プロローグ
南国の海パシオン・シーにある、コーラルベイ。
ゴールドビーチにある中心的な町の一角に、カジノが居を構えています。
カジノ『ゴールド』。
このカジノで、ハロウィンのイベントが行われる事になりました。
☆ハロウィンパーティー開催☆
カジノで仮装パーティの一時を楽しみませんか?
カジノ内はハロウィン一色。
スタッフも仮装して、皆様をお待ちしております。
パーティ期間限定で、お一人様150Jrにて、以下のカジノ内のゲームが遊び放題となっております。
・トランプゲーム
・ダイスゲーム
・ルーレット
・スロットマシン
また、特別に取り寄せた、ハロウィン限定のカクテルと軽食メニューをご用意しております。
限定カクテル(一杯100Jr)
・トリック・オア・トリート(ノンアルコール。やさしい味わい)
・パンプキン・ドリーム(甘口。ほろ苦い甘さと、フルーティな酸味。アルコール度数弱め)
・ヴァンパイア・ナイト(辛口。キレの良い味わいで、アルコール度数強め)
限定メニュー(一品150Jr)
・マジック・ナイト(ミートパイ)
・ジャック・オ・ランタン(パンプキングラタン)
・ドリーミー・パンプキン(かぼちゃと栗のタルト)
・バット&スイート(手作りクッキーとパウンドケーキ)
パーティ開催時間は、18時から6時まで。
是非、素敵なハロウィンの一時をお楽しみください。
カジノ『ゴールド』店長代理 アリスター
解説
カジノで、ハロウィンパーティをお楽しみいただくエピソードです。
ドレスコードがあります。
ハロウィンな仮装、もしくは正装でお越しください。(プランに服装について明記願います)
なお、カジノへの入場料として、カジノゲームで遊ぶか遊ばないかに関わらず、一律お一人様150Jr掛かります。
(パートナーと併せて300Jr)
※ゲームに勝ってもジェールは増えません。負けても減りません。予めご了承ください。
遊びたいゲームがある場合は、プランに記載をお願い致します。
また、立食形式で、カクテルと軽食が楽しめます。
カクテルが一杯100Jr。軽食は一品につき、150Jrです。
注文したいメニューを、プランに明記してください。
ゲームマスターより
ゲームマスターを務めさせていただく、『ハロウィンは無駄にテンションが上がる』方の雪花菜 凛(きらず りん)です。
ハロウィンを正装、もしくは仮装で、少しだけ大人に楽しんで頂くエピソードです。
是非お気軽にご参加頂けたらと思います。
皆様の素敵なアクションをお待ちしております!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)
○服装 トンガリ帽子+ローブの魔女の仮装 ○行動 ここに来るのは依頼以来ですわね うふふっカジノでハロウィンなんて面白いですわ サフランに教えて貰ったクラップスと言う ダイスゲームを遊んでみます あらっ言いましたわね 乗りましたわ、その勝負! 見ていてごらんなさい、華麗に勝って差し上げますわっ (と言いながら勝つまで粘る) ……な、何とか勝てましたわ! 見ていましたか、サフラ……いない! もうっどこへ行っていたんですのって、え?カクテル? そう言えば喉が……あ、ありがとうございます ところでサフラン 勝ったらお願いを一つ聞いて下さるんでしたわよね では、マリーと マリーと呼んで下さいなサフラン 友達とか家族とか、そう呼びますものっ |
ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
グレン見て下さいっ! 赤頭巾の衣装です、ケープついてるんですよ かわいくないですか? バット&スイートを注文しますね。 お酒飲めないので甘い物で我慢です! グレンはお酒あるじゃないですか… 仕方ないですね、じゃあ半分こで、あーん。 …食べないんです? グレンってカードゲーム好きなんですか? ずっとここで遊んでるから何となく… 私ですか? グレンに教えてもらったポーカーなら 多分できるとは思いますけど… え、勝負!?しかも罰ゲーム付きですかっ!? そ、そんなぁ…勝てるわけが… いえ、逃げませんよ!その勝負受けて立ちます! ぜ、絶対に負けられません…っ! もう…酔ってるのか、それとも楽しんでるだけなのか 全然分からないです… |
アリシエンテ(エスト)
【ドレスコード】 アリシエ:純赤のAラインロングドレス(パーティよりもパニエなど抑え気味) エスト:付き人なのでいつもの燕尾服 ノンアルコールのカクテルもなかなか美味ね せっかく来たのだからルーレット!(席に座り、カクテルを側に、エストを傍らにチップを受け取りながら) (エストにだけ聞こえるように、小声で) …知っていて? 本物のディーラーは『客を有頂天にまで持ち上げて、そこからどん底に叩き落す』術を知っているのよ 試してみましょうっ そして、お互いに賭けなど如何かしら? 早くコインを0にした方が【公共の面前で15秒酔った振りをして相手に抱きつける権利】 エストは暖かいと、この間知ったの またギュウってしたくなるわっ |
かのん(天藍)
魔女の仮装 ゴシック調胸元と背中の開いた黒ドレス 袖と裾は蜘蛛の巣模したレース 黒いとんがり帽子 しっかり化粧、深紅の口紅、髪はおろして巻き髪 折角の機会なので普段とは真逆の雰囲気 ルーレット勝負で勝手に我らの眷属その艶やかな黒髪に等と宣い一方的に黒を選び、賭ける色まで決められている状況にむっとする 天藍との時間を邪魔された事や此方の話を聞こうとしない態度を不快に感じる 彼方側への当て付けも兼ねて天藍の腕を引き寄せ、勝運を貴方にの言葉と共に頬にキスを 天藍に連れ去られた先でカクテル楽しみつつ今日の服装の感想を聞く 自分なりに頑張ったので好感触だと嬉しい 囁かれた言葉に頬を染めながらマントの中で天藍の肩口に頭を乗せる |
七草・シエテ・イルゴ(翡翠・フェイツィ)
そういえば、ここ。 前に紅い悪魔が出るという依頼で来た所でしたね。 普通にカジノを楽しむよりも翡翠さんを脅かしてみましょう。 銀髪に染めて夜会巻きにし、青いショートドレスを着用。 薄い桃色のリップを引き、銀色のハイヒールで会場へ。 この格好、翡翠さんにバレるまで内緒ですね。 スロットしている翡翠さんに声をかけて、勝負を挑みます。 うふふ。勝ってばかりだから物足りないんですよね? 私と勝負しませんか? 勝てたら、貴方の知りたい事全部教えてあげますよ? (台詞参照エピ:【夏の思い出】紅のルーレット) その後、私はパンプキン・ドリームとドリーミー・パンプキンを注文。 ドリーミー・パンプキンは、翡翠さんと半分にして食べます。 |
●1.
彼を驚かせてみたい。
銀に染めた髪を、宝石の花の着いたコームで留めた。
青のショートドレスに腕を通す。
唇に薄い桃色のリップを引いて、銀色のハイヒールを履けば……。
「これなら、翡翠さんも直ぐには気付きませんよね?」
鏡の中の自分を眺め、七草・シエテ・イルゴは微笑んだ。
ちょっとしたハロウィンの悪戯。
彼はどんな顔をするだろう。
シエテはパーティバックを手に、彼と待ち合わせているカジノへと向かったのだった。
(ついにこの時が来たね、久々にテンションが上がりそうだよ!)
翡翠・フェイツィは、ぐっと拳を握り締めた。
以前依頼で、パートナーのシエテと一緒にこのカジノに来た事がある。
(あの時は遊ぶの自重していたんだ)
よく我慢した、俺。
過去の自分を褒めてあげながら、翡翠はカジノを見上げる。
(だから、今夜は夜通しで遊び尽くす!)
力強い足取りで、カジノの中へと足を踏み入れた。
(シエが来るまで、スロットマシンで遊ぶか)
翡翠は迷わずスロットマシンのコーナーへと歩いて行く。
ずらっと並んだスロットマシン。
ジャラジャラと鳴るコインの音が、否が応でも翡翠のテンションを更に上げる。
今回は特別なイベントのため、入場料だけで遊び放題。
勝ってもコインは増えないが、純粋にゲームを楽しめる。
「よし、やるか!」
空いている台に座り、コインを投入してレバーを引く。
久し振りの感覚だった。
以前は、シエテを出会う前までは、毎日のようにレバーを引いていた。
朝から晩までギャンブル三昧。遊び呆けていたあの日々が、今は遠く感じる。
リールが回るのを眺めているのは、今だって楽しい。
けれど、昔のようには戻れないと、何故かそう感じる己が居た。
その理由は……。
(翡翠さん、見つけました!)
シエテは、スロットマシンの前に座る彼を発見した。
髪をオールバックにして、吸血鬼の格好をした彼は、何所かの伯爵様みたいに見えて。
シエテは正体不明の胸の高鳴りを感じながら、彼の後ろへ歩いて行く。
コインがうず高く積まれているのを見て、深呼吸。その背中へ声を掛ける。
「うふふ。勝ってばかりだから……物足りないんですよね?」
彼の肩が跳ねて振り返った。その瞳が軽く見開かれる。
「私と勝負しませんか? 勝てたら……貴方の知りたい事、全部教えてあげますよ?」
微笑んでそう告げると、驚いていた翡翠の瞳が悪戯っぽい輝きに変わった。
「勝負? いいよ」
彼の指が真っ直ぐにシエテを指し示す。
「でも俺が勝ったら、シエを返してくれよな」
今度はシエテが目を見開く番だった。
彼は一目で自分だと見抜いているに違いなかった。
「えぇ、勿論」
悔しいような、でもとても心が温かくなるのを感じながら、シエテは彼の隣へ座ったのだった。
暫くして。
「どうして、直ぐに私だと分かったのですか?」
二人は軽食コーナーへと移動していた。
シエテの問い掛けに、翡翠は瞳を細める。
「シエはシエ、だろ?」
「……ちょっとだけ悔しいです」
「そういう格好も似合うよな」
「そしてズルいです」
屈託ない翡翠の笑みを少し恨めしく見上げる。
「シエ、ハロウィンの夜に乾杯しよう」
差し出されたグラスを断れる訳もなく。
「乾杯」
カチンと澄んだ音と共に、紅と橙のカクテルが揺れた。
ドリーミー・パンプキンを仲良く半分こしながら、二人は夜を楽しむ。
●2.
純赤のロングドレスに、金の髪が靡く。
背筋を真っ直ぐに伸ばし歩む姿には、威風堂々とした気品があり、自然と周囲の視線が集まった。
「トリック・オア・トリートを頂くわ」
その視線を物ともせず、アリシエンテは傍らのパートナーにそう声を掛ける。
「……畏まりました」
いつもの燕尾服姿のエストは、一瞬だけ僅かに停止してから、カクテルを注文する。
そして、改めて己の主を眺めた。
Aラインのロングドレス。
社交界のパーティ時に比べて抑えめに着こなしているものの、華やかな彼女を抑えられるものではなく。
「ねー、かーのじょ……」
アリシエンテの背後から、彼女に声を掛けようとしてきた吸血鬼(姿の若い男)を、エストの鋭い眼光が射貫いた。
吸血鬼は冷や汗を流しながら退散していく。
「どうかした?」
「何でもありません。どうぞ」
エストから差し出されたカクテルを受け取り、アリシエンテはその色を眺めた。
「綺麗な色ね」
淡い紫に月を模したレモンが添えられている。
そっと口を付けて、アリシエンテは微笑んだ。
「ノンアルコールのカクテルもなかなか美味ね」
「自宅ではアルコールを嗜む主も、流石に外の場では人の目を気にするようでなによりです」
アリシエンテの半眼がエストを睨むが、彼は涼しい顔。
「まぁ、いいわ」
グラスを手に、アリシエンテは歩き出した。
エストはその後ろを静かに付いて行く。
「せっかく来たのだからルーレット!」
アリシエンテが来たのは、ルーレットのコーナーだった。
金髪碧眼のディーラーが丁寧にお辞儀する。
アリシエンテはエストからチップを受け取りつつ、彼だけに聞こえるように囁いた。
「……知っていて? 本物のディーラーは『客を有頂天にまで持ち上げて、そこからどん底に叩き落す』術を知っているのよ」
金の瞳がキラリと輝く。
「試してみましょうっ」
「己の作った資金を全て積み崩すディーラーを見たいとは、随分と……」
ジロリ。
アリシエンテの視線に、エストは軽く瞳を伏せた。
「いえ、悪趣味だとは思ってはおりません。ただ、その通りになるかは神のみぞ知るという所かと」
「だから面白いんじゃない。そして、お互いに賭けなど如何かしら?」
悪戯っぽく輝く主の顔を、エストは訝しげに見つめる。
「賭け……ですか?」
「早くコインを0にした方が、【公共の面前で15秒酔った振りをして相手に抱きつける権利】を得るの」
思わず彼女を凝視した。
「エストは暖かいと、この間知ったからよ」
アリシエンテは他意のない笑顔でそう告げる。
「【公共の面前で15秒酔った振りをして相手に抱きつける権利】──……」
復唱して、エストは頷いた。
「成程……乗りました。では、私も卓に上がらせて頂きます」
隣のテーブルへ座るエストを眺め、アリシエンテが満足そうに微笑む。
かくして、二人の勝負が始まった。
ロー・ハイ(偶数か奇数か)で始まったゲームは、最初は面白いくらいに当たった。
二人の手元には沢山のコインが積み上げられていたのだが……。
「赤」
「黒、に致します」
ルージュ・ノワール(赤か黒か)。
ディーラーの投げ込んだボールは……。
「彼女の勝利ですね」
黒7に止まった玉、アリシエンテのチップは0。エストの前にはまだチップが残っている。
彼女の勝ちを宣言し、エストは小さく息を吐き出した。
「権利を行使するわ」
アリシエンテはぐいっとノンアルコールの飲み干して、
「エスト、私、酔っ払ったわ……!」
そう言うなり、エストの胸に飛び込むようにして抱き付いた。
「温かい……」
すりっと肩に頬を寄せるアリシエンテの嬉しそうな声が、染み入るように身体に響く。
エストは一瞬、周囲を気にするも、直ぐに彼女から伝わる熱の方へ意識は移った。
柔らかく温かな愛おしい感覚。
お互いこんな理由でもないと、抱き合う事などきっと出来なくて。
けれど、そんな今が、とても得難い幸福なのだと。
口元に柔らかい微笑を湛え、エストの腕がアリシエンテの背に回された。
(エストのくせに、温かいから……また、ギュウってしたくなったの)
無意識に強く抱き合いながら、永遠のような一瞬のような15秒間が、二人を包んだ。
●3.
店内はハロウィンカラーで輝いている。
蝙蝠や南瓜の装飾、ディーラーや店員は全てハロウィンの仮装。
「うふふっ、カジノでハロウィンなんて面白いですわ!」
マリーゴールド=エンデは、トンガリ帽子を揺らして辺りを見回した。
「ここに来るのは依頼以来ですけど、ハロウィン仕様、素敵ですわねっ」
瞳をキラキラさせるローブの魔女な仮装姿のパートナーを眺め、サフラン=アンファングは瞳を細める。
「今日は一段と活気があるネ」
サフランもまた、ミイラ男の仮装をしていた。
黒色のネクタイとズボンに、赤色のYシャツ。
緩く結ばれたネクタイと、第2釦まで外されたYシャツから素肌に疎らに巻かれた包帯が覗く。
「サフラン、私(わたくし)、サフランに教えて貰ったクラップスで遊んでみたいですわ」
マリーゴールドはダイスゲームの方向を指差した。
「いいよ、行ってみようカ」
テーブルを覗いてみれば、丁度ゲームが始まるようだった。
早速マリーゴールドも参加する事にする。
「マケタラホネハヒロッテアゲルヨー」
「あらっ、言いましたわね」
マリーゴールドは後ろに立つサフランを軽く睨んだ。
サフランはポンポンとそんな彼女の肩を叩く。
「一勝でも出来たら、何でもお願い一つ聞いてあげるよ」
「!」
マリーゴールドは目を丸くしてから、金の瞳をキラリを煌めかせた。
「乗りましたわ、その勝負! 見ていてご覧なさい、華麗に勝って差し上げますわっ」
びしっと指差し宣言すると、気合充分にチップを手に取る。
そして、サフランに教わった賭け方──PASS LINEと書かれた部分に賭金を置いた。
クラップスは、2個のサイコロの出る目を当てるという単純なゲーム。
大まかには、ポイントとなる目が7よりも先に出れば勝ち、7がそれより先に出たらゲーム終了・負けというルールだ。
しかし、実に多彩な賭け方があり、その賭け方がなかなか奥深い。
『実戦で必要な賭け方があるんだヨ』
サフランの言葉を思い出しながら、マリーゴールドはゲームに挑戦する。
「先に7が出てしまいましたわ……!」
「あはは、負けだネ」
表情をクルクル変えてゲームに挑むマリーゴールドを、サフランは楽しく見守る。
「次ですわ、次っ」
「ガンバレー」
何ゲーム目かの挑戦となった時、サフランはチラリと時計を見た。
そろそろ喉が乾く頃合いだろう。
そっとその場を離れ、カクテルを買い求めに向かう。
(絶対に一勝したいんですの……!)
一方、サフランが離れた事に気付かないくらい、マリーゴールドはゲームに集中していた。
シューターの手に乗ったダイスを見つめ、両手を合わせる。
現在のポイントは『3』。
投げられたサイコロがコロコロと回転し……。
「1と2……3!……な、何とか勝てましたわ!」
マリーゴールドは、勝利の喜びに両手をぐっと握ってから、
「見ていましたか、サフラ……いない!」
満面の笑顔で振り返るも、一番この勝利を見て欲しかった彼が居ない。
「サフラン? 何所に行ったんですのっ?」
席を立ち辺りを見回していると、手に二つグラスを持ったサフランが帰って来た。
「もうっ、どこへ行っていたんですのっ」
「ヤダ、マリーゴールドサンッタラフウセンミタイー」
サフランは笑って、マリーゴールドの膨らんだ頬に、指で突く代わりに冷たいカクテルを当てる。
「そろそろ喉が渇く頃だと思って、取って来たんだヨ」
「そう言えば喉が……あ、ありがとうございます」
マリーゴールドはカクテルを受け取ると、少し頬を染めてお礼を言った。
そんな彼女に口元を上げ、サフランはテーブルを見遣る。
「勝ったんだネ」
「えぇ!」
マリーゴールドは輝くような笑顔で頷くと、上目遣いにサフランを見上げた。
「ところでサフラン。勝ったらお願いを一つ聞いて下さるんでしたわよね」
「そーだったネ」
マリーゴールドはカクテルを一口飲んでから、姿勢を正してサフランを見つめる。
「では、マリーと。マリーと呼んで下さいな、サフラン」
「……確かに何でもって言ったけど」
思いもよらぬお願いに、サフランは目を丸くした。
胸の奥がざわざわする感覚に、取り敢えずカクテルを呷る。
「友達とか家族とか、そう呼びますものっ」
「へー、友達とか家ぞ……げほげほ!」
「サフランっ?」
いきなり咽た彼に、マリーゴールドは慌ててその背中を撫でた。
「大丈夫ですか?」
「な、何でもない。ちょっと変な所に入っただけ!」
マリーゴールドの手を掴んで止めて、そのサフランとマリーゴールドの目が合う。
(本当に、調子が狂う……)
サフランは小さく息を吸ってから、僅かに躊躇するようにして、こう言った。
「折角だから、次は俺と勝負してみる? ……マリー」
●4.
ルーレットコーナーで、仮装した人々で賑わう店内を見渡し、かのんは小さく溜息を吐き出した。
(こうも人が多いと、なかなか見付け出せないわね)
かのんはパートナーの天藍と一緒に、カジノのイベントに参加している。
が、人混みに紛れて彼と逸れてしまったのだ。
ふぅと吐息を吐き出すと、黒いとんがり帽子と巻かれた黒髪が揺れる。
いつもはアップにしている髪を、今日は下ろして巻き髪にしていた。
メイクも普段よりしっかりと。深紅の口紅も塗ってみた。
胸元と背中の開いた黒のドレスはゴシック調で、袖と裾には蜘蛛の巣を模したレースが彩る。
神秘的な色香を纏った、大人の女性がそこには居た。
ハロウィンの特別な夜だから。
ちょっと普段とは違う自分になって、彼に見て貰いたかったのだ。
(逸れてしまうなんて……)
ふと絡み付くような視線を感じて、かのんはそっと周囲を見回す。
吸血鬼姿に仮装している一人の男が、こちらをじっと見ていた。
嫌な視線。
かのんは、直ぐ様その場を離れようとしたが、男の行動が一歩早かった。
「かーのじょ!」
男は声を掛けるなり、かのんの手を取る。
「!?」
突然の無礼ともいえる男の行動に、かのんは驚いて上手く反応を返せない。
「一人なんだろ? 俺と一緒にゲームを楽しまないか?」
「や、やめて、ください! 離してっ」
「寂しそうな顔、してるの見たぜ。一人なんだろ? だったらいいじゃない」
「違っ……」
「俺の連れだ」
怒りの滲んだ静かな声。
ぐいっと温かな手がかのんの肩を抱いて、男から引き剥がした。
「天藍……!」
「かのん、すまない。待たせた」
優しい瞳がかのんを見つめる。
黒の夜会服にシルクハットとマント、モノクルで仮装した天藍がそこに居た。
誰よりも会いたかったパートナー。
先ほど男に掴まれた時の嫌悪感とは全く違う。温かな満たされるような気持ちに、かのんは微笑みを返した。
「そういう訳だ。お引取り願おうか」
冷たい眼差しで睨む天藍に、男は何を勘違いしたのか、びしっと指を突き付けた。
「その子のエスコートの権利を賭けて、ルージュ・ノワールで勝負だ!」
ルーレットのテーブルにチップを置く。
「我らの眷属、麗しき彼女のその艶やかな黒髪に……俺は黒に賭ける!」
「なっ……」
賭ける色まで一方的に決めて、それで勝負等と言うのか。
場の雰囲気を壊してでも、かのん連れて帰ろうかと、天藍が一歩踏み出そうとした時、そっと袖を引かれた。
「かのん?……ッ」
振り向いた瞬間、頬に柔らかな唇の感触。
「勝運を貴方に」
紅いルージュのかのんが微笑む。
「では、俺はその唇に賭けよう」
天藍は瞳を細めると、指先でかのんの唇に触れてから、チップをテーブルに置いた。
ディーラーが円盤を回しボールを投げ入れる。
コトン。
「赤1。俺の獲物は頂いていく」
男を一瞥すると、天藍はかのんを軽々と両腕で抱え上げた。
言葉通り、かのんを攫うようにしてその場を後にする。
人気のないテラスに出て、かのんと天藍はカクテルで乾杯した。
ミートパイを食べながら、夜風を楽しむ。
ふと紅いカクテルを飲んで、かのんが口を開いた。
「……天藍。その……今日の私、変、じゃないですか?」
天藍は徐ろにグラスを置くと、マントを広げてかのんの腰を抱き寄せる。
すっぽりとマントでかのんを隠すようにしながら、その耳元へ唇を寄せた。
「……今は他の男の目から隠したい。……綺麗だ」
「嬉しい……」
かのんは頬が熱くなるのを感じながら、マントの中、天藍の肩口に頭を乗せるのだった。
●5.
「グレン見て下さいっ!」
ニーナ・ルアルディは、頬を紅潮させて、グレン・カーヴェルを見上げた。
「赤頭巾の衣装です、ケープついてるんですよ」
ご機嫌な様子のニーナを見下ろし、グレンは口の端を上げる。
それから、コツンとその額を小突いた。
「お前、これ『犬ですよ、犬!』って言って、この衣装セット持ってきたけどよ……」
「似合いますねっ」
「じゃなくてよ……狼だよなこれ」
グレンの頭には狼耳、腰部分にはふさふさの尻尾が付いている。
「あ、そうだったんですか?」
てっきり銀色のワンコかと……と、大真面目に首を傾けるニーナに、グレンは手を差し出した。
「むしろ犬やるんだったらお前だろ、ほらお手」
「えっ?」
「だから、お手だよ。お手」
グレンはニーナの手を取ると、カジノの中へ足を踏み入れたのだった。
「酒あるじゃん」
まず腹拵え。
軽食コーナーに来たグレンは、迷わずヴァンパイア・ナイトを頼んだ。
「バット&スイートをお願いします」
お酒は飲めないので甘い物で我慢。
ニーナは手作りクッキーとパウンドケーキのセットを注文する。
「わ、美味しいです!」
クッキーを一口食べて笑顔が広がった。
紅いカクテルを飲んでいたグレンが、そんなニーナに手を出す。
「お前の菓子も寄越せよ」
「グレンはお酒あるじゃないですか」
「いっぱいあるしいーじゃん」
「仕方ないですね、じゃあ半分こで」
ニーナはパウンドケーキを半分に割ると、グレンに差し出した。
「あーん」
「……」
「……食べないんです?」
「……お前な」
何か言い掛けて、グレンは小さく息を吐き出すと、奪い取るようにケーキを齧ったのだった。
ディーラーがカードを切り、客達に配る。
配られたカードを客達は確認し、手を考える。
「グレンってカードゲーム好きなんですか?」
カードを眺めるグレンを見つめながら、ニーナは首を傾けた。
「あ?」
「ずっとここで遊んでるから何となく……」
「カードは……まあ好きだな。持ち運びできるから何処でも出来る」
言うなり、グレンは悪戯っぽい光を瞳に灯した。
「せっかくだし、勝負しようぜ」
「え、勝負!? 私とですか?」
ニーナは思わず大きく瞬きする。
「グレンに教えてもらったポーカーなら、多分できるとは思いますけど……」
「ただ普通に勝負するだけじゃつまんねーし、負けたらキスな?」
「しかも罰ゲーム付きですかっ!?」
「その方がおもしれーだろ」
「そ、そんなぁ……勝てるわけが……」
「逃げるのか?」
グレンがじっと見つめてくる。うぐっとニーナは言葉に詰まった後、
「いえ、逃げませんよ! その勝負受けて立ちます!」
思わずそう答えていた。
(ぜ、絶対に負けられません……っ!)
ディーラーに配られるカードを祈るような思いで眺める。
それから、チラリとグレンを見た。
(何だって、罰ゲームなんて……酔っ払ってるんでしょうか?)
手札となったカードを恐る恐る確認する。
(あ、ラッキーです! スリーカード揃ってる)
ベッティングラウンド(賭けをするかの意思表示)では、迷わずポットにチップを置いた。
グレンも同様にチップを置く。
次は、5枚の手札から任意のカードをチェンジする。これはスリーカード以外の2枚を。
(流石にフォーカードとはいきませんね)
再びのベッティングラウンド。
これも迷わず賭ける事にする。
グレンも涼しい顔でチップを出していた。
そして、ショー・ダウン(手札の公開)。
「勝負です!」
心臓が早鐘のようになるのを感じながら、持ち札を見せる。
「や、やりました! 私の勝ちですっ」
グレンはワンペアのみ。スリーカードのニーナの勝利だった。
「負けちまったか」
グレンは笑ってカードをピンと弾く。
「良かった、これで罰ゲームは無効……」
「どっちが負けたらとは言ってない」
「え?」
ぐいっと。
強い力で引き寄せられた。
近く、とても近くに、グレンの端正な顔が迫って、そして……。
「!?」
唇に温かい感触。
驚くほど優しいそれが……グレンの唇だった事に、彼が離れた後にようやく気付く。
「罰ゲーム終了」
「……っ」
ニーナは口をぱくぱくさせ、再びカードゲームに興じる彼の横顔を見つめる事しか出来ない。
何で? どうして?
纏まらない思考の中で、彼の唇の感触だけが、何時までも残っていた。
Fin.
依頼結果:大成功
MVP:
名前:マリーゴールド=エンデ 呼び名:マリー |
名前:サフラン=アンファング 呼び名:サフラン |
名前:ニーナ・ルアルディ 呼び名:ニーナ |
名前:グレン・カーヴェル 呼び名:グレン |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 雪花菜 凛 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 10月04日 |
出発日 | 10月09日 00:00 |
予定納品日 | 10月19日 |
参加者
- マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)
- ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
- アリシエンテ(エスト)
- かのん(天藍)
- 七草・シエテ・イルゴ(翡翠・フェイツィ)
会議室
-
2014/10/08-23:56
-
2014/10/08-21:09
-
2014/10/07-21:10
ごきげんよう、マリーゴールド=エンデと申します。
皆様、お久しぶりです!今回もどうぞよろしくお願いしますっ
カジノでハロウィンだなんて、とてもワクワクしますわねっうふふ!
私達もカジノゲームで遊んでみようと思っておりますの。
楽しい時間が過ごせますように…! -
2014/10/07-01:11
皆さんお久しぶりです
カジノ事態が初めてなのでどきどきしています
ハロウィンという事で普段以上に着ていく物にも悩んでしまいますね
どうぞよろしくお願いします
-
2014/10/07-00:30
七草シエテです。
アリシエンテさんは、初めまして。
マリーゴールドさん、ニーナさんはお久しぶりです。
かのんさん、先日はお疲れ様でした。
改めまして、皆さんよろしくお願いします。
私達はカジノを中心に遊ぶ予定ですが、どのゲームをプレイするかはまだ未定ですね。
お食事も楽しみです。 -
2014/10/07-00:27
皆さんお久しぶりでーす、
よ、よろしくお願いしまーす…!(若干緊張気味)
グレンが何だか凄く楽しそうにしてるので、
お菓子頂きつつあちこちついて回る予定です。 -
2014/10/07-00:15