【月見・リエーヴル】四階のジロー(紺一詠 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「ジローを助けてください!」

 ルーメンの地下都市ブラックエリアのつきうさ農区には、目的不明の謎の建造物がすくなからず存在する。Love-Bitの少年達が、ウィンクルムに持ち込んだ案件は、そのうちのひとつについてだ。
 それは、大型の直方体の遺構だ。4階建てのビルディングに似た構造をしており、各階は建物内部の折り返し階段でつながれている。元は電気設備も通っていたようだが、現在はすべて使い物にならない。壁にいくつもの窓があいているが、填められていたであろう硝子はとうになくなっている。今にも崩れそうな外観であったが、基礎が丈夫なのだろう、少年達の祖父の祖父の……数世代前の時代から、それはほとんど形を変えず頑としてそこにあった。
 適度な死角や段差の存在――秘密基地を作ったり探検ごっこにいそしんだり――遺構は、少年達にとっては絶好の遊び場となった
 通常、我が子が如何わしい場所への出入りすることをよろこぶ大人はいない。だが、この遺構に限っては別だ。そこにジローがいたからだ。
 ジローは、この遺構を管理するロボットだ。日々欠かさずフロアを清掃し、危険物があれば取り除き、彼の能力の行き届く範囲でなら補修もする。少々茶目っ気のある彼は、時に、隠れん坊の鬼もつとめる。
 ジローのおかげで、少年達は安心して遊びにふけることができたし、妙な場所に迷い込まれるよりは、と、大人達はむしろ喜んで子らを預けた。

「でも、ある日遊びに行ったら、ヴァーミンが現れて……」

 ジローによく似た機械のヴァーミンがどこからともなく現れて、遺構を占拠したらしい。少年等は這々の体で逃げ出したものの、ジローの安全を確認することはできなかった。

「もしかして、ジローがヴァーミンになって仲間を呼び込んだんじゃない?」
「……わかんない」

 あるウィンクルムの残酷な問いに、少年達の表情はかげる。

「でも、僕たちの見たヴァーミンのなかにジローはいなかったよ。それだけは絶対、だって僕たち毎日ずっとジローといっしょに遊んできたんだもん。どれだけ似ていたって、区別できる。たとえジローがヴァーミンになったとしたって、ちゃんと見分けられるよ」

 少年達は必死に声を枯らして訴えた。きっとジローは囚われたのだ、と。遺構をヴァーミンから解放して、ジローを取り戻して欲しい、と。
 なんにせよヴァーミンをこのままにはしておけない。今はまだ遺構に留まってはいるものの、いつなんどきそこを抜けだし、農区を襲撃するかわからないからだ。ならば、ビルに籠っている今こそが、一網打尽のチャンスともいえる。
 ウィンクルムは遺構の訪れを決意する。少年達の思いに、できうるかぎり答えてやりたい、と願いながら。

解説

がっしゃんがっしゃん

・依頼の成功条件は、ヴァーミンの一掃です。全部で10体。
・ヴァーミンは「ドラム缶に、細目の2本の腕と、キャタピラと、カメラアイが付いている」様子を想像してください。そこそこ頑丈。
・キャタピラは階段昇降可能ですが、水平面ほど素早く移動できないようです。腕を利用して方向転換します。武器は、光線銃。
・現場は、4階建ての小さめの廃ビルを想像してください。殆どのしきりが取り払われた状態で、部屋と呼べるものは、各階にひとつふたつ程度です。入口は、表と裏に1つずつ。
・ネタバレ…ジローは無事です。が、ヴァーミンに囲まれて身動きがとれなくなっています。ジローとヴァーミンの見た目は似ていますが、ヴァーミンには角があるので、よく観察すれば、見分けることができます。またジローは名前を呼べば、ペカペカと胴体のランプを光らせて応答します。音声信号は出しません。あと、戦闘能力もありません。

ゲームマスターより

お世話になっております、紺一詠です。

((((┗┫ ̄皿 ̄┣┛))))

↑たぶん、今回のヴァーミンはこんなかんじ(いろいろと台無しだ)。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)

  必ずジローを助けるから、皆はどうか無事を祈っていて

遺構へ向かう前に少年達から詳細な話を聞いておく
手に入れた情報は仲間と共有
・ジローの外見的特徴や見分ける方法
・遺構内部の明るさ、死角や隠れ場所等

目立たぬよう黒いローブ着用、ライト使用時は光量絞る
基本的に精霊と背中合わせで行動し互いの死角を補う

戦闘時はカメラアイを潰したヴァーミンを優先的に相手取る
方向転換を防ぐために腕の付け根を積極的に狙って攻撃
機能停止を確認するまで油断せず攻撃続行
角の無いロボット見掛けたらすぐに呼びかけ確認、確保後は背にして庇う

戦闘終了後は損壊具合確認しつつ早急にA.R.O.Aへ連絡
みんな君の事を信じて待っているよ、ジロー


不束 奏戯(艶村 雅)
  <所持品>
・光源を落とした懐中電灯

なんかジロちゃんって話を聞く限り愛嬌があって可愛いよなw出来る限り攻撃しないように気をつけておきたいよな

ビルに入る前にトランスしとこうぜーw
という事で雅ちゃん!(両手を広げてカモン

ビルに入ったら懐中電灯をつけて入るけど、なるだけ聞いていた死角をついたところから行動するように心がけてっと

敵と遭遇したら俺が壊せると思えないし
ジロちゃんかどうかを角の有無と名前を呼んで反応するか確認した後キャタピラ部分を<ウィンクルムソード>で攻撃して壊しやすくしておくぜ

それも、余裕があったらかな
背後を取れた場合と他に敵が居ないかを充分に確認してから行動しとく

足引っ張りたくないしなー



エルド・Y・ルーク(ディナス・フォーシス)
  まずは突入前に、2箇所の出口の内、裏口を塞いでしまいましょうか

これで出口は無く、ヴァーミンに可能な突破口はこちらが突入する側だけです
逃げ場は無く倒す事に専念できます

鍵はもちろん、劣化しているか使い物にならない可能性がありますので、扉にガムテープで目張りをします

羽瀬川さんが集めたジローさんに関する情報共有の確認の後、

後は、一階から各部屋を退路が無い様に部屋を探索し、ヴァーミンを見つけ次第、しらみつぶしの要領で退治していきます
昼間ですが光源が使えないとの事なので、見つからない程度に光量を落とした懐中電灯をディナスと共に所持させましょう


【所持品】
粘着力の高いガムテープ
人数分の、光源の落とした懐中電灯



●1.準備
「雅ちゃん、かまん!」
 竃の火でも吹くように、 己の口唇をば、不束 奏戯が艶村 雅の方へ突き出せば、ぴしり、つまはじきされたような刺激にやられる。雅の扇子が、奏戯の鼻面、ちょいとはたいたのだ。
「あで、」
「はしたない言動は、およしなさい」
「俺、はしたない?」
 ビルに入る前にトランスをすませようとしていただけなのだが(そのついでに、交遊をあたためようとしただけだが)、周囲を見渡せば、
「ミスター、知ってます? 働きすぎると、人間も精霊も過労死するんですよ」
 エルド・Y・ルークから受け取ったクラフトテープの輪っかなぞ、指でくるくる弄びながら、ディナス・フォーシスは御冠のご様子。無理もない。彼の神人に代わり、先ず以て偵察を兼ね、這々の体でめざす建造物の裏口を目張りしてきたのだから。
 ヴァーミンが来ないか冷や冷やしながら作業しました、と、ディナスが恨みがましくこぼす。
 ミスターことエルド、孫の我が儘聞かされる祖父の如く、まなじりの皺を深くした。デリケートな見た目とは裏腹に、彼のファータの本質は、挑戦的ですらある。ヴァーミンに発見されたなら発見されたで望むところであったろう、トランスさえ済ましていたならば。
 御苦労さまでしたね。淡いながらも温かな寂声で、エルド、ディナスをねぎらう。
「貴方はまだそんな歳ではないでしょう。さあ、さくさく行きますよ」
「カクテル1杯で手を打ちましょう。カナッペは3種類で我慢します」
「仕方がありませんねぇ」
 羽瀬川 千代とラセルタ=ブラドッツ、二人は並んで遺構を振り仰いでいた。千代はうさぎの少年達に聞かされたことを、遺構の外側から確かめるため、ラセルタは純然たる好奇心のため。
「何世代も変わらず存在する建造物、遺構か。面白いな」
「壁に窓……というよりは、大きな四角い穴が連なっているね」
「元はなにかが嵌めてあったのかもしれん。あれなら採光としては十分だろう、真っ暗ではなさそうだな」
 遺構の内部が暗黒たちこめている場合に備え、今のうちから馴らしておこうとかけていたサングラス、ラセルタはいったん取り外す。そこまでの用心はいらないかもしれない、現に、少年等は昼のうちから出入りしていたのだから。
 その筋の所属かとおもえるくらい、よく似合ったのにな。傍らの千代、パートナーに悟られぬよう、唇の端を巧みに用いて含み笑いを隠す。
「家具や道具みたいな、目立つ障害物も殆どないらしいよ。もちろん油断ならないけれども」
 それに、言葉にできないような小さな障害物のほうが、思いのほか面倒だってこともあるしね。
 千代の追加の言に、ラセルタは同意を示した。うさぎの彼等には親しんだ遊び場だが、ウィンクルムには初めての場所への突入だ。認識の食い違いは、ある程度、覚悟しておいたほうがよかろう。
 千代、ここ――つまり、ジローやヴァーミン達の潜んでいる遺構の近間、物陰――に来る前、Love-bit の少年らに、ジローの外見的特徴や見分ける方法、遺構内部の明るさ、死角や隠れ場所等、あらかじめ聞きつけてきた。その情報は、とうに、他のウィンクルムへも伝えてある。が、彼が少年達と交わした約束は、いまだ心に秘めてある。
『必ずジローを助けるから、皆はどうか無事を祈っていて』
 それは私的な誓いだったから、そして、そうあらねばならぬ結末であったから。口幅ったくまくしたてるのも無粋かと、千代、噤んでいたのだが、ウィンクルムの絆の成せる業か、ラセルタはなにかしら悟っていたようだ。
 信じている。待っているから。少年等の真率な受け答えをぼんやりと思い返す千代の頭上に、ふと降りる、温みに充ちた重力。馴染みの感覚の正体は、ラセルタが千代の旋毛に置いた利き腕だった。
「どうせまた余計なお節介を焼いてきたのだろう」
「余計な、は、余計だよ」
「まあ、いい。俺様もお前もやることをやるのみだ」
 皆が皆、真摯に、そして殊勝に、任務の再確認にいそしんでいる。
 確かに少々、ほんのちょっとだけ、はしたなかったかもしれない。奏戯、おとなしく反省する。ほんの数分ほど。
「ものすごく反省しました。では気を取り直して、雅ちゃん! いただきま……」
 両腕を開いてパートナーを迎えようとした途端、ぴしり、と再度やられる奏戯。
「世迷い言をのたまう暇があるなら、さっさとインスパイア・スペルを唱えること」
「あー、うーん。じゃ、雅ちゃんはそのあいだ、俺にプロポーズするとか」
「……かなちゃん?」
「はいっ、ごめんなさい! すぐやります!」
 浅き夢見じ酔ひもせず。解放の句を誦しながら、奏戯、陶器のような艶めかしく光る頬にくちづける。これで女の子じゃないってんだからやっぱ詐欺だよ、と、思いつつ。


●2.突入
「動くものの気配はありましたよ」
 裏口を目張りしたときの印象を、ディナス、膨れっ面を微かにのこしたまま、告げる。
「ぞろぞろというかんじでもありませんでしたが……。内側でばらけているのでしょうか」
 しめやかに、かつ、すみやかに。表口から一同が乗り込めば、果たしてそこには2体ほどの、ヴァーミンと化した機械生命体。怪しく光るカメラアイがウィンクルム達を探り当てる。
 ラセルタの後ろから、千代、きょろりと一階フロアを見回した。少年達の証言どおり、内部の荒廃は大して進んでおらず、かくれんぼに役立ちそうな障害物もほとんど見付からない。が、死角の不在は、利点でもあり不利ともなるだろう、真っ向勝負を強いられるわけだから。
「ロボットに角など不要だろう。即刻もぎ取ってやる」
 小細工は無用。それこそ愉快だといわんばかり、ラセルタ、宝玉銃「スカーレットムーン」の二挺を順繰りにふるわせる。宝玉の紅い月は滴るように輝き、漆黒の風が吹き抜ける。
「ラセルタさん、角のない個体は……」
「ない。十分、承知の上だ」
 そしてまた、一発、二発、と。千代の持つマジックステッキの出番を奪わんばかりのいきおいで、銃弾に銃弾を重ねる。ヴァーミンのカメラアイの表で、蜘蛛の巣の形の罅、はじける。
 ディナス、そんなラセルタを、すこしばかり恨めしげに見遣った。あんなふうに気兼ねなく吶喊できたなら、さぞかし晴れ晴れするだろうに。しかし、彼は自ら選んだジョブとはいえ、ライフビショップ。ラセルタほど遊興にふける、ではない、攻撃に専念するわけにはいかないのだ。
 背に隠したエルドと目が合う。彼はこんなふうに逼迫した場面ですら、好好爺然と、穏やかに笑む。
「お仕事の時間のようです。がんばってくださいね」
 ――さあ、始めましょう。
 トランスを滞りなく済ませれば、ディナスの肉体に神から分かれた力が宿る。シャイニングアローII。先ほど弄んだクラフトテープを引き延ばしたような形状の光輪が、幾重にも飛行し、彼等を固守する。
 そう、羨ましくもあり憎らしくもあるけれど、断じて嫌悪ではないのだ。ディナスがエルドに抱く心持ちは。ディナス、エルドを守るように、一歩前へ、立ちはだかる。
 ディナスを信用してのことか。エルド、攻撃とも防衛ともいえぬ佇まいで、手持ちの懐中電灯で1階をぐるりと照らした。仲秋の夕闇を数段濃やかにした程度に、遺構の内部は仄暗い。見えるといえば見えるし、見えないといえば見えない、宙ぶらりんの視界だ。
 働き盛り(むしろ『働かされ盛り』ではないかと一瞬考える)のディナスにとってはどうってことない陰影だが、老境に踏み入ったエルドにとっては、致命的な闇であるかもしれない。そう思い至ったディナスだが、エルドにはまた別の思考があったようだ。
「……音が響きますねえ」
 コンクリートに似た資材を使っているのだろう。ヴァーミン、ウィンクルム、双方の残響が牢乎たる建材の表面で跳ね返る。なかんずく騒動を起こしているわけではなかったが、抗戦している以上、大あれ小あれ、差し響く。
 ラセルタ、知らず識らず舌を鳴らす。物音を頼りにヴァーミンの接近を感知しようとしていたわけだが、あちらも同様の見込みをもって動く可能性を失念していた。
「ジローは名を呼べば、応じるという話だったな」
 ならば、ジローとよく似た型のヴァーミン達にも、聴覚に対応する機能があるやもしれぬ。
 誤算はもう一つあった。ウィンクルムの気を感知されぬよう、薄物で肌を忍ばせていたラセルタ達だけれども、どうもその程度では存在は抑えきれぬようだ。人とは開けっぱなしの器官である。
 雅、深々と溜息を吐いた。まるで彼の両手に据えたマジックブック「目眩」から、困惑と錯乱を誤ちで吸いこんでしまったかの如く。
「申し訳ありません、うちの神人が賑やかにしまして」
「濡れ衣だ、雅ちゃん。俺がうるさくしたのは、ここに入る前っしょ」
「自覚あったんだね……。というか、今がいちばん騒がしいよ」
 うぅ、と、一声うめいたっきり、奏戯は口を噤む。今更かもしれないけれど、雅の足をひっぱりたいわけではないのだ。闘いに努める雅に代わって、前方、後方を確かめる。
「ジロちゃん、ジロちゃーん。いないよなー? 雅ちゃん、だいじょうぶっぽいよ」
 ならば、雅は、神人に与えられた神気を行使するのみ。パペットマペット。和柄の黒猫は、計4本の脚を振り回しつつ突進した。
「この前といい今回といい、おかしな機械に囲まれることが多いですね」
 雅の相棒たる奏戯曰く『見た目だけなら、けっこう愛敬あるんだけど』なヴァーミン達は、雅の愛猫(人間大)に当てられて、火花散らしてショートする。
「風変わりなのは、かなちゃんだけで間に合ってます」
「あー、雅ちゃん。今、わりと酷いこと言ったろ!」
「べつに?」
 雅が挫いたヴァーミンのキャタピラに一太刀喰らわそうと奮闘する奏戯に、雅はしれっと答える。なにか言いたげな黒猫は、けれど、だんまりのままだ。


●3.戦闘
 がらんどうの部屋を渡り、折り返し階段を駆け上がり、時に踊り場で立ち止まり、ヴァーミンを迎え撃つ。ウィンクルム達の道のりは激しい。途中で足を休めたエルド、浮きそうな腰元をとんとんと叩く。
「老体にはずいぶんな重労働ですよ」
「口でならなんとでもいえますよね」
 手甲と横紋筋でがっちり鎧った腕で疲労を主張されても、説得力がついてきやしない。ディナス、エルドに届かぬ程度のぼやきと共に、新たな水の鐶を己に重ねる。エルド、よく出来ました等と野暮は口にせず、ただ目縁をふっくらさせて、相棒を懇ろに眺めやる。
 ここに至るまで、いくらのヴァーミンを倒したことやら。
「え、えっとー……それなりに沢山……?」
「かなちゃん、心強い回答をありがとう」
 片手の指をすべて折ったところで諦めた奏戯。雅、抑揚の欠けた声音でねぎらえば、奏戯、すこし得意げに、甚だつつがなく、ほくそえむ。そういうところが腹立たしいのだ、雅には。絶対に伝えるつもりはないけれども。
 心配していたようにヴァーミンに囲まれることはなく、愈々、4階だ。建具のない出入り口をウィンクルム等がどっと雪崩れ込めば、微小の既視感。遺構に突入したときとおなじように、筒状の機械、そこにある。痩せぎすの両腕には光線銃、悪意をいつでも放てるように調えて。
「んっと、3体あるから……。ってことは俺達が倒してきたヴァーミン、8体だな!」
「かなちゃん。計算、合ってるよ」
 千代、月の杖を握り直す。このなかにいるはずのジローを考える。
 いるはずだ。これまで相手取ったのは全て、ヴァーミン。他のウィンクルムと、ラセルタと一緒になって確かめてきたのだから、まちがいない。だからこそ、最後の階となったここでミスをおかすわけにはいかない。
 手の内側は、じったり滲む脂汗。戦闘にはいつも附属する、とっくに近しい体感だが、慣れたくはない。剣の柄ごと握りつぶす。
「ジロー……」
 上擦った声で、千代がその名を呼べば、
「みんな君のことを信じて待っているよ、ジロー」
 と、一団の中央が、ぺかりと小さく短く瞬いた。
 そこへラセルタの発砲、ジローの周囲へ向けて。カメラアイを標的を定めるが、ヴァーミンとて動くのだ、銃弾の軌道はわずかにそれて、鈍色の寸胴へ撃ち込まれる。
 目標の箇所と異なるとはいえ、命中は命中だ。すかさず、千代、マジックステッキを懸命にふるった。針金のように細い腕を落としたいところであったが、戦いに通じたラセルタでもはずすときははずすのだ、この際当たればどこでもいい、けれどジローにだけは当たらなければいいというように、ぴりっと電気じみた痛みが肩に走るほどの力で、杖を打ち上げる。
 ヴァーミンの残りのもう一つへは、雅がけしかける。おなじみの黒猫、抱きつくような恰好で、ヴァーミンに立ち向かった。猫の方が少しばかり小さいのを、妙にリアルだと奏戯は思う。
「なんかシュール」
 雅ちゃんが俺に抱きついてきたら、こんな差になるのかなーと。遙か彼方のところで考える。
 これくらいなら邪魔にはならないはず、と、剣できりかかる。段差があればキャタピラに斬りかかることも楽だったろうが、同一の水平面に立つもの同士、地に接するキャタピラは彼の腕からは低すぎた。とにかくジローをヴァーミンから離さなければ、と、だから、殆どが無我夢中だ。
 ディナスの輪は攻撃に対抗する措置でしかないので、積極的な先取攻勢とはいかない。ディナス、ここぞとばかり本を掲げてエルドより進む、彼の本に物理攻撃の手段のないのを承知で、ソード1本の御老体よりはマシだと。光のループ、キィンと奏でて、光線銃の経路を反転する。
 熱戦に巻き込まれ、ジローは戸惑っているようだった。機械仕掛けの頭脳には、造作の込んだシチュエーションだ、が、ウィンクルム達に敵視することもない。千代の呼びかけが届いたのだろう。彼は彼なりにウィンクルム達へ擦り寄ろうとしていたが、混乱の現場では、進むも戻るも難しい。人出があらば、重苦しいボディを浚うようにこともできたろうが、精霊よりも柔な神人のエルドにその役目を押し付けるわけにもいかず。
 ならば、早急に決着をつけねばなるまい。
 ラセルタ、横手に構えた一対の宝石銃の、夜更けに霜を置くよう、静かに、深く、引鉄を引く。掌底の反動をなだめれば、弾道は走り星のような流線型、最後のヴァーミンを撃ち抜く。そして、遺構は静寂に満ちた。


●4.おしまい
 戦いを終えた。が、ジローは完全な無傷とはいかなかった。
 ジローの中枢機能に問題はないようだが、裂傷、打撲、火傷、が、ボディのそちこちに目に付く。どうにかしたくとも彼等のなかに専門の知識を持つ者はおらず、ジローは遺構を離れたくないという意思を示し、結局は、村に戻ったあとでウィンクルム達がうさぎ達に報告しあとは大人の判断に任せる、ということでおちついた。
 ジローの表向きの損壊を立ってしゃがんで、大まかに検しながら、千代、考える。
 あとでちゃんと少年達に伝えてやらねば。そして、こう言い添えるのだ。
「ありがとう、君たちの情報が役に立ったよ」
 そうそう、ジローにも教えてやろう。これは、ちゃんと声にする。検見をしながら千代、ジローの、頭部であろう、てっぺんの半球をやわらかく撫で下ろす。
「君の友達が君のことを教えてくれたから、君を助けることができたんだよ」
 ジローは、きゅん……、と金属の擦れるような高音を鳴らすと、戦闘の最中にそうしたように、胴のライトを明滅させる。
「分かったってことかな? ジローちゃん、賢いなー」
 やっぱ愛敬あってかわいいよなあ、と、千代を見習って、奏戯もそっと擽る。すると、ジロー、しゃかしゃかと腕を小さく回した。おお、賢い賢い。奏戯、犬の仔を相手どるが如く、今度は全力で撫で回す。そんなパートナーを雅、冷ややかに側目で見遣る。
「かなちゃんもジローさんを手本にしたら?」
「雅ちゃんが俺のこと優しく撫でてくれたら、そうなるかもよ」
 めでたしに限りなく近いサムシング。憎まれ口めいた返答が来るかとおもえば、雅はただ緘黙している。どころか、流れるような細い背中だけを奏戯に向ける。どうにも気が気でない。奏戯、意地尽くで雅の正面へ移動する。てのひらを雅の真ん前で振る、はたはたと。
「雅ちゃーん」
 と、実感をともなう既視感。何時間ぶりかに雅が奏戯の鼻先、例の扇で、つん、とやったのだ。
「あで、」
「はしたないことを口にするのは止めなさい、と、言ったでしょう」
 納得いかない。奏戯は不満たっぷりに雅を見詰めるが、雅、つんと顎を聳やかし、あとはもうなにも物語らない。
 千代はというと、キャタピラの下までジローの検見をようよう済ませて立ち上がる。すると、奏戯が感じたのと似た既視感が、ぽん、と。頭を上げた先のラセルタのてのひら、じんわりと温かい。
「千代、孤児院にも管理ロボットを置いたらどうだ?」
「ラセルタさんが買ってくれるのなら、考えてもいいかな」
「……千代のくせに、言うようになったな」
「鍛えてもらったから」
 誰にとは露骨にせず、千代、ラセルタの目をまともに見据えて、にっこりする。ラセルタ、鼻を鳴らして、念のため程度に反駁を表明した。
 そんな彼等をどこか物欲しげに見遣る、一対の青い瞳の持ち主。
「貴方もロボットを欲しいのですか?」
 エルドが声をかけると、青い瞳の持ち主――ディナス――は、若干あたふたした。胸のあたりを手で抑えて、呼吸を整えると、きつめにエルドを睨む。
「ミスター、僕のことをなんだと思っているのですか」
「勿論ディナスだと思っています」
「ごまかさないでください」
「まったく同じものを買ってあげることはできませんが、似たような玩具なら、家を探せばあるかもしれませんねえ」
 絶妙のタイミングでエルドが本題を切り出せば、ディナスの顔がぱっとほころぶ、ほんの束の間、すぐさま澄ました表情で取り繕うけれども。だが、エルド、ちゃんと彼の一瞬の変化を見逃してはいない。髭の下の唇をやわらかく歪める。
「ミスター、今、笑いました?」
「笑ってませんよ」
「千代、貴様も笑っているだろう」
「笑ってないってば」
「私も別に怒ってないよ」
「……俺、そもそも訊いてないんだけど。って、だから、かなちゃん、前振りなしにはたくなよー」
 ジローが針金のような腕を振る。すぐ戻ってくるよ、と、言い置き、ウィンクルム達は遺構をいったん離れるのだった。
「今度は君の友達を連れて」



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 紺一詠
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 09月26日
出発日 10月03日 00:00
予定納品日 10月13日

参加者

会議室

  • [7]不束 奏戯

    2014/10/02-22:27 

    プラン書きあげ!

    どうしようか迷ったけど、密集地帯に行くまでの道中に敵と遭遇した場合はパペットマペットを使用して囮として動く感じに書いたった

    ディナスちゃんとラセルタちゃんはできるだけ密集地帯まではMP温存しておいて貰いたいし
    トリスタだから密集地帯だと攻撃くらった時ジロちゃん巻き込んじゃいそうだから…

    ジロちゃんを保護するけどそれに+してヴァーミンを逃がさないように扉前に【パペットマペット】を仕込んでおこうかなって思ってた

    えっと、ぎりぎり書き込みだけどあれだったら書き込んで!
    時間一杯粘るから!

  • [6]不束 奏戯

    2014/10/02-02:15 

    こんばんわー♪
    不束さん家の奏戯君だぜ~!
    エルドちゃんも千代ちゃんもおっ久~!
    今回も宜しくな!

    >戦闘について
    囮になら、雅ちゃんが「パペットマペット」使えるし、攻撃されたところで爆発してカウンター加えられたらいいよねー♪
    まぁ、この場合はジロちゃんを出来るだけ巻き込まないような場所って限定させちゃうかもしれないけどなー…。

    とりあえず、囮兼攻撃なら任せとけー♪

    そんでもって、俺も明りを絞った懐中電灯持って行くのぜ!
    ジロちゃんはどうやら名前を呼べば光ってくれるみたいだけど…
    これってヴァーミンはどうなんだろう?
    まぁどっちにしろ、暗いと角見えづらそうだし、名前を読んでみて光るならジロちゃんて判断でいいのかな~。
    あと、音声機能は無い見たいだから喋らない奴って感じかな?


    >キャタピラについて
    キャタピラって履帯を切ると動けなくなるって俺聞いた事あるんだけど…、もし可能ならキャタピラの履帯を攻撃できるよう、足元にパペットマペットで攻撃しておくわ

  • [5]羽瀬川 千代

    2014/10/02-01:28 

    こちらの返信を書き終わった後に同行人数が増えているのを知りました…!
    不束さん、艶村さん、どうぞ宜しくお願い致します(ぺこり)

    >施錠
    確かに施錠の有無は確定要素ではありませんし、書いておいても損は無さそうですね。
    お言葉に甘えて、突入前の手順に関してはエルドさん側で記載をお願いします。
    今の所俺の方から追加事項は特にないですが、何かあればすぐにお伝えしますので!

    >情報収集
    少しでもお役に立てれば幸いです、必死に依頼書を読んでいた甲斐があります(ふふ)
    分かりました、俺の方で質問した内容はまとめて全員に共有するようにしますね。

    現状は以下の内容を尋ねておくつもりです。
    他にお気づきの点などありましたら随時追加していきますので、気軽にお伝えください。
    ・ジローについて(外見的特徴、見分け方、装備などの有無、電源の有無)
    ・遺構について(死角、隠れ場所等)

    >戦闘について
    『ヴァーミンさん達の密集地帯に来た際に、ディナスにシャイニングアローⅡを使用させ盾に
    その背後から、ラセルタさんの火力でヴァーミンさんを打ち抜いていく』

    アクティブな防御、こちらとしてはとても有り難いです!
    MPの兼ね合いを考えてヴァーミンが俺たちの物理的な攻撃人数以上に
    囲まれてしまった場合に発動して頂くという方向はいかがでしょうか?
    もしくは安全を考えジローの発見時に発動、でも有効的かもしれません。

    >敵の対処
    探索・掃討の流れとして、順々に部屋を確認して回る形式を想定しています。
    ヴァーミンと遭遇時は基本的にその場で破壊しにかかるつもりです。
    階段を上がっていく際に挟み撃ちにされたりしたら大変ですからね……。

  • [4]エルド・Y・ルーク

    2014/10/01-23:08 

    >戦闘について
    若干の危険は伴いますが、ヴァーミンさん達の密集地帯に来た際に、ディナスにシャイニングアローⅡを使用させ盾にするのも有りかと。
    その背後から、ラセルタさんの火力でヴァーミンさんを打ち抜いていく方向で如何でしょう。
    ライフビショップにも、たまにはアクティブな防御も悪くないかと思われまして。
    シャイニングアローⅡはカウンターですから、ジローさんに当たる心配もありません。

    >敵の数
    十体、最終的にはジローさんを守りながらの完全破壊ですね。
    上手く特徴を落とし込めれば、ジローさんを庇いながらの総力戦で片がつくかもしれませんが、この辺りは如何いたしましょう。

    ・ジローさんとヴァーミンさんの間に外見的特長はあったか→角の有無
    ・名前を呼べば反応するか?→ジローが名前を呼んだとき光る
    ・ジローさんは攻撃してくる装備などは持っていたか→ジローは攻撃してこない

    この3点だけでも、羽瀬川さんから共有をいただければ、非常に有難い範囲です。

    では、こちらも光源を落とした懐中電灯を用意いたしましょう。きっとヴァーミンさんはチカチカしていそうですが、想像の範囲を出ませんからねぇ……(レトロロボットは、
    ちかちか光ると思っている人)


    【所持道具】
    ・裏口を目張りする為のガムテープ
    ・見つからない様、光源を落とした懐中電灯

  • [3]エルド・Y・ルーク

    2014/10/01-23:07 

    いえいえ、この老いぼれと世間知らずがどれだけ役に立つか分かりませんが、少しでもお役に立てれば光栄ですよ。

    >施錠
    確かに施錠の耐久性には期待しない方が良さそうですねぇ。お子さんが自由に出入り出来た位ですし。
    ガムテープで裏口をガムテープで表から目張りをするだけでも、あのヴァーミンさんはそこそこの大きさです。大挙して一気に逃げ出される事も無いかと思われますよ。
    駄目元で施錠の旨を一言プランに記載すれば、鍵が生きていた時に心強いかと思われるかと…。

    突入前の手順ですから、上記に関しましてはお任せいただけるようでしたら、何か問題が無い限り、こちらでプランの文字数を割きますが如何いたしましょうか。
    突入前の要望がございましたらお伝えいただければ追加いたしますよ。


    羽瀬川さんには、是非、

    >少年達から、ジローと遺構に関してもう少し詳しい話を聞いておきたいと思っています。
    遺構に関しては隠れんぼ等で有利な死角の場所や、注意する場所が無いかどうか。
    ジローについては最低でも解説内の情報は落とし込む必要がある

    こちらをお願いできればと思うのです。依頼書を読み込んでおられる羽瀬川さんなら、上記以外にも何か気付ける要素があられるかもしれません。
    収集後に「仲間と共有」と一言付け足していただければ、羽瀬川さんと同様の情報量で動けるようになります。


    長くなってしまいましたので、分割を失礼しますよ→

  • [2]羽瀬川 千代

    2014/10/01-02:10 

    エルドさん、ディナスさん、来て頂いてとても心強いです。
    此方こそどうぞ宜しくお願い致します。

    このレトロなヴァーミン、とぼけた顔で俺は割と可愛いなぁ、と。
    でも、もう機械の見た目には騙されないと心に誓っていますので……真面目に頑張ります(頷き)

    >出入り口の封鎖
    人数も少ないですし、予め経路を狭めておくのは俺も賛成です。
    ただ、この遺構は非常に古い建物のようですから施錠が使い物になるかは定かではないですね。
    ガムテープで目張りをしておき、後は逃がさないよう確実に掃討する……が理想でしょうか。

    >事前準備
    恐らく任務自体は昼間に行うと思うのですが、内部で電気系統が何も使えない
    ということなので一応明かりの準備をしていくつもりです。
    勿論、それで見つかってはまずいので使用する際の光量は落としておきますね。

    それと少年達から、ジローと遺構に関してもう少し詳しい話を聞いておきたいと思っています。
    遺構に関しては隠れんぼ等で有利な死角の場所や、注意する場所が無いかどうか。
    ジローについては最低でも解説内の情報は落とし込む必要があるな、と。

    >戦闘について
    ヴァーミンの攻撃が光線銃、なのが遠距離も対応されそうでちょっと恐ろしいですね。
    出来る限りこちらが先手を打てるよう、なるべく壁伝いで隠れて進むか
    何か囮になるようなものを放ってみて現れた所を叩く、など何かしら工夫が欲しい所です。
    ラセルタさんには、なるべくカメラアイを優先的に壊して相手を攪乱する方向で動いてもらう予定です。

  • [1]エルド・Y・ルーク

    2014/09/30-18:17 

    羽瀬川さん、どうぞ宜しくお願いしますよ。
    今回のヴァーミンさんは、

    ((((┗┫ ̄皿 ̄┣┛))))

    ……これは、何と申しましょうか……円盤型のヴァーミンさんと比較しまして、レトロと懐かしさを彷彿とさせますか、可愛らしさを全て捨て去ったと申しますか、とても不思議な形状ですねぇ(何とか一人で納得)

    まずは……そうですねぇ。
    ヴァーミンさんを逃すわけにはいきませんから、
    出口は、裏と表とでそれぞれ一つ。でしたら、突入前に片方を施錠の上、ガムテープで目張りをして塞いでしまうのは如何でしょう。

    そうすれば、こちらの進入経路以外に道はないので、1階から順番に掃討していけば、どのような形であれ、十体全てが片付くと思われるのですが……


PAGE TOP