【ハロウィン・トリート】南瓜の見る夢(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●ふしぎなかぼちゃ
「『ふんわり酔い心地のする、不思議なポタージュを味わいにいきませんか?』」
 ミラクル・トラベル・カンパニーの青年ツアーコンダクターは、ウィンクルムたちにそう告げて、悪戯っぽく微笑んだ。
「ノフジってタブロス近郊の山里の村で、ハロウィンのお祭りがあるんだ。小さな村の小さなお祭りだけれど、無料で振る舞われるかぼちゃのポタージュがちょっと変わってて」
 濃厚な甘さが堪らないというそのポタージュスープには、村名産のかぼちゃがふんだんに使われている。黄昏時の色をそのまま映したような鮮やかなオレンジ色のそのかぼちゃは、タブロスではめったにお目にかかれない珍かな品種のかぼちゃだ。地元では夢かぼちゃと呼ばれるそのかぼちゃは、不思議なことに食べるとふわり酔い心地になれるのだとか。
「お酒に酔う感じに似ているらしいけれど、アルコールは勿論怪しい成分は一切含まれていないから、安心して食べられるよ。特に未成年だと、酔い心地なんてなかなか味わえないじゃない? 結構貴重な体験だと思うんだよね、うん」
 それに、ノフジ村は今、紅葉が盛りだ。里中の木々が赤黄に染まる様は、それだけでも壮観だろうと青年ツアーコンダクターは笑う。
「あ、ちなみにポタージュを無料で振る舞ってもらうには仮装が必須です! 黒猫のカチューシャを付けるとか、簡単なものでも大丈夫。勿論、凝りに凝った仮装で祭りに華を添えてくれるのも大歓迎だよ! っと、ツアーのお値段はウィンクルムさまお一組につき300ジェールとなっております」
 興味のある方はどうぞ良い時間をと、青年ツアーコンダクターはぺこり頭を下げた。

解説

●今回のツアーについて
ノフジ村のハロウィンと紅葉を楽しんでいただければと思います。
ツアーのお値段はウィンクルムさまお一組につき300ジェール。
ツアーバスで朝首都タブロスを出発し、午前中に町へ着きます。
数時間の自由時間の後タブロスへ戻る日帰りツアーです。

●ノフジ村の楽しみ方について
ここでしか食べられないものとして、ツアーコンダクターくんがご紹介している夢かぼちゃのポタージュがあります。
ポタージュは村の広場の屋台にて、仮装をしている人には無料で振る舞われています。
仮装の準備を忘れてきた! という方は1杯20ジェールでお買い上げを。
酔いの程度には個人差がありますが、お酒に強い方でもほろ酔い気分を楽しめます。
また、お酒に弱い方でも気分が悪くなったりはしませんのでご安心くださいませ。
小さな村の小さなお祭りですので他に「これぞ!」という見所はないと村の人たちは思っていますが、この時期木々の紅葉がとても美しいです。
広場にはベンチもございますので、まったりと濃厚なポタージュを口に運びつつ紅葉を目に楽しむのも一興かと。

●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは極端に描写が薄くなってしまいますので、お気を付けくださいませ。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

未成年もお酒に強い方も弱い方も、偶にはふんわり酔い心地になってみませんか? なお誘い……実は2回目です。
前回は男PC様の方で出させていただいたので今度は女PC様サイドで!
楽しくなってしまったり、素直になったり、パートナーに絡んだり……色んな酔い方があると思いますので、楽しんでいただけたら嬉しいなぁと。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

篠宮潤(ヒュリアス)

  「しまった、ね…。すっかり忘れて、た…」
ノフジ村の紅葉、綺麗だとどこかで聞いたことある気がして
楽しみにし過ぎて仮装の存在忘れ

「僕のストール、マントみたい、に…」
狼な相方だけでも仮装っぽく、と思ったら全力で断られ
まぁうん…紅葉、綺麗…だし、いっか
これ、素敵な村の名物だと思うんだけど、な
ベンチでのんびり

「えっ?あ…あり、がとう…」
奢られて内心凄くびっくり

「美人で聡明で、でも面白くて…僕は僕でいいと言ってくれて…」
「ヒューリ実は好きだった時とか、あったり?」
ポタージュ効果。いつもより饒舌
勢いで聞いたらまさかの返答が
あ、れ…うん『彼女』は誰からも好かれてた、し…
胸のどきどき、ポタージュのせい、だよね…


かのん(天藍)
  仮装:猫娘
カチューシャとワンピース、手袋:デートコーデ参照

オーガの事もあり盛り上がるならしっかり仮装
手袋の影響が恥ずかしく第三者いると口数少なめ
普段お酒で殆ど酔わないので夢南瓜に興味

人波離れ日当たりの良い所で紅葉眺めポタージュ頂く
ふわりとほろ酔い気分
普段は遠慮気味な好意の箍が外れ甘えモード
隣の天藍に撓垂れ掛かり頬ずり

抱き寄せられ我に返る
まだ素では言えないものの、青髭戦で殺されかけた経験から伝えられる時にと言葉にできずにいた想いを酔ったフリして話す

顕現し天藍と出会えた事が嬉しい事
抱きしめられる温もりに救われている事
天藍から貰う幸せを返したい事
天藍の存在がとても大切な事
・・・ずっと傍にいられたらと



八神 伊万里(アスカ・ベルウィレッジ)
  仮装:黒猫耳カチューシャと尻尾
アスカ君とお揃いだね

先にアスカ君に場所取りをしてもらって
ポタージュは一杯分貰う
ベンチに座り紅葉を楽しみながら飲む

※体質的に全く酔わないがほろ酔いふわふわ状態

ポタージュ、本当に要らないの?
前にルーメンで酔った事なら気にしなくてもいいのに
すごく美味しいよ、ほらっ一口だけでも!
はいっ、あーん♪
…そう言えば確かにふわふわしてきた
それじゃお言葉に甘えて膝枕してもらおう

わぁ、横向きで見る紅葉も素敵…ひゃっ!?
な、何してるのアスカ君…?
こんな所で耳掃除なんてダメぇ…!
そもそもなぜ綿棒を…

恥ずかしいが酔ってることもあり完全に骨抜き状態
じ、上手だった…
また今度お願いしてみようかな…



ロア・ディヒラー(クレドリック)
  仮装と紅葉を楽しめるなんて一挙両得なイベントだね

仮装は紫水晶の魔女(依頼履歴13番で着ていた簡易版。黒紫のゴスロリワンピースに魔女帽子。ハロウィンBU参照)

クレちゃんの仮装、前も思ったけど似合いすぎてて本物っぽいよ、道が開くんだけど

(ベンチでスープを飲み)ほわーんとして楽しい気分。これがほろ酔いなんだね
クレちゃんはお酒って飲んだことあるの?
クレちゃん?
(肩に腕を回されたり近いんだけど!?しかも表情が自然!?酔っ払ってるの!?)
だ、駄目じゃないけど
そのポタージュ同じのだよね?
(逆らえない…)あ、あーん

(表情豊かなクレちゃんって調子狂うな。なんか嬉しそうだししばらくしたいようにさせておこうかな)


ルン(テヤン)
  どちらかといえば紅葉を見に行く方が楽しみだったりするなぁ
今頃、ノブシ村の木々は暖色織り成す葉っぱのアートだよね。
ああ!早く観に行きたい!

仮装は、魔法使いの帽子とマントと、あとアクセントに箒!
よし!ポタージュを飲んでから紅葉見に行こうよ!

あ、でもその前に、ツアーコンダクターさんに紅葉を観る上で1番綺麗に観られるオススメスポットがあるかも聞かなきゃ。

「わぁ!しこたま綺・・・・・・」
あれ?紅葉を見ている内に、素の言葉(※秋田弁)になってる?
っていうか、さっき飲んだポタージュで少し酔ってる!?
テディも(喋り方が)変なの?
って、テディは元からそれじゃない!

ば、ばがげた事しゃべねあ!
おれ、バスさ先帰るべ!









●気持ちイイことしませんか?
「わあ、綺麗……!」
 山里を彩る鮮やかな紅葉を前にして、八神 伊万里は感嘆の声を漏らした。そんな彼女は、黒の猫耳カチューシャと尻尾で今は黒猫に変身している。くるりと後ろを振り返るや、
「アスカ君とお揃いだね」
 なんて、黒のインバネスコートを纏った吸血鬼ハンター……に扮したアスカ・ベルウィレッジに向かって屈託のない笑みを向ける伊万里。アスカは心内でため息を零した。
(……好意を自覚してから分かったことがある)
 伊万里は、恋愛に関して鈍感だ。だからもっと積極的にならなくてはいけないと、アスカは隠し持っている綿棒を手に弄んだ。
「それじゃあ、ポタージュ貰ってくるね。場所取りお願いしてもいい?」
 そんなアスカの考えなど露知らず、伊万里は屋台へと向かおうとする。
「ああ、分かった。あ、でも、ポタージュは俺は飲まなくていい」
「え?」
「前に酔っぱらって大泣きして迷惑かけたから……」
 言って、アスカは堪らず視線を逸らした。あの時のことは、今思い出しても恥ずかしい。気にしなくていいのに、と優しく言う伊万里だが、無理強いをするつもりは勿論なく。伊万里は1人分の夢かぼちゃのポタージュを貰って、アスカが場所取りをしてくれたベンチに、彼に並んで腰かけた。2人でゆったりと景色を楽しみながら、甘くて濃厚なポタージュを口に運んでいく伊万里。
「ねえ、アスカ君。ポタージュ、本当に要らないの? 前にルーメンで酔ったことなら気にしなくて大丈夫だよ?」
「いや、本当にいいから。気持ちだけ貰っとく」
 何といっても今日は伊万里を楽しませるのが目的なのだから、とアスカは胸の内に思う。
「えー? でも、すごく美味しいよ、ほらっ一口だけでも! はいっ、あーん♪」
 ふにゃりと蕩けるような笑顔でアスカへと匙を差し出す伊万里。ご機嫌な伊万里に向かって、アスカが呆れたように言葉零す。
「……って、もう出来上がってるじゃねえか」
「ふえ? ……そう言えば確かにふわふわしてきた」
 碧の瞳をとろんとさせて、ふわり酔い心地が誘うまま幸せそうに笑う伊万里。どこか危なっかしいような様子の彼女を促すように、アスカはぽんぽんと自分の膝を叩いた。
「ほら。膝貸してやるから、ちょっと横になって休め」
「ん……じゃあ、お言葉に甘えて」
 伊万里、アスカの膝に頭を預け、横向きになって景色を見やる。ゆるり、その口元に笑みが浮かんだ。
「わぁ、横向きで見る紅葉も素敵……ひゃっ!?」
 突然に耳に触れるものがあって、伊万里の口から思わず声が漏れる。にやりと笑うアスカの手には、綿棒が握られていた。
「な、何してるのアスカ君……?」
「伊万里こそ、何変な声出してるんだよ。ただの耳掃除だぜ?」
「そんな……こんな所で耳掃除なんて、ダメぇ……!」
 駄目とは言うものの、アスカの耳掃除テクニックは中々のもので。恥ずかしいとは思いつつも、酔いも手伝ってかその形容し難い心地良さに抗うこと叶わず、伊万里はアスカの手に全てを任せる。そもそも何故綿棒を……という疑問すら、耳をくすぐる愉悦の中に溶けていく……。
「よし、終了!」
 アスカがそう宣言した時にはもう、伊万里はアスカの膝に頭を預けたままくたりと骨抜き状態になっていた。
「じ、上手だった……」
 漏れ出る声に、アスカが満足げに笑う。
「腕には自信あるからまたやってやろうか?」
「う……また今度お願いしてみようかな……」
 どうにも照れ臭いけれど、とても気持ち良かったのもまた事実。伊万里がぼそぼそと小さく呟くのを耳に、アスカはそっと口の端を上げる。
(……鈍感にはこれくらい意地悪してもバチは当たらないよな?)
 そんな想いは胸の内に仕舞っておいて。穏やかな時間は、ゆっくりと過ぎていく。

●災難は口から出でる
「しまった、ね……。すっかり忘れて、た……」
 篠宮潤、広場にいる人の殆どがハロウィンの仮装をしているのを目に留め、自分たちがすっかりその準備を忘れていたことにようやく気がついて困ったように口元に手を宛がう。ノフジ村の紅葉は綺麗だと、どこかで聞いた覚えのあった潤。紅葉の方にすっかり気を取られてしまって、仮装のことがすっぽり頭から抜けていた。
「参った、な……。どうしよう、か……」
「俺は別にどうもせんが。俺は景色を見にきたわけなのでな」
 考え込む潤の隣、ヒュリアスはさらりと応える。実は仮装のことをちゃんと覚えていたけれど、潤が忘れていそうなのを見て取って敢えて黙っていたヒュリアスである。
「うむ。見事な絶景」
 紅葉に目を遣りつつしれっと言葉零すヒュリアス。その傍らでひとり唸っていた潤が、
「……あ。そう、だ」
 ふと、何か良いことを思いついたとでもいうようにおもむろに首元に巻いていたストールを外し始めた。そんな潤の様子を、ヒュリアスは怪訝な顔で見守る。
「何をする気かね?」
「えっと……こう、僕のストール、マントみたい、に……」
「却下なのだよ」
「……うぅ」
 急ごしらえではあるけれど、狼のテイルスたるヒュリアスだけでも仮装っぽく……という潤の目論見は、当のヒュリアスにばっさりと切り捨てられて頓挫した。
「まぁうん……紅葉、綺麗……だし、いっか」
 潤、色付く山々へと視線を遣って、ぽつりとそう零す。
「これ、素敵な村の名物だと思うんだけど、な」
 どこか表情を柔らかくする潤を横目に見やって、ヒュリアス、少し早まったかもしれん、などと思う。
(仮装くらいして、ウルに他の者とコミュニケーションを取る練習をさせれば良かったか)
 そんなことが頭を過ぎるも、今となっては後の祭り。ヒュリアスは心内でため息を漏らした。
「ウル」
「? な、に?」
「いつまでも突っ立っていないで、ベンチを確保しておいてくれんかね」
 それだけ言って、ヒュリアスは潤の傍を離れる。潤、急にひとりにされ暫し逡巡したが、彼の言葉の通り場所を取っておくことに決めてパタパタとベンチへと急いだ。紅葉を目に楽しみながらヒュリアスが戻るのをのんびり待っていると、
「えっ? あ……あり、がとう……」
 不意に言葉もなく手渡されたのは、夢かぼちゃのポタージュ。差し出したのは勿論ヒュリアスだ。仮装の件を彼なりに反省しての行動だったが、詫びの一言も告げない辺り彼もどこまでも朴念仁だ。潤はヒュリアスの行動に驚き、密か目を丸くしていた。
「何かね?」
「な、何でもない、よ……ありが、と」
「礼はさっきも聞いたのだよ」
 潤の隣へと腰を下ろすヒュリアス。そうして2人は景色とポタージュを目に舌に楽しんだ。そのうちに、自然と話は『彼女』の話題へと移っていて。
「――美人で聡明で、でも面白くて……僕は僕でいいと言ってくれて……」
「そうだな……あれ程出来た人間は俺も知らない」
「ヒューリ、実は好きだった時とか、あったり?」
 ポタージュの効果だろう、潤の口もいつもより滑らかに言葉を紡ぐ。と。
「知り合った時にはすでに恋人がいたしな。伝えるつもりも無かったのだよ」
 つるり。ヒュリアスの口からとび出した台詞に潤が、次いで自らの発言に理解が追いついたヒュリアスが目を瞠った。勢いで尋ねた質問へのまさかの答えに、思わず言葉を失う潤。一方のヒュリアスも、話すつもりのなかった過去を思わず口にしてしまい、自らの信じがたい失言に一気に酔いを覚ましていた。ほろ酔い効果恐るべし、である。
「あ、の……僕、紅葉見てくる、ね。もっと近く、で」
 席を立つ潤の何でもないような様子に安堵のため息を漏らし――その後、痛む額を抑えて1人反省会を始めるヒュリアス。一方の潤は、
(……うん『彼女』は誰からも好かれてた、し……。あ、れ……胸のどきどき、ポタージュのせい、だよね……)
 何故か鈍く疼く胸の辺りを、ぎゅっと握っていたのだった。

●意外な一面
「仮装と紅葉を楽しめるなんて一挙両得なイベントだね」
 紫水晶を思わせる魔女姿に扮したロア・ディヒラー。振り返ってクレドリックへと笑み掛ければ、黒紫のゴシックロリータ調ワンピースの裾がふわりと膨らんだ。
「それにしても……」
 改めてクレドリックの姿を見やり、ロアは軽く小首を傾げる。その動きに合わせて魔女帽が揺れた。
「クレちゃんの仮装、前も思ったけど似合いすぎてて本物っぽいよ」
 クレドリックの仮装は悪の狂科学者。血染めの白衣を秋の風にはためかせて、クレドリックはどこか満足げに頷く。
「普段から白衣を着ているから、着慣れている感が漂っているのだよ」
「それだけじゃないと思うけど……」
 だって、それだけでは彼が通るだけで周りの人々が道を開けるはずがない。ロアは苦笑を漏らした。
「まあ、いいか。クレちゃん、ポタージュ貰いにいこうよ」
 言って、何故だか自分たちの前だけ開けている道をロアは行く。その後姿を見やりながら、「ふむ」とクレドリックは顎に手を遣った。
(酔い心地になる南瓜のスープか……夢蜜房のようなことにはならないだろうし、私が傍にいれば大丈夫であろう)
 楽しそうなロアを見ていたい、とにぃと口の端を上げれば、預言者が海を割る如くにまたザアと人波が引いた。

「……何だか、ほわーんとして楽しい気分。これがほろ酔いなんだね」
 目当てのポタージュを手に入れて、2人は並んでベンチに腰掛けその珍かなスープを味わう。ふわふわとした不思議な感覚に、ロアはとろりと笑みを浮かべた。まだ飲酒を許されない歳であればこそ、余計に格別な心地もする。そんなロアの様子を観察しつつ、クレドリックもまたポタージュを口に運んでいた。
「そういえば、クレちゃんはお酒って飲んだことあるの?」
「ある。しかし、次の日何故か顔が筋肉痛になるのだよ」
「顔が筋肉痛?」
 二日酔いにしては奇妙な症状にロアは首を傾げるも、謎に答えが与えられるわけでもなく。変なの、とは思いながらもポタージュを口に楽しんでいると――傍らから、柔らかい声がした。
「……紅く染まる葉がとても綺麗だな」
 声に惹かれるようにしてクレドリックの方を見やれば、彼の顔にはごく自然な笑みが浮かんでいて。
「クレちゃん?」
 驚きに思わず名を呼べば、「何だね?」とこちらへと向けられる優しい笑顔。と、クレドリックの腕が、ロアの肩へと伸びた。近づく2人の距離。
(え、ち、近いんだけど!? しかも表情が自然!? 酔っ払ってるの!?)
 ロアがパニックに陥っているのを見て取って、クレドリックがしゅんと眉を下げる。それもまた、とても自然な表情の変化で。
「ロアの傍に行きたいのだよ、近くで見たい。駄目なのかね?」
「だ、駄目じゃないけど……」
 ふわり、またクレドリックが笑った。子供のそれのような混じり気のない笑みが、至近距離からロアへと真っ直ぐに向けられる。
「この衣装のロアも愛らしいな」
 クレドリックの手が、ロアの黒髪を梳くように撫でた。パートナーのあまりの変貌ぶりに、ロアの頭に浮かぶ一つの疑問。
「……そのポタージュ同じのだよね?」
「ん? 飲んでみるかね? ほら、あーんしたまえ」
 思わず問い零せば、差し出されるは一匙の甘いオレンジ色。常とは全く違う様子のクレドリックにペースを崩されてか、何だか逆らうことも叶わず、
「あ、あーん」
 と濃厚なポタージュを促されるまま口に運べば、「同じだろう?」と零される甘やかで無邪気な笑み。
(表情豊かなクレちゃんって調子狂うな……でも)
 釣られるようにして、知らずロアの口元も和らぐ。
(なんか嬉しそうだし、しばらくしたいようにさせておこうかな)
 なんて、思ってしまうロアである。
「ねえ、クレちゃん」
「うん?」
「明日、絶対顔筋肉痛だよ」
 そう笑い掛ければ、クレドリックはきょとんとして首を傾げた。

●紅葉のように色づいた
「紅葉って、暖色織り成す葉っぱのアートだよね」
 不思議なポタージュよりハロウィンの仮装より、ノフジ村の紅葉を目にすることを楽しみにしていたルン、広場へと続く道を行きながらうきうきと声を弾ませる。秋風に、ピアノモチーフのゴシックパンク服の上から羽織った魔法使いのマントがさわりと揺れた。頭には同じく魔法使い風の帽子、手には箒と、紅葉目当てとはいえ仮装の方もばっちりだ。
「ああ! 早く観にいきたい!」
「うーん、おいらは花より団子っつーか紅葉よりポタージュだからな!」
 腕組みをして言うのはテヤンだ。ルン、そんなテヤンを紫の瞳でじとーっと見やり、その背を箒でちょんちょんとつついた。
「ところで、テディ。その格好はなんなのよ」
「うん? 似合ってんだろ?」
 からりと笑う猫のテイルスは、今日は尻尾を黒に染めて、その頭には黒の猫耳カチューシャを身につけている。わざわざキャスケットで自前の猫耳を隠した上から、だ。
「心配すんなって! 服は黒のゴシックパンク服だからさ!」
「気になるのは服じゃないんだけど……」
「っていうか、とうなすのポタージュだろ? それ食ってから、紅葉観にいこうぜ?」
 テヤンの心は、どうやらもう無料で振る舞われるというスープの元へと飛んでいってしまっているらしい。ルンは苦笑いをした。
「もう、テディったら……まあ、いっか。よし! ポタージュを飲んでから紅葉見にいこうよ!」
「うっし! 合点でい!」
 にっと笑み零したテヤンにルンも笑顔を返して。と。
「あ! ……ツアーコンダクターさんに紅葉が1番綺麗に観られるオススメスポットがあるか、聞いておいたらよかった」
 ツアーバスはもう遠く、ルンはしゅんと肩を落とした。そんなルンを励ますように、テヤンがルンの背を力強く叩く。
「そんな顔すんなって! 代わりと言っちゃあアレでぇい、おいらもノフジ村の人に声かけて、紅葉観るのに良い場所聞いてくっから!」
 なっ? と明るく笑み掛けられれば、ルンの顔にも笑みが戻った。
「ん。ありがと、テディ」
「おう、任せとけって! 場所がわかったら、腹ごなしにそこまで競走しようぜ?」
「競争? しょうがないな、受けて立ってやろうじゃない!」
 そんなことを話しているうちに、2人は広場へと辿り着いた。

「はああ。なんつーか、綺麗なもんだなぁ」
 ポタージュ目当てだったテヤンも、広場で村人に聞いたお勧めスポットから見る紅葉に、思わず感嘆の声を漏らす。
「ほんと、しこたま綺……」
 そこまで言って、ルンは慌てて口元を抑えた。「ん?」とテヤンが首を傾げてルンの方を見る。
(あれ? 紅葉を見ているうちに、素の言葉になってる? っていうか、もしかしてあたしさっき飲んだポタージュで少し酔ってる!?)
 ひとりパニックに陥るルンを見やって、テヤンが問うた。
「ルン、どうかしたか?」
「な、何でもね!」
「うん? 何だ、その妙な喋り方?」
「う……お、おめさんだって元から変な喋り方だべ!」
「失礼な奴だな……んなこと言ってっと」
 ピロリーン。テヤンが取り出した携帯電話から鳴り響く電子音。ルン、怪訝な顔になって相棒に問う。
「……何しとるの」
「いや、折角だから録っとくかってな。録音機能」
「なっ……!」
 言葉を失うルンを前に、からからと如何にも楽しげに笑うテヤン。
「つーか、酔いが醒めんまでそのままなんだな! 面白ぇ!」
「馬鹿しゃべるな! 面白くね!」
 ぎゃんぎゃんと言い募ってしまった後で、ルンは大きなため息をついた。このままではいけない、喋れば喋るほどどつぼにはまってしまう。急に無言になったルンを前に、テヤンがぽんぽんと自分の膝を叩いた。
「ルン、疲れたなら膝枕すっぞ?」
「ば、ばがげたことしゃべねあ!」
 火照る頬を隠すようにルンは立ち上がり、「おれ、バスさ先帰るべ!」とずんずんと歩き出す。
「っておい! 帰んなよ!」
 テヤンの声が背を追ってくるのには、気づかなかったふりをするルンだった。

●貴方に伝える
「かのん、その衣装はまってるな」
「ありがとうございます。天藍も、よく似合ってますよ」
 ふわりと微笑み浮かべたかのんは、ワンピースに猫耳カチューシャで猫娘に変身中。手には猫の呪いが掛かった手袋『ネコマタ』を填め、やる気十分だ。天藍は優雅な伯爵の衣装を纏い、ウルフイヤーに狼の尻尾を身に付けて、紳士な狼男に扮している。
「オーガのこともありますし、魔を鎮めるためと思うと気合が入りますにゃん」
 言葉零してしまった後で、頬を朱に染め、慌てて口元を抑えるかのん。語尾に時折「にゃん」が付いてしまうのは手袋の呪いの効果だ。恥ずかしげに目を伏せるかのんが愛らしくて愛しくて、天藍は口元にそっと笑みを乗せた。「可愛い」なんて言ったらかのんはきっと益々真っ赤になってしまうだろうから、その言葉は心に留めておいて、
「それじゃ、ポタージュ貰いにいくか」
 と天藍はかのんを促す。こくと頷いたかのんと2人、屋台にてポタージュを貰い、人混みから離れた日当たりの良いベンチに並んで腰を下ろした。
(さて、かのんは酔うとどんなふうになるんだろうな)
 酒を飲んでも、常と殆ど変らず柔らかく微笑むかのん。そんなかのんがポタージュの効果でどんな一面を見せてくれるのだろうかと、天藍は彼女の様子を見守る。
「あまりお酒には酔わないので……実はちょっと楽しみですにゃん」
 そんなことを言いつつ、興味津々といった様子でポタージュを口に運ぶかのん。そのうちにその紫の瞳に、とろりと酔いの色が覗いてきた。
「紅葉が綺麗ですね、天藍……」
 普段は上手く制御している心の箍が外れたのか、かのん、甘えるように天藍へとしなだれかかり、彼の胸元へと頬を擦り寄せる。常とは違うその姿に僅か目を瞠るも、天藍はそんなかのんの肩を優しく抱き寄せた。その温もりにはっとして、かのんはいつもの自分を取り戻す。
(私ったら……ああ、でも)
 今なら、酔いに任せたふりをして胸の内の想いを言葉に乗せることができるかもしれないとかのんは思う。蒼い月照らす古城で、かのんは命を落としかけた。その経験が、彼女に訴える。想いは、伝えられる時にと。
「天藍。少し、お話をしてもいいですか?」
「? ああ、どうした?」
「私……顕現して、天藍と出会えたことが嬉しいんです。天藍の温もりに、どれだけ救われているか分かりません。幸せを貰うばかりじゃなくて、返したい。天藍は私にとって、とても大切な存在なんです。……ずっと傍にいられたら、と」
 その声が、言葉が耳に心地よくて天藍はそっと瞳を閉じた。安堵と喜びが胸に満ちる。
(嫌われてはいないんだろうとは思っていたが……)
 言葉という形になった想いは、こんなにも胸に染みるのか。彼女の温もりを間近に感じながら、天藍もまたあの夢の世界の古城での出来事を想う。あの戦いは、天藍に力不足を実感させていた。
(いっそ閉じ込めてしまいたい、なんて)
 彼女を傷つける全てのものから彼女を切り離し守りたい。そんな想いが、天藍の胸を過ぎった。瞳を開ければ、すぐ近くにかのんの微笑みがあって。込み上げるこの感情はきっと――独占欲という名を持つものだろう。
「……かのん」
 募る想いの溢れるままに、天藍は唇から愛しい人の名を零す。天藍の腕の中、その胸にそっと寄り添っていたかのんが、呼び声に惹かれるようにゆるり顔を上げた。その額へと、天藍は甘い甘い口づけを落とす。想いの全てを、その唇に乗せるようにして。
「天、藍?」
 驚いたように目を見開くかのんの頭を天藍はくしゃくしゃと撫でて、笑みを一つ零したのだった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:かのん
呼び名:かのん
  名前:天藍
呼び名:天藍

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 綾瀬みゆき  )


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月16日
出発日 10月23日 00:00
予定納品日 11月02日

参加者

会議室

  • [12]八神 伊万里

    2014/10/22-22:06 

  • [11]ルン

    2014/10/22-21:37 

    あたしも提出しました。
    明日は良い思い出になるといいですね。

  • [10]篠宮潤

    2014/10/22-21:33 

  • [9]かのん

    2014/10/22-19:25 

  • [8]ロア・ディヒラー

    2014/10/21-13:28 

  • [7]ロア・ディヒラー

    2014/10/20-20:13 

  • [6]ロア・ディヒラー

    2014/10/20-20:13 

    ロア・ディヒラーと申します。
    ルンさんは初めまして!潤さん、かのんさん、伊万里ちゃんはお久しぶりですっ。
    どうぞ宜しくお願いします!

    皆さん色々仮装なさるんですねー。私は魔女、クレちゃんは悪のマッドサイエンティストで行くみたいです。…クレちゃん普段とあまり変わらない気がするのですがまあ大丈夫かな。
    夢かぼちゃのポタージュ、美味しそうですよね。お酒はまだ飲めませんが、ほろ酔い気分って面白そうでっ紅葉を見ながらいい気分って楽しみです。

  • [5]篠宮潤

    2014/10/19-22:22 

    みんな、お久しぶり、だね。またご一緒でき、て、嬉しい…よっ
    ルンさ、ん、初めまして、だ。篠宮潤(しのみや うる)というよ。
    どうぞよろしく、ね。

    僕たち、は、紅葉を見に寄ったら……という感じ、かな。
    仮装、予期してなかった、ね…
    ヒューリだけでも…狼耳ある、し、僕のストール(グレー)マントみたいに羽織らせたら、…っぽく見えないかなぁ…
    ……あ。すっごく嫌がりそうな気配が、する、よ…;
    うん。気になったら、お金…払ってる、かと…(遠い目)

  • [4]八神 伊万里

    2014/10/19-21:56 

    八神伊万里です。
    ルンさんは初めまして、潤さん、かのんさん、ロアさんはお久しぶりです。
    よろしくお願いします。

    仮装はパートナーのアスカ君に合わせて、黒の猫耳と尻尾にしようかと思ってます。

    ポタージュも紅葉も楽しみですね。
    アスカ君は酔うととても可愛いのでそれも楽しみなんですが…
    はたして飲んでくれるでしょうか…?

  • [3]かのん

    2014/10/19-20:49 

  • [2]かのん

    2014/10/19-20:49 

    かのんと申します
    ルンさんはじめまして、潤さん、伊万里さん、ロアさんお久しぶりです

    夢かぼちゃのポタージュが面白そうですよね、普通のかぼちゃと何が違うのかしら
    仮装は・・・猫と狼の耳が出てきたのでこの線で考えようかと思案中です
    折角のお祭りですし楽しく過ごせる良いですよね

    では、あらためまして

  • [1]ルン

    2014/10/19-18:17 

    皆さん初めまして、ルンといいます!
    ポタージュも紅葉を見に行くのもすっごく楽しみです。

    仮装は、まだ決めていないので悩んでるんですけどね‥‥‥。
    当日はよろしくお願いします!


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