【ハロウィン・トリート】聖なる火にみるは(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

『困ったらウィンクルム、にゃ!』

 そろそろウィンクルムたちの間で、喋る黒猫が有名になってきた頃。
それはとうとう、正面からA.R.O.A.本部にやって来おったのである。

 一目見てケットシーだと分かったものの、ウィンクルムでない一般職員にはまだその声は聞こえない。
ゆえに、通りすがりのウィンクルムが通訳となった。
わざわざケットシーが本部へ姿を見せた段階で、予想は出来ていた。
依頼内容はこうである。

『ハロウィーンの期間、魔の力が強くなって妖精たちも狙われることが多くなる。
 その為、期間中はその身を守れるよう、一晩聖なる火を焚いてその身に加護を受ける儀式をしたい。
 ただ、火が夜通し消えることがないよう、交代で薪を拾いにいったり、火にくべたりしなければならず
 最近の魔の力で弱っている妖精たちが多く、人手が足りない。
 ウィンクルムの力を貸してもらえないだろうか』

「あの。ウィンクルムは何でも屋というわけではないのですが…」
 誰かが思っていたであろうことを、受付職員が代弁した。
『にゃ!妖精たちが弱ると、ハロウィンのお祭りも力が弱るにゃ!それでもいい、にゃ!?』
 ……この猫、脅してきおった。
しまいには、びしっと肉球突き出して
『頑張ってくれるのはウィンクルムで、おまえじゃないにゃ!決めるのはウィンクルムにゃー!』
 と、コノヤロウな正論まで飛んでくる。

 しかして至極最もでもあるため、猫相手にケンカしそうになる狭まる気持ちを必死に抑えながら
受付職員は後日、このケットシーの依頼内容を掲示板へと貼り出すのであった。

解説

●聖なる火の番をお願いしたいにゃ!
場所は妖精の森にある、ちっちゃい丘にゃっ。
…こ、ここまでの地図はあるから、ジ、ジヒ?(=自費)で来てほしいにゃ。ごめんにゃーっっ
(交通費一組【300Jr】消費)
火はもう焚いてあるにゃ。あとはこれを一晩、消えないようがんばるだけにゃっ。
お、お願い、できる…にゃ?

●気をつけるコトにゃ
・火が小さくなってきたら、時々薪をくべるにゃ。

・どうしても薪が足りなくなっちゃうにゃ。
 途中で、すぐそばの森から拾ってきて欲しいにゃ。
 楡(にれ)・榛(はしばみ)・柊(ひいらぎ)が、魔を祓う力強い、にゃっ。もちろん、普通の薪でもいいにゃ。
 森には季節関係なく、これらが落ちてるにゃ。
 火の灯りがぎりぎり届く、森の入口付近に落ちてるから、見えると思うにゃっ。

・ハロウィン期間になって、魔が強まってるにゃー…
 薪拾いに行く時、悪霊がそのヒトに縁のあるシシャ(=死者)に扮して
 あっちの世界に引き摺りこもうとするかもしれないにゃー…
 もしも出会っちゃったら、聖なる火のそばまでがんばって逃げてにゃー!
 聖なる火から、松明として持っていっても大丈夫にゃ…けど、聖なる力は一本じゃとっても弱いから、悪霊は祓えないにゃぁ。
 あとシシャにビックリして落とすと…森が大惨事にゃっ!気をつけるにゃ!!

・聖なる火も、見つめてると縁のあるシシャが浮かび上がること、あるにゃ。
 こっちはホンモノ、幻にゃー。

●プラン?っていうののコトにゃ
シシャを見る場合、薪を拾いにいった時か、聖なる火を見つめてる時か、
どっちかにした方がいいみたいにゃー。
なんっにも力ないジーエムでごめんにゃー(ボコンッ)ふにゃ!?

…イタイにゃぁ…。えと、シシャ見るのは、強制じゃないにゃ。
火のそばで、妖精たちが用意した果物食べながら仲良くお話しててもいいにゃっ☆


ゲームマスターより

ご拝読誠にありがとうございますにゃ。少しお久しぶりになってしまったにゃ。
……うつったにゃ。
げふん

いつも本当にお世話になっております、蒼色クレヨンでございます!
ハロウィンの起源といわれる、ケルト人の「サムハイン祭」を元にしてみました。
お祭りムードの中、ちょっぴりホラーかもしれない静かな夜もいかがでしょう☆

出発日まで短いのでお気を付け下さいーノシ

リザルトノベル

◆アクション・プラン

クロス(オルクス)

  アドリブOK

心情
最近オルクの様子がおかしい…
体を酷使する程強さを求めてる感じがする
少しは休ませないと…!

行動
・薪を拾いに一緒に行く
・柊等を多めに拾う
・オルクが死者を見たら声を掛ける
・暫くして手を引いて聖なる火の傍迄逃げる

「オルク、オルク!
奴に惑わされるな!!
チッ…こうなったら逃げるが勝ち!」

その後
「オルク、大丈夫?
ゆっくりで良いから話してくれ…
(静かに話を聞き途中オルクの頬叩き抱き締める
馬鹿!何が護れないだ!
オルクは護ってるよ…
現に俺がそうだ
確かに強さも大事だがそれだけじゃない
俺はオルクがいたから過去を乗り越えられた
今度はオルクの番…
だから少しは頼れよ、ばぁか(額同士くっつける
恋人だろ?」


Elly Schwarz(Curt)
  心情】
聖なる火の番…ですか。
死者…は怖いですが頑張りますっ!

行動】
・薪が無くなる前に、薪探しへ外に出る
・死者を見て思わず声が出る
・クルトが落としそうになるところを慌てて支える
ひっ!?って、クルトさん??

・逃走後
え、あの…クルトさん。あの方達をご存知で?
へ?あ、そうなんですか!?
…そんな事が
あの時(エピ33)はどうして同じなのか正直解らなかったんですが、理解しました。
何度も言ってますが、あなたの力になりたいんです。
あなたは1人で頑張り過ぎなんです。助け合いましょう?(クルトの手を握る
意地悪なクルトさん、早く帰って来て下さいよ。(微笑
(…好きな人の力になりたいと思う事は、間違いですか?)

探す薪】




フィオナ・ローワン(クルセイド)
  ケット・シーのお願い…と聞いて
一も二もなく、依頼を受けてしまいましたわ
力になりたいと思いましたの…猫さんのお願いですしね

薪拾いは、クルセイドと一緒に出掛けます
縁のある死者…が、出るやもしれないとのこと
何だかドキドキしますが…
未練を持って亡くなった人、となると
実のところ、思い当たらないのですよね

無事に薪を集めて戻れたら、火の番ですね
温かいお茶と焼き菓子をいただきつつ
火が尽きないよう薪をくべて
朝まで番をすることにします
妖精さんの用意してくれた果物など楽しみながら
クルセイドとの思い出をまたひとつ
作り上げて行けたら、と、思っています

それはともかくとして
火の中に、私の影が映るなんて、あるのでしょうか…?


エメリ(イヴァン)
  魔の力が強くなっちゃ大変だよね
頑張らなきゃ

森へ薪を拾いに行く事にするね
楡・榛・柊だっけ
それっぽいのを中心に集めればいいかな
じゃあ手分けしてがんばろー

しばらく拾い集め
ふう、こんなものかな
イヴァンくん、そっちはどう?
…イヴァンくん?……!

精霊だと思って近づいたら亡くなった弟の姿のシシャに遭遇
はずみで薪を落とす
呆然としている所を気づいた精霊に引っ張られて聖なる火まで走る

ああ、そっか
悪霊、だよね
あのね、弟だったの

最初イヴァンくんだと思ったんだよね
似てないって思ってたはずなんだけど何でかな
そこまで重ねちゃってたのかな…

…やっぱりイヴァンくんは優しいね
ありがとう
イヴァンくんは、急にいなくなったりしないでね


出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
  あたしが薪を取ってくるからレムは火の番をお願いね
親の顔も知らないし、近しい人を亡くしたこともないから平気よ

帰ってくるとレムが火をじっと見つめていた
聞けばマキナの男性と黒髪を結った女性が見えたらしい
…知らなかった、レムには親が四人もいていずれからも愛されてたんだ
あたしと正反対
でもどうしてそれがこんなに寂しいんだろう
羨ましいのも少しあるけど、それが本当の理由じゃない
あたし、レムのこと何も知らないんだ…パートナーなのにね

いつもよりほんの少し離れて座り火を見つめる
レムは優しい、ストーカー退治の依頼でうっかり本性見せた後も態度は変わらなかった
些細なことでレムにすら嫉妬してしまったあたしには勿体ない人だ…



『来てくれたにゃ!ありがとにゃー♪』

 やってきたウィンクルムたちを、ケットシー始め様々な妖精たちが歓迎した。
改めて聖なる火について説明しながら、ウィンクルムたちを赤々と、時に不思議な黄金色を帯びる大きな篝火の傍へ導くケットシー。
聖なる火も受け入れるように、一度ぼぉ……っ、と爆ぜる音を立てるのだった。



「楡に榛に柊か……」
「クルセイド、どれか分かります?」
「ああ。この足元付近に落ちているのが、大体そうだな」
 薪が無くなる前にと、早めに森入口まで訪れたフィオナ・ローワンとクルセイド。
分かりやすく落ちている枝はフィオナに教え、クルセイドは一度森の木々を見上げる。
(……七竈(ナナカマド)はないのだろうか?)
どこかで聞いた知識を思い起こし、その色や枝の形を探るように足先を動かしながら。
「ぁあフィオナ、足元には、気をつけるように……」
「大丈夫ですよ。ちゃんと気をつけて……、っきゃ!」
 言った直後に転びかけたフィオナをクルセイドは受け止めた。
結局そのまま腕を取ったまま二人は順調に薪を集めれば、無事聖なる火の元まで戻ってくる。

「縁のある死者……が、出るやもしれないとドキドキしてましたが……」
「?誰か、いるのか?」
「あ、いいえ……。実のところ、思い当たらないのですよね」
 妖精が用意していたお茶や焼き菓子に手をつけながら、フィオナは小首を傾ける。
出ないこと自体良い事ですよね、と笑顔を向けるフィオナに、そうだなと返しながらクルセイドは篝火に枝を足した。
「クルセイド?その薪、私が拾ったどれとも違います?」
「あぁ。七竈、だ。確かこれも魔力が強かったはずと思い出してな。一応拾ってみた」
 ボッと赤く反応する炎を見つめながら答えられたことに、感心しながらフィオナも篝火へと視線を移した。

ゆらり
火輪が見えた気がした。
その直後、そこへ静かに、あたかもずっとそこに映っていたように、人影が薄らと現れていた。
(赤毛の、ご婦人……?)
クルセイドは目を瞬かせる。そのフィオナに瓜二つの人影を何度も確かめるように。
―― 彼女の母親、だろうか?もう、亡くなっていたのか。
しかし先程、フィオナは思い当たらないと口にしていたはず。
浮かぶ疑問はあれども、炎の中でどこか切なそうな、悲しそうな笑みにも見えるその人影に、
クルセイドはそっと、目を瞑ることで心の内で頭を垂れた。
(彼女は私が守るから……)
もう居場所がない、一人だというそんな言葉を、彼女に言わせないように。
目を開いたとき、もうそこには人影は無くなっていた。
ちらりと隣りのフィオナを見る。
「クルセイド、この果物美味しいですよ」
 たった今まで映っていた笑みとは違う、心からの微笑を浮かべるフィオナ。
自分にしか見えなかったのだろうか……、と今見たことは告げずに、頷いてフィオナの差し出す果物へと手を伸ばし。
「それにしても物知りなんですね。また一つ、クルセイドのこと知れた気がします」
 フィオナは嬉しそうに素直な思いを伝える。
大袈裟な、と苦笑いをするクルセイドに笑みを向けたまま、フィオナの深い森の色を讃える瞳が僅かに揺れ動いた。
(火の中に、私の影が映るなんて、あるのでしょうか……?)
まるで鏡を見ているように、篝火に映った自分の影。でもどこか、なにか、違っているような気もして。
クルセイドも見たのかしら……
何も言わないその横顔を見つめながら、それぞれの思いを胸に秘め。
今はただ、この自分たちを包んでくれるような温かい火を途絶えさせぬよう、朝まで頑張ろうと気を引き締めるのだった。


(最近オルクの様子がおかしい……体を酷使する程強さを求めてる感じがする。少しは休ませないと……!)
篝火を見つめながらそっと、黄金色映るその銀色の光に視線をやる。
クロス・テネブラエはここ数日、パートナーであり恋人であるオルクス・シュヴェルツェの鍛錬の中に、鬼気迫る何かを感じ取っていた。
「オルク、俺薪拾いに行ってくるな。オルクはここで火の番しててくれよ」
「馬鹿なに言ってんだ。あんな暗い森へクー一人行かせるわけないだろ」
 少しでも体を休めてもらおうとした試みはあっさり崩され。
まぁ……オルクならそう言うよな……と、仕方なさそうに息を漏らすクロス。
二人は森の入口へと足を運んだ。

「っと。こんなもんかな」
 柊を多めに集めたクロスが、同じくらいの量を拾い終えたオルクスに声を掛けようと寄っていった。
その時、オルクスの異変に気付く。
「……?おいオルク……、!?」
 オルクスが立ちすくむ眼前、黒い人型をした煙のような霧のような物体が、今にもオルクスを包み込もうと両手を広げているように見えた。
それを見つめるオルクは、顔面蒼白でいつ倒れ込んでもおかしくない体の震えすら帯びていた。
「し、師匠?何故貴方が…」
「オルク、オルク!奴に惑わされるな!!チッ…こうなったら逃げるが勝ち!」
 弾丸のように飛び込んだクロスによって、間一髪黒い霧に覆われそうだったオルクスは手を引かれ篝火燃える丘まで逃げ果せた。

弛みなく凛と燃える炎の温もりに、どうにか我に返ったオルクスへと優しく声をかけるクロス。
「オルク、大丈夫?」
「し、師匠が……師匠が見えたんだっ……」
「うん。ゆっくりで良いから話してくれ……」
 背中を撫でられる感触に、掌の温かさに、堰を切ったようにオルクスの口から心の悲鳴が形となって声が発せられた。
「お前には護れない、お前は強くなれない、見殺しにした癖にって……
師匠は、不良だったオレの唯一の理解者で、剣術も銃の扱いも全て教えてくれた……。家族共々仲良かった。
だが高校卒業間近のある日師匠達は……、オレの目の前でオーガに殺された」
 息を飲み、それでも静かにオルクスの言葉にクロスは耳を傾ける。
「オレは無力だ!何が師匠や皆は護るだっ。オレは誰も護れてない!護れやしないんだ!」
 その瞬間、オルクスの頬へと衝撃が走る。
痛みにハッと両の目の焦点を合わせ、視界に映る手の主を見つめた。
「馬鹿!何が護れないだ!オルクが信じた師匠がそんなこと言うはずないだろ!
それに、オルクは護ってるよ……現に俺がそうだ」
 次に感じたのは全身に血が巡る感覚。
クロスはオルクスを抱擁する。言葉以外の何かも伝えるように、強く、強く。
「確かに強さも大事だがそれだけじゃない。俺はオルクがいたから過去を乗り越えられた。
今度はオルクの番……だから少しは頼れよ、ばぁか。恋人だろ?」
 こつっと額を合わせられる。
炎の色も取り込み、星の光のように金赤となったオルクスの瞳から一筋の涙が流れた。
「クー有難う、オレの大切な人……」
クロスの髪に揺れる、簪から垂れた桜の花びら飾りがオルクスの言の葉に応えるように、チリンと音色を奏でるのであった。


「魔の力が強くなっちゃ大変だよね。頑張らなきゃ」
 意気揚々と薪を拾いに森まで来たエメリは両の拳に力を入れ気合を込めた。
「この手の依頼が増えて大変なのは僕たちですしね……そこそこ頑張るとします」
 エメリとは対照的に大変事務的な理由を上げ、軽く腕まくりをするイヴァン。
「楡・榛・柊だっけ。それっぽいのを中心に集めればいいかな。じゃあ手分けしてがんばろー」
「え。分かれて拾うんですか?」
「その方が効率いいよ!じゃ、イヴァン君あとでココに合流ねー」
 笑顔で手を振り森の入っていくエメリを見送るイヴァンには、一抹の不安あり。
「悪霊が出るようですが離れていいんでしょうか……僕は大丈夫だと思いますが」
 あまりに幼かった頃に亡くなった母親の顔は覚えていない。
(エメリさんも自分から言い出すくらいなら大丈夫ですよね)
 首を振り、薪拾いに精を出し始めたイヴァンの耳が、嫌な予感を伴った音を聞き取ったのはそれから程なくだった。

「ふう、こんなものかな」
 両手に持てるだけの小枝を抱えたエメリは、顔を上げた先に少年の影を見つけ駆け寄る。
「イヴァンくん、そっちはどう?……イヴァンくん?……!」
 イヴァンとは似て非なる、黒い霧を纏った少年が、その雰囲気とは裏腹に屈託のない笑顔でエメリに片手を差し出してきた。
カランッカランッ
薪たちを取り落とし、両手を口にあて驚きの表情のままエメリはその場を動けなくなった。
「エメリさんっ?今の音なに……、え!?」
 静かな森に響いた音にイヴァン本人がそこへ駆けつける。そして一目見て、その漆黒纏う異様な姿の少年が悪霊だと悟った。
「走って下さい!!」
 呆然とするエメリを強引に引っ張って、全速力で二人は聖なる火の下まで逃げ延びたのだった。

「悪霊がいるって最初に聞いていたでしょう!何を呆けていたんですか!」
 もう安全だと判った途端、開口一番イヴァンからお説教が飛んだ。
それでもまだ、どこか夢現な表情のエメリに、さすがのイヴァンもどこかおかしいと眉根を上げる。
「ああ、そっか。悪霊、だよね。……あのね、弟だったの」
 ぽつりと呟かれたエメリの言葉に、イヴァンは愕然とした。
そうだ。悪霊は死者に扮すると聞いていたのだ。ということは――
「……弟さん亡くなってたんですか……」
 それだけどうにか口にして、イヴァンは思い出す。
花火の消えた一瞬の闇の中垣間見た、どこか切なげなエメリの顔を。
あれは気のせいでは無かったのだ。
(会いにいかないんですか、なんて……僕としたことが失言していた……)
イヴァンを若干の後悔が襲っているところへ、またぽつりぽつりとエメリが言葉を繋げ出す。
「最初イヴァンくんだと思ったんだよね。似てないって思ってたはずなんだけど何でかな。
そこまで重ねちゃってたのかな……」
 大事な人に会ったはずなのに、涙を見せることなくただ寂しそうに夜空を見上げたエメリへ、イヴァンの口は自然と開いた。
「その、僕を弟扱いしても大丈夫ですよ。迷惑は掛けられまくってますが、イヤではないです」
 意外なイヴァンの言葉に、エメリは目を丸くする。
「……やっぱりイヴァンくんは優しいね。ありがとう」
「お礼を言われるようなことじゃないです」
「イヴァンくんは、急にいなくなったりしないでね」
「……はい」
 いつも気丈に見えたエメリの、今はどこか心許なそうに見えるその手がイヴァンの服の裾を軽く握ったのを、イヴァンは振り払うことはしなかった。
こんな返事しか出来ない自分をもどかしく感じながら、それでも、こんな返事で少しでも安心感を与えられるならと。
二人はどちらからともなく並んで、篝火のそばへと座るのだった。


「あたしが薪を取ってくるからレムは火の番をお願いね」
「一人で大丈夫か?」
「親の顔も知らないし、近しい人を亡くしたこともないから平気よ」
「……判った。気をつけてな」
 度々の無茶を知ってはいるものの、基本常日頃のしっかりした姿を知っているレムレース・エーヴィヒカイトは
その言葉を信じて任せることにする。
出石 香奈は笑顔で背を向け森へと向かった。

(さて、死者の幻が見えるらしいが…真実はいかがなものか。試しに見てみるとしよう)
ケットシーから話を聞いたときから、少し興味をもっていたレムレースは、
そばに積んであった薪を拾って篝火へとくべながら、その炎の奥を見つめてみる。
レムレースの思いに応えるかのように、一度聖なる火が揺らめく。
そこへぼんやりと浮かんできたのは、マキナの男性と黒髪を結った女性の姿。
(ああ、成程……)
目を細め、暫くの間その二人の姿を温かい眼差しで見つめるレムレース。
薪拾いから程なくして戻ってきた香奈は、ちょうどそんな表情をしたレムレースの横顔と出会う。
「……レム?」
「香奈か。おかえり」
 篝火から視線を外し、香奈へと向き直ったレムレースの瞳は、やはりいつもよりどこか熱を帯びている気がした。
「もしかして、誰か映ったの?」
「ああ。15年程前に戦死した俺の本当の両親が、な」
「えっ?」
 驚きの顔を向けてきた香奈に、逆にレムレースは不思議そうに首を傾け。そしてすぐに合点がいったように頷いた。
「そういえば言っていなかったな。道場の夫妻は普通の人間だったろう」
「え、ええ」
「彼らは本当の両親の友人夫婦で俺を引き取ってくれたんだ。皆、立派な人物だ……俺は四人のことを尊敬しているし誇りに思う」
「……そうだったの」
 
聞かせてくれてありがとう、と言ってから篝火のそばへ座った香奈。
レムレースとは少し距離をとって。
そんな香奈の態度にすぐにレムレースも気づいていた。
(……知らなかった、レムには親が四人もいていずれからも愛されてたんだ)
捨てられた自分とは正反対。
最初は羨ましいのかと思ったけれど、この湧き上がる寂しさはおそらくそこからじゃ無い。
「あたし、レムのこと何も知らないんだ……パートナーなのにね」
 いつもと違う表情を浮かべそう呟く香奈を、レムレースは見つめ、そして静かに口を開いた。
「……別に話したくなかったわけではない、聞かれなかったから言わなかっただけだ」
 聞いたら答えてくれるという、レムは優しい。
荒々しい本性を見せてしまった、ストーカー退治の後も態度は変わらなかった。
そんな優しさに甘えて聞くことは、良いことなのだろうか。
他の男性たちのように、レムまで離れていってしまったら……
そんな香奈の思いをまるで汲み取ったように、レムレースはそっとその距離を縮めて座り直した。
「香奈が望むならまたこうして話をしよう」
「……いいの?」
「これまで恥ずべき生き方をしてきたつもりはないから、何でも聞くといい」
 膝が触れそうな程の近い距離で囁かれる言葉に、香奈は小さな安堵が胸の内に広がるのを感じた。
あの淡い灯りに浮かんだ未来が本当かはまだ分からないけれど。
ただ、この優しい人に縋るだけにはならないよう……
堂々と隣に並べる、そんな関係を築いていけたら……

 聖なる火を照らす。これからの二人の道を。


「そろそろ拾いに行った方がいいでしょうか」
「ん?ああ……そうだな。仕方ない」
 薪の減りを確認して、Elly Schwarzはすぐ横で寝そべるように暖をとっていたCurtへと声をかけた。
寒さの苦手なクルトは、火の傍を離れるのが億劫そうに立ち上がる。
二つの影が篝火に照らされ、伸びていった。

 森の入口付近。
(手当たり次第拾えばいいものを……なんか選んでるな)
夢中で薪を拾い集めるエリーを覗き込みクルトは少し首を傾げる。
「薪は俺が持ってやる。……同じ種類の枝ばっかじゃないか?これ」
「ありがとうございます。えっと……はい、薪はこれでいいんです」
 どこか誤魔化すように、エリーはクルトの疑問には曖昧に答えた。
釈然とせずもう一度エリーの顔を覗き込もうとしたクルト。
その視線の更に奥、先程まで暗闇であった森の入口部分に、煙のような人型がいつの間にか揺らめいているのに、クルトは気付く。
クルトの動きが突然ぴたりと止まったことを不思議に思ったエリーは、振り返ってクルトの見つめる先を自分も追った。
「……ひっ!?」
 元来がオカルト嫌いであるエリーにとってそれは当然の悲鳴と硬直だった。
しかし自身が恐怖する中でも、エリーは別の違和感を覚える。いつも隣に立つパートナーの気配に。
「……クルト、さん??…って、わ!?」
 持っていた薪たちがクルトの腕からこぼれ落ちそうになったのを、エリーは恐怖を振り払い慌てて支えた。
その瞬間。
「……っ悪い、逃げるぞ!」
 急に手を引っ張られた途端、凄い速さでクルトがエリーを連れ駆け出したのだ。
(何故今、アンタたちが見えるんだ……っ)
先程見えた人型、あれは両親だった。紛れもなく己の。まだ最近思い出したばかりなのに……
「クルトさん……。あの方達をご存知で?」
火の近くまで辿り着き息を整えた頃、エリーは口にした。
クルトは一瞬肩を震わす。あれを見た僅かな動揺からエリーはこの疑問に至ったのだろう。
あくまで何でもないように、クルトは口を開く。
「ん?あれは俺の両親だ」
「へ?あ、そうなんですか!?」
「……仲が良い2人だった。だが母さんがオーガの催眠で父さんを殺め、覚めた母さんもオーガに貫かれた」
 唐突にして、一時からずっと霧がかっていたことが紡がれ、エリーは目を見開いた。
「……俺はそれを目の前で見ていた」
 しばしの沈黙。
両親をオーガに殺された。自分も同じだった、と以前クルトは一言教えてくれた。
その時は正直、その事実のみのことを言っているだけではない気がして、どうして同じなのか分からなかった。
「やっと……理解しました」
そう言ったエリーは、クルトの手を握り締める。
「エリー?」
「何度も言ってますが、あなたの力になりたいんです。あなたは1人で頑張り過ぎなんです。助け合いましょう?」
(まいった、な……)
いつもの調子で語ったつもりだったのが、緊張を見透かされていた様子に苦笑いを浮かべるクルト。
(アンタ達に扮した悪霊が出たとは、俺も随分人間臭くなった。いや……戻っただけ、か)ほんの一瞬見えた面影がちらつき。ついと、エリーを真っ直ぐ見つめる。
意地悪なクルトさん、早く帰って来て下さいよ、と微笑すら向けてくるその顔を、本人のフードでボフッと覆った。
「ちょ、何するんですかいきなり……っ」
「……意地悪ねぇ」
 日頃のエリーにしては珍しい赤いフード。
それに聖なる火の灯りが映えるのを、もういつもの笑みに戻ったクルトは一度眩しそうに見つめ。
(エリーばかり強くなられちゃ、確かにたまんねぇか……)
フードの上からその小さな頭をわしゃわしゃっと撫ぜた。
(……好きな人の力になりたいと思う事は、間違いですか?)
そんなクルトの表情は見えず。
心に湧き上がる自覚したばかりの感情を、エリーはゆっくり噛み締めて。
それぞれの想いもそれぞれはまだ知らないけれど。
紛れもなく互いを想い合う二つの影は、聖なる炎に仲良く揺らされ重なるのだった。



 帰路へ向かうウィンクルムたちを、妖精たち代表でケットシーが見送りについてくる。

「ところでエリー。結局同じ薪ばかりを選んでいた理由は?」
「あ……その……」
 知識のページを広げ榛を集めていたエリーは言い淀む。
(花言葉が、『真実、和解』だなんて……何だか今は気恥ずかしくて、言いにくい、です……)

「オルク、師匠に会えるかもと思ってもしかしてこの依頼受けたのか……?」
 クロスの問いかけに一度視線を泳がせるオルクス。
「いや……全然。半信半疑でもあったし予想以上に動揺しちまった。だけどまぁ……」
 いつか本物にお前を紹介したいもんだな、と囁かれ耳まで赤くしながら。
二人で手を合わせ粛々と報告する姿を、クロスも想像するのだった。

 前を歩く会話が自然と聞こえてきて。クルセイドはフィオナへと向く。
「フィオナは、この依頼受けたのは何か実は思惑があったのか?」
「あ、いえ。ケット・シーのお願い……と聞いて、一も二もなく受けてしまいましたわ。
 力になりたいと思いましたの……猫さんのお願いですしね」
 微笑むフィオナに、そうか、とだけ告げるクルセイド。
その後ろでちゃっかり会話聞いていた、照れて肉球で頬をふにふにしているケットシー。

「今度から別行動はやめましょうエメリさん。僕の心臓に悪いです」
「じゃ、イヴァン君の隣にいつも居るようにするね!」
 何かを学んだイヴァンと、恐らく懲りていないエメリ。それでも今こうしていつもの調子を取り戻したのは、この優しい少年のおかげで。
エメリは嬉しそうに笑顔を向ける。

「レム。あたしもっと頑張るわね」
「?何を頑張るか知らんが、変わる必要はないからな。香奈はそのままでいい」
 どこまでも見透かされているようで、もうっ、と逆に悔しそうな複雑な笑みを浮かべる香奈に、
レムレースもどこか嬉しそうな笑みで返す。

『ありがとうにゃ!ほんとうにありがとうにゃー!また来年も、よろしくにゃー!♪』

 小さな黒い手をぶんぶか振って。
ケットシーはどさくさにちゃっかりと何か不吉な言葉も足しながら。
満足そうにウィンクルムたちへと感謝を伝え、その背中を見送ったのだった。



依頼結果:成功
MVP
名前:フィオナ・ローワン
呼び名:フィオナ
  名前:クルセイド
呼び名:クルセイド

 

名前:出石 香奈
呼び名:香奈
  名前:レムレース・エーヴィヒカイト
呼び名:レム

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月12日
出発日 10月17日 00:00
予定納品日 10月27日

参加者

会議室

  • [7]クロス

    2014/10/16-10:16 

  • [6]エメリ

    2014/10/15-23:43 

    エメリです。パートナーはポブルスのイヴァンくん。
    初めましての人もお久しぶりの人もよろしくね。

    私も薪を拾いに行ってくるね。
    何か出たりするみたいだけど、たくさん拾えるといいな。

  • [4]フィオナ・ローワン

    2014/10/15-11:33 

    はじめましての方は、初めまして
    フィオナ・ローワンと申します
    パートナーは、テンペストダンサーのクルセイドです
    何卒宜しくお願いいたします

    恐らく私も薪拾いに出ることになるかと…
    楡に榛に柊、ですね

    縁のある方の亡霊…
    いるような、いないような…?

  • [3]クロス

    2014/10/15-11:26 

    クロス:
    ローワンさん達は初めましてだな
    俺はクロス、パートナーはテイルスのオルクスだ
    他の人達は久しぶり!

    俺達も薪をくべに行こうかと思ってるんだ
    柊を拾おうかな…
    ってオルク…?
    何か見えるのか…?
    えっと、師匠…?

    まっまぁ今回も宜しくな!

  • [2]出石 香奈

    2014/10/15-09:08 

    出石香奈よ。パートナーはマキナのレム。
    初めましての人もそうじゃない人もよろしくね。

    あたしは近しい人を亡くしたことがないから薪拾いは何事もなく終わると思うわ。
    でも、火の番をしてるレムが幻を見るみたい。

  • お久しぶりな方ばかりですね。また皆さんにお会い出来て嬉しいです。(微笑)
    改めて僕はElly Schwarzと言います。精霊はディアボロのCurtさんです。

    僕は薪に関して「榛」を探したいですね。
    シシャ……。(息を飲む)
    ……あれ、クルトさん、何か見かけたんですか?(震え)

    と、とにかく今回もよろしくお願いします!


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