋の味覚よ秋の味覚!」
「ぁー、分かった分かった、分かったからそう引っ張るなって」
 目をキラキラと輝かせた『メイ・フォルツァ』は『カライス・緑松』を引き連れ、『あきは』の店内に入っていく。

 個室に通され、少しすると着物を着た仲居が水と一緒にお品書を持ってくる。
「折角、舌で楽しむんだから、ボリュームある方がいいわよね! というわけでアタイ達は松コースをお願いしますっ」
 元気一杯夢一杯、純粋に楽しむ事しか考えられない、といった風のメイは仲居に注文をしながら松茸料理に思いを馳せている。
 いつもは口寂しさに咥えている煙草を模した千歳飴も今日ばかりは不要のようだ。
「……ったく見栄張りやがって。お前、このコースの為だけに自分の所持品売っただろ」
 仲居が部屋から出て行くのを見計らって緑松は小声でそう言う。
「んー? じゃあリョクは食べないの?」
「……いえ、食べます」
「んー誠意が感じられないわねぇ」
「ありがたく食べさせていただきます」
 棒読みの緑松ではあったが、その返事で満足したのかメイはまた上機嫌そうな顔に戻った。
「よろしい」

 暫くすると注文通りの松コースが運ばれてくる。
「匂い松茸、味しめじって言葉があったな」
 目前に並べられた料理から香る食欲を刺激する匂いに緑松は生唾を飲み込んだ。
「あっ、リョク! ちょっと待って、食べる前にこの料理の写真撮って良いか店の人に聞いてみるから!」
 仲居に聞いてみると、問題無いそうなのでメイは笑顔で携帯で並べられた料理の写真を撮った。
 そんなメイの様子を微笑ましく見ながら仲居は部屋を後にし、写真を撮り終えたメイと緑松は改めて松茸料理に箸を伸ばす。
 先ずは松茸入りすき焼き、土鍋でぐつぐつと煮られた肉と松茸が得も言われぬ香りを醸し出している。
「んー♪ おいひぃ~」
「美味いな……」
 恍惚としたメイと味を噛み締めるような表情の緑松。
「こうやって美味しい松茸が食べられるなんて、アタイら幸せだよね」
「ふ、お前は本当に悩みがなさそうで良いな」
 返事をしながらも緑松は箸を止めない。
「松茸ってさぁ、人の手で栽培出来ないらしいわよ? だから、ここの松茸のほとんども自然界の賜物かもね! それに仮に収穫できても、良い松茸に選ばれるのは難しいのよ?」
 松茸ご飯を嚥下して、メイは自分の頬が落ちてしまうように顔を綻ばせる。
「松茸の食事自体、舌よりも匂いを楽しむ印象があるからな。あの匂い、人によっては好き嫌いあるらしいが、オレは好きだな。……ところで、大層な松茸薀蓄だったがその高級松茸御膳全部食いきれるのか?」
 最初に見た時から女性が食べるには少し多めだな、と感じていた緑松はぽつりと呟いた。
「アタイらが今日この日に感謝出来るのは山の幸のお陰なのよ、残すなんてありえないわ! 万が一アタイがダメだったとしてもリョクが居るから大丈夫よ」
「万が一ってお前なぁ……オレは予備タンクか何かか?」
「大丈夫よ、身体も大きいリョクなら」
「その自信は何処から!? 身体能力が高い事と胃の容量は比例しねぇぞ、おい!」

 優雅な食事とはいかなかったようだったが、和気藹々とした二人は松茸御膳を存分に堪能出来た筈だ……。



 ●エリー、ラダの場合

「親睦を深めるには同じ釜の飯を食う、つまり一緒に食事に行きましょう」
「ご飯食べに行くの? OK、いくいくー」
 それが前日の『エリー・アッシェン』と『ラダ・ブッチャー』のやりとりである。

 そして次の日、友達と行く感じの軽いノリで了承したラダはエリーに連れて来られた高級料亭『あきは』の前で目を大きく見開いていた。
「ウヒャ!?(えぇっ、ここ、高級料亭!? ボク、外食なんてファミレスぐらいしか行った事ないよぉ。りょ、料理の作法とかあるのかな……?)」
 しかし、エリーはそのまま中に入っていってしまい、ラダも立ち止まっては居られない。
 多少の居心地の悪さを感じながら、ラダは奥の個室へと案内される。
 そこでもあまり慣れない畳の匂いにたじたじのラダだったが、窓の外に見える池の鯉で大分落ち着けたようだ。
 予め、エリーが松コースを予約をしていた為、松コースの高級松茸御膳は直ぐに運ばれてきた。
「(プレッシャーで箸を正しく持つだけでも集中力を使うよぉ)」
 エリーが松茸茶碗蒸しを一口食べて、ほうと息を吐いた所で、腕をプルプルと震わせながら料理に手を付けているラダの様子に気が付いた。
「あっ……ごめんなさいラダさん。こういった場所で食事をするのに慣れていなかったのですね。親睦を深めると言っておきながら、ラダさんの事を考えていませんでした……」
「こ、こっちこそゴメンね。ボクが作法とか知らないから……」
 申し訳無さそうに頭を下げるエリーとラダ。
「ぷっ……ふふ、作法の事なんて気にしてたんですね。誰に見られるでもないですし、自由にして良いんですよ」
 ラダの緊張の原因に思わず吹き出してしまい、釣られて一緒に笑顔になったラダを見ながらエリーはそう言った。
「エヘヘ、そうだったんだぁ……ヒャァ~、無駄に緊張しちゃったよぉ」
 ほっこりとしたラダは照れ笑いをしながらはにかむ。
「次はこんな失敗がないようにしますので、もっとラダさんの事を理解しておく必要がありそうですね。そうすれば、戦いの場でも効果的に動ける筈ですから」
 ニコリと笑顔のエリーにせがまれ、松茸土瓶蒸しをモグモグと咀嚼しながらラダは自分の事をたどたどしく話し始める。
 野生動物がいる地域で育った事、水や食べ物の確保すらも苦労していた事などだ。
 それらの話をエリーは偶に相槌を打ちながら真剣に聞く。
「えーっと、それでね今はタブロスの博物館で働いているよ。学校なんかには行ってないケド、動物達の事なら色々分かるからね」
「成る程。やはり、ちゃんと聞いてみるべきですね。こうやって実際に聞いてみると私はラダさんの事全然知らなかったと実感させられましたから……」
 自分の事を真面目に聞かれ、関心すらし始めるエリーに終始照れ笑いを向けっぱなしのラダはここに来て漸く松茸の味を実感したらしく。
「えへへ……最初は緊張して味が分からなかったけど、じっくりと食べてみるとこの松茸って美味しいんだねぇ」
 ラダは最後の口の中で蕩けるような松茸茶碗蒸しを食べ終わり、そんな感想を口にした。

「(さて、ラダさんの無防備な照れ笑いが可愛い、といった情報がこの先戦いで活かされる事はあるのでしょうか。いえ、私が今感じている充実感から察するにきっとこれは大事な事だった筈です。しっかりと記憶しておきますねラダさん)」
 何はともあれ、十分に交流を深める事が出来たであろうと、エリーは満足気に池の鯉を眺めるラダを見ながらそう思った。



 ●歌菜、羽純の場合

 いつも一緒に頑張ってくれる『月成 羽純』にお礼がしたいと言って『桜倉 歌菜』はここ高級料亭『あきは』に訪れていた。
「と、張り切っていたのですが……松コースは私にはちょっと高額でしたっ!」
 仲居から受け取ったお品書を見て梅コースを頼んだ歌菜は羽純に全力で頭を下げた。
「ん? 一番安いコース?」
「ご、ごめんね。一番お安い梅コースになっちゃって……」
「そんな事気にしなくていいのに……俺は焼き鮭、好きだから嬉しいぞ。それに美味しい松茸が食べれるだけでも十分だって!」
 歌菜のいつもの天真爛漫な笑顔がしゅんとしている事に焦る羽純は話題を変えようとして歌菜に笑顔を向ける。
「私も焼き鮭大好き♪」
 羽純が自分を元気付けようとしてくれた事に気付いた歌菜は羽純の優しさに胸を震わせる。
「そうだ、羽純くんて、普段はどういう食生活を?(この機会にリサーチです!)」
 美味しそうに食べる羽純の様子を眺めながら、歌菜は折角の機会という事で羽純に質問を投げ掛けてみる。
「俺の食生活?(歌菜の知らない所で週2~3は歌菜の祖父の弁当屋に通っているとはなんとなく言い辛いな……それを言ってしまうと以前から歌菜の事を知っていた事を説明しないといけなくなる)」
 思考は一瞬、顔色一つ変えずに羽純は口を開く。
「……まぁ、手の空いた時は料理ぐらいはするぞ。簡単な奴に限るけどな」
「へぇ……羽純くん、料理出来るんだぁ。良かったら、忙しい時はうちのお祖父ちゃんのお弁当屋さんにおいでよ。羽純くんには特別割引しちゃうからっ!」
「弁当屋かぁ」
 さも初めて聞いたかのように答える羽純に不審な点は見つけられない。
「私も偶にお手伝いして作ってるんだよ!」
「……何かお薦めとかはあるのか?」
「うん。今の季節なら山菜おこわと山菜パスタがお薦めだよ!」
「ふぅん……(山菜おこわと山菜パスタか、それはもう食べたな。でもそうか、料理も手伝ってたのか……)」

 間もなくして梅コース、焼き鮭定食が運び込まれてくる。
 松茸ご飯と松茸お吸い物から香る良い匂いに歌菜も羽純も恍惚とした表情だ。
「良い香りだな」
 ぱん、と手を合わせて羽純は松茸ご飯に箸を伸ばす。
「うん、松茸の良い香りだねっ」
 ぱくりと一口、芳醇な香りが口の中で広がり、もちもちとしたご飯を何倍にも美味しく感じさせてくれる。
「んまい」
「美味しい……」
 松茸の旨味を程良く取り込んだ炊き込みご飯ならではの味に羽純も歌菜も箸が止まらなくなる。
「(今なら言えそうかな……)えっと……今度ね、羽純くんがシェイカー振ってる所、見に行きたいなぁ」
 話の弾みで歌菜は言ってみる。
「それって、カクテルバーに入ってみたいって事か?」
「う、うん……駄目?」
「……未成年は駄目だな。だけど……まぁ、母さんが歌菜を連れて来いって五月蝿いからな。開店前なら、いいぞ」
 歌菜は駄目という言葉で肩を落としたが、最終的にはOKが出た為、ぱぁっと華が咲くように笑う。
「う……」
 不意打ちでそんな笑みを向けられ、少し顔を紅潮させる羽純だったが、歌菜の方も一杯一杯のようで貴重な羽純の照れ顔を見逃した事すら気付いていないらしい。

 そんな感じで焼き鮭定食を食べ終えた歌菜と羽純は満腹感を味わいながらも次のイベント(歌菜のカクテルバー訪問)に想いを寄せているようだった。



 ●渚、レインの場合

 次の来店者は和服美人の『春加賀 渚』と売れない俳優『レイン・アルカード』だ。
 仕事仲間から評判の店『あきは』の事を聞いたらしいレインに連れられて来たのだが、高級料亭だとは知らなかったようで店前で少しだけ顔面を引き攣らせた。
「(あ、あれ……? 場所〈店〉は間違ってない、よな……?)」
「くすっ、何してるのレインさん。早く入ろう? 店、ここなんでしょ?」
「お、おう……そうだ、けど……」
 完全に店の雰囲気に呑まれているレインだったが、咄嗟に強がってしまい渚に言われるがままに店の中へ。

 通された個室の雰囲気に内心ビビりながらも、平然としている渚の前では決してそれを見せないように振る舞うレイン。
 しかし、仲居からお品書を受け取り、目を通した時にボロが出てしまった。
「松が600Jr? やっぱ高っけーなぁ……」
 と、レイン。
「松が600Jr? お手頃な値段だね」
 と、渚。
「えっ?」
「えっ?」
 ここにきて認識の違いというか、見栄を張った小市民とお嬢様という育ちの違いが如実に出てしまった。
「え、あっ、そ、そうだな。お手頃だなっ! じゃあ松コースにするか」
 ここまできたら後には退けないのが男の意地、貫き通すしか無いのである。
「……私、梅でいいよ? 本当に良いの?」
「だ、大丈夫だって!」
「大丈夫なのなら、私もそれで良いけど」
「なんなら俺の奢りだって問題ないぜ?」
 顔色を一瞬で戻しつつ、髪をかき上げる仕草は流石に俳優、手慣れたものである。
「え、奢り? ほ、本当に大丈夫……?」
 逆に不安になったが、レインを信じて松コースを注文した。

 程なくして松コースが運ばれてくる。
 色とりどりというか、松茸一色な高級松茸御膳を目の前にレインは頭の中で残金を計算する。
「(勢いで奢るとか言っちゃったけど、大丈夫だよな。確か昨日は……)」
 レインは内心凹みつつ、目の前に並べられた松茸御膳から漂う香りに生唾を飲み込みながら訝しげに眺める。
「それじゃあいただきます」
「いただきます」
 手を合わせ、箸を伸ばす。
 パク。
「……まあ、悪くないな(なにこれ美味ぇ!? 特にこれ、松茸の天麩羅! 絶品じゃね!)」
「やっぱり秋といったら食欲の秋だね。美味しいものを目一杯味わえるなんて素敵だよ」
 素直に美味しいと言えず、飽くまでも格好付けるレインと普通に味わう渚。
「ふふ、天麩羅気に入ったの? じゃあ私のもどうぞ、今は減量中でね油物は控えてるから、残しちゃうくらいならレインさんに食べて欲しいな」
「し、仕方ないなぁ」
 渚から譲られた事に気が付けず、言葉ではこう言いながらも内心では嬉しくて自然と表情が綻んでいる。
「ふふ、ありがとう。一杯食べてね。レインさんて凄く美味しそうに食べるから見てて楽しいな」
「これでも俳優だからな。見る人にも美味しさが分かるように出来て当たり前なんだよ」
 と、それらしいことを言ってみる。

 そんなこんなで食事は終了、二人は十分な満腹感を味わいつつお会計へ。
「あぁ、美味しかった。あれ、レインさんどうしたの?」
 渚は何やら様子のおかしいレインに聞いてみる。
「……あれ、あれ? 財布が……ない!?」
 レインはポケットや鞄を慌てて探し、個室に戻ったりしたがないものはない。
 恐らく家に忘れたのだろう。
「(これは、あれしかないな……)ごめんなさい、財布忘れましたっ! お金立て替えて下さい!」
 レインの流れるような動作で土下座である。
「ぷっふふっ……う、うん、それは構わないけど。うっかりは誰にでもあるよね、気にしないで」
 思わず吹き出してしまいながらも渚は懐から財布を出す。
「くっ、気遣いが逆に心に刺さるぅ……」

「でもレインさん慣れてそうだね、土下座。フォームがとても綺麗だったよ」
 無事、店を出て渚は思い出し笑い、レインは恥ずかしさで目を逸らす。
「(見た目は格好良いのにね、なんだか雰囲気が可愛いよね)」
 レインの認識を改めなければ、と渚は内心で思いつつ帰路についた。



 ●キアラ、アミルカレの場合

「奢ると言われて着いて来てみれば何だここは!?」
 高級料亭『あきは』の門前、『アミルカレ・フランチェスコ』はしれっと入店しようとする『キアラ』の肩を掴んだ。
「ん? 最近話題になってるっていう料亭だよ。なんでも松茸料理が絶品なのだそうだ。それとも松茸は苦手だったかい?」
「いや、苦手ではないが……」
「ならこんな所で立ち往生してないでさっさと入るよ」
 キアラはそう言ってやや強引にアミルカレを引っ張って入店する。

 個室でお品書に目を通して。
「私も食べるしね、やっぱ折角だし松を―――」
 と、キアラの言葉を遮るようにアミルカレの視線がキアラに突き刺さる。
「梅、一択だ」
 アミルカレは言葉にはしなかったが、無駄遣いは抑えろと言っているだろうが、と視線で訴えかけてくる。
「…………まぁ元々はアンタの為だしね」
 と、あっさりとキアラが折れる。

 梅コースの焼き鮭定食はすぐに運ばれてきた。
 ほかほかの松茸ご飯、松茸の香り漂うお吸い物、程よい塩の香りが食欲を刺激する焼き鮭にお新香が少々。
「いただきます」
「いただきます」
 美形な二人が手を合わせるだけでこうも絵になるのか、部屋を出ようとした仲居が一瞬見惚れてしまったらしい。
 静かに一口。
「ん、美味しい」
「確かに美味いな」
 香り良し、味良し、と文句の出ようがない。
「……それで、今日はなんでこんな所に? 休日だということを知った途端の誘いだったじゃないか」
 不意にアミルカレは予てからの疑問を問い掛ける。
「いや、アンタ細いからさ、なんかちゃんと食べてるのか心配になるんだよね」
 昔からしっかりした方だったので、あまり心配される、という事が無かったアミルカレはその答えに少し驚いた。
「む、食が細いのは元々だ……一応、三食きちんと食べては居るんだがな」
 それに肉が付き難い体質なのだろう、と付け加える。
「節約するのも悪くないけどさ、偶には贅沢してリフレッシュするのも必要だよ」
「……偶に、奢りでなら考えない事もない」
 ぽつり、と呟くように返すアミルカレ。
「ふふ、アンタは何処まで行っても節約家だねぇ」
 アミルカレのらしい返事にキアラは笑みを向けた。

 戦闘に駆り出している事に対して内心申し訳なく思っているキアラはその事はまだ言えないが、感謝の気持ちだけでもアミルカレに受け取ってもらえただろうか。
 しかし、それを聞くのはあまりにも無粋。
 今はゆっくりと流れるこの幸せな時間を大事にしようとキアラは考えながら静かに焼き鮭を口に運んだ。

 二人はご飯粒一つ残さず、綺麗に焼き鮭定食を平らげた。
 満足そうなキアラを見ながら、アミルカレはほんの少しだけふわりとした笑みを零した。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター うち
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月25日
出発日 10月30日 00:00
予定納品日 11月09日

参加者

会議室

  • [10]キアラ

    2014/10/29-23:48 

    こちらも完了だ。
    皆楽しめるよう祈ってるよ。

  • [9]メイ・フォルツァ

    2014/10/29-23:37 

    明日で出発ね。
    アタイもプラン出したから、よろしくね。

  • [8]桜倉 歌菜

    2014/10/29-22:16 

  • [7]桜倉 歌菜

    2014/10/29-22:16 

  • [6]メイ・フォルツァ

    2014/10/29-18:49 

    桜倉さん、百二十三夜の時はお疲れ様。
    他の人達は初めましてね。私はメイ・フォルツァっていいます。
    遅くなっちゃったけど、よろしくね!

    松茸は秋の味覚だし、きっと今が旬よね!
    本当は食べるだけじゃ物足りないんだけど、たまにはゆっくり食事してみるわ。

  • [5]春加賀 渚

    2014/10/29-02:21 

    初めまして、春加賀 渚と申します。
    よろしくお願いしますね。

    ふふ、松茸楽しみ。
    コースはレインさんと相談して決めてみようと思います。

  • [4]エリー・アッシェン

    2014/10/29-00:28 

    エリー・アッシェンと申します。
    はじめてお会いする方も、また会えた方も、ごいっしょできてうれしいです。

    私の好きな茶碗蒸しがついてくるのは、一番高いコースだけなんですね。
    ふむ……。(財布の中のジェールを数えつつ

  • [3]キアラ

    2014/10/28-22:17 

    キアラ:
    どうも、私は全員初めましてだね。
    私はキアラっつーもんで、精霊はマキナのアミルカレ。
    共々ヨロシク。
    さて、私達はどうするかな……折角だし豪華に松……。

    アミルカレ:
    梅。

    キアラ:
    え、いや、せっかくだからさ……。

    アミルカレ:
    梅。(謎の圧力オーラ)

    キアラ:
    ……私達も梅だね、うん。

  • [2]桜倉 歌菜

    2014/10/28-21:35 

    桜倉 歌菜と申します。

    エリーさんとラダさん、メイさんと緑松さんは先日振りですっ
    キアラさんとアミルカレさん、渚さんとレインさんは初めまして♪

    松茸って美味しいですよね!
    ここは私の奢りで、羽純くんへご馳走!
    と思ったのですが、先日ちょっと散財した(武器買った)せいで懐に冷風が…!

    梅コースを注文して、美味しくのんびり過ごしたいなって思ってます。
    皆さん、宜しくお願いいたします!

  • [1]桜倉 歌菜

    2014/10/28-21:34 


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