プロローグ
ウィンクルムも時として王族やら貴族やらの上流階級の人間との交流を要求されることがある。
護衛だったり、教団員の疑いがある者の調査だったり、裏付けを取るための潜入だったり。
その時々で変わるにしろ、要求されるものは共通して『洗練された立ち居振る舞い』である。
テーブルマナー。美しい歩き方。洗練された仕草。知性を試されることもあるだろう。
***
「チョ→ぱーふぇくとよぉッ!コレならウィンクルムちゃん達も気になって夜も眠れずお昼寝爆★睡状態だわぁんッ☆」
逞しく鍛えられた胸を張り、クネクネとリズミカルに肉体をくねらせながら
――ドラグクィーンよろしく、ド派手なメイクを施した漢(オトコ)はジュボッと男性職員に投げキッスを飛ばす。
男性職員は鮮やか過ぎる真っ赤なルージュを載せた投げキッスの波動を全力回避し、
「あぁんッ!ひどぉいッ!?」と野太い悲鳴が掲示板のあるロビーにこだまする。
そんな壮絶な光景の向こうにあるチラシにはこんな内容が書かれている。
『アンドレ・ザ・シャングリラ オ・ト・ナの社交ダンス講習会☆
振り付け師にしてラテンダンスの重鎮、アンドレ・ザ・シャングリラさんの社交ダンス講習会を行います!
ソシアルダンスを覚えて、社交界に溶け込無スキルを磨こう!
内容:スタンダード、ラテンダンスの講習
(コースは任意で選択出来ますが、どちらか一方しか選べません)
スタンダード:
スタンダードの基本であるワルツを行います。
静かな曲が多くゆっくりとしたテンポになるので、激しいリズムが苦手な方にオススメです!
しっとりした甘いムードも感じられるかも?
ラテンダンス:
ラテンダンスの基本であるルンバを行います。
激しい動きになる!?とご心配な方も居るかと思いますが、情熱的でムーディな曲をご用意しますのでご安心ください。
情熱的なアプローチも自然に出来るかも?
講習スケジュール:
基本姿勢・ステップの指導 1時間30分、課題曲の練習 2時間、課題曲のダンスのお披露目 30分
合計4時間の予定
受講料:400Jr(運動着、シューズなども含みます。飲み物やタオルは持参してください!)
アンドレ先生のコメント:
社交ダンスもカップルでの呼吸が大事なの☆
練習だけど、女の子にはヒールの高い靴を履いてもらうから
精霊諸君はちゃんとリードしてあげることが大事なってくるわよッ!
イチから丁寧に指導しちゃうから、気負わずに安心して来・て・ね♪ (キスマァク)』
解説
目的:パートナーと社交ダンスの講習を受けよう
※動画などを見るとイメージしやすいかと思います。
受講料として400Jr消費します。
スタンダード:
今回は『ワルツ』にチャレンジです。
3拍子のリズムで、1拍目にアクセントがあります。
日本語で円舞曲と表記されるように、回転が多く優雅なのが特徴です。
ゆったりした波のような動作が主となります。
スタンダードの共通として『男女の体がほぼ密着した状態』で踊ります。
ラテンダンス:
今回は『ルンバ』にチャレンジです。
ルンバは滑らかでゆったりした動きが特徴のダンスです。
『愛を育むように』と表現されることもあります。
リズムは4拍子で2拍目に弱いアクセント、
4拍目に強いアクセントがあります。
ラテンダンスの特徴として『体は離れますが、互いの視線を逸らさない状態』で踊ります。
練習着:
豪華なドレスは出ません、練習なので悪しからず…
スタンダード→神人は薄い長袖シャツにロングスカート
ラテン→神人は半袖シャツにスリットの入ったミニスカート、アンダースコート有
共通→精霊はワイシャツにスラックスと革靴、神人はヒールの高いミュールとなります。
アンドレ・ザ・シャングリラ:
198cm38歳のムキムキマッチョ、ドラグクィーン系おネエさんだが歴とした漢。
ラテンダンサーと並行して振り付け師も行っている。
スタンダードも踊れるが、キャラに合わないので指導だけ行っている。
(頼めばどちらの模範演習もしてくれますが、女性神人にパートナーを頼んできます)
底抜けに明るい人物だがダンスに対してはストイックな益荒男で、
ダンススキルもレベル5相当のスペシャリスト。
男女平等がモットーなので男女問わず褒めつつ正していくスタンスで指導する。
その他:
ダンススキルがあればサクサク進むでしょうが、
スキルがなくても講師がいますのである程度補正がかかります。
ゲームマスターより
木乃です、某社交ダンス部のコーナーが大好きでした。
今回はボールルームを彩る社交ダンス講習を受けてもらいます。
専門用語がバシバシ飛んでいるが知識を要求されるのか!?と思われそうですが
ウィンクルムごとにやはり得手不得手があると思うので
ふかーく考えないで頂けたら、と思います。
雰囲気が掴めない、という方は動画を検索して頂ければ解るかと思います。
それでは皆様のご参加、お待ちしております。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)
スタンダードコースを選ぶ。 練習着に着替え、気合い入れて学ぶ。 ダンスはやったことないから、少し不安が…。 ジャスティに、教えてほしいと頼んでみる。 姿勢とステップは教えられた通りに動いてみる。 これ、かなり密着するから照れる…。 こんなに男性と近づいたことなんてないから、どうしたら…。 ヒールの高い靴って履き慣れていないから、倒れないようにしないと…。 この靴でダンスを綺麗に踊れる人ってすごいな…。 課題曲の練習も、さっき教わったステップや姿勢を思い出しつつ、動く。 ダンスのお披露目、ちゃんとできたらいいな。 せっかくジャスティも教えてくれたんだし、格好悪いところは見せられない。 ☆一般スキルのスポーツを使用 |
ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
☆コース:スタンダード エミリオさんの方から誘ってくれるなんて…嬉しい 私社交ダンスって初めてだから凄くドキドキするよ ☆ダンス練習 うう、恋人だからこそドキドキするの! 私だってエミリオさんとちゃんと踊りたい 頑張るっ ☆ダンス発表 練習の時も思ったけどエミリオさん慣れてる感じがする もしかして私以外の誰かと踊ったことがあるのかな 何でだろう胸がズキズキするよ 私てっきり…そっか、よかった エミリオ…さん?(精霊の異変に気づく) 私今日よりもっとダンスが上手くなるように練習するよ だからまた一緒に踊ろうね、エミリオさん 約束、だよ(不安を吹き飛ばすように明るく笑う) ☆関連エピ 魔女たちの夜会 ☆持ち物(2人分) 飲み物、タオル |
楓乃(ウォルフ)
先生!今日はご指導よろしくお願いします! でもいきなりラテンダンスなんて難しそうだけど、大丈夫かしら? 珍しくウォルフの希望だったのよね。 ■練習中 あ、足がもつれちゃいそう…! ここはこう腰をひねって…足はこっちに出して…。 (先生に相手をちゃんと見るよう指摘される) 言われたとおりウォルフをちゃんと見たら姿勢が綺麗になったわ。すごい! ■お披露目 (練習中には気付かなかったけど、ウォルフのこんな真剣な顔…じっくり見たことないかも…。 あ、頬のところ擦り傷がある…。前髪もちょっと伸びたみたい…。 毎日一緒にいるはずなのに…まだ私の知らない顔があるのね。全部知りたいと思うなんて、私、おかしいのかもしれないわ…) |
リセ・フェリーニ(ノア・スウィーニー)
ラテンダンスを教わるわ 実家にいた頃にダンスをする機会はあったけれど そんなに得意ではなかったの 今後のためにもご指導よろしくお願いします パートナーはノア…ということになるわよね 相手がいないと踊れないから呼んだまでだから、勘違いしないでよね ステップはなかなかうまく行かないかもしれない 姿勢だけでも意識すれば足下のミスをフォローできる、かしら… ノアの方が私より少し上手くて リードしてもらえるのはありがたいけど、悔しい…! 曲に乗せての練習は難しいけれどその分楽しいわね ノアとの息も合ってきたような気がする いよいよ最後ね って、さっきまでよりリードが上手いような… さては練習では手を抜いてたわね…負けないんだから! |
◆心構えは
「いらっしゃーい♪アンドレの社交ダンス講習会へよーこそ☆」
マゼンタのベリーショートにエナメルのベストとローライズのレザーパンツ。
ド派手なメイクに筋骨隆々な巨体を誇るアンドレは両手を掲げて眩しい笑みを見せる。
見た目の近寄りがたさに反して、人懐こい人物のようだ。
「先生!今日はご指導宜しくお願いします!」
練習場に入る前に練習着に着替えていた楓乃は両拳を握り締め、気合十分。
(またオレの気も知らずにベタベタしそうなもんに申し込みやがって……)
目を輝かせる楓乃とは対照的に、ウォルフは練習前から既に気疲れしている様子。
「宜しくぅ♪ちなみにご希望は?」
「 ……楓乃、どっちがどっち?」
楓乃の様子にアンドレは満足げな笑みを浮かべ希望を確認する。
ウォルフはコースの違いを確認していなかったのか、楓乃に小声で質問する。
「えっと、スタンダードは男女が体をほぼ密着させるって……」
「!?」
楓乃の一言にウォルフは驚きと衝撃とナニかで表情筋が固まる。
「……スタンダードじゃねー方だ!いいな!?」
「?じゃあラテンダンスでっ」
必死な様子でウォルフはラテンダンスをチョイス、楓乃も反対する理由はないので希望をアンドレに伝える。
「1組ご案内ー☆他の子達はどっち?」
希望コースのメンバーを記入しつつ他のウィンクルムにアンドレは目配せしてコース確認を続ける。
「スタンダードで」
「宜しくお願いします」
リーリア=エスペリットが緊張した面持ちで小さく手を挙げる、ジャスティ=カレックも軽く会釈して返す。
(ダンスはやった事ないから、少し不安なのよね)
リーリアの緊張した面持ちには初めての社交ダンスに対する不安も込められていた。
「ジャスティ、教えてね」
「教えるのは構いませんが今日の講師はあちらですよ」
ジャスティの指差す先にはドラァグクィーン風メイクに笑みを浮かべるアンドレ。
「ごめんね、今日はアタシが先生なのよ」
「あ……す、すみません!」
リーリアは『アンドレの講習会』だと失念していたと、羞恥で耳まで真っ赤になった。
「ラテンダンスで、今後のためにもご指導をお願いします」
リセ・フェリーニはラテンダンスを選んだ。
踊る機会はあったもののあまり得意ではなかった事を気にしていたリセにとってプロの指導を受けられるのは千載一遇の機会。
隣のノア・スウィーニーはいつもシビアな対応のリセに誘われたことが余程嬉しいのか、頬が緩みっぱなしだ。
「ちょっと、社交ダンスは相手がいないと踊れないから呼んだまでだからね」
「……そんな気はしてた」
リセはノアの様子を察したのか、勘違いするなと眉間にシワを寄せ横目で睨む。
ノアの笑みが少しだけ黄昏たような、侘しさが見え隠れする。
「あんまりツンケンしちゃダメよ?呼吸を合わせるのが大事になるんだから」
様子を見ていたアンドレはリセをたしなめつつ、バインダーに記入していく。
「俺達はスタンダードで」
エミリオ・シュトルツはアンドレと視線が合うとそのまま返答する。
(エミリオさんの方から誘ってくれるなんて、嬉しい)
ミサ・フルールはアンドレが視線を向けてきたのに気づいておらず、ぼんやりとした様子で喜びを噛み締めていた。
「ミサちゃん、よっぽど嬉しいみたいねぇ」
「え?」
名前を呼ばれようやく視線が集まっている状況に気づいたミサは茹でダコのように真っ赤になる。
「いいのよ、社交ダンスで言うカップルも似たようなモノだし……」
「あの、初めてなので!そのっ、緊張して!」
関係を察したのか、アンドレが温い微笑を浮かべるので余計にミサは慌てふためく。
―エミリオも照れ隠しか、視線は別方向に向いている。
「んまぁー!アタシもベアトリスが来てくれたら情熱的な演技できたのにっ」
ミサとエミリオの様子にアンドレはバインダーを噛み締める。
「失礼、ところで先にアタシからお願いがあるんだけどイイかしら?」
気を取り直したアンドレは肘を抱くように腕を組み、表情を引き締める。
「なるべくスポーツとして、意識しないで欲しいの」
「え?なんで?」
リーリアの問いにアンドレは眉間にシワを寄せる。
「アタシが今日伝えるのは社交場での楽しいダンス、技術的な評価を得る為の競技ダンスではないわ」
「どういう事ですか?」
聞いていた楓乃は首を傾げる。
「要は楽しく踊れればそれでいいわ♪競技レベルなんて4時間じゃ完成しないし。だから」
真剣な表情を浮かべていたアンドレの顔から満面の笑みが浮かぶ。
「今日は目一杯、楽しんでって☆」
◆ペア練
「いよいよペア練習よ」
パンパンと手を叩きながらアンドレは仕切りで部屋の真ん中を遮る。
「後はお披露目までのお楽しみよ☆」
「な、なかなか上手くいかないわね」
意気込んでいたもののステップが上手くいかずに歯噛みするリセ。
「動きは大きいけど体に力が入ってるわ、全体的にカクカクよ」
アンドレの指導にリセは内心ショックを受けつつノアに視線を向ける。
「2341、2341」
「そうそう♪色っぽく動いたら最高ね」
ノアはテンポを数えながらステップを確認していた、1テンポ遅れる動作に始めは困惑していたが体得できたようだ。
(大丈夫よ、姿勢だけでも意識出来たらステップだってフォローできるはず!)
ノアのステップが出来ていることに悔しさを感じるリセ、アンドレの指示を受けてホールドの手ほどきを受ける。
ノアは左手をリセの右手と合わせるように繋ぎ、互いの反対の腕は相手を抱き寄せるように添える。
「ゆっくりどうぞ」
『2341、2341』
滑るように互いの足を動かす、リセの手には足元を意識するあまり力が入るがノアの手は優しく気遣う余裕が感じられる。
(リードしてもらえるのはありがたいけど、悔しい!)
「対抗心燃やしてどうすんの、動きが硬いわぁ」
リセの心情を見抜いたアンドレがすかさずツッコむ、前途多難か?
***
「きゃあ!?」
同じくルンバを講習中の楓乃、もつれそうな足を庇い転倒する。
「大丈夫か?!」
ウォルフが慌てて手を引いて立たせると楓乃は打ち付けたお尻を押さえた。
見かねたアンドレが声をかける。
「足元ばかり見てたら相手も解んないわよ?もっと彼を見つめて頼んなさい」
楓乃はハッとして足元に気を取られていた事に気づく。
「男は移り気だから目を離しちゃダ・メ☆」
「変な事言うな!?」
アンドレの一言にウォルフは冷や汗を垂らす。
楓乃はアンドレに動きを見て欲しいと頼み、最初の体勢に入るが―
「へっぴり腰ね、半歩前っ」
アンドレがウォルフの腰を押して半歩前に出すと不意に楓乃との距離が近づく。
楓乃も縮まった距離と金色の瞳に映る己の姿に、頬が熱くなるのを感じる。
「そのまま」
アンドレの言葉を合図に楓乃とウォルフが動き出す。
(ウォルフを、見る)
楓乃はウォルフを見つめようと集中する、繋いだ手から感情が伝わるような錯覚を覚える。
「グッドぉ♪」
気づけばステップは終わりアンドレの声にハッとして楓乃は気恥かしさを覚える。
「なんか、動きやすかった」
ウォルフも驚いたように目を見開いていた。
(そっか、もう少し頼ってもいいんですね)
喜ぶ楓乃と驚くウォルフの様子にアンドレも遠巻きで笑みを浮かべていた。
***
反対側のスタンダード組。
「リーリアがヘマしなければ問題ないですよ」
「す、少しは大目に見てよね!」
ジャスティは先ほどのリーリアの申し出もあり、アンドレから『最初の体勢の確認なら』と許可をもらえた。
「体勢を確認しますよ」
スッと左手を差し伸べながら、リーリアにステップを伝えていく。
ジャスティの右足、リーリアの左足が反対の脚を横切るように前に出すと、互いに横に足を出す。
そこから互いに両足を揃えて体を平行に保つ。
(近い!)
ジャスティの顔が予想以上に近く、背に添えられた腕は抱きしめられているようだ。意識してしまうとつい頬が熱くなる。
「顔は進行方向よ」
後ろからアンドレがリーリアの顔を右側に向ける。
「ステップの確認よろしいですか?」
「いいわよ」
アンドレが少し離れるとジャスティも進行方向に顔を向ける。
ジャスティが一歩出すと一瞬遅れてリーリアも足を出す。
(この靴でダンスを綺麗に踊れる人ってすごいな)
転ばないように足元に意識を向けるせいか、動くタイミングが少しだけ遅れるリーリア。
「リーリアちゃん、ヒールを意識し過ぎだから爪先歩きを意識してみて?」
「は、はい」
ホントは予想以上の至近距離にも戸惑っているのもある、まだまだ年頃の少女のようだ。
***
「何を恥ずかしがってるの?」
エミリオは視線を彷徨わせるミサに意地悪く呟く。
「うぅ、恋人同士だからこそドキドキするの!」
「恋人同士なんだからこれくらい平気でしょ」
初心な反応を見せるミサに小さく口角を上げて微笑むエミリオ。
「大丈夫、ちゃんとリードするから俺だけを見て」
「エミリオさん……」
「そう、いい子」
見つめ合う2人の熱い眼差しが交差する―
「雰囲気壊して悪いけど視線は進行方向よ、壁にぶつかるわよぉ」
『!?』
二人の世界を形成しているエミリオとミサに声をかけるのも躊躇われるアンドレだが流石に危険は見過ごす訳にもいかず。
遠巻きからなんともいえない表情で声をかける。
「え、えへへ」
「……」
アンドレの存在を忘れていたミサは頬を赤く染めて身を縮こませ、エミリオも気まずそうに視線を外す。
「楽しそうに踊れるのはとっても良い事よ」
一息ついてアンドレはしょうがないわねと言いたげに困ったような笑みを浮かべていた。
◆一緒に踊りませんか?
「はーい、お披露目タイムよー」
アンドレは課題曲を停めて仕切りを取り払う、双方へ別れた4組は既に汗だくだ。
「もう!?」
「時間か」
エミリオとミサは流れる汗をタオルで拭き持参したお茶に口をつける。
「どどどうしようウォルフ!」
「だ、大丈夫だって」
緊張して涙目の楓乃をなだめるウォルフ。
「先生のおかげでだいぶ息が合うようになったね」
「……」
対抗心は捨てなさいと、アンドレに指摘されたリセだがノアのリードのおかげで息が合ってきた事がやはり悔しい。
「だ、大丈夫、私はできる」
「ふむ」
足元は安定したものの、姿勢やステップの不安が抜けないリーリアにジャスティは何か言いたげな様子。
「先にラテン組の子から、準備できたらエスコートする所からよ♪」
ラテン課題曲は映画主題曲のアレンジ。メロウなラテン音楽はしっとりとした中に情熱を感じさせる。
「リセちゃん、俺と踊ってくれる?」
「……仕方ないわね」
ノアの軽薄な笑みでの誘いにリセは苛立つ気持ちを押さえ込みつつ差し出された手を取る。
「ウォルフちゃん、棄権はなしだから」
絶句しているウォルフにアンドレは容赦なく追い討ちをかける。
「楓乃……お、オレと踊りぇ!?」
「ふふ、はい」
ウォルフは緊張のあまり盛大に噛んだが、楓乃にとっては誘われたことが嬉しくて笑みがこぼれる。
パートナーの手を引いてボールルームに見立てた練習場に歩を進める。
広さは先ほどの倍はある。接触することはほぼないだろう。
―デッキにスイッチを入れると、ルンバアレンジのしっとりした前奏が流れてくる。
そのリズムは決して早い訳ではない、焦らずにゆったりと踊れば余裕も充分だ。
「もう1組に気を取られないで、楽しめばいいわ。ミスなんて気にせず続けてね」
アンドレの言葉にそれぞれが頷くと、力強い女性ヴォーカルの歌声も流れ始める。
***
(最初は曲に合わせて踊るのが難しかったけど、楽しく出来たからかしら)
リセはゆったりとした動きでステップを踏む、最初は気にしていなかった体の動きにまで気遣えるようにもなった。
ミニスカートのスリットから伸びる長身の脚は妖艶に、そして大胆に動く。
指先は柔らかく情熱的に、惑わすような仕草を魅せる。
「……ふふ」
ノアの雰囲気が変わる、笑顔は変わらないのだがなんだか純粋に楽しんでいるように見える。
手が数拍離れる。
離れてしまえば後はお互いの視線を糸のように絡め取り手繰り寄せるしかない。
(……?)
リセは楽しそうな笑顔を浮かべるノアにまた違う『なにか』を感じる。
ターンを決めてノアの腕の中に収まり、感じた『なにか』の正体を察知した。
(さっきまでよりリードが上手い?さては練習では手を抜いてたわね……!)
気づいてしまったリセは横目でジロリとノアを睨む、ノアは悪びれた様子もなく笑顔も崩さない。
(負けないんだから!)
リセの負けん気の強さが動きのキレを増す、『私だってコレくらい出来る』と誇示するように。
―だがそれを見抜いている人がいる。
ノアの後ろにその人が位置した瞬間、念波のように飛ばされる。
『対 抗 心 は お 捨 て な さ い』
――アンドレの笑みが今日一番怖い。
人間の男性とは言え身の丈や装いでかなり迫力がある。
(くぅぅ……)
リセは渋々怒気を堪えようとするが、それすらもノアにとって微笑ましい光景なのは内緒である。
***
(音楽もあると気持ちが変わるわね)
開始前は緊張していた楓乃も落ち着いてきたのか、安定した動きを見せる。
最初は照れてぎこちなく手を繋いでいたが、今はしっかりと指を絡められている。
穏やかな印象とは裏腹にグラマラスな身体で魅せる魅惑的な腰つき、丁寧な仕草には一途さの中に情熱的な感情を想わせる。
―そしてウォルフを真っ直ぐ見つめるアメジスト色の瞳にも、恋慕が宿っているように見える。
(あ……練習中には気付かなかったけど、ウォルフのこんな真剣な顔、じっくり見たことないかも)
面と向かって話すことが出来なくなったことはあれど、こうしてじっくりと見つめ合うのは本当に初めてだった。
ウォルフも楓乃の心すら見透かそうかというほど見つめている。
(あ、頬のところ擦り傷がある……前髪もちょっと伸びたみたい)
よく見なければ解らないほど小さな変化だったが、楓乃にとってまだ知らないウォルフがいるように思えた。
―今も初めて見る真剣な表情で、熱い眼差しを楓乃にだけ向けている。
(毎日一緒にいるはずなのに、まだ私の知らない顔があるのね)
楓乃の胸中に、小さな灯火のように……もっと知りたいという欲求が芽生え始める。
(全部知りたいと思うなんて。私、おかしいのかもしれないわ……)
切なさを伴う、胸を締め付けるような感情はなんだろうか。
繋いでいる手からウォルフに伝わってしまうような危うさを感じつつも、手を離したくはない。もっと見つめたい。
(……ウォルフは、どうなのかな?)
戸惑いの混じる心情が、二人の踊りの熱っぽさを高めていた。
***
「ブラボーよっ、アンタ達のパッションしっかり見せてもらったわよっ!」
パチパチパチと高速で拍手を送るアンドレ、戻ってきた4人は照れくさそうだったり満足げだったりそれぞれ違う表情を見せる。
(お、大人の世界だったわ)
リーリアは互いに見つめ合う2組の仕草や立ち振る舞いにドギマギしていた。
(こ、こういうのもあったんだ)
ミサも引き込まれていたのか、頬を紅潮させて目を見開いている。
「やっぱりソシアルアンスは楽しくないとね、次はスタンダード組」
はぁ、と感嘆した息を吐くとアンドレはリーリア達に向き直る。
「さっきと同じエスコートから宜しく☆」
バチッ☆とウィンクしながらアンドレはデッキ内の再生曲を変えていく。
「リーリア」
「ひゃい!?」
「断るとは思いませんが、僕と踊って下さい」
突然、声をかけられてリーリアが驚きながら目を向けると、いつもの慇懃無礼な言葉を添えてジャスティが手を差し伸べる。
「い……いいわよ」
ストレートな言葉に恥じらいをみせながら手を取る。
「ミサ、言わなくても解るよね」
「んー?恥ずかしくて言えないのかしら」
エミリオの言葉尻に喰い気味にアンドレが突っかかる、見ると先ほどの怖い方の笑顔をニッコリと浮かんでいる。
「……俺と踊ってくれるね」
「はい!」
エミリオが改めてミサに誘いの言葉をかけると満面の笑みでミサが手を取る。
「うふふ、位置についたら音かけちゃうわよ」
アンドレはほくそ笑むとデッキの再生ボタンをポチリ。
流れてくるのはテレビで一度は聞いた事がある往年のクラシック曲、絢爛なオーケストラが三拍子で奏でられ、
ピアノが美しい河川を、チェロが草木の薫る風を、トロンボーンの広大な山々を写した情景を想わせる。
***
(練習の時も思ったけどエミリオさん慣れてる感じがする)
スカートをふわりと翻すミサは練習を重ねるごとに、モヤモヤとした感情が芽生えていた。
エミリオのエスコートは平素のクールさに反して紳士然としていた、その為にミサもヒールの高い靴で動いているが安心して身を任せることが出来ていた。
―しかしその体勢に、あまりにも慣れすぎている。
(もしかして私以外の誰かと踊ったことがあるのかな……何でだろう、胸がズキズキするよ)
「……誰かと踊った事があると思ってる?」
心の声を見透かしたようなエミリオの呟きにミサの肩がビクッと跳ねる。
「知識としてあるだけで実際に踊るのは俺も初めてなんだ、想像より楽しいし……それにミサ以外の女と踊ろうなんて思わない」
「……そっか、よかった」
胸の内に湧いたドロドロとした感情が溶けていき、ミサを穏やかな安心感が満たしていく。
「全くそんなことを気にするなんて、本当にミサは……」
エミリオの言葉が途切れ、ミサの背筋にスゥッと冷たいモノが走る。
―前にもどこかで感じた、愛憎の入り交じる感覚。
横目で見るとエミリオの瞳に赤く鈍い光がチラつく
「エミリオ、さん?」
ミサが気遣わしげに声をかけるとエミリオの手がビクリと強ばる。
「っ、大丈夫、俺は大丈夫だから」
その声色は珍しく戸惑っており、ミサの胸に先程とは違う不安が押し寄せる。
「……私、今日よりもっとダンスが上手くなるように練習するよ」
過去は変えられなくとも、未来は一緒に創造できる。
「だからまた一緒に踊ろうね、エミリオさん」
次という未来に向けて、ミサはエミリオに優しく語りかける。
「……ああ、約束だ」
エミリオの言葉には穏やかさと、ほんの少しの喜びが混じっていた。
***
(さっき教わったことを思い出して)
課題曲の練習中もリーリアは習ったことを思い描いて動いていた。
反時計回りの動きも、波のように動くステップも、ジャスティにリードされるのも手本通り。
スカートの広がる形も計算されているようにすら見える。
「リーリア」
不意にジャスティから声をかけられる。
「少しリラックスして踊ってみましょうか」
「え、でもミスしたら……」
「先生はミスを気にするなと言いました、自分が楽しむことが成功だと」
リーリアはふと、形ばかり気にしていたことをジャスティに指摘され楽しむ気持ちが抜けていたことを思い出す。
「そうね、楽しまないと損よね」
ジャスティの言葉に余裕が出たのか、リーリアの動きに少しずつ変化が出る。
四角四面といった動きに柔らかさが見え始め、足取りは軽やかになる。
リーリアとジャスティの周りに穏やかな雰囲気が溢れ出す。
(そういえば、ジャスティのリードもなんか安心する……なんでかな)
リーリアは先ほどより余裕が出てきたからか、ジャスティの動きにも気づけた。
添えられた手は不快ではない力加減で体を支え、次に行く道筋にしっかり導いてくれる。
「ジャスティ、やっぱり上手いね」
「これでも紳士的な振る舞いは多少弁えているつもりですが」
ジャスティはサラッと褒め言葉に対して当然と言ったように返す
(こっちは素直に褒めてるのに!)
「まぁ、リーリアなら問題ないと思っていましたので」
帰ってきた言葉に内心ムッとしたが、ジャスティは続けた言葉を小さく呟くだけだった。
◆アンドレの呟き
「いやぁ、今日はアタシも楽しかったわぁ♪純粋って良いわね」
ホクホクとした笑みを浮かべて貸出した練習着などを確認している。
「……ベアトリスも呼んだら良い刺激になりそうねぇ、次の企画書考えとこ」
アンドレは憂鬱そうな顔を浮かべて遠い目をした。
……どうやら、彼の講習会は次がありそうだ。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:楓乃 呼び名:楓乃、バカ楓乃 |
名前:ウォルフ 呼び名:ウォルフ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 木乃 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 4 |
報酬 | なし |
リリース日 | 10月23日 |
出発日 | 10月29日 00:00 |
予定納品日 | 11月08日 |
参加者
- リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)
- ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
- 楓乃(ウォルフ)
- リセ・フェリーニ(ノア・スウィーニー)
会議室
-
2014/10/27-23:04
挨拶が遅れてごめんなさい。
初めまして、リセよ。よろしくお願いね。
ラテンダンスを教わろうかと思っているわ。
うまく踊れるといいんだけれど。 -
2014/10/26-21:05
こんばんは。
ミサ、久しぶり!またご一緒できてうれしいわ♪
楓乃とリセさんははじめまして。よろしくね。
コースはスタンダードを受けようかな。
社交ダンスって初めてだからドキドキするわ…。 -
2014/10/26-11:40
こんにちは。楓乃です。
パートナーのウォルフと一緒に初めてのダンスレッスンを受けにきちゃいました!
ミサちゃんは久しぶりだね(にこっ)
リーリアさん、リセさんは初めまして!
どうぞよろしくお願いします。
講習ではラテンダンスを受けようかと思っています。
-
2014/10/26-09:29
-
2014/10/26-09:29
ミサ・フルールです。
パートナーのエミリオさんと一緒に参加します。
リーリアちゃんと楓乃ちゃんは久しぶり!
リセさんは初めまして!(ぺこり)
私 社交ダンスって初めてだから凄くドキドキするよ~
ではでは、皆が思い思いの時間を過ごせることを祈って、