【ハロウィン・トリート】貴方とトリック(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「トリック・オア・トリート!」
 タブロス市は今日もハロウィン一色。
 そんな街角で、一人の小さな魔女が、道行く人々へ声を掛けていました。

「不思議な飴は如何ですか?」
 魔女の持つ籠の中には、色とりどりの飴が詰まっています。
 魔女はその飴を配っていました。
 偶々通りがかった貴方にも、魔女は声を掛けます。
「食べると、きっと良い事が起きますよ」
 貴方は、彼女に差し出されるまま、飴を受け取りました。
 本当に何となく。
 ポケットに、または鞄に飴を入れて、貴方は先を急ぎます。
 今日は、パートナーとハロウィングッズの買い出しに向かう約束でした。

 ピンポーン。
 呼び鈴を鳴らすと、パートナーが顔を出します。
 まだ用意が出来ていないからと、貴方はパートナーの部屋へ上がる事になりました。

 通された部屋でパートナーを待つ間、貴方はふと受け取った飴の事を思い出します。
 そう言えば、少し小腹が空いたような、喉が渇いたような。
 飴を食べよう。
 深く考えず、貴方は包装紙を解いて、飴を口に入れます。
 次の瞬間に起こる事は、まるで予想出来ませんでした。

 あれ? 急に景色が変わった?
 貴方は思わず瞳を擦ります。

「小さくなっちゃった!?」

「猫になっちゃった!?」

「透明に……なってる!?」

 さて、貴方はどうなったのでしょうか?

解説

不思議な飴のせいで、困った事になってしまうエピソードです。

困った事になるのは、神人さん、精霊さん、どちらでも構いません。
飴の効果は以下三種類。お好きな効果を選んで、プランへ明記お願いいたします。

1.小さくなっちゃった!
洋服毎、親指くらいのサイズとなります。

2.猫になっちゃった!
猫になります。猫の種類や毛色、大きさに拘りのある方は、プランに明記してください。
にゃーとしか喋れなくなります。

3.透明になっちゃった!
透明になります。但し、服はそのままです。
服を脱げば、完璧です。

プロローグでは、パートナーの部屋で発生しておりますが、必ずしも同じシチュエーションでなくても問題ございません。
『何時・何所で・どのように』困った事になるのか、プランに記載をお願いします。
記載がない場合は、パートナーの部屋で発生したと解釈させていただきます。

また、困ったことになった後、どのような行動をするかも明記願います。

例1:このままパートナーの部屋をガサ入れする。
例2:服だけ浮いてて面白い! パートナーを驚かす。
例3:大変だ! 即パートナーに相談する。

不思議な飴の効果は、約1時間。
前触れなく、突然元に戻ります。
万一、透明になって服を脱いでいたら……大変な事になりますので、ご注意ください。

なお、描写はございませんが、ハロウィンの買い物費用として、パートナーと併せて「200Jr」一律出費となります。
あらかじめご了承ください。

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『100均のハロウィングッズを見るのが大好き!』雪花菜 凛(きらず りん)です。

ラブコメエピソードです。(多分)
雪花菜はラブコメ大好きです! 大好きです!

是非お気軽にご参加頂けたらと思います。

皆様の素敵なアクションをお待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

空朱音(鴇色 灯火)

  効果:猫になる
猫:アルビノ猫
場所:精霊の部屋で待ち合わせ←きっと縁側とかなんです

はろうぃん…村で無かったから、楽しみ
主様と、おでかけ…(飴をころころしながら

あれ?なんか違う景色になっちゃったなぁ…
お部屋が大きい…???

あ、主様!
あれ?私の手ににくきゅー?耳?
どうしよう…猫になっちゃった?

主様…!
私だよ…アキだよ!
う…な、撫でて貰うのは嬉しいけど
嬉しいけど…今は…気づいて欲しいけど
で、でも撫でて貰えるのは嬉しい…です(すり寄り
今の私は…猫だから少しくらいいいよね?
今日は主様の御膝でお昼寝…(すやぁ

!?(体が戻ってるのに気づいて真っ赤になって起き上がる
ち、違うの主様!これは…(涙目で支離滅裂で説得



水田 茉莉花(八月一日 智)
  ほづみさん、買い出ししたパンプキンパイの材料置いたわよ…って、何してるの?

もう意地汚い!
パンプキンパイの味見とか出来なくなるで…
あれ?バカチビどこ行ったのかしら…って、いた
…ほづみさん、更にちっちゃくなっちゃって…(ほろり)
あー、ハイハイ分かりました!

へー、冷凍パイシートで作ると結構楽なのね
…ところでほづみさん、あんまり困った感じがしないように思えるのは気のせいかしら?
むしろなんだか楽しそうで…

あー…とっても解りやすい理由だわね(呆れ顔)
って、言ってる側からマグカップで溺れて…大丈夫?
(コーヒーのカップを置いて助ける)

元に戻ったわね、良かったじゃないほづみさん
…ん?なんか言った?(拳バキバキ)


出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
  サプライズでハロウィンパーティーに来ちゃった
仮装と飾りも持参
レム、Trick or Treat!
…あら、用意がいいのね、ちょっと残念だけどいただきます

猫に変身
種類はロシアンブルー

にゃっ!(何これ!?)
にゃーん…(レム、何だかそわそわしてる?)

レムについていき足の上で香箱を作る
ふにゃーん…(これからどうしよう)
もしこのまま元に戻らなかったら、レムには新しいパートナーが必要
成り行きで契約したあたしなんかよりもっとふさわしい人がいるはず
って、ご満悦じゃないレム?
元は人間の女だってこと意識から抜けてるでしょ

元に戻ったら足から退いて、気を取り直してハロウィンの準備
今は一人暮らしなんだから猫飼えばいいのに



菫 離々(蓮)
  効果1(精霊)

同居中のハチさんと買い物の約束を。
ついでに図書館へ寄っても構いませんか?
返却期限の近い本があって……と一旦自室へ引き取って
リビングに戻ると、他の部屋にもどこにもハチさんが居ません。
靴はありますね、と室内を歩き回っていたら

ナニカ
踏んでしまいました

えっこの感触なんでしょう、と足を退かすと
ハチさん(小)?!
ごめんなさいと謝りつつ、どうしてこんなことに?
知らない人から貰ったお菓子は食べてはいけませんよ

一通りハチさんがお人形でないことを確かめたら
ネットに情報がないか探してみます
このままの姿では困りますし

また踏まないようハチさんを膝に乗せての作業
きゅ、急に大き……きゃあ!(反射的に平手打ち)


アメリア・ジョーンズ(ユークレース)
  場所:アメリアの部屋

ちょっとユーク!買い出しに時間掛けすぎ!
なになに?ハロウィン期間だから買いたい物がいっぱいあって困りました?
なに幼稚なこと言って…なによこの飴…え?くれるの?
な、なによ…ご機嫌取りなんて…怪しすぎるんだけど…。
まぁ、もったいないし、食べてあげるわよ。

って、なによこれ!なんであたしちっちゃくなってるの!?
えっ?それだけ小さいなら、手品の材料になったり、持ち運び便利ですね?
ふざけないでよ!とりあえず、冷蔵庫から炭酸ジュース取って!
なんで?飲めば元に戻るかもしれないでしょ?
むせるからやめた方がいい?冗談!いいからよこしなさい!

時間経てば元に戻るなんて…聞いてない…。

※アドリブOK


●1.

 空朱音は縁側に一人腰を掛けて、パートナーが来るのを待っていた。
 日差しに瞳を細めながら、ここに来る前に貰った飴を取り出す。
 星マークの付いた可愛らしい包装を解くと、紅い飴。
 空朱音はそれを口へ放り込んだ。
 甘い、何所か懐かしい味が口いっぱいに広がる。
 今日、主様と買いに行く『はろうぃん』のお菓子も、こんな風に甘くて美味しいのだろうか。
 飴を舌先で転がしながら想像する。
「はろうぃん……村ではなかったから、楽しみ。主様と、おでかけ」
 彼と二人で出掛けられる。それだけで、空朱音の胸はポカポカと暖かい気持ちになるのだ。
「……あれ?」
 不意に違和感を感じて首を傾ける。
「なんか違う景色になっちゃったなぁ……」
 きょろきょろと辺りを見渡して、更に?マークが浮かんだ。
「お部屋が大きい……???」
 そこへ廊下を歩いてくる足音が聞こえて、空朱音は振り返る。
 この足音は主様だ!
「主様!」
 私はここだよ。
 そう手を上げた……つもりだった。
「あれ? 私の手ににくきゅー?」
 視界に入った自分の手の筈のモノには、ピンクのふにふにした肉球が付いている。
「あれ?」
 目を擦ろうとして伸ばした手は、上手く方向感覚を掴めずに頭へと触れた。
「耳?」
 頭を撫でれば、獣の耳のようなものに当たる。擽ったい。
「……!」
 ガラス戸に映った瞳と目が合って、空朱音は目を見開く。
 そこに映っていたのは……紛れも無く、猫。
「どうしよう……猫になっちゃった?」

 鴇色 灯火は、急ぎ足に廊下を歩いていた。
(……少し用があって席を外していた内に、アキが来ていたようだな)
 玄関の彼女の靴が、その来訪を語っている。
「アキ?」
 いつも通り、庭に面した陽当たりの良い縁側に居ると思ったのに誰も居ない。
 居たのは……。
「これは……」
 一匹の猫。
 その瞳によく知っている面影を見て、灯火は思案するように顎に手をやった。
「にゃーにゃー!(主様……! 私だよ……アキだよ!)」
 空朱音は必死に彼に呼び掛けるのだが、にゃーとしか音を紡げない。
「どこから迷い込んだのだろうな」
 彼女に歩み寄ると、灯火は柔らかいその耳に触れて……ふわりと撫でた。
「にゃにゃっ!?」
 驚きと心地よさに身体が跳ねる。
「ん? 何か言いたいのか?」
 優しい灯火の手が、空朱音の頭を撫でている。
「にゃ(う……な、撫でて貰うのは嬉しいけど)」
「良い毛並みだ」
 よしよし。
「にゃ~(嬉しいけど……今は……気付いて欲しいけど)」
「どうした?」
 なでなで。
「にゃー!(で、でも撫でて貰えるのは嬉しい……です)」
 気付けば空朱音は、自ら灯火に身をすり寄せていた。
「にゃー♪(今の私は……猫だから少しくらいいいよね?)」
 灯火に触れて貰えるのが、甘やかして貰えるのが、とても嬉しくて心地よくて……何度も喉を鳴らして彼に甘える。
 そんな彼女を灯火はひょいと抱き抱えて、縁側に腰を下ろすと膝の上に乗せた。
「にゃにゃ♪(主様の御膝)」
 暖かくて安心出来る。日差しの心地よさも相まって瞼が重くなるのを感じる。
「にゃー……」
 寝息を立て始めた背中を撫でながら、灯火は口元を緩ませた。
「ハロウィンとは仮装するものだと思っていたが……どうやら化かし合いの類だったようだな」
 空朱音を灯火が見間違える訳もなく。
「普段もこのくらい甘えてくれればこちらも張り合いがあるというもの」
 喉を撫でると、彼女は幸せそうに髭を揺らす。
「これで名前を呼んでくれれば一番なんだがな」
 幸せそうな寝顔にこちらも眠気を誘われた。
 買い物は後でも良い。
 灯火は心地よい微睡みに身を任せる事とした。


 どれくらい時が経ったのだろう。
 違和感を感じて空朱音は瞳を開き、そして──。
「!?」
 真っ赤になって飛び起きた。元に戻ってる!
「ち、違うの主様! これは……」
 思わず涙目になって事態を説明しようとする彼女の頭に、ぽふっと灯火の手が乗った。
「御目覚めか、アキ」
 優しい微笑み。
「気持ち良く昼寝が出来たな。そろそろ出掛けるとするか」
「……はい、主様!」

 買い物に二人で出掛けた、その帰り。空朱音の頭には可愛らしい猫耳カチューシャが揺れていたとか。


●2.

 ユークレースは、受け取ってしまった飴を眺めた。
 ハートマークが付いた可愛らしい包装紙。
 知らない人から貰った物なんて、怪しすぎて食べたくない。
「そうだ、エイミーさんにあげちゃいましょう!」
 パートナーの顔を思い浮かべ、ユークレースは頷いた。
 彼女の機嫌だって取れるかもしれない。
 両手いっぱいに持った荷物を抱え直して、ユークレースは家路を急いだ。


「只今戻りました」
「遅い!」
 扉を開くと、腰に手を当てたアメリア・ジョーンズが仁王立ちでユークレースを睨んでいた。
「ちょっとユーク! 買い出しに時間掛けすぎ!」
「そうですか?」
 ユークレースは笑顔で彼女の脇を通り抜けると、テーブルに荷物を置く。
「時計見なさいよ!」
 アメリアが壁時計を指差すが、ユークレースは何所吹く風で、袋から野菜やら洗剤やらを取り出し、冷蔵庫やら棚やらに収めていく。
「話聞いてるの!?」
「ハロウィン期間だから買いたい物がいっぱいあって困りました」
 だからあっという間に時間が経ったのかもと、彼はにこやかに言った。
「なに幼稚なこと言って……」
 すっとアメリアの前に、可愛らしい包装紙に包まれた飴が差し出される。
「なによこの飴……」
「お土産です」
「え? くれるの?」
「ええ」
「な、なによ……ご機嫌取りなんて……怪しすぎるんだけど」
「ハロウィンですし」
「まぁ、もったいないし、食べてあげるわよ」
 アメリアは飴を受け取ると包装紙を解いた。桃色の飴だ。
 口の中に入れると、不思議と懐かしい甘い味がした。
「なかなか美味しいじゃない」
 感想を述べユークレースを見遣った瞬間、アメリアは異変に気付いた。
 目の前に大きな柱がある。
 この部屋にこんな柱あった?
 ぐるっと周囲を見渡し、彼女は理解した。
 周囲が大きくなってる……いや、
「なによこれ! なんであたしちっちゃくなってるの!?」
「エイミーさん、随分可愛らしい姿になって……」
「ユーク! どういう事よッ」
 びしっと指差してくるアメリアをしゃがみ込んで見つめて、ユークレースは首を傾ける。
「不思議な事が起こりましたね」
「ふっざけないで! ユークが買ってきた飴でしょ!」
「僕にも何が何だか」
 口が裂けても道端で貰った飴とは言わない方が良い。
「けど、今のエイミーさんなら、手品にも使えますし、持ち運び便利ですね!」
 心底楽しそうな彼の笑顔に、アメリアは拳を握ってワナワナと震えた。
「とりあえず、冷蔵庫から炭酸ジュース取って!」
「どうして?」
「飲めば元に戻るかもしれないでしょ?」
 ユークレースは嫌そうな顔をする。
「咽るから止めた方がいいですよ」
「冗談! いいからよこしなさい!」
「どうなっても知りませんからね」
 渋々ユークレースは冷蔵庫からサイダーの瓶を取り出し、小皿に注いだ。
「小さい動物に餌をあげてるみたいです」
「誰がペットよ!」
 アメリアは彼を睨むと、小皿の縁に掴まって身を乗り出す。
「きゃ……!」
 しかし瞬間、パチッと炭酸が弾け、その飛沫でアメリアの上半身はグッショリと濡れてしまった。
「ベトベトするッ」
「でしょうね」
「ちょ……見るなッ!」
 透けた胸元を隠しながらアメリアは叫ぶ。
「取り敢えず、拭いた方が良いですよ」
 ユークレースはタオルを取り出すと、アメリアを包んだ。
「やっ、変なとこ触らないで!」
「こんだけ小さいと、どこ触ってるかなんて分かりませんよ」
「もっと優しくしなさいよ!」
「加減が難しいですね」

 それから、ユークレースは実に楽しそうにアメリアの世話を焼き、アメリアは元に戻るための方法を必死で考え実行したのだが……。
「時間経てば元に戻るなんて……聞いてない……」
 元に戻ったアメリアは、肩で息をしながら壁に手を付いた。
「良かったですね、戻れて♪」
 ユークレースの手がアメリアの頭を撫でた瞬間、ブチッと彼女の中で何かが切れる音がした。
「全部ユークのせいでしょ!!」
 全力で振り抜かれた右ストレートが、見事ユークレースを吹き飛ばしたのだった。


●3.

 テーブルの上に、南瓜、バターや砂糖、生クリームにシナモンパウダー等が並べられた。
「ほづみさん、買い出ししたパンプキンパイの材料置いたわよ」
 水田 茉莉花はパートナーを振り返り、首を傾ける。
「何してるの?」
「んー? さっき貰った変なあめ玉食ってる」
 八月一日 智は、リスのように頬を膨らませそう答えた。
「もう意地汚い!」
 茉莉花は信じられないと息を吐き出した。
「パイの味見とか出来なくなるで……」
 続けて説教しようとした言葉が止まる。
「ほづみさん?」
 彼の姿が忽然と消えていた。
「んー?」
 急に茉莉花の声が反響するように聞こえて、智は瞬きする。
 景色が変わった。
 キョロキョロ周囲を見渡し、智は目を見開いた。
「げーっ! おれちっちゃくなってる?」
 大きさで言えば、人の親指程。
「どうしよ、パイ作れねぇ」
 卵を割る事は何とか出来ても、材料を混ぜたりとかは到底出来そうにない。
「バカチビどこ行ったのかしら……」
 茉莉花の声が聞こえ、智は顔を上げた。
「みずたまりーみずたまりー」
 精一杯手を伸ばして存在を主張すれば、彼女が視界に彼を捉え、一時停止する。
「おれちっちゃくなってるから、みずたまりがおれの代わりにパイ作ってくれねぇか?」
 両手を合わせて頼めば、茉莉花は目尻に指を当てて涙を拭う仕草をした。
「……ほづみさん、更にちっちゃくなっちゃって……」
「ふざけんのもいい加減にしろー! おれは改造して大きくなる身だ!」
 智はぴょんぴょん跳ね両手を振り回す。
 不覚にも可愛い等と思ってしまい、茉莉花は口元に浮かぶ笑みを手で隠した。
「まずは買ってきたパイシートをとかせっつーねん!」
「あー、ハイハイ分かりました!」
 茉莉花は頷くと、早速腕まくりをしてから言われるまま調理を開始する。
「解凍したパイシートをパイ皿に敷く!」
「これでいい?」
「南瓜はレンジで加熱して、柔らかくなったらザルでこすんだぞ!」
「ハイハイ」
 智の指示は分かりやすくて、茉莉花は大して苦労もせずオーブンへパイ皿を投入する事が出来た。
「うし、これでパイは完成だな!」
「冷凍パイシートで作ると結構楽なのね」
 素直に感心しながら、茉莉花はお茶の準備に掛かる事にする。
「……ところでほづみさん」
 紅茶の茶葉がポットの中でジャンピングするのを確認しながら、疑問に思った事を彼に問い掛けた。
「あんまり困った感じがしないように思えるのは気のせいかしら?」
 テーブルの上で寛いでいる智を見る。
「むしろなんだか楽しそうで……」
「イヤぁ、おれ気づいちゃったのよ!」
 智は満面の笑顔でVサインをした。
「ちっちゃいままなら……出来上がったパンプキンパイをたらふく食えるって事実にな!」
「あー……とっても解りやすい理由だわね」
 茉莉花は『呆れました』と書いている表情で、カップに紅茶を注ぐ。
 ミルクを入れ飲みやすいよう少し冷ましてから、カップを彼の前に置いた。
「さんきゅー! ミルクティーもがぶがぶ飲め……どわーっ!」
「言ってる側からマグカップで溺れて……大丈夫?」
 茉莉花はコーヒーのカップを置いて彼を助ける。
「しぬかと思った!」
「助けないと死んでたわね」
 タオルで濡れた智の身体を拭いてやる。
「もっとやさしく!」
「加減が難しいのよ」
 そんな遣り取りをしていると、オーブンが出来上がりを告げた。
「さあ……焼けたのだ! 喰うぞ!」
 出来たてのパイに智の瞳が輝く。
「いーただー……あれ?」
 先程まで夢のような大きさだったパイが、普通の大きさに見える。
「……背が元に戻って……戻って……もど……」
 智はテーブルの上に正座状態で、元の大きさに戻っていた。
「元に戻ったわね。良かったじゃない、ほづみさん」
 茉莉花がにっこりと微笑む。
「良くないわー!」
 智は吠えた。
「こんなにすぐ戻ると知ってりゃ、みずたまりの胸の谷間に潜ってどんだけあるか見……」
 どす黒いオーラを感じて、智は言葉を止める。
「……ん? なんか言った?」
 拳を鳴らす茉莉花に、智は首を振ったのだった。


●4.

 ドアを開けるとハロウィンだった。
 宿舎自室のドアノブを持ったまま、レムレース・エーヴィヒカイトは目を見開く。
「レム、Trick or Treat!」
 艶やかな黒髪を揺らして、出石 香奈が彼に手を差し伸べる。
 ハロウィンの魔女の仮装をした彼女は、普段とは違う妖艶さで微笑んでいた。
 悪戯か、お菓子か──レムレースは、先程外出した際に貰った飴の事を思い出す。
「ハッピーハロウィン」
 ポケットから取り出した飴を彼女に差し出せば、大きく瞬きした。
「……あら、用意がいいのね」
 意外そうに言って、香奈は彼から飴を受け取る。
「ちょっと残念だけどいただきます」
 星マークの付いた包装紙を開けば、紅い飴が出てきた。
 口に入れると、懐かしさを感じる甘い味が溶ける。
 感想を言おうとして、彼女は異変を感じた。
 目の前にはレムレースの足。
 私、転んだのかしら?
 慌てて起き上がろうとして、彼女は気付いた。
「にゃっ!(何これ!?)」
 視界に、グレーの被毛に包まれた足。
「か、香奈……か?」
 驚いたようなレムレースの声に顔を上げる。
「にゃーん!(どうなってるの、レム!)」
「まさかあの飴が……」
 レムレースは眉間に皺を寄せ、香奈を見下ろした。
「香奈、取り敢えず中へ」
「にゃっ(わかったわ)」
 レムレースに促されるまま、香奈は彼の部屋に入る。
 彼女の荷物を持った彼に付いて行きながら、香奈は廊下にある鏡を見た。
 グレーの短毛、エメラルドグリーンの瞳。ほっそりとした優美な体つきの猫が居た。

「香奈、すまない」
 レムレースは言うなり、深々と頭を下げる。
「あの飴は、今日街頭で配っていたのを貰った物なんだ。こんな事になるとは……」
 俺が軽率だったと、彼は何度も頭を下げた。
「にゃーにゃにゃー!(レムが謝る事はないわ。誰も予想できないわよ)」
 そんなに謝らないでと鳴いていると、レムレースは香奈の傍らに胡座をかいて座り、その頭を撫でる。
「にゃーん」
 撫でる手が気持ち良くて、香奈は彼に擦り寄ると膝の上に乗った。
 香箱を作る香奈を、彼は追い出す事はしなかった。大きな手が彼女の背中を撫で始める。
「しかしどうするか……」
「ふにゃーん……(これからどうしよう)」
(もしこのまま元に戻らなかったら、レムには新しいパートナーが必要よね)
 猫のまま戦えるとは到底思えない。それに。
(成り行きで契約したあたしなんかより、もっとふさわしい人がいる筈)
 ずっと考えていた。自分は彼に相応しい神人なのかと。
(レムに新しいパートナーを迎えさせるため、こんな事になったのかも)
 どんどん沈んでいく思考を止められない。
 不安で押し潰されそうになった時、
「猫になった神人とはトランスできるのだろうか」
 レムレースの声に、香奈は驚いて顔を上げた。
「いや、できずともお前を見捨てるようなことはしない」
 彼はきっぱり言い切ると、香奈の頭をぽふぽふと撫でる。
「にゃー……(……バカ)」
 本当に、優しい人。
「にゃにゃ!(ご満悦じゃないレム?)」
 香奈は胸の奥に浮かんだ感情を仕舞いこんで、悪戯っぽく彼を見上げた。
「真剣に考えているぞ!」
 香奈の眼差しにレムレースはふるふると首を振る。
「考えているが……いい毛並みだ」
「にゃにゃーん(元は人間の女だってこと意識から抜けてるでしょ)」
 その時だった。
「あ……」
 視界が変わって、とても近くにレムレースの顔がある。
「元に戻ったな……よかっ……」
 微笑んで、そこでレムレースは硬直した。
「す、すまん! そうだった、猫とはいえ香奈だった……」
 彼女の腰に回っていた手を慌てて引っ込める。
「あまりにも良い手触りだったのでな」
「いいわよ、気にしないで」
 香奈は笑って、少し名残惜しく彼の膝から下りた。
「ハロウィンパーティーしましょ」
 持参してきた仮装と飾りを見せて微笑むと、レムレースは頷く。二人で部屋の飾り付けを始める事にした。

 リースを壁に掛けながら、香奈はふと思った事を彼に尋ねた。
「今は一人暮らしなんだから猫飼えばいいのに」
「……飼いたいとは思うが、今は猫よりも世話のかかる奴がいるからな」
 振り返るとレムレースの笑顔。
「気まぐれで繊細で、放っておけん猫のような女が、な」


●5.

「ついでに図書館へ寄っても構いませんか?」
 菫 離々はそう言って蓮を見つめた。
「返却期限の近い本があって……」
「勿論、構いませんよ」
 蓮が頷くと、離々は花の咲くような笑顔を見せる。
 駆け足で自室へと戻る背中を見つめ、蓮は瞳を細めた。
 今日は二人で買い物に行く約束。
 ハロウィンの賑やかな町並みを想像しながら、蓮はポケットから飴を取り出す。
 街頭で配られていた飴の事を、何故か急に思い出した。
 何となく口に放り込んで──。

「ハチさん、お待たせしました」
 数冊の本を手にリビングへ戻った離々は首を傾けた。
 蓮が居ない。
「ハチさん?」
 彼の部屋へ行き、ノックをしてみたが反応はない。
「開けますよー」
 恐る恐る扉を開けてみたが、やはり彼の姿は無かった。
 お手洗いにバスルーム、各部屋を回ってみても、彼の姿を見つける事は出来ない。
 玄関にも行ってみたが、彼の靴はそこにあった。
「一体何所へ?」
 考えながら歩いていた時だ。

 ぎゅむ。

 ナニカを踏んだ。


 蓮は叫んでいた。
「お嬢、俺はここですー」
 目の前に居る離々は、しかし彼には気付かない。
 何故ならば、今、蓮は親指サイズになっているからだ。
 飴を食べた瞬間、こんな身体に。
 身体も小さければ声も小さい訳で。
(どうやったら気付いて貰えるんでしょう)
 考え込んでいた時、離々が真っ直ぐにこちらに歩いて来る。絶好の好機!
「お嬢ここですー」
 両手を上げてアピールした瞬間、
「ぎゅむ」
 離々の足に踏まれていた。


「えっ、この感触なんでしょう?」
 離々はそっと足を上げる。瞳を見開いた。
 とても小さいけれど……蓮だ。
「ハチさん?! ごめんなさい! 大丈夫ですかっ?」
 離々は膝を付くと、彼を助け起こした。
「大丈夫です、むしろありがとうございま──ハッ!」
 朦朧とした意識で口走った言葉を止めて、蓮はぷるぷると首を振る。
「どうしてこんなことに?」
 尋ねてくる離々に、蓮は眉を下げて説明した。
「知らない人から貰ったお菓子は食べてはいけませんよ」
「面目次第もありません」
 蓮はポリポリと頬を掻く。
「騒ぎにはなっていませんし、効果はすぐに消えりゅ」
 むに。
 言葉が、突然意味を成さない発音へと変わった。
「えー、お嬢、おじょ」
 むにむに。
 真剣な顔をした離々が、蓮の身体をあちこち確かめるように触っている。
「何してりゅんでしゅ」
 むにむにむに。
「ハチさんがお人形でないことを確かめてるんです」
「とりあえずストラップみたいに扱うのは止めてください。酔います」
 首根っこを掴まれ揺れながら、蓮は半眼で離々を見つめた。


 カタカタカタ。
 蓮は離々の膝の上で、彼女の指がキーボードを叩くのを眺めていた。
「んー……情報出てきませんね」
 離々は小さく唸って、また新たなキーワードを入力する。
 彼女が自分を元に戻そうと奮戦してくれているのが嬉しくて、蓮はそっと微笑んでから、視界の端に映ったものへ目線を向けた。
(お嬢が返却しようとしていた本?)
 文学作品が並ぶ中、一冊だけ大判の料理本があるのが気になった。
 もっとよく見ようとして……。
「って、うわっ!」
 一気に見える景色が変わって、蓮は思わず声を上げる。
「元に戻っ……」
 間近に離々の顔。
 目が合った。彼女の口がパクパクしている。
「きゅ、急に大き……」
「あ。ここ……お嬢の膝の上ですね」
 反射的にそう微笑めば、
「きゃあ!」
「ぐはっ」
 彼女の平手打ちが、蓮の頬に炸裂した。
「少女らしい反応、新鮮です……」
 床に倒れ込み意識を再び遠退かせつつも、蓮の顔には笑みが広がっている。
(今日のお詫びに、明日はパンケーキをご馳走しますよ)
 大判の料理本には、『おいしいパンケーキ特集』と書かれていた。

Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:菫 離々
呼び名:お嬢、お嬢さん
  名前:
呼び名:ハチさん

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: キーコ  )


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月25日
出発日 10月30日 00:00
予定納品日 11月09日

参加者

会議室

  • えーっと、初めまして、アメリアよ。
    気軽に、エイミーって呼んでちょうだい!
    (小さくなっててもドヤ顔挨拶)

  • [4]菫 離々

    2014/10/29-22:27 

    蓮:
    猫は踏んでいませんがお嬢に踏まれました。

    どうも。お初にお目に掛かります。
    精霊のハチスと、神人はスミレ・リリ嬢。あちらで困っておいでです。

    急に自分がちっぽけな存在であることを悟りましたよ。
    (訳:うちも精霊が小さくなる方針です。)

  • [3]水田 茉莉花

    2014/10/29-22:11 

    えっと・・・みなさんはじめまして、かしら?
    水田茉莉花です。

    えっと・・・ほづみさーん、どこいっちゃったのー?


    智:
    ここだここー!早く気付け、でかっちょー!(ノミの様な声)

  • [2]出石 香奈

    2014/10/29-20:51 

    にゃっ!(こんばんは)
    にゃーにゃにゃー(空朱音ちゃんはお久しぶり)
    にゃにゃーん(他の人は初めまして)
    にゃにゃ、にゃーにゃにゃー(出石香奈とパートナーのレムよ)

    …にゃ?ふにゃーん…(あたしも猫語になっちゃってる)
    にゃにゃっ!(ともかく、よろしくね)

  • [1]空朱音

    2014/10/29-18:52 

    にゃー(こんばんわ、初めまして!

    にゃにゃーっ(出石ねぇさまは獣祀る村以来です)
    にゃーにゃにゃっ(それ以外の方は初めまして)
    にゃにゃにゃ、にゃにゃにゃ(空朱音(ソラアカネ)と、パートナーの鴇色灯火様です)

    …にゃ?にゃーにゃにゃ?(あれ?にゃしか喋れない)←首を傾げつつ
    …にゃー、にゃーにゃー。(えっと、宜しくお願いします)←戸惑いながらお辞儀しつつ


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