貴方の心を暴きます(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●ストレンジラボの新発明
「おはようございます。今日もいい天気ですね」
 A.R.O.A.本部の受付にて。爽やかに笑み零した来訪者の名はミツキ=ストレンジ。過去にもA.R.O.A.へと『性格反転ドロップ』なる珍妙で人騒がせな発明品を持ち込んだ、ストレンジラボという怪しげな研究所の代表だ。ちなみに、蛇足ながら目の覚めるような美青年である。
「アー、ソウデスネー。イイ天気デスネー」
 受付の男が、遠い目をして受け答えをする。不幸にも、本日の受付担当は先日ミツキの相手をさせられたのと同じ男だった。彼は件のドロップ事件の際、ミツキに――正確に言えば今日も今日とてミツキの後ろに寡黙に控えている大男シャトラに、結構酷い目に遭わされている。
「ええと、今日はどんな御用でしょうかミツキ様」
 遭遇してしまったものは仕方がないので、受付の男はとりあえずそう尋ねた。ミツキが、その美しいかんばせににこやかな笑みを乗せる。
「はい。本日はですね、ウィンクルムの皆様にぜひ試していただこうと、新しい発明品をお持ちしたのですよ」
 シャトラ、と呼ばれて巨躯の男が受付カウンターの上に置いたのは、一見何の変哲もない栄養ドリンク。しかしてその実態は!
「こちら、飲めばどんな捻くれ者も頑固者も、たちどころに自分の本心に正直になってしまうという画期的な飲み物です。名づけて、『真実の雫』!」
 あ、前回よりはましなネーミングかもしれないと受付の男は思った。
「とりあえず、うちの研究員で試してみましょうか。シャトラ」
 受付の男にはにこにこ顔を向けたまま、ミツキはぴしゃりとシャトラの名を再び呼ぶ。無言のまま、シャトラが栄養ドリンクの口を開け、一息にそれを飲み干した。
「それでは、幾つか質問をしてみましょう。味の方はどうでしたか、シャトラ?」
「飲めなくはないが美味くもない。妙な後味だ」
「ふむ、まあ仕方ありませんね。では次。僕のことをどう思っていますか?」
「ミツキは俺の主だ。どんな命令にも従う所存でいる」
「大変結構です。それでは最後に。……シャトラ、僕に隠していることはありませんか?」
 問いに、シャトラは僅か目を見開くが、その反応とは対照的に彼の口は非常に滑らかに言葉を紡ぐ。
「このまま研究開発を続けてはミツキの身に危険が生じると判断し、第2056号試作品を、付随する資料共々俺の勝手な判断で廃棄した。研究所に入り込んだ猫の悪戯のせいだと言ったのは嘘だ」
 言い終えてしまって、シャトラは落ち着きなく視線を泳がせ口元を抑えた。ミツキの笑みが怖いほどに深くなる。
「成る程成る程。やはり貴方の仕業でしたか。シャトラ、後でお仕置きですよ」
 笑顔のままそう宣告して、ミツキは受付の男へと向き直る。
「と、まあ大体こんな感じです。ウィンクルムの皆様にもきっとあるでしょう。相手の本心を知りたい! だとか、偶には素直な姿も見てみたい! だなんて思うことが。相手の嘘や秘密を暴きたい、と思うことも恐らくは」
 シャトラの反応が演技でないことは実際にこのドリンクを試していただければわかります、とミツキは受付の男が口を開く前に付け足した。
「ドリンクは1瓶300ジェールでご提供させていただきます。どうぞ、ウィンクルムの皆様によろしくお伝えくださいね」
 ミツキの言葉に、受付の男は疲れたように頷いた。

解説

●『真実の雫』について
プロローグにあるように飲んだ人が嘘をつけなくなるドリンク。
口にしますと、思ったことが自分の意思に反してするりと口からとび出してしまうような感じです。
プロローグのシャトラのような直接的な嘘を隠し通せなくなるのは勿論ですが、自分の気持ちも偽れなくなります。
怪しげな一品ですが効果は本物です。
効果が続く時間は個人差がありますが、数分~長くても数十分ほど。
ちなみに、自分が喋ったことの記憶はばっちり残ります。
お値段は1瓶300ジェールです。
ちょっと薬っぽい味がしますが、まあ栄養ドリンクとしての許容範囲かなくらいの味です。

●『真実の雫』について2
手元のドリンクは1瓶のみですので、ドリンクを飲めるのはお一組様につき1人のみです。
ドリンクを手に入れたのは神人でもパートナーでも構いませんし、2人でゲットした前提でもOKです。
秘密や嘘を暴くために何も知らないパートナーに何食わぬ顔で飲ませてみたり。
相手が自分を本当はどう思っているのか知るために思い切って飲ませてみたり。
はたまた中々素直になれない自分の本心を伝えるために、敢えて自分で飲んでみても。
上記以外の使い方も勿論歓迎いたしますので、お好きなように扱っていただければ幸いです。

●ストレンジラボについて
すごいのはすごいのだけれどもよくわからない物を研究開発しているタブロス市内の小さな小さな研究所。
研究所の代表で(性格はともかく)優秀な研究者のミツキと、研究員という名の雑用係兼実験体のシャトラが2人で頑張っています。
『性格反転?ミラクルドロップ』にも登場していますが、該当エピソードをご参照いただかなくとも支障はございません。

●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは描写が極端に薄くなりますので、どうかお気をつけくださいませ。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

ストレンジラボの発明品第2弾は、飲んだ人を強制的に素直にする不思議なドリンク。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ではありますがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  エミリオさん、栄養ドリンクどうも有難う(真実の雫を飲む)

(精霊の質問を受けて)
私だけ守られてろって言うの
ふざけないで!

もしかしてこの間の任務の事を心配してくれている?
確かに怖かったよ、また大切な人を失うかもしれないって凄く怖かった
でもだからって私は戦うことをやめたりしない
傷つくことを恐れて縮こまっていたら守りたいものも何も守れないもの

恋人になっても貴方の心はどこか別の所にあるような気がして
いつか貴方が離れていってしまいそうでずっと怖かった
だから過去を知れて嬉しいの
話してくれてどうも有難う

エミリオさんの罪は私も背負うよ
貴方を1人にはしない(祈るように目を閉じる)

☆関連エピ
No.49『卑劣な攻撃』


音無淺稀(フェルド・レーゲン)
  …『真実の雫』ですか…
普段、必要最低限というか…必要最低限も喋ってくれる事が少ないフェルドさんですが
…これを飲んだら答えてくれるんでしょうか…?

本当は話してくれるまで待とうって思ってましたが…
フェルドさんは私を必要としてるとは言いますが理由を未だに教えてくれませんし…
結構な時間が立つのに…このままにしておくのは私が嫌です

答えを聞くのはちょっと怖いけど…それでも、聞いてみない事には自分で納得できないままですし…

フェルドさんには「ミルクティーを作りました」って言ってミルクティーに混ぜて飲ませてみましょう

そして聞いてみましょう

フェルドさんは、何故私と契約しようとしたんですか?


かのん(天藍)
  履歴No37欲望解放セラピー?で弱音を吐いた際に自分の心に寄り添ってくれた天藍に確かめたい事があり、真実の雫を入手

自宅の庭で様子を見に来た天藍を庭に招き入れ本部で貰ったものだと手渡す
躊躇無く飲む姿に少し罪悪感
セラピーの時のお礼と迷惑をかけた事のお詫び
少し沈黙の後、自分が天藍の負担・迷惑になっていないか尋ねる
天藍は優しいので精霊として責任感じ無理しているのではないかと
そうだと言われたら悲しいけれど負担にはなりたくない

即答で返された答えに安堵と嬉しさを覚える
逆に返された質問に動揺、続けられた言葉を聞き、試すような事をした事について素直に謝る

口の中に残る薬の味が悪いと言う天藍のために、口直しの用意を



七草・シエテ・イルゴ(翡翠・フェイツィ)
  翡翠さんが作ったカルーアミルクを一緒に飲んだら
急に頭がぼーっとしてきました。
どうも真実の雫と一緒に飲んでしまったようです

(喋る内に泥酔した感覚になり、泣きながら話す)
私、神人としての才能無いんですよ、きっと。
先輩はどんどん強くなっていって、
同期と後輩は私をどんどん追い抜いていってしまう!
考えた作戦もあんまり上手くいかない事ばかりです!
こんな私!もう、い
(翡翠に無言で近寄られ、ガムテープで口を貼られる)

翡翠さんの様子がおかしいですが、一呼吸おいたら、
私の事をどう思っているか聞いてみましょう

(話を聞き、顔を赤らめながら話す)
お気持ち、受け取りました。
私も・・・・・・翡翠さんの傍にいたいと思います。











都 天音(チハヤ・スズアキ)
  用事があってA.R.O.A.に立ち寄る
受付にスズアキが行っている間は外で待機

貰える物は貰います
なんか、薬みたいな味がするんですけどこれなんですか?

へえ、栄養ドリンクですか
それなら私じゃなくてスズアキさんがもっと飲むべきではとも思いますね
ほら、なんかいつも疲れたような雰囲気じゃないですか
主に私といる時のことですが
黒髪って白髪目立ちますよね

ああ、あれにそんな効果があったんですか
私は自分に正直に生きているという事がばれてしまいましたね

猫かぶり、ですか
面倒なのでありのままの私を受け入れてくれる人がいいです
偽ったままの関係ではどうせ長続きしないでしょう
その点はスズアキさんとは長い付き合いになりそうですね


●貴方の本音が知りたくて
「かのん」
 掛けられた声に、かのんは庭いじりの手を止めて振り返る。突然の来訪者――天藍が、道の端から庭に咲き誇る花たちを眩しげに見やって、
「いつ見てもここの庭は賑やかだな」
 と零した。突然どうしたんですか? と驚き混じりの問いを零せば、天藍、軽く笑って、
「何、時間が空いたからちょっと様子を見に、な」
 あくまで軽い調子で零された言葉に、ちり、と胸の内で燻ぶるものがあった。しかし、かのんは生じた感情を静かに飲み込んで、笑みを以って天藍を庭へと誘う。
「――そうだ、少し待っていてもらえますか?」
 庭へと足を踏み入れた天藍の諾の返事に、かのんは急ぎ家の中に戻って小瓶を手に取った。かのん、知らず思い詰めたような表情になって瓶――『真実の雫』を握り締める。先日催眠セラピーを受けた際、吐き出した弱音を受け止め、自分の心に寄り添ってくれた天藍にどうしても確かめたいことがあって、かのんはこの薬を手に入れたのだ。瓶を手に、心を決めたように太陽の下へと戻る。
「あの、良ければどうぞ。本部で貰った物です」
「ああ、悪いな」
 そう言って小瓶を受け取った天藍、違和に心内で首を傾げる。見たことのない栄養ドリンク、原材料の記載がないラベル、そしてどこか落ち着かない様子のかのん。
(ああ、成る程。これが噂に聞いた『真実の雫』か)
 そこまで見抜いて、けれど天藍は一切の躊躇なくそれを飲み干した。かのんが自分に何を喋らせたいのか天藍にはわからない。けれど、胸の内には隠しごともやましい思いも持ち合わせていないし、何よりもかのんが自分に何を尋ねたいのかに興味があった。そんな天藍の心など知らないかのん、心に罪悪感を過ぎらせながらも、ぽつぽつと言葉を紡ぎ始める。
「天藍。先日は……セラピーの時は、迷惑を掛けてしまってごめんなさい。それから、ありがとうございました」
「ん? ああ……」
 曖昧な返事を零す天藍。返す言葉が口をつかなかったのは、あの日の出来事に対して謝られる必要も、改めて礼を言われる理由も思い浮かばなかったからだ。あの日天藍は、セラピーを受けて弱い所を曝け出したかのんを、純粋に愛しく、守りたいと思って心の赴くままに言葉を零したし行動したのだから。暫し庭に沈黙が落ち、やがてそれをかのんが破った。
「私は……天藍の負担や迷惑にはなっていないでしょうか?」
 俯きがちに手渡された問いに、聞こうとしていたことはこれかと天藍は納得する。
「天藍は優しいので、パートナーとして責任を感じて無理しているのではないかと……」
 こうして庭を訪れてくれたのも、自分への気遣いからではないかと思うかのんだ。かのん、天藍の顔を見ることはできないけれど、渡すべき言葉を渡し切る。返る言葉が肯定ならば悲しいけれど、天藍の重荷にはなりたくないと強く思う。
「そんなこと気にしなくていい」
 寸の間の迷いもなく天藍が言った。はっとして顔を上げるかのん。
「俺がかのんの傍に居たいんだ。他の奴ならいざ知らず、かのんには誰よりも俺のことを頼りにしてもらいたい」
 だから迷惑だ等と思うわけがないと、天藍はかのんに笑みを向ける。安堵と嬉しさが、かのんの胸を満たした。思わずほっと息をつくかのんを見て、天藍は口の端をついと上げる。
「それで? 他に聞いておきたいことはないのか?」
「え……?」
 悪戯っぽい表情と何もかも見透かすような瞳が、かのんに動揺を運んだ。その隙に、天藍の逞しい両の手が、かのんの手を優しく包み込む。
「そう心配しなくても、かのんにはセラピーの時は勿論、他でもちゃんと本音で話してる」
 優しい色を帯びた言葉が、手の温度が、かのんの心にまで染み渡っていった。
「……ありがとうございます。試すような真似をして、すみませんでした」
「謝らなくていい。そんなことより……口の中に、さっきのの後味がまだ残ってるんだが」
 天藍が、口に残る薬の味に顔を顰めて喉を抑える。どこか子どもっぽいようなその言動に、かのんはやっと少し笑って、「すぐに口直しを用意しますね」と応えた。

●覚悟を決めろ?
「つい引き受けてしまったが……こういうの使うのって微妙だよな……」
 チハヤ・スズアキ、A.R.O.A.本部の受付から太陽の下を目指しながら、どうしたものだろうかと困惑しきりのため息をつく。パートナーの都 天音と2人、用事で本部を訪れて、最後の報告は何だかんだとチハヤがひとりでこなすこととなった。外で待っている都は、チハヤが受付にてまさかこんな物を手に入れているだなんて思ってもいないはずだ。手の中の『真実の雫』を見て複雑な表情を作るチハヤ。受付の男の、これが捌けなかったら何か身に危険でも及ぶのだろうか? と思わせるような危機迫った懇願に圧されて、ついジェールを支払ってしまったチハヤだったが……。
(だが、都のあの普段のすっとぼけた言動は素なのかどうかは知りたい)
 それを知る手段が掌の中にあると思うと、余計に気になってしまうのが人情というもので。それに。
(作ってるのなら話し合いが必要だし、素ならもう覚悟を決めるしかない……!)
 ぐっと小瓶を握り締めるチハヤの決意は、どこか悲壮ですらある。そんなことを考えているうちに、建物の入口まで辿り着くチハヤ。外へと続く扉を潜れば、チハヤに気づいた都が顔を上げた。
「スズアキさん、お疲れ様です」
「ああ、お疲れ。悪いな、待っただろ」
「そうですね、随分と待ちました。これは甘味の一つも奢っていただかなくては割に合いません」
「……」
 チハヤ、どちらかというと報告を押し付けられた俺の方が被害者なんだがとか、そこは普通は「大丈夫ですよ」と応えるところだろうとか色々思うところはあったものの、多分言っても無駄なので黙る。彼女との付き合い方にもだいぶ慣れてきた。閑話休題。
「あー……お疲れさまってことでドリンク貰ったんだが飲まないか? 俺は……」
「貰える物は貰います」
 俺は先に中で飲んできたから、と付け足そうとしたチハヤだったが、都の返事の方が早かった。都、チハヤから受け取った『真実の雫』を何の疑いもなしにくぴくぴと飲み干す。そして、表情の変化に乏しい顔に、本当にごく僅かだけ苦々しいような色を乗せた。
「なんか、薬みたいな味がするんですけどこれなんですか?」
「ええと……栄養ドリンクって言ってたな、うん」
「へえ、栄養ドリンクですか。それなら私じゃなくて、スズアキさんが飲むべきではとも思いますね」
「へ?」
「ほら、なんかいつも疲れたような雰囲気じゃないですか。主に私といる時のことですが」
 誰のせいだ、誰の。心内でそう応じるチハヤの頭の辺りを、じぃっと見つめる都。
「黒髪って白髪目立ちますよね」
 ナイフのように鋭いトドメの一言が、チハヤの胸に刺さる。胸に確信を抱くチハヤ。
(完ッ全にいつも通りだ……予想はできてたけどな、やっぱり素か……)
 遠い目になるチハヤを見て都がことりと首を傾げた。チハヤ、『真実の雫』の効果を都に話し、素直に詫びを入れる。
「ああ、あれにそんな効果があったんですか」
「ほんと悪かったな、妙な物飲ませて」
「全くです。私が自分に正直に生きているということがばれてしまいましたね」
「いや、ばればれだよ……あれを意図的にやる意味がわからないし」
 とりあえず、玉の輿に乗りたいのならば性格改善するか猫かぶりを覚えた方がいいんじゃないかと、ついつい真面目にアドバイスしてしまうチハヤ。何で俺こんなこと言ってるんだろうとは思いつつ。
「猫かぶり、ですか……面倒なのでありのままの私を受け入れてくれる人がいいです」
 偽ったままの関係ではどうせ長続きしないでしょうと続いた言葉に、「まあ、それもそう、だよな」とチハヤも納得する。
「その点、スズアキさんとは長い付き合いになりそうですね」
 感情を覗かせない声で、淡々と都が言った。その台詞を耳に、やっぱり俺も覚悟決めて活動するしかないかとチハヤは腹を固めたのだった。

●溢れる想い
「翡翠さん、今日はありがとうございました」
 七草・シエテ・イルゴがハト公園で開いたリサイクルショップは、その日大盛況だった。大型バイクで回収した中古品等を届けにいった翡翠・フェイツィもそのまま手伝いに駆り出され、夕方になってやっと一息つけたほどだ。そして、残った荷物をシエテの家に届けるついでに、軽いカクテルでも楽しもうかという話になって現在に至る。
「シエも疲れただろう。カクテルは俺が用意するから、ちょっと休んでなよ」
 翡翠が台所へと立てば、「それではお言葉に甘えて」とシエテ。翡翠、準備をしようと冷蔵庫を開け――そこに、近頃噂に聞いた『真実の雫』の小瓶を目に留める。暫しの思案の後、翡翠はコーヒー・リキュールを沈めた2つのグラスに牛乳を注ぎ――その片方にだけ『真実の雫』を混ぜた。
(よし。これで、シエに悩みがあるか聞いてみようかな)
 等と思って密かにやりとしたところで、そのシエテがひょこりと顔を出す。
「?! し、シエ……!」
「運ぶくらいは私にもやらせてくださいね、翡翠さん」
 柔らかな笑顔でそう言って、2人分のカクテルをテーブルへと運ぼうとするシエテ。純粋な好意に否と言えるはずもなく、カクテルはシエテの手に委ねられた。
「それじゃあ、いただきましょうか」
 テーブルに並ぶカクテルは、どちらが『真実の雫』入りなのかもう翡翠にもわからない。翡翠の心内の焦りに気付くことなく、シエテ、美味しそうにカクテルを口に運んだ。しかし。
(あれ……? 何だか頭がぼーっと……)
 揺らぐ視界に、冷蔵庫に仕舞ってあったはずの『真実の雫』が映った。A.R.O.A.本部の受付で、半ば押しつけられるようにして手に入れた物だ。
(何であれがあそこに……まさか、カクテルの中にあれが?)
 思考が、ゆるりゆるりと溶けていく。それは実は『真実の雫』のせいではなく、今日一日の疲労から来るものだったのだが、シエテはそれに気づかないまま、酔いの中に沈んでいった。翡翠は翡翠で、恐る恐る口に運んだカクテルが何の変化も呼ばないのを感じて、『当たり』はシエテのカクテルだと思い違いをする。
「シエ、何か悩みはないのか? あったら俺に聞かせてほしい」
 翡翠の問いに、もつれる舌を持て余しながら答えるシエテ。
「悩み……悩み、ですか。……私、神人としての才能無いんですよ、きっと。先輩はどんどん強くなっていって、同期と後輩は私をどんどん追い抜いていってしまう!」
 話しているうちに想いが溢れ出し、シエテの目の端から涙が伝う。
「考えた作戦もあんまり上手くいかないことばかりです! こんな私! もう……」
 嫌だと、紡ごうとした言葉が音になることはなかった。無言でシエテへと近づいた翡翠が、リサイクルショップの備品のガムテープで、シエテの口を塞いだのだ。シエテの愚痴を最初こそ楽しんで聞いていた翡翠だったが、段々と馬鹿らしくなってきてしまって、思わず。
(翡翠さんの様子がおかしいです……)
 シエテ、口のガムテープをぺりと剥して、翡翠へと問いを零す。
「翡翠さんは……私のことを、どう思っているんですか?」
「……シエは守られてる癖に、俺に労いの言葉もない。いつもそう、俺を戦う道具みたいに扱う」
 2人が同時に目を見開いた。翡翠、言うつもりのなかった言葉が口から滔々と溢れ出したことに混乱し、シエテから身を離す。
「けれども……顔を合わせているうちに、シエは心のどこかで悲しみを抱えている気がした。その笑顔に隠された涙を俺は拭いたい」
 言葉が止まらない。遂に翡翠は、問いへの答えの全てをシエテに手渡すこととなった。
「だからもっと……シエの傍にいたい」
「翡翠さん……」
 シエテの頬が朱に染まっているのは、きっと酒のせいだけではなく。
「お気持ち、受け取りました。私も……翡翠さんの傍にいたいと思います」
 真っ直ぐな言葉と笑みが、未だ狼狽している翡翠へと向けられた。

●傍らの特別
「……『真実の雫』ですか……」
 パートナーのフェルド・レーゲンと共にA.R.O.A.に呼び出され本部を訪れた音無淺稀、用事を終え休憩室に向かったところで、先ほどまで留まっていた一室に忘れ物をしたことに気づく。回収した忘れ物を手に受付を通り掛かったところで受付の男に呼び止められて例の薬を勧められ――淺稀は惹かれるようにそれを手に取った。
(普段、必要最低限しか……いえ、必要最低限も喋ってくれることが少ないフェルドさんですが……)
 これを飲めば自分がずっと抱いている問いにも答えてくれるのだろうかと、僅か目を伏せて淺稀は思案する。フェルドは淺稀のことを必要としてるとは言ってくれる。けれど、その理由を未だに口にしてはくれないのだ。
(本当は話してくれるまで待とうって思ってましたが……結構な時間が経つのに、このままにしておくのは私が嫌です)
 思いを定めて、買い求めたそれを忘れ物と共に抱えて淺稀は休憩室へと戻る。扉を開けると、ソファに座っていたフェルドが、大人びた、けれどまだ幼さの残る顔を淺稀へと向けた。
「おかえり、オトナシ。遅かったね。忘れ物、あった?」
「あ、は、はい! ほら、ちゃんとありました。お待たせしてしまってごめんなさい」
「ん。あったのならいいんだ。待ったことは、別に」
「ありがとうございます。あの……お詫びに、紅茶でも入れてきますね。簡単な物になりますけど……」
 この休憩室には給湯室が隣接している。利用する職員が多いので、ティーバッグやポーションミルク等も常備してあったはずだ。淺稀、フェルドの返事は待たずにぱたぱたと給湯室へと向かう。やかんを火にかけながら、思うことは。
(……いざとなると、答えを聞くのはやっぱりちょっと怖いですね……)
 でも。
(それでも、聞いてみないことには自分で納得できないままですし……)
 思考に沈んでいるうちに、お湯が沸いた。紙コップにお湯を注げば、ティーバッグから綺麗な琥珀色が溢れ出る。淺稀はそこに、ポーションミルクと共に『真実の雫』をそっと沈めて、フェルドの元へと戻った。
「どうぞ、フェルドさん。今日はお疲れさまでした」
「ありがと。気、使わなくてもいいのに」
 ミルクティーと一緒に『真実の雫』がフェルドの口へと流れ込むのを、淺稀はどこか祈るような気持ちで見守った。そして、息をついたフェルドへと、問う。
「フェルドさんは、何故私と契約しようとしたんですか?」
「……なんでって……」
 唐突な問いに、僅か見開かれる澄んだ青の瞳。けれどその反応に反して、言葉が、するするとフェルドの口から溢れ出す。
「僕は、生まれてからずっとひとりだった。いや、親という存在は居たかもしれないけれど、そういったものが居た記憶が僕にはない」
 フェルド自身の驚きを置き去りにして、彼の告白は続く。
「ずっとそうやってひとりで生きてきたせいか、感情が動くってことが人よりもなかった。それを悲しいとも感じてなかったけど、オトナシを見た時、初めて『心が動いた』感じがした」
 同時に、今まで自分が人らしく生きていなかったことにも気付いて、凄く悲しくなったのだとフェルドは言う。
「人でいたいってその時初めて思った。でも、それにはオトナシが居なきゃいけなかったんだ。なんでかとか、そういうのは判らないけど、オトナシが居てくれないと、僕は人らしく存在できないから」
 全てを語り終え、困惑した様子で口元を抑え視線を泳がせるフェルド。
「……あれ、僕なんで……。喋るつもり、なかったのに……」
「……ありがとうございます」
 唇から漏れた言葉に、フェルドの視線が淺稀へと注がれる。詫びる必要があるかもしれない、けれど、最初に口をついたのはどうしようもなくその言葉だった。
「フェルドさん。私やっぱり、フェルドさんの役に立ちたいです」
 淺稀がフェルドにとっての特別であるように、淺稀にとってもまた、フェルドは一等特別な存在だから。

●分け合う過去
 A.R.O.A.本部にて。ミサ・フルールの待つ休憩室へと向かいながら、エミリオ・シュトルツは手の中の小瓶を見やって赤の瞳を揺らす。彼が『真実の雫』を手にしたのは、思うところがあったからだ。夜闇のような過去を、エミリオは今からミサに告白しようとしている。
(疑っているわけじゃない。けど……)
 ミサは優しい。だからエミリオは、彼女が自分の傍にいることを無理していないか心配なのだ。
「エミリオさん、お疲れさま」
 休憩室のドアを開ければ、ソファで待っていたミサが花咲くような笑顔でエミリオを迎えた。目元を和らげながら、エミリオは彼女の額に『真実の雫』を当てる。
「お疲れ。これ、受付の人から。栄養ドリンクだって」
「わ、どうもありがとう」
 ミサ、何の疑念も抱くことなく瓶を受け取り、その中身を飲み干す。
「薬っぽい味がするね」
 隣に腰を下ろしたエミリオを苦笑いをしながら見やれば、彼は酷く真剣な顔をしていた。
「エミリオさん……?」
「……ミサ、聞いてほしい話があるんだ」
 そうしてエミリオは、ぽつぽつと過去を紡ぎ始める。
「俺は……幼い頃から父親から虐待と洗脳を受けて、裏社会の仕事を強いられていた」
 ミサが目を見開く。
「言い訳をするつもりはないし、出来ない。俺は今まで、自分の意思ではないとはいえ大勢の人の大切なものを奪って、踏みにじってきたんだから」
 6年前にA.R.O.A.に保護されなければきっと今も罪を犯し続けていたと思う、と、その顔に僅か痛みの色を覗かせながら、しかし淡々とエミリオは話を続ける。
「正直に言うとね、父親のことを憎む気持ちはある。でも……同時に、戦い続けることが俺の果たすべき償いだとも、思ってるんだ」
 陰惨な過去を手渡し終えて、エミリオは息を一つ吐くと真っ直ぐにミサの目を見て、問うた。
「俺が怖くなった? ……俺と戦うことが、怖くなった? お前が望むなら、俺は影となってミサを守り続けるよ。全部俺に任せてミサは何もしなくていい」
 寂しくて、それでいて優しい色を宿した瞳をそっとエミリオは細める。ミサの唇から、震える声が、漏れた。
「……私だけ守られてろって言うの?」
 ふざけないで! とミサは真っ正面からエミリオの双眸と対峙した。
「もしかしてこの間の任務のことを心配してくれている?」
 エミリオが唇に乗せた薄い笑みが、そのまま問いの答えだった。任務にて、入院まで余儀なくされるほどの傷を負ったこと。それもこの告白の、きっかけの欠片だった。
「確かに怖かったよ、また大切な人を失うかもしれないって凄く怖かった」
 ミサの声はまだ震えを残している。けれど、その声には力があった。
「でもだからって、私は戦うことをやめたりしない。傷つくことを恐れて縮こまっていたら、守りたいものも何も守れないもの」
 そこまで言い切って、ふと表情を緩めるミサ。優しくて力強いその笑顔に、エミリオは暫し見惚れる。
「私ね、恋人になっても貴方の心はどこか別の所にあるような気がして、いつか貴方が離れていってしまいそうでずっと怖かった」
 だから過去を知れて嬉しいのだと、ミサは言う。
「話してくれてどうもありがとう、エミリオさん」
「……ミサならそう言ってくれると信じてた。試すようなことをして悪かったね」
 ふるふると、首を横に振るミサ。
「いつか報いを受ける時が来ても、俺はお前となら歩いていける」
「エミリオさんの罪は私も背負うよ。貴方をひとりにはしない」
 言って、祈るように目を閉じたミサの左手を、エミリオはそっと手に取る。
「ミサ、好きだよ……共に生きよう」
 優しく持ち上げた左手のその甲に、言葉と共に零すのは誓いの口づけ。閉じていた目を開き、ミサは少し驚いたようにエミリオの顔を見て――それから幸せそうに、柔らかく笑み崩れた。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月21日
出発日 09月28日 00:00
予定納品日 10月08日

参加者

会議室

  • [7]都 天音

    2014/09/26-22:43 

    都 天音です。
    よろしくお願いします。

    スズアキさんから飲み物貰いました。
    貰える物は貰いますが、何かタイミングが妙ですね。

  • 七草シエテです。
    ミサさん、淺稀さん、お久しぶりです。かのんさん、天音さんは流星群以来ですね。
    こちらこそ、よろしくお願いします。

    嘘を隠せないという事で、お互い、楽しみな分怖かったりもしています。
    関係が壊れないか心配ですね。

  • [5]ミサ・フルール

    2014/09/26-07:09 

  • [4]ミサ・フルール

    2014/09/26-07:09 

    ミサ・フルールです。
    エミリオさんがドリンクくれたから飲もうと思っているよ。

    初めましての人はいないみたいだね。
    では皆さん、改めて

  • [3]音無淺稀

    2014/09/25-00:53 

    ミサさんとかのんさん、シエテさんはお久しぶりです。
    都さんは初めまして。
    音無淺稀と申します。
    皆さん、宜しくお願いしますね!

    …ふ、普段何も言って下さらない方にこれを飲ませたら…
    自分の事をどう思って下さってるのかが判るのでしょうか…?
    とても気になります。

  • [2]かのん

    2014/09/24-20:54 

  • [1]かのん

    2014/09/24-20:53 

    こんばんは、かのんと申します
    真実の雫・・・黙って使うのは、何となく申し訳ないような気もするのですけれど・・・

    それはさておき、参加者の皆様


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