【月見・リエーヴル】神人VS精霊(物理)(叶エイジャ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「アドリーナ草のヴァーミンが農業区に現れた!」
 逃げ遅れた者の避難と、原因ヴァーミンの討伐を!
 課せられた使命を果たすため、ウィンクルムたちは現場へと向かう。
「これが……アドリーナ草?」
「蓮(ハス)の花に、近いかな?」
 そこで暴れているのは、元の世界では蓮と形容できる、しかし巨大な花だった。ヴァーミンと化したせいか、人の腕よりも太い根っこを振り回し、農作物をなぎ倒していく。
「とにかく、早く止めよう……!」
 幸い、動き自体はそんなに早くない。敵は二体いるが、こちらにも応援に来た先輩ウィンクルムが数組、敵の一体を受け持つ。
 残る一体に向け、集まったウィンクルム攻撃が集中した。アドリーナ草のヴァーミンは徐々に弱り、動きを鈍らせていく。
 もう少しで倒せる――そんな時だった。
「ぐわ!?」
「ちょ、なんで!」
 先輩ウィンクルムの方から精霊たちの混乱した声が聞こえてくる。
 なにか、突発事態が発生したのだ。
「待ってくれ、ヴァーミンへの攻撃を中止――」
 そんな叫びが聞こえた瞬間、アドリーナ草のヴァーミンが力尽きた。頭部の花が散り、甘いにおいが周囲に噴出した。

 倒した――そう思った瞬間、精霊であるあなたは背後から襲撃を受けた。
 予想外の攻撃に困惑しながら振り返れば、そこにいるのは契約した神人の姿。その瞳は虚ろながらも、全身から明確な敵意を発しあなたを睨んでいる。
 そして神人の異変はあなただけではなく、周囲の仲間も同様のようだった。
「ヴァーミンを倒した時のにおいだ。あれで神人がおかしくなってしまったんだ!」
 先輩ポブルスが叫び、その神人と剣で鍔競り合う。テイルスの先輩が続けた。
「しかも、身体能力がおかしいぞ。俺達精霊と互角か――場合によってはそれ以上だ!」
「きっと即効性です。このにおいが消えるか、その範囲外まで連れ出せばどうにかなるはず……」
 ディアボロの先輩がそう言いつつ、神人の攻撃を防ぐ。
 目の前の神人は、黙してあなたを見つめている。いつもは感じるはずの無いプレッシャーが、彼女からあなたへと吹き付けてきた。
 こちらと違って、手心を加える気はないようだ。
 どうやら、覚悟を決めてやるしかないようだ。

解説

神人が精霊以上の身体能力を得て、精霊と戦うというシチュエーションです。
精霊は、周囲を漂う甘い匂いが消えるまでか、匂いの範囲外に出るまで神人と戦う(防御に徹する、剣戟を繰り広げるなど)必要があります。

神人の中には、武術の心得や技量が良い人がいたかもしれません。
あるいは性格的に戦闘が嫌いだけど、実際はそうでなかった方かもしれません。
今回は純粋な身体能力差に隠れていた神人の「全力」が見られるかもしれません。

精霊の中には、普段神人には見せてない面があったかもしれません。
身体能力が上の相手だろうと、積み重ねてきた経験、技量でそれを覆すことは可能でしょう。
神人は、話では聞いていただけだった「彼の本気」を垣間見るかもしれません。

※神人の扱い
説得で止まりはしません。
事件を解決した場合、身体のオーバーワークで気を失います。
戦闘時の事は覚えていますが、夢を見ていた感じです。
(つまり、精霊の真剣な表情とカッコ良かったところが印象に残ってたり)
プランについては、精霊をどう「とりにいくか」が中心でもいーかなぁ、と。
(あるいは事後、目を覚ました後についてでしょうか)
動き過ぎて筋肉疲労くらいはあるでしょうが、後遺症はありません。

※精霊について
今回のメイン視点になります。
たぶんスキル使用しても対応してくるくらい、神人は難敵です。
銃撃や魔法撃っても、どうにかしてくると思われます。
どうやってこの局面を乗り切るか(その場で戦うか、範囲外へ誘導するかとか)お願いします。
多少負傷をするかもしれません。

これは、戦いを通じて互いの魅力を確認し合う物語
……に、なったらいいと思います。
皆様のプラン、お待ちしています。

ゲームマスターより

こんにちは、叶エイジャです。
本当にやばい攻撃は(できるだけ)華麗なマスタリング(叶エイジャ基準)を心がけますので!

でも、特に神人さんは戦闘中、超強化された強敵となるので、その部分でのキャラ変をご了承ください。
(イメージは無口な殺戮ましーんです)
逆にいえば強敵ロールができるチャンスかもです。
秘伝の武術とかあれば、できる範囲で膨らませようかと。
神人スキルをお持ちの場合は、使用可の予定です。

※相談について
基本的に各神人VS精霊で1対1を想定してますが、タッグでもどんとこいです。
リザルトで会話できない分、精霊さん同士の会話や、精霊さんを殺る気満々の神人様方の会話をしても、いいかなと、思います。

宜しくお願いします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)

  両手鈍器を使って戦います。
遠心力で一発あたりのダメージを大きくしています。
隙はありますが当たると危険です。
攻撃に迷いがあると見たのか、
積極的にグレンを狙いに行きます。

あれ…私寝てたんですか…?
そういえば変な夢見ちゃいました…
グレン、いつも楽しそうに戦ってる気がするんですけど、
夢では何だか凄く辛そうな顔をしてた気がするんです。

その…私、今後そんな顔させないように頑張りますから、
…何をどうするかっていうのはまだ分かりませんけど、
だから…グレンは、いつものグレンでいて下さい。

…抱きしめて頭を撫でるなんてことして、
子供相手かって呆れられないでしょうか…?
だって、グレンが何だか寂しそうに見えたから…


ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  乗馬で鍛えられた体で近接格闘
スタイルはキックボクシング、腕は防御に使う
力とスタミナでは自分の方が優れているのはわかっている為、狂犬のように接近して蹴りを打ち込む

基本攻撃はジャブからミドルのコンビネーション
掴みからの跳び膝蹴り
相手が片膝状態の時は頭部へバズソーキック
相手が蹴りを警戒している場合、一歩踏み込み片足を浮かせキックを放つと見せかけ顔面へジョルトブロー

【解決後】
ディエゴさんに抱っこされてる?
…嬉しいな

ディエゴさん、私の事なんかどうでも良いんじゃないかって不安になる時あるから…

芝4000Mのレースに出た後みたいに疲れてる
ん?ううん、何も言ってないよ

【使用スキル】
スポーツ(神人、精霊両方)



クロス(オルクス)
  アドリブOK

対精霊

・刀や飛び具で舞っているかの様に鮮やかな剣さばき
・銃弾が来たら刀や飛び具で弾き飛ばす
・ハロルドと息の合った連携
・不意を突いて精霊に怪我を負わせる攻撃もする
(怪我させるなら精霊達の肩や脇腹等を武器で斬りつける

事後

「(起きると疲労と筋肉の痛みに顔が歪む
あぁ…そっか、その怪我俺がやったんだ…
アレは夢じゃ…無かったんだっ!
ゴメンなオルク!ディエゴお兄ちゃん!
俺達のせいで怪我させちまって!(泣
怪我させる気は無かったんだ!
あの時の俺は、夢でも見てるかの様だったから体の自由が利かなくて…っ!
だけどオルク達が本気で戦う姿格好良かった新鮮で!
いつもと違う表情とかしててさ!
兎に角格好良かった!」



Elly Schwarz(Curt)
  行動】
・戦闘時:短剣二刀流でテンペストダンサーのような戦い方
・可能であればメンタルヘルスで動きを先読み
・彼の隙を見て馬乗りになり、攻めかかる
これはどういう状況でしょうか?
僕、戦って…え?

・戦闘後:酷い筋肉痛で立ち上がる事すらままならない
・彼の異変に気付き、安心してもらうよう抱きしめ返す
か、身体が動かな…え?クルトさん、どうしたんですか?
あのクルトさん、状況が上手く飲み込めないんですけど…あれ
(クルトさんの肩が震えて…?やはり何か?)
あの、大丈夫です!僕が傍にいますから!ずっとクルトさんを支えます。
ですから、あなたが1人で抱えてるものを、僕にも分けてもらえませんか?
僕だって、力になりたいんです!



 アドリーナ草の匂いが漂う中、Elly Schwarzは腰に手を伸ばした。トランスを用いた戦闘を想定した「コネクトハーツ」を右手に、持ち手部分にガードを施した「マンゴーシュ」を左手に。逆手に引き抜き即座に持ち替えるまでコンマ数秒に満たない。反射的に銃を構えたCurtはしかし、歯噛みしながら銃口を逸らした。
 彼女を、傷付けるわけにはいかない。
「俺は、この匂いから遠ざける!」
「それが確実だろうなっ」
 グレン・カーヴェルの言葉と共に散るのは火花だった。両手で構えた太刀「百虎」を持つグレンが、衝撃だけで数メートルも後退させられる。そのまま距離を取ろうとする彼を、上空からニーナ・ルアンディが強襲した。常の神人ならありえない脚力で飛び上がった彼女はグレンより早くその進行方向に着地すると、持っていた杖を振る。人魚文字が描かれた儀式杖「深海の掟」の大振りは軌跡が見えやすい半面、遠心力を得たその速度と破壊力は計り知れない。刀で受けたグレンが、威力に押されて力負けする。よろめいた彼にニーナは踏み込みながら、その細腕の力のみで杖を豪快に操り振り下ろした。グレンは不安定な姿勢のまま跳躍。彼の立っていた地面が衝撃で抉れて弾け飛んだ。
「いつまでこの状態が続くか分からない中、戦い続けるってのもキツイ」
 顔をしかめるグレン。先ほど受けた一撃に手が痺れたのだ。
「こちらもなんとかして、ヴァーミンの残骸から遠ざける!――ディエゴ、範囲外までの誘導、連携頼めるか?」
「要請を受理する」
 オルクスが、比較的近かったディエゴ・ルナ・クィンテロと声を掛け合う。同じプレストガンナーである二人の銃は、それぞれの神人の足元へと向けられた。
「正直、あの二人に接近戦を仕掛けられると厳しいだろうな」
 オルクスの神人、クロスは青塗りの鞘の鯉口を切り、彼女が「青龍桜紅月」と呼ぶ刀を引き抜く。同時にディエゴの神人、ハロルドは両腕をゆらりと上げる。拳打によるボクサータイプの戦闘様式を選んだようだった。彼我の距離はまだ銃の間合い。今は有利だが一度相手に間合いを許せば――すぐさま窮地に陥るだろう。
「機先を制して、距離を稼いでいくしかない」
 それぞれの方針を示した精霊が動く。合わせて、虚ろな瞳の神人たちも動きだした。


 ディエゴはハロルドの前方、その地面をスナイピング。
精密射撃に必要な時間は一瞬だ。
轟音。
魔法銃から発射された弾丸は狙いに違うことなく地面を穿ち、月の魔力による小爆発を起こした。噴き上がる土ぼこり。それを背に狂風の如く迫る少女の姿を見た時、精霊は眼鏡の奥の双眸を見開いた。
 ――速い!
間合いが瞬時に消えた。ハロルドの放った右ジャブを、ディエゴは空いた手で迎撃する。拳同士のぶつかる乾いた打撃音が響き、それが耳に届いた頃にはディエゴは地面を転がっていた。容赦なく連動していた神人の蹴り足が、ゆっくりと引き戻される。
「ディエゴ――!」
 銃でハロルドを牽制しようとしたオルクスは、その時視界の端で光る煌めきを捉える。クロスが先端の尖った飛び具を次々と投じていた。時間差をもって飛来するそれは無傷で避けるのは難しい。オルクスは地を蹴り、身を投げ出した。車盾――多重式装甲盾で防ぎながら、飛び具の一角を狙い撃つ。凶器を弾いたその空間へオルクスは飛び込んだ。転がりながらすかさず起き上がり、制圧射撃。弾幕を張りハロルドのこれ以上の接近を防ぐ。
「大丈夫か?」
「戦闘には支障はない。だが代えの弾倉が幾つか飛ばされた」
 立ち上がるディエゴ。オルクスは地面に散らばった装備を見て、彼が軽傷である理由を知った。同時に焦燥感。想定以上に神人たちは素早い。匂いからどれほど離れればいいか分からない以上、身を守る術は多いに越したことはなかった。
 拾う時間を与えてくれる敵なら、まだやりやすいが――
「来たぞ」
 ディエゴの警告に、オルクスはクロスが刀を手に突進してくるのを視認する。物言わぬ神人の威圧感に、契約精霊の顔つきが変わる。
 銃口が、彼女の急所へと向けられた。


 グレンの所見では、ニーナの戦法は一撃必殺。
 重い杖を全力で振り回し、ただただ一回当たりの威力を上げている。グレンの経験上、そういうのは膂力に自信がある輩が行いそうなものだが、一時的に身体能力の上がっているニーナの力は、無視できないものとなっていた。
(本当は向かってくるなら容赦はしねえって言いたいトコだが、これは流石に分が悪いしな)
 グレンの表情には苛立ち。ニーナの性格か何かが反映されたのか、どう考えても不釣り合いな戦法は彼女の動きに致命的な隙を生みだしている。そこを叩けば勝てるだろうとは、何合目かの打ち合いで分かっていたことだった。
 それを実行に移せないのは、ニーナの無事が保証できない一点にある。
「……ッ」
 舌打ち。明らかな隙をニーナが見せていた。身体が叩きのめすべく反応しようとし、思考がそれを逡巡してる間に、強烈な一撃が大気を粉砕しながら迫ってきている。太刀で受け流す暇はなかった。覚悟を決めて衝撃に備える。
「ぐ……ッ!」
 武器越しのベクトルがグレンの身体に襲いかかった。喧嘩っ早い彼でさえ、こんな純粋な「暴力」を受けたのは珍しいと思うくらいの、衝撃。よろめいた彼がむせれば、血の味が口の中を満たし――全身が熱でみなぎる。
「ってえなニーナッ! いい加減にしろよ……」
『……』
 猛る炎のような剣幕に、無表情の少女はわずかに距離を取った。攻撃の意志を感じたためだ。だがそれも一瞬。一気に接近しつつ、人魚杖を大きく振りかぶる。
 ――そこだ。
 グレンもまた間合いを詰めた。ニーナが一撃を繰り出すよりも早く、腕を一閃。鈍器と太刀の速度は、わずかにグレンが先行していた。
勝った。
(とっとと返り討ちにして大人しく――)
 グレンはその時、感情を見せないニーナの瞳に、斬撃を繰り出す自らの姿を見た。
 その姿が、怯えた少年の姿に変わる。
少年は血を流しながら、刃物を持った、虚ろな目をした少女へと叫ぶ。
 ――姉ちゃん、どうして?
「――!?」
 気付けば、腕が止まっていた。唸りを上げる神人の武器が、斬撃の速度を追い越す。
(どうして――!)
 攻撃『できない』。
自らの変化に驚愕するグレンのこめかみに、鈍器が叩き込まれた。


(今のは……!?)
 遠くでグレンが倒れたのを見て、クルトはそちらへ向かおうとした。
 その目前で光が疾った。
「……!」
 慌てて後退すれば、刃が二つ、クルトの首があったところを切り裂いていく。背筋に冷たいものを感じながら、クルトは抜き撃ちを行う。不意打ち気味の連射は襲撃者との距離を稼ぐ牽制目的だったが、両手に短剣を携えたエリーは向ける銃口のことごとく先を行き、弾丸は彼女の残像を掠めるに留まる。元よりクルトに当てるつもりはないが、「当たるかもしれない」場所に撃ち込まねばいけないほど、彼は追い込まれていた。
 単純なスピードで言うなら、エリーは四人の神人の中で最も速い。スキルを放ったテンペストダンサーにも匹敵するかと思うほどだ。どういうつもりかクルトが他の精霊と合流するのを阻むように先回りし、徐々に退路を塞いでいく戦法を取っている。肉食獣の狩りにも似たやり方だ。
「くっ……!」
 触れ合うような距離からエリーの刃が振るわれ、クルトの膝上が浅く斬られる。身体がよろめく。痛みをこらえて踏ん張り、クルトは匂いの圏外へ向けて走った。今ので分かった。彼女は遊んでいる。狩りの仕方を覚えるため、獣が獲物をいたぶるのと同じことをやろうとしている。本気ならば今のが致命傷になっていただろう。
 なぜそんな行動を取っているのか分からないが、クルトにとっては僥倖だった。『良い子ちゃん』がするには末恐ろしい戦法だが、その遊びに付き合ってる間は時間は稼げる。
(エリー、すまない!)
 背後の気配を、クルトは『かなり正確』に照準した。これまでからの彼女の身体能力を加味し、避けるなりして確実に対処するだろう攻撃を行い、退路をこじ開ける。無事だろうと思えど、罪悪感が芽生える。
 発射。
 疾走し迫っていたエリーは果たして刃の一閃で弾丸を撃ち弾き――しかし今までにない鋭い射撃に態勢を崩した。双剣を握ったまま、地面に倒れる。
「!!」
 確認のため後方を見ていたクルトの脳裏に、エリーのその姿が強烈なイメージとなって飛びこんで来た。
(なんだ? これ……)
 同じ光景を、見た事がある。あんな風に倒れて……死んだ人を。
 そう、あれは、父だった。
 血が、床に広がっていって。
 父のそばには、母が虚ろな目で立っていた。
(こんな時に、あの時のことを思い出したのかよ……!)
 だがその後、どうなった?
 俺はどうなった?
(あのあと、母さんが俺に気付いて――)
 そして、母も死んだ。血にまみれた父と母の骸の前で、赤く染まった手を見つめる子ども。それが、五歳の時の自分だ。
 そして両親を殺したのは――
「!」
 背後からの衝撃に、クルトは地面に倒れた。立ち上がるより早く蹴りが脇に入り、仰向けになったクルトにエリーが馬乗りになった。
 彼女の足が、彼の両腕を挟みこむ。
 動きを封じられたクルトへと、逆手に持ち替えられた双剣が振り下ろされた。


 オルクスは、クロスへと引き金を絞る。
「クー、信じてるぜ」
 轟音とそれに金属音は、ほぼ一つとなって聞こえた。
 続けざまに放たれた三発の弾丸は、クロスの振るった刀が弾く。神人はほとんど進む速度を落とすことなく、オルクスを間合いに入れた。
 斬――!
 鋭い一閃が精霊の首筋へと迸り、地面を転がったオルクスの頭部が土にまみれる。
 遅れて鮮血が、斬られた首から溢れだす。

 地上から遥か遠い月の地で、オルクスは自らの神人に討たれ、死んだ。

 ――そんな一文を、オルクス自身も一瞬考えた。
「危、ね……!」
 先の銃撃によりクロスの斬撃に微かな「鈍さ」を生じさせていなければ、冗談抜きで危なかっただろう。首の傷から流れ出る血を拭う暇も惜しみ、彼はつかんだ「それ」をディエゴへと投げる。
「すまない!」
 ディエゴが投げられた弾層を受け取る。彼はクロスと同時に接近していたハロルドの動きに合わせて弾丸を放つ。初見の動きを参考に狙いを定めた銃撃は、今度こそ神人の動きを制限する。それでも動きを止めないハロルドへ、ディエゴも並行するように移動し弾丸を解き放つ。数えていた最後の薬莢が飛び跳ねたと同時に、空になった弾倉を排出。友からの贈り物を即座に叩きこみ、装填。流れるような一連の動作は、しかし今の神人には一髪千鈞に等しい。すぐさま稼いだ距離がゼロになるのを尻目に、ディエゴは新たな弾丸を撃ち出す。
 オルクスに追撃を仕掛けるクロスへと。
『!』
 反応して避ける青髪の神人。彼女がその態勢から放った斬撃を、オルクスは隠しナイフで軌道を逸らした。精霊は神人を振り払いつつ一射。ハロルドを牽制してから銃をディエゴに放り投げた。精霊がすれ違う。
「あと六発」
「了解――蹴りに注意してくれ」
「任せろ」
 ディエゴが二挺の拳銃をクロスに向け、オルクスが拳を構えてハロルドへと肉迫する。ハロルドは凶犬のごとく接近すると旋回し、腹部へと蹴りを放つ。オルクスが上げた片足で受け威力を殺すも、その服を掴んで神人は飛び膝蹴りに移行した。身体を傾げ打点をずらすが、衝撃はゼロにできない。しかめっ面で次の蹴撃を警戒する精霊へと、フェイントからのジョルトブローが顔面を襲った。
『――!』
 空裂音。拳は空を切った。後方転回して避けたオルクスの向こうで、ディエゴの両手から大気をつんざく咆哮が上がった。
 魔法銃と古銃から発射される高威力の弾丸が次々と宙を駆けていく。倍加した弾丸数にクロスは迎撃を諦め退避し、ハロルドも警戒し距離を取ったまま待機する。
「だいぶ離れたか。最後まで気を抜かずに行くぞ、ディエゴ」
「ああ。神人の安全は最優先事項であり、精霊の誇りだ」
 オルクスの声に、ディエゴは強い意志で応える。
(待ってろ、エクレール)
 再び二人の神人が動き、銃声と剣技、拳打の音が続いた。


「……痛っつ」
 グレンが目を開け、頭に響く痛みに呻いた。視界は天地が逆。どうやら倒れたらしい。意識を失う前のことを思い出す。
(危なかった、か)
咄嗟に跳んで衝撃を軽減しなければ、この程度では済まなかったろう。近付いてくる金髪の神人に、グレンは立ち上がる。
「ニーナ。お前がそんなだから、嫌なこと思い出しただろうが」
 平常の声音で話すが、表情一つ変えずニーナは近付いてくる。グレンは彼女を睨んだ。
「いつもみたいに笑えよ! 何で人形みたいな顔してるんだよっ、意味分かんねぇ!」
 ニーナが杖を振りかぶる。すでに太刀は手になかった。いずれにしろ、今のグレンには対応できる力は残っていない。ただ衰えぬ意志と怒りで、神人を見据える。
 虚ろな瞳で、ニーナが止めの一振りを放った。すっぽ抜けた杖が地面を穿っていき、神人は糸の切れた人形のように倒れる。
「おい……!?」
 慌てて彼女を支え、グレンは気付く。
 あの甘ったるい匂いが、消えていた。
「あ、れ……?」
 弱々しい声が、紡がれた。
「私、寝てたんですか?」
 グレンが脱力する。悪夢の終わった瞬間だった。


「――?」
 クルトは目を開けた。何かが迫ってくる。
「うおっ!?」
 エリーだった。伸ばした彼女の両腕から二振りの短剣が投げだされる。密着した身体越しに感じる、彼女の浅い呼吸にようやくクルトは深い息を吐いた。危機一髪、助かったらしい。
「クル、ト……さん?」
「戻って、来た、か」
 安堵のあまり、クルトはエリーを抱きしめた。
「え、あの? 僕、戦って……これはどういう状況でしょうか?」
 自らの態勢に驚きつつも、それ以上にクルトの様子にエリーは訝しむ。震えているようだった。ただ事ではないと感じ、エリーは抱きしめ返そうとして――身体がまったく動かない事に気付く。それどころか、異常な気だるさを感じた。
「あの、クルトさん。僕はいったい……?」
「……良かった」
「クルト、さん?」
「あれと同じになるわけには、いかないんだ」
「――あの」
 状況がまったく飲み込めなかったが、エリーは言葉を紡いだ。
「あの、大丈夫です! 僕が傍にいますから!」
「……え?」
「僕が、ずっとクルトさんを支えます――僕だって力になりたいんです!」
「――」
「ですから、あなたが一人で抱えているものを、僕にも分けてもらえませんか?」
 彼女の言葉に、精霊はしばし沈黙した。やがて口を開く。
「……今度、話す。今は心の整理が難しい」
「分かりました」
 エリーは落ち着いた彼に微笑み――そして襲ってきた疲労に目を閉じた。


 誰かが自分を呼んでいる気がして、ハロルドは目を覚ました。
「ディエゴ、さん?」
「……起きたか」
 揺れる視界にディエゴの顔があった。近い。抱きかかえられているのだと分かる。コートがかけられていた。理由は分からないがひどく身体が重くて、コートから伝わる温もりに安堵した。ぼうっとする頭で、抱っこされてると改めて思えば、なんだか嬉しい。
(私のこと、ディエゴさんはどうでも良いって思ってたりは、しないよね?)
 そんな風に時々感じる不安を、吹き散らしてくれるから。
 それにしても、身体が重い。
「芝4000Mのレースに出た後みたい……」
「――何か言ったか?」
「ん? ううん、なんでもないよ?」
 ハロルドは首を振り、訪れた睡魔に目をつむった。
 腕の中で静かな呼吸を始めた彼女に、ディエゴは呟く。
「眠ったか」
 思えばあれだけ動いたのなら、当然だろう。
 後遺症や傷めた場所がないか、調べる必要もあるか……と考えながら、ディエゴは言う。
「死ぬなよ、エクレール……俺の代わりはいるが、君は違う」
今日、守れた事実――それが彼が誇れることだった。


 クロスは目を覚ました。オルクスと目が合う。
「……あ」
「クー! 良かった正気に戻ったんだな」
「オルク、ゴメン! 俺……!」
「待て、急に動くと痛むぞ」
「でも……くはっ」
「ほら、言った傍から」
 苦笑し、支えるオルクス。彼の怪我にクロスの瞳が揺れた。
「ゴメン。俺たちのせいで……」
「クーたちのせいじゃない。気にするな」
 優しくクロスの頭を撫でる精霊は「そういえば」と続けた。
「あの時の記憶があるのか?」
「ああ……夢でも見てるかのようでさ。ぜんぜん身体の自由が利かなくて」
「へぇ、夢としての疑似体験か」
「怪我はさせる気はなかったんだ……でもさ、オルク達が戦う姿、格好良かったよ。新鮮で!」
「そうか?」
「うん、いつもと違う表情とかしててさ! とにかく、格好良かったよ!」
「クー、そう言って貰えるのは嬉しいんだが……いつも本気で任務に臨んでいるんだけど?」
オルクスは苦笑した。


「そういえば、変な夢をみちゃいました」
 グレンに支えられ、ニーナが起き上がった。
[グレン、いつも楽しそうに戦ってる気がするんですけど、夢では凄く辛そうな顔をしていた気がするんです]
「そうか」
 ニーナの言葉に、グレンが一瞬複雑そうな顔を見せる。まだ少し朦朧とした様子でニーナが続けた。
「その、私……グレンがそんな顔しないよう頑張りますから」
「……何を、どう頑張るんだ?」
 夢と現実を混同させた口調――どちらも実際に現実だが――のニーナに、グレンが聞く。余裕のない聞き方だった。反応を楽しんでからかうものではない。警戒し、突き放したような、意地の悪い返し。グレンは内心舌打ちをした。
(思い出したから、か)
 ふと思考に沈んだグレン。そんな彼の頭をニーナが抱きしめた。
「――?」
「何をどうするかは、まだ分かりませんけど、頑張ります」
 黒髪を、白い手が撫でていく。
「頑張りますから……グレンは、いつものグレンでいて下さい」
 一瞬、沈黙が生じた。
「――疲れてるのに、人の世話を焼こうとするなんて物好きだな」
 やがて、グレンがいつもの調子で話し始めた。
「俺は子どもじゃねえ。まずはニーナ、お前は身体を休めろ。人様に偉そうに言うのはそれからだ」
「うう、ごめんなさい・……」
 でもなんで私って疲れてるんでしょう、と言いつつ、ニーナの瞼が再び閉じられていく。
「だって、グレンが何だか寂しそうに見えた、から」
「……」
「……すぅ」
 眠ったニーナを、グレンはじっと見つめていた。
 彼女の言葉を、頭の中で何度も思い返しながら。


 後日、神人たちへ検査が行われ、極度の疲労以外の影響はないという診断が下された。
 件のアドリーナ草だが、そのような匂いを出す性質は確認されておらず、ヴァーミンになったことで得た能力ではないか、という説が有力らしい。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 叶エイジャ
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 通常
リリース日 09月20日
出発日 09月27日 00:00
予定納品日 10月07日

参加者

会議室

  • クルトさんが誰かと組む事を阻めますが、僕も一応戦闘スタイルを。

    基本的に短剣二刀流で攻撃をします。素早さ、命中力は高めです。
    具体的には精霊のジョブ:テンペストダンサーのイメージになりますかね。
    スキル「メンタルヘルス」を取得してるので、若干先読みするかもしれません。(出来るかは不明)

    こんな感じになります。
    戦う事があればよろしくお願いします。

  • [9]クロス

    2014/09/25-21:32 

    クロス:
    俺も一応戦闘スタイル書いとくな
    基本刀や飛び具を使って急所を狙いに行く感じだな。
    素早さもあるから気をつけてくれ。
    そう、確実に狙う……
    だって命中率高めだから
    まぁこんな感じか?

  • [8]ハロルド

    2014/09/25-19:47 

    一応、私の戦闘スタイルを申告しときますね
    私の戦いかたはキックボクシングです
    体の部位は満遍なく狙います
    筋力とスポーツスキルの補正によるスタミナはディエゴさんより上なので
    接近戦に気を付けてください、回避も若干高めです。

  • [7]ハロルド

    2014/09/24-18:46 

  • [6]ニーナ・ルアルディ

    2014/09/24-11:11 

    グレン:
    悪い遅刻。
    グレン…とニーナ。よろしく。

    効果がどれだけ続くか予想できねーし、それだったらと
    一応こっちも相手を元凶から引き離してく方針だが、
    あいつ執拗にこっち狙ってくるみたいなんで、引き離す途中
    協力できる余裕あるかどうか分かんねー

  • [5]クロス

    2014/09/23-23:52 

    オルクス:

    >ディエゴ

    確かにそうだ…
    遠ざけさえすれば正気に戻るんだったな

    ふむ、それなら怪我もさせること無く誘導させられるな
    交互に神人達の足元に撃ち距離を保つ…
    それで行くか…!
    それにもし、銃弾が向かってもクーなら刀とかで弾き飛ばすだろう
    まっそんな事はしないが、万が一の事がある…
    身体能力が格段に跳ね上がってるみたいだしな…
    油断するとこっちが怪我させられそうだ(苦笑)

  • [4]ハロルド

    2014/09/23-23:36 

    呑まなきゃやってられんな←

    申し訳ないが相談にあまり時間をさけないので進めさせてもらう

    >オルクス
    とにかくアドリーナ草からハロルドのクロスを遠ざければ良いんだ

    幸い俺たちは遠距離攻撃タイプだから距離を取りつつ後退すれば良いだろう
    【ラピットファイア】を乗せた【スナイピング】で2人の足下を撃ち、追うスピードを落としながら後退するというのはどうだ?
    リロード等のタイムロスがあるだろうから、撃つのは交互で。

  • [3]クロス

    2014/09/23-13:14 

    オルクス:
    皆久しぶりだな。
    オレはオルクス、パートナーはクロスだ
    今回も宜しくな(微笑)

    オレはディエゴと協力するつもりだ。
    クーには怪我させたくないし誘導したいが…
    多少の牽制は致し方ないと考えている…(苦笑)

  • クルト:

    どうも。顔見知りな奴ばかりだな。
    改めてディアボロのCurtだ。ジョブはプレストガンナー。神人はElly Schwarzだ。

    俺の方はタッグを組んでも良かったんだが、エリーがその邪魔しいてくるから少しキツい。
    いつもはひ弱な奴なんだがな。
    俺も誘導で済むならその方針で行くつもりだ。よろしく頼む。

  • [1]ハロルド

    2014/09/23-13:01 

    ディエゴ・ルナ・クィンテロ着任した
    神人はハロルド、よろしく頼む。

    今のところオルクスと協力するつもりでいる
    できれば、誘導したいところだな。


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