【七色食堂】黄色に埋もれてつつかれて(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 誰が呼んだか『虹色食堂』。
決して広くはない店内は、正しく虹色に染め上げられ、賑やかにテーブルを飾るメニューも豊富。
その、豊富なメニューの一つ一つを極めた店が、タブロス市内に点在しているという。
 誰が呼んだか、『七色食堂』。
目立つ事の無いその店は、今日も店先で七色のベルを鳴らす。


* * * * * * * * * *

 チリン チリリーン

控えめなベルの音。
今日も誰かがその扉をくぐった音がする。

 チリリリーン …… チリッ、チリッ、チリリーンリーーーン!!

いやいや何事だ

明らかに不審に響く音色に思わず足を止め、それを響かせた元を探る。
突き止めた先には淡いレモン色の、外観的には控えめな装飾の扉。
その扉が僅かに開いており、そこから誰かの手で意図的に盛大に鳴らされ揺れるベルが見えた。
どうしたんだと好奇心で覗いてしまった途端、

「あ!!!やった!ウィンクルムさんがまた来ました先輩!!!」
「捕獲!!じゃないっ、確保よ!!!」
「はい!!」

 がさぁっ!

突然頭に何か被せられた。あ、でも前は見える。
どうやら両目の位置に穴が、被された物、紙袋にあけられている様子。
予想だにしないことにとりあえず文句を言おうと紙袋を取ろうとすると、先ほどの男性の声が慌ててをそれを制してきた。

「わぁあ!ごめんなさいそれ取らないで下さい!ごめんなさい!!」

 なんでだ。
そんな目で見つめようと、やや狭くなった視野に男性を捉えようと首&紙袋を動かす。
目が合った男性の姿は、よく見るとよれよれ白衣の下にA.R.O.A.の制服が見えた、……顔に紙袋を被った人物だった。

「あ!僕、A.R.O.A.本部、科学班所属のサージと言います!
 紙袋取って顔見せたら、もしかしたらお見かけしたことある方もいるかもしれませんが……」

 よく見ると周囲には他にも紙袋を被った人間が数人。なんとも怪しい光景である。
自分を含め、改めてその周囲の人たちにぺこり!とお辞儀をしサージは名乗った。

「本来私たちは裏方サポートなんだから顔知られてないのが普通なんだけれどね。
 アンタの場合悪い方向に知られてる可能性しか無いわけよね」
「いやその全部不可抗力で……」
「アンタどんだけウィンクルムの皆さんに迷惑かけてるか分かってるの……?」

 ヒヤリとした殺気が 女性in紙袋 の方から放たれた。
サージ、びし!と直立。
こっほん、と改めて女性の方がガサガサとこちらへ向き直って。

「本当に突然ごめんなさい。あ、私はそこのサージの上司でクレオナというの。
 勿論こんな失礼なマネをしたのにはワケがあるのだけど…… 足元、そのまま動かずに見てみてくれる?」

 言われて下を(紙袋が邪魔でとても見にくい…がさがさ)見てみる。
 ぴよぴよぴよ
……
…………?
ヒヨコ?わぁ、可愛い。
……………………………………多っ!!!
なんと黄色い絨毯が一面に敷かれた床を、所狭しと絨毯と一体化でもするかのようにヒヨコたちが歩き回っていた。
互いに突っつきあったり、植木鉢の土を堀り堀りしたり。
……心なしか、活発過ぎ……いや少々凶暴なヒヨコだな……
紙袋の内から漏れる空気を読んだのか、クレオナが小さく頷いて言葉を続け始める。

「このお店、見た通り『黄』をモチーフに内装やメニューにこだわっているらしいのだけど……
 卵料理も多くていつも大量に卵を仕入れてるそうなの。
 実はその卵の出荷先で……デミ・オーガ化する動植物が増えてきた、っていう報告が入って。
 瘴気がどこからか出てるらしいのだけど……ええ、その原因元はまだ調査中よ。

 で。このヒヨコたち、瘴気を浴び続けた有精卵から孵っちゃったのよ……
 出荷先が不安に思って、A.R.O.A.本部に送ろうとしてたらしいのだけど……無精卵のダンボールと間違えてこのお店に送ってしまったらしくて。
 私たちはそれを回収に来たの。……だけど、このバカが……」
 
 そこで言葉を区切り、サージin紙袋 を睨みつけるクレオナ。

「ごめんなさいっスイマセン!!ちょっと持ってきたレモンの箱が予想以上に重くって……ッッ」

 サージ曰く、客としてこの店に常連で訪れており。
お世話になっている店主さんにメニュー料理にも使われるレモンを、ついでに大量にお裾分けに持ってきたということだ。

「よろけて卵の入ったダンボールにぶつかってひっくり返して……
 落ちたのが絨毯の上だったから、グロッキーな惨事にならなくて良かったと思うべきなのかしら……
 でもその衝撃で、卵たちが一斉に孵ってしまって……」
「咄嗟にそばにあった紙袋被った僕の判断は褒めて下さい先輩!」
「それで今までの失敗は帳消しにならないわよ。アンタ、精霊さんたちに直接物申しされた時のこと忘れたわけじゃないわよね?」
「もも勿論ですー!とっても丁寧な言葉と笑顔の狭間にあるものが……
  す ご く こ わ か っ た で す 」
「つまり、刷り込みに合ったら更に面倒なことになるかもっていう苦肉の策なのよ、これ」

 何かを思い出してガタガタ震えだすサージを無視し、渋々と言ったふうにクレオナは自身の紙袋を指差した。

「ただその場に一緒に居た店主さんが、紙袋間に合わなくて数羽に刷り込まれてしまって。
 後をついて回られた挙句、追いつかれるととにかく突っつかれまくっちゃって……
 今、何とかその数羽は捕まえて本部に行ってもらってるわ」

 気の毒な店主を思い溜息をつくクレオナ。

「その……こういうわけで、ヒヨコたちを捕まえるのを手伝ってもらいたいんです!
 あっ、ベルですか?はいっ。誰か助けて――!!な意味で鳴らしてました。
 どうしてか一般の人はあんまり気にせず通り過ぎちゃうだけで……覗いてくれるの、ウィンクルムの皆さんばかりなんですよね」

 好奇心が常人より強いのかな!?と要研究対象とばかりにサージの、紙袋の奥の瞳が迷惑な感じに光った気がした。

「捕まえたヒヨコたちは、本部で責任もって預かるわ。卵のうちの瘴気なら、暫く清浄な空気の中にいれば抜けるかもしれないし。
 デミ化する可能性があるとはいえ、生まれたばかりの大事な命たちですものね。悪いようにはしないわ。
 どうかご協力お願いします」

 紙袋のクレオナが最後にぺっこりカサカサ、お辞儀をした。

解説

●デミ・ピヨ、しいてはデミ・コッコになる可能性を早めに摘んでおこう

・ちょっぴり凶暴化したヒヨコたちをひたすら捕まえましょう。
捕まえようと手を伸ばすと逃げます、暴れます、突っつきます。
両手の平で包み込むようにすると、暖かさと暗さで卵内を思い出すのか大人しくなります。

・紙袋の目の位置に穴があいてて見える、とはいえ、視界は限りなく狭いです。
ヒヨコたちを踏まないよう注意して下さい。
それにしても数多くない?いえスイマセンよく見るとレモンも散乱してます。サージ氏がぶちまけました。
紛らわしいのでレモンも回収した方がいいかもしれません。

・サージ氏は捕まえたヒヨコたちを入れる空気穴付きダンボール前で待機してます。
蓋さえすればヒヨコたちも大人しくなって逃げない様子。
蓋するまでのヒヨコたちの脱走計画は、サージ氏がきっと頑張ってくれてます。きっと。
クレオナはこれ以上人が入ってこないように店外に。扉前で仁王立ち。

・紙袋を取ると、もれなく自分の周囲にいる20、30羽のヒヨコにターゲットにされます。
手足お尻髪の毛、ありとあらゆるところを全力で突っつかれます、足爪で引っ掻かれます。
塵も積もればなんとやら。地味に痛いです。

・飲食店にありそうなもの限定ですが、店主さんの好意で物を借りられます。
ヒヨコを捕まえるべく効率の良さそうなものがあれば借りると良いでしょう。
ちなみにカラーペンも何故かあるので、紙袋だらけで誰が誰か分からない場合、
紙袋に目印代わりにお茶目な絵を描いてもよいでしょう。

●作業後。店主さん帰宅
本部へ申請してきたささやかな謝礼とは別に、頑張ってくれたウィンクルムの皆さんに
デザートを振舞ってくれるそうです。

<夏ミカンとゆずのシャーベット入りパフェ>
かなりの大きさで、二人で1個でちょうど良さそう。
仲良くつつき合って食べてもよし。
甘いものに目がない方が独り占めしようとして痴話喧嘩もよし。


ゲームマスターより

錘里GM主催【七色食堂】連動シナリオ、【黄】担当!
コンニチハ、黄色クレヨンですぴよ。

スイマセン間違えたすいません。
黄に挙手したらば某GM様に『クレヨンGMが名前の色無視したー!!』と素晴らしいツッコミを受けました、
お世話になりっぱなし、蒼色クレヨンでございます。

ゲーム初心者様やLv.1~でも気楽に入りやすそうなアドベンチャーエピソードをご用意してみました。
(その割に本文が長ったらしく読みにくかったらスイマセン……!!)
勿論っ、少しでも気になって頂いた方ならばレベル問わずご参加大歓迎☆

※<読まなくても問題なし☆登場人物参照リザルト>
・30分の耐久ホールド:クレオナ、サージ 初登場
・自火に責め入る霧なりや:サージが招いた迷惑案件

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ファリエリータ・ディアル(ヴァルフレード・ソルジェ)

  わあ、ヒヨコいっぱい! 可愛いっ!
ヒヨコに刷り込み……普通のヒヨコならむしろ歓迎なんだけど
(ヒヨコがぴよぴよ自分の後をついてくる姿を想像中)、
デミだとやっぱり困るものねっ。早く捕まえなきゃっ!
デザートも楽しみだし!

私だって分かる様に、紙袋にお花の模様描くわねっ。
カラーペン借りて即興で描くけど、絵は得意だしっ♪

ヒヨコもレモンも踏まない様、足元に充分注意して
両方拾っていくわね。
ヒヨコは一匹ずつ両手で包みこんで……わぁ、ふわふわであったかーい。
名残惜しいけど、サージさんのダンボールに入れればいいのよね?
レモンも籠か何かに入れたらいいと思うのっ。

デザートはヴァルと仲良く分けるわねっ。



向坂 咲裟(カルラス・エスクリヴァ)
  ●心情
元気の良いひよこがいっぱいね
ぴよぴよ…洗脳されそうよ。ぴよぴよ
将来この子達が卵を産むのよね。卵には牛乳が合うのよね…頑張るわ

おじさん、紙袋似合っているわ
ワタシはどうかしら。似合う?
紙袋を被っても髪がでちゃうわね
髪の中に入られたら…まあ、それも別に良いわよね。楽しそう

あまり動かない方が良いのよね
近付いてくる子を捕まえる事にするわ
優しく優しく…両手を籠の様にして待っていれば入ってくるかしら
おいで、怖くないぴよ

数が少なくなったら見つけにくくなるわよね…探さないとかしら
出ておいで。皆一緒よぴよ


●パフェ
カルさん、お疲れ様
あーんしてあげるわ…こうするのが普通じゃないの?
お母さん達はこうよ?…違うの?



都 天音(チハヤ・スズアキ)
  これは気づかなかった事にして通り過ぎればよかったパターンですね

ボウルを2個借ります
掬ったデミ・ピヨをここに入れて蓋をすれば数が運べそうかなと
むしろ手を使わずボウルで一気に救いたいくらいですがレモンがあるのが面倒です
仕方ないですが地道にいきましょう
じゃ、スズアキさんボウル持っててください

ところで紙袋のせいでよく見えません
えーと、ヒヨコですねヒヨコ
手元がよく見えないんですけどこれはヒヨコですか?
レモンですか。じゃあ次に
これはヒヨコですよね
え、これもレモン?

適材適所という言葉があります
スズアキさん、チェンジです
ファイトー、です

パフェ大きいですね
さすがの私も独占したりはしないので安心して食べてください



ペディ・エラトマ(ガーバ・サジャーン)
  誰かが紙袋を取って、部屋の隅などに行ってもらうのが良いかもしれません。
そうすれば、きっとヒヨコはそちらに群がるでしょう?
そこを、ホウキとチリトリなどで一気にかき集めてしまうのが良いと思うんです。
少し怖いですが、私が紙袋を取っても構いません。…ガーバは良い顔はしてくれなさそうですけど。
誰か他の方が囮になって下さるのでしたら、痛くて大変でしょうから、できるだけ早く回収できるようにがんばります。回収する時に少しくらい突かれても、囮の方に比べれば楽ですから、大丈夫ですよ。
それに掃除は苦手ではありませんから。きっと頑張れます。

デザートをいただけるのですか?ありがとうございます。


●サージ:「紙袋も見慣れればホラきっと……!」

「おじさん、紙袋似合ってるわ」
「紙袋が似合っていると言われても嬉しくは無いが……」
 向坂 咲裟の、表情は見えなくとも本心で大変素直に言っているのがどことなく伝わってきて、カルラス・エスクリヴァは紙袋の中ですでに疲弊していた。
(また面倒なことに巻き込まれて……お嬢さんの乗り気からして、どうせ牛乳がどうとかまた考えているんだろうが)
「元気の良いひよこがいっぱい。将来この子達が卵を産むのよね。卵には牛乳が合うのよね……頑張るわ」
 きりっ
(やはりか)
 パートナーとなってまだ日は浅くとも、以前に牛乳を持参していたことを知った時のインパクトは忘れようもなく。
すでにカルラスの中で、咲裟にとっての牛乳の重要性は確立されつつあった。
「ねぇ。ワタシはどうかしら。似合う?」
「紙袋か?お嬢さんは似合うと言われたら嬉しいのか…?」
「あら。似合わないと言われるより、ずっと嬉しいわ」
 紙袋の穴から澄んだ紫の瞳が微笑むように細められ、見上げられた。
そうだった。お嬢さんはどこかズレているんだった……
カルラス、まだまだお嬢さんへの発見は尽きない。

「これは気づかなかった事にして通り過ぎればよかったパターンですね」
「全くだな」
 こちらは紙袋の中でしばし溜息が続いている組。都 天音とチハヤ・スズアキペア。
事態に対し感想は同じでも、やはり次へ向かう姿勢は異なるようで。
「見なかった事にしたいが…、ここまで巻き込まれたらやるしかないか」
「えらいですねスズアキさん」
「いや他人事じゃねぇからお前もだから……」
「ふぅ。致し方ないですね。人間潔さが大事ですよね」
(どこも潔く無かったと思うが……)
という言葉は飲み込み。
そうと決まれば、とキッチンへせかせか向かう都を不思議そうに紙袋の中から見送って。
すぐ戻ってきたその手にはボールがいくつか。
「掬ったデミ・ピヨをここに入れて蓋をすれば数が運べそうかなと」
「おぅ。いい案かもな、……っておい足元!」
「はい?あら~~~?」
 スズアキにボールを渡そうと歩み寄ろうとしたところで、都、レモンにコケる。
踏む瞬間にいち早く気づいたスズアキによりどうにか怪我とピヨ潰しを免れた。
「ナイスキャッチですスズアキさん」
 本来ときめくシチュエーションだが、紙袋を被りボール抱え淡々とする都を片手で支えるスズアキからは、哀愁漂う深い息しか出なかった。

 その紙袋姿を今まさに愛らしくしようと、カラーペンでにこにこ描き描きしているのはファリエリータ・ディアル。
「出来た!ヴァルのには可愛いコウモリの絵にしたわっ。上手く描けたと思うのよっ♪」
「……なんでコウモリ?」
「えっ?えーとホラ……っ」
 笑顔で言い淀むファリエリータの紙袋越しの雰囲気からピンときたヴァルフレード・ソルジェ。
「お前。もしや以前の悪魔呼ばわりした羽から」
「ひよこいっぱい!可愛いわね!!」
 思い切り不自然に誤魔化すファリエリータ。
まぁいいけど、と肩をすくめるヴァルフレードにホッとしながら、再びカラーペンを握り締め。
「あとは私だって分かる様に、紙袋にお花の模様描くわねっ」
「紙袋被ってる状態でどうやって描くんだ?」
「あっ!」
 しばし視線を彷徨わせた後、そうだ!ちょっと待っててねっ?と足早に部屋のどこかへ向かうファリエリータ。
程なくして戻って来る。その紙袋には。
「お待たせヴァル!鏡見ながら描いてみたんだけど、どうかしら?」
「うまっ……!!」
 日頃からかい文句の多いヴァルフレードが思わず言う程、ファリエリータの紙袋にはカラーペンとは思えぬ華やかな花畑が咲き誇っていたのであった。
鏡で左右反対になって本来なら描きにくいはず。
ファリエリータ侮れぬ。
とヴァルフレードの心中にあったとか無かったとか。

 紙袋に苦戦したり楽しんだりする組がいる中、ペディ・エラトマは真剣に紙袋の扱いを考えているところである。
「誰かが紙袋を取って、部屋の隅などに行ってもらうのが良いかもしれません。そうすれば、きっとヒヨコはそちらに群がるでしょう?」
「それはそうだが……」
「しかし……皆さんそれぞれ作戦おありのようですし、少し怖いですが私が囮になれば他の方も捕まえ易いでしょうか……」
「……ペディが?」
 声のトーンが一段落ちたことで眉間に皺が寄ったのが分かったかもしれない、ガーバ・サジャーンin紙袋。
「いくらヒヨコとはいえ、デミかもしれないんだ。危ないだろう」
「じゃあガーバが囮になってくれる?……私も、ガーバなら頼みやすいし、気持ちも楽、かも」
「……仕方ない。分かった」
 男として、女性に頼まれて嫌な顔をする者は少ない。
とりわけ、戦うということに抵抗を持っているのを知っているペディからなら尚更だ。
たとえその向かう敵が可愛らしいひよこであっても。
「ホウキとチリトリ借りて、なるべくガーバの負担早く終わらせるわね」
 ガーバ、さかさか掃かれるひよこを想像。
相手のその口から出てきた回収方法は意外と大胆であったようだ。

●サージ:「皆さんなんて頼もしっ……ごめんさい僕も仕事しますぅ!!」

 ウィンクルムによるひよこ回収作戦開始。

「ぴよぴよ……洗脳されそうよ。ぴよぴよ」
「お嬢さんもうされているようだが」
「本当に見えにくいですねぇ。スズアキさんこれ、ひよこですか?」
「レモンだな。ってお前さっきからレモンばっかじゃないか?」
「ヒヨコに刷り込み……普通のヒヨコなら歓迎なんだけどなぁ」
「ファリエ、あれ見てまだそんなこと言えるのか……?」
「ガーバ大丈夫っ?……い、意外と箒にかかってくれないのよね……」
「だっ痛!予想以上に刷り込んできた数が多い……!」

 約一名、紙袋を外しひよこ引きつけを頑張ってくれているのに早々に他の組も気付き。
ガーバが隅っこで必死に耐えているスキに、その体に集まってきたひよこたちを箒やボールで一気に掬おうとする者、
少し歩きやすくなった屋内で他のひよこを丁寧に手で掬う者など、今や屋内ひよこパニック。

「おいで、怖くないぴよ。……あいたっ」
 半円球を作った掌に寄ってきたひよこ、中に入るも遠慮なく咲裟の手を突っつく。
「お嬢さんそのまま手で閉じ込めるんだ」
 ひよこにやたらつつかれる為、先にレモンを回収していたカルラスからの助言に
手を丸くドーム型にし、あ、大人しくなって可愛いぴよ♪と微笑ましい姿見つめていれば。
「……その髪に入ってる黄色いの、ひよこじゃないのか?」
 咲裟の手が塞がっているうちに、別の一羽が紙袋からはみ出ている、金色に波打つ咲裟の髪の中へ潜り込んだのを再びカルラスが指摘。
ひよこピヨピヨ、何やらぬくそうである。
「あら本当ね。でも可愛いからこのままでも、」
「動かないでくれよ」
 ずぼ
カルラスおじさん、躊躇なくその髪へ手を突っ込みヒヨコ握りつぶ、もとい、ヒヨコ捕獲。
一瞬何が起きたかとキョトンとする咲裟。
カルラスの手の中から、ぴよ~、と無事な声が聞こえればニコッと動じず。
「おじさんの手、大きいから片手でひよこ上手に持てるのね」
 中々の神経も持ち合わせている様子。
苦笑いを向け、そっちのひよこも持っていこう、と咲裟のひよこも受け取り、
カルラスは少し嫌そうにサージの待機するひよこ専用ダンボールへ。
「何だかひよこ慣れしてらっしゃるみたいですねー!」
「そんなわけあるか。折角捕まえたひよこたち、逃がさんよう頼んだぞ?」
「勿論です!ちゃんとこうして見張って、」
「逃がしたら……ひよこの群れん中でその紙袋取ってやろうかな」
 おじさま、なんだかんだサージのどじっぷりにちょっと怒っていた。
ひぃ!了解です!!と気を引き締めるサージ。良い脅しです。

「スズアキさん、適材適所という言葉がありますよね」
「?あるけど」
「じゃ、チェンジです」
「なにっ」
 先程からひよこを捕まえようとしても、何故か手に触れるのはレモンで。
その度にスズアキから突っ込みを入れられていた都。ボールをスズアキへ全て手渡してきた。
(見えてないにしてもわざとか?……わざとレモンばかりとってこの流れにしてたんじゃないだろうな……)
地味に怖い考えに行き着いた頭を振って、仕方なくひよこ掬いに精を出し始めるスズアキ。
ガーバにまとわりつくヒヨコへ向かうと、その多さに思わず「うわぁ……」
ボールで器用にひよこをまとめて一掬い。ボールにぴよぴよ入ったら、もう一つのボールを空気は入るようにずらして重ね。
ひよこinボールは都がサージの所へ持っていき、その間に別のボールでまた一掬い。
効率の良い流れ作業である。
「ファイトーです」
 時折忘れた頃に飛ぶ都からの激励、うむ、激励のはずだ間延びはしていても、を受けながら。
「おー」
 とこちらも半ばヤケな空返事で返す。
すっかり互いの距離感は分かっているような、そんな二人の間を
刷り込まれていないぴよたちが時折行進していた。ぴよぴよ。

「……わぁ、ふわふわであったかーい。……いた、いたた」
 順調に一羽一羽、両手で丁寧に捕まえながら、ファリエリータは花畑紙袋の中から感嘆の声を上げる。
たとえ突っつかれても突っつかれても、懲りずにひよこへと手を伸ばし
しばし手の上で眺める様子に、ヴァルフレードは呆れ顔で。
「さっさと手で覆っちまえばいいのに」
「だってやっぱり可愛くて~~~」
 本当は刷り込まれてみたい気持ちもまだちょっぴり残っているファリエリータ。
都たちの方で行進するひよこを見れば、それが自分の後ろをついて回る姿を想像してうっとり。
「ねぇヴァル……ヴァルも紙袋取ってみない?」
「は?」
 ファリエリータ、ヴァルフレードへ視線やれば今度はうっとり妄想をヴァルフレードに置き換えているらしい。
ヴァルフレード、ちらり、とまだひよこたちと格闘中なガーバを見てから。
「却下」
 当然の一言である。
レモンとひよこを同時につまみ上げながら、スタスタとサージの元へと歩いていく姿に
あ、レモンはこの籠に入れればいいと思うの!とファリエリータは籠持って慌てて追いながら。
「名残惜しいけど……デミ・ぴよさんになってたら困るものね。サージさん、よろしくお願いします!」
「はい!お任せ下さい!!」
 滅多にない、愛らしい神人からの直接の言葉に張り切りつつ顔はデレるサージ。
そこでひょいと隣を見上げた瞬間。
「ッッッ全身全霊で頑張ります!!!」
 真面目にやれよ?と言わんばかりのヴァルフレードの一瞬のひと睨み、相当怖かったようだ。

「あと少し……あと少しだから……ガーバ」
「いやもう大分慣れた……」
 ひよこたちの3分の1程を引きつけていたガーバ、顔も腕もつつかれ引っ掻かれして傷だらけになりつつも
気にするな、というふうに片手上げ。
さすがに体格のある相手を突っつくのに体力を消耗したのか、ひよこたちも先程より大人しくなって
ガーバの体に寄り添うように固まり始めていた。
そこをすかさず、箒で押し押しチリトリの中へサッ。
ぴよぴよぴよ~~~(訳:あ~れ~~~)
コツが掴めてきたのか、元々掃除自体は苦手としない故か、ペディの箒使いも随分素早くなっていた。
「これで最後でしょうか……」
 辺りを見渡し、他のウィンクルムが散っていたひよこたちを全て対処してくれたのを確認して。
「ガーバ、本当にお疲れ様でした」
「いや。これはペディがやらなくて良かった」
「……傷、痛む?」
「数が多いが、一個一個が大したことない引っかき傷だ」
 やれやれ、と立ち上がったガーバに気遣わしげに近寄りながら。
決して自分へ気を病ませない、全く変わらない表情と態度にどこか安堵し、
ペディはチリトリに乗っている最後のひよこたちをサージの元へと連れていくのだった。

●店主:「本当にお疲れ様でした」

 七色食堂「イエローバタフライ」(そんな名前だったんです)店内で、ひよこたちが全て無事ダンボールへと入れられた頃。
まさかウィンクルムたちが協力してくれていたとは思ってもいなかった戻った店主が、是非店オススメのデザートを振舞いたいと述べてくる。
やっと紙袋から解放され、互いの顔を久しぶりに見た気がする。
そんな解放感溢れる中、無料でデザートを頂けるという申し出を断るウィンクルムはいなかった。
「えーーー僕食べられないんですか先輩!」
「アンタ元凶でしょ!!このひよこたち持ってさっさと本部!!」
 もっともな台詞と共にクレオナに引き摺られて、サージはすぐに店内からフェードアウトしていったのだった。
え。反省してるのアイツ……
一発くらい殴っておけば良かっただろうか……
と、思った精霊がいたかもしれない。


「わ!すごいっ。黄色とオレンジが下の方で混ざりあっててキレイ!」
 出てきたパフェに感激する咲裟を、コーヒーに口を付けながらほのぼのと見つめていたカルラスに思わぬ試練がやってくる。
「カルさん、お疲れ様。あーん」
「……」
 大変自然な流れでスプーンを己の口の前へ持ってきた咲裟に、カルラス、こめかみを抑える。
「……えー……サキサカのお嬢さん?こういうのは一体どこで覚えて……」
「え?こうするのが普通じゃないの?お母さんたちはこうよ?」
 なる程。向坂家の教育の賜物だったか。どうしてくれよう。
この間、コンマ数秒。
徐ろににこりと笑みを返し、カルラスは優雅な手つきでスルリと咲裟の手からシャーベットの乗ったスプーンを取る。
きょとりとするその口元へ、すかさずスプーンをイン。咲裟、反射的にぱくっ。
「……旨いか?」
「んーっ、冷たくておいしい!」
「よしよし。ほら、もう一口」
「……わぁっこの生クリームと柑橘系のソースもすっごくおいしい!」
 なんと誤魔化しにかかったカルラスおじさま。
この後も、ふと思い出したように「今度はワタシが、」と言い出す咲裟を、
年の功による知恵を振り絞って全力で交わすカルラスの姿があったとか。

「スズアキさん、お疲れ様でした」
「いや本当疲れたわ……」
 まったりとテーブルにつく都、ぐったりと椅子に背中を預けるスズアキ。
後半ほぼ一人でひよこを掬っていたようなものであるスズアキ、日頃花屋で鍛えられているといっても
さすがに腰にくる。さすさす。
そこへ運ばれてきた、大きなパフェ。
都の目が輝いたのは気のせいか。
「ありがとうございます」
 店主へと丁寧にお辞儀をしてから、スズアキにも二つあるスプーンを一つ渡し。
「パフェ大きいですね」
「おぉ……すごい美味そうだな」
「さすがの私も独占したりはしないので安心して食べてください」
「いや、安心してって言われてもこれ1つを二人で食べるのってすごくあれじゃないか?」
「?そうですか?2人で丁度良さそうな量ですが。もしかして甘い物、お嫌いでした?」
「あーいや……そういうことじゃ、うん。ありがたくいただきます、と」
 傍から見てこのパフェ一つをつつき合う図がいかがなものか、というのが都には伝わらなかったようで。
スズアキ、自身も気にしないよう務める方向にした。
仲良く両側からパフェをつつき始める。
実は普通に甘いものを好むスズアキ、シャーベットを一つ平らげご満悦。
していたところでハッと気付いた。
「……まて!確かに独占はしてないが食べるの早い!俺の分がなくなる!」
「スズアキさんがおほいんでふよー」
 もぐもぐもぐ。
食べることをやめないまま喋る都。
都側のパフェ半分がほぼもう無くなっていて、都のスプーンはすでにスズアキ方面に手をつけていたのであった。
お互いが甘味好き、とパートナーに対する新たな発見が出来た瞬間であった。
はずだが。
かくして、最後の一欠片をどちらが食べるか、スプーンによる静かなる攻防が繰り広げられるのであった。

「美味しい~!頑張った甲斐があったわっ♪」
 嬉しそうにパフェを頬張るファリエリータ。
同じように反対側からスプーンを刺し、口に入れようとしたところでヴァルフレードから声が上がる。
「でっ……」
「ヴァル?どうしたのっ?」
「あーいや。口開いたら頬の傷が引きつっただけだ」
 ヴァルフレードの頬にはひよこに引っ掻かれたと見れる一筋の赤い線。
「絆創膏持ってるけど、いる?」
「お。ファリエにしては準備がいいな」
 いるいる、と返すヴァルフレードにちょっと待ってねと声をかけ、カバンを漁り。
「良かった!最後の一枚だったみたい!あっ、ねぇねぇ見て。ひよこ柄のだわ!今日はひよこづくしな日ね♪」
「ごめんファリエ。やっぱいいわ」
「ええ!?どうしてー!?私、貼ってあげるわ!」
「本当勘弁してくれ」
 ファリエリータによる心からの善意、ヴァルフレード心中「もうひよこはいい」。
パフェを中心にひよこ絆創膏の押しくらまんじゅうがテーブル上空で始まったとか。

「デザートをいただけるのですか?ありがとうございます」
 店主へと感謝を述べながら席へつくペディとガーバ。
パフェを待つ間、出された飲み物を静かに飲みながら、ふと、テーブルに乗せられたガーバの腕へ手を伸ばすペディ。
「小さい傷でも、やっぱりこれだけあると痛々しいわね……」
「言っただろう。大した傷じゃない。もうほとんど痛みもない」
 山や森を歩いていた頃はもっと傷だらけだった、と小さく漏らされた言葉にペディは思う。
いつかそのうち、ガーバのそんな人となりを聞けるかしら、と。
そこへ、夏ミカンと柚のシャーベットが盛られたパフェが運ばれてきた。
「これ、私より多めに食べてくれる?私には多すぎるし、ガーバの方が大変だったと思うから」
「私はじっとしていただけで、ほとんど動いていない。ペディこそ疲れたろう。私に遠慮することはない」
「でも……」
「……ペディが食べきれなかった分を頂こうか。」
 食べる量を結局は自分に委ねてくれている、そんな相手の言葉に、ペディは一度微かに目を丸くし。
「じゃあ……先にいただきます」
 ゆるゆると、シャーベットを口に運べばまた小さく笑みを浮かべる。
そんなペディを、窓の外を向く視線から時折ずらして見つめ、ガーバは思う。
出来れば、この笑顔が曇ることがなければ良い。
オーガと対峙するにはまだあまりにも、その心は優しすぎる。
ウィンクルムとなったからには儚すぎるその思いに、己自身で苦笑いを浮かべながら、
ガーバは静かにペディを見守るのだった。


 淡いレースのレモン色のカーテンから、柔らかくなった夕日が店内を黄色からオレンジへと染め上げるのだった。

後日。
しばしの間この食堂は、「ぴよ食堂」とこっそり呼ばれていたとか。



依頼結果:大成功
MVP
名前:ペディ・エラトマ
呼び名:ペディ
  名前:ガーバ・サジャーン
呼び名:ガーバ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 少し
リリース日 09月10日
出発日 09月16日 00:00
予定納品日 09月26日

参加者

会議室

  • [4]都 天音

    2014/09/14-16:32 

    初めまして、都 天音です。
    よろしくお願いします。

    デミ・ヒヨコ…。デミ・コッコにも少し興味はありますが、まあ捕まえないとダメですよね。
    踏まないように気をつけてきます。

  • [3]ペディ・エラトマ

    2014/09/13-23:12 

    ペディ・エラトマです。はじめまして。

    ヒヨコ……ですか。
    ニワトリになると意外と凶暴な個体もいて、なかなか侮れない攻撃を仕掛けてくることがあるらしいとは聞いたことがあります。
    ヒヨコですから小さくて頼りないとはいえ、これだけいると少し怖いですね。
    というか、うっかり踏んでしまいそうです……!!

  • 私はファリエリータ・ディアル! よろしくねっ。

    ヒヨコに刷り込み……普通のヒヨコならむしろ歓迎なんだけど
    (ヒヨコがぴよぴよ自分の後をついてくる姿を想像中)、
    デミだとやっぱり困るものねっ。早く捕まえられる様頑張るわっ。
    デザートも楽しみだし!

  • [1]向坂 咲裟

    2014/09/13-01:17 

    こんばんは。ワタシは向坂 咲裟よ。
    皆とは初めましてかしらね、よろしくお願いするわ。

    ちょっと元気なひよことレモンが散乱する店内…楽しそうね。
    ひよこ達を捕まえて、無事に大きくなって卵を産んで貰う為に頑張らないとよね。牛乳に合うもの。
    改めて、よろしくお願いするわ。


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