【ハロウィン・トリート】ハロウィンウエディング(山崎つかさ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●A.R.O.A.からの相談
「これは……! 素晴らしい依頼がきましたよ、みなさん!」
 A.R.O.A.本部の受付。
 新人の若い男性職員が、くりっとした目をきらきらと輝かせ、受付に集まっているウィンクルム達の肩を叩く。
 何事かと皆がそろって首を傾げる中、若い男性職員が、満面の笑顔でびらっと顔の前に依頼書を掲げた。

 そこに書かれていたのは―……

『依頼書 タブロス市内のとある広場で、昼間の11時から、ハロウィンのお祭りに合わせて一組の男女がウエディングパーティを行います。そこで、ぜひいろいろな特技をお持ちのウィンクルムの皆さまもご参加くださり、ゲストとして結婚式を盛り上げていただきたいと考えております』

 依頼書は、結婚式を企画している幹事のものと思われる筆跡で、丁寧に文字がしたためてある。
 ハロウィンに合わせてウエディングパーティを行うとは、なんだかお祭り騒ぎの賑やかで楽しいものになりそうだ。
 話を聞いたウィンクルムの皆は、わくわくと食い入るように依頼書を覗きこんだ。

 依頼書には、パーティは野外の立食形式で行うので、手料理が得意な方がいたら、ぜひともカボチャを使ったお手製のお菓子をご持参下さいと書かれている。

 さらに、パーティのクライマックスの余興で、新郎が新婦に向けて歌を披露する予定なので、音楽がお得意な方がいたら、楽器演奏やコーラス、ダンスなどで盛り上げていただきたいと書き添えられていた。
 ちなみに、新郎が歌う予定の曲は、タブロスに古くから伝わる可愛らしいメロディの民謡であり、歌は壊滅的に音痴らしい。
 これを成功させるのは、ウィンクルム達の手腕と器量にかかっているかもしれない。
 演奏に必要な楽器は、A.R.O.A.が超特急で取り揃えるので、事前に男性職員に伝えてもらえれば大丈夫だそうだ。

 また、依頼書の最後には、気になる文言がさらっと書かれていた。

『パーティの途中でファーストバイトを行いますので、ウィンクルムの皆さまにもぜひご参加いただきたいと思います。また、パーティの締めには、新郎新婦から、ブーケトスならぬカボチャトスを行う予定ですので、ウィンクルムの皆さまにも甘い愛の幸せをおすそ分けできたらと思います。どうか、良いお返事をよろしくお願いいたします』

 幸せのおすそ分け。
 ブーケトスよろしく、カボチャがぽーんっと宙を舞うかなりコミカルな様子が想像できるが、それを受け取ることができた神人と精霊は、きっと、ラブラブな新郎新婦のように甘い関係を築けるに違いない。

 また、ファーストバイトとは、カットしたウエディングケーキの一部を、新郎新婦が互いに食べさせ合うなんとも恥ずかしいイベントなのだが、これにもウィンクルム達に参加してもらい、お互いにケーキを食べさせ合ってほしいということらしい。
 ウィンクルム達は無意識に顔を見交わしてしまい、なんだか気恥ずかしくなってきて、もじもじと視線を逸らす。
 さながら恋人同士のように「はい、あなた、あーん」の真似事をしなければならないとは、なかなかにハードルが高い……! なんだか今から緊張してくるようだ。

「以上です。ハロウィンウエディングパーティを盛り上げることができれば、きっと街にうごめいているハロウィンの魔も、幸せラブパワーで鎮められると思います」

 みんなが幸せになって、ついでに魔も鎮められるとは、一石二鳥である。
 これは、どんどん盛り上げて盛大な結婚式にしなければ、とウィンクルム達は更にめらめらと気合いが入る。

「パーティは一応ドレスコードがありますので、神人の皆さまは可愛らしいドレスを、精霊の皆さまは王子様のようなタキシードを着て、神人の皆さまをエスコートしてきてくださいね! では、一緒にハピネスいたしましょう!」

 男性職員が、両の拳を握って嬉しそうに提案する。

 ウエディングパーティの盛り上げ役。
 きっと、一緒に参加するウィンクルムの皆が作った美味しい手料理をご馳走になることができたり、素敵な演奏を一緒に奏でられたりと、大切な友人やパートナーとの一生の思い出ができるだろう。

 ウエディングパーティの成功は、ここにいるウィンクルム達の力にかかっている。
 皆はそれぞれに相方の精霊に笑いかけた後、男性職員に向かって、「私たちに任せて」と力強い笑顔を浮かべるのだった。

解説

【解説】
 ご覧いただきありがとうございます。山崎つかさ(やまざき・―)です。
 ウィンクルムの皆さんで、ハロウィンウエディングパーティを成功させましょう。

【課題】
・カボチャを使ったお菓子の持参
 参加費…カボチャのお菓子の材料費 300Jr
 (ふかふかスポンジ、大きなイチゴ、チョコのメッセージプレート、カボチャ代等いろいろ)

・ファーストバイト
 お互いにどうやってケーキを食べさせ合うのか、ご記載ください。
 口に入りきらないような巨大なケーキの大きさにしても大丈夫ですし、逆にアクシデントで顔にべちゃっといっちゃっても大丈夫です。
 ここをメインで書きますので、プランに厚く書いていただけると助かります。

・新郎の民謡を歌う余興のお手伝い
 ピアノ、ヴァイオリンといった楽器、コーラス、ダンスなど思い思いにどうぞ。
 たとえば、ピアノと歌と踊りなどで合奏してセッションしてくださっても構いません。
 新郎の壊滅的音痴を助けてあげてください。

・ドレスコード
 どんなドレスやタキシードを着ていくのか、色やデザイン等を明記してくださると助かります。
 和装やチャイナドレス、ハロウィンなので常識の範囲内での仮装もOKです。

【NPC】
新郎 良家のお坊ちゃん フェリックス
新婦 街の花売りの娘 クリス
 良家出身のフェリックスが、街の平凡な花売りの娘クリスを見染めた結婚式です。
 積極的に登場はしませんが、もしご用がありましたら、お声掛けください。

ゲームマスターより

 気楽にみんなでわいわいハロウィンウエディングパーティを楽しもうというラブコメディ企画です。
 やりたいことを詰め込ませていただいて、盛りだくさんのイベントですので、広く全体的に薄めの描写になると思います。
 皆さまのPCを大切に、思い出に残るようなリザルトノベルをお届けできたらと思います。
 皆さまのご参加を、お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リゼット(アンリ)

  花嫁より目立ってしまわないよう
暗めの青のドレスに銀のストール
スカートの下にはパニエでふんわりと楽しげに

お菓子はかぼちゃのマフィン
ほとんどアンリが作ったけど…
ラッピングは私がしたんだから!

ケーキを食べさせあえばいいのよね
はぁ?何いってんのよ
(そっと持ってたフォークを置き
たーんとおあがり!
(アンリの後頭部を掴んで顔をケーキに叩き込む
…妙なコト言うんじゃないわよ、馬鹿
って、何でそんなとこのケーキを食べなきゃいけないのよ!
うっ、これは食べなきゃ収まらない周りの雰囲気…
た、食べればいいんでしょ!(やけ気味に勢い良く

歌は得意という訳じゃないけど
アンリに教わってきたから頑張る
悔しいけど歌は上手いのよねこいつ


エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
  心情
歌や製菓の技術はありませんが楽しげなので参加ですよ! 新郎新婦に祝福を。

服装
黒いレースのボレロ。オレンジのドレス、クモの巣柄

余興手伝い
精霊と練習してきたコーラス

行動
ファーストバイトは縁起の良い風習として受け止め、穏やかな雰囲気で実行します。
口元を汚さずスムーズに食べることができました。ある理由で、誰かに食事を食べさせてもらうのに慣れてるんですよね。
ラダさんから小声で話しかけられた内容にニヤリ。
「うふふ。それでは、ラダさんが病院送りになった時の予行練習をしましょうか」
ラダさんは食欲旺盛なので、ケーキはちょっと多めぐらいでちょうど良さそうです。丁寧にケーキを運びます。キレイにたいらげましたね。


エメリ(イヴァン)
  ハロウィンに結婚式かぁ
珍しいしきっと素敵な思い出になるよね

お菓子作りは少しなら出来るよ(菓子・スイーツ1)
失敗しないよう安全にかぼちゃのカップケーキにしてみたよ
ハロウィンだしカラフルに飾りつけすれば見た目も楽しめるよね

ファーストバイトってこういう事するんだね
はい、じゃあイヴァンくんあーん
恥ずかしい?だめだよ、こういうのは堂々としてなきゃ
私は全然平気だよ?
うん、美味しい
…ごめん、やっぱりちょっと恥ずかしいというか、照れるね
はい、じゃあ次こそだよ

歌にはコーラスで参加するよ
みんなで歌えば新郎さんの声も紛れれば…いいな
私も歌はそんな上手くないけど練習してきたし…
要は気持ちだよね!

ドレス:青、細部お任せ


紫月 彩夢(紫月 咲姫)
  精霊の皆さまは王子様みたいにかっこいいタキシードを着て下さいですって
勿論、咲姫もタキシードよね?(スマイル)

あたしのドレスはハロウィンカラーのカクテルドレスにショール
仮装有なら濃い目のタイツでも良いわよね。魔女っぽいイメージに

歌には混ざるわよ
楽器はできないから、コーラスだけ
少しは練習したし、邪魔にならないとは思う(歌唱スキル)

ファーストバイト…笑顔で咲姫の口にねじ込めばいいんでしょ?
兄妹だもの。それくらい恥ずかしくもないけど…
デレデレしないできりっとしてなさいよ
かぼちゃトスは後ろの方に居るわ。他の人を勧める

…今日は、咲姫を兄って紹介できる初めての日かもしれない
…最初で最後に、ならなきゃいいけど


●開始
 青い空に恵まれた野外の会場で、絹糸のような金髪の男性が、美しく着飾った紫の髪の女性をエスコートしていた。

「リズ、ドレス似合ってるじゃねぇか。可愛くてどきどきしちまうぜ」
「じ、冗談言ってるんじゃないわよ。それに、あんたは目立ち過ぎなのよ!」

 暗めの青のドレスに銀のストールを巻いているこの女性は、リゼット・ブロシャール。
 スカートの下に履いたパニエが、ふんわりと軽やかで楽しげなドレスだ。
 隣に並ぶリゼットの精霊―アンリ・クレティエは、シンプルな黒のタキシード姿。
 王子然とした顔立ちの彼に似合っていて、彼がリゼットに笑いかけるたび、ゲストの女性からきゃあきゃあと歓声が上がっていた。

「ねぇアンリ、このかぼちゃのマフィン、私にしては上出来だと思うのよね」

 持参したお菓子を自信満々に見せるリゼットに、アンリがぶはっと噴きだす。

「何言ってんだよ! 大体それ、ほとんど俺が作」
「ラ、ラッピングは私がしたんだから!」

 言いかけたアンリの足をヒールで踏んで黙らせたところで、リゼットの目の前に一輪の薔薇が差し出される。

「はぁい、お花よ、リゼットちゃん、アンリ君」

 リゼットがそれを受け取ると、薔薇がたくさん入った籠を腕に提げている男性―紫月 咲姫が、いたずらっぽく笑いかけた。
 紺色のタキシードに身を包んだ咲姫は、まるで女性と見紛うほどに整った容姿と相まって、見る者を惹きつけるような中性的な美しさを携えている。

「ハッピーハロウィンウエディング! ふふ、私、参列者にお花配りしてるの。彩夢ちゃんも手伝ってくれてるのよ。彩夢ちゃーんっ!」
「ちょっと、そんな大声で呼ばないでよ。目立ってるじゃない」

 呼ばれて、ハロウィンカラーのカクテルドレスに、ショールを羽織った紫月 彩夢が歩いてくる。
 濃い目のタイツで魔女のイメージにした服装は、スレンダーな彩夢をより女性らしく艶やかに見せていた。

「彩夢ちゃんが、彩夢ちゃんがドレス……!」

 美しいドレス姿の彩夢に、咲姫がうるうると感涙する。

「ううう、彩夢ちゃん可愛い本当可愛い世界一可愛い宇宙一可愛い天下一可愛い鼻血出そうだわ! あ、ほんとに出てきっ……」
「……咲姫、いい加減にして」

 なんだかんだ言いながらも咲姫にティッシュを渡す彩夢に、アンリが首を傾げる。

「二人ともよく似てるが、兄妹だよな?」
「兄の咲姫です。今日は、咲姫を兄って紹介できる初めての日かもしれないわ」

 最初で最後にならなきゃいいけど、と彩夢が呟く。
 咲姫は事情があって幼少期から女装をしており、彩夢は、自分よりも綺麗な兄に密かにコンプレックスを感じていた。
 今日は、強制的に咲姫にタキシードを着せられるため、兄へのちょっとした抵抗で参加したというわけだ。

 彩夢と咲姫が持参したお菓子は、ホットケーキミックスに南瓜を混ぜたスコーンだった。
 ジャック・オー・ランタンを模した筋と切れ目を入れて、南瓜の皮で目を付けている。
 咲姫が本で調べた作り方で、簡単で可愛らしく、見た目も華やかであった。

 また、会場のテーブルにはドロップ型をしたアロマディフューザーが置かれていて、ラベンダーとカモミールのエッセンスを混ぜた豪勢な香りが会場を包み込んでいた。

「うふふ、良い香り。この匂いをかぐたびに、今日という幸せな日を思い出せますように」

 黒いレースのボレロにオレンジ色のドレスを身に付けたエリー・アッシェンが、密かに微笑む。
 ドレスに大胆に入れられたクモの巣柄が、彼女の妖艶な雰囲気にぴったりであった。

「エリーは気が利くねぇ。ボク、エリーが使うアロマ、大好きなんだよぉ」

 黒のスーツにコウモリ柄のネクタイを締めた、エリーの精霊であるラダ・ブッチャーが、会場の香りを楽しむように鼻を揺する。

「素敵な香りだね。エリーさんはアロマに詳しいんですか?」

 そこへ、アロマの香りに誘われて、夜空を切り抜いたような青のドレスを着たエメリが、軽やかに歩いてくる。
 ややたどたどしい足取りの彼女に、気遣いながら腕を貸しているのは、彼女の精霊であるイヴァンだ。
 イヴァンは濃い灰色のタキシードに身を包んでいて、彼の無駄のない細身の体を存分に際立たせていた。

「ええ。普段はアロマショップで働いているのです。エメリさんは可愛らしい方ですから、バニラの香りが似合うと思いますよ。はい、よろしければ差し上げます」

 エリーが、バッグからバニラアロマの小瓶を取り出して、エメリに手渡す。

「わあ! いただいてもいいんですか、エリーさん」
「はい。晴れやかな日のささやかな祝福ですよ」

 嬉しそうなエメリの隣で、イヴァンが籠いっぱいのかぼちゃのカップケーキを置く。

「ヒャッハーッ! すっごく美味しそうだねえ!」
「ありがとうございます、ラダさん。エメリさんはパン屋で働いているだけあって、こういうの…得意だったみたいですね。細かい分量を見るのとか苦手そうに見えましたが」
「もう! それどういう意味なの、イヴァンくん!」
「そのままの意味ですよ、エメリさん」

 頬を膨らませるエメリに、イヴァンが涼しげな顔で返す。

「私たちも、ラダさんが作ったチョコチップ入りカボチャマフィンを持ってまいりました」
「ボク、チョコチップ大好きなんだよねぇ! プチサイズだよぉ」

 そうして、みんなで談笑していたところで、司会の男性がマイクを高らかに掲げる。

「みなさーん、そろそろファーストバイトのお時間です!」



●ファーストバイト
 ケーキに入刀した新郎新婦が、先にファーストバイトを終える。
 残ったケーキの部分はゲストに配るということで、同じようにファーストバイトを行うウィンクルムのために、A.R.O.A.が差し入れた渾身のケーキが届いた。
 ちなみに、ファーストバイトの順番はくじ引き。
 それぞれの神人たちが引いた、その結果は……!?

「……あたしたちが一番じゃない」
「さっすが私の彩夢ちゃん! くじ運抜群ね」
「良いのか悪いのかわからないわよこんなの」

 頭を抱える彩夢に、咲姫が拍手喝采を送っている。

「2番は私たちですね、ラダさん。ファーストバイトは縁起の良い風習ですから、私たちは穏やかに行いましょうか」
「ファーストバイトって気恥ずかしいけど、滅多に食べられない高価なケーキが食べられる機会だよねぇ。しかもエリーに食べさせてもらえるなんて楽しみだなぁ」

 ふふふ、とまるで過去の記憶を思い出すような雰囲気で、エリーとラダが微笑み合う。
 その横で、エメリがイヴァンの顔を覗きこんだ。

「私たちは3番だね、イヴァンくん」
「……そう、ですね。そもそもこれ、本当にやらなきゃいけないんですか? やらなければいけないのはわかっていますが、簡単には割り切れないというか……恥ずかしいです普通に」
「恥ずかしい? だめだよ、こういうのは堂々としてなきゃ。私は全然平気だよ?」
「ええ、エメリさんは平気でしょうね」
「だからもう、さっきからどういう意味なの!」
「ですからそのままの意味ですよ」

 相変わらず仲の良いエメリとイヴァンの後ろで、リゼットが鬼の形相でぶるぶるしていた。

「最後ってどういうことよおお! 説明しなさいよこのバカ犬!」
「バカ犬言うな! 俺のほうが叫びたいわ!」

 栄えある大トリは、リゼットとアンリのコンビに決定!

「……とにかく、ケーキを食べさせあえばいいのよね。大丈夫よリゼット、あなたならできるわ……」

 くるりと後ろを向いたリゼットが、こっそり自分に言い聞かせていた。



「じゃあ、一番は私たちね。彩夢ちゃん、こっちにおいで」

 頬が落ちるんじゃないかってくらい満面の笑顔の咲姫が、彩夢を手招きする。

「咲姫とは兄妹だもの。それくらい恥ずかしくもないけど…」
「彩夢ちゃん、早くううう!」

 両手を広げてすでに豪快に口を開けているテンションマックスの兄に、彩夢は頭痛でくらりとめまいがする。

「咲姫! デレデレしないできりっとしてなさいよ」
「この状況でデレデレしちゃ駄目なんて、私どうしたらいいのよ!?」
「突然真顔で言わないで」

 そして、ケーキをフォークで掬い上げて、咲姫の前にかざす。

「彩夢ちゃん、その量はちょっと多……!」
「平気よ。咲姫の口にねじ込めばいいんでしょ?」
「いやねじ込むって、彩夢ちゃん待っ……!」

 問答無用! 彩夢は、咲姫の精一杯開いた口に大きめのケーキを激突させる。
 それを必死に口で覆って飲みこみながら、咲姫がでれでれと自分の頬を両手で押さえた。

「ふふ、甘ぁい。彩夢ちゃんに食べさせてもらっちゃった。とても美味しいわ」
「なに言ってるのよ。兄妹だし、普通のことじゃない」
「そうだとしても、お兄ちゃん、すごく嬉しいんだから」

 そっと一口サイズにケーキを取って、彩夢に差し出す。

「今度は彩夢ちゃんの番よ。はい、あーん」
「やめてよ、恥ずかしい……」

 そう言いながらも、彩夢は、兄のいつも通りの仕草や笑顔に、どこか緊張していた心がほぐれていくようだった。
 兄はいつだって、彩夢のことを一番大事にしてくれる。
 なんだかんだ言っても、彩夢にとって、咲姫は誰よりも身近で大切な兄であった。

「今日だけ……。今日だけ素直に食べてあげるわよ」
「ふふふ、可愛いわね、私の彩夢ちゃんは!」

 兄が差し出してくれるケーキを素直に食べながら、彩夢は、少しだけ兄との距離が縮まった気がしていた。



 続いて2番手に登場したエリーとラダは、まるで手慣れたようにラダがちょうどいい大きさのケーキを取る。

「なんだか懐かしいよねぇ。こうして食べさせてあげるのって」
「うふふ、そうですね。あの時も、ラダさんがずっと私の傍にいてくれましたっけ」

 ラダが差し出したケーキを、エリーは口元を汚さずスムーズに食べる。
 エリーは、過去に乗り越えてきた出来事から、誰かに食事を食べさせてもらうことに慣れていた。

「うん。ほら、エリーがスナイパーにライフルで脇腹をえぐられて、初任務で即病院送りになった時にさ」
「……ええ、そうでしたね。よく、覚えております」

 ちょっと特殊な内容なので、エリーの耳元で小さく囁くラダに、エリーがにやりと唇を持ち上げる。
 そんな大怪我をしてしまった時の思い出さえ、笑いながら流せてしまうくらいに、エリーは戦闘狂だった。
 だが、単純に戦いが好きでそうなっているわけではない。
 昔、エリーの友達が顕現し、精霊と契約する前にオーガに狙われてしまい、帰らぬ人となった過去があるのだ。
 もしかしたらエリーには、謎の多いオーガに恐怖と興味を持ちつつも、親友の仇をとるという激情が心の奥に秘められているのかもしれない。

「エリー、ボクは心配なんだよぉ。エリーは、たまに無理をしすぎるから」
「……ありがとうございます。でも、ラダさんの力があれば、平気ですから。―それでは、ラダさんが病院送りになった時の予行練習をしましょうか」

 一瞬思い詰めた顔をしたエリーだったが、それを振り払うように、すぐにミステリアスな笑顔を浮かべる。
 それに応えるように、ラダもいつも通りの気さくな表情に戻した。

「アヒャヒャ、ケーキ、ケーキ!」
「ラダさんは食欲旺盛なので、ケーキはちょっと多めぐらいでちょうど良さそうですね。はい、どうぞ」

 丁寧にケーキを運ぶと、ラダが差し出されたケーキをぺろりとかっさらう。

「うふふ、キレイにたいらげましたね、ラダさん」
「これで予行練習はばっちりだねぇ、エリー!」

 エリーの肩を叩きながらも、ラダは彼女に気遣うような視線を向ける。
 口には出さないけれど、エリーはボクが守るからねと、そう、心に誓いながら。



「わああ、次は私たちの番だね、イヴァンくん!」
「……楽しそうでなによりです」
「顔が引きつってるよ?」
「身も心も引きつってますよ!」

 相変わらずツーカーのエメリとイヴァンがケーキの前に並ぶ。

「こういうのは堂々と大胆にやらないとね」
「……そこまで言うなら手本を見せてください、エメリさん」
「え!?」

 狼狽するエメリに構わず、イヴァンが彼女の小さな口元にケーキを運ぶ。
 徐々に近づく、彼女の唇と彼のフォーク。
 ほんのひと時のはずなのに、とても長く感じる甘い瞬間。
 そして、ぱくっと、エメリがついばむようにケーキを口に含んだ。

「うん、美味しい」
「そ、そうですか、それは、よかったです……」

 うっすらと、桜色に頬を染めるエメリ。
 それにつられるように、イヴァンも耳元が少し赤くなる。

「…………」
「…………」

 照れたように視線を伏せる二人の間に、むずがゆいような沈黙が流れる。

「……ごめん、やっぱりちょっと恥ずかしいというか、照れるね」
「ですよね、気持ち分かって頂けたようで嬉しいです。というよりこれ、やる方も恥ずかしいんですが」
「そ、そうだよね! はい、じゃあ次こそイヴァンくんの番だよ」

 エメリの言葉に、イヴァンがしかめっ面でケーキを待つ。

「はい、じゃあイヴァンくんあーん」

 イヴァンの薄く開いた口の中に、甘く広がっていくケーキの味。
 ほんのりとした甘さが、二人を優しく満たしていくのだった。



 しゅごおおっと怒気をはらんだ様子で、リゼットがずんずんとケーキの前に進み出る。

「……あの、リズ? おまえ、何か怒ってるのか?」
「お、怒ってないわよ! 緊張してんのよ!」

 最後のトリということもあり、皆がわくわくとリゼットとアンリの様子を見守っている。

「んじゃまずは俺の番だな。リズ、俺に食べさせてくれ」

 口を開けて待ち構えると、リゼットが緊張からか真っ赤な顔で、おずおずとフォークを進める。
 ケーキがアンリの口に運びこまれようとした瞬間、アンリがふと真顔を浮かべて、至近距離にいるリゼットを射抜くように見つめた。
 そして、心に響くような艶のある声で、囁く。

「……愛してるぜ、リズ」

 ぴた、とリゼットのフォークを持つ手が止まる。
 愛してるぜ、愛してる、愛してっ……。

「……は、はぁ!? 何言ってんのよ妙なコト言うんじゃないわよばかアンリ!」
「ひどい言われ様!? というか、あれ、なぜフォークを置くのですかリズ様……!」

 思わず様付けしちゃったアンリの目の前、不自然なほど輝くような笑顔のリゼットが、ことりとフォークをテーブルに置く。
 これはもう使わないわ、とでもいうように。

「……そんなにケーキが食べたいのなら、たーんとおあがり!」
「え、ちょっ、リズっ、待っ、ぎゃあああ!? ぶふおっ!」

 アンリの後頭部をつかんだリゼットが、勢いをつけてアンリのイケメンフェイスをケーキにぶっ込む!
 そりゃもう無慈悲なくらいに……!

「好きなだけ食べたらいいのよこの馬鹿!」
「……ケ、ケーキ……すげーうまい……ハハ……」

 乾いた笑いをしながら、ゆらりと顔面を起こしたアンリ。
 おっと、ケーキがこの状態では、リゼットが食べる場所がないではないか!
 悩んだアンリは、自分の頬に付きまくっている生クリームを、その長い指で示す。

「ほら、次はおまえの番だよな? いくらでもこれ食っていいぜ」
「はぁ!? 何でそんなとこのを食べなきゃいけないのよ!」

 今度はリゼットが衝撃を受ける番だったが、会場のゲストから期待の熱視線が送られる。

「リズ、遠慮しなくていいんだぜ? 俺とおまえの仲じゃねぇか」
「どんな仲よ!? た、食べればいいんでしょ、食べれば!」

 半ばやけになりながら、リゼットは、アンリの頬に勢いよくぶつかっていく。
 生クリーム越しに触れ合った頬と唇は、ほんの一瞬の短い時間だったのに、やたらと熱く感じるのであった。



●余興
 次はいよいよ余興の時間となった。

「みんな、パートの割り振りは?」

 今回、手拍子と指揮を担当する咲姫がみんなを集める。

「ソプラノはエメリさんと私ですよね? エメリさんと一緒なら心強いわ」
「ありがとう、リゼットさん。みんなで歌えば、新郎さんの声も紛れれば…いいなって思う。私も歌はそんな上手くないけど練習してきたし…要は気持ちだよね!」

 リゼットとエメリがお互いを見合う。

「アルトは私と彩夢さんですね。私も、ラダさんと一緒に歌を練習してまいりました」
「あたしも少しは練習してきたから、邪魔にならないとは思う」

 エリーと彩夢がハミングで音を合わせる中、突然アンリが「ああええいいおおう~」と素晴らしい声で発声する。

「ウヒャァ、アンリは歌が上手いんだねぇ」
「ああ、歌にはちょっと自信あるぜ? 新郎よりも前に出過ぎないようにしつつ、しっかりフォローしてやるよ」

 感心するラダに、えへんと胸を張るアンリ。
 男性側は、アンリとイヴァンがテノール、ラダがベースだ。

「基本は新郎のハモリ、大きく音が外れそうなところはユニゾンがいいと思うぜ」
「わかったわ。悔しいけど歌は上手いのよね、アンリって」
「リズ、一言多いぞ?」
「食べたり歌ったり、今日は本当に、手広くやらされますね」

 はあ、と頭を抱えつつ、イヴァンはどこか楽しそうに微笑む。
 なんだかとても大変なはずなのに、すごく、楽しい。

 新郎を囲う形で並んだみんなは、咲姫の手拍子と指揮に合わせて、各々に伸びやかな声を響かせる。
 リゼットとエメリの高くて可愛らしい声に、エリーと彩夢の落ち着いた女声がハーモニーを重ね、アンリとイヴァンのテノールが涼やかな音色を奏でて、ラダの心地よく響く声がみんなの音を支えていく。
 こうして、新郎の歌も大成功に終わり、いよいよパーティは終盤となるのだった。



●トス
「いよいよカボチャトスですね、ラダさん」
「ボク、日ごろの腕を生かして必ずゲットしちゃうもんねぇ!」
「うふふ、私も負けませんよ」

 ぎらり、とエリーが目を輝かせる。
 この二人がタッグを組んだら、取れないトスなどないのかもしれない。

「トスを受け取った女の子は、次に結婚できるって言われてるんだよね」
「そうらしいですね。どうせ、エメリさんは迷信だとしても信じるんでしょう?」
「うん! その時、隣に並んでくれる旦那さまは誰なのかな? ……もしかして、イヴァンくんだったりして!」
「なっ!? い、いきなり何を言い出すんですか、心臓に悪いですよ!」

 びくりと震えて言い返してみれば、エメリはくすくすと楽しそうに笑うだけ。
 本当に、今日は彼女に振り回されっぱなしだ。

「リズ、俺が必ずトス取って、おまえにプレゼントしてやるよ」
「はぁ? いらないわよ別に! 結婚したい人なんていないし」
「ほお? こんなに近くに良い男がいるのにか?」

 不敵に唇を持ち上げて笑むアンリに、リゼットはなぜか胸がどきどきして仕方ない。
 今日は結婚式だから変な魔法にでもかかってるのよ、とリゼットは自分を納得させる。

「あたしは後ろの方に居るわ。他のみんなに勧めたいから」

 みんなから距離を取って並んだ彩夢に、咲姫が歩み寄る。

「彩夢ちゃん、トスを取ったら次に幸せになれるかもしれないんだから、前に出なきゃ」

 咲姫の言葉に彩夢が首を振った瞬間、前にいたみんなが盛大に手を振ってくる。

「彩夢さん! そこじゃトスが届かないよーっ!」
「うふふ、ここが空いておりますよ、彩夢さん」

 エメリが大声で彩夢に呼びかけて、エリーが手招きする。

「もう、みんな優しいんだから。今行くわ」

 彩夢が、苦笑しながらも、どこか軽い足取りでみんなの許に駆け出していく。
 残された咲姫は、みんなに囲まれて楽しそうに笑っている彩夢を、そっと見つめた。

「可愛い彩夢ちゃんが見れて私は幸せ。早く、本当に世界一可愛い彩夢ちゃんが見たいな」

 いつか、彩夢にも生涯を共にする相手が見つかるのだろう。
 自分は、それを兄として一番近くで見守っていけたらいい。
 妹の幸せを心から願いながら、咲姫もみんなのところへ歩み寄っていく。


 トスは、巨大なバルーンでできたカボチャを投げるという一風変わったものだった。
 宙を舞ったカボチャバルーンが、空でぱあんっと弾けて、中からたくさんのお菓子が降ってくる。
 トリックオアトリートならぬ、トリートオアトリートの演出!
 みんなでそれを掴まえながら、今日はすごく楽しかったね、と笑い合う。

 これからも、みんなで一緒にいろんな時間を過ごしていこう。
 そう、みんなと一緒なら、毎日が、こんなにも楽しいのだから。



依頼結果:成功
MVP
名前:紫月 彩夢
呼び名:彩夢ちゃん
  名前:紫月 咲姫
呼び名:咲姫

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 山崎つかさ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 10月14日
出発日 10月22日 00:00
予定納品日 11月01日

参加者

会議室

  • [4]エメリ

    2014/10/19-13:24 

    エメリだよ。よろしくね。
    楽しみだなぁ。素敵な結婚式になればいいよね。
    音楽はあんまり自信ないけど、やる気ならあるよ。
    今のうちに練習しておくね。

  • [3]紫月 彩夢

    2014/10/18-12:24 

    紫月彩夢と、姉…兄の、咲姫よ。
    合法的に男物を着せられるいい機会だと思って参加させて貰ったわ。
    少しでも手伝えるように、今から歌の練習ぐらいしておこうかと思ってる。
    お菓子は……挑戦してみて、上手く行きそうだったら、ぐらいのつもりね…。
    初心者にも優しいレシピって、今時結構沢山あるし、少しでも役に立てればと思ってるわ。

  • [2]リゼット

    2014/10/17-17:21 

    アンリだ。よろしくなー。
    歌にはちょっと自信あるぜ?ばっちりフォローしてやるよ。
    リズは今頃作れもしない菓子を作ってるフリをしてる頃だろうから
    あっちもなんとかしに行ってやるかねぇ。

  • [1]エリー・アッシェン

    2014/10/17-02:02 

    エリー・アッシェンと申します。うふふ……。

    ・新郎の民謡を歌う余興のお手伝い
    音楽やダンスに関するスキルは持っておりません。
    今のところ、初心者でも演奏できそうな簡単な楽器か、手拍子などで参加する予定です。


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