【月見・ラパン】凍える身体を温めて(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「倉庫にある食材を採ってきて欲しいのです」

 ロップがぺこりと皆さんに頭を下げます。

 つきうさ農区の一角に、収穫した食材が一時的に保管されている倉庫がありました。
 ラビット・エデンでは、現在収穫祭へ向けて、ウィンクルム達の手を借りながら大急ぎで準備が行われています。
 つきうさ農区でも急ピッチで収穫が行われていました。
 収穫した食材は、その倉庫に一時保管され、ラビット・エデンの倉庫へと運ばれています。
 ロップは、ヴァーミンから食材を守るため、食材の運搬をウィンクルム達にお願いしてきたという訳です。
 ウィンクルム達は食材運搬用のトラックと運搬用のカートを借り受け、その倉庫へと向かったのでした。

 倉庫は食材毎に、複数あるようでした。
 ウィンクルム達は、手分けして頼まれた食材を探しに、倉庫へと足を踏み入れます。

「うわ、寒い……!」

 ひんやり漂う冷気に、思わず身体が震えました。
 倉庫の中は、肌に冷たい空気で満ちています。
 どうやら、食材の新鮮さを保つため、すべて冷蔵倉庫となっているようでした。
 吐く息も白く、長時間居ると凍えてしまいそうです。
 そうと知っていれば、防寒対策したのに……。
 兎に角、早く食材を運び出そうと、カートを押して倉庫の奥へと足を踏み入れます。

 貴方達はこの時、気付かなかったのです。
 数分後、自分たちが倉庫内に閉じ込められた状態となってしまう事を。

解説

トラブルで、扉の開かなくなった冷蔵倉庫。
皆様はこの中に閉じ込められてしまいました。

パートナーと二人きり、もしくは他の仲間と一緒に。
上記、お好きなシチェーションを指定してください。
(グループアクションの場合は、掲示板ですり合わせの上、プランに明記願います。)

倉庫内には、連絡用の電話機がありますので、外へ連絡が可能です。
これにより、30分から一時間程で救助が駆け付けます。
(すでに助けを求めた後からのスタートとなります)

救助がやって来るまでの間、パートナーと知恵を絞り、寒さを耐えてください。

倉庫の中にあるのは、食材と、食材を入れる袋やダンボール。
(食材は自由に記載してください。問題ない限り、採用致します)
皆様が持ち込んだカート。
上記のみとなります。

なお、このお手伝いはボランティアとなっており、運搬用トラックとカートは、皆さんで自費にてレンタル頂いたものとなります。
一律、300Jrの出費となりますので、予めご了承ください。

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『暑いより寒い方が得意!…やっぱりどっちも嫌』な雪花菜 凛(きらず りん)です。

今回は、冷凍倉庫でパートナーさんとサバイバル(?)なエピソードです。
皆様はどうやって暖を取りますか?
運動する? 抱き合っちゃう?
お好みで楽しんでいただけたらと思いますっ。

皆様の素敵なアクションをお待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アリシエンテ(エスト)

  エスト!私はこれから端から端までの全力10本ダッシュをして来るわっ!
エストも…!──…まあ、私もエストが暖を取る為に走る姿など想像つかないものね
その辺りの段ボール箱を崩して床にでも敷いて座っていると良いわっ

上着?…暖かい…でもそれではエストが余計に寒くなってしまうではないっ!受け取れな…!──!
妙案が思いついたわっ!
ちょっと行って来るわね急がないと!!

(上着を着たまま10本ダッシュ。息を切らし戻って来て
エストに上着を羽織らせ、身体と上着の間に抱き留めるように両手を差し入れ抱き締めて)

これでどちらも暖かいわねっ

……(しばらくしてから、そっと不安に狩られて額を相手の肩口につけて瞳を閉じてみながら)



リゼット(アンリ)
  ちょっとアンリ、何あくびしてるのよ
まさか…眠いの!?
(真顔で全力で往復ビンタしつつ)
だめ!だめよ!寝たら死ぬのよ!
こんなところであんたに死なれたら困るんだから!

あんたは私の精霊なんだから、困るに決まってるでしょ
別の精霊?…そんなの嫌よ
あ、あんたみたいに扱いやすいバカ犬、そうそういないでしょ!

そういうわけだから…そう簡単に死ぬんじゃないわよ、バカ
(あさっての方向を向きつつアンリの手を握って)
…少しはあったかい、でしょ
誰の心が冷たいのよこのバカ!離すわよ!
はぁ?なんで私が抱きつかなきゃいけないのよ!
むしろ私をあっためたらどうなの?私は飼い主なんでしょ
…って、ほんとにしなくていいから!いいから!


リヴィエラ(ロジェ)
  リヴィエラ:
(※二人きりで閉じ込められてしまう・倉庫内には果物とパン有)

(寒さで意識朦朧としつつ、その場に倒れこむ)
さ、寒い…ロジェさ、ま…私、意識が…。
ロジェ様の体、暖かい…私、貴方と一緒の時間を共有できて…嬉しかった…。
もし私が死んでも…ロジェさ、ま、は…生きてくださいね…。

(『卑劣な攻撃』エピでロジェが『親友がケガをした事』を気にしているのを察して)
ロジェ様なら、きっと立ち直れる…貴方が全てを背負う事はないのです。
逃げても良い、戦わなくても良い…貴方は生き延びて…

大丈夫、泣かないで…ロジェ様は、大丈夫…(『メンタルヘルス』Lv4使用)
私…何だか眠くなって…



Elly Schwarz(Curt)
  心情】
閉じ込められ!?
寒さは慣れてますが、困りましたね…。

行動】
・救出要請後クルトと共に暖を取れそうなものを捜索
・段ボールと袋を見つけ、段ボールを床に敷きその上に座り、袋を掛け毛布のように使用
とにかく今をどう過すか、ですね。辺りに何か役立てそうなものはないでしょうか?
段ボールと袋…使ってみましょう!

・彼の異変に気付き、他に温める方法がないか考える
・考えた結果、思いきって彼を抱きしめる
クルトさん?…顔色が悪いですよ?
へ!?そんな!無理しないで自分を優先して下さい!
僕は…このくらいしか…っ。

え?クルトさんもだったんですか?
…辛い時は、泣いて下さい。僕はあなたのパートナーなんです!頼って下さいよ!!



リオ・クライン(アモン・イシュタール)
  まさか、こんな事になってしまうとは・・・とりあえず連絡はしたし、落ち着いて救助を待とう。
この状況で焦っていてもどうにもならないからな。
アモン、文句を言ってないでキミも何か考えてくれ。

<行動>
・「これ、防寒代わりに使えないか?」と、食材を入れる袋を毛布代わりにしたり、ダンボールを床に敷いて、その上に座る。
・段々凍えて来るが、心配させない様に気丈に振る舞おうとする。
「くしゅんっ・・・っ大丈夫だ、何でもない・・・!」
・アモンと密着して最初は戸惑うが、徐々に安心感を覚え、無意識に寄り添う。
「本当だ・・・キミは暖かいな・・・」
・救出後、ちょっと照れながらアモンにこそっと「少しだけ、怖かったんだぞ?」。



●1.

「エスト! 私はこれから端から端までの全力10本ダッシュをして来るわっ!」
 アリシエンテは、びしっと冷気漂う倉庫の奥を指差してそう宣言した。
「10本ダッシュ、ですか」
 エストは表情を変えず、己の主を見つめる。
「エストも……!」
「……私には、主の奇行を誰かに見られてはいないか、確認する義務がありますので」
 即座に瞳を伏せて返答するエストを、アリシエンテは少し不満そうに眺めるも、納得したように頷いた。
「──……まあ、私もエストが暖を取る為に走る姿など想像つかないものね」
 エストの自己主張は、今日に始まった事ではない。
 只、主の意志に従うだけの精霊。
 日常に置いて、彼がそうで無くなったのは、何時の頃からだったろう。
『そのままでいい』
 そう彼に告げたけれど。
 この胸の得体の知れないざわめきの正体は、未だに分からない。
 兎に角、だ。
 アリシエンテはぐっと拳を握る。
「エストはその辺りの段ボール箱を崩して、床にでも敷いて座っていると良いわっ」
 ふわり。
 不意に後ろから温かい何かがアリシエンテを包んだ。
 とても安心する温もりと、良く知る香り。
 それが、エストが自分に羽織らせた彼の上着であると気付いた瞬間、アリシエンテは慌てて彼を振り返る。
「エストが余計に寒くなってしまうではないっ! 受け取れな……! ──!」
 言い掛けて、稲妻のように閃いた思い付きに口を閉ざした。
 そして、彼に向けびしっと人差し指を突き付ける。
「妙案を思いついたわっ! ちょっと行って来るわね、急がないと!!」
 そんな言葉を残して、アリシエンテはエストの上着を着たまま、走り出した。
「妙案?」
 彼女の金の髪が、波打つように泳ぎ遠ざかるのを眺めつつ、エストは僅かに首を傾ける。
(一体何を思い付いたのか)
 エストは微かに口元に笑みを浮かべてから、傍にあった大きめの段ボールを崩していく。
 転がっていたガムテープを使って、簡易のテントのようなものを器用に組み立てると、その中に座って主を待った。
 やがて10本ダッシュを終えたアリシエンテが、息を切らし戻って来る。
 吐く息が熱を持ち、一層白い。
 そんな彼女の口元を眺めていたエストは、一瞬、反応が遅れてしまった。
 ふわり。
 エストの身体に、彼の上着が返される。
「上着はそのまま貴方が……──」
 次の瞬間、思い掛けない事が起こり、エストは肩を震わせ、目を見開く。
「これでどちらも暖かいわねっ」
 直ぐ近くで主の声。
 温かく柔らかい身体が、エストに密着していた。
 アリシエンテは、徐ろに羽織らせた上着の間に両手を差し入れ、彼を抱き締めたのだ。
 じんわりと伝わる彼女の熱。
 とくん、とくん。
 密着する胸。服越しに彼女の鼓動が、聞こえる。
 早くなる己の鼓動と重なる音に、エストは天を仰いだ。
(昔の貴方は、この様な事をなさる方ではなかった……)
 彼女は主で、己はそれに付き従う者。
 その関係が、少しずつ変わって来てしまったのは……。
(きっと、私のせい、なのだろう)
 ああ、それは何て。
 背徳的で……けれど、狂おしいくらいに幸福な事か。
(アリシエンテ……私の、私だけの……主)
 瞳に浮かぶのは、昏い至福。
 僅かに躊躇した腕は、ゆっくりを彼女の背に回って……。

「……」
 身動ぎ一つしないエストに、アリシエンテの胸に言いようのない不安が浮かんだ。
(ひょっとして……嫌、だったのかしら)
 でも非常事態だし。
 私は悪くはないわ。
 彼の肩口に額を当てて、瞳を閉じる。
 こんなにも温かい。
「……!」
 不意にエストの腕が動いたと思ったら、更に身体が密着する。
「……温かいわ」
 アリシエンテの呟きが、冷気を払うように響いた。


●2.

 倉庫内に苛ついた声が響く。
「チッ、ふざけんなよ……。なんだって、こんなクソ寒い所なんかに閉じ込められなきゃなんねぇんだ?」
 動かない扉を一蹴りして、アモン・イシュタールは銀の髪を掻き上げた。
「とりあえず連絡はしたし、落ち着いて救助を待とう」
 リオ・クラインは、アモンを宥めるようにそう言い、倉庫内を見渡す。
 幸い、電気系統は生きているようで照明は落ちてはいない。
 薄暗くはあるが。
「この状況で焦っていてもどうにもならないからな」
 救助が来るまでの間、寒さを凌がなくてはならない。
 リオは薄暗い中、使えるものがないか、倉庫内を物色し始めた。
「ふん、お嬢様はこんな時でも余裕な事だな」
 リオの後ろ姿を眺めつつ、アモンはもう一度扉を蹴る。
 頑丈な電子扉は、ピクリとも動かなかった。
「……たく、めんどくせぇ」
 これで開けば目っけ物だったが、そう簡単には行かないらしい。
「アモン、文句を言ってないでキミも何か考えてくれ」
 段ボールを手に取りながら、リオがその背中へ声を掛ける。
「仕方ねーな」
 アモンはズカズカと歩み寄ると、リオの手から段ボールを奪い取った。
「お嬢様のヤワな腕力だと、時間が掛かるだろ」
 言うなり、あっという間に段ボールを崩すと、床に敷いて行く。
「……」
 思わずポカンとしてしまい、お礼を言い損ねた。
 アモンの口が悪いせいだ。
 リオは軽く咳払いをしてから、食材を入れる袋を手に取った。
「これ、防寒代わりに使えないか?」
「悪くねーな」
 段ボールを敷き終わったアモンは、袋を一瞥して頷く。
「毛布代わりに被っとけ」
「じゃあ、二人で分けて……」
「ばーか。オレは必要ねーから、お嬢様が使いな」
「けど……」
「ヤワなお嬢様と違って、こっちは丈夫に出来てんだからいいんだよ。オレが適当に動き回るから、お嬢様はそこで袋被って大人しくしてろ」
 元々スラム育ちのアモンは、寒さには慣れていた。
 訴えるように見てくるリオに、ヒラヒラと手を振る。
「……有難う」
 事実、もう指先が冷たくて仕方が無かった。
 リオはアモンの好意を素直に受け、袋に包まって段ボールの上に座ったのだった。

「くしゅんっ」
 どれくらい時間が経っただろう。
 くしゃみをして、リオは小刻みに震える己の身体を抱き締める。
「おい。大丈夫か?」
 歩き回っていたアモンが振り返った。
「……っ大丈夫だ、何でもない……!」
 笑顔で答える彼女だが、身体はブルブルと震えている。
「馬鹿……無理してんじゃねぇよ」
 アモンは白い息を吐き出すと、彼女の隣に座ってその肩を抱き寄せた。
「……キミは何をっ」
「いいから、こっち来い」
 思わず逃げる彼女の身体を、ぐいっと強引に引き寄せる。
「くっついてた方があったけぇだろ?」
 耳元に彼の熱い息。
 密着する身体から、じわじわとアモンの温もりが伝わってくる。
 何故か安心出来るその熱に、気付けばリオは無意識に寄り添っていた。
「本当だ……キミは温かいな……」


●3.

「ふわぁ……」
 アンリは白い息を吐き出しながら、止まらない欠伸に瞳を潤ませた。
 しかし誤解をしないで欲しい。
 これは、寒さに身体がギブアップして眠いのではない。
 昨夜マンガ読んでて寝たのが遅かったから、眠気に襲われているのだ。
 万全の体調であれば、こんな早々に睡魔になど襲われない。
 自分、精霊だしね。
「ちょっとアンリ、何欠伸してるのよ」
 脳内で解説をしていた所で、もう一つ欠伸が出て、その瞬間、彼女が険しい表情で振り返って来た。
「まさか……眠いの!?」
 リゼットは菫色の瞳を見開く。
「あ、リズ。これはね……」
 眠い目を擦りつつ、解説しようとした時だった。
 バチーン!
 鮮烈な痛みが、アンリの右頬を直撃していた。
「だめ! だめよ! 寝たら死ぬのよ!」
 バチーン! バチーン! バチーン!
 左、右、左と頬に衝撃。
 真顔のリゼットが、アンリの襟元を掴み、彼を往復ビンタしていた。
「痛っ! こ、こら! なんだよ叩くなよ!」
「起きろ! 寝るなーッ」
「ちょ、待てッて……」
 何とか手を掴んで、ビンタを止める。
「こんな所であんたに死なれたら困るんだから!」
 その手を振り解き、叫ぶように言われたその言葉に、今度はアンリが目を見開く。
 それから、嬉しそうに瞳を細めた。
「ったく……そんなに必死にならなくても死にゃしねぇよ」
 優しく彼女の頭を撫でる。
「そうかぁー。リズは俺が死んだら困んのかぁー」
 にへら、とその表情がにやけた。
「あんたは私の精霊なんだから、困るに決まってるでしょ」
 バツが悪そうにリゼットが視線を逸らす。
「何がどう困るんだ? 俺がいなくなったらまた新しい精霊と契約すりゃいいだけだろ?」
 少し意地悪に問い掛けてみれば、リゼットはキッと顔を上げて彼を見た。
「別の精霊?……そんなの嫌よ」
「へぇ?」
「あ、あんたみたいに扱いやすいバカ犬、そうそういないでしょ!」
 リゼットは拳を握ると、軽くアンリの胸板を叩く。
(扱いやすい、ねぇ。そりゃこっちのセリフだが……)
 アンリはこっそり口元に笑みを浮かべてから、リゼットに笑顔を向けた。
「確かにリズみたいに意地悪な飼い主に飼われるなんて、他の奴が気の毒だ。当分俺が飼われててやるよ」
「意地悪は余計よ! そういうわけだから……そう簡単に死ぬんじゃないわよ、バカ」
 握っていた拳を開くと、リゼットはそっとアンリの手を握る。視線は合わせられないので、明後日の方向を向きながら。
「……少しはあったかい、でしょ」
 ぎゅっと手が握り返された。
「ああ、あったかい」
 頷いて、アンリはにっこりとリゼットを見下ろす。
「手があったかい奴は心が冷たいっていうしな?」
「なッ……誰の心が冷たいのよこのバカ! 離すわよ!」
 リゼットが空いている拳を振り上げる。
「やだ。離してやらね。寒くて死んじまう」
 ひょいひょいっと華麗に拳を躱しながら、アンリは更に手を強く握った。
「何ならぎゅーっと抱きついてくれてもいいんだぞ?」
「はぁ? なんで私が抱きつかなきゃいけないのよ!」
 頬を赤く染め、リゼットは信じられないといった表情でアンリを見る。
「むしろ私をあっためたらどうなの? 私は飼い主なんでしょ」
 売り言葉に買い言葉。
 思わず飛び出した言葉に、アンリがニタァと微笑む。
 と同時に、彼の手が伸びて、小柄なリゼットの身体はすっぽりと彼に抱き締められていた。
「……って、ほんとにしなくていいから! いいから!」
 バタバタバタ。
 暴れても拘束は解けない。
「あーあったけー……」
 アンリの嬉しそうな声が身体に響く。
「ば、バカ犬……」
 伝わる体温が温かいから。
 今だけ、なんだから。
 リゼットはそっと、彼の背に手を回したのだった。


●4.

(困ったな。俺は寒さが嫌いなんだ)
 受話器を置いて、Curt(クルト)はパートナーに気付かれないよう溜息を吐いた。
 思わず電話機を睨み付ける。
 救助が来るまで、何とかこの寒さを耐え切らないといけない。
「何か役立てそうなものはないでしょうか?」
 Elly Schwarz(エリー・シュバルツ)の声に、ハッと顔を上げた。
 エリーは、冷気の詰まった倉庫内をぐるっと見回している。
(エリーは細いし、俺よりも寒そうだよな)
 うだうだ考えている暇はない。
 クルトも早速倉庫内にあるものから、暖を取れそうな物を探す事にした。
「エリー、これ使えそうだぞ」
 早速目を付けた食材用の袋をエリーに示す。
「こちらは、段ボールがありますよ」
 エリーは大きめの段ボールを幾つか見付けていた。
「使ってみましょう!」
「ああ」
 二人で協力して、段ボールを崩すと床に敷き詰める。
「良い感じですね」
 エリーは段ボールの絨毯に触れて微笑んだ。
「先に暖をとっておけ」
 そんな彼女に、クルトは食材用の袋を押し付ける。
「え? でもクルトさんは……」
「俺は後で良い」
 震える指先を上着のポケットに突っ込んで隠し、クルトはエリーに背を向けた。
「有難う、クルトさん」
 エリーが背後で微笑んだ気配を感じながら、クルト再び探索を開始する。
(なかなか温かいかもしれません)
 袋を毛布代わりに羽織り、段ボールの上に座ると、寒さが和らいだ気がした。
 これなら何とか耐え凌げそうだ。
 そう思った時。
「クルトさん?」
 棚を漁っていたクルトの身体が僅かに傾いた気がした。
 エリーは慌てて立ち上がる。
 チラリと見えた彼の顔は、青白かった。
 駆け寄り彼の顔を確認しようとすると、今度は大きくクルトの身体が傾く。
「クルトさん!」
 その身体を咄嗟に支えた。氷のように身体が冷たい。
「……悪い、実は寒さは嫌いなんだ」
「へ!? そんな!」
 なのに、エリーに先に暖を取るよう言ったのか。
「無理しないで自分を優先して下さい!」
 彼の優しさと無茶な行動に、胸に熱い物が込み上げる。
「こちらへ……!」
 彼の身体を支えながら、段ボールの絨毯まで移動した。
 彼をそこへ座らせ、毛布代わりの袋を掛けるが、その震えは一層大きくなるばかりだ。
 他に彼を温める道具はないのか?
 エリーは周囲を見渡して、ハッと閃いた。
「クルトさん、ごめんなさい……!」
 そう言うなり、エリーは一緒に袋に包まると、彼の身体をぎゅっと抱き締める。
「っ!」
 驚いたクルトの身体が跳ねて、息を呑む気配がした。
「ごめんなさい。僕は……このくらいしか……っ」
 とくん、とくん。
 密着した胸から、互いの鼓動が聞こえる。
「……エリー」
 クルトの手がエリーの背中へと回った。
「温かい……」
 更に強く抱き合い、伝わる体温にクルトの震えが収まっていく。
 そして震えが完全に収まった頃、クルトが口を開いた。
「エリー……お前と同じだった事を、この前思い出した」
「同じ?」
「俺の両親もオーガに奪われていたんだ」
「え? クルトさんも……だったんですか?」
 思わず身を起こしてクルトを見上げる。
 彼の瞳は揺れていた。
「幼い俺にはショック過ぎて記憶を無くしてたが、最近戻った。……両親は愛をくれていたのに、俺はそれを忘れていたんだな」
「クルトさん……」
「……ハッ、俺は何を語ってるんだか」
 自嘲めいた笑みで、クルトは天井を見上げた。
 エリーは再び、強く彼を抱き締める。
「……辛い時は、泣いて下さい」
「エリー?」
「僕はあなたのパートナーなんです! 頼って下さいよ!!」
 叫ぶように言い、彼の胸の中、その瞳を見上げた。
「……お前が泣くな」
 冷たい指先が頬に触れて、自分が泣いている事に気付く。
「じゃあ、一緒に泣きましょう」
「ばーか……」
 彼の頬に光る雫に、エリーはそっと触れたのだった。


●5.
 
 凍える温度に、リヴィエラの身体は限界を迎えている。
「救助を待っていたら、リヴィーが……!」
 ロジェは必死に動かない扉と格闘していた。
「さ、寒い……ロジェさ、ま……私、意識が……」
「リヴィー!」
 意識朦朧となり、倒れ込んだ彼女の身体をロジェは抱き上げた。
「しっかりしろリヴィー! 大丈夫、もう少しで救援が来る!」
 呼び掛けながら、氷のように冷たくなっている彼女の身体に、胸の奥が凍り付くような恐怖がこみ上げてくる。
 ギリッと奥歯を噛んで、ロジェは強くリヴィエラを抱き締めた。
「低体温症か……この場合、効果的なのは……」
 冷静になれと己に言い聞かせながら、彼女を救う方法を考える。
 立てかけられている、組み立てられていない段ボールが視界に入った。
 ロジェは、段ボールを床に敷くと、そっとリヴィエラを横たえさせる。
 そして、自分の衣服を脱ぎ始めた。
 鍛えられた身体が、倉庫の冷気に晒される。
「リヴィー、すまない」
 続けて、リヴィエラの服へ手を掛けた。
 釦を外し、上着もスカートも脱がせ、下着に包まれた白い肌がロジェの眼前に現れる。
 その細い身体を抱き締め、肌同士を未着させた。
(俺の体温を、すべてリヴィーに……!)
 それから、衣服とダンボールを自分達に巻き付けて、熱を逃さないようにする。
「リヴィー、口を開けてくれ」
 倉庫にあった食材、パンを齧って口に含むと、リヴィエラに口移しで与えようとした。
「ロジェさ、ま……」
 なかなか口を開けられないリヴィエラが、朦朧とした瞳で見上げてくる。
「リヴィー、食べるんだ!」
「ロジェ様の体、温かい……」
 にこり、とリヴィエラは微笑む。
 儚いようなその笑み。ロジェの胸に押し潰されそうな不安が広がる。
「しっかりしろ、リヴィー!」
 きつく抱き寄せ、彼女の肌を擦った。
「……私、貴方と一緒の時間を共有できて……嬉しかった……」
「何を、言ってる……!」
 どうして、これで終わりのような事を。
「もし私が死んでも……ロジェさ、ま、は……生きてくださいね……」
 冷たい指先がロジェの頬を撫でる。
 その手を掴んで、ロジェは叫んだ。
「何をバカな事を……いいか、絶対に寝るな! 君を死なせはしない!」
 彼の叫びに、リヴィーは困ったような笑みを浮かべる。
 彼が好き。
 貴方が生きて、笑ってくれるのなら、何もいらない。
 伝えなきゃ。
 ロジェ様が、この先、笑顔で居られるように。
「ロジェ様なら、きっと立ち直れる……貴方が全てを背負う事はないのです……」
 先の依頼で、親友が怪我をして。
 その事で、優しい彼が傷付いて、迷っている事を知っている。
「逃げても良い、戦わなくても良い……」
 切なる願い。
「貴方は生き延びて……」
「ッ……!!」
 ロジェの唇から、声にならない声が漏れて。
 ぽつりと温かい雫が、リヴィエラの頬を濡らした。
「大丈夫、泣かないで……」
 霞む視界の中、大粒の涙を零す彼。その涙を指先で拭って。
「ロジェ様は、大丈夫……」
 ハァと小さく息を吐き出すと、瞼が重くなるのを感じた。
「私……何だか眠くなって……」
「……ッ……大丈夫なものか!」
 ロジェは叫ぶと、リヴィエラの頬を軽く叩く。
 眠らせない。眠らせるものか!
「俺が守ると言ったんだ、友も、お前の事も!」
 閉じかけたリヴィエラの瞳が、僅かに開いた。
「俺は逃げたりしない! これ以上誰も死なせるものかッ!!」
 ドクン。
 強く響く鼓動が、弱ったリヴィエラの胸に響く。
 ドクン。
 それは確かな熱と力をもって、リヴィエラの身体へ響き、そして……。


●6.

「外の空気が温かいわ……!」
 倉庫の外に出て、アリシエンテは大きく伸びをした。
「何故、突然扉が開いたのでしょうか?」
 エストは訝しげに、今出てきた扉を見遣る。
「壊れるのも突然、直るのも突然。不思議な倉庫ね」
 そう言いながら、アリシエンテは考える。
 もし、仮に救助によって扉が開けられていたとしたら、エストと抱き合った姿を見られた訳で……。
「まぁ、出られたならそれで良いじゃない」
 そう結論付け、頼まれていた食材を載せたカートをエストに押して貰いつつ、トラックへと向かった。


「ヒデェ目にあったな」
 肩を鳴らすアモンを見上げ、リオはカートを押す。
 カートの持ち手はまだ冷たくて、倉庫の中の寒さを思い出した。
 が、それと同時に、アモンに抱き締められた温もりもまざまざと思い返してしまう訳で……。
「キミも少しは手伝ったらどうだ?」
 首を軽く振って、彼を軽く睨んで言うと、案外素直にカートの持ち手を持ってくれた。
 だから、今なら言える気がした。
「少しだけ、怖かったんだぞ?」
 照れながら囁かれた言葉に、アモンが笑った。


「もうちょっと閉じ込められててもよかったかなー」
 空を見上げ、食材の載ったカートを押しながらアンリがぼやく。
「あら、あんただけ残ってもよかったのよ?」
 リゼットが冷たく言い放つと、アンリはわかってないなぁと肩を竦める。
「リズが一緒だから、良かったんだよ」
「……私は二度とゴメンだわっ」
 ぷいっと顔を背けるリゼットだが、僅かにその頬が紅いのを、アンリは見逃さなかった。


「クルトさん、大丈夫ですか?」
 一緒にカートを押しながら、エリーは心配げにクルトを見上げた。
「平気だ。……心配掛けて、悪かったな」
 ぽん。
 温かい掌を頭に感じて、エリーは瞳を細める。
「今度こういう目に遭ったら、クルトさんを優先して温めますね。僕、寒さは慣れてますから」
「頼りにしてる」


「ロジェ……様?」
 リヴィエラがしっかりと意識を取り戻した時、ロジェは変わらず彼女を抱き締めてくれていた。
「リヴィー、良かった……!」
「ロジェ様……ありがとう、ございます……」
 心配掛けて、ごめんなさい。
 ぎゅっと彼を抱き返して、リヴィエラは気付いた。
「ろ、ロジェ様、は、はだ……裸……!」
「あ……す、すまない……!」
 その後、リヴィエラに必死に土下座しているロジェが見られたとか、見られなかったとか。


Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:アリシエンテ
呼び名:アリシエンテ
  名前:エスト
呼び名:エスト

 

名前:Elly Schwarz
呼び名:エリー、良い子ちゃん
  名前:Curt
呼び名:クルトさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月27日
出発日 10月02日 00:00
予定納品日 10月12日

参加者

会議室

  • [6]リゼット

    2014/09/30-10:34 

    みなさんお久しぶりです。
    今回もよろしくお願いしますね。

    …といっても助けが来るのを待つしかないわけだけど。
    早く外に出てあったかいものでも飲みたいわね。

  • [5]リオ・クライン

    2014/09/30-09:30 

    アリシエンテとエリーは初めまして、リヴィエラとリゼットはまた会ったな。(微笑)
    リオ・クラインだ。
    パートナーはアモン・イシュタールという。

    しかし、大変な事になったな。
    私達も二人で閉じ込められてしまったが・・・。
    とりあえず落ち着いて救助を待つしかないだろう。

  • [4]リヴィエラ

    2014/09/30-07:54 

    ロジェ:
    (クルトの顔をハッとしたように見、嬉しそうに微笑った後姿勢を正して)
    俺の名はロジェという。パートナーはリヴィエラだ。
    アリシエンテ、リゼット。あとエリーとリオ…皆見知った顔で嬉しい。
    クルトさんはその…名前を呼んでくれてありがとう。

    今回は大変な事になってしまったな…俺達も二人で閉じ込められてしまったようだ。
    救助が来るまで、何とか耐え忍ばないといけないな。

  • クルト:

    ……知り合いが多いか。エストとロジェはよく会うかもしれない。アンリは大橋ぶりか。
    初めましてな奴は初めまして。
    改めて俺はCurt。神人はElly Schwarzだ。

    今回は2人で閉じ込められていたんだったか。
    寒いのは苦手だから、早く救助が来ると良いが。
    (誤字があったので再投稿しました。)

  • [1]アリシエンテ

    2014/09/30-00:23 


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