プロローグ
●仮想訓練
急を要する任務はウィンクルム達に直接打診されるが、そうでないものはA.R.O.A.で吟味できる。
君はA.R.O.A.の受付でパートナーと共に任務一覧を眺めていた。
二人でどの任務を受けるか、それともどこかのツアーに参加しようか。
ぱらぱらと文を目で追っていると、パートナーが小さな疑問の声を上げた。
「これは……?」
「もしかして戦闘訓練の案内ですか?」
君がパートナーの手元を覗き込もうと動く前に受付娘が声をかけて来た。
パートナーの様子を見るに、どうやら正解らしい。
「ちょっと待ってくださいね」
受付娘は別のファイルを取り出して二枚の紙を引き抜き、君達に差し出す。
詳細な説明が書かれてあるようだ。
「ウィンムルムとしての戦闘訓練が難しいことは皆さん自身が一番理解されてるかと思います」
その理由はトランス状態、もっと言えばジョブスキルにある。
防御力を向上させるものや味方を癒すものであればいいが、攻撃に用いるスキルはともすれば訓練相手に大怪我を負わせてしまう。
数が不足してしまうウィンクルムを訓練で失う訳には行かない。
しかし、まともな訓練も無しにいきなりオーガとの実戦に放り込んでしまうことにも大きなリスクがある。
A.R.O.A.が抱えているジレンマだったが、ある企業の開発により光明を見出した。
「ヴァーチャルシミュレーションなんですが、ジョブスキルを用いた訓練が可能になりそうなんです」
ヴァーチャルということは仮想空間での訓練ということか。
実になるのだろうか、そんなパートナーの疑問を受付娘が拾い上げる。
「詳しいところは私も理解できていないんですけれど、『非現実のこと』を頭に『現実のこと』と錯覚させることで経験に変えるらしいんです。
とはいえ、実際の経験に関わらずジョブスキルが使えたり使えなかったりで、まだ完成は遠いみたいなんですけど。
一度、ウィンクルムの皆さんにテストをしてもらおうということで任務になった訳ですね。集団戦闘を仮定して、二対二で行われるようです」
パートナーの目がきらりと輝いた。
どうやら強い興味を持ったようだ。
君を見遣ったパートナーに頷きを返すと、パートナーはすぐにこの任務を受けると受付娘に申し出た。
解説
二対二のタッグマッチ形式による戦闘訓練です。
レベルが高い方は下方修正、低い方は上方修正が入ります。
○チーム
希望が無ければ挨拶順に
1・3番目
2・4番目
でチームとなります。
皆さんの希望がありましたらそのチームで行われます。
○ジョブスキル
実際のレベルに関係なく、レベル5までのものを『一つだけ』使えます。
実際のレベルより上のスキルを使われる場合はジョブスキルをセット『せず』
プランに「○○をセット」と明記をお願いします。
もともと使えるのであればセットしておくだけで大丈夫です。
○その他
仮想空間に入れば強制的にトランス状態へと突入します。
インスパイア・スペルを唱えての口付けは不要です。
また、神人の皆さんは仮想空間がモニターされたディスプレイの前で待機ということになります。
インカムにより仮想空間に声は届くので声援や指示を送ることは出来ます。
部屋はチーム別になるので御安心ください。
余談ですが紅茶を出してもらえます。
ゲームマスターより
しりとりしようぜ!
豆腐の「ふ」!!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)
即実戦はやはり危険なので、今回の戦闘シミュレーションはありがたい。 これまでの任務で使ったことのないスキルを試したり、相棒の動きの確認などもできるので、今後の戦闘任務に備える意味でも、よく見て色々把握しておきたい。 ジャスティの訓練を見守り、インカムを通じて応援と指示を行う。 相手の攻撃が来る方向を伝えたりする。 シンクロサモナーのスキルは憑依浸食現象が厄介なので、「ここだ!」というタイミングでのスキル使用を伝えたい。 ロイヤルナイトは手数も多いので、近接攻撃ラッシュのタイミングで使用し、防御力アップとカウンターを狙う方がいいだろう。 訓練とはいえ、やはり勝利は欲しい。 ジャスティ、頑張って…! |
手屋 笹(カガヤ・アクショア)
興味深い依頼ですね…。 とはいえお相手は仲間のウィンクルム。 正々堂々とやってきてください、カガヤ。 折角の機会ですから後悔の無いよう、相手に失礼が無いよう 全力で。 こちらからモニタリングしながらのインカムを使っても 指示は出来るみたいなので、 カガヤの目が向いていない方向からの攻撃に対する指示はしましょうか。 宵さんの事も含めてトータルの状況を見ましょう。 タッグマッチである以上どちらか一人が倒されると勝つのが 益々難しくなりますしね。 必要なら宵さんをフォローするよう指示しましょう。 私も指示と言う形で今回の訓練に参加させて頂いてる身ですし、 訓練が終りましたらカガヤと一緒に皆さんにお礼を言いましょう。 |
アマリリス(ヴェルナー)
訓練ならば実戦でいきなりでは不安な事も試してみる事ができますわね 勝ち負けもありますがそれ以上に過程を重視してくださいね きっと今後の糧となりますわ あと仮想世界といっても無茶は厳禁です では最善を尽くしてくださいませ 状況は報告し応援もしますが指示はほどほどにしておきますわ もうわたくしよりも実際に戦っているヴェルナーの方が戦い方は理解しているでしょう わたくしも今後のために自分に出来る事をもっと見つける必要がありますね 終わったら全員で反省会でもいたしましょうか 今回の訓練でのうまくいった事や反省点など 学んだ事ををあげ今後に生かせるようにしましょう あとは仮想空間についての感想や改善点などもですね |
市原 陽奈(日暮 宵)
宵がやる気なので頑張ってほしいですね。 私達はまだ戦闘の経験がありませんから少しでも感覚をつかんでもらえればいいのですが。 あ、宵がご一緒させていただくアクショアさんのパートナーの手屋さんにもしっかりご挨拶をしなくては。 宵共々よろしくお願いしますね。 しかしその場にいない宵を応援するというのは少し変な感じですね。実際の依頼でも神人としてはあまり出来ることは少ないようですが。自分の身を守るくらいはしたいですね…ですが足手まといになっては元も子もなく…難しいところです。 宵にはいつも守ってもらってますね…本当は私も宵の事守りたいって思ったこと何度もあるんですよ。 私は貴方の主ではなくパートナーになりたい。 |
●事前準備
施設に辿り着いた四組のウィンクルムはすぐに小さな会議室に案内された。
まずはここで説明があるようだ。
「リンドブルム社へようこそ。この度は御協力頂き、ありがとうございます」
「今日はよろしくお願いいたします」
アマリリスがゆったりと品のある仕草で職員に礼をすれば、すぐさまヴェルナーも丁寧でありながら無駄の無い仕草で頭を下げる。
「お相手は仲間のウィンクルムとはいえ、とても興味深い依頼でしたから」
「即実戦はやっぱり危険だし、戦闘シミュレーションはありがたいしね」
手屋 笹の言葉にリーリア=エスペリットも同調した。
ウィンクルムとしての経験を実戦でしか積むことが出来ないというリスクの大きさを、二人とも既に身を以って理解している。
実際、ウィンクルムとしての戦闘経験がない日暮 宵にとっては良い機会だった。
パートナーである市原 陽奈としても、この機会に宵が少しでも感覚を掴んでくれるのであれば幸いだろう。
「では先に訓練についての説明を行いますね。すでにチームは決まってらっしゃいますか?」
「え?」
チームという単語にリーリアとジャスティ=カレックが困惑を見せた。
「どうかなさいましたか?」
「一対一じゃないんですか?」
「二対二でのタッグマッチ形式でのテストと依頼させて頂いたと思うのですが……」
不手際があったのではと慌ててファイルを開きだした社員を、カガヤ・アクショアが制した。
「や、タッグマッチ形式って聞いてたぜ?」
「はい。カガヤ様と宵様、ジャスティ様と私がチームを組むという話でしたね」
ヴェルナーが自身の認識を口にすれば、他のウィンクルム達も頷いてみせる。
ここでリーリアとジャスティは自分達が勘違いしていたことに気付いた。
「すみません、てっきりヴェルナーさんと一対一で訓練するものだと」
「ああ、そうでしたか。気になさらないでください」
職員は心底安心した様子だ。
折角ウィンクルムに協力を仰いだテストに間違いがあっては一大事だからそれも無理は無い。
「それでは改めまして、ウィンクルム仮想訓練システムチームの主任のロンド・ロンディです。本日の流れを説明いたしますね」
職員――ロンドがそう言うと室内の照明が一段階暗くなる。
「まずチーム毎に分かれて、神人の皆さんに待機していただくモニタールームへ案内いたします。
そちらで少し時間を取りますので、ゆっくり寛がれたり作戦を確認されるなど自由にお過ごし下さい。
その後、精霊の皆さんを仮想空間への接続機を用意している部屋へ案内いたします」
ロンドが手元のリモコンを操作すると、四台の椅子状の機械といくつもの機械が置かれた部屋が壁に表示される。
ただの壁かと思いきや、スクリーンも兼ねていたらしい。
「接続機のある部屋です。こちらの椅子に座って頂き、ヘルメットを装着して頂きます。その後、私共が電極を取り付けますのでそれで準備完了です」
レーザーポインターで映し出された機械を指しながらロンドは説明をしていく。
「目を閉じるとすぐに仮想空間へと転送されます。
座って目を閉じているのではなく、目を開き実際に行動していると脳に錯覚させることで経験として蓄積されるようになっていますが、痛覚などはカットされますのでこちらは体には残りません。
戦闘不能になればそのまま仮想空間への接続は解除されますが、ヘルメットを外して目を開かない限りは戦闘を見守ることが出来ます。
ただ、どうしても目を開いた直後は脳が混乱してしまう為、多少の眩暈などがあると思いますが、すぐに収まりますので安心してください。
なお、神人の皆さんの声は同じチームの方にしか聞こえません」
何か質問はありますか?
職員が問い掛けるも、皆、改めて聞くことは無いようだ。
ウィンクルム達を見回してそれを確認したロンドは鷹揚に頷く。
「それでは神人さんの待機室に御案内致しますね」
待機室に入ると、ヴェルナーはジャスティに軽く方針を照らし合わせることを持ちかけた。
「武器が重いものなので、隙を突いて渾身の一撃を当てにいくつもりです」
「それがいいでしょうね。私は防御を固め、相手の攻撃を誘おうと思います」
ジョブの特性上もあるが、二人とも己の得手、不得手を理解した上で定めた方針は上手く噛み合うだろう。
二人が納得の様子を見せると、アマリリスがヴェルナーに語りかける。
「勝ち負けもありますが、それ以上に過程を重視してくださいね。きっと今後の糧となりますわ。
あと、仮想世界といっても無茶は厳禁です」
痛覚が実際の体に伝わることはないらしいが、それでもパートナーが無理をする姿は見たくない――アマリリスはそう思う。
真面目すぎるパートナーが頷いたのを見て、アマリリスは穏やかな笑みを深くする。
「では最善を尽くしてくださいませ」
「勝ち星、取ってきてよ」
連絡用のインカムを確認していたリーリアは、アマリリスとは真逆の勝気な笑みを浮かべていた。
「正々堂々とやってきてください、カガヤ。折角の機会ですから後悔の無いよう、相手に失礼が無いよう全力で」
「大丈夫だって、笹ちゃん」
淡々と諭すように言う笹へカガヤは笑顔で返す。
楽しみだからか、動かす訳ではない体を簡単なストレッチで解しているくらいだ。
気さくなカガヤのことだ。多少『礼儀』からは外れても『礼』の無いことはしないだろう。
笹はこれ以上、何も言わなかった。
と陽奈と影のように付従う宵の二人が笹とカガヤにすっと歩み寄る。
「手屋さん、今回はよろしくお願い致します。宵ともどもよろしくお願いいたしますね」
「アクショアさん、足手纏いにならないようにしますんでよろしくお願いします」
しっかりと挨拶をしてくる二人に、笹とカガヤはこちらこそと丁寧に頭を下げ返した。
●仮想訓練
「すごいですぜ、これは」
宵は手を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返すが、その感覚は現実のものとまったく変わらない。
周囲もどこかの訓練場にしか見えず、同じように驚いている他の精霊達がいなければ現実のことと思い込みかねないほどだ。
全員が己の感覚を確認し終えた頃、ロンドの声が響き渡った。
『皆さん、何か異常はありませんか?』
「いえ、ないですね。むしろ無さ過ぎて戸惑うくらいです」
ジャスティがそう返せば、ロンドが満足げに笑った気配を感じた。
『それはよかった。では、こちらで開始の合図として3カウント取りますので準備をお願いいたします』
ぱっと赤く光るラインが二本ずつ、離れた位置に向かい合って地面に浮かび上がる。
開始の位置だと察した精霊達がすぐにラインに合わせて向かい合う。
よろしくお願いします――ヴェルナーが丁寧に頭を下げると、他の精霊達も彼に倣う。
そしてそのまま、武器を抜き放つ。
『3』
ジャスティとカガヤが大剣の柄を握りなおす。
『2』
ヴェルナーが腰を落とし、盾の持ち手をしっかりと握る。
『1』
宵は掌から指の間へ手裏剣を滑らせる。
『開始!』
四人の精霊達は中央へ向かって一斉に駆け出した。
両目でヴェルナーを捉えたまま、しゃれこうべで飾られた大剣をカガヤは振るう。
ヴェルナーは駆けた勢いのまま横に飛ぶ。
大剣の切っ先はヴェルナーの鎧すれすれで空を斬る。
ロイヤルガードの本領は高い防御力にあるが、装備次第ではそれなりの回避力も持てる。
大剣やハンマーなどの大振りとなる武器に対してであれば充分通用するほど。
避けた先でヴェルナーは体の前で盾を構え、叫んだ。
「お相手します!」
ヴェルナーの体から放たれるオーラが正しくカガヤを捉える。
オーラに焼かれながらも、カガヤはヴェルナーに注意を向けざるを得ない自分を感じた。
そこに響く笹の声。
『カガヤ、右です!』
弾かれるようにして逆側へ跳ぶ。
風斬り音と共に一瞬前までカガヤがいた空間を、ジャスティの大剣が薙いだ。
「危ねっ!」
ジャスティが眉を顰めるのと同時に宵の手裏剣がジャスティの眼前を通り、ヴェルナーへと放たれた。
狙い違わずヴェルナーへと向かうものの盾に阻まれ、ヴェルナーの体を傷付けることは無い。
しかしカガヤが体勢を整えるには充分だった。
再度、大剣を振るう。
横薙ぎの一撃を避けられないと判断したヴェルナーは盾を身に引き寄せ、来る衝撃に備えた。
「ぐっ!」
『っ……!』
ヴェルナーの呻き声と共に、アマリリスの声にならない悲鳴が精霊達の耳を叩く。
アプローチで防御力を高めていなければ一撃でやられていたに違いない。
ヴェルナーの宿す『土』に対し、カガヤの『風』は有利な関係にある。
装備で多少の対策はしているが、近接職随一の攻撃力を誇るハードブレイカーの、しかも『風』の力を増す武器の一撃を前にしては焼け石に水。
ヴェルナーは数歩下がり、すぐに反撃とばかりにカガヤへ槌を振るう。
槌はカガヤの胴へ叩き込まれるが大きな打撃にはならない。
けれど、それによりカガヤはジャスティの攻撃を避ける余裕を失ってしまった。
ジャスティの大剣がカガヤの腹を割いた。
ヴェルナーと違い、宿す属性の相性による影響を受けないジャスティの一撃は、重い。
『カガヤ!』
「アクショアさん!」
すかさず宵が手裏剣を投げる。
手裏剣はジャスティの手を掠めるが、些細な傷にしかならない。
カガヤに対してジャスティが痛手を与えられないように、『火』の宵では『水』のジャスティには大きな傷を与えることは出来ないだろう。
どちらのチームも有利であり、不利であった。
「宵、右です!」
陽奈が宵へ指示を飛ばす。
元々は見ているだけだったが、笹がカガヤの死角へのフォローをしているのを見てそれに倣ったのだ。
戦闘において神人が出来ることは少ない。
直接戦闘に関わることは精霊の足を引っ張ることになりかねないが、笹のようにフォローをすることは出来る。
むしろ積極的に行っていいくらいだ。
そうすることで間接的にでも精霊を守ることが出来るのだから。
一方、笹も変わらずカガヤのフォローを続けているがあまり効果は上がっていないようだ。
「アプローチ……使われると厄介ですね」
ヴェルナーが防御を固めてくることを笹とカガヤは予測していた。
その上でヴェルナーを先に叩くつもりではあったが、アプローチの効果により過剰な注意を向けざるを得ない為、連携が上手く取れない。
ロイヤルガードがアプローチで引き付けたところを他の精霊達が叩く――
ウィンクルム達が実戦で幾度も使ってきた戦法が、連携を崩すという点においても効果を発揮するのだと笹は実感していた。
「ジャスティ、左から来る!……しまったな、この状況じゃローズガーデンが使えない」
ジャスティへ指示を出し、リーリアは紅茶の入ったカップを両手で包み込む。
ローズガーデンが使えない理由は一つ。
ヴェルナーのアプローチとの相性が悪すぎるのだ。
術者へ攻撃をしてきた者へカウンターを仕掛けるローズガーデンと、注意を引きつけるアプローチでは噛み合わない。
「ですが二人は上手く連携出来ているようです」
「確かにね」
ヴェルナーの経験を信じ、指示は控えめ気味なアマリリスのフォローにリーリアは頷く。
元々の役割が違うとはいえ、事前に互いの方針を伝えておいたのが良かったのだろう。
味方だけでなく相手チームの位置もしっかり把握しているヴェルナーが巧みに誘い出し、そこへヴェルナーが攻撃を叩き込んでいく。
戦局はジャスティとヴェルナーの元へ傾きつつある。
宵の両手から放たれた手裏剣がヴェルナーの盾に弾かれた。
それによる高い金属音が鳴り止む前に、カガヤがコマのように回る。
カガヤの大剣はヴェルナーだけでなくジャスティをも薙ぐつもりだ。
「ごめん、ヴェルナーさん!」
「ぐあっ!」
カガヤが謝ったのは仮想空間とはいえあまりに現実と差の無い感覚ゆえ。
直撃を受けたヴェルナーは盾諸共吹き飛ばされるが、リーリアの指示が間に合ったジャスティはなんとか避けきる。
この一撃でヴェルナーは立てなくなるとカガヤは読んでいた。
そして読みどおり、ヴェルナーの姿は立ち上がることなくすぅっと音も無く消えていく。
仮想空間への接続が解除されたのだ。
二体一となったが、カガヤはヴェルナーとジャスティの攻撃を一身に受けて消耗が大きい。
宵がジャスティに対して有効打を与えられないことを思えば、有利とは言い切れない。
しかも―
『ジャスティ、今よ!』
リーリアの合図と共にジャスティの体を食人植物が覆う。
ジャスティの薔薇が今、花を開いたのだ。
宵が手裏剣を投げるが、元々の属性相性が悪いだけでなく植物に守られたジャスティを傷付けることは出来ない。
それだけではない。
「そこです!」
「っ……!」
薔薇の蔓を纏った大剣によるカウンターの直撃が宵の体力の半分以上を持っていく。
仮想空間において多少の能力向上は宵にも行われてはいるが、防具を一切身につけていない以上それも大した効果を上げてはいない。
シンクロサモナーは長期戦に向かないが、それも本人次第。
まずはジョブスキルを使わずに吹っ飛ばそう――そのカガヤの考えは悪く無い。
しかし、それは『相手が防御を固めていない』場合にのみ有効な考えだ。
防御を固めてしまった相手を吹き飛ばすには相当な力が要求されるのだから。
カガヤが振るった大剣はジャスティをその身を守る薔薇ごと切り裂く。
はらり、蔓と共に花弁が何枚か散るもおかまいなしにジャスティは大剣を繰り出した。
カガヤはその反撃をすんでのところで避けるも、そこまでだった。
返す刃でジャスティが大剣でカガヤを薙ぐ。
「うわっ……!」
カガヤの口から声が漏れ、同時にその体が宙を舞う。
けれど地面に叩きつけられる前に、ガヤの体はゆっくり消えていく。
すかさず宵は両手から手裏剣を投げるが、やはり薔薇の蔓に阻まれる。
ジャスティが反撃を終えるとその身を覆っていた植物が姿を消す。
そして続けて振るわれた大剣を宵は何とか避けて見せた。
護衛とウィンクルム、求められる動きの違いの大きさを宵は実感する。
護衛の経験を活かすのであれば、もっと具体的にどう動くかを考えておかなくてはいけなかった。
宵は歯噛みする。
神人となった陽奈をこれからも守っていく為に、確実にこの訓練を糧にして持ち帰らなくてはいけないという意地にも似た何かが、宵の体を突き動かした。
「これで!」
体勢を立て直しながら投げた手裏剣は僅かにジャスティの肩を抉るも、ジャスティは止まらない。
応援し、助けの声をかけ続けてくれたリーリアの存在がジャスティを後押ししている。
「負ける訳にはいきません!」
オーガを一刀両断し得る大剣が、精霊の体へと叩き込まれた。
●訓練終了
訓練の終了と同時に会議室へと移動した神人達の下に、ロンドに導かれた精霊達が戻ってくる。
「変な感じだ……」
「自分の足で歩いてる気がしない……」
全員、真っ直ぐ歩いてはいるが何かしらの違和感があるらしい。
陽奈が心配そうに声をかける。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です、お嬢。……一応は」
「今は絶対にジェットコースターには乗りたくない。まあそれは置いといて、皆、お疲れ様。手合わせをありがとう」
カガヤが笹と共に礼をすると、全員が同じようにお互いに労わりと感謝の言葉を掛け合う。
例に漏れずアマリリスも感謝の言葉を口にしてから、皆さんと全員に呼びかけた。
「反省会をしませんか?今回の訓練でのうまくいった事や反省点など学んだ事をあげ、今後に生かせるように。
それと仮想空間についての感想や改善点などもですね」
「そうですね。次に繋げなくては」
「私達のように戦闘経験が乏しいウィンクルムには、いち早く実装して欲しいですからね」
「助かります。ウィンクルムの皆さんの意見もお聞きしたいので」
ニコニコと笑顔を浮かべ、ロンドは謝意を示す。
ではと、全員で反省点を挙げていく。
笹とリーリアの積極的なフォローが良かったこと。
カガヤと宵のチームは精霊達自身の連携を取る行動が欠けていたこと。
宵はスキルをどういった状況で使うか、そして自身がどう動くかをしっかりと考えねばならないこと。
他にも戦闘中に感じたことや要望を全員で出し合っていく。
話はそう簡単には尽きない。
この話し合いがありとあらゆる意味で次へと繋がる――それを全員が望んでいるから。
自分達が、全てのウィンクルム達が、刃を交錯させた末に倒れるのは『非現実』の世界だけのことにする為に。
依頼結果:普通
MVP:
名前:アマリリス 呼び名:アマリリス |
名前:ヴェルナー 呼び名:ヴェルナー |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | こーや |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 4 ~ 4 |
報酬 | ほんの少し |
リリース日 | 09月22日 |
出発日 | 09月28日 00:00 |
予定納品日 | 10月08日 |
参加者
- リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)
- 手屋 笹(カガヤ・アクショア)
- アマリリス(ヴェルナー)
- 市原 陽奈(日暮 宵)
会議室
-
2014/09/27-21:02
よっし、宵さんはよろしく!
そしてジャスティさん、ヴェルナーさん、いざ尋常に勝負!
ハードブレイカーのレベル5までのスキルだと…特に変わった効果のは無いから、
マイナス要素を如何に減らすか、になりそうだ。
「トルネードクラッシュⅡ」を選ぶよ。 -
2014/09/27-09:03
ジャスティ:
ヴェルナーさん、よろしくお願いいたします。
>スキル
ローズガーデンを使用する予定です。
カウンター系スキルはまだ実戦で使っていないので、今回の訓練で試してみます。
-
2014/09/27-05:16
日暮宵:
チーム分け了解しました。カガヤさんよろしくお願いします。
お問い合わせありがとうございました(礼)
>スキル
こちらのスチルですが。双葉を使用予定です。
ウィンクルムとしての経験が浅いので少しでも経験になればと思っています。 -
2014/09/27-01:57
チーム分けはその組み合わせで特に異論ありません。
ジャスティ様、よろしくお願いします。
お問い合わせもありがとうございました。
そのあたりはあまり考えずとも自動で対応して頂けそうでしょうか。
ヴァーチャルとは便利なものなのですね…。
>スキル
こちらスキルはレベル5までとなると、プロテクションかアプローチⅡのどちらかで考えています。
個人差があるにしろアプローチは人間にも効果があると聞きましたので(ワールド設定補完スレ)
折角なのでどうなるのか試してみたいという気持ちはありますね。
あとは起きてから考えます。 -
2014/09/26-16:58
ジャスティ:
>カガヤさん
まとめ、ありがとうございます。
僕はその組み合わせでいいと思います。
やはり、下方(上方)修正は装備品のステータスも上下するのですね。
回答の掲載ありがとうございます。 -
2014/09/26-14:46
カガヤ・アクショア:
ひょっとして解説文の上方修正、下方修正ってこれの事だったのかななんて今更思った…(恥 -
2014/09/26-14:39
希望出しありがとうございます。
特に俺とジャスティさんが別チーム以外に希望が無いなら、
あいさつ順とかでやっちゃいますか?
(カガヤ&宵さんチーム、ジャスティさん&ヴェルナーさんチーム)
改めて希望やご意見ありましたらお願いします。
そういえば今回の武器の事について質問していた回答貰えたから置いておくよ。
Q.装備も仮想空間に入ると各精霊が所持している武器と同種のものでレベル5程度のものに能力を統一されるのでしょうか?あるいは装備武器をそのまま使用する事になるのでしょうか?
A.装備品そのままの使用となりますが、ステータスで表示されている攻撃力や防御力などに修正が入ります。例としましては、レベル10の精霊の攻撃力が150であれば120となります。上昇値または下降値に関しましてはジョブ次第で変化します。
との事でした。
今のレベルに沿った装備のままでも威力に修正が入るから装備に関しては何も考えずやっていいみたいかな? -
2014/09/26-04:20
日暮宵:
では、カガヤさんとジャスティさんは別のチームで。
あとは私とヴェルナーさんですが…どちらとチームを組みましょう?
俺はシノビですのでさて…。 -
2014/09/26-00:10
ヴェルナー:
こんばんは、ヴェルナーと申します。
今回はよろしくお願いします。
こちらも特に組み合わせに希望はありませんね。
カガヤ様とジャスティ様がチームを別れる事にも異論はありません。
訓練ですし全員職が違うにしろバランスよく振り分けてみるのは合理的と思います。 -
2014/09/25-19:41
ジャスティ:
こんばんは。
リーリアのパートナーでジャスティ=カレックと申します。
よろしくお願いいたします。
カガヤさんのおっしゃるとおり、武器の種類がかぶらない方が訓練としてはいいかもしれないですね…。
あとは特に希望などは今のところありません。 -
2014/09/25-03:44
日暮宵:
陽奈様のパートナーの宵と言います。
よろしくお願いします。
私は特に希望等はないのですが。
皆様に希望がございましたらお答えしたいと思っています。
-
2014/09/25-01:10
カガヤ・アクショア:
手屋 笹ちゃんのパートナー、カガヤ・アクショアです。
よろしくお願いします!
先に挨拶しちゃったけどチーム分けの希望はありますか?
俺は使う武器の関係で最低限ジャスティさんとはチームを別れた方が面白いかな?
ってくらいなんだけど、皆の希望があれば応じていきたいなと思います。