【アイノアカシ/HTt】ニカルデオン座(紺一詠 マスター) 【難易度:難しい】

プロローグ

 見世物小屋というには随分だぼついたふうだし、劇場というには天井から柱の傷に至るまで、なにもかもが御粗末だ。収容人数100人に満たぬ規模の、タブロス旧市街近くの、場末の演芸場。それが、ニカルデオン座である。
 形状は、すり鉢を直径で半分にしたような、浅めの半円状。すり鉢の底にあたる部分が舞台となっており、客席はなだらかな階段状を展開している。黴臭い木造の設備ながら円蓋を備えているので、全天候において、公演が可能だ。
 ポニーなどの小型の動物を使った曲芸、道化師によるパントマイム、少年少女たちの軽業、一輪車。空中ぶらんこや猛獣の火の輪くぐりなど、壮大な仕掛けはみられないものの、一つ一つの芸は甚だ愛敬にあふれ、繊細だ。
 小さな舞台だからこそ、観客達は触れられそうなぐらい間近で、その芸を堪能することができる。安普請での公演ということもあって、木戸銭は比較的低めに抑えられている。飲食物の持ち込みも、可。気軽に通うことの出来る遊興として、富裕層よりは平民に親しまれていた。


 ハロウィンを控え、ニカルデオン座は新たな演目の稽古に忙しい。
「ああ、ダメダメ。そこはもっと大胆に演じないと。羽ばたくぐらいつもりで、思い切り動くんだ」
 ニカルデオン座の団員は、ほとんどが未成年で占められている。安い入場料はこれが理由の一つでもあった。働く場所の見当たらない少年少女に仕事を斡旋することが、ニカルデオン座の元々の目的だったらしい。ニカルデオン座である程度の元手と技術を手に入れて、彼等は次なるステップへ進むというわけだ。
「さあ、しばらく休憩をとろう。再開は1時間後だ」
 数少ない大人の一人である座長が、彼の部屋へ引き取ると、団員達は思い思いに打ち寛ぐ。水を飲むもの、汗を拭くもの、会話に興じるもの。そのなかに、二人の少年が混じっている。
「調子は、どう?」
「まあまあ、かな」
「じゃあ、予定通りいけそう?」
「うん。そっちは?」
「もちろん平気だよ」
「いよいよだね」
「そうだね」
「クート先生が喜んでくれるといいね」
 少年達は、無邪気な笑みを互いに交わす。捻れた月のように酷薄な唇。


 ニカルデオン座に鮟鱇に似たオーガが潜んでいるらしい、という、通報がA.R.O.A.に届けられた。どうやらマントゥール教団が潜んでいるらしい、とも。
「公演を止めさせることも、できないわけじゃないんだが……」
 ウィンクルムに事情を説く職員は、歎くようにうめいた。トラオム・オーガの暗躍が確認されている今『ハロウィン特別公演』を掲げた催事を、無闇に中止させるのは、あまりよろしくない。まして街中にオーガが潜んでいる、と、いたずらに人心の不安を煽るのもよろしくない。
 できうるかぎり平穏に、秘密裏に、事を進めて欲しいと、彼は希望する。
「マントゥール教団の悪意を是非とも挫いてくれ」

解説

「ぶらんこ」は平仮名で書くほうが、なんだか好きです。

・ニカルデオン座は、17時開場、18時開演です。公演時間は約3時間の予定、途中15分の休憩あり。入場料はA.R.O.A.でもってもらえます。チケットではなく、その場で支払って入場する方式です。
・完全自由席です。席があぶれたとしても、がんがん立ち見や通路に案内するシステム。昔は多かったなーとか思わず付け加える程度には、私は年寄り(どうでもいい余談)。
・つまり、一昔前の見世物小屋の雰囲気だと思ってもらえばいいかと思います。
・定小屋ですんで、公演してないときは、普通に練習してます。このときは一般人は入れません、名目上は。なんだかんだ理由を付ければ入れるかもしれません。
・舞台の裏手は、楽屋とかいろいろ。関係者以外、立ち入り禁止。
・「オーガを倒す(デミは逃がしても、セーフです)」「人的被害を抑える(怪我人は出てもかまいませんが、死亡者が出るとアウトです)」両方とも達成して成功です。どちらかが達成できない場合、普通。成功条件に加え、教団員を無事に見付けると、大成功となります。
・ややこしい書き方して申し訳ありませんが、トラオム・オーガは今回いませんです。


・教団員
2人の少年。ニカルデオン座の団員。身軽だが、基本、戦闘能力はなし。団員のうち誰が教団員かは不明です。

・ヤグルロム
幻影のデミ・オーガ(今回は、デミ・ドッグ)を出現させることのできるオーガ。アンコウ頭。どっかに隠れてます。
幻影のほうは攻撃を受けると、自爆します。

・デミ・ドッグ
3匹程度ですが、普通のデミ・ドッグもいます。

ゲームマスターより

あき缶GMに無理を言って入れてもらいましたよっ。
そんなわけで「アイノアカシ」です。


サーカスとか、何年前に行ったきりかなあ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)

  話を付ける方が調査に効率的なので、団長に会う

ある富豪が生き別れの子を探してるので名簿と写真を見せてほしいと頼む
「狙われた学園祭」の主犯は『みちびきの家』出身…類似施設出身の子が居れば怪しい
「栄光の角」をチラ見せもする(反応が無ければ団長は白
結果は皆に携帯一斉メール

次に団員
怪しかった子⇒若者⇒他の順に接触
*団長には可能性のある子に会うと言っておく

団長の知人を装い接近
*フェイク活用。顕現痣は手袋で隠す

「栄光の角」を胸元から見せ「君も…だろ」とカマかけ
あの方にも挨拶した方がいいか?と、オーガの隠れ場所まで聞けたらベストだ

公演前にオーガは討伐・犯人は捕縛したい
自殺も口封じもさせないぞ

★戦闘はランス欄に



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  タウン誌記者の身分をA.R.O.A.に根回ししてもらい、ニカルデオン座に取材を申し込む。
手の紋章はいつもと同様指だし手袋で隠して行く。
練習時に中に入れてもらい、取材。
出し物の練習の取材を隠れ蓑にしてオーガを探す。
団員に人懐っこく演目を聞き、練習を取材。
道具の保管場所や大道具にオーガが隠れていないか観察するぜ。
団員に妙な動きがあれば携帯のメーリングリストで他の人に知らせる。

オーガ見付けたらトランスし皆に連絡。
デミ・ドッグは用意したゴム製パチンコで距離を取ったまま小石をぶつける。幻なら自爆するだろ。
ランスの魔法まで敵の気を引いて時間を稼ぐぜ。
本物のデミ・ドッグは鼻先蹴りあげて威嚇しつつ相手する。



鳥飼(鴉)
  取材を装って、公演前に定小屋に入ります。

取材ですからメモを取りながらの方が自然ですよね。
年の若い方を中心に取材します。
小さいとはいえ仕事をしてるんですから、敬意を持って接します。

演技の際に気をつけていること。
誰か同じ団員で注目している子。
それと、「どんな経緯でこのサーカスに?」

何かわかれば、携帯のメーリングリストで情報を流します。

手の甲の文様はあえて隠しません。
教団員なら、僕をオーガの餌にと考えるかも知れません。
その場合、熱心に何処かへ誘う人が怪しいでしょうか。

戦闘では、サーカスの団員や観客の避難誘導をします。
皆さんの安全第一です。
歌って肺活量使いますから、声を出して誘導の役には立てますよ。


●1.

 奇妙で不思議な音楽が、流れている。
 タブロス旧市街近く、場末の演芸場──ニカルデオン座の前に六つの影が立った。
 開場四時間前。
 演芸場の前を通る人は、まだほとんど居ない。
「では、打ち合わせ通りに行きましょう」
 男性にしてはやや高めの、穏やかな声がそう言った。
 微笑む顔も女性のようだが──彼、鳥飼は歴とした男性である。
「主殿と私は、このままで行きます」
 鳥飼の隣に立った鴉は、左手を軽く掲げた。その甲には、ウィンクルムである事を示す独特の文様がある。
「俺とラキアは、隠していくぜ」
 鴉に頷いて、セイリュー・グラシアは自らも左手を上げて見せた。
 セイリューに倣って、ラキア・ジェイドバインも隣で左手を掲げれば、二人の手にはフィンガーレスグローブが嵌められており、文様は隠れている。
「俺とランスは、別の方法で団長に接触してみる」
 アキ・セイジは紅の瞳を細め、演芸場を見上げた。
「少し考えがあるんだ」
「何か分かったら、携帯のメーリングリストで連絡するぜ!」
 セイジの肩にポンと手を置いて、ヴェルトール・ランスが明るく言った。
「僕達も、分かった事はメーリングリストでお送りしますね」
「準備は万端だぜ!」
 鳥飼とセイリューも携帯を手に頷く。
「では、作戦開始──だね」
 ラキアが表情を引き締めて、ニカルデオン座の入り口を見つめた。

 古い木造の扉を潜って中へ入ると、受付カウンターらしきものがある。
 そこで書き物をしていたスーツ姿の男が、顔を上げると一行を見て顔を顰めた。
「まだ公演時間には早いですよ、お客さん」
 神経質そうにくいっと眼鏡を上げながら、男は言う。
「この時間は関係者以外立ち入り禁止です」
「お忙しいところ、恐れ入ります」
 鳥飼は柔和な微笑みで、名刺を取り出した。
「僕はこういう者でして……」
 男は差し出された名刺を見て、首を傾ける。
「タブロスタイムズって……あのタブロスタイムズ?」
「そう、そのタブロスタイムズです!」
 セイリューも横から名刺を出した。
 タブロスタイムズは、タブロス在住なら誰もが知っているタウン誌。
 この名刺は、A.R.O.A.で用意して貰った偽物である。
 男は何度も瞬きした。
「そこの記者さんが一体何の用で?」
「勿論、取材に」
 鴉がにっこりと微笑む。
「『ハロウィン特別公演』について、是非お話を聞かせて頂きたいのです」
 ラキアが後に続けば、男は更に大きく瞬きした。
「しょ、少々お待ちください!」
 言うなり、カウンターの電話を手に取る。
 少しの間何かを話していた男は、受話器を置くと、先程とは一転してにこやかな笑顔で立ち上がった。
「団長の許可が出ました。私が中を案内いたします」
「団長さんは、今どちらに?」
 セイジが問い掛けると、男はニコニコ微笑む。
「団長室にいらっしゃいます」
「団長さんにもお話を伺いたいので、団長室へお邪魔しても宜しいでしょうか?」
「今、団長に連絡を入れますので、お待ちを!」
 男は再び受話器を取って、身振り手振りしながら話すと、
「団長がお会いになるそうです」
 笑顔で受話器を置いた。


●2.

 団長室へ向かったセイジとランスと別れて、鳥飼と鴉、セイリューとラキアはニカルデオン座の中へ足を踏み入れた。
 不思議で奇妙な音楽が、より大きくはっきりと聞こえる。
 まず視界に入るのは、なだらかな階段状の客席。
 古びた木製の椅子が犇めくように並んでいた。
 その客席の先に、舞台がある。
 数人の団員らしき少年少女達が、思い思いに稽古に励んでた。
「団員さん達は、今ここに居るだけです?」
 セイリューの問い掛けに、事務員の男は眼鏡をくいっと上げる。
「今ここに居るのは、軽業師の子達ですね。動物使いの子らは……動物の世話か、道具の手入れでもしてるのかな?」
 セイリューと鳥飼は顔を見合わせる。
「良かったら、オレ達は動物使いの子達を取材したいんですけど」
 セイリューが片手を挙げて言うと、事務員は難しそうな顔をした。
「案内役がもう一人居る事になりますね。残念ながら、私の身は一つ。分身は出来ないもので」
 冗談なのか本気なのか、判別の付き難い顔で、彼は周囲を見渡した。
「あ、丁度良い所に! コージモ!」
 彼の視線の先に、ブラブラと歩いてくるピエロの姿がある。
「何? ……そのヒト達、見かけない顔だね?」
 道化姿の少年は、少し険のある声でウィンクルム達を見た。メイクの為か、表情から感情は読み取れない。
「タブロスタイムズの記者さん達だ。ニカルデオン座の宣伝をして下さるんだよ」
 明るく事務員が言えば、ピエロはパチパチと瞬きした。
「へぇ……」
「団員に話を聞きたいそうだ。私は動物小屋と道具部屋の方をご案内するから、こちらの案内を任せたよ」
「ハーイ。お任せされました」
 ピエロは明るい声で返事をすると、ウィンクルム達に優雅に一礼する。
「コージモです。宜しく。一応ここでは古株だから、何でも聞いて」
「宜しくお願いします」
 鳥飼が微笑んでお辞儀を返し、鴉も軽く会釈した。
「それでは、私達は動物小屋へ参りましょうか」
「宜しくお願いします」
『気を付けて』
 セイリューとラキアは、鳥飼と鴉に軽く手を挙げて事務員の後へ続く。
「さって、それじゃ、メンバー紹介と行きますか」
 その背中を見送ってから、コージモと名乗ったピエロは、ブラブラした足取りで舞台へ向けて歩き出した。
 鳥飼と鴉も周囲を見渡しながら、舞台へと近付いて行く。
(団員は……コージモを入れて6名)
 鴉はさり気なく、団員の数と位置を把握する。
「みんな、しゅーごー!」
 コージモが両手を叩いて言えば、舞台に居た団員達は、皆一様に動きを止めて彼に注目した。流れていた音楽も止められる。
「タブロスタイムズの記者さん達が、取材に来たよー! 自己紹介開始してー」
「えぇっ? 自己紹介って何を言えばいいんだ?」
 年若い団員達は、頬を染めてざわめく。
「えーっと、取り敢えず名前と役割。後は好きに。それでいい?」
 振り返ってくるコージモに、鳥飼は懐からメモとペンを取り出した。
「演技の際に気をつけている事、誰か同じ団員で注目している子が居たら、その子について。このニカルデオン座に来た経緯も、是非お願いします」
「だってさー」
 コージモはくるっと一回転すると、鳥飼と鴉にパチンとウインクした。
「じゃ、俺からねー。俺はコージモ。見ての通り道化師。ナイフ投げの際、ナイフの刃が曲がらないように気を付けてる。
 チューモクしている団員は、そこに居るフラヴィ。最近グラマーになったからなぁ♪」
 彼が胸を揉む仕草をすれば、顔を赤らめた少女が『もうやだぁ!』と恥ずかしそうに叫ぶ。
「このニカルデオン座に来た経緯はぁ……孤児で働き口が無かった所を拾って貰った! 以上ー」
 パチパチパチ。
 彼のお辞儀に合わせて、団員達から拍手が上がった。
『彼が、少年少女達のリーダーのようですね』
 鴉が密かに鳥飼の耳元へ囁いた。


●3.

 事務員の言葉通り、通路の奥に団長室はあった。
 セイジが軽くノックをすると、中から『どうぞ』と声が返ってくる。
「失礼します」
 ランスと共に中に入れば、恰幅のよい男性が笑顔で二人を迎えた。
「事務の者から話は聞いています。私が団長のデトレフです。取材だとか」
「……大変申し訳ないのですが、俺達は少し違う要件で来ました」
 セイジが真っ直ぐに見つめて切り出すと、デトレフは目を丸くする。
「違う要件、とは?」
「とある富豪が『生き別れの子』を探しています」
「その子が、ここに居る可能性があるんです」
「えっ?」
 セイジとランスの言葉に、デトレフは更に目を丸くした。
「このニカルデオン座にいる子供達の、名簿と写真を見せて頂けないでしょうか」
「ハァ……」
 デトレフが困ったように眉を下げる。半信半疑の様子だ。
「極秘に依頼を受けており、依頼元の名前などはお伝え出来ないんです。名簿と写真を元に、俺達で確認がしたい」
「やっと見つけた手掛かりなんです。何とかお願いできないですか?」
 重ねて丁寧に頭を下げる。
 デトレフは小さく唸ってから、漸く頷いた。
「個々の写真はないですが、皆で撮った写真ならあります」
 彼の指差した先に、ボロボロの額縁に飾られた写真がある。
 ニカルデオン座の舞台の上だろうか。デトレフと事務員を中心に、子供達が映っていた。
「名簿……は何所に仕舞ったかな。暫く見てないから……」
 続いてデトレフは、机周りにある棚を漁り始める。
「えーっと……少し待って頂けますか?」
「宜しければ、お手伝いします」
 セイジとランスは、デトレフの隣に並んで彼を手伝う事にした。
「すみませんね」
「いえ、無理を言っているのはこちらですから」
 こちらを見たデトレフににこやかに微笑んだセイジは、さり気なく首元に手袋に包まれた手をやる。
 微かな金属音を立てて、シャツの隙間から銀のネックレスが光った。
 一本の角がデザインされているこのネックレスは、マントゥール教団基地金庫から押収したもの。
 マントゥール教団員ならば、何らかの反応を示す筈だ。
「名簿、というのもおこがましいんですけどね、B5サイズのノートです。色は……確か青だったかな」
 しかしデトレフは全く反応を示さず、再び棚を漁り出す。
 セイジがチラリとランスを見ると、彼は小さく頷いた。
『どうやら、団長は白だ』


 舞台の裏にある控室、そこから事務員に続いて、セイリューとラキアは外に出た。
 古びた二つの小屋が三人を出迎える。
「こちらが道具部屋。あちらが動物小屋です」
 事務員が示した動物小屋からは、動物特有の匂いと微かに鳴き声も聞こえた。
「どちらからご案内します?」
 セイリューとラキアは視線を合わせる。
 道具の保管場所や大道具にオーガが隠れていないか、彼らは疑っていた。
「じゃあ、道具部屋の方から」
「畏まりました」
 事務員は眼鏡をくいっと上げると、早速道具部屋のドアノブに手を掛ける。
「あれ?」
 首が傾いた。
「どうしました?」
 ラキアが尋ねると、事務員はくるっと二人を振り返る。
「鍵が掛かってますね。誰も居ないのかな?」
 彼はトントンと扉をノックしたが、応答はない。
「──居ないみたいですね。動物小屋の方に行きましょうか」
「この道具小屋は、いつも鍵が掛かってるんですか?」
 セイリューは尋ねながら、胸元のペンダントを弄った。
 一本の角がデザインされている銀のネックレス──これも、マントゥール教団基地金庫から押収したものだ。
 事務員は特に何も反応は示さず、くいっと眼鏡を上げる。
「使っていない時は鍵を掛けています。一応、盗まれたりしないように」
「成程。出来れば、道具小屋の中を見たいんですけど。実際使ってる道具を間近で見たいなぁって」
「恐らく鍵は団員の誰かが持ってる筈です。事務室へ返却されていませんからね。動物小屋の団員に訊いてみましょう」
「助かります」
 事務員を先頭に、セイリューとラキアは動物小屋へと足を踏み入れる。


「あった! 名簿はこれです」
 書類の中に埋もれていた青いノートを、デトレフは取り出した。
「名簿といっても、名前と生年月日、ここに来た経緯が簡単に記載しているだけですが……」
「十分です」
「では、こちらでどうぞ」
 古めかしい来客用のソファを勧められ、セイジとランスは腰を下ろし、デトレフから名簿を受け取る。
「既にここを卒業した子の名前の横には、『卒業』と記載してありますんで」
 デトレフの言葉に頷きノートを開くと、デトレフが言った通りの情報が手書きで記載されていた。
(探すのは、『みちびきの家』出身者)
 先日、セイジ達が関わったマントゥール教団絡みの事件。
 事件の主犯は『みちびきの家』出身だった。
(類似施設出身の子が居れば怪しい)
『セイジ!』
 ランスの指が、ある名前を指差す。
 『みちびきの家』出身者が、2名居た。


 セイリューとラキアが中に入ると、子供達と動物達の瞳が一斉に二人を向く。
「皆、ちょっと集合してくれるかな」
 事務員がパンパンと手を叩くと、6人の子供達が集まってきた。
「ジミー、どうしたの? その人達、だぁれ?」
「ジミーさん、と言いなさい」
 子供の一人の問い掛けに、事務員は眼鏡をくいっと上げる。
「タブロスタイムズの記者さん達だ。ニカルデオン座の宣伝をして下さる。皆、取材に協力するんだよ」
 その言葉に子供達は顔を輝かせた。口々に『取材すげー』といった声が上がる。
「皆、よろしくな!」
「よろしくね」
 セイリューとラキアが人懐っこく微笑めば、あっという間に子供達に囲まれた。
「コラコラ、記者さん達を困らせては駄目だぞ」
 事務員に『ハーイ』と返事しながらも、子供達は記者二人への興味に瞳を蘭々と輝かせる。
「そうだ。道具小屋の鍵を持っているのは誰だ?」
「あ、僕だよー」
 事務員の問い掛けに、銀髪の少年がひょいっと手を挙げた。
「ユルクか。記者さん達は道具小屋を見たいそうだ」
「じゃあ、僕が案内するよ」
 ユルクと呼ばれた少年は、にっこりと笑う。
 その時、セイリューとラキアの携帯が着信を告げて震えた。


「ねー。もしかして、だけどさぁ」
 ひと通り団員の自己紹介が終わったタイミングで、コージモがじっと鳥飼を見た。
「オネーサン達って、ウィンクルム?」
 視線は、メモを持つ鳥飼の手。その甲にある紋章に注がれている。
「お姉さんじゃなくてお兄さん、だけど……そうだよ」
 ふわりと鳥飼は微笑んだ。
「へー……あのさ、一つ訊いてイイ?」
 すっと、何所からとも無くコージモの手に数本のナイフが現れた。
 鴉はさり気なく警戒する。
 コージモは、ナイフをお手玉のように投げながら続けた。
「オーガと戦うんだよね? オーガを殺す時って、どんなカンジ?」
「……え?」
 思わず聞き返すと、コージモがナイフを投げる。
 それは真っ直ぐ飛んで、舞台に設置されている的に当たった。
「オーガを殺す時、どんな気持ち?」
 表情の読み取れない笑顔で、コージモは重ねて尋ねる。
「俺、家族をオーガに殺されてるんだよね。だから、俺だったら……きっとスカッとすると思うんだ。アンタはどう?」
「ちょっとコージモ、失礼だよ!」
 一人の少年が鳥飼とコージモの間に割って入った。
「ごめんね、お兄さん達。代わりに、僕がもっと色々このニカルデオン座の事を教えてあげるよ」
「ルヨ、俺が質問してるんだぞ」
 ルヨと呼ばれた少年は、コージモを宥めるように微笑む。
「折角の取材で、印象悪くしたら意味ないじゃん」
 そう言って、鳥飼の手を取った。
「道具小屋を案内してあげるよ」
 少し考えながら鳥飼が口を開こうとした時、懐の携帯が震えた。
「ちょっとごめんね。会社から連絡みたいだ」
 鳥飼は携帯を取り出し、鴉と一緒に送られてきたメールを確認する。

『「みちびきの家」出身者の団員が二人居る。ユルクとルヨという少年だ』

 鳥飼は思わず息を呑みそうになるのを耐えて、目の前に居るルヨを見た。
「お兄さん、どうかした?」
「少し仕事でアクシデントがあっただけ。大丈夫だよ」
 有難う、と微笑んだ。
「道具小屋、案内して貰えるかな?」
 その様子を見ながら、鴉は素早くメールを飛ばしていた。

『ルヨと接触中。一緒に道具小屋に向かいます』


 一方、セイリューもまた、驚きが顔に出ないよう細心の注意を払って、ユルクに微笑んでいた。
「じゃあ、案内頼むぜ」
 その後ろで、ラキアがそっとメールを送信していた。

『ユルクと接触中。一緒にこちらも道具小屋に向かいます』


●4.

「あれ? ユルク」
「ルヨ」
 道具小屋の前で、ユルクとルヨ、鳥飼とセイリュー達はかち合った。
「どうしたの?」
「……少し予定を変えようかと思って」
「奇遇だね、こっちもだよ」
 ユルクとルヨは微笑み合うと、ユルクが鍵穴へ鍵を差し入れる。
 カチッと音が鳴り、ドアノブが回された。キィと、大きな木製の扉が軋む音を立て開かれる。
「「どうぞ、お兄さん達」」

 誰よりも先に動いたのは、鴉だった。
 懐から、マジックブックを取り出すと鳥飼の前に出る。
 暗闇から飛び出てきた何かへ、マジックブックの体当たりが炸裂した。
 キャイン!と悲鳴を上げて、血走った瞳に涎を垂らした二体の野犬が転がる。
 デミオーガだ。
 続いて跳躍してきた野犬──デミ・ドッグの鼻先を、セイリューは思い切り蹴飛ばした。
 鴉のマジックブックが喉元へ噛み付き、止めを刺す。
 三匹のデミ・ドッグが転がるのを見て、ユルクとルヨが舌打ちする。

「まさか、知ってた?」
「不意打ちに対応したって事は、そうだよね」
「オーガ様に、全部食べて貰おう」
「そうだね」

 二人の会話に、鳥飼はぎゅっと拳を握った。
「やっぱり君達が……」
「マントゥール教団員か」
 セイリューは眼差し厳しく二人を睨む。
「「オーガ様、エモノだよ!」」
 二人が叫ぶと同時、道具小屋の奥から、瘴気と殺気が立ち上った。

「この先の為に」
「滅せよ」
 二組の触神の言霊が響く。

 ずしりずしりと扉から姿を現したのは、鮟鱇のような頭部を持つ異形のもの。頭部に魔力をおびた光体が光る。

「な、何だ、アレは……!!」
 悲鳴が上がった。
 騒ぎに気付いた事務員と子供達が、外に出てきている。
「皆さん、逃げてください!!」
 鳥飼は叫ぶと、鴉と共に、彼らとオーガの間へ移動した。何としてもここで食い止めなければ。
 事務員が子供達を誘導して逃げ始める。
「気を付けてください!」
 ラキアが叫んだ瞬間、ゆらりとオーガの光体が揺れて、何も無かった場所に突然、三体のデミ・ドッグが現れた。
「幻影か……!」
「セイリュー、下がって!」
 ラキアはシャイニングアローを発動すると、セイリューの前へ出る。
 幻影達は一斉にラキアに襲いかかるが、尽く光の輪に弾き返された。
 セイリューもまた、ゴム製パチンコで幻影達に小石をぶつけていく。
 鴉のマジックブックの体当たりも加わり、三体の幻影は爆発して果てた。
 オーガが憤怒に震える。そこへ、
「お待たせ!!」
 明るい声が響いたと同時に、プラズマ球が飛んでオーガの顔面へ炸裂した。
 オーガの身体が一歩後ろに下がる。
「流石に頑丈だなぁ」
 明るい声の主──ランスは杖を手に、次の魔法の詠唱へ入った。
「セイジ! ランス!」
 駆け付けた頼もしい仲間達に、鳥飼とセイリュー達に笑みが浮かぶ。
「仲間!?」
「ど、どうする?」
 ユルクとルヨは動揺した様子で、ウィンクルム達とオーガを見遣った。
 詠唱するランスの前に立ち、セイジはユルクとルヨを見る。出来れば、彼らは捕縛したい。
 鴉と目が合った。
 鴉は頷くと、マジックブックからクマのぬいぐるみを出現させる。
 クマがオーガの周りを飛んで、ラキアも前に出てオーガの注意を引き付けようとした時、それは起こった。
「「え?」」
 オーガの手が、傍に居たユルクとルヨの身体を掴む。
「オーガ……様?」
 ラキアが駆け出し、鴉のクマも突撃するが、一歩遅かった。
「クート先生、どうして……!」
 二人の少年からナニカが出て、大きく開いたオーガの口の中へと吸い込まれていく。
 そして、二人の少年は石化した。
 グオオオオオオオオ!
 オーガが吠える。その手の中で、二人の少年の身体は無残に砕かれた。
「何て事……!」
 鳥飼とラキアが思わず口元を押さえ、セイリューと鴉はオーガを睨む。
「用済みは排除……それが、教団のやり口か」
 セイジが吐き捨てるように言うと、背後から魔力の高まりを感じた。
 オーガの頭上に魔法陣が現れている。
「ラキア、離れろ!」
 セイリューの声にラキアが駈け出したのを確認してから、ランスの金色の瞳が険しく細められた。
「いけぇ!!」
 杖を振り下ろすと同時、魔法陣から熱線が照射される。
 オーガは為す術もなく、熱戦に焼かれてのた打ち回った。
 鴉のクマもまた、全力で体当たりを喰らわせると、オーガは地面に膝を付き、ゆっくりと崩れ落ちて──やがて動かなくなった。


●5.

 道具小屋の入り口が破壊された事、マントゥール教団員の少年二人が死亡した事以外、ニカルデオン座に被害はなかった。
 無事にハロウィン特別公演も行われ、大盛況に終わる。

 ただ、何故あの二人の少年が凶行に及ぼうとしたのか……その謎と爪あとは、深くニカルデオン座に残ったのだった。

Fin.


(このリザルトノベルは、雪花菜 凛マスターが代筆いたしました。)



依頼結果:大成功
MVP
名前:アキ・セイジ
呼び名:セイジ
  名前:ヴェルトール・ランス
呼び名:ランス

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 紺一詠
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 難しい
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 10月07日
出発日 10月15日 00:00
予定納品日 10月25日

参加者

会議室

  • プランは提出できた。
    みんな、怪我なく事件が解決できるといいな。
    うまくいく事を祈っている。

    短い時間での相談その他諸々、お疲れさまでした。

  • [8]アキ・セイジ

    2014/10/14-21:29 

    プランは提出できた。
    上手く行っていることを願うよ。

  • [7]鳥飼

    2014/10/14-21:14 

    僕も何かわかれば、携帯のメーリングリストで情報を流すようにしますね。

  • こちらも人数少なめなので、
    公演前に調査対応が出来るようにガンバろうぜ。
    公演中でなくても「普通のサーカス団員の安全確保」も必要だよな。
    一般サーカス団員の、オーガからの避難誘導も念頭に置かなくては。

    鳥飼さんも取材で潜入、了解したぜ。
    サーカスは出し物の宣伝をしたいだろうから
    その辺をうまくつつけば
    ある程度内部を見せてもらえるかなと思ってる。
    オーガがサーカスに居る事は危険だから、
    オレはオーガを中心に捜そうと考えてる。
    道具をしまう所や大道具の中、その他諸々。
    ヤグルロムとデミ・ドッグを早めに探さないと
    うっかり出くわしたサーカス団員が
    オーガに食べられちまう懸念もあるからさ。
    何かを見付けたり何か気が付いたら
    携帯のメーリングリストで流すぜ。
    戦闘は必ず複数人数で当たる方がいいな。

    戦闘時はカウンター攻撃主体になるから
    敵の気を引いて時間を稼ぐぜ。
    こっちの頭数多い方が攻撃が分散されるだろ。
    公演前・公演時でも同様かな。
    一般人(サーカス団員含む)の避難誘導は皆に任せた。
    オレ達は敵の攻撃が一般人に行かないように敵の気を引くぜ。
    負傷時の回復もラキアが担当するが
    何より「誰も怪我をしない」のが一番いいので、
    皆も怪我しないように気をつけるようにしようぜ。

  • [5]鳥飼

    2014/10/14-09:16 

    セイリューさん、ラキアさん、お久しぶりです。
    はい。ヒサメさんの件以来ですね。(にっこり
    今回もよろしくお願いします。

    アキさんとランスさんは初めまして。
    よろしくお願いします。


    >行動目標
    セイリューさんのいうように、ニカルデオン座の方たちの今後の事も考えると。
    確かに公演前になんとかしたいです。
    だとするとアキさんの言うように、
    【第一目標】公演前にオーガ及び、教団員の発見。対処。(討伐、捕縛)
    【第二目標】公演中にオーガの討伐、観客の避難誘導。
    といったところでしょうか。

    >視界の悪さ
    確かに、今の日の沈み具合から公演中は外は既に暗くなっている可能性が高いですね。
    定小屋ということは屋内なので、それなりに照明はあると思います。
    ただ公演中は、照明は舞台だけでしょうし。やはり視界はよくないかも知れませんね。

    >公演前の行動
    セイリューさんに合わせて、取材という形にさせて貰っても良いでしょうか。
    鴉さんが医学Lv2ですけど、検診というには技量とこの時期に来る事に違和感がありますし。

    主に年齢の低い団員に話を聞いてみようと思います。

    >戦闘
    現状、後衛の方ばかりなので。
    ジョブ的には鴉さんに前衛として、牽制と時間稼ぎをお願いしようと思います。
    マジックブック「不安」で、相手の動きが鈍れば良いんですけど。

    僕も公演中に戦闘になったときは、避難誘導に回りますね。

  • [4]アキ・セイジ

    2014/10/14-01:17 

    アキ・セイジだ。よろしく。

    出来る事なら「公演が始まるまでに」団員の特定とオーガの発見からの討伐に至りたい。
    それが出来なかった場合には、公演での異変に対処する形を取る予定だ。
    公演前にターゲットが分かれば、観客を危険に晒す事も無いしな。
    ただし、公演前にタゲを特定する難易度は高いと思うので、あくまで目標って感じかな。

    行動としては、俺はまず「団長」にちょっと当たってくる。
    団長が教団員でないことはPL情報なので、それをPC情報にしつつ聞き込みだ。
    次に「団員」に当たる。
    何か分かったら携帯のメーリングリストで一斉に流すよ。

    戦闘では相棒はウイズとして攻撃魔法を担当する。
    ジョブ的に、位置取りは他の精霊の後ろになる。
    俺は観客の避難誘導の予定だ。

  • セイリュー・グラシアだ。
    鳥飼さんとは『爛れて、溶けて』以来だな!
    今回もヨロシク!

    相談期間短いので、一応考えている事を。
    公演中は
    ・夜で視界が悪い可能性大
    ・観客が多くて人的被害リスクが高い
    ・公演中でも『舞台の裏手は、楽屋とかいろいろ。関係者以外、立ち入り禁止。』
    なので、日中(公演していない時)にニカルデオン座を調べたい。
    雑誌の取材できましたといって潜り込もうかと。
    これなら取材の名目であちこち入らせてもらえるように交渉もできるし
    団員に話も聞けると思う。
    何処かに隠れているオーガを探す事が元々の任務だし、
    追い詰められればオーガも何か反応してくるんじゃないかと思う。
    公演中に騒ぎになると、後々サーカスの公演にも支障が出たり、
    団員に怪我人が出てもサーカス側が困るだろ。

    こんな感じで考えているのだけれどどうかな?

  • [2]鳥飼

    2014/10/13-10:48 

    随分と古い建物のようですし。
    幻影が爆発したときに、崩れないか心配ですね。
    そこまで、脆くもないでしょうか……?

    行動については、大雑把に分けて2種類の内、どちらかになると思います。
    【1】公演前に定小屋に入り、オーガを見つけて討伐する。
    【2】公演中にオーガが出てきたところを討伐する。
    簡単にまとめるとこんな感じでしょうか。

    【1】の場合は、どうやって定小屋に入るかですね。
    「なんだかんだ理由を付ければ入れるかも」ということなので、そのなんだかんだの部分をどうするか。
    そして、関係者以外立ち入り禁止の舞台の裏手には。
    誰か引きつけた隙に入り込む、しか浮かびません。他にも良い方法がありそうなんですけど。

    【2】は、観客の避難誘導と。
    避難までの間、幻影やデミが観客を襲わないように牽制する必要があるでしょうか。
    人手が無い場合は、避難誘導まで手が回らないと思いますので。
    周囲に被害がいかないように、討伐優先になると思います。

    大成功を目指すなら、教団員の確保も必要ですね。

  • [1]鳥飼

    2014/10/12-20:04 

    まだ誰もいませんけど。挨拶しますね。
    僕は「鳥飼」と呼ばれています。好きに呼んでくださいね。
    こちらは鴉さん。トリックスターです。

    まだどうすればいいのか、案が浮かんでいませんが。
    ご一緒になる方と考えていきたいと思っています。


    オーガが観客の前に姿を現す前に、倒せるのが理想ですけど。
    舞台の裏手の何処かにいるような気はしています。

    公演前に、定小屋の中に入ることができて。
    そのときになんとかオーガを見つけて倒すことが出来れば、観客への被害はなくなります。
    ですが、そう都合良くは行くかどうか。(頬に右手を当てて溜息

    入り込む方法も、探す手段もまだ浮かんでいないんです。
    公演の最中にオーガが現れたときに対応するのが、一番手っ取り早いですけど。
    観客の避難誘導に人手が必要になりますね。

    ニカルデオン座の方も、なるべく戦いに巻き込まないようにもしなければいけないでしょうか。(小首傾げ

    考えることがいっぱいですね。


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