プロローグ
誰が呼んだか『虹色食堂』。
決して広くはない店内は、正しく虹色に染め上げられ、賑やかにテーブルを飾るメニューも豊富。
その、豊富なメニューの一つ一つを極めた店が、タブロス市内に点在しているという。
誰が呼んだか、『七色食堂』。
目立つ事の無いその店は、今日も店先で七色のベルを鳴らす。
*****
カラン、とウィンドチャイムが鳴り響く。
“ブランシュネージュ”
真っ白な外観のその建物のすりガラスの扉を開くと、
奥から店主とみられる女性が柔らかく微笑んだ。店内にはレトロな蓄音機からクラシック音楽が心地よく流れ出ている。
彼女の名はネージュ。雪を意味するその名に負けぬほど、白く透き通った肌をしている。クリーム色のワンピースに、真っ白なフリルのエプロン。品のよい白のエナメルショートブーツ。軽くウェーブのかかった黒髪は、白いリボンでポニーテールに結われていた。
「いらっしゃいませ」
『白雪姫』の名を冠する店の内観も、その名に違わず白を基調とし、
ところどころに森の小動物の置物が飾ってある。
取材に来た記者はネージュの許可を取り、それを写真に収めた。
「想いの伝わる……カフェ、ですか」
ネージュは記者の言葉にふふ、と笑う。
「私が縁結びになれているのなら、嬉しいですね」
このカフェでは白を基調としたメニューを提供してるが、その中でも一番の人気が“ネージュラテ”通常のカフェラテよりも甘く、ふんわりとしたバニラの香りが特徴。
そして、なにより素晴らしいのが、彼女のラテアートの技術である。
「なんでも描けますよ」
ふふふ、と笑いながら、彼女は鮮やかな手つきでアートを完成させる。ホイップに描かれたのは……。
「はい、天使です」
キューピッド。
「文字も書けますよ」
I love youと繊細な文字で記せば、記者から感嘆のため息が漏れる。
「ぜひネージュラテ、ご注文いただけると嬉しいですね」
ネージュは黒真珠のような美しい瞳を細めて微笑んだ。
*****
後日雑誌に掲載された記事にはこんな文句が。
『想いを伝える“ブランシュネージュ”』
その文言にはウサギ、リス、ネコ、クマ……さまざまなラテアートに美味しそうなケーキの写真の数々。
「これに心揺さぶられぬ乙女がいるだろうか?(いや、いない)
“ブランシュネージュ”は皆様の恋や感謝の気持ちを伝えるお手伝いを応援致します。
ネージュさんにこっそりラテアートを頼んで、お相手にサプライズで飲ませてあげるのもいいかもね」
解説
“ブランシュネージュ”
静かで穏やかな時間が流れる白い空間です。清潔さや純粋さ、優しさがコンセプトのちょっぴりレトロな調度品に囲まれたカフェ。
ゆったりとした空間でたまにはまったりとお話でもしませんか?
メニュー(神人、精霊ともにドリンクは最低必ず一品ずつご注文ください)
*ドリンク
・ネージュラテ…200ジュール
・ブレンドコーヒー…150ジュール
・紅茶(茶葉指定、ロイヤルミルクティーへの変更可能)…150ジュール
・ホットミルク…100ジュール
・ヨーグルトドリンク…150ジュール
注:紅茶・コーヒーはミルクとお砂糖の量を明記いただけると嬉しいです。
*デザート
・レアチーズケーキ…200ジュール
・ミルクプリン…150ジュール
・杏仁豆腐…150ジュール
・しらたまパフェ…300ジュール
・バニラジェラート…150ジュール
・フルーツヨーグルト…150ジュール
*ブレッド付軽食
・クラムチャウダー…400ジュール
・ホワイトシチュー…400ジュール
☆ネージュラテご注文の際には、是非ラテアートのご指定を!
ラテが苦手な方も、スイーツのプレートにチョコレートアートが可能ですのでご一考ください。
☆ネージュは基本的には自分から話しかけたりはしませんので、二人きりのお時間を楽しんでください。もちろん、皆様からお声かけ頂けばネージュも喜んでお話しいたします。
逆にネージュとお話をしたいお方はそれもOK!
店の客層は老若男女さまざまですが、皆さん物静かな雰囲気です。
ゲームマスターより
こんにちは、寿です。白担当です。オフでは「どうみても寿は紫」と言われますが
白好きなんですよ!
ふわっふわのラテ、是非お試しください~!
余談ですが寿は一度くまちゃんをカフェラテに描いてもらいましてね?わ~いと思ってその店でもう一度注文したらプレーンななんも描いてないラテが出てきましてね?
く ま ちゃ ん ……。
ってなったことがあります。
ネージュはそんなことないから安心ですね!奮ってお絵かきしちゃいますよ!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)
ブランシュネージュの記事を見て、行ってみたいと思っい、今度の休みに行こうとジャスティを誘ってみた。 ネージュラテ(ラテアートはバラの花)とレアチーズケーキを頼む。 ラテやケーキを楽しみつつ、彼と最近あったことなどについて話す。 なんだか彼の様子がどこか上の空のように感じる。 どこか悪いのだろうか? 具合はどうか聞いてみたら、慌てられ、いきなり何かが入った袋を渡される。 私に?開けていいの? 開けてみたら、出てきたのは可愛らしいリボン。 誕生日…? ジャスティがくれたプレゼントに顔が熱くなるのを感じた。 おめでとうと言う彼は優しい笑顔をこちらに向けている。 反則だ…。 ありがとう、ジャスティ。 リボン、大切にするね。 |
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
【注文】 ネージュラテ レアチーズケーキ クラムチャウダー しらたまパフェ バニラジェラート 今日はここにしようって思って入ったんだけど 凄く雰囲気が良いね、食べ物もおいしそう… 次の依頼もあるし、軽く食べておかないとね。 そ、そうだ…あの、勿忘草はちゃんとお水あげてる? 咲く時を楽しみにしてるよ。 ラテアートってこの目で見るのは初めてだけど 本当にすごい飲むのが勿体ないくらいだよ。 私は何を頼もうかな… 雑誌で見たんだけど…こう、もこっとしたラテアートもできるのかな? 猫がカップのふちにつかまってる感じのが良いな…。 ディエゴさんは…決まってないのかな 男の人がこういうのを頼むのって恥ずかしいものなのかも? あ、そうだ |
ロア・ディヒラー(クレドリック)
真っ白でレトロな雰囲気のカフェ、落ち着くなぁ… (クレちゃんって時々戦闘任務の合間にこういう所に連れて来てくれるけど、もしかして私に気を使ってとか…いや無い無い!) 何注文しようかなってクレちゃん、何でメニュー貸してくれないの? まかせたまえってクレちゃん初めてくるんでしょ、ここ。 店員さんの方へ行ってそっと何か頼んでたけど何が来るのか不安 クレちゃんはさ、カフェとか一人で来たりするの? わ、これラテアートっていうんだよね?くまちゃん可愛い!…?小さくありがとうって書いてあるんだけど…これって ちょっと驚いただけ 可愛いラテに大好きなレアチーズケーキ、それに珍しいクレちゃんも見られたし。いつもありがとう |
上巳 桃(斑雪)
ネージュラテ1ホットミルク1バニラジェラート1くださーい 私は夜ゆっくり眠れるよう(昼間もゆっくり寝てる)ホットミルク 残りは、はーちゃんの はーちゃんは育ち盛りなんだから、遠慮せず食べなよ 私は、いらない 私達まだ駆け出しのウィンクルムだから、ぶっちゃけこれから物入りだし ん? 別に、はーちゃんが気にする必要ないよ はーちゃんが楽しそうだと、私も楽しいし うさマグ(装備品)に飲み物入れて貰うことはできるかな? かんぱーい、そんで、『ネクタル』 うさマグのトランスごっこってことで あ、そだ。すいません、ちょっといいですか>ネージュ ラテアートってなんかコツあります? 帰ったら私達もラテアート挑戦してみる、はーちゃん? |
ティアーゼ(リンド)
注文:ネージュラテ、ミルクプリン 縁結び…は、置いておいて 七色食堂はどこも素敵なお店ですね リンドさん世渡り上手そうですし私じゃなくても一緒にいく相手は一杯いそうですが… ん?それってどういう…あ、待ってください! ラテアートは悩みますね そうですね、それも面白そうです リンドさんといえば…、狐ですよね 安直ですがそれしか浮かびませんし… まだそれ以外のものが思い浮かばないくらいには私達はまだお互いの事を知らない、かと これはネコですね リンドさんから見たら私はネコのイメージなんですか? レアチーズケーキも美味しそうですよね あ、いえ、欲しかったわけではないんです 以前のは借りがあったからですから! 今回はなしですよ |
ブランシュネージュの扉が開く。ロア・ディヒラーは、彼女の精霊であるクレドリックと共に窓際の暖かい日差しが差し込む席にゆったりと腰かけた。
(真っ白でレトロな雰囲気のカフェ……落ち着くなぁ)
ロアが一息つくと、ネージュがメニューを一冊持ってきた。
「お決まりになりましたらお申し付けください」
ロアは軽く会釈を返し、ふと考えた。
(クレちゃんって時々戦闘任務の合間にこういう所に連れて来てくれるけど、もしかして私に気を使ってとか……いや無い無い!)
ふるふる、と首を横に振り、メニューに手を伸ばそうとする、と。
「クレちゃん、何でメニュー貸してくれないの?」
メニューは彼の手にしっかりとおさまっている。
「注文は私に任せたまえ」
「任せたまえってクレちゃん初めて来るんでしょ、ここ」
ロアが怪訝そうな顔を見せると彼は不敵に微笑み席を立つ。そしてネージュのもとに歩み寄るとなにやら注文を始めた。ロアは席に取り残され少し不安な表情を浮かべる。
「ネージュラテとレアチーズケーキ、それとロイヤルミルクティー砂糖は多めで1つ。ラテとケーキは連れに」
「はい、かしこまりました」
「ラテに……言葉と何の動物がいいだろうか」
クレドリックが少し考え込むとネージュは彼の眼の下をじっと見つめ……。
「くま……ぁっ」
「ん?」
「くまさんなんていかがですか?」
ネージュは失礼なことを口走りそうになった自分を戒め、珍しく慌てて次の言葉を紡いだ。
「では、それに」
静かに席に戻ると、ロアが尋ねてきた。
「クレちゃんはさ、カフェとか一人で来たりするの?」
「前までは特に興味もわかなかったが、最近はたまに」
彼が窓の外の小鳥の止まり木を見ながらぽそり、と答える。
「なんで?」
「ロアが好きそうだと思うとなんとなくな」
わずかにその口元が緩んだ気がした。ロアは不意にドキリとする。……やっぱり気を使ってくれてたの?
「どうした?」
「ううん、な、何頼んだのかなってね」
「もうじき出てくるだろう」
その言葉からさほど時間をかけず、ネージュは銀のトレイに品を乗せて持ってきた。
「お待たせいたしました。ロイヤルミルクティーです」
ことり、と上品にクレドリックの前に置かれる。
「こちら、お連れ様からネージュラテとレアチーズケーキでございます」
ロアの目の前にはミントを添えた雪のように白いレアチーズケーキと、愛らしいクマがにっこりとほほ笑んでいるラテアート。
「わ、これラテアートっていうんだよね?くまちゃん可愛い!……?」
いつもは気だるげな彼女が少しはしゃぐ。しかし、すぐにぴたり。と止まり……。クレドリックを見やる。
「小さく“ありがとう”って書いてあるんだけど……これって……」
ロイヤルミルクティーを一口飲んでから、口を開いた。
「直接言うよりもこういうのを女性は喜ぶのであろう?雑誌とやらで見たのだよ」
「う、うん?えっと……」
「あまり嬉しくなかったかね?」
ロアは大きく首を横に振る。
「ううん、ちょっと驚いただけ。……嬉しいよ」
花のようなはにかんだ笑顔を向けられた。
「……存外直接言うより恥ずかしいと今結論が出たが」
柄にもなく熱い頬をごまかすように暖かいミルクティーを口に含む。
「ロアも飲んではどうだね」
「うん、もったいないけど……いただきます」
ロアは“ありがとう”の文字を避けた側からゆっくり崩さないように慎重にラテに口をつける。
「おいしい……!」
「それはよかった」
「レアチーズケーキも、よく私が好きなのわかったね?」
クレドリックはただ、黙ってうなずいた。
銀のフォークで小さく切って口へ運ぶと、さっぱりとしたレモンの香りと濃厚なチーズの甘みが口いっぱいに広がる。
「可愛いラテに大好きなレアチーズケーキ、それに珍しいクレちゃんも見られたし」
「珍しい?」
何のことだととぼけるとロアは小さく笑った。
「いつもありがとう」
「縁結び……は、置いておいて」
「それ置いとくの?」
「七色食堂はどこも素敵なお店ですね」
「どこも個性が出てて面白いよね、一人じゃ入りづらそうなとこは多いけど」
ブランシュネージュのすりガラスの向こうも、年齢層は幅広く見えるが男女比でいえばどちらかといえばカップルと女性客が多く見える。この中に、これからティアーゼとその精霊リンドも混ざろうというわけだ。
「リンドさん世渡り上手そうですし私じゃなくても一緒に行く相手はいっぱいいそうですが」
「うん、いることはいる」
ああ、それはそうですよね、なんて視線をそらすと……。
「でも、誰でもいいって訳じゃないしねー」
「え」
ふっと笑うとリンドは店の扉を開ける。
「それってどういう……あ、待ってください!」
「さ、いこいこ」
彼は足早に店内へと。真っ白なソファの席に腰かけると、すぐに水とメニューが差し出される。二人はそれぞれネージュラテと、ティアーゼはミルクプリン、リンドはレアチーズケーキを注文した。
「ラテアートはいかがなさいますか?」
ううん、とティアーゼが考え込むと、リンドがひとつ提案する。
「そうだ、相手のイメージにあった絵を描いてもらうのはどう?お互いどんな印象なのか分かりやすくて面白いんじゃないかなって思うけど」
「そうですね、それも面白そうです」
(リンドさんといえば……狐ですよね。安直ですがそれしか思い浮かびませんし……)
リンドには聞こえないように狐を描いてくださいとネージュにささやくと、ネージュはにっこり微笑んでうなずく。
「僕のほうも決まったよ」
(ティアちゃんならネコかなー。ツンツンしてて警戒心が強くてすぐ威嚇してくる方の……)
「猫をお願いします。きりっとした顔つきの」
ティアーゼには聞こえないように、リクエストする。
「かしこまりました」
ネージュがキッチンへと姿を消して、おおよそ20分くらいだろうか。お待ちかねのラテアートを持って彼女がテーブルへと現れた。
「こちらはお連れ様からのリクエストです」
ティアーゼの前にラテが置かれる。リンドの前にも同じくラテアートが。
「狐……」
ラテの上にはちょこんとお座りしたふわふわの尻尾の狐が描かれている。
「それから、レアチーズケーキと、ミルクプリンで御座います。ごゆっくりどうぞ」
ティアーゼはリンドに尋ねかけた。
「これは……ネコですね」
可愛いですね、とほほえみかけた後でティアーゼはハッと我に返る。
「リンドさんから見たら私はネコのイメージなんですか?」
「うん」
「……ネコっぽいですか?」
「ん?ネコって警戒心が強いでしょ?そういうとこ似てるなーって」
なーんか含みがあるような……?
「僕が狐なのは、うん、すごく想像通り」
「まだそれ以外のものが思い浮かばないくらいには私達はまだお互いの事を知らない、かと」
「だね」
同意されると、なんだか少しさみしく感じた。リンドは付け加えるように呟く。
「どうせ長い付き合いになるんだしこれから知っていけばいいんじゃない?」
「……そう、ですね」
わずかに微笑み、ティアーゼはミルクプリンにスプーンを入れた。リンドも同じくレアチーズケーキにフォークを入れる。同時のタイミングで口に含み、口元が綻ぶのを感じた。
(おいしい!)
ふとティアーゼの目にリンドのレアチーズケーキが映る。
「レアチーズケーキも美味しそうですよね」
「食べてみる?」
ハッとして首を振る。
「あ、いえ、欲しかったわけではないんです」
言い方が悪かっただろうか。確かに欲しがっているように聞こえるかも。そう思い、ティアーゼは慌てて訂正した。いらないの?とリンドが首を傾げ、あ、と思い立ったように彼女を見やる。
「そういえば、プリンと言えば前に……」
カッと頬が熱くなる。恋人のふりをした時のことだ。
「以前のは借りがあったからですから!」
「なんだ、してくれないの?」
リンドがあーん、と口を開けるとティアーゼは恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。
「今回はなしですよ」
「そう、残念」
いたずらっぽく笑うとティアーゼの頬がさらに赤くなる。これはからかい甲斐があるぞ、なんて思いながらも、ゆったりと穏やかな時間は続くのだった。
リーリア=エスペリットは雑誌の特集記事を広げてうっとりとため息をついた。
「ねぇ、ここのお店今度の休みに行かない?」
「ブランシュネージュ?」
彼女のパートナーであるジャスティ=カレックも差し出された記事を見て、小さく頷いた。そんなやり取りがあったのがつい数日前だ。
待ち合わせ時間より大分早くに、彼は町へと繰り出した。女性物の店、かわいらしい雑貨店、どれも一人では決して足を踏み入れることはなかったであろう外観の店が並ぶ中、ショーウィンドウにあったそれが目に留まった。
「すみません、これ……」
待ち合わせ場所はブランシュネージュのすぐそばの公園。
「あ!ジャスティ!」
リーリアが駆け寄ってくる。
「待ちましたか?」
「ううん、少し早めに着いたの。いこ?」
「はい」
恋人同士みたいなベタな会話になってしまったなんてふと思いながら、ジャスティは歩みを進める。心地よいクラシック音楽の店内へ足を踏み入れると、ほんの少しだけ緊張が和らいだ気がした。
「ネージュラテと、レアチーズケーキお願いします」
来る前から楽しみにしていたのだ。メニューを見るとすぐにリーリアは注文をした。
「ブレンドコーヒーをブラックで一つ」
ジャスティも続けて注文すると、ネージュは頷いてリーリアに尋ねる。
「ラテアートはいかがなさいますか?」
「バラの花をお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちくださいね」
ネージュがメニューを下げると、リーリアは満面の笑みで話し始める。
「お店の中も白なんだね」
「そ、そうですね」
「この椅子のアラベスク模様も綺麗だね?」
「はい、とても」
……いつも以上に会話が続かない……?
「楽しみだなぁ。ね?」
「はい」
一言ずつしか返ってこない。うーん、とリーリアは心の中で首をひねる。
「お待たせいたしました」
ほどなくしてリーリアの目の前には美しい大輪の薔薇のラテアート。
「わあ、すごい!見てジャスティ。すごくきれい……」
「……そう、ですね。美しいです」
「レアチーズケーキも美味しいよ」
少々はしゃぎ気味の彼女をよそに、ジャスティはタイミングを窺ってはいたがどうも切り出せずにいた。
「あ、そういえばね、この間の依頼で……ジャスティ?」
さすがに反応が鈍すぎる。リーリアは不意に身を乗り出し、彼の顔を覗き込んだ。
「……具合でも悪いの?」
「え……っあ」
少し顔が近い。驚いて椅子を後ろに引くと、リーリアがじっと見つめてくる。
「さっきからずっと上の空で……大丈夫?」
「いえ、具合は悪くないのです。ええと……!」
彼は懐から小さな包みを取り出す。そして、彼女の手にぽん、と置いた。
「え?」
はずみで渡してしまった!もっとこう、何かあるだろうに……!ジャスティは自分の段取りの悪さに少し落ち込みながらリーリアの視線に頷いた。
「私に?開けていいの?」
「はい、今、開けていただけますか?」
袋の封を解くと中からはかわいらしいリボンが顔を覗かせた。いつも髪を結っている赤い紐とは違うふわりと女の子らしいリボン。
「えっと……?」
これを、私に。そう思った瞬間、リーリアの頬が熱くなる。普段は勇敢にと振る舞っているが、可愛らしいものに目がない。そんなところに、ジャスティは気付いていたのだろうか?
「もうすぐ誕生日ですよね。おめでとうございます」
そうか、9月27日……そう思い出した時にふわり、と彼が微笑む。
(反則だ……)
「いつもとは違うイメージかもしれませんが、これを身に着けたリーリアも見てみたい……と思いまして」
「ありがとう、ジャスティ。……リボン、大切にするね」
彼からの初めてのプレゼントと甘いバニラの香りに幸福感でいっぱいになりながら、リーリアは最高の笑顔を見せた。
ふかふかのソファの席に腰かけたのはハロルドとその精霊、ディエゴ・ルナ・クィンテロ。メニューを見ながらハロルドが呟く。
「凄く雰囲気が良いね、食べ物もおいしそう……次の依頼もあるし、軽く食べておかないとね」
「ああ。喫茶だが軽食があるのがありがたいな」
「すみません」
ネージュを呼び止め、注文をすると食後のネージュラテに施すアートについて聞かれた。
「ええと、雑誌とかで見たことがあるんですけど……こう、もこっとしたラテアートもできますか?」
「もこ?」
「カップの淵にネコがつかまってる感じの、とか」
にっこりとネージュが笑う。
「はい、できますよ、楽しみにしていてください」
それを微笑ましく見つめているディエゴは……。
(まだ決まってないのかな?)
「俺は……おまかせで」
(そっか、男の人ってこういうの頼むの恥ずかしいのかな……?)
ほどなくして、クラムチャウダーとホワイトシチューが提供される。思いのほか量があるそれも、二人にかかればなんのその。その美味しさも相まってかすぐに器は空になる。
するとネージュは食べ終わるタイミングをしっかりと見計らい、デザートを用意。ディエゴの杏仁豆腐と、ハロルドのしらたまパフェ、バニラジェラートを持ってくる。溶けてはいけないから、とバニラジェラートを口に運ぶと、暖まっていた口の中が優しく冷やされていった。
「そ、そうだ……あの、勿忘草はちゃんとお水あげてる?」
不意にハロルドが切り出す。ああ、とディエゴは頷いた。
「もちろん」
「咲く時を楽しみにしているよ」
表情に乏しかった彼女がふわりと微笑む。
あっという間に無くなったジェラートの器を下げる際に。
「まもなくネージュラテもお持ちしますね」
その言葉に、しらたまを頬張りながらハロルドはふと思い立った。しらたまパフェの中のアイスクリームを先に食べて、席を立つ。
「目にゴミがはいっちゃったかも、ちょっと鏡見てくるね」
「ああ、大丈夫か?待っているから行って来い」
なんて、口実なんだけれど。トイレへ向かうフリをして、ネージュの元へ。
「ネージュさん……あの」
ラテアートを彼に贈りたいと告げるとネージュの顔がぱぁっと輝く。
「素敵ですね、なにかメッセージをお入れするのですか?」
「え、あ……」
“I love you.”は描けない。だってまだ互いに気持ちがわからないから……。言い淀むハロルドにネージュは何か察して提案する。
「ハート……はいかがですか?」
初心者でも描きやすく、ハートならば受け取り手に解釈の余地を与えられる。ネージュは抽出したエスプレッソにスチームミルクを注ぐ作業をハロルドに渡した。
「大丈夫、私が支えていますから、ゆっくり」
ミルクの容器を揺すりながらエスプレッソに注ぐと、表面が真っ白なミルク色に染まっていく。最後にハートを形どるようにネージュはハロルドの手に重ねた自分の手をスッと押した。
「わぁ」
カップの中にかわいらしいハートが浮かび上がる。二人は顔を見合わせて笑った。そして、スティックにミルクを取り、エスプレッソの茶色の部分に小さなリーフを描く。ネージュの手本に続いて、ハロルドも試すと。
「あ!できた」
「お上手です」
あとはお運びしますから、とハロルドを席に返す。緊張した面持ちで、ハロルドはソファに腰かけた。
「……大丈夫か?」
「え?」
「目……」
「あ、うん!大丈夫」
「お待たせしました、こちらラテとレアチーズケーキです」
ハロルドの前にカップの中でこちらを見ているネコのラテアートとケーキ。そしてディエゴには。
「フルーツヨーグルトと、こちら……お連れ様からです」
「え?」
目の前に置かれた、少し歪なラテアート。プロのそれではないことがすぐにわかる。
「ごゆっくりどうぞ」
それだけ告げて、ネージュはハロルドに目配せをひとつ。
「これ……」
「うん、私が描いたの。手伝ってもらって」
いつもありがとうって、想っているって伝えたくて。その言葉は潜めたまま。
「……ありがとう、エクレール」
不意に呼ばれた本当の名前。じわりと心が温かくなる。
「うん、喜んでくれて、私も嬉しい」
幸福を分かち合いながら、ひと時の休息を。ラテが想いの手助けになったのならなによりとネージュはこっそり微笑んだ。
窓際の席に腰かけたウィンクルム、上巳桃と班雪。精霊である班雪はメニューについているラテアートの写真にいささか浮き足立っていた。
「すごいです!拙者ラテアートなんて初めて見ました!」
隠れ里にはなかったものがたくさんで、毎日がうきうきの連続だ。桃はスッと手を挙げてネージュを呼び止めた。
「ネージュラテ1ホットミルク1バニラジェラート1くださーい」
「え?主様……」
バニラジェラートはひとつですか?と聞こうとして。
「私は夜ゆっくり眠れるようホットミルク。残りは、はーちゃんの。はーちゃんは育ち盛りなんだから、遠慮せず食べなよ」
「いいのですか!でも、拙者だけ……」
「私達まだ駆け出しのウィンクルムだから、ぶっちゃけこれから物入りだし。別に、はーちゃんが気にする必要ないよ」
「でも」
「はーちゃんが楽しそうだと、私も楽しいし」
ね、と笑うと班雪もかたじけないとばかりに頭を下げ、パッと顔を上げて笑った。甘いものは大好きだ。
「はい、かしこまりました。アートはいかがなさいますか?」
「絵を希望してもいいんですか?ますますすごいです!」
「はーちゃんが決めていいよ」
桃がふっと微笑むと、少し前のめりでリクエストをする。
「それじゃあ、桃の実をおねがいします」
「あ、うさマグに飲み物を入れてもらうことってできますか?」
ネージュはうさマグを見て、少し眉間にしわを寄せる。
「んー……アートうまく出るかな」
カップの底がボウル状になっていないと難しいのだそうだ。
「やってみますね。崩れちゃったらごめんなさい」
「あ、あと……ジェラートもチョコレートで手裏剣を」
班雪がこれ、と手裏剣を見せる。
「お借りしてもいいですか?……うん、やってみますね」
ネージュが奥に姿を消すと、班雪は己の頬に手を当てハッとした。
(いけない……!ニヤニヤしすぎです)
「どしたのはーちゃん?」
「あ、にやにやしてると、かっこわるいですね。ぴしっとしないと」
キリッと表情をつくる。本来のマキナらしいクールさを!と言わんばかりに。
(主様は注文も手慣れてますしおちついてますし、クールです)
それはすべてめんどくさいからと眠いからなんだけども。そんなことはつゆ知らぬ班雪は必死に追いつこうとしている。あんまり根詰めなくていいんだけどなぁと桃は見守っていた。ほどなくして、うさマグにドリンクが入ってテーブルに運ばれてきた。そして、バニラジェラートにも。手裏剣型に型抜きされたチョコレート。
「ごゆっくりどうぞ」
崩れるのが心配されていたラテアートも、ネージュの腕により立派に桃が描かれている。一流のバリスタでもラテボウル以外にアートを施すのは至難の業。奇跡的な桃のアートに班雪は顔を綻ばせる。
「はわー素敵です」
そして、照れくさそうにアートを桃に向ける。
「桃と手裏剣で、主様と拙者です。食べるのも飲むのももったいないですね」
(なんだ、そんなこと考えてたの……可愛いね)
ふっと笑うと桃はマグカップを掲げた。
「かんぱーい」
「はい、かんぱいです!」
「そんで、『ネクタル』」
「えっ、え」
カップの白ウサギが黒ウサギの頬に口づける。
「うさマグのトランスごっこ、ってことで」
はわわ、と頬を真っ赤に染め、けれどまんざらでもない様子で。班雪はカップを口元へと運んだ。
「あ、そだ。すいません、ちょっといいですか」
ふいにネージュを呼び止める。
「ラテアートってなんかコツあります?」
「あ、これお配りしてるんです。レエスプレッソマシンが無くてもできる一番簡単なもの、ご紹介しますね」
わからなかったらいつでも聞きにいらしてください、と付け加えると桃はニッと笑った。
「帰ったら私達もラテアート挑戦してみる、はーちゃん?」
こんなすごいアートが自分にも?班雪は満面の笑みで答えた。
「はい!楽しみですっ」
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 寿ゆかり |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 09月17日 |
出発日 | 09月22日 00:00 |
予定納品日 | 10月02日 |
参加者
- リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)
- ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
- ロア・ディヒラー(クレドリック)
- 上巳 桃(斑雪)
- ティアーゼ(リンド)
会議室
-
2014/09/20-21:53
ごきげんよう、ティアーゼと申します。
ラテアート楽しみですね。
よろしくお願いします。 -
2014/09/20-21:06
じょーしももです、精霊はマキナのはーちゃん。
全然仕事してないウィンクルムですが、よろしくおねがいしまーす。 -
2014/09/20-20:00
こんばんは。
私はリーリア。よろしくね。
何を頼もうかなー(わくわく) -
2014/09/20-17:52
よろしくお願いしますー
-
2014/09/20-17:46