プロローグ
ある日、A.R.O.A.の掲示板に、こんなチラシが張り出されていた。
「ミラクル・トラベル・カンパニー・秋のおすすめレジャーのご案内
★星空乗馬倶楽部 秋の乗馬トレッキングツアー★
星空乗馬倶楽部は、タブロス郊外の山のふもとにある小さな乗馬クラブです。
馬の額の白い模様は流星と呼ばれています。
私たちの乗馬クラブに飼われているのは、夜空に輝く十二の星座にあやかった、十二頭の馬。
星空乗馬倶楽部では、紅葉の季節に合わせて、秋の乗馬トレッキングツアーを計画しています。
馬上で清々しい風を感じながら、のんびりとした時間を過ごしてみませんか。
★ツアーの内容
【完全初心者~趣味程度の方向け】
馬に触るのは初めて、という方から、趣味で乗馬を楽しんでおられる方までおすすめのツアーです。
まず、乗馬倶楽部内の馬場にて、基本的な乗馬の知識と、馬の操作法を学びます。
それから、インストラクターの先導に従って、ゆっくりと並足で近郊の観光ポイントを歩きます。
観光ポイントは二種類で、お好きな方をお選びいただけます。
・紅葉トレッキングツアー
山の中腹まで馬で行き、赤や黄色に色づいた紅葉を見学します。
森の中には鳥やリスなどの野生動物も多く生息しており、馬上から動物を観察できます。
山の中腹に湧いている、清らかな泉が目的地です。
・秋の薔薇園見学ツアー
近郊には閑静な田園地帯が広がっており、煉瓦造りに茅葺き屋根の美しい農村が見られます。
この農村のはずれに、古い領主館があり、その敷地内に薔薇園があります。
秋咲きの薔薇が咲いている様子を、馬に乗ったまま見学できます。
【アマチュアの騎手程度か、それ以上の腕前の方向け】
・フリーツアー
単独で速足・駆足ができる、馬を操る技量のある方向けのコースです。
馬をお貸ししますので、ご自身の判断で外乗していただきます。
地図をお渡ししますので、上記の観光ポイントのうちお好きな方を、ご自身のペースでご見学ください。
【諸注意】
・馬は乗馬用としては比較的大型で、基本的に一人一頭ですが、
お二人のうち一方がアマチュアの騎手と同程度か、それ以上の腕の方でしたら、二人乗りも可能です。
・乗馬に必要なヘルメット、鞭などはお貸しします。
下はズボンで、動きやすい、汚れてもいい服装でお越しください。
【料金】
ウィンクルム様特別優待料金:お二人で700ジェールになります。
二人乗りの場合、お二人で500ジェールになります。
それでは、みなさまのご参加をお待ちしております」
解説
星空乗馬倶楽部の馬には、黄道十二星座の名前がついています。
(アリエス、タウロス、ジェミニ、キャンサー、レオ、ヴァルゴ、ライブラ、スコーピオ、サジタリウス、カプリコーン、アクエリアス、ピスケス)
各自星座占い的にそれっぽい性格をしています。
乗る馬をご指名ください。乗る馬がかぶらないように、掲示板でご相談いただければと思います。
特にご指名ない場合はこちらで選ばせていただきます。
オスメス、毛色などは、お好みがありましたらお書きください。(特になければこちらで描写します)
ちなみに、馬たちはみんな角砂糖が好物です。
ゲームマスターより
こちらでは初めまして、ご閲覧ありがとうございます。
騎乗スキルレベル1程度の蒼鷹(おおたか)と申します。
女性神人サイドで二本出したので、こちらにもご挨拶したく思い、プロローグを出させていただきました。
乗馬なんてずっと行ってないなあ、いいなぁ…と思いながら書きました。
星座の話で盛り上がるのもいいですね。
個人的趣味ですが、馬の品種イメージとしてはアンダルシアン種を想像しています。
それでは、よろしくお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
木之下若葉(アクア・グレイ)
乗馬か。興味あるけれど実際にやった事は無いんだよね アクアー、馬に乗って紅葉見に行かない? コースは紅葉トレッキングツアー 全てが初めてだからインストラクターの方の話はちゃんと聞くよ おや、美人。たてがみ、ふっさふさ はじめましてカプリコーン……長いからカプリでもいいかな?(馬に聞きながら) 今日は宜しくお願いします、だね 重かったらごめんね あ。アクア身長届く? でも初めて会った時よりかは身長高くなったんじゃない 撫でる位置が変わった気がするもの ふふ、楽しみにしているよ 凄いね。何だか何時もと見える景色が違う 木々も近いし、遠い秋空も近く感じるや 今日は素敵なものを魅せてくれて有難うね。アクア、カプリ (角砂糖を手に) |
初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
イグニスと2人乗りして秋の薔薇園見学ツアーへ 馬は……どれがいいんだろうな?お前に任せる しかし俺乗馬経験全くないんだが大丈夫だろうか お前が頼りだ、頼むぜ騎士様? しっかし、白馬に薔薇園か (イグニスを見やって) これで可愛いお姫様でもいれば文句なしのシチュエーションだったろうがな いやイグニス、お姫様扱いされても嬉しくないからな? ……俺の何処がいいんだか、全く ん?何でもねえよほら前見ろ前 |
シルヴァ・アルネヴ(マギウス・マグス)
「へぇー、乗馬ってかっこいいよな」 A.R.O.A.の掲示板前で足を止めて、乗馬体験のチラシを見 楽しそう!とマギを誘って参加してみた キャンサー (PC行動が馬のイメージに合わない場合、指名の無いイメージに近い馬に変更OK) 「馬だー!でっかいなー、顔長いなー、可ー愛いなー」 馬場を眺めて(厩舎かも)目キラキラ マギに注意されているので、馬を驚かせないよう気をつけて感動の声 乗馬は全くの初心者 馬に興味津々なので、インストラクターさんの説明は熱心に聞き注意事項に気をつける キャンサーと気が合えば、撫でたりブラシをさせて貰ったりふれあいに熱心 角砂糖をあげるのに挑戦 良いですね。の声に、誘って良かったと嬉しげに笑う。 |
セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
■双方初心者。アクエリアス 乗りやすい子だといいな(灰や黒の子をみつつ) 着替え、身が引き締まる思いと不安と期待。ゆっくり乗馬 馬って思っていたより大きくて優しい顔してるんだね 一番美しいのも頷ける 家族はやってるよ。僕は病弱だったから・・・ これで僕も仲間入りだ(馬へ)よろしくね ■乗馬 う、うん。行こうか(姿勢を正して、万が一を反復してガイドに耳を傾け後方を) 燃えるような赤に黄色に空気も澄んでて 着てよかった。え、どこ? あ・・・こんにちわ ■休憩 飲む様子を眺め、落ちてる葉にドングリを見つけて弄ったり (綺麗…) !別にそんなのじゃっ。バスケットにサンドイッチだけど(照れそっぽ) いいな。タイガが工作できるなんて意外 |
アレクサンドル・リシャール(クレメンス・ヴァイス)
表情豊かで気さくな、いわゆる『わんこ』 大家族と牧場(乳牛)で暮らしていた 乗馬は初めてなので大人しい子をお願いする 紅葉コースを選択 真面目に講習を受け、馬の首をそっと撫でる よろしくなと声をかけてから乗る 視点の高さにはしゃいだ声を上げ しばらくはおっかなびっくりだが次第に慣れ 紅葉の美しさを楽しみながらゆっくり進む あ、リスだ!リス!可愛いなぁ ずっと向こうまで真っ赤で綺麗だなあ 燃えるようなってこういうのを言うのかな クレミーの家の周りも、紅葉してるのか? え?え、えと クレミーって時々素で凄い事言うよなあ (言葉や髪に触れる指先に照れつつ) 乗馬終わった後は馬にもお礼 精霊と一緒に角砂糖をあげてそっと鼻面を撫でてみる |
A.R.O.A.の掲示板の前で足を止めたのは、色黒の肌に銀髪が映える、シルヴァ・アルネヴ。
「へぇー、乗馬ってかっこいいよな」
楽しそう、と呟く彼の脳裏には、黒髪に色白、自分のネガをとったようなマキナの青年が浮かんだ。
(マギを誘ってみよう。晴れるといいな)
しかして、当日の空は抜けるような秋晴れ、田舎の草むらからは秋の虫の鳴き声が聞こえ、風にススキの穂がざわめく絶好の乗馬日よりとなった。
「馬だー! でっかいなー、顔長いなー、可ー愛いなー」
厩舎で、子供のように目を輝かせるシルヴァに、マギウス・マグスも内心、口元をほころばせる。
マギウスは周到にも、事前に乗馬の注意事項を予習してきて、
「大きな声を出しては駄目ですよ、馬は繊細な生き物ですから。優しく、ゆっくりした声で話して下さいね」
あらかじめ、そうシルヴァに話しておいたのだ。教えた通りに抑えめに感嘆の声を上げるシルヴァ。
「馬の扱い方をよくご存じですね」
厩務員がにこにこしながら、二人に、馬への角砂糖のやり方を教える。
指先で持つと指ごと噛まれてしまうから、手のひらに乗せて差し出すのだ。
二人が選んだキャンサーもタウロスも、穏やかな気性の馬。シルヴァとマギウスの手に乗せた角砂糖を唇でさぐって、嬉しそうにコリコリ食べる。手のひらに柔らかい唇があたるのが、なんともくすぐったくって、二人は顔を見合わせて微笑した。
「タウロスの名前はどうしてつけたんですか?」
「流星が大きいだろ、鼻が白くて牛みたいだからさ」
「キャンサーは?」
「星が乱れてて、花みたいにもカニみたいにも見えるだろう。……ふふ、この子はイケメンが好きだからね、シルヴァさんを気に入ったみたいだね」
キャンサーはシルヴァに頬をすり寄せて嬉しそうにしている。マギウスはわずかに複雑な気分になったが、シルヴァが嬉しそうにブラシをかけてやるのを見れば、そんな気分もどこかにいってしまう。なぜなら、相手はただの馬。
馬を引き出し、その背に乗れば、高い空はいっそう青く見え、見慣れた景色は眼下に広がる。
「行き先どうする?」
「シルヴァの行きたい方でいいですよ」
「じゃあ、紅葉にしようか」
馬が動き出せば、並足でも案外揺れる。マギウスには戸惑いがあるが、シルヴァはあっさりこの揺れに慣れた。
「シルヴァの方が上達が早いような気がしますね……」
マギウスに、インストラクターが同意する。
「シルヴァさん、なんか運動しています?」
「オレ、ダンスが得意なんですよ」
「ああ、乗馬はリズムが大切ですから、それですね」
「僕は明日には筋肉痛ですね」
馬はゆっくり山を登る。麓では紅葉はちらほらだったが、中に入ってみれば、赤や黄色に色づいたカエデやツタが、落葉樹の明るい森を色とりどりに飾っていた。
「なぁ、あれ、アケビじゃないか?」
シルヴァの言葉に、マギウスが見れば、優しい薄紫の果実が口を開けている。
「そうですね、淡い色がきれいですね」
「なぁ、マギ。あそこにリスがいる」
指さす先を眺めると、黄色く色づいた梢をちょろちょろと走る茶色い姿。
「シルヴァは目敏いですね。僕は乗っているのでやっとです」
シルヴァ、くすくす笑い、
「しょっちゅう乗りにくれば慣れるさ。また来ようか?」
「明日の筋肉痛が酷くなかったら考えます」
風に落ち葉の匂いが混じり、山道は涼しく心地よかった。
「偶には、こういうのも良いですね」
マギウスの言葉に、シルヴァは誘って良かった、と嬉しそうに笑った。その笑顔を見て、誘われて良かった、と思っているのは内緒だ。
澄んだ泉の表面は湧水でざわめいている。着くなり早速水を飲み始めたタウロスの鬣に、ひらり、深紅のモミジの葉。
(風雅ですね)
マギウスはそれを手に取ると、目を細めてモミジを眺めた。やがて、ポケットに納める。美しい秋の一日の記念とするために。
「乗馬か。興味あるけれど実際にやった事は無いんだよね」
A.R.O.A.の掲示板にその新緑色の目を留め、木之下若葉は呟いた。
「アクアー、馬に乗って紅葉見に行かない?」
ふわっと放り投げた言葉は精霊のアクア・グレイの元へ。
「乗馬で紅葉を見に?」
すらっとした若葉の元へ、20センチ近く身長差のあるアクアが寄り添い、チラシを見る。若葉は少し下に見るくらいだが、アクアは少し見上げるくらいの位置。菫色の目が瞬く。
「季節はすっかり秋なんですね」
僕も乗馬は初めてです、と若葉に微笑みかければ、それが彼の返事だった。
抜けるような青空にインストラクターの声が響く。言われたとおりに斜め前から近寄る二人。若葉のカプリコーンは濡れるような漆黒の馬。
「おや、美人。たてがみ、ふっさふさ」
青黒く輝く毛をそっと撫でてやれば、馬は優しい目で若葉を眺めた。
「はじめましてカプリコーン……長いからカプリでもいいかな? 今日は宜しくお願いします、だね」
馬は黙して答えないが、その目は若葉を受け入れたようだ。
「重たかったらごめんね」
その言葉に小太りの厩務員が、楽勝ですよと笑う。
一方、アクアのライブラはきりっとした印象の白馬。その白い肌は柔らかな色合いのアクアによく似合った。
「ライブラ。天秤さんですか。今日は宜しくお願い致します!」
アクアがぺこり、一礼すれば、礼を返すように首を下げてきた。
「ワカバさんのお馬さんは……黒山羊さんですね」
若葉はくすくす笑って、
「お手紙食べられないようにしないとね」
若葉は自分が乗る前に、アクアに手を貸す気でいたが、
「あ。アクア身長届く?」
「はい!」
にこりと笑い、鞍に手をかけると、アクアはたいして苦労もなく、白馬の背に収まった。
「初めて会った時よりかは身長高くなったんじゃない」
「そうですね。最近、今まで頑張って手を伸ばしていた棚にもちょっと余裕が出てきましたし、少し身長が伸びたかもしれません」
「撫でる位置が変わった気がするよ」
「ワカバさんの頭が撫でられるくらい大きくなりたいですね」
「ふふ、楽しみにしているよ」
若葉が黒馬の背に乗れば、さながら皐月闇というところ。鞍に腰を落ち着けて隣を見ると、アクアが目を輝かせていた。
「わあ! 目線が高いですっ」
アクアの嬉しそうな様子に、若葉も誘って良かったと思う。辺りを見回し、
「凄いね。何だか何時もと見える景色が違う」
「ワカバさんと同じくらいの目線って言うのも素敵ですね」
山に入り、馬を進めれば、秋空に映える鮮やかな赤と黄色が、梢を一杯に伸ばして二人を歓迎した。
「木々も近いし、遠い秋空も近く感じるや」
少し馬に慣れてきたアクアが、手綱を片手に持ち、ひらり落ちてきた、紅い桜の葉を一枚掴んだ。
「ワカバさん、このあたりはみんな真っ赤ですね」
「アクア、角にも一枚落ちてる」
「え、本当ですか」
白い角に舞い降りた紅い葉は雪の上の花のようだ。
自然が与えた装飾品をそのままに、凛と背筋を伸ばして白馬に乗るアクアの姿は文句なしに美しかった。
もっとも、アクアはアクアで、濡れるような漆黒の馬に跨がった細身の青年の姿が、赤や黄色の木の葉に彩られるのを、眩しそうに眺めていたのであるが。
「今日は素敵なものを魅せてくれて有り難うね。アクア、カプリ」
「ライブラさん、僕に合わせて歩んで下さって有難うございます」
仕事を終え、穏やかな目をした二頭の馬には、お礼の角砂糖が振る舞われた。
寄り添って厩舎を出る二人。アクアが、
「本当に綺麗で……ワカバさんと一緒に見られてよかったです。後で思い出したときも、一人きりの思い出じゃないって凄い事ですよね!」
と言えば、若葉は微笑ましげにアクアを見て、
「また来年も、二人で紅葉を見ようよ」
「はい!」
セラフィム・ロイスはアクエリアスを眺めた。黒い身体だが所々に灰色の差し毛が入り、鬣は綺麗な銀髪。葦毛と言うらしい。中々の美貌なのだろう。顔が美形かまでは、わからないけど。
「タテガミ、セラの目みてぇだな! 雰囲気も似てねぇか?」
火山 タイガ、アクエリアスを見ての感想。
「そう……かな?」
自分が馬だったらどんな性格だろう? 想像がつかずに、乗りやすい子だといいな、と思う。
ブーツに履き替え、黒いビロードで飾られた洒落た乗馬用ヘルメットを被ると、身が引き締まる思いがした。初めての乗馬は不安だが、期待もある。
一方の精霊のタイガはのびのびと、茶色い鹿毛のサジタリウスに近寄る。
(暴れ馬でも乗りこなしてみてぇけど、セラの隣がいいし)
下手に暴れさせて、セラに何かあったらまずい。この馬を選んだのはフィーリングだったが、似た性格なのだろうか? 声をかけたり撫でたりしているうちにすぐ仲良くなった。
セラフィム、アクエリアスの額を撫でながら、
「馬って思ったよりも大きくて、優しい顔してるんだね。一番美しいのも頷ける」
「おー。馬っていっても人みてぇに個性あるもんだな。かっこいいな額の」
半月の弓に似たサジタリウスの星を撫でると、よせよ照れるぜ、とばかりに鼻でつついてくる。
「セラってさ、馬乗るの本当初めてなんだな?
セラんち金持ちだし乗馬やってるかと思ってた」
「家族はやってるよ。僕は病弱だったから……。でも、これで僕も仲間入りだ」
馬に、よろしくね、と声をかけると、真面目な顔で頷かれた気がした。
セラフィムが慎重に、ゆっくりと乗馬すると、タイガも初心者離れした身のこなしでさっと馬に跨がった。
「たっけー! おっと」
基本操作の講習の後、馬場内で練習OKの指示が出たので、タイガは早速自由に馬を動かしてみる。速足、慣れてきたら駆足。初心者の内容ではないので、おやおや、とインストラクターが慌てた顔をしたが、タイガは至って楽しげだ。
「うん、いい感じだ。セラ、いけそうか?」
「う、うん。行こうか」
姿勢を正し、万が一の事がないよう、指示を反復する真面目なセラフィムであった。
インストラクターが少し心配顔で、タイガさん、馬場の外では並足でお願いしますね、と釘を刺すと、
「おー。わかってる」
セラから離れて遠くに行ったりしねぇからな。とは心の中での付け足しだ。
山に分け入れば梢の色は燃えるような赤、そうでなければ鮮やかな黄色だ。それを普段より高いところ、枝すれすれから眺める。気をつけないと色づいた枝にぶつかってしまう高さだ。セラフィムは澄んだ大気を、そこに溢れる紅葉の色香と共に吸い込むような心地がした。
「……気持ちいい」
ベッドで足掻いていた日には、こんな日が来ることが想像できただろうか。タイガも嬉しそうに、
「なっ。いい匂いがする」
「来てよかった」
セラフィムの、素朴だが、心の籠もった感想。
「あ、ここにリスいるぜ。ほら」
狩りの能力のあるタイガ、翠の目も敏く、黄色い葉に埋もれそうな小さな動物を見つける。
「あ……こんにちわ」
(動物に挨拶すんだ。良い顔するんだよなー)
こんな時のセラフィムの優しい表情は、当の動物とタイガだけの宝物だ。
山奥の泉で馬たちは喉の乾きを癒す。その間に二人は馬から下りた。そろそろお昼どきだ。
「今日の弁当は?」
「バスケットにサンドイッチだけど」
「よっしゃカツサンド!」
好物に尻尾を立て喜ぶタイガ。二人で弁当を広げて、赤と黄色の葉の舞い散る中食べる。
綺麗……と、セラフィムが落ち葉の隙間にあったドングリを弄っていると、
「お? お宝? 記念に拾っていくか?」
「! 別にそんなのじゃっ」
照れてそっぽを向くセラフィム。そんな顔も可愛くて。タイガ、上機嫌で、
「繋げて首飾りにしたりコマにしたり、よく兄貴としたっけ」
「いいな。タイガが工作できるなんて意外」
「♪やるか。これでもお手製の椅子作れんだぞー」
ドングリを真ん中に、二人の会話は弾む。気を利かせたインストラクターがそっと散歩に出かけた、とか……。
「乗馬は初めてだから、大人しい子いますか?」
気さくに声をかけてくる少年の髪も目も、鮮やかな緋色。今から見に行くモミジみたいだな、と厩務員は思った。
「あたしも初めてなので、大人しい馬をお願いします」
その隣の細身のファータの優しい声には独特の、しかし心地の良い訛がある。その顔はフードの陰で、冷たくも見えるけれど、さらりと流れる白い髪と蒼い瞳は清らかな泉を連想させる。
「乗馬クラブの馬はみな大人しいですよ。でも、特に大人しいのを選びましょう。アレクサンドル・リシャールさんにはヴァルゴを、クレメンス・ヴァイスさんにはスコーピオを」
引かれてきた優しい面立ちの馬に、アレクサンドルが嬉しそうに歩み寄った。牧場で乳牛を相手にしてきたせいだろうか、馬の扱い方がとても自然で、馬を驚かせない。手綱を引いて首をそっと撫でる。
「よろしくな」
ヴァルゴは嬉しそうに頬をすり寄せた。
クレメンスも自分の馬に近寄った。黒いスコーピオは一見ちょっと怖く見える馬だ。しかし、穏やかなクレメンスの手が伸びれば、馬は自然体で彼を受け入れる。おっとりとした彼の声は馬の耳を安心させる。
二人は真面目に講習を受けた。注意事項から始まり、「では、実際に乗って練習してみましょう」と言われると、鞍に手をかけ、一気に体を引き上げる。
視線が空に近くなって、アレクサンドルははしゃいだ声を上げた。
「クレミー! 凄いな、高けえなっ」
「アレクス、あんまりはしゃいで落っこちんようにしなはれよ」
こちらも初めての体験で驚いてはいるのだが、特に怖がりもせず乗っている。まるで初心者ではないようだ。
「では、ゆっくり前進しましょう」
馬が動き出せばおっかなびっくりな、しかし楽しげなアレクサンドルの歓声に、クレメンスの口元も緩んだ。
山の紅葉は奥に進むほど彩り鮮やかになり、やがて、赤や黄色の絨毯というほど紅葉が密集しているところにさしかかる。
「あ、リスだ! リス! 可愛いなぁ」
アレクサンドルがあちこち見回して、表情豊かに声をかけてくる。リス以上に、神人のそんな様子を眺めて楽しむクレメンスだった。
「ずっと向こうまで真っ赤だ。綺麗だなあ。燃えるようなってこういうのを言うのかな」
アレクサンドルの言う通り、このあたりの紅葉は秋の日差しを浴び、息をのむほど見事な緋色に輝いていた。クレメンスも手近にあった、宝石のように輝く紅い葉に手を伸ばし、触れてみる。
「クレミーの家の周りも、紅葉してるのか?」
「家の周り……ああ、うちはどっちかというと原生林やし、紅葉いうても文字通りの『紅』だけやないし、綺麗とは言えんねぇ」
そう返事してから、紅葉を撫でていたクレメンスの手が、ふと思いついたように馬の手綱をとった。アレクサンドルのすぐ横に馬を並べ、今度は同じ手で、神人の髪に触れ、指先で優しく梳く。
「うん……あんさんの髪の方がよほどに綺麗や」
「え? え、えと」
不意に精霊の口からこぼれた言葉に、一瞬驚き、それから照れつつ、アレクサンドルはくすぐったそうに笑った。
「クレミーって時々素で凄い事言うよなぁ」
「本当の事しか言ってへんよ」
くすくす笑って、クレメンス。
仲良く寄り添って、紅葉の中をゆっくりと進む二頭の馬。その背に心地よく揺られながら、二人は同じ高さで景色を見る。
やがて、秋の日差しにきらきらと輝く、静謐の泉が見えてきた。蒼く透明な湧き水の泉と、その縁で炎のように映える紅葉の緋色は、寄り添って馬を進める二人そのものであるかのようだった。
楽しい時間はあっという間に過ぎる。二人は角砂糖を手のひらに乗せて、それぞれの馬に差し出した。アレクサンドルが、嬉しそうにご褒美を食べるヴァルゴの鼻面を優しく撫でれば、クレメンスも同じようにスコーピオを撫でる。
また、来よう。
微笑と囁きを交わして、二人は夕暮れ時の厩舎を後にした。
「折角の乗馬体験ですし、秀様にも楽しんでいただきたいですね」
上機嫌のイグニス=アルデバランとともに、星空乗馬倶楽部を訪れたのは、喫茶店店主の初瀬=秀である。……相方の誘いに素直にのったところをみると、多分まだ二人乗りのイメージが湧いていないのだろう。厩舎で眼鏡越しに馬を眺め、首を傾げる。
「馬は……どれがいいんだろうな? お前に任せる」
イグニス、馬房を眺め、
「どの子がいいですかね……あ、この子にしましょう! ピスケス!」
指さしたのは、鬣も毛並みも輝くような白馬だった。いかにも物語の中の騎士が乗っていそうな優美さとたくましさ。
「よろしくお願いしますねー、お近づきのしるしに角砂糖をどうぞ!」
差し出した角砂糖を美味しそうに食べるピスケスとイグニスの目に、共犯者っぽい光が浮かんだようなのは、気のせいだろうか? いや、多分、イグニスの性格を考えると、気のせいだろう。
馬を馬場に引き出し、最初にすることは、当然、乗ることだ。
「お前と俺、どっちが前だ?」
「勿論秀様が前です!」
「しかしバイクじゃ運転する方が前だろ」
「お姫様は前に乗るものですよ! それに、秀様が後ろじゃ景色が見えませんよ」
長身のイグニスに言われ、それもそうだな、と秀。精霊がひらり、白馬に跨がると、
「さあ秀様、お手を」
キラキラ目を輝かせ、馬上から手を差し出す。
「そういうのいらねえから」
と言いながらも結局手を借りる、人の善い秀だった。
馬の背に乗れば、高く広がる景色に、秀が物珍しそうに辺りを見回していると、
ぎゅう。
背中に何か温かい感触。
あと、何か腹の辺りに手を回されている気がする。
「……イグニス? おい?」
これぞ二人乗りの役得とばかりに身体を密着させ、ほわ~んとなっているイグニス。
(乗馬やってて良かった!)
「イグニス、おい、ちょっと待て。なんか趣旨違ってねえか? 俺乗馬経験全くないからお前が頼りなんだから頼むぜ?!」
「はい! 嬉しいです! 秀様!」
二人の気持ちはバラバラだったが、ともかくイグニスは姿勢を正し、真面目に手綱を操り、白馬は歩き出した。
「うぉ?! ちょ、イグニス!」
「何でしょう秀様?」
「この馬、やたら揺れねぇか?!」
「ただの速足ですよ。怖かったら私の腕に掴まって下さいね!」
実は、馬の速足は駆足よりも揺れるのである。
前では掴まる物がない秀、慌てて自分の腹の前付近で手綱をとる精霊の腕に掴まる。
「ああ、やっぱり秀様には後ろに乗ってもらった方が良かったかも……こんな時に秀様にぎゅーっ、て」
「おい、そんなこと言ってる場合か?! ちゃんと操縦しろ!」
何しろ農村を通るコースだ。村娘がクスクス笑いながらこちらを見ている。
(どんな羞恥プレイだよっ)
一度異性と結婚というところまでいった秀には耐え難いものがある。
しかし、どうもこの状況を否定しきれない自分もいる。イグニスが心底楽しげにしているのが背中から伝わってきて、つい心のどこかに、悪くないという気持ちが芽生えてしまうのだ。
ふわ、と品のいい香りが鼻腔に広がった。色々必死だったので気がつかなかったが、目の前には、赤や白、薄紅色の蔓薔薇が、アーチやフェンスにその肢体を絡ませ、色を競っている。青空に鮮やかなコントラストを描く、艶やかな秋の薔薇たち。
馬は並足に戻り、悠々と園内へ進入する。白馬に金髪のイグニスは風景に実に映える。秀は精霊を見やり、
「しっかし、白馬に薔薇園か。これで可愛いお姫様でもいれば文句なしのシチュエーションだったろうがな」
「秀様今でも十分お姫様ですから大丈夫ですよ!」
にこやかに言われ、
「いやイグニス、お姫様扱いされても嬉しくないからな?」
俺の何処がいいんだか、全く、とぽつりと呟く秀に、どうかしましたか? と、イグニス。
「ん? なんでもねえよほら前見ろ前」
秋空に咲き誇る薔薇は微笑ましげに、二人の来園者を見守っているようだった。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 蒼鷹 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 09月29日 |
出発日 | 10月05日 00:00 |
予定納品日 | 10月15日 |
参加者
- 木之下若葉(アクア・グレイ)
- 初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
- シルヴァ・アルネヴ(マギウス・マグス)
- セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
- アレクサンドル・リシャール(クレメンス・ヴァイス)
会議室
-
2014/10/04-21:48
んじゃ俺らは……レオかピスケスにしとくかね。
コースは薔薇園見に行ってみようかと。お互いいい休みになるといいな。 -
2014/10/03-23:21
遅くなって申し訳ない。
木之下とパートナーのアクアだよ。揃って宜しくお願い致します、だね。
俺たちも乗馬初めてなんだよね。
振り落とされなければいいなぁって。
コースは紅葉トレッキングツアー予定だよ。
馬さん方を決めるならば、俺がカプリコーン。アクアがライブラあたりかな?
あ。この馬さん方が良いって言う人が言ったらどしどし言ってね。 -
2014/10/03-20:59
うーん、ちょっと悩んでたんだけど決めといた方がほかの人も決めやすそうだよなー
じゃあ、オレはキャンサー、マギはタウロスでお願いしようかな。
もし、この馬達が良かったなって人がいたら言ってくれな。 -
2014/10/03-18:35
セラフィムと相棒のタイガだ。よろしく頼む
僕もタイガも乗馬ははじめてで紅葉の方に行こうと思っているよ
馬は・・・お任せする人が多いと困りはしないかと決めたくなるね
暫定で自分の星座ー・・・あ、でもレオは暴れそうか
(PL:相性占いで二人のが悪いのをしってしまった・泣)
間を取ってアクエリアスとサジタリウスにするかな(馬と人の相性的に)
まだもやもやしてるからお任せするかもしれないけど、掲示板これる自信ないしできたらそれで(苦笑) -
2014/10/03-02:38
初瀬と相方のイグニスだ。よろしく。
騎乗スキルが2くらいあるうちの相方が喜び勇んでやってきている。
馬に関しちゃ星座占いっぽいって言ってるから……
大人しそうなのはタウロス・ヴァルゴ・ライブラ・カプリコーン・アクエリアス辺り?
ざっと調べてきたくらいなんでまあ参考程度に。
コースはどっちも魅力的なんで悩んでるところだな…… -
2014/10/03-00:31
シルヴァ・アルネヴと相棒のマギだ。よろしくなー。
乗馬は初心者だから、我慢強くて穏やかそうな性格の馬が良いんだけど……
キャンサーかヴァルゴがそんな感じかな?
(角砂糖つまんで、どうやるのか首を傾げつつ) -
2014/10/03-00:23
アレックスと、相方のクレメンスだ。よろしくな。
馬は星座占いとかよく判らないから、お任せにしようと思う。
出来れば大人しい子がいいなあ……俺完全初心者だし。
コースは紅葉の方に行こうと思ってる。
いい休日になるといいな。