プロローグ
●催眠セラピー
タブロスの住宅街に、ひっそりと一軒の治癒院が開設された。
手書きの看板に書かれた文字は……。
催眠セラピー。
心の疲れ、癒しませんか?
身体の不調は心の不調と繋がることも多いものです。
心を癒せば、体調が回復することもあるのです。
何かとストレスの多いこの世の中、あなたを催眠療法によって治癒します。
そんな文言で宣伝されるこの治癒院。開設から数か月、セラピーを受けて気持ちがすっきり軽くなった、などの声も寄せられ、なかなか評判が良いようです。
●スタッフの裏話
セラピー内容の詳細については企業秘密なんですが……。
当院で行っているのは、お客様の心の奥底に秘められた欲望を解放することによって、無意識に抱え込んでいる心のストレスを軽減させるという療法です。
欲望が昇華されると、セラピー成功となります。
例えば恋人への独占欲が強い人ですと、一日中恋人と密着していることで昇華されます。
欲望が満たされることだけが昇華ではありません。欲望を誰かが理解してくれる、ただそれだけでも昇華することができます。
しかし、日ごろ自分を律している人、真面目な人、つまり、自分を強く抑圧している人ほど、欲望が解放された時の力が強いのです。
お1人ですとその力を制御することが難しい場合もありますので、セラピーの補助係として、付き添いの方とお2人での来院をお勧めしております。
おや、なんだか不穏な裏話があるようですが……ともあれ、効果は高い様子ですね。
ウィンクルムの皆様もオーガとの戦闘でお疲れでしょうから、ひとつ、この催眠セラピーでリフレッシュしてみてはいかがでしょう。
解説
セラピーの料金は1回300Jrです。
受診するのは神人でも精霊でも構いません。
物欲が暴走してしまうと、Jrを消費してしまう可能性があります。
食欲が暴走して食べ物を購入、レストランで飲食などもJrを消費します。
以上のように、抱えている欲望によってJrを消費する場合があります。
消費しすぎないようパートナーがうまく抑止してあげてください。
さすがに、際限なく消費することは無いでしょうけれど……。
ゲームマスターより
ウィンクルムの皆様は一体どんな欲望を秘めているのか……とても興味があります。
このセラピーを受けることによって、普段隠している欲望が、パートナーにばれてしまうかもしれませんね!
それを知った時、または知られた時、どんな反応をするのでしょうか。
そしてその欲望はどのように昇華されていくのでしょう。
まさか欲望が暴走……なんてことにはならないと思いますが……絶対に、とは言い切れません。
欲望に応じてパートナーがうまく受け止めてあげるのがセラピー成功のポイントのようですよ。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
エリザベータ(ヴィルヘルム)
心情: 妙に溜め息が多いし催眠セラピーってヤツ受けさせるか 意外と真面目だからなぁ 行動: 診察室の前で待ってるぜ にしても、ウィルの心の疲れか…溜め込んで暴発するタイプだな 最初は成り行きに任せてみっか 「え、え、どうした?」 来たはいいけど謎の熱い視線が…催眠状態なんだよな? 対面にもソファあるのになんで隣に? なんか近ぇし、いい匂いするし…やっぱ女子力たけぇな 前にも近くで見たけどまつ毛長いな、手も体も逞しいし…ヤバイ、妙に男らしく見えてきた 気を取り直して紅茶淹れ直そう…ついてきそうだけど て…おい!?(赤面 ったく、我慢するくらいなら言え! 言わなきゃあたしも解んねぇよ 終了後: …も、問題ないならイイんじゃね?(照 |
かのん(天藍)
セラピーですか 馬鹿な事しようとしたら止めてくださいね、天藍 解放の内容と方法 十代半ばに両親と死別後、現在まで心の底に仕舞い込んだ悲しみ、1人残された寂しさ・辛さ、溜め込んだ思いを言葉にして吐き出す セラピー後 少し挙動不審 天藍と2人になった所でぽつぽつと心情を吐露、話す最中に涙が浮かび、肩口に抱き寄せられ堪えきれずに嗚咽の声が漏れる 落ち着いた所で、目を赤くしながらも少しすっきりしましたと微苦笑 目元を冷やす物借りてこようとする天藍の上着の裾を掴み、もう少し傍にいて欲しいと願う セラピーに付き合わせた事に対する謝罪に対して、抱えていた寂しさ等に寄り添う言葉と行動に再び涙が溢れる 与えられる温もりに甘えたいと |
夢路 希望(スノー・ラビット)
ユキ…何か悩み事があるんでしょうか…? それとも私が何か…思い当たる節があり過ぎます …少しでも気分が晴れるといいのですが 彼の希望で付き添い セラピー中は傍らに …ゆ、ユキ? 少しぼんやりした目と合った途端に ぴったりと寄り添われ赤面 …これが…ユキの、望み…? 欲求には可能な限り応える努力 頭を撫でる手はそろそろと ぎゅ、は…うぅ…ど、どうぞっ(目を瞑り (…何だか大きな子供みたいです) おずおずと背に手を伸ばし あやすようにぽんぽんと …落ち着きました? …あ、謝らないで下さい びっくりはしましたけど い、嫌では…無かったです(ごにょごにょ …ユキ …わ、私で良ければ甘えて下さい 撫でたり 手を繋ぐくらいなら が、頑張りますので |
クロス(オルクス)
アドリブOK セラピー?欲望開放? まぁ疲れと癒しが取れるなら良いぞ 折角オルクが連れて来てくれたし、ありがとな(微笑) (終了後独占欲が爆発 「オルク…(ギュー) なぁオルク、オルクは俺のものだよな? オルクは何処にも行かないよな? 俺の隣から、消えていなくならないよな…? 俺、オルクと恋人になってから不安で心配なんだ 俺よりいい人が居るはずだろうし、いくら仕事柄とは言え男と振舞ってる俺より可愛い子沢山いるし… 守ってあげたくなる子の方が良いだろうし… オルクの事好き過ぎてオルクを閉じ込めたい誰にも見せたくない触らせたくない… こんな俺、嫌いになる?」 (抱き締められる 「オルクもそうなのか? 嬉しい… オルク大好き…」 |
リーヴェ・アレクシア(銀雪・レクアイア)
目的:銀雪に一日付き合う 心情:やれやれ、仕方ない奴だ… 手段: 銀雪がセラピーを受けたいというので受けてもらったら、コレか…。 デートしてほしい……(こいつの欲望ってこっち系しかないのか) 仕方ない、今日は1日お前の為に使おう。 銀雪のペースに合わせて、デート。 とはいえ、私自身のストレスにならないよう、銀雪の行動の誘導は行わせていただくが。 ウィンドーショッピングしたり、カフェで食事したり。この辺りは別に日常生活でもやってるんだが、こいつは一体何を考えてるのやら。恋する男とは難しい生き物だな。 さて、十分発散されたら、銀雪に笑ってやるか。 「ストレスは発散出来たかい? あれが欲望とは、可愛いね、お前は」 |
暗幕を張り明かりを落とした室内には、3D映像のオーロラが揺れている。
オーロラは、あなたの心と共に揺れています。
この「揺らぎ」を解放しましょう。
3、2、1……。
突如、ぱあっと室内が明るくなり、映像が消失した。
Case.1
明るくなった室内で、ゆったりとしたソファに腰かけていたスノー・ラビットは目を瞬かせる。
「どうですか、気分は」
傍らに立つ夢路希望が心配そうに訊く。
ラビットがこのセラピーを受けたいと言った時、希望の胸には小さな不安が湧き上がった。
もしかして、自分がラビットの重荷になっているのでは、と。
だから、彼の心が少しでも軽くなるのなら、と思い共にこのセラピーに足を運んだのだ。
「うーん、まだわからないかな」
笑いながらラビットは、こてん、と額を希望に預ける。
「え、ユキ?」
突然の接触に希望はうろたえる。
「どうしたんですか、どこか具合が悪いんですか……って、ちょっと熱がありますよ?」
「まだ催眠状態の影響が残っているんです」
セラピストが言う。
「これからしばらくの間、セラピーの影響が残ります。付き添いの方のフォローを宜しくお願いしますね」
「は、はい……」
ラビットは、
「ふふ、ノゾミさんに心配して貰えるなんて、嬉しい」
と、幸せそうな表情だ。
「抑圧された心を解放しているんです。内に秘めた欲求を、素直に出せるようになっているんです。それを上手に受け止めてあげてください」
セラピストはそう説明すると、「第3者がいると解放されにくいですから」と言って退室する。
(これが、ユキの、欲求……?)
ぴったりとくっつくラビットを見つめる希望。
するとラビットが希望の目を見つめ、
「頭、撫でて……?」
と。
「は、はい……」
希望はそろそろと手を伸ばす。
そっと、ラビットの頭に手を置き、ぎこちなく撫でる。
「撫でてもらうって……すごく気持ちいいんだね」
ラビットが小さな少年のように笑う。
「ねぇ……ぎゅっとしていい?」
「ぎゅ……は、うぅ……」
ラビットの次なる要求に、希望は軽く混乱する。
それはつまり、ラビットの両腕が希望の体を包み込み尚且つ彼の胸に引き寄せられてしまうということである。
「ど、どうぞ……っ」
希望は目を瞑り体を固くする。そこに、ふわりとラビットの両腕がかかる。
想像していたよりも、優しい抱擁だった。
希望はそっと目を開く。
幸せそうな笑みをたたえたラビットが、希望の肩に頭を寄せる。
「今までいろんな人に触れたり触れられてたりしてきたけど、ノゾミさんの手が、温度が、一番心地好い……」
ラビットは安心したように瞳を閉じる。
(……何だか大きな子供みたいです……)
希望はラビットの背中におずおずと手をまわし、ぽんぽん、とあやすように叩く。
「ノゾミさん、僕、今、とても幸せな気分だよ」
希望は、ラビットの体から少しずつ熱が引いていくのを感じた。
ひとつ、大きな呼吸をすると、ラビットが身を起こし、お互いの体が離れる。
「あ……、落ち着きました?」
「う、うん……」
2人は改めて、つい先ほどまで抱き合っていたことを思い出し赤面する。
「ごめんね、僕、何かいろいろ無理を言ったみたいだね。自分でも甘えたがりなのは自覚があったんだけど、ここまでとは思ってなかった」
ばつが悪そうに苦笑するラビット。
「……あ、謝らないで下さい。びっくりはしましたけど。い、嫌では……無かったです……」
希望は視線を逸らしつつ言う。
「……甘える、って、大きくなってから覚えたんだ。子供の頃はしたくてもできなかったから」
セラピーの効果なのか、ラビットは心の内を素直に打ち明ける。
希望は、青年のラビットの向こう側に、甘えるのを懸命に我慢している子供を見たような気がした。
「……また、偶に甘えてもいいかな」
「……わ、私で良ければ甘えて下さい。撫でたり、手を繋ぐくらいなら……が、頑張りますので」
言いながらどんどん顔が熱くなっていくのが希望自身もわかるくらいに赤面してしまう。
「……ありがとう」
ラビットは、一層幸せそうな笑顔を見せた。
Case.2
「ウィルは最近妙に溜息多いだろ。催眠セラピーってヤツ、受けてみたらどうだ」
ヴィルヘルムはこう見えて案外真面目だから、何か外に出せない悩みを抱えているのかもしれない。そう思い、エリザベータは彼を催眠セラピーに連れてきた。
「そりゃあ、最近いいデザインが浮かばないとは言ったけど……催眠セラピーねぇ。ごめんなさい、疑ってる訳じゃないわ。アナタに心配かけちゃダメだしね。受けてみるわね」
エリザベータは、それでいい、と頷く。
「じゃあ、あたしは診察室の前で待ってるぜ」
と、エリザベータはヴィルヘルムを見送る。
(にしても、ウィルの心の疲れか……あいつはきっと、溜め込んで暴発するタイプだな)
これまでの付き合いで、いくぶん相手のことは理解してきた。
爆発する前に、セラピーでなんとかしてやれればいいのだが……。
「お待たせ~」
セラピストと共に診察室から出て来たヴィルヘルム。一見、変わりはなさそうである。
「じゃ、帰りましょうか」
ヴィルヘルムはエリザベータの横に並ぶと、耳元に口を寄せ、囁く。
「2人で過ごせる場所、いきましょ?」
「え?な、何言って……」
戸惑うエリザベータにヴィルヘルムはニヤリとし、歩き始める。
「あ、ま、待って!」
ヴィルヘルムがエリザベータを連れてきたのは、彼の工房。
エリザベータが作りかけのドレスに見惚れていると、背後でガチャリと鍵が閉められる音がした。
「ちょ……、ウィル?」
「ふふ、今日はもう工房はCLOSEよ」
ヴィルヘルムは嬉しそうに言う。
「お客さんが来たらどうするんだよ」
「居留守を使いましょ」
悪戯っぽく笑うと、ヴィルヘルムは
「さ、座って」
と、エリザベータの手をとりソファへ誘う。
いつもと様子が違うヴィルヘルムに警戒しつつ、エリザベータはふかふかのソファに腰かける。
機嫌良く紅茶を用意したヴィルヘルムは、
「さあ、どうぞ」
とテーブルにカップを置きつつ、エリザベータの隣に座る。
「え、え、どうした?」
テーブルの向かい側にもソファはあるのに、なぜわざわざ隣に座るのだ。
ヴィルヘルムは焦った様子のエリザベータを微笑みつつ見つめる。
穴が開くほど見つめるとはこのことか、と思うほどの視線。しかし、そんなに見つめられると……。
「エルザ、顔が赤いぞ……どうした?」
「!!」
急に男らしい言葉で声をかけられ、エリザベータの頬はますます赤くなる。
口元に笑みをたたえながら、ヴィルヘルムは顔を寄せエリザベータの目をのぞき込む。
ふわりと、ヴィルヘルムから良い香りがする。香りにまで気を遣うあたり、彼の女子力の高さには、感心する。
(前にも近くで見たけどまつ毛長いな……)
でも、手や腕はやっぱり逞しくて。
(ヤバイ、妙に男らしく見えてきた)
「紅茶、いただくぜ」
慌ててヴィルヘルムから顔を逸らし、カップに手をつける。
「そんなに急いで飲まなくても。誰も来ないし……来させるつもりもないし」
言われて改めて、エリザベータは工房にヴィルヘルムと2人きりだということを意識する。しかもさきほど、確か扉に鍵をかけていたような。
密室に2人きりだ!
ヴィルヘルムがいつもの調子であれば、ここまで意識することはなかったのに。
「さっきから、目を合わせようとしないね」
「ええと、紅茶をもう1杯、淹れてこようかな、と思ってさ」
エリザベータは立ち上がる。
するとヴィルヘルムも立ち上がる。
「隣にいなよ。せっかく、2人きりなのに。一度こうやってエリザベータを独占してみたかったんだぜ」
どうやらこれが、セラピーで露わになったヴィルヘルムの欲望のようだ。
そうとわかったからには、それを受け入れてやらなくてはなるまい。
「な、なんだそんなこと……、て、……っおい!?」
エリザベータの両肩にヴィルヘルムの長い腕がするりとかけられ、そしてそのまま抱きしめられる。カップを持ったままだから、エリザベータは身動きがとれない。
しかもなんだか、ヴィルヘルムの体温が高いみたいだ。
「そんなこと?ワタシはエルザちゃんを独り占めするの……ずっと我慢してたのよ」
いつもの口調に戻ったヴィルヘルムは少し拗ねたように言う。なんだか少しいじましい。
「ったく、我慢するくらいなら言え!言わなきゃあたしも解んねぇよ」
「言ったら、独り占めさせてくれる?」
「いつでもってわけにはいかないけど、たまにはさせてやるよ!」
「本当?嬉しい……」
耳元でそう囁かれる。それと同時に、ヴィルヘルムの体温が下がっていくのを感じた。
「………」
「…………」
しばしの沈黙の後。
「あら、ワタシ、何してたのかしら?」
エリザベータを解放し、ヴィルヘルムはきょろきょろ辺りを見回す。
「よく覚えてないけどスッキリしたわぁ……どしたの?」
真っ赤な顔で佇むエリザベータに訊くヴィルヘルム。
「……も、問題ないならイイんじゃね?」
エリザベータは乾いた笑顔をするしかなかった。その肩には、ヴィルヘルムの腕の感触がまだ、残っていた……。
Case.3
「デートしようよ」
セラピー終了後の銀雪・レクアイアの第一声が、これであった。
(やった!言えた!)
ストレスを解放する、というセラピーを受けたおかげだろうか、いつになくきっぱりと希望を伝えられた。
リーヴェ・アレクシアは一瞬唖然とするが、「これがこいつの欲望か……」と呟くと、
「仕方ない、今日は1日お前の為に使おう」
と笑顔で答えてやるのだった。
「素敵な休日にしようね」
銀雪はそう言うと、リーヴェの手をとって歩き出す。彼の手がいつもより温かいのも、セラピーの影響だろうか……。
「この指輪、宝石がリーヴェの目の色と一緒だね。綺麗だなぁ」
「秋の新作だって。リーヴェはもう、秋物の服、揃えた?」
ウィンドウショッピングをしながら、終始うきうきした様子の銀雪。
「このブランドの服、リーヴェに似合うんだろうな」
あるショップの前で立ち止まり、銀雪が言う。
「それは、着てみて欲しいということかい?」
「いいの?」
銀雪はぱあっと表情を明るくし、リーヴェは苦笑する。
店に入った銀雪は、あれもこれもと、リーヴェに試着を勧める。
「えーと、次は、このワンピースなんてどうかなっ」
銀雪は、次に着て欲しい服をリーヴェに手渡した。
ワンピースというよりも、ドレスに近いゴージャスな服に着替えたリーヴェが、
「そろそろ、私も疲れてきたよ」
と言うと、
「じゃあ、この服を買おうか」
と銀雪。
「この服をかい?」
値段も張るし、だいたいいつ着るというのか。
「うん、そして、今日はこの服が似合うレストランに行くのはどうかな」
銀雪は理想のデートプランに瞳を輝かせている。
「銀雪」
リーヴェはにっこり笑い、諭すように口を開いた。
「それも素敵だけれど、そういうのはもっと特別な日にしないかい」
「特別な日、か……そうだね!」
結局、服は買わずに店を出た。
「じゃあ今日は、カフェでランチにしようか」
雰囲気の良いテラスのカフェを見つけ、銀雪が言う。
銀雪のデートプランに食事は欠かせなかった。なぜなら、銀雪には目的があったからだ。
それは……。
「はい、あーん」
シロップのかかったパンケーキをひとかけらフォークに刺し、リーヴェに差し出す銀雪。
そう、これをやってみたかったのだ。
「なるほどね……」
リーヴェはそう呟くと、苦笑しつつ
「では、いただくよ」
と、銀雪のパンケーキを食べる。
銀雪が期待のこもった目でリーヴェを見つめるので、リーヴェも自分のパスタを少量フォークにからませ、
「ほら、あーん」
と、銀雪に差し出した。
「食後のドリンクはどうなさいますか」
食事が終盤に近づくと、カフェ店員が訊きにきた。
「リーヴェ、何がいい?コーヒー?」
「そうだね、私はブラックで」
「俺は……」
リーヴェがブラックコーヒーを頼んだことで、銀雪には迷いが生じたらしい。ここは、自分もブラックを頼まなければ格好がつかないのではないか、しかし……。そこで、リーヴェが言う。
「けど、シュガーとミルクの入ったコーヒーも美味しそうだね」
「うん、そうだよね。じゃあ俺はシュガーとミルクでお願いするよ」
食事を終えカフェを出たあたりで、銀雪の言動が通常に戻りつつあった。
「えっと、手は繋いだほうがいいかな?」
食事前までは自らリーヴェの手をとっていたというのに。どうやら睡眠セラピーの影響が切れてきたようだ。
そこでリーヴェはくすっと笑う。
「ストレスは発散出来たかい?」
「え?え?」
リーヴェは尚もくすくす笑いつつ、
「あれが欲望とは、可愛いね、お前は」
と言う。
そこで初めて銀雪は気が付いた。
自分主導のデートをしていたつもりが、実はリーヴェにリードされていたということに。
それに気付かず、自分がリードしていると思っていただなんて……恥ずかしくて顔が熱くなる。
「君にどうしたら、勝てるのかな」
真っ赤な顔で言う銀雪に、リーヴェは
「さてね?」
と笑うのだった。
Case.4
「セラピー?」
クロスはオルクスに聞き返す。
「おうそうだぜ。クー最近仕事詰め込み過ぎて疲れてるだろ?だから連れて来たんだ」
クロス自身は仕事を詰め込み過ぎているとか、疲れているとか、自覚はないのだが。
「まぁ疲れと癒しが取れるなら良いぞ。折角オルクが連れて来てくれたし、ありがとな」
と、クロスは微笑む。
「どう致しまして」
オルクスも微笑みを返した。
セラピーが終わった途端に、クロスはオルクスに抱き付いた。
「早く家に帰ろうぜ。2人きりになりたい」
まるで懇願するかのような口調に、オルクスも戸惑った。しかもクロスの体は少し熱っぽい。
「わかった、クー。とりあえず、帰ろう」
家に帰るまでの間、クロスはオルクスの存在を確かめるかのように、何度も彼の腕にしがみついた。
家に着き、ひとまずクロスをソファに座らせ落ち着かせようとする。
「隣に座ってくれるか?」
「クーが望むなら、ずっと隣にいるよ」
オルクスがクロスの隣に座った途端、クロスはぎゅうっとオルクスを抱きしめた。
「オルク……なぁオルク、オルクは俺のものだよな?」
絞り出すような声でクロスが言う。
「くっクー…?どうしたんだ?」
クロスは堰を切ったように言葉を紡ぐ。
「オルクは何処にも行かないよな?俺の隣から、消えていなくならないよな……?」
「何当たり前な事言ってるんだ。オレは契約したその時からクーのものだ。クーを置いて何処にも行かないし消えたり死んだりしねぇよ」
オルクスはクロスの背中を優しく摩る。
「だって俺、オルクと恋人になってから不安で心配なんだ。俺よりいい人が居るはずだろうし、いくら仕事柄とは言え男と振舞ってる俺より可愛い子沢山いるし……。守ってあげたくなる子の方が良いだろうし……」
「この際全部吐き出しな。スッキリするならオレは聞くからさ」
「ご、ごめん、さっきから変なことばっかり言って……。だけど、オルクの事好き過ぎてオルクを閉じ込めたい誰にも見せたくない触らせたくない……こんな俺、嫌いになる?」
クロスはオルクスを見上げる。
不安とか、嫉妬とか。クロスの心にも、こういった感情があることにオルクスは驚いた。彼女のことを全部理解したつもりでいて、まだ、こんなにも知らない面があったなんて。
こんなクロスもまた可愛らしいと思ってしまい、オルクスは一層強くクロスを抱きしめた。
独占欲なら、オルクスだって負けてないのだ。
「クー、オレがキミの事をどれだけ好きか分かってない。オレはクーだから好きなんだ。他の誰でもないありのままのキミが好きだ。常にクーの事誰にも見せずに触らせず閉じ込めたいと思てっる」
オルクスはクロスの瞳を見つめ返し、
「お互い様だ」
と、ニッと笑った。
「オルクもそうなのか?嬉しい……オルク大好き……」
クロスはオルクスの胸に顔をうずめる。オルクスは、彼女の体から熱が引いていくのを感じた。
「……俺、なんか恥ずかしいことたくさん言った……?」
オルクスの胸に顔をうずめたまま視線だけこちらを見上げ、クロスが訊ねる。恥ずかしくて、顔をあげられないのだ。
照れているクロスもまた可愛い、とオルクスは思うのだった。
Case.5
咲き乱れる花の中で、かのんは1人だった。
両親の姿を探して、探して、探して……やっと思い出す。彼らは天に登ったのだった。
1人にしないで。いいえ、1人でも平気。
相反する2つの感情に、心が揉まれる。
だからかのんは、片方の感情に、蓋をした。
気付けばそこは真っ白な部屋。
「ご気分はいかがですか」
セラピストがかのんに訊く。
「大丈夫か、かのん」
天藍がかのんの顔をのぞき込む。
そうだ、かのんは天藍と一緒に、催眠セラピーというものを受けに来たのだった。
「かのん……?」
天藍が不審そうな声を出す。
それもそのはず。
かのんの指先はカタカタと震え、体は熱を帯びている。
大丈夫です、と言おうとするがその前に天藍が、
「すみません、ちょっと、休めるところありませんか」
とセラピストに訊いた。
天藍はかのんを支えつつ、案内された休憩室へ赴き、ソファにかのんを座らせる。
「ごめんなさい、私……」
震える唇で謝るかのん。
「大丈夫だよ」
天藍はかのんの前でしゃがみ、彼女の顔を見上げて笑顔をみせる。
かのんがとても、不安そうな顔をしていたから、少しでも安心させてやりたくて、笑顔を見せたのだ。
「私……十代の半ばに両親と死別したんです……」
ぽつぽつと、かのんが語りはじめる。天藍は、時折頷きながらそれを聞いた。
「寂しかったです、悲しかったです……でも、それを言ったら周りの皆はきっと困る……だから、気持ちを周りに悟られないようにしてました」
かのんの目に涙が揺らいでいるのに気付き、天藍はかのんの隣に座って彼女の肩を抱き寄せた。
「皆に、あなたはしっかりしてるね、って……言われるたびに、苦しかった。本当は、1人は寂しくて怖くて悲しくて……っ。それが、私なのに……っ!!」
かのんの声に嗚咽が混じる。
悲しみを押し殺して、周囲の期待通りの自分を演じる。どんなに苦しかったろうか。
「かのんは、ずっと頑張ってきたんだな。俺なんかにはかのんの苦しさはわからないけれど、かのんが頑張ってきたことだけはわかる」
天藍はかのんの肩を優しく叩く。
かのんは堪えきれなくなったように、天藍の胸に顔を伏せ声をあげて泣く。
しばらくして、かのんの嗚咽が落ち着くと、かのんは照れ笑いしながら体を起こす。
「少し……すっきりしました」
泣きはらした目が赤い。
「目元を冷やす物、借りてこようか」
そう言って天藍が立ち上がる。
咄嗟にかのんは、天藍の上着の裾を掴む。
「あの……っ。もう少し、傍にいてください」
1人にしないで、置いていかないで。そんな声が聞こえたような気がした。
天藍は、再びかのんの隣に腰を下ろす。
「ごめんなさい、私、取り乱してばかりいますね」
「謝ることはない。むしろもっと、いろいろ話して欲しいくらいだ」
天藍は上着の裾を掴んでいたかのんの手をとる。
「俺はこうやって、傍で寄り添う位の役にしか立たないかもしれないが、辛い事や悲しい事は、これからは1人で抱えずに教えて欲しい」
天藍はかのんを抱き寄せた。
「天……藍……」
かのんは目を瞑る。瞼の裏に、懐かしい両親の顔が浮かぶ。かのんは両親に、心の中で訊ねる。
私、こうやって誰かに甘えても、許されるでしょうか。
かのんの目からまた涙が溢れた。
かのんの涙を見て、天藍はさらに強く、彼女を抱きしめる。かのんはこんなに細かったのだと、改めて認識した。
必死に弱さを押し隠して生きてきた彼女が、たまらなく愛おしかった。
もう、悲しませたくない。寂しい想いなんてさせたくない。
天藍は涙の溢れるかのんの目尻に唇を寄せた。
かのんの涙が天藍の唇に染みる。
かのんが涙を流す度に、こうやって受け止めてやりたいと、天藍は強く思った。
けれど天藍は気付いただろうか。
かのんの涙は、今や悲しみだけの涙ではないことに。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:かのん 呼び名:かのん |
名前:天藍 呼び名:天藍 |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 木口アキノ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 09月08日 |
出発日 | 09月14日 00:00 |
予定納品日 | 09月24日 |
参加者
- エリザベータ(ヴィルヘルム)
- かのん(天藍)
- 夢路 希望(スノー・ラビット)
- クロス(オルクス)
- リーヴェ・アレクシア(銀雪・レクアイア)
会議室
-
2014/09/12-19:37
-
2014/09/11-21:16
-
2014/09/11-21:16
こんにちは、かのんと申します
本部ですすめられてつい来てしまいましたけど・・・少し不安です
変な事しでかさなければ良いのですが -
2014/09/11-14:33
クロス:
俺はクロス、宜しくな!
カウンセリングは俺が受けるんだ
オルクが最近仕事し過ぎだって言うから…
リラックス出来るなら良いなぁ(微笑) -
2014/09/11-13:20
リーヴェだ。よろしく。
カウンセリングは、銀雪が受けたいというので、受けさせるつもりだ。
あまり面倒な事態にならないといいのだが…とは思っている。
まぁ、人の夢は儚いから、状況を楽しみつもりだ。 -
2014/09/11-00:29
うぃーっす、エリザベータだぜ。よろしくな
カウンセリングは……うーん、あたしが受けるかヴィルヘルムが受けるかは相談中だぜ。
つってもアイツがなに考えてんのかは興味あるけどな…
迷惑はかけねぇようにすっから、お互い頑張ろうぜ。
《ヴィルヘルム》
ヴィルヘルムよぉ、よろしくね。皆お悩みが多いのかしら?
アタシも悩みがないって言ったら嘘になっちゃうけどね、
みんなも目一杯癒されちゃいましょ♪