任務の帰りだけど遭難しました(和歌祭 麒麟 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 時刻は夕方。かれこれどれだけ歩いただろうか? 足がだるく感じる程度には歩いている。
 昼にはオーガを倒し、充分な時間を使って山を下りる予定だった。
 ところが霧が出て道を見うしなってから苦労の連続だ。仲間ともはぐれてしまい、神人と精霊の2人きりである。
 闇雲に歩いたのが災いして、霧が晴れて来た今、どこにいるのかわからなくなってしまっていた。
 完全に迷子だ。山で迷子になったときは下山せずに頂上を目指すというマニュアルがある。
 ただ、今回は状況がよくない。
 この山は人がほとんど入山しないので頂上を目指して避難したとしても助けが来る保証はない。
 下山も考えなければならない。
 夜になれば星座の位置でタブロスの方角がわかりそうなので、なるべく空がひらけている場所に移動したかった。
 山道はゴツゴツとした岩が転がって、注意しながら歩かないと転倒の心配もある。
 なんとか歩いていると、天候が崩れて大雨になった。泣きっ面に蜂である。雷鳴が鳴り響く。
 君たちはなんとか下山に成功した。
 下山の最中はずっと雨が打ちつけるように降っていた。衣服は雨に濡れて体温を容赦なく奪っていく。
 夜になると星明りで方角がやっとわかった。
 帰りの方角がわかったのはいいが体が冷えてこごえている。
 体温を取り戻さなくてはと思っていると、偶然にも天然温泉を見つけた。
「ここで休んでいこう」
 二人の声がハモる。衣服を焚き火で乾かしながら温まることにした。

解説

★今回のストーリーの流れ
 下山中に迷子になり、雨に降られるところからスタートです。
 岩場で悪い足場を注意して、お互いに助けあいながら山道を下って行きましょう。
 疲労しきったところで温泉を見つけます。
 帰り道の方向は星を見てわかったので、天然温泉を楽しみましょう。
 小さな温泉ですが、中央に仕切りになるくらいの岩があります。
 とにかく体温が下がっているので、温泉で休みましょう。
 温泉に浸かりながらたき火で衣服を乾かせば、すぐに体力をとりもどして家まで帰れることでしょう。

 保険料300Jrが必要です。

ゲームマスターより

 涼しかったり、暑かったりと、気温の変化で体調を崩しやすい季節です。
 みなさんも、お体に気をつけて下さいね。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)

  任務終了後の帰還中に道に迷った。
先の戦闘でスキルも使ったジャスティはまだ少し疲れている。
足場が不安定なところは彼の手をとり、サポートする。
運良く温泉が見つかったので、そこでジャスティと休むことに。

着替えは互いに背中を向き、見ないようにする。
温泉に入るときにチラッと見えたジャスティの上半身は、思っていたより鍛えられていたものだった。

普段肌の露出をしない彼の、初めて見た姿に思わず照れてしまう。
男性の裸なんて、兄や父ので見慣れていたはずなのに。

温泉に入る時はタオルで体を隠し、仕切りの岩を境にする。

ジャスティと話をするが、なぜか今夜は話したいことを上手く言えない。
緊張、してるのかな…。


ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
  ずっと歩きっぱなしだったからもうくたくたです…
足元悪いのにグレンちっとも待ってくれないし、
はぐれたらどうしようって不安だったんですから!

うぅ…ちっとも聞いてない…
さっき岩場で着地した時に足、変な風に
曲げちゃったみたいだし別の意味でも泣きそう…
どんくさいとか言われそうだから
絶対に言いませんけどっ!

いいですか、絶対にこっち見ちゃ駄目ですからね!
約束ですからね!
ふぁ…疲れたし暖かいし、
何だか眠たくなってきました…
このままゆっくり眠…
お湯っ!お湯飲んじゃ…っ、ごほっ!

帰り、手を繋いで帰ってもいいか聞いてみましょう。
さっきみたいに置いていかれたら怖いですし、
足も痛いですし…


かのん(天藍)
  下山中、責任を感じている天藍に
1人で背負う事ではない事
誰でも上手く行かない時がある等話しフォロー
雨で濡れ足場の悪い道を天藍の手を借り下山
温泉発見
何となく足下の岩場も温く、一休みに勿論同意
余り濡れていない枯れ枝集め焚き火
先に温泉につかるよう言われ、寒いのは天藍も同じでしょうと反論
天藍の返答に説得され先にお湯の中へ
焚き火にあたる天藍を気遣い仕切りの岩陰から顔を覗かせる
適当な時間が経った所でのぼせそうですと交代
天藍の服を広げて乾かし改めて2人の体格差を実感
守られるだけではなく、私も天藍の支えになりたいと思う
服を着た後の天藍に背後から包み込まれたので天藍に寄り添いながら私は何が出来るでしょうかと考える



テレーズ(山吹)
  ついてないなーって感じでしたけど何とかなりそうですね!

だめですよ山吹さんだって体冷えてるんですから
抵抗がとかいっている場合ではありません
私はそれで山吹さんが風邪を引いてしまうなんていやですよ

仕切りになりそうな岩もありますし
入らないなら無理やり突き落としてでも!
あ、大丈夫です?よかった

道中大変でしたがこれで一安心ですね
下山中もずっと山吹さんが励ましてくれたから心強かったです
私きっと大丈夫、何とかなるって思えましたよ
やっぱり山吹さんはすごいです

それって何か悪い事なんでしょうか?
その言葉に救われた人だってちゃんといるんですよ、私とか

もっと自信を持ってください
私は何があったって山吹さんの味方ですよ


ファリエリータ・ディアル(ヴァルフレード・ソルジェ)
  うー、山で迷子になっちゃうなんてっ。
……ごめんねヴァル、私足手まといになってるでしょ。
早く帰れる様に頑張るから、どこ歩けばいいか教えてね。

雨まで降ってきたあぁ、もー、濡れちゃうし寒いし服汚れるしぃ!
ヴァルは大丈夫? 寒くない?
(おぶってやろうかと問われて)
「も、もう、私子供じゃないのよっ。ちゃんと歩くわっ」
……元気づけてくれてるのよね、きっと。
もう少し頑張らなきゃっ。

わあ、温泉! あったかそう! 素敵!
早速入りましょ……え、い、一緒には入らないわよっ!(真っ赤)
ヴァルはそっち側ねっ!

あったかくて気持ちいいー……。
ヴァル、今日は色々助けてくれてありがとね。




 時刻は夕方。山岳地帯で任務を終えた帰路でのことだった。霧が突如出てきて、方向感覚を狂わされ、現在地を見失っていた。
「ジャスティ、つらそうだけど、大丈夫?」
 リーリア=エスペリットはジャスティ=カレックを気遣った。
「戦闘でスキルを使いすぎただけですから、心配は無用です」
 ジャスティは何度か深く呼吸をすると、リーリアの後を続くようにして歩く。
 足場が岩だらけで歩きにくく、疲労が蓄積していく。
「ここ、岩だらけだね。道もわかんないし、まいったよね」
「それだけでも厄介だというのに、天気が不安です。空気に湿気が多くなってきていますね」
 しとしとと雨がすぐに降り始めた。
「雨が降ってきたじゃない! 最悪!」
「困りましたね。天候の回復を願うくらいしかできないのが歯がゆいです」
 リーリアとジャスティは雨に降られながらも、下山するという目標を立てて歩みを進めていく。
 こんな山で遭難して帰れなくなるなんてごめんである。
「手を繋ごうよ。ジャスティ、ふらふらしてるよ。足場が悪いし助け合いながら下山しよう」
「助かります。迷惑をかけてしまってますね」
「こんな時くらい気にしないで」
「お言葉に甘えさせて頂きます」
 スキルの消耗というのは精霊にとって負荷が大きいらしい。普段のジャスティならこんな山道なら、なんともないのに、今は倒れてしまいそうに足元は怪しい。

 しばらく歩いていると、雨は止み、夜空が見えた。
「……星座の向きがこれなら、……大丈夫です。タブロスの方角がわかりましたよ」
 ジャスティは長い遭難からの出口を見つけたように、大きく息を吐いた。
「よかったあ! ……うぅ、寒いよ……」
「雨にたっぷり降られたうえに、ここは標高が高くて気温が低いですからね、……あぁ、運が向いてきたようですよ。あそこに温泉が湧いているみたいです。体を温めて、服を乾かすのに丁度良さそうです」
 温泉はほどよい熱さで、冷えた体には丁度良さそうだ。
「早く体を温めましょう」
「そうだね、……ジャスティ、後ろ向いて」
「はい」
 ジャスティがたき火を起こしている間に、服を脱いで干す準備をする。一足先に天然温泉に浸かるリーリア。
「あー、生き返る~」
 ジャスティも自分の服を乾かし始めると、天然温泉に浸かった。大きめの岩一枚を隔てて、温泉に浸かっていると、いつもと違って緊張する。
 リーリアはタオルをまいているが、落ち着かなかった。
「天候が回復してよかったね」
「はい」
 会話が続かない。
「この間、カフェで貰ったリボン、大切にしているよ」
「気に入って頂けたようでなによりです」
「ジャスティがプレゼントしてくれたんだもん。あのリボンは特別だよ」
 ジャスティはしばらく沈黙していた。決して嫌な沈黙ではない。
 お互いに体が温まると同時に、心も温まっていくように感じた。
「また機会があったら、なにかプレゼントさせて頂いて構いませんか? 迷惑じゃなかったらですけど」
「ジャスティからのプレゼントなら、嬉しいかも」
 しばらく温泉に浸かって、体を温めていると服が乾いたようだ。
「……そろそろ服が乾いたようです。帰路を急ぎましょう」
「うん」
 服を着るときに偶然見えてしまったのだが、ジャスティの上半身は思っていた以上に鍛えられていた。
(男性の裸なんて、父や兄ので見慣れていたはずなのに、なんか照れるな~)
 二人はタブロスに向かって歩き始めるのだった。


 険しい岩場をニーナ・ルアルディとグレン・カーヴェルはハイペースで歩いていた。
「ずっと歩きっぱなしだし、もうくたくたです……」
 任務の帰りに、霧にまかれてしまい帰りの下山ルートを見失っていた。いわゆる遭難状態である。
 何とかして今の状況から抜け出そうと、二人とも必死であった。
 雷鳴が辺りに響いた。雲行きは先ほどから怪しかったが、空に青白い雷の光が走ったかと思うと、強い雨が降り始めてくる。
(まずいな、このままでは帰れなくなるぞ。早く、確実なルートを見つけないと!)
 グレンはニーナの体力では、ルート探索をするのはつらいだろうと、一人足を急がせて必死に活路を見つけようと歩く。
(うぅ……、疲れたっていってるのに、ちっとも聞いてくれない……。さっき岩場で変な風に足を曲げちゃったみたいで、別の意味でも泣きそう……。鈍くさいとかいわれそうだから、絶対にいいませんけど!)
 ニーナは置いていかれないように必死だ。
 しばらく岩場を歩くと、広い空間にでた。道も平坦になっていて、どうやら下山には成功したらしい。
 雷雨は激しく降った後、雲一つ残さず夜空を覗かせていた。
(これ以上、雨に降られたら、岩場じゃ身動きがとれなくなっていたな。早めに移動して正解だった)
 ニーナの方をみると肩で息をしながら、なんとかグレンのペースについてきていた。
(それにしても、ニーナのやつ、よくついてこられたな)
「先に確実なルートを確保して連れてくるつもりだったが、必要なかったな」
 グレンがいうと、ニーナは疲れから感情が爆発する。
「足元が悪いのに、グレンちっとも待ってくれないし、はぐれたらどうしようって不安だったんですから!」
「そうだったか。悪いことをしたな……。こんな時だから俺も焦っていたんだ。俺が悪かった」
 二人が話していると、近くから湯気が漂っているのに気がついた。
「あ! 天然温泉がありますよ! 疲労回復に入っていきましょう」
「天候はもう平気そうだし、ついでに服を乾かそう。星の位置からタブロスの方角もわかるし、帰れるめどはついたよ」
 天然温泉の中央には板状に岩があって、仕切りのようになっている。
「いいですか、絶対にこっちみちゃ駄目ですからね! 約束ですからね!」
 寒さと疲労から、ニーナは天然温泉にさっさと浸かることにする。
「俺も体を温めるかな」
 グレンは岩を隔てて反対側に浸かった。
 ニーナは体が温まってくると徐々に疲れが溢れてきた。
「ふぁ……、疲れたし、暖かいし、なんだか眠たくなってきました……、このままゆっくり眠……、お湯っ! お湯飲んじゃ……、ごほっ!」
 温泉に溺れてしまうニーナ。
 グレンは帰りのペースなどを考えて湯に浸かっていたが、岩の向こう側にいるニーナが静かで気になってきた。
「なんか、あっち側が妙に静かになったな。先に出ていったか? そんな様子もなかったしな……。まさかいくら鈍くさいあいつでも、こんな浅い場所で溺れるなんてことは……」
 グレンは思い出した。人は、水深10センチ程度でも場合によっては溺れる。特に、疲労が積み重なってるこのタイミングでは嫌な予感がしてくる。
 覗くつもりはなかったが、念のため岩から顔を出してニーナの方を覗くと、溺れていた。
「ニーナ、無事か!?」
 グレンは焦って、走り寄ってニーナを温泉から助け出す。
「ごほっ、ごほっ! あれ? 私は……? ん? グレン!? 裸見えてる! って、私も裸! あっちいって!」
 ニーナは溺れているところを助けられたが、お互い裸ということで、恥ずかしさから混乱してグレンをポカポカと叩くのだった。
 グレンは後ろを向いていう。
「溺れてたぞ。大丈夫なのか? 湯を飲んだりしてないか?」
「うん、もう大丈夫だから」
 二人の間に変な緊張感が流れる。
「服が乾いたから、そろそろ出発しよう」
 グレンは暗闇でニーナの体はほとんど見えなかった。それでも白い肌が目に焼き付いていて、ぶっきらぼうにいってしまう。
「帰りは手を繋いでよね。さっきみたいに置いていかれそうになるの嫌だから」
「ああ、わかった」
 お互いによくは見えなかったが、裸をみてしまって緊張していた。
 乾いた衣服を着て、手を繋ぎ帰路につく二人。
 危機的状況を味わったせいか、二人の距離は縮まったように感じるのだった。

● 
「まいったな、完全に下山ルートを見失ってる。こういう場所には慣れているんだが……、油断していたかも知れない……」
「私たちは二人でウィンクルムです。一人で責任を背負わないで下さい。誰にでも上手くいかないときはあるものですよ」
「そう言ってもらえると助かる。なるべく早くエスケープルートを見つけるさ」
 かのんと天藍は雷雨で激しく雨粒が打ち付ける岩場を彷徨っていた。
 任務が終わった後、下山途中に天候が崩れ、帰りの方角を見失っている。
 しばらく歩いていると、岩場から平坦な土の道に変わった。どうやら下山できたらしい。
 体は雨で冷え切っているが、かろうじて山で凍死する心配はなくなったようだ。
「あれは温泉じゃないか?」
 天藍が指さす方向にかのんが視線を向けると、確かに湯気が上がってる天然温泉があった。
「かのん、ここで休憩にしよう。今、空が晴れて星が見えるだろ。星が出てくれたおかげでタブロスの方角がわかったんだ。帰るまでの体力を温泉に浸かって回復しておこう」
「いいですね、体が冷えていたので助かります」
 二人はまず、温泉に浸かる前に、衣服を乾かすために枯れ枝を集めてたき火を起こした。
「俺がたき火を見張ってるから、先に温泉に浸かりな」
「そんな! 体が冷えているのは天藍も同じでしょう?」
 かのんがいう。天藍は、
「基礎体力が違うから気にすることはない。まずはかのんが体力を回復させるんだ。その後でも俺は体力が持つから心配いらない」
「……わかりました」
 天藍がいうことは正論で、かのんは頷いた。
 天然温泉の真ん中には岩があって、仕切りのようになっている。かのんは天藍に裸がみられないように、岩を挟んで入浴した。
 その間に、天藍はかのんの服を乾かす。
 たき火に当たって暖をとっている天藍が心配で、かのんは岩の影から天藍を覗いていた。
「寒くないですか?」
 かのんがいった。
「大丈夫だ」
(ここの温泉、透明度が高いんだな。かのんが岩からこっちを見てるから、肩どころか胸まで見えてるな……、って何みてんだ、俺っ!)
 視線をそらしながら天藍はたき火を見張っていた。
「そろそろ、交代しますね。これ以上浸かっていたら、のぼせてしまいます」
「服は乾いているぞ」
「ありがとうございます」
 かのんと交代で天藍は温泉に浸かった。その間にかのんが天藍の服を乾かす。
(天藍の服ってこんなに大きいんですね……)
 かのんは天藍の服のサイズをみて、二人の体格差を実感していた。
 天藍が温泉から出て服を着た後、しばらく二人で寄り添って休憩を取っていた。
 天藍がかのんを背後から抱きしめていた。
「守られるだけではなく、私も天藍の支えになりたいです。何ができるでしょうか?」
「今でも俺はかのんに充分支えられているさ。戦闘の矢面で一緒に戦うことがすべてじゃないんだ」
 かのんは少し考えていた。天藍はかのんが自分のことを考えてくれているのが嬉しくて、顔を寄せる。
 二人の頬がくっつき、ぬくもりをしばらく分かち合うのだった。


 任務が終わり、山道を下山途中に霧に包まれてから道を見失っている。しかも雷雨に打たれて、衣服はびしょびしょである。標高が高いせいもあって、かなり体が冷えてくる。
「ついてないなー」
「本当に、運に見放されているのでしょうか?」
 テレーズと山吹は岩場に悪戦苦闘しながら、何とか下山ルートを模索して歩いていた。
 しばらくすると雨は止み、夜空が顔を覗かせる。二人は星の位置からタブロスの方角を見つけ出すことができた。
「これなら、何とかなりそうですね!」
「ええ、助かりましたよ。このまま星まで見えなかったら、本格的に遭難してました」
 タブロスの方角に向かって歩みを進めていくと、天然温泉が湯気を上げていた。
 体がだいぶ冷えてきていたので、二人は温泉の方に引き寄せられる様にして移動していく。
「渡りに船とでもいうのでしょうか。かなり体力も奪われましたし、休んでいきましょう」
「はい!」
 テレーズは元気よく返事をする。天然温泉を見つけて疲れを忘れたようだ。
「では、テレーズさん、お先にどうぞ」
 山吹がいうと、テレーズは納得しない。
「駄目ですよ、山吹さんだって体冷えているんですから」
 テレーズは一緒に入ろうと勧めてくる。天然温泉の中央部分に岩があって、互いに裸を見られることなく入浴はできそうではある。
「うーん、岩があるといっても、混浴のようで、少し抵抗が……」
「抵抗が、とかいっている場合ではありません。私はそれで山吹さんが風邪を引いてしまうなんていやですよ。仕切りになりそうな岩もありますし、入らないなら無理矢理に突き落としてでも!」
「……わかりました、入ります」
 山吹はテレーズがわりと本気で突き落とす気だと感じ取って素直に従うことにした。
 互いに裸が見えないように配慮しつつ、岩に背を向けて天然温泉に入浴することになった。
 お互いに顔が見えないのと、疲れで思っている事が口にでる。
「道中大変でしたがこれで一安心ですね。下山中もずっと山吹さんが励ましてくれたから心強かったです。私、きっと大丈夫、何とかなるって思えましたよ。やっぱり山吹さんはすごいです」
 山吹はしばし沈黙の後、口を開いた。
「テレーズさんの中では、私はずいぶんと評価されているんですね。私はそんなに凄い人物ではありませんよ。嫌われるのが怖くて、誰にでも根拠のない甘言を吐いているだけです。本当はタダの臆病者の偽善者なんです」
 テレーズは、普段はこんなことを口にしない山吹の言葉を受け止め、いった。
「それって何か悪いことなんでしょうか? その言葉に救われた人だってちゃんといるんですよ、私とか。もっと自信を持って下さい。私は何があったって山吹さんの味方ですよ」
 山吹はテレーズの言葉に冷静さを取り戻す。
「すみません。疲れていたようです。今の言葉は忘れて下さい」
(救われているのは、一体どっちだろうね)
 充分に温泉で暖まり、服が乾いた頃、支度をしてから、二人は並んでタブロスに向かって歩き始めた。
「星が綺麗ですね」
 山吹はテレーズの手を優しく握った。テレーズは一瞬驚いたが、手を握り返し、ゆっくりと帰路につくのだった。


 日が沈み、下山ルートから外れたと最初に気がついたのはヴァルフレード・ソルジェだった。
「これは、迷ったな……」
「うー、山で迷子になっちゃうなんてっ。……ごめんねヴァル、私、足手まといになってるでしょ。早く帰れるように頑張るから、どこ歩けばいいか教えてね」
 ファリエリータ・ディアルは不安そうだが、ヴァルフレードを頼りに、何とか歩き続けている。
 霧が出てから、ルートを外れたらしいことにヴァルフレードは思考を巡らせたが、今から元の場所に戻るのはファリエリータの体力を考えるとあまりいい考えではなかった。
「霧が出たとはいえ、迷子になるとはなぁ。野外は得意なつもりだったが」
 ヴァルフレードは「まいったな」と思いながらも、
(そうはいっても、ファリエを不安がらせても不味いし、……それに雨が降ってきたし……)
 迷子になっているうちに天候が崩れ、雷が鳴ったかと思うと、大粒の雨粒が打ち付けるように降り注いでくる。
「雨まで降ってきたあぁ、もー、濡れちゃうし、寒いし、服汚れるしぃ! ヴァルは大丈夫? 寒くない?」
「ああ、俺は平気だよ」
(とはいってもなあ、安全な道を選びながら、なるべく無理がないように下山しないと……)
 歩き続けていると広い場所に出た。岩場だったところから土に足場が変わる。どうやら、下山できたらしい。雨も上がっていた。
「星が見えるぞ! 星が見えれば方角もわかる。タブロスまでもう少し、頑張れ」
 ヴァルフレードはイタズラっぽくファリエリータをみると、
「疲れたならおぶってやろうか?」
「も、もう、私、子供じゃないのよっ、ちゃんと歩くわっ」
 疲れて足が上がらなくなってきていたが、ファリエリータは帰り道がわかり、安堵して、足に力が戻ってきた。
(……元気づけてくれてるのよね、きっと。もう少し頑張らなきゃっ!)
 その様子を見てヴァルフレードは、
(元気な方がファリエらしいからな)
 と、思うのだった。
 しばらくすると、湯気が漂ってきていることに気がつく。どうやら天然の温泉が湧いているようだ。
「わあ、温泉! あったかそう! 素敵!」
 ファリエリータは温泉の方に駆け寄っていった。それにヴァルフレードが続く。
「おー、温泉! 体も冷えてたし丁度いいな」
(ファリエもそろそろ限界だろうし、休憩場所には丁度いいな)
 ヴァルフレードは温泉で休憩していくことを提案する。
「早速入りましょう」
「何なら一緒にはいるか?」
 ヴァルフレードの冗談を真に受けて、ファリエリータは顔を赤く染めつつ、
「……え、い、一緒には入らないわよっ! ヴァルは岩のあっち側ねっ!」
 天然温泉には岩が仕切りのようにあって、ファリエリータは岩の反対側を指さして、ヴァルフレードにいった。
「わかった、わかった、俺はこっち側な」
 天然温泉に浸かると、冷え切っていた体が温まり、体力が回復してくるのを感じる。
「あったかくて気持ちいいー……」
 岩の反対側から、
「体の芯まで温まるな……」
 と、声が聞こえる。
「ヴァル、今日はいろいろと助けてくれてありがとね」
「ファリエもよく頑張ったな」
 二人は、その後、タブロスに向かって帰っていった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 和歌祭 麒麟
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月29日
出発日 10月06日 00:00
予定納品日 10月16日

参加者

会議室

  • [5]テレーズ

    2014/10/03-01:01 

    テレーズと申します。
    よろしくお願いしまーす。
    帰りの方角が分かったのならもう安心ですね。
    気兼ねなく温泉を楽しめそうです。

  • こんばんは。お久しぶり!
    よろしくお願いします。

    帰り道で天候が荒れたり迷子になったり大変よね…。
    温泉で温まって回復しないと。
    ジャスティと一緒に、か…。
    うー…。き、気にしないようにしないと…。

  • 私はファリエリータ・ディアル! よろしくねっ。
    うー、迷子の上に雨なんて踏んだり蹴ったりだけど、
    天然温泉は素敵! 楽しみっ♪

  • [2]かのん

    2014/10/02-20:23 

    皆様お久しぶりです
    今回はなにやらさんざんな道行きですね
    温泉は良いのですけれど・・・
    どうぞよろしくお願いします

  • [1]ニーナ・ルアルディ

    2014/10/02-09:58 

    お久しぶりと、はじめましてですっ
    ニーナです、よろしくお願いしますねーっ!
    温泉、温泉…っ♪


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