【ハロウィン・トリック】眠れる森の王子様(蒼鷹 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●Sleeping Beauty
「トリック・オア・トリート!」
 街角に元気な子供たちの声が響く。
 とんとん、玄関をノックされて、精霊は扉を開いた。
 そこにいたのは、絵本を抱え、黒いマントに、カボチャの頭で仮装した子供の姿。ごく普通のハロウィンの仮装だ。

 ……違和感を感じた。

 しかし、不吉な予感はほんの一瞬のこと、精霊は素直にお菓子を取り出すと、子供に渡した。
 カボチャの口から、お礼の言葉の代わりに飛び出したのは、今までに聞いたことのないような、不快な音。
 精霊は突然、強烈な眠気に襲われて、ふらふらとベッドへと歩いていくと、その端正な顔立ちを枕に沈め、深い眠りに落ちた……。



「みなさんのパートナーの精霊が、トラオム・オーガに襲われました」
 緊急召集された神人たちに向かい、深刻な顔で口を切ったのは、40過ぎのベテランのA.R.O.A.職員だった。
「精霊のみなさんは今、深い眠りに落ちており、このままでは徐々に衰弱して、いずれは死んでしまいます」
 かつてない深刻な事態に、神人たちの顔色が変わる。
「そこで、神人のみなさんに、精霊の夢の中に入り、精霊を救っていただきたいのです。
精霊の家には絵本が落ちており、これを通して精霊の夢の中に入り込むことができます。
精霊は、絵本と同じ内容の夢を見ています。この物語をハッピーエンドで終わらせることで、精霊を目覚めさせることができます。
どうも、精霊のみなさんは全員、同じ内容の夢を見ているようで、絵本も、表紙も中身も全員同じものになっています。
おそらく、この夢は一つの共通する世界で、出来事も共有されているのでしょう。
絵本は事前に読むことができます。タイトルは、誰でも知っている『眠れる森の美女』ですが、ストーリーは違っていますので、心の準備をしてから夢の中に入って下さい」
「ね……『眠れる森の美女』ですか?」
「はい。『眠れる森の美女』です」
 大切なことなので職員は二度言った。
 ざわざわ……と神人の間に動揺が広がる。完全に神人たちだけの冒険、かつてない困難の予感がしたが、自分のパートナーが被害者では、放っておくわけにはいかない。
 かくして、神人たちは立ち上がった、精霊を助け出すために……!

●絵本の内容

【眠れる森の美女】

 昔々、ある王国に、それはそれは美しいお姫様がおりました。
 しかし、お姫様は、そのお姫様が生まれたとき、誕生祝いに呼ばれなかったことを恨んだ魔法使いにより、百年覚めない眠りにつかされ、北の森の奥にある城に幽閉されてしまいました。

 王子様は、お姫様が北の森の城に囚われていることを聞き、北の森へ助けに向かいました。

 北の森は鬱蒼と茂り、どこまでも暗く恐ろしい一本道が続いています。
 王子様が、近道がないものかと道を逸れようとすると、不思議な力で引き戻されてしまいました。
 この道を行くしかないようです。

 長い一本道をどこまでもいくと、

「お城には行かさないぞ!」

 と、手のひらほどの大きさの、コウモリの翼の生えたカボチャが何十個も群がってきました。
 そこで、王子様はレイピアを抜き放つと、コウモリカボチャを次から次へと刺し貫きました。

 王子様は再び一本道を行きました。すると、道の真ん中に魔法使いが立っています。すさまじい魔力で、普通に戦っては勝ち目がなさそうです。

「王子よ、わしをどかせたくば、何か一発芸を見せてみよ!」

 そこで王子様が気の利いたジョークを披露すると、魔法使いは大笑いして、行くがよいぞ、と道を開けてくれました。実は、魔法使いは退屈していただけだったのです。

 王子様はついに森を通り抜けて、お姫様の囚われている城にたどり着きました。
 見るからに魔法がかかったような、妖しい雰囲気の城です。
 お姫様は一番奥の間で、美しいドレスに身を包んだまま眠っていました。

「なんと美しい……」

 しかし、王子様は恥ずかしさと緊張のあまり、お姫様に口付けすることができませんでした。
 なかなかキスができず、ぐずぐずしていると、地鳴りのような音が聞こえ、城が崩れ始めました。
 王子様はかろうじて脱出できましたが、お姫様は崩れた城の下敷きになってしまいました。
 王子様はお姫様を救い出せなかった後悔のあまり、王子の地位を捨てて僧侶になり、その後一生を僧院にて、慎ましやかに暮らしましたとさ。

 おしまい

解説

●目的
物語をハッピーエンドで終わらせ、精霊を救出し目覚めさせること

●神人について
夢の中で、神人は王子様となり、お姫様=精霊の救出に向かいます。
神人や精霊は現実の容姿・性別のままです。
神人は王子の衣装になりますが、男装であれば他の服でも構いません(軍服、海賊など)。ご希望があればプランにお書き下さい。
途中までは神人同士協力し合うことになりますが、魔法使いの後、道が分かれます。精霊は別々の城に囚われています。氷の城、いばらの城など、お好みがあればお書き下さい。
絵本以外の装備品・日用品の持ち込みは可能です。

●敵について
コウモリカボチャ:数十個出現
弱いのでさくっと倒して下さい。

魔法使い:一人出現
一発芸は、笑わせるのでも、泣かせるのでも、感動させるのでもOKです。
一般スキルがあれば有利ですが、なくてもアイデア次第でなんとかなります。
何人かで協力するのもいいでしょう。
全員何かしらの芸をして、魔法使いの気に入れば通過できます。

トラオム・オーガ:精霊の数出現
城です。精霊が目覚める前に倒すのは難しい上、崩れて下敷きになるのでお勧めしません。
精霊が目覚めればハッピーエンドとなりますので、その後、城との戦闘を考える必要はありません。

●精霊について
ウィッシュプランには、城の様子、着ているドレス、目覚めたときの様子などを書いて頂きますが、今回は神人の行動がアクションプランに書ききれず、ウィッシュプランに流れて来てもOKとします。※蒼鷹ルールです。他のGMも同じ方針とは限りません。
口へのキスでなくても、頬へのキスや、殴る蹴るの暴行でも起きるかもしれません。……が、できれば童話のマナーにのっとって、優しく起こしてあげたいですね。
判定は夢の中ということもあり、緩く解します。

●現実世界
夢への侵入は精霊の部屋で行われ、ハッピーエンドで終われば、二人同時に目が覚めます。

ゲームマスターより

ご閲覧ありがとうございます。洋ものの童話が大好きで、子供の頃、お気に入りの全集を表紙がぶち壊れるまで読んだ記憶のある蒼鷹です。
王子様や騎士や勇敢な若者になって、白馬に乗ってどこまでも、それこそ世界の果てまでも駆けていく感じが大好きでした。
日本の昔話も好きですが、夢見るような疾走感は洋ものの強みですね。

さて、今回のは、ハロウィンのイベントが発表されたときからやりたかったネタです。
テーマは「男装の麗人」です。精霊のドレス姿はオマケ……の予定ですが、皆様のプランにもよります(笑)。
ハイトランスが実装されたとはいえ、まだまだ親密度もレベルもそこまででは……というプレイヤー様方が多いと思いますので、ここでは思う存分、神人を活躍させてあげて下さい。

それでは、勇敢な姫君に神のご加護を。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  きゅっと唇を噛み拳を握る
「すぐに、起こしにいくから…」
待っていてと呟く

コウモリカボチャを見つけたら 真剣な面持ちで剣を構える
「相手から目を離すな」と 彼に教わったことを思い出して
背後を取られないよう気を付けながら できるだけ素早く一体ずつ確実に倒していく
他の神人とも連携して

魔法使いの言葉に 目を丸くしたあと考え込んで 
早口言葉のような歌詞の 聴いていて楽しくなりそうなメロディの歌を歌う(歌唱スキル使用)
魔法使いが興味を持てば「一緒に歌いましょう」と誘う

お城が見えたら思わず走り出す
彼の眠る姿に青ざめて思わず呼吸を確かめる
躊躇はほんの数瞬
前髪をかきあげ 額にキス
祈るような気持ちで 目覚めを待つ


ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
  王子様の服だけあって高そうです…
マントの裾とか踏んづけないようにしないとですっ!

何か変なのがいっぱい飛んでます…っ!
コウモリ?かぼちゃ?これ斬って大丈夫でしょうか…
皆さん、怪我しないように気をつけて下さいねっ!

林檎の皮を途切れないように剥くなら得意ですよ、
あとは…そうだ。
ハンカチを折って、ここを出して…
はいっ、うさぎさんですっ!
…駄目、でしょうか?

分かれ道ですね…私、こっち行きます!
グレン、大丈夫でしょうか…
隣にいないの何だか落ち着かないです…
走っていきましょう、待ってて下さいね!

あとはキスですが…
お、落ち着いて…これは助けるためなんです。
いつも助けてもらってるから
今度は私が助ける番なんです


ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  【服装】
青のターバン
青のマント
白の布のワンピース
伝説の路頭の剣(使わない)

【一発芸】
驚かせる芸
スポーツスキル使用

側転からの横捻りを加えたバク宙
「将来の夢は騎手か勇者かプロレスラーでした、今もムーンサルトの研究に余念がありません」

【行動】
お城の中の壺や樽を見ていると無性に壊したくなります

「たーるっ!」

タンスもとりあえず漁ります

すべてがドット絵ですが、色んなアイテムが手に入ります…コンプリートしたい
ぶっちゃけ魔王の城が好きになり始めています

…はっ、こんな事ではいけない
早く姫をお助けせねば(壺割りながら)

【起こし方】
ハロルド の めざめのじゅもん
「姫、寝たら死にます」(おうふくびんた)



ジェシカ(ルイス)
  まったく、なにやってんのよルイスは
今から助けに行くから首を洗って待ってなさいよ!
…何か違うわね。ま、いっか

●カボチャコウモリ
人数も多いし敵も弱そうだしなんとかなるでしょ
手分けすればきっとあっという間よ
レイピアなんて使ったことないけど村にいた頃は毎日鍬振るってたんだもの
似たようなもんだからなんとかなるでしょ

●一発芸
まさか夢の中で一発芸を求められるとは思わなかったわ…
じゃありんご握り潰すわ、はい
(グシャっと握りつぶし。予めりんご半解凍、芯をぬいておいて潰しやすくしておく)

そういえば昔ルイスに見せたら本気で驚いてたわね
それ以来妙に怯えられたんだけどまだ誤解してるとかないわよね…



●四人の王子
 どこまでも続く森の一本道は暗く鬱蒼としている。道を歩むのは、四人の王子。凛々しく、闇を恐れず進む姿は絵物語のように美しい。

 青を基調とした騎士服、秋空のような色のマント。留め具には瞳の色の青と碧のサファイヤ。銀青色の髪の三つ編みは、リボンではなく銀の飾り紐で結ばれ、普段よりきっちりと編み込まれている。身支度の際の彼女の決意を物語るようだ。きゅっと唇を噛み、拳を握ったのは、リチェルカーレ王子である。
「すぐに、起こしにいくから……」
 待っていて、と呟く。
 その隣は、絹のように白く艶やかな生地の軍服。肩や胸元に金の紐飾りが施され、マントも同じく純白。その上をさらり、持ち前の金髪が流れれば、輝く月光そのもの。留め具には一点だけ、燃えるようなルビーが使われ、全体の印象をきりりと引き締めている。ニーナ・ルアルディ王子は、しかし、この衣装に動揺していて、
「王子様の服だけあって高そうです……しかも真っ白で汚れやすそう……マントの裾とか踏んづけないようにしないとですっ!」
 思わず庶民的な感想を漏らす。
「夢の中だから気にしなくていいんじゃない?」
 と、気楽に言ったのは、新緑のような萌黄色のマント、白地に緑の装飾の施されたサーコートに深緑色のズボン、留め具は瞳の色のエメラルド、茶色い髪をまとめる髪留めに鳥の羽。活動的な印象がより引き立つ、ジェシカ王子だ。さっとマントを翻し、
「まったく、なにやってんのよルイスは。今から助けに行くから首を洗って待ってなさいよ!」
「ち、ちょっと違う気がしますが……」
 ニーナにつっこまれ、ちょっと考えて、明るく、
「……確かになんか違うわね。ま、いっか」
 一方、こちらには海のごとく鮮やかな青いターバン、同じ色のマント。青紫と金の二色に分かれた水晶アメトリンの留め具。どこかで見たような白い装束に身を包んだその腰には、斬った者を路頭に迷わせる伝説の路頭の剣(※演出用です)。勇者ハロルド王子は普段からミステリアスではあったが、よりその雰囲気に磨きがかかっていた。何しろ最近、精霊のことも、A.O.R.A.の人々のことも忘れてしまったから。しかし彼女はつけていた日記の内容と、義務感からここに立っていた。
どうも自分の精霊は、よくオーガに捕まるらしい、と思いながら。

●モンスターの強襲
 四人が道を行くと、ニーナが最初に声を上げた。
「何か変なのがいっぱい飛んできます……っ! コウモリ? カボチャ?」
 それに答えるように、
「お城には行かさないぞ!」
 小さな声を上げて、数十個のコウモリカボチャが襲いかかってきた!
「戦わないといけないみたいですね」
 ニーナが儀式杖・深海の掟を構える。
「人数も多いし敵も弱そうだし何とかなるでしょ」
 ジェシカ、衣装についていたレイピアを抜き放つ。
(使ったことないけど、村にいた頃は毎日鍬振るってたんだもの、似たようなもんだからなんとかなるでしょ)
「私が敵を攪乱します」
 そう言ったのはハロルド、素早さを生かしすっと先頭に立つと、路頭の剣を片手にしつつ、スカルナイトナックルを振り上げる。
「路頭の剣アッパー!」
 そして間髪を入れず回し蹴り。
「路頭の剣キック!」
 そして路頭の剣を置くと、飛んできた敵の背後に回り、両手でホールドして投げ飛ばす。
「路頭の剣起きっぱなし式ジャーマン!」
 実はスカルナイトナックル、ハイトランスしなければ攻撃力はない。しかし、鍛えられた肉体から繰り出される俊敏な技は、敵をビビらせ、隊列をバラバラに分散させた。
「わぁ?! なんだコイツ?! すっげー強そう!!」
「でも路頭の剣、いらないんじゃないのか?」
「ハロルドさん、ナイス! 手分けすればあっという間よ!」
 ジェシカ、レイピアを一閃。

 すかっ。

「あ、あれっ?」

 すかっ。

「もーっ、これ、使いにくーい!」
 翠の王子、レイピアを放り投げ、バトルフライパン「新婚さん」を手に取った。

 カーン!

 テニスの要領でボレーを打つように殴れば、敵は面白いように吹っ飛ばされていく。
「こっちの方が断然いいわね! じゃんじゃんいくわよ!」
 一方、真剣な面もちで、人の身長ほどもある日本刀・長月を構えるリチェルカーレ。思い出すのは精霊の言葉だ。
『相手から目を離すな』
 青の騎士の刃は素早く、しかし確実に、敵を一体ずつ切り裂く。
 その後ろでは杖を手にしたニーナが、最初はためらい気味に、やがて思い切りよく敵を殴り飛ばしていた。バコン! とはじけるカボチャに、ちょっと気持ちいいかも、と思いつつ、月光の王子は味方への目配りも怠らない。
「ハロルドさんっ、気をつけてくださいっ! 後ろっ!」
 勇者が振り向くと、死角を突いたカボチャが猛然と突撃してくるところだった。

 スパッ。

 怜悧な刃の残像を残して、カボチャが空中で分断された。有り難うございます、と勇者が青の騎士に言う頃には、敵は全滅していた。ジェシカ、カボチャの残骸を取り上げて、
「これ、美味しそうよね」
 ニーナも、
「確かに、ハロウィンのカボチャは装飾用ですけど、これは食用のものそっくりですね」
「食べられるかな?」
「えっ、本気で食べるんですか? コウモリの翼ついてますけど」
「コウモリって食べられないの?」
 二人の話に、動物に詳しいハロルドが混ざる。
「フルーツコウモリは美味しいそうですよ」
「じゃ、いけるんじゃない? フルーツコウモリもカボチャコウモリも似たようなもんでしょ」
「で、でも火を通さないと食中毒になるかも……私たち、火種がありませんし」
「あ、そうか。やっぱり駄目か」
 黙っていたリチェルカーレ、
「待って。いくつか持って行きましょう。何かの役に立つかもしれません」
 王子たちは謎の食材を手に入れた!

 去り際、ハロルドが振り返ると、倒したはずのコウモリカボチャが仲間になりたそうにこちらを見ていた。
 勇者が「はい」と言い、カボリンと命名すると、嬉しそうに後をついてきた。

●魔法使いの試練
 目前に立ち塞がった魔法使いの言葉に、リチェルカーレは目を丸くした。
「一発芸、ですか……」
 少し考え込んでから、意を決して最初に歩み出る。
「では、歌います」
 そして唇から溢れた言葉は早口言葉のような歌詞、どこか懐かしい、楽しげなメロディ。小鳥のさえずりのように華やかに、一言も間違わずに詠唱する。
「おぉお……なんと見事な」
 魔法使いはため息をもらした。青の騎士は優しく微笑んで、
「一緒に歌いましょう」
 魔法使いは魅せられたように歌い出した、彼女よりは遙かに危なっかしげに、しかし心底楽しそうに。一頻りともに歌うと、
「こんなに楽しかったのは久しぶりじゃ! 合格!」

 続いてハロルド、すっと魔法使いの前に立つと、
「皆さん、少し下がって下さい」
 そして繰り出されたのは、見事な側転、と思いきや、横捻りを加え、バク宙に変化する。着地の乱れもなく鮮やかに決まった妙技に、魔法使いは賞賛の拍手を送った。
「将来の夢は騎手か勇者かプロレスラーでした、今でもムーンサルトの研究に余念がありません」
「素晴らしい。日々の努力の賜物じゃの。合格!」

「まさか夢の中で一発芸を求められるとは思わなかったわ……」
 そうは言いながらもためらわずに前に歩み出るジェシカ。
「じゃありんご握り潰すわ、はい」
 手のひらにかざして見せたリンゴを、次の瞬間こともなげにグシャっと握りつぶす。飛び散る果汁に魔法使い、目を丸くして、
「おぉ! その細腕にしてなんたる怪力! 合格!」
 実はこのりんご、予め凍らせてから半解凍し、芯を抜いて潰しやすくしておいたのだ。潰す際は芯がないのを手で隠す。ジェシカ、子供の頃これで遊んだことを思い出し、遠い目をして、
(そういえば昔ルイスに見せたら本気で驚いてたわね。それ以来妙に怯えられたんだけど、まだ誤解してるとかないわよね……)
 一人額に汗するジェシカであった。

 最後にニーナの番であった。
「りんごの皮を途切れないように剥くなら得意ですよ」
 と、果物ナイフでさらさらと皮を剥いていく。しかし魔法使い、
「それはわしの孫もできるのぉ」
「そうなんですか? あとは……そうだ」
 白いハンカチを取り出すと、器用に折り、かどを引き出して……、
「はいっ、うさぎさんですっ!」
「おぉっ、可愛いのぅ」
「……駄目、でしょうか?」
「うーん、他の芸に比べるとインパクトがのぅ……」
 ニーナ、その碧眼で魔法使いの目を覗きこむ。美少女の武器である。
「うっ、可愛いのう……でもでもぉ、ここですんなり通すのもつまんないってゆーかぁ」
 魔法使い、要するに女の子に構ってほしいのであった。
「よしっ、では、ニーナ王子よ、そなた料理が得意とみた! わしに何か風変わりな、美味しい食事を作ってくれたら、通してしんぜよう」
 ニーナ、思わずリチェルカーレと目を合わせた。それから他の皆と。そして魔法使いに、
「……わかりました。魔法使いさん、魔法で火を起こして下さいますか」

「美ー味ーいーぞぉー!!」
 魔法使い、涙を流しながら絶叫している。コウモリカボチャとりんごを刻んで、ジェシカから借りたフライパンで火を通しただけなのだが。
 王子たちも味見をする。栗のようにほくほくしたカボチャの甘み、コウモリの鶏肉のような弾力とうまみ、焼きりんごの果汁が優しく全体を調和し、調味料も使っていないのに文句なく美味しかった。
「よかろう、全員合格じゃ! この先の分かれ道をリチェルカーレ王子は右、ニーナ王子は真ん中、ジェシカ王子は左、ハロルド王子はセーブをしてから斜め後ろじゃ。城を間違えると姫は目覚めぬぞ! 気をつけよ!」

 分かれ道に来ると、王子たちは互いの健闘を祈りあった。必ず精霊を助けましょう、と。そしてそれぞれの道を歩み出した。

●茨の城のシリウス姫
 昏い群雲を背景に聳える、いくつもの尖った屋根、茨の絡みついた白い外壁。リチェルカーレ王子は城を見つけると走り出した。
 城内に入ると、ザワリ、茨が騒いで、青の騎士の行く手を覆い尽くそうとする。
「はっ!」
 長月が月光のごとく閃き、鉄条網のような茨が次々と断ち切られる。しかし、すぐにつるが伸びてきて、きりがない。
 しかし、王子は諦めない。服が、白い肌が、茨の鋭い棘で傷ついても。必ず助ける、その固い意志が、少しずつだが確実に、王子を奥へと進めていく。
 奥の間にたどり着く頃には、彼女は小さな傷をいくつも受けて、肩で息をしていた。ついに見つけた精霊の姿に、紅潮した頬が青ざめる。一瞬、死んでいるかと思ったのだ。
 シリウスは黒と深い緑色のシックなドレスに身を包み、黒いビロードのベッドの上で眠っていた。長袖とハイネックでほとんど露出はなく、その端正な寝顔は闇の中の星のよう、ドレスの長い裾が優雅に広がる姿は、冷たく澄んだ冬の夜のように美しかった。
 かすかに震える手が、彼の口元に伸びた。確かな呼吸を感じ、安堵する。王子はほんのわずかな躊躇いの後、姫の黒髪をかき上げて、額に口付けた。
(お願い)
 それからほんの数秒が、永遠のように長く感じられた。
 彼はゆっくりと、その翡翠の瞳を開いた。ぼんやりとした視界に、思い詰めたような青と碧の瞳が映る。頬にはかすり傷がついているようだ。
「……リチェ?」
 青年はゆっくりと身を起こし、ただならぬ様子の神人に、
「どうした」
 リチェルカーレの青い瞳が涙で潤んで、でも口元には美しい微笑が浮かんで。その表情のまま、彼女は彼の首筋に抱きついた。
「なんでもないの。――おはよう、シリウス」
「……おはよう」
 抱きついた彼女の腕にも傷があるのを見て、シリウスが眉を寄せる。どうやら自分が眠っている間に、なにかあったようだ。
「無茶をするなと言っただろう」
 その言葉には、迂闊にも眠り込んでしまった自分自身に対する苛立ちも含まれていて。
「俺が眠っている間、苦労をかけたようだな。すまない。……だが」
 護りたい、そう願った少女に助けられたらしい、そのことに微苦笑しながらも、
「……ありがとう」
 そして、彼女をそのまま抱きしめ返した。
 パリン、と天井が硝子のように砕けて、射し込んでできたのは朝の光だ。眩しさに二人が目を瞑る。
 そして再び開いた二人の目に、本当の朝の日差しが飛び込んできたのだった。

●炎の城のグレン・カーヴェル姫
 燃えさかる炎。城を包む地獄のような光景に、ニーナ王子は立ちすくんだ。
「なに、これ……」
 しかしこの奥には彼が眠っている。王子は意を決して走り出した。
 炎が唸りをあげ、肩を、マントをちりちり焦がす。しかし彼女はもう、汚したらどうしようとは考えない。
(グレン、大丈夫でしょうか……待ってて下さいね!)
 契約以来、何かあるときはいつも彼がそばにいた。隣にいないのは何だか落ち着かない。
 彼を助け出せるのは自分だけなのだ。燃える炎だって、パン屋のかまどだと思えばいい! 熱気をものともせず、王子は進む。
 グレンは黒と深紅のドレスを着て眠っていた。髪には赤い薔薇の髪飾り。黒い毛皮を首に巻いて、肩幅はそれほど目立たず、昏倒するように眠る顔はあどけない少年のようで、中性的な美しさがあった。
 顔を見てほっとしたのも束の間。王子に動揺が走る。
(あとはキス……お、落ち着いて……これは助けるためなんです。いつも助けてもらってるから、今度は私が助ける番なんです。トランスと同じ……ちょっと場所が違うだけですっ)
 紅潮した頬を近づけるが、いまいち踏み切れない。
 すると、ゴゴゴ……と変な音が聞こえてきた。
(はっ! 城が崩れる?!)
 王子、バッドエンドになっては大変と、慌てふためいてまともに口にキス。慌てすぎて他の場所にする発想は消えた。
「ん?」
 姫、ぱっちりと目を開く。途端、音が消える。
「グレンっ……!」
 王子、見開いた碧眼から涙。泣きながら姫に抱きつく。勢い余ってそのままベッドに押し倒す。
「よかったぁ! 助けられなかったらどうしようかと思いました! グレンが隣にいなくて不安でっ!!」
「うぉっ、耳元で叫ぶなよ! ……それにこれ逆じゃねぇの普通!」
 泣きじゃくっている王子を抱きしめ返しながら、泣き顔を見るのは初めてだな、と姫。背中で聞いたことはあったが。
 パリン、と天井が砕けて、朝の光が射し込んできた。それと同時に現実の二人も目が覚める。
 グレン、ニーナと目が合うと、少し気恥ずかしそうに、
「助かったよ。……けど、意識無い時にやられっぱなしって、気に食わねえんだよな」
「え? なにが?」
「キス」
 言うなりずいっ、とニーナに顔を近づけてくる。
「ちょっ?! さっきは夢の中でしたし?!」
「関係ねえな」
「関係ありますってぇ!」
 真っ赤になって慌てふためき避けるニーナに、追いかけるグレン。朝の二人の追いかけっこはしばし続いたとか……。

●古城のルイス姫
「なんだ、普通の城じゃない」
 白く輝く外壁、お堀に渡した橋。美しい典型的な古城に、ジェシカ王子は軽やかに足を踏み入れた。すると、

 ガシャーン、ガシャーン。

「何これ聞いてないわよ?!」
 やってくる無数のがらんどうの鎧。しかし……。
「……おっそーい」
 やたら足が遅かった。走って軽々とその合間を縫う王子。
 奥の間につくと、青髪の花のような美少女が、純白の天蓋付きベッドに寝かされていた。花嫁衣装のように白く清楚なドレス、縁取りのレースはかわいい花模様。優しい寝顔は野辺のリンドウのように可憐、絵画の天使のごとくで、起こすのがもったいないくらいだ。
「……これ女の子よね?」
(でも髪の色とか同じだしもしかして……)
 駆け寄ってしげしげと眺めると、確かに精霊の面影。違和感ゼロにもほどがある。
(ま、負けた……)
 普段自分が女の子としてどうかとか、特に思うことはないが、男のルイスにこうも美少女っぷりを見せつけられると、なんだかすごい敗北感だ。
(……でも、こうしてるわけにはいかないのよね)
 ぐずぐずしているとバッドエンドだ。
 王子は気合いを入れ直すと、恥ずかしさで紅潮した頬を近づけ、覚悟を決めて口の端ぎりぎりにキス。
(どう見ても女の子だし! それに夢の中だから!)
 深い眠りの中にあった姫、口の端に何か柔らかい感触を覚え、ふっと青い双眸を開いた。
 口の端を触りながら、不思議な部屋や、自分や神人のおかしな服装に戸惑って首を傾げる。その仕草も実に可憐だ。
(くっ、普通に可愛い!)
 王子、姫が状況を飲み込む前に早口で、
「起きたわね、もう大変だったんだから!」
 姫、戸惑いつつも王子の言葉から状況を察し、
「助けに来てくれてありがとう」
「はい、ハッピーエンドよ! さっさと夢から覚めて!」
 王子がパンパン手を叩くと、命令に従うかのように天井が砕け、朝の光が射し込んできた。
 何事もなかったかのように目覚めたルイスの顔を見て、夢の中の美少女と重ね合わせながら、
(私ももう少し外見の事気にしようかしら……)
 と、心中で呟くジェシカなのであった。

●魔王の城のディエゴ・ルナ・クィンテロ姫
 ハロルド王子とカボリンはついに最終ダンジョンに降り立った。赤黒いその城は外見も中身も総ドット絵仕様、BGMもいかにもおどろおどろしい電子音。2Dの雷が轟く中を二人は突き進む。
 暗い廊下にはなぜか大量の壷、樽。王子、無性に壊したくなり、
「たーるっ!」
 突撃してナックルでぶち開ける。鳴り響く効果音。
「これは、読むとキュウリの漬け物が無性に食べたくなるという幻の書『3秒何でもクッキング』!」
「これは、三ヶ月間装備し続けると、風邪を引きにくくなり朝の目覚めが良くなる『プレミアムオーディンアーマー』!」
 王子、ざくざく出る財宝に夢中。廊下を外れて部屋に入ると、宝箱、それにタンスが並んでいる。漁れば出るわ出るわ、全部ドット絵の、怪しげだが魅力的なアイテムの数々。コンプリートしたい! 王子の収集魂に火がついた。
「これは! 威力にあわせ三段階調節可能、高枝斬りエクスカリバー!」
「あ、あのー、カボ」
「カボリン、今忙しいんですが」
「姫はどうするカボ?」

 ……はっ。

 王子、物欲から目覚める。
「確かに、こんな事ではいけない。早く姫をお助けせねば!」
 言って走り出す王子。しかし通りすがりの壷や樽は片っ端からたたき壊していく。効果音が鳴りっぱなしだ。

 両手にアイテム山盛りで、王子は奥の間についた。そこにあった棺桶の蓋をたたき壊すと、木くずにまみれた端正な姫の寝顔。ロココ調の、胸が開いた黒いフリルたっぷりの豪奢なドレス。デコルテから見える男らしい大胸筋と、鍛えられた腕がチャームポイント。これで顔が不細工だったら笑えるが、なまじ美男子だけにコメントに困る素敵な装いである。下にズボンを穿いているのは魔王の気遣いなのだろうか。
「なんで姫が棺桶で寝てるカボ?!」
「姫、寝たら死にます」
 王子はツッコミを無視し、決然と目覚めの呪文を唱え、姫に往復ビンタを食らわした。
 姫、はっと目を覚まし、
「俺がいない間大丈夫だったか。……来てくれて助かった」
 と、どこかで聞いたような台詞を口にした。そして起きあがって真顔のまま歩く。
「……なんだこの格好」
 女装は嫌だが、真面目で几帳面な性格なので、服が汚れないようにする為しゃなりしゃなりと動く。
「ますますコメントに困るカボ!」
「姫、それでは歩きにくいでしょう。棺桶にお乗り下さい」
 最近よく助けられる姫、大人しく王子に従う。王子、棺桶についた紐をずるずる引きずって廊下へと歩き出したが、途中で飽きてきて、
「こうした方が早いですね」
 言うなり、身長145センチの王子は身長193センチの姫を、スポーツで鍛えられた両腕でお姫様だっこして、そのまま城外へのっしのっしと運び去ったということだ。

 めでたし めでたし



依頼結果:成功
MVP
名前:リチェルカーレ
呼び名:リチェ
  名前:シリウス
呼び名:シリウス

 

名前:ハロルド
呼び名:ハル、エクレール
  名前:ディエゴ・ルナ・クィンテロ
呼び名:ディエゴさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼鷹
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 冒険
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 通常
リリース日 10月23日
出発日 10月30日 00:00
予定納品日 11月09日

参加者

会議室

  • [14]ジェシカ

    2014/10/29-23:35 

    ああ、ごめんなさい。全然見てなかったわ。
    一発芸っていっても難しいわよね。
    私は特に使えそうなスキルもないのでベタなのやるつもりよ。

  • [13]ハロルド

    2014/10/29-23:00 

  • [12]ハロルド

    2014/10/29-22:52 

  • [11]ニーナ・ルアルディ

    2014/10/29-22:13 

  • [10]ハロルド

    2014/10/29-20:55 

    一発芸
    中々に難しいものですね

    私も悩みましたが
    スポーツ5を使ってスタントアクション的なものをやろうも思います

  • [9]ニーナ・ルアルディ

    2014/10/29-18:25 

    林檎の皮が不評だったときのために
    ハンカチでうさぎさん作る特技も披露してみようと思いますっ!
    …地味…?

  • [8]ニーナ・ルアルディ

    2014/10/29-01:54 

    どうしましょう、林檎の皮をそれなりに早く、ついでに
    何か長く剥けるっていうことくらいしか特技らしい特技が…っ!!!(調理2)

    うーん、あとは踊ったり…とか?
    どれもあまり馴染みはありませんけど、やるんだったら頑張りますよっ!

  • [7]リチェルカーレ

    2014/10/28-21:30 

    「一発芸は、笑わせるのでも、泣かせるのでも、感動させるのでもOK」とあるので、私は歌を歌うつもりでした。
    皆で何かやりましょうか?といっても私、一般スキルでかろうじて使えるのが「歌唱3」なのですが…。
    人数がいて楽しそうなのってなんでしょう。劇とか?

  • [6]ハロルド

    2014/10/28-01:07 

    んーと、私は一発芸=場を盛り上げるための芸と考えていたので
    笑わせよりも自分の得意なことで驚かせる芸を披露する予定でした。

  • [5]ニーナ・ルアルディ

    2014/10/28-00:01 

    さて…道中魔法使いを笑わせないといけないそうですけど、
    一体どういったことをしたらいいんでしょう…?

  • [4]ジェシカ

    2014/10/26-15:22 

    ジェシカよ。よろしくね。
    まさかこんな事になるなんてね…。
    まあさっさと叩き起こしてくるわ。

  • [3]リチェルカーレ

    2014/10/26-12:41 

    リチェルカーレと言います。よろしくお願いします。
    お役に立てるよう、がんばります。

  • [2]ニーナ・ルアルディ

    2014/10/26-11:16 

    はじめましてと先ほどぶりです
    ニーナです、よろしくお願いしますねー。

    …これ、家を出るタイミングが少しでも違ってたら
    私がこうなってたんですよね…

  • [1]ハロルド

    2014/10/26-03:37 


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