【ハロウィン・トリート】紅に染まる海(蒼鷹 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 ある日、A.R.O.A.の掲示板に張られていた、こんなチラシ。

「ミラクル・トラベル・カンパニー ハロウィン特別企画!
 客船『ブラックスワン』号で行く、豪華ハロウィン・サンセット・クルーズ『ヴァンパイアクルーズ』のお知らせです。

 パシオン・シーのきらめく波間に漂う、黒と白とに染め分けられたシックな客船、ブラックスワン号。
 海の貴婦人の異名をとる、この優美なブラックスワン号に乗り、紅と黄金とに染まる夕焼けの海と、やがて訪れる宵闇に輝く星々、海から眺める海辺の夜景を堪能するサンセットクルーズです。
 船内ではビュッフェとバーカウンターの他に、サクソフォンとピアノによるジャズの生演奏もお楽しみいただけます。

 今回の趣向は、『ヴァンパイア・パーティー』!
 ビュッフェの料理は、血の滴るようなローストビーフ、赤身魚のカルパッチョ、トマト料理にパプリカ料理に激辛トウガラシ料理、とにかく赤いものばかり揃えてあります。ハロウィン定番のパンプキン料理も、赤みの強い赤皮栗カボチャを使用。
 バーカウンターも、ブラディメアリーにレッドアイなど、赤いカクテルばかりを取りそろえました。未成年の方には、トマトジュースやブラッドオレンジジュースもご用意してあります。

 料金は飲み放題・食べ放題でペアで1200ジェールですが、ヴァンパイアの仮装でお越しいただければ、なんと半額の600ジェールになります!

 どうぞ、船上での優雅なひとときをお過ごし下さい。」

解説

●解説
男女とも、ヴァンパイアの仮装でクルージングを楽しんで下さい。
仮装は、本人がヴァンパイアっぽいと思えばOKです。

●甲板(デッキ)
船内からの飲食物持ち込み可能です。日没前には高い確率で、波間にイルカの飛び跳ねる姿が見えます。
風は強く、10月の夜の海はかなり冷えますが、夜景を我がものにできます。うっかり薄着でくるのもアリですね。

★小ネタ(プランへの反映はご自由に)
デッキの、航海用具をしまっているエリアの一角で、ロープを引っかけるための金具がなぜか尖っています。触ると手を切るかもしれません。
つまりはヴァンパイア・パーティーで本当の血が出るかも、ということです。※大けがはしません。絆創膏で治る程度。

●船内
ビュッフェやバーカウンターの飲食物は、赤いものならだいたいあります。
船内では、外ほどの臨場感はありませんが、窓から大海原と夜景が見え、暖かい船内でゆっくりと座ってジャズの生演奏をお楽しみいただけます。

●カクテル例(これ以外でも一般的な赤いカクテルならOK)
レッドアイ……ビール+トマトジュース。アルコール度が低く、ビールが苦手でも飲みやすい。
ブラディメアリー……ウォッカ+トマトジュースに、レモンを加えて。アルコール度は普通。
エルディアブロ……テキーラベースに、クレームドカシスの赤。アルコール度は普通。悪魔の名の割に飲みやすく、ついつい飲み過ぎてしまう。
キッスインザダーク……ジンベースの、ほんのり甘いロマンチックなカクテル。アルコール度は普通。

●揺れ
波は穏やかですが、そこそこ揺れます。

●医務室
傷の消毒、絆創膏……タダ
酔い止め……40ジェール


ゲームマスターより

トリック・オア・トリート! いい歳した蒼鷹です。
さらっと遊べるハロウィンエピソードをご用意してみました。
女性サイドはこれで三連続で夕闇エピソードです。どんだけ黄昏時が好きなんだ、と言われそうですね。

あれです、ヴァンパイアの衣装に身を包んだ美男子が、怪我をした彼女の手に口を……という。もちろん逆でもOKですが(笑)
出航までの時間が短くなっております、ご乗船の際はお気をつけ下さい。

それでは、皆様のご乗船をお待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

油屋。(サマエル)

  ビュッフェを堪能
完全に酔ってるなコイツ
ほらサマエル ちょっと外に行って酔いを醒まそうよ

手を引いて甲板へ
はいはい 一緒に行こうねー

夜景が綺麗なので思わずはしゃぐ
金具で指先を切ってしまう

痛っ!何だろう?切っちゃったみたい
大丈夫 唾つけときゃ治るって
医務室で絆創膏貰ってくるよ

精霊の行為に一瞬固まり顔が真っ赤になる
な、なな、何やって……!?
ばい菌ついてるかもしれないのに!ぺっしなさいぺっ!

精霊の顔を見れなくなり 俯く

いじわる…
悪意は無さそうなのでされるがまま

※両者アドリブ歓迎



ファリエリータ・ディアル(ヴァルフレード・ソルジェ)
  わぁい豪華クルーズ! ヴァンパイア! 素敵ー!
美味しい物もいっぱいだろうしすっごく楽しみっ!

ちょっと大人っぽいダークレッドのカクテルドレスに
髪もアップにして、血を連想する様な鮮やかな赤のアクセで
レディヴァンパイアっぽく仮装するわねっ。似合うかしら?

お料理美味しそうー!
でも辛すぎるのは苦手だから辛くないのを食べよっと。
お酒はまだ飲めないからブラッドオレンジジュースをもらうわねっ。
デザートも赤いのかしら? うふふ楽しみっ♪

日が落ちる前に、イルカを見に甲板に行きましょっ。
夜になったら夜景も見なきゃ! せっかくだし色々見たいものっ。
夜はやっぱりちょっと冷えるわね……。



ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
  ■服
レース多めで裾の後が長いフィッシュテールドレス

じーっと精霊を見てちょっと不満気
こういう場所はエスコートするのじゃないの?
予想外でどきっとしつつ照れ隠しにそっぽ向きつつ会場へ

お酒、あんまり飲んだことないわ
せっかくだからちょっとずつ味見
これ美味しい(ディアブロのグラスを持ち上げ
ふわふわして楽しい…むぅ、私のお酒取らないでよ

風が気持ちいい
寒くないわよ?…でも良いマントね借りておくわ
あら、曲が変わった
酔って楽しくなってきて記憶を頼りにジャズに合わせてゆったり踊りだす
たどたどしくマントがふんわり翻ったり
大きく揺れよろめきデッキにしがみつく

大丈夫よっ、ちょっと掠っただけ!
一気に酔いが覚めて慌てて離れる



ジゼル・シュナイダー(ヘルムート・セヴラン)
  半額は好き
でも仮装はちょっと恥ずかしい
ヘルムートは…うん、いつも通り何考えてるかわからない

黒いドレスと手袋
本人は黒ければいいだろうと思ってる

食べ放題なら食べるしかないね
甲板でも食べられるらしいよ
イルカも見えるって
うん、とても予想通りの答えだった
まあ食事は暖かい所でゆっくり食べたいよね

赤いものばっかりだけど、美味しい
あ、ちょっと。私達は未成年だからお酒だめ
トマトジュースで我慢して
…なんかすごいそれっぽい
精霊って得だよね
(顔がいいの意味合い

満足するまで食べたら甲板を散歩
あー、何してるの…大丈夫?
吸血鬼といっても、仮装でしょ
舐めないよ
ほら、手だして
ハンカチ巻いてあげるから
全く…あとは医務室ね



菫 離々(蓮)
  普段とは違う装いで背伸びしてみます
黒ドレスにベールを合わせ。コサージュには赤い薔薇
髪も解いて、思い切って眼鏡も外しましょう

ビュッフェでお食事を。
お肉もお魚も美味しいです。私はバランス良く盛りますが
ハチさんはお野菜ばかりですね
あと私に遠慮せずお酒飲んで頂いていいですよ?

せっかくのクルーズです
夜景を眺めてみませんかとデッキへお誘い。
風は冷たいですが、それ以上に衣装も相俟って
いつもと違う雰囲気にドキドキします

今日の服装おかしくありませんか?
ハチさんはちゃんと格好良いですが
申し訳なさそうにしているので
私のコサージュを眼帯に飾ってみるのはどうでしょう、と。
「私の『赤』を貴方に」なんて戯けて言ってみた、り


 日は西へ傾き、南国の風はまだ暖かいものの、少し強く感じられる頃。ゴールドビーチの白亜の砂浜は、ほんのりと薄紅に染まり始める。
 硝子のように蒼く透明な波に浮かぶのは、白と黒とに染め分けられた一隻の船。



 ……半額。

 人は、なぜその言葉にこうも心惹かれてしまうのだろう。
(半額は好き)
 ジゼル・シュナイダーは心中で呟く。
(でも仮装はちょっと恥ずかしい)
 そう、ヴァンパイアの仮装で半額という宣伝に惹かれ、クルーズの客は皆思い思いに吸血鬼の装束で身を固めていた。彼女も例外ではなく、黒いドレスと手袋という格好は、ほっそりとした彼女によく似合った。黒ければいいだろう、という発想だったが、船員も乗船の際に文句はつけなかった。
(ヘルムートは……うん、いつも通り。何を考えてるかわからない)
 ヘルムート・セヴランは、ジゼルの言うがままにお任せで黒っぽい衣装を着ていたが、瞳の紅も相まって、確かに吸血鬼らしかった。
(ヴァンパイアって、血を吸うやつだっけ……まあなんでもいいか)
 白い肌も、変化の乏しい表情も、俗人離れしている。
「お兄さん、役に入ってるね!!」
 知らない婦人に明るく声をかけられ、役……?と首をわずかに傾げるヘルムート。
(これ、素なんだけど)
 ジゼルは心で呟いたが、面倒なので声には出さなかった。



 こちらは対照的に、楽しげオーラを隠そうともしない少女が一人。
「わぁい豪華クルーズ! ヴァンパイア! 素敵ー!」
 それにしても人目を引く容姿だ。ファリエリータ・ディアルは銀髪碧眼、儚げで繊細な美貌。今夜は大人びたダークレッドのカクテルドレスに包み、アップにした髪には血を連想させる鮮やかな紅色の髪飾り。レディ・ヴァンパイアのイメージだ。
「似合うかしら?」
 と、ちょっと戸惑ったように背の高いパートナーを見上げる。
 周りに広がる海のような、深い青の髪、瞳は紫がかっている。ディアボロの角と尻尾も深い紫色。タキシードに黒いマントを羽織った姿は優雅で、こちらもさっきから周囲の女性の視線を集めていた。
「ヴァルはすっごい似合ってる」
 ヴァルフレード・ソルジェはクスクス笑い、
「それはどうも。ファリエこそ、最初見たときどこの貴婦人かと思ったぜ。これで中身までレディなら言うことないんだけどな」
「ちょっとなにそれー!」
 ぽかぽか!と肩口あたりを軽く叩けば、彼女のウキウキが手を伝って彼にも伝染するようだった。



 色黒の肌、黒髪の隙間から覗く紅い左眼、右には眼帯を掛け、しゃべると尖った立派な牙が見え隠れする。もっとも、髪の隙間から生えた耳は草食獣のバクのものだ。特徴的なテイルスの姿に黒マントを羽織れば、立派な吸血鬼に見える。蓮は連れだってやってきた少女に声をかけた。
「お嬢、眼鏡無しで大丈夫ですか」
 菫 離々は翠の眼を細め、ふわりと笑った。普段とは違う装い、黒いドレスにベール、コサージュには紅い生花の薔薇をあしらい、いつも編んでいる茶色い髪は解いて、自然に流れるがままにしている。可愛らしく、派手ではないが品がよく、とても似合っているのだが。
「手許は見えます」
「つまり手許以外見えてない、と」
 青年が手を差し出す。
「……エスコートを。船の揺れもありますし元々するつもりでしたが」
 差し出された手を、微笑してとる離々。その自然な仕草は蝶よ花よと育てられたお嬢さんらしかった。



 ミオン・キャロルは、細身の身体をレース多めの、裾の長いフィッシュテールドレスに包み、ちょっと不満げにじーっとアルヴィン・ブラッドローを眺めていた。黒く輝く瞳が健康的に見えるので、吸血鬼っぽくはなかったかもしれない。
「こういう場所はエスコートするのじゃないの?」
 茶髪の青年はクラシックヴァンパイア風、喉元にはジャボ、すなわち襞のついたレースの胸飾りで、中世の貴族階級を思わせる。黒いマントとズボンはその肢体をすらりと見せ、赤いベストは血を彷彿とさせる。
 青年はふーん、と辺りを見回すと、蓮が離々に手を差し出すところが目に入り、ふっと口元に笑いを浮かべると、マントを翻して、茶目っ気たっぷりに右足を引き、右手は身体に添えるかたちで、左手を横方向に水平に差し出した。ボウ・アンド・スクレイプ。まったく貴族さながらであった。
「お手をどうぞ」
 ミオンは予想外の対応に心臓が跳ね上がるのを感じつつ、
「そんなのどこで覚えたのよ」
 赤くなって俯きながら、おずおずと手を差し出した。青年は神人の手を取り悠々と歩いていく。照れ隠しにそっぽを向きつつも、されるがままのミオン。



 さて、思い思いの仮装に身を包んでいた一同だったが、そもそもデビル奇(貴)公子サマエルに仮装など必要だろうか? いや、ない!
 紫の長髪を海風になびかせ、堂々と普段の格好のままで乗船するサマエルに、船員は見咎めるどころか、
(この人の仮装気合い入ってるな)
 と思ったくらいだった。ディアボロの上に普段からジャボをつけていたりするのだから仕方がない。油屋。も、流れでサマエルの後にくっついていけば、そのまま入れてしまった。




 やがて船は岸辺を離れた。すでに海は黄金に染まっている。その波の色が柔らかいのは、空と同じく紅をその中に溶かしこんでいるから。
「ハッピー・ハロウィン! ヴァンパイアに血の祝福を!」
 船内では、幾多の紅い飲み物が高く掲げられ、吸血鬼達は乾杯し、歌い、歓談する。紅いドレスのピアニストと、黒いスーツのサックス奏者が、しっとりと、しかし明るくジャズを奏で、パーティーを盛り上げる。



「お料理美味しそうー!」
 ビュッフェの料理は赤いものばかり、ファリエリータは目移りしながらも、「辛め」「劇辛」と注記された料理はそっと避けて、ローストビーフやトマトシチューやマグロのカルパッチョを取り皿に盛っていく。それをきっちり横で見ていたヴァルフレード、
「相変わらず子供舌だな」
「な、何よ仕方ないじゃないっ」
 神人をからかいつつも、ヴァルフレードも料理を取り分ける。
 ファリエリータはブラッドオレンジジュースで、ヴァルフレードはアルコール度数軽めのレッドアイで、改めて二人だけでテーブルに向かい合い、乾杯を交わした。窓越しに見えるキラキラ光るパシオン・シーに、日は沈みかけようとしていた。
「日が落ちる前に、イルカを見に甲板に行きましょっ。夜になったら夜景も見なきゃ! あ、でもその前にデザートも食べなきゃね! やっぱり赤いのかしら。イチゴ? チェリー?」
「おいおい、欲張りだな」
「だって、せっかくだしいろいろやりたいものっ」
 そのとき、あっ、とファリエリータが声を上げた。黄金に輝く波間に、イルカがぴょん、と跳ねたのだ。
「ヴァル、見た? 今の、野生のイルカよ!」
「見た見た。早めに食べて甲板行くか」



 こちらはおっとり、自分のペースで料理を取り分ける離々と、そっと付き従う蓮。離々は肉も魚も野菜も、バランスよく取り皿に盛っていく。
「ハチさんはお野菜ばかりですね」
「お野菜大好きですよ」
 蓮はもっぱらトマト料理ばかりだ。見た目や大きな牙から肉食系に見えるが、蓮は性格も食生活も草食系男子であった。
「飲み物もトマトジュースで全身赤くなりそうです」
 離々、ふわりと笑って、
「赤いハチさんも見てみたい気もします。でも、私に遠慮せずにお酒飲んで頂いていいですよ?」
「酒は……飲めなくもないですが」
 蓮は自分のレディを、可愛らしいがあまりに無防備な、裸眼の離々を眺める。
「今日はいいです」
 護衛中みたいなものなんで控えてます、とは内心のつぶやきだ。



「食べ放題なら食べるしかないね」
「ん」
 ヘルムートの返事は一言だったが、食べる事に意義なし、の意である。
「甲板でも食べられるらしいよ。イルカも見えるって」
 ヘルムート、少し考えて室内を指さした。
(外は寒いから微妙だなあ)
 ジゼル、年頃からいうとイルカに興味があっておかしくないが、精霊の返事に特に落胆した様子もなく、
「うん、とても予想通りの答えだった。まあ食事は暖かいところでゆっくり食べたいよね」
 精霊、無言で頷く。会話の少ないカップルであった。

 二人は船内で、テーブルに向かい合わせになり、顔色も変えずに黙々と食事をしていた。楽しげなパーティーのただ中で、恋人ムードを超越している二人は独特の存在であった。
「赤いものばっかりだけど、美味しい。特にこれ」
 ヘルムートはジゼルがフォークで指したものをちらりと見て、次に食べるものを決めた。ビュッフェでその料理をとると、喉が渇いていたので、適当に赤いジュースを取り上げる。
「あ、ちょっと。私達は未成年だからお酒だめ」
 酒だったのか、と言われて初めて気がつく。ブラディメアリーと、飲み物の盆に書いてある。
「トマトジュースで我慢して」
 見かけはそっくりだ。どちらでもよさそうなものだけど、とヘルムートは思ったが、ジゼルの言うとおりにトマトジュースを手に取り、口にする。
 赤い液体が白い肌に映え、物憂げな紅い瞳が半ば伏せられて、形のよい唇に流し込まれるのを、ジゼルは眺める。感情を露わにしない彼女だが、思わず、
「なんかすごいそれっぽい。精霊って得だよね」
「それ?」
「吸血鬼って意味」
 青年は首を傾げた。ただ黒い格好で赤いジュースを飲んでいるだけなのに、不思議なことを言うものだ。



 一方、ミオンは先ほどヘルムートがジュースと間違えた、お盆に並ぶカクテルに興味を示していた。
「お酒、あんまり飲んだことないわ」
 せっかくだからちょっとずつ味見する。濁りのあるトマトベースより、澄んだ赤の方が綺麗かもしれない。彼女が気に入ったのはエルディアブロであった。
「これ美味しい」
 暗赤色の見た目とは対照的に、さわやかなレモンの酸味、ジンジャーエールがテキーラを和らげて。グラスを空けると、ふわっと気持ちが軽くなったようだ。何だか楽しい。
 お代わり、ともう一杯手に取ると、視界に手がすっと入ってきて、グラスを掴んだ。
「そろそろやめとけ」
 声のした方を見ればやや呆れ顔のアルヴィン、ミオンはむぅっとして相手の顔を見上げる。
「私のお酒取らないでよ」
 でもそんな顔は一瞬だけのこと、すぐに何かおかしそうに笑い出した。酔ったな、とため息ついて、アルヴィンはミオンを酔い覚ましにデッキに誘った。



 一方、こちらには見事に出来上がってるディアボロが一人。油屋。とともに赤色ばかりのビュッフェに舌鼓を打っていたうちは良かったのだが。
「サマエル、このローストビーフ、美味しい……」
 といいかけた油屋。、いつの間にかすっかり酔っているサマエルに気がつき、目が点に。彼の手にはアコーダンス、ウォッカベースの甘くて飲みやすいカクテルだが、かなり強い。油屋。視線をずらす。そばのテーブルには空のカクテルグラスがいくつも並んでいる。彼は酒にはあまり強くない。
「んー乳女ぁ~……食べてばかりいると牛になるぞ牛にぃ~! 牛……うしぃ~? ぷ、くく、あっははははは!!」
 だんだん!とテーブルを叩いて(倒れるグラス)、
「う、牛が牛食ってる~~~!!」
 油屋。を指さして爆笑。どうも箸が転んでもおかしいらしい。油屋。室内なのに寒い風に吹かれながら、
「完全に酔ってるなコイツ……」
 そして気を取り直し、
「ほらサマエル、ちょっと外に行って酔いを醒まそうよ」
 と、彼の手を取った。
「サマエルちゃんは酔ってないですぅ」
「はいはい、一緒に行こうねー」
 と手を引いていくその姿は、どちらが年上かわからなかった。



 黄金色の残映に照り映える水平線。やがて光の余韻を残し闇に沈んでいく。次第に強くなってくる風。星が瞬き、岸を振り返れば、海沿いの町コーラルベイの町の灯りがキラキラと輝いている。



 早めに甲板に出て、鮮やかな夕陽が沈む様を甲板で心ゆくまで堪能したのは、ファリエリータとヴァルフレードだ。波間に飛びはねるイルカも二人で競い合うようにして探して、日暮れ前に五頭も見つけた。
「夜はやっぱりちょっと冷えるわね……」
 カクテルドレスは首や肩、胸元が冷える。上着着てくれば良かったかな、と思っていると、デッキの隅にきらっと光るものを見つけて、ファリエリータは好奇心で思わず手を伸ばした。

 さくっ。

 指に走る痛み。見ると指先に一筋傷が走り、やがて血があふれ始めた。
「いったぁい、なんで金具がこんなに尖ってるのー?」
 絆創膏もらってこなきゃ、とヴァルフレードを振り返ると、
「どれ、見せてみろ」
 怪我をした手を取る。次に精霊がとった行動に、ファリエリータは真っ赤になった。手を口元に寄せて、赤い傷口に唇を這わせるように、すれすれに……。
「なんてな」
 と、思わせておいて、寸止め。青紫色の眼で笑うさまはまさに魅惑的なディアボロ、彼女の顔を面白そうにのぞきこむ。
「ドキドキした?」
「ちょっ……待ってよ何よそれー!」
 本日二度目のぽかぽかを受けながら、ヴァルフレードは彼女とともに医務室に向かった。



 ジゼルとヘルムートの二人も、食後に甲板を散歩していた。星の光と海風は、冷たいけれども心地いい。とはいえそこそこ船は揺れ、ふらふらしていたヘルムートは強く揺れた拍子に船縁に手をついた。偶然尖った金具がそこにあった。
「……」
 表情も変えず、ただじっと手を見ているので、
「あー、何してるの……大丈夫?」
 ジゼルに、血の滲んだ指先を見せる。彼女はしげしげと見て、
「切れてるね」
 と、自分のポケットを探る。
「ほら、手出して。ハンカチ巻いてあげるから」
「吸血鬼だし舐めたりするのかと思った」
「吸血鬼といっても、仮装でしょ。舐めないよ」
 精霊は大人しく手を出した。彼女の小さな手が布を結んでいく。
「全く……あとは医務室ね」
 その結び方は不格好ではあったが、
「……ありがとう」
 ぽつりと言った言葉に、ジゼルは少し目を開いて彼を見た。
「別に」
 と、視線を逸らした。しかしその口元は、心なしか嬉しそうにも見えた。



「せっかくのクルーズです。夜景を眺めてみませんか」
 美味しそうに南瓜の料理を食べている蓮に離々の声がかかる。
「本当にお野菜が好きですね」
「この南瓜も美味いですよ」
 と、蓮、まだ食べたいらしく、取り皿を持ちつつ立ち上がった。
 甲板に出た二人を迎えたのは満点の星空と、冷たいが清々しい、夜の海風。それから岸辺に広がる、色とりどりの町の灯りだった。
「風、冷たいですね。温かいスープでもお持ちしましょうか」
「いえ。ハチさんと一緒にいたいです」
 甲板にはほかにも寄り添うカップルがちらほら。けれど周囲を包む暗がりは、十分に二人きりの夜を演出してくれる。隣をみれば、黒いマントは長身の蓮によく似合う。いつもより少し背伸びしたドレスに身を包んでいるのは、なんだかちょっと気恥ずかしくて。普段とは違う雰囲気に、離々はドキドキした。
「今日の服装おかしくありませんか?」
「おかしいところなんて全く」
 蓮は首を横に振り、
「それより俺の安易な仮装が恥ずかしいです」
「ハチさんはちゃんと格好良いですが」
 離々の、飾らない正面からのほめ言葉に、蓮は気恥ずかしいやら、こんな安易な格好をほめてもらって申し訳ないやら。
「もっと工夫をすれば良かったです」
 離々、少し考えて、
「では、私のコサージュを眼帯に飾ってみるのはどうでしょう」
 そして生花の薔薇のコサージュを取り外して、蓮に差し出す。
「私の『赤』を貴方に」
 戯けて言った気障な言葉だったが、蓮は誠実な顔をして、淑女から差し出された紅い薔薇を大事そうに手に取った。
「では頂きます。お嬢さん」
 そして、眼帯につける前に、薔薇を一口かじってみる。赤くて柔らかな花弁が美味しそうに見えたので。
「……」
「ハチさん?」
「あ、」
 蓮が固まったので、離々、首を傾げる。蓮、片言で、
「ちょっと
悪乗りが
過ぎました」
 蓮はその夜、装飾用の薔薇は、たとえ生花であっても食用には適さないことを、身をもって知ったのだった。



 一方、酔いを醒ましにデッキへ出てきたミオンとアルヴィン。
「風が気持ちいい」
 薄着では寒いくらいの風だが酔ったミオンには心地よい。伸びをして深呼吸をするミオンの肩に、アルヴィンのマントがふわりとかかった。
「寒くないわよ? ……でも良いマントね。借りておくわ」
 マントを胸前にかき寄せれば、うっすらとアルヴィンの匂いがするだろうか? したとしてもそれは錯覚かもしれない。潮の匂いが強すぎるから。
 
 室内からジャズの音色が途切れがちに聞こえてくる。
「あら、曲が変わった」
 軽快な音色は、神人として顕現する前、どこかで聞いた懐かしい曲で、記憶を頼りにミオンはゆったりと踊り出した。
 マントがふわり、裾の長いドレスがふわり。
 楽しそうな酔ったミオンの様子をアルヴィンは、少し呆れ気味に、だが好ましげに眺める。しかし、突然の横揺れがきて、彼女がとっさに船縁にしがみつくと、痛そうな声が挙がった。青年はすぐに近づいた。
「大丈夫か」
 彼女の手を取れば、手首の辺りに血が滲んでいる。
「もう、なんでこんなところに尖ったものがあるのよ……」
 そうぼやいたミオンの眼が、見開いた。アルヴィンが前屈みになり、手首にそっと唇を寄せていく。今にも口を付けて舐めとりそうなほどに。
「ちょっ……大丈夫よ、ちょっと掠っただけ!」
 一気に酔いが醒めて、慌てて彼から離れる。アルヴィンが前屈みのまま、鳶色の瞳で上目遣いに彼女を見る。
「ヴァンパイア、だろ?」
 天然の悪戯笑顔に彼女の心拍数が跳ね上がる。からかわれたのと、照れているのが混ざって、むぅっとむくれているミオンの頭を、ポンポン、と軽く叩くと、青年は笑いながら彼女にもう一度手を差し出した。
「中に戻ろう」



 油屋。とサマエルも酔い醒ましに外へ出て、清々しい夜の海と輝く星空を堪能していた。
「すげーっ、サマエル見なよ、ネオンが宝石みたいだよ!」
 今宵は新月、岸辺にはクリスマスのイルミネーションのように七色に輝く、玩具のような海辺の景色がくっきりと見える。
「んん? ほーせき? 豚に真珠? 牛に宝石? くくっ……あッははははは!」
「駄目だこりゃ」
 夜景の美しさに、油屋。思わず船縁に駆け寄り、手をついて……、

 さくっ。

「痛っ! 何だろう? 切っちゃったみたい」
 と、サマエルを振り返ると、すっかり酔いが醒めたように、真面目な顔をしてこちらにやってくる。
「見せてみろ」
 真剣な様子に油屋。思わずうろたえながら、
「大丈夫、唾付けときゃ治るって」
 サマエルは血を流す油屋。の傷口を食い入るように眺めていた。
「医務室で絆創膏もらってくるよ」
 そういって去りかけた油屋。を、
「早瀬、待て」
 と引き留める。その声にも、碧眼にもうっとりとした色が滲んでいた。油屋。が留まると、サマエルはおもむろに彼女の指先を口に含んだ。油屋。は精霊の行為に一瞬固まった。みるみるうちに顔が真っ赤になる。
「な、なな、なにやって……?!」
「甘い味がする。癖になりそうだ」
 物騒な感想を言うサマエルの声には、恍惚の響き。しかしそれ以上に真面目さがあった。
 油屋。耳まで赤くなりながら、
「ばい菌ついてるかもしれないのに! ぺっしなさいぺっ!」
「唾をつけておけば治るんじゃなかったのか」
 サマエルの端正な唇が、もう一度油屋。の指をとらえる。口に含んだままニヤニヤ笑ってみせる。指先の感触も、そんな彼の表情も見ていられないほど気恥ずかしくて、油屋。は俯いた。その耳に、先ほど酔っぱらっていたときと同じ明るい声。
「なあんちゃって★ ハロウィン便乗のイタズラでしたーっ!」
「いじわる……」
「何を今更」
 涙目で子犬のようにこちらを見る油屋。の可愛らしさに、サマエルは彼女の頭を撫でてやる。酔っているのか醒めているのかわからないが、悪意がなさそうなので油屋。はされるがままにしていた。
 指を口に含んだ時の彼の言葉に、酔った勢いや悪ふざけだけでは片づけられない真剣さがあったことに、いつか油屋。は気がつくだろうか?



 船上での宴はまだまだ続く。ブラックスワン号は往路以上にゆっくりと、港へ帰る路へと滑り出した。



依頼結果:成功
MVP
名前:油屋。
呼び名:乳女 ゴリラ 早瀬
  名前:サマエル
呼び名:サマエル

 

名前:ミオン・キャロル
呼び名:ミオン
  名前:アルヴィン・ブラッドロー
呼び名:アルヴィン

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼鷹
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月13日
出発日 10月18日 00:00
予定納品日 10月28日

参加者

会議室

  • [7]油屋。

    2014/10/17-23:38 

  • [6]ミオン・キャロル

    2014/10/17-11:28 

    挨拶が遅れました、ミオンです。
    皆さん、よろしくお願いします。

    もう出発日なのね、仮装で半額…!
    服、何にしようかしら。

  • [5]菫 離々

    2014/10/17-07:12 

    こんばんは。スミレ・リリと、こちらはハチスさんです。
    よろしくお願いしますね。

    せっかくの機会なので、私たちもヴァンパイアの仮装で。
    そしてひたすらお料理を頂いているような、そんな気がします。

  • 私はジゼル。こっちはヘルムート。
    よろしく。
    半額っていい響きだよね。
    それにしてもさすがハロウィンって感じ…。

  • 私はファリエリータ・ディアル! よろしくねっ。
    豪華クルーズなんて素敵っ! いっぱい楽しもうと思うわっ。

  • [2]油屋。

    2014/10/16-00:31 

  • [1]油屋。

    2014/10/16-00:31 


    ハッピーハロウィ~ン♪で御座います。
    クルーズが半額の600ジェールと聞いて飛びつきました。
    では早速……撲殺悪魔から、一夜限りのヴァンパイアに変身ッ★(ドロン)


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