【七色食堂】桃色イチャラブ?(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 誰が呼んだか『虹色食堂』。
 決して広くはない店内は、正しく虹色に染め上げられ、賑やかにテーブルを飾るメニューも豊富。
 その、豊富なメニューの一つ一つを極めた店が、タブロス市内に点在しているという。
 誰が呼んだか、『七色食堂』。
 目立つ事の無いその店は、今日も店先で七色のベルを鳴らす。


 ※

 タブロス市内のお洒落な通りに、その食堂はありました。
 まず、その建物を見て、まず貴方はこう思うでしょう。

 すんげーピンク。

 目に鮮やかなパッションピンクが、店舗を彩っています。

『女の子専用の店舗なの?』
 そう思ったお客様、ご安心ください。
 老若男女問わず人気のお店です。
 何のお店かって?
 ここは食堂です。
 釜炊きご飯に手作りおかず。正にお袋の味が楽しめる食堂です。
 お好きなメニューをトレーに自由に取っていただくスタイルで、
 お好きなものを、お好きに組み合わせて、お客様専用の定食を作ることが出来るのです。
 手作りスイーツも人気で、それだけを食べに来るお客様もいらっしゃいます。

 え?私は誰かって?
 申し遅れました。
 私はこの【桃色食堂】のマスコットキャラクター『桃太郎』と申します。

 ※

 貴方の前で、ピンクの猫の着ぐるみがペコリと頭を下げます。
 
「さて、皆様。このお店をご利用頂くのに、一つだけ必要な事が御座います」
 必要な事?
 貴方達、ウィンクルム達は顔を見合わせます。
 今日はA.R.O.A.経由で、『特別に、人気のこの店に行列に並ぶ事なく入れる』と聞いて来ています。
 店側の好意で『ウィンクルムだけの特典』とは聞いていますが、その他に何か必要だとかは、全く聞いていません。

「皆様は、カップル、ですよね?」

 桃太郎の瞳がキラリと光りました。
「「ハァ?」」
 見事にハモリつつ、ウィンクルム達は桃太郎を見つめます。
「あれ? ウィンクルムといえば、らぶらぶカップル、でしょ?」
 桃太郎は髭を揺らしながら首を傾けます。
 その時、バーンと店の扉が開かれました。
「あ、ハルカ店長!」
 そこに立っていたのは、キラキラの桃色な衣装に身を包んだ女性でした。
 ハート型のステッキを持ち、カッと赤いハイヒールで地面を蹴ります。
 その出で立ちは……何というか、形容するならば『魔法少女』でした。
「皆さんがウィンクルム? まぁ、美形ばっかりだわ♪」
 女性は両手を合わせて、クネクネと身を躍らせました。瞳はハートマークと化しています。
「この方達のイチャラブを拝見出来るなんて、や・く・と・く♪」
「ハルカ店長、お呼びして良かったッスね!」
 クルクルと踊り出したハルカ店長を横目に、桃太郎はコソコソッとウィンクルム達に囁きます。
「ここは、カップルじゃなくてもカップルの振りをしてください。じゃないと、店に入れませんよ」
 どうして?
 ?マークを沢山浮かべるウィンクルム達に、桃太郎はエヘンと胸を張りました。
「ここは、カップルのカップルによるカップルのための食堂ッスから!」
 ウィンクルム達は更に疑問の顔となります。
 何なんだ、そのカップルのため……って。
「説明しましょう! ハルカ店長の趣味です!」
 桃太郎は肉球の付いた手を上げ、踊っているハルカ店長を指差します。
「ハルカ店長はコイバナが三度の飯より好きなのです。そこで、合法的にカップル見放題なこの店を作ったッス」
 桃太郎は髭を撫でながら、ウィンクルム達を見遣りました。
「なので、カップル以外は入店すら出来ないのですよ」
 ウィンクルム達は、微妙な表情で桃太郎を見返します。
 桃太郎は、ぐっと手を上げてこう言いました。
「大丈夫、カップルのフリをしちゃえばいいッス!」

解説

桃色食堂でカップルのフリをしつつ、食事を楽しんで頂くエピソードです。

食堂は、カップルしか立ち入りが許されない場所です。
なので、必ず『カップルらしい事』をしつつ、食事をしなければなりません。
少々慣れていない様子でも、ハルカ店長は『初々しい』と受け取ってくれますので大丈夫です。
喧嘩しても、『喧嘩する程仲が良い』と脳内フィルターも装備しています。

食堂のメニューは和食中心で、一般的な食堂にあるようなおかずとご飯ものはある程度揃っています。
お好きなメニューがあれば、明記して下さい。
(これだけはダメというものがありましたら、こちらも明記頂けると幸いです)

以下のスイーツメニューもあります。

・スイートポテト
・かぼちゃプリン
・クリーム白玉ぜんざい
・エクレア

料金は一律、飲み物も含め、一品150Jrです。
(お手数ですが、神人さんと精霊さんで一品ずつは必ず注文をお願いします。)

店の中は二人用のテーブル席しかありません。
向い合って、もしくは隣同士で、お好きな形で寛いでください。

なお、店内はピンクの内装のとても乙女チックな世界となっております。

<登場するNPC>
・ハルカ店長(35歳):こよなくピンクとコイバナ、そしてコスプレを愛する【桃色食堂】の女店長。
・桃太郎(中の人など居ない):一応♂らしい。気を抜くと敬語を忘れる癖があります。店長と一緒に、皆さんの給仕をします。

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『食堂大好き!』雪花菜 凛(きらず りん)です。

錘里GM主催【七色食堂】連動シナリオです。

内装をカラフルに染め上げられた本店、虹色食堂のチェーン7店。
雪花菜が担当するのは【桃】です。

『まぁ、イチャイチャしないといけないんだったら仕方ないよね? べ、別にアンタなんかとこんな事したい訳じゃないんだから!』
なノリで、楽しんで頂けたらと思いますっ。

どんなイチャラブが見れるのか、ワクワク♪です。

皆様の素敵なアクションをお待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)

  イチャイチャ…うむむ難易度が高いですわね
ですがご飯の為ですわ!
サフラン、頑張ってイチャイチャしましょうね!

…でも、意識するとちょっとだけ恥ずかしいですわね
と、とにかく手を繋いで店内に入ったら
テーブルに向かい合わせで座ります
ご飯って相手の顔を見ながら食べると美味しいんですの

メニューは目移りしますわね
こういう時はお店の方にオススメを聞きます!
そう言えばサフランは普段何を頼んでいたんですの?

サフラン知ってました?
お味噌汁って家ごとに味が違うんですって
うふふ。そうですわね、今度作ってあげますわっ

だって食べている時のサフランの表情
とても穏やかで何だか嬉しそうですもの
本人は気付いてないみたいですけれど、ね


リゼット(アンリ)
  お腹が鳴りそうなくらい空腹なのにカップル限定…
中身も王子様らしく振舞ってくれたら
乗り切れるかもしれないから…行くわよ?

ごはん
焼き魚
サラダ
かぼちゃプリン
を注文

どうしてわざわざ隣に座るのよ、狭いじゃない
そういうものだから?…わかったわよ。わからないけど
さ、触らないでよこのバ…!こほん
食べづらいわよアンリったら。ウフフ
ごめんなさいね。肘が鳩尾に。ウフフ

プリン?仕方ないわね…はい(無意識にあーん)
た、たまには…ね

なっ…!!(思わず立ち上がり拳を振り上げ)
う、うれし過ぎてガッツポーズしちゃったの。ウフフ
もぅ…アンリったらぁ
見られたら恥ずかしいでしょ
二人だけの時にしてよね…バカ犬(空いてる方の手で小突き)


リオ・クライン(アモン・イシュタール)
  ここが噂の桃色食堂・・・!
来れたのは嬉しいが・・・ふ、フリとはいえコイツとカップルだなんて・・・!?(赤面)
果たして上手く出来るのだろうか?

<行動>
・焼き魚定食とクリーム白玉ぜんざいを注文。
・テーブル席は向かい合って。
・「と、とりあえず恋人同士ってどんな話をすればいいんだ?」な感じで色々考えるが、なんかどうでもいい世間話みたいになっちゃう。
・相変わらず食い散らかすアモンを見て注意するが、自分は初めての焼き魚の骨を上手く取れず悪戦苦闘。
リ「キミはいい加減行儀を覚えたらどうだ?・・・ってあれ?こ、これはどうすれば・・・」
・色々あってどっと疲れたが、クリーム白玉ぜんざいを食べて思わず顔が綻ぶ。



水田 茉莉花(八月一日 智)
  ※『カップル限定』が頭から飛ぶほど疲労困憊

雑穀米と焼きホッケ、おみそ汁とお浸しとひじきの煮物っと

ほづみさん、お座りっ!
何で3ヶ月前の研修報告書が
ほぼ白紙の状態で見つかるんですか
しかも3日分!

じゃあ、あたしが机の上片づけなかったら
ずーっと書かなかったんですか?

いやぁね、一緒の家に住まわせてもらってるんだし
働かざるもの何とやらで
ほづみさんの会社で
専属秘書のようなことやってますけどね
あの片づけなさはヒドいと思うわけ!
(食べながらも説教)

…何そのカツ?仲直りの品って訳?
良いわよ、ここに置いて(話しながら茶碗差しだし)
?!
ほー、ほほほ、ほづみさん、口の中に突っ込むってそれ…
間接キスじゃないですかバカー!



ティアーゼ(リンド)
  カップルのふり…?そ、そんな事できる訳ないじゃないですか!
私は帰らせてもらいますから!
うっ、そんな事言われても…
…今回だけですよ

料理を取ったら向かい合って着席
箸使うのは苦手
和食がメインなら和食をと焼き魚系
…大丈夫、フォークやスプーンでも食べる事に支障はないはずです

いえ、使えます、使えますから!とくと見てください!
ええと、今日はちょっと指の調子が悪くてですね…(目逸らし
い、いいじゃないですか、食べたかったんです!
ううん、リンドさんて案外器用ですよね…
もともと惚れてませんから!

主食後かぼちゃプリン
そういえばそうですね
え、それはちょっとレベルが高いというか…
くっ、箸の借りはこれでなしですよ!


●1.

「中身も王子様らしく振舞ってくれたら、乗り切れるかもしれないから……行くわよ?」
 リゼットの言葉に、アンリはニヤリと口の端を上げた。
「普段から王子だって、いつも言ってんじゃねぇか」
 顎に手をあてポージングを取る。
「面白そうだし、俺の本気を見せてやろう」
 何だか不安な気持ちになるのは何故だろう。
 外見だけなら、完璧な王子様なのに。
「ちゃんとエスコートするから、ちゃんとお姫様しろよ?」
 リゼットは差し出された彼の手を見て、ゆっくりと自分の手を重ねる。
 二人は店の扉を開けた。
 店内は、薔薇にフリルに、猫。
 小物に至るまで拘りを感じられる、可愛らしい桃色乙女の世界だった。
「いらっしゃいませ!」
 桃色の猫の着ぐるみがやって来て、ペコリと頭を下げる。
 そして、テーブル席へ案内された。
 さり気なくアンリが、リゼットの椅子を引く。
「有難う」
 リゼットはお礼を言って座ったのだが、次の瞬間、我が目を疑った。
 アンリが向かい側ではなく、彼女の隣に座ったのだ。
「どうしてわざわざ隣に座るのよ、狭いじゃない」
 コソコソ囁くと、アンリはキラリと歯を光らせる。
「何でか分からない? 恋人ってのはそういうもんなんだよ」
 耳元に甘い囁きが触れた。
「近くにいればいつでも触れられるからな?」
「なッ……」
 何言ってるのよ!
 言い掛けた言葉は、絶妙なタイミングでの猫の説明に阻まれる。
「当店は、お好みの品を自由に選んで頂けるセルフサービスの食堂でございます。どうぞ、心ゆくまでお楽しみ下さい」
「リズ、早速選ぼうか」
 女店長の熱い視線を感じながら、アンリはリゼットの手を取り立ち上がる。
「気を付けろよ、リズ」
「……わかったわよ。わからないけど」
 肉じゃがや魚の煮付け等の定番おかずに、唐揚げ、天ぷら等の揚げ物、揚げ出し豆腐や切干大根等の小物まで、数々の一品料理が並んでいた。
 トレイを手に悩みながら、楽しみつつメニューを選んでいく。
 リゼットのトレイには、ご飯に焼き魚、サラダとかぼちゃプリン。
 アンリのトレイには、ご飯、唐揚げ、肉炒めが載る。
 二人は席に戻り、再び並んで座った。
 アンリが水の入ったグラスをリゼットの元へ置く。
「あ、ありがと」
「どーいたしまして」
 少し赤くなってしまったリゼットを、アンリはニコニコと見つめた。
「いただきます」
 二人は料理に手を付ける。
「うまい!」
「……美味しいわ」
 二人の反応に、猫と店長がハイタッチをしているのが視線の先に映った。
 そろりとアンリの手が、リゼットの腰に触れる。
「!? さ、触らないでよこのバ……!」
 キラリッ☆
 店長と猫の視線に、リゼットは慌てて咳払いをした。
「食べづらいわよアンリったら。ウフフ」
 ドスッ。
「ごめんなさいね。肘が鳩尾に。ウフフ」
 アンリは若干青くなりつつも、挫けずに笑顔をキープ。
「プリンうまそうだな、一口くれよ?」
 更にオネダリをする。猫が拍手をしていた。
「プリン? 仕方ないわね……はい」
 リゼットはスプーンにプリンを掬い、彼の口元へ差し出す。無意識だった。
「おぉ……あーんしてくれるなんて、ちょっと感動したぞ」
「た、偶には……ね」
 アンリは瞳をキラキラさせ、パクッっとスプーンを口に含んだ。
「うむ、うまい!」
 満足そうな彼の笑顔に、リゼットはふふっと笑う。
「ついでにリズの味も見させて貰おうかねぇ」
「え?」
 チュ。
 頬に柔らかい感触。
「なっ……!!」
 アンリの唇だと気付いた瞬間、リゼットは立ち上がり拳を振り上げていた。
「こらこら、食堂で埃立てたらだめだろ」
 穏やかに笑いながら、アンリも立ち上がって彼女の手を押さえた。
「う、うれし過ぎてガッツポーズしちゃったの。ウフフ」
 痛いくらいの視線を感じながら、リゼットは引き攣った笑顔を見せストンと座る。
「もぅ……アンリったらぁ。見られたら恥ずかしいでしょ」
「悪かったよ、ハニー」
 アンリを睨んでから、リゼットは彼の背中を小突いた。
「二人だけの時にしてよね……バカ犬」
「わかったよ。後でゆっくり、な」
 アンリはその手を捕まえると、甲に口付けて微笑んだのだった。


●2.

「カップルのふり……? そ、そんな事できる訳ないじゃないですか!」
 店の扉の前で、ティアーゼは首を振って全力で拒否した。
 リンドはにこやかに彼女を見つめている。
 真面目でお固い彼女のこの反応は、予め予測済みだ。
「私は帰らせて貰いますから!」
「待ってよ、ティアちゃん」
 踵を返した彼女の肩を掴んで引き止める。
「この店の料理、凄く評判がいいんだ。前から入ってみたかったけど、いつも凄い行列だし一人じゃ入りづらくて……」
 瞳を伏せ、眉を下げる。ティアーゼの瞳が揺れた。
「うっ、そんな事言われても……」
「ティアちゃんだけが頼りなんだ」
 瞳を僅かに潤ませて見上げれば、ティアーゼの肩が震える。
 やがて、渋々と彼女は頷いた。
「……今回だけですよ」
 計画通り。
「有難う! じゃ、行こう」
 輝く笑顔でリンドはティアーゼの手を引き、有無を言わさず店内へと入る。
「いらっしゃいませ!」
 ピンクの猫が歩み寄り挨拶した。店長も会釈しつつ、二人にロックオン状態だ。
「り、リンドさん、手……!」
 真っ赤になったティアーゼが、必死に手を振り解こうとしている。
「彼女、素直じゃなくて。でもそこが可愛いんですよ」
 リンドが笑顔で言うのに、ティアーゼは軽く混乱状態だ。
「ティアちゃん、フリだから、フリ」
 耳元にそう囁かれたら、頷くしかない。
 席に案内されてから、トレイを手に料理を選びに行く。その際も手はしっかりと繋がれていた。
「ティアちゃん、何にする?」
 ようやく料理を取る段階になって手が離れ、ホッと一息付きながらティアーゼは並ぶ料理を見つめる。
「和食がメインなのですね」
 ふっくらツヤツヤした焼き魚が視界に入った。
 少しだけ躊躇してから、ティアーゼは焼き魚をトレイに乗せる。
(きっと、大丈夫ですよね……?)
 二人は料理が乗ったトレイを手に席へと戻り、向い合って座った。
「いただきます」
 焼き魚に箸を付け、香ばしさに頬を緩ませたリンドは、ふとティアーゼを見て首を傾けた。
「ティアちゃん、何でフォークとスプーンなの?」
 ギクリと彼女の肩が跳ねる。
「何かこだわりでもあるの? なんか魚がすごい姿になってるんだけど」
「あ、その、えっと!」
 ダラダラと冷や汗が浮かぶのを感じた。
 実は箸を使うのが苦手だったりする。
 けれど、そんな事は口が裂けても言えない。
「あ、もしかして箸が苦手とか?」
 ギクゥ!
「いえ、使えます、使えますから!」
 ティアーゼはぶんぶんと首を振って、フォークとスプーンを置いた。
「どうぞっス」
 絶妙なタイミングで、猫が差し出した箸を受け取る。
「とくと見てください!」
 ぷるぷる震えながら、魚へ下ろされた箸は。
 スカッ。
 見事に交差して、魚をすり抜けた。
「なんてベタな……」
「ええと、今日はちょっと指の調子が悪くてですね……」
 ティアーゼが視線を逸らす。
「苦手なのに、魚とかかなり難易度高そうなのにしたとか……」
 堪え切れずリンドの肩が揺れた。クックックッと笑いが漏れる。
「い、いいじゃないですか、食べたかったんです!」
 真っ赤になったティアーゼを見つめ、リンドは箸を持ち直した。
「ティアちゃん、見て。まず持ち方」
 彼女に良く見えるように、箸を持つ手を見せる。
「二本の箸の両方を動かすんじゃなくて、下の箸は固定ね。上の箸を動かすんだ」
 説明しながら、実際に箸で焼き魚を解してみせた。
「ううん、リンドさんて案外器用ですよね……」
 美しく動く箸の動作に、ティアーゼは感嘆の溜息を吐く。
「惚れ直した?」
「もともと惚れてませんから!」
 得意気に微笑む彼に、ティアーゼは即座に言い返した。
「はいはい」
 林檎のような頬の彼女に、リンドは瞳を細める。

「そういえばカップルらしい事してないよね」
「そういえばそうですね」
 デザートにかぼちゃプリンを食べながら、リンドの言葉にチラリと横目で店長の様子を伺う。ニコニコこちらを見ていた。
「カップルらしい事、しておく?」
「えっ?」
「そうだな、あーんとか」
「そ、それはちょっとレベルが高いというか……」
 ティアーゼはリンドを見ると、彼は笑顔で彼女を見つめ返していた。それ以上は何も言わない。
「くっ、箸の借りはこれでなしですよ!」
 ティアーゼは決意すると、プリンをスプーンで掬って、リンドの前へ差し出した。
 スプーンはプルプルと震えている。
「いただきます」
 リンドは笑顔のまま、スプーンをパクッと口に含んだ。
「甘い」


●3.

(ここが噂の桃色食堂……!)
 桃色の店内を見渡し、リオ・クラインは溜息を吐いた。
 恋愛小説に出てくるお姫様の部屋をのような内装は、否が応でもリオのハートを鷲掴みなのである。
 一方。
(めっちゃ居心地悪ぃんだけど……ピンク一色じゃねぇか、おい)
 隣のアモン・イシュタールは、げんなりと眉を顰めていた。
「いらっしゃいませ!」
 明るい店長の声に、リオはハッと我に返る。
(そうだった! カップル専用……)
 チラッと隣で仏頂面のアモンを見上げた。
(ふ、フリとはいえコイツとカップルだなんて……!?)
 果たして上手く出来るのだろうか?
 しかし、やるしか無い。
 ピンクの猫がこちらに来るのを眺め決意を固めた時、予想外の事が起こった。
「いやー、来れて良かったなぁハニー♪」
「?」
 一瞬、誰が誰に話し掛けた言葉であるか、理解が出来ない。
「人気のこの店に並ばずに入れるなんて、ラッキーだよなぁハニー♪」
 隣で笑顔でリオに語り掛けているのは、紛れも無くパートナーのアモンだ。
「ハニーと二人で来れて、本当に嬉しいよ!」
「ぶはっ!」
 思考がやっと追い付くと、リオは息を吐き出し、ぷるぷる震えながらアモンを指差す。
「キ、キミは何を言って……」
 その彼女の肩を、アモンはぐっと引き寄せた。耳元で囁く。
「あくまでフリだろ? いいから乗っとけよ」
「うぐっ……そうだな、だっ、ダーリン」
 シュウシュウと煙が出そうなくらい顔が熱い。
「仲睦まじいカップルさんだわー♪」
 店長の浮かれた声が聞こえる。
 カチコチに固まるリオの背中に手を回し、アモンは猫の案内するテーブルへ彼女をエスコートした。

 リオの前には焼き魚とクリーム白玉ぜんざい。
 アモンの前には角煮が並んだ。
(恋人同士ってどんな話をすればいいんだ?)
 箸を動かしながら、リオは必死で会話の内容を考える。
「だ、ダーリン。今日はとっても良い天気だな」
「洗濯日和だな、ハニー♪」
 どうでも良い世間話に、リオは頭を抱えた。
 これでカップルのフリが出来ているのか?
 アモンの様子を伺うと、相変わらず食い散らかされ汚れたテーブルが視界に入る。
「キミはいい加減行儀を覚えたらどうだ?」
 そう言いながら、自分も少し食事に集中しようとして、彼女の手が停まった。
「……ってあれ? こ、これはどうすれば……」
 良く考えてみたら、焼き魚の骨を取るなんて、生まれて初めてだ。
「あれ? あれ?」
「……仕方ねぇな」
 急にアモンの手が伸びてきたと思ったら、焼き魚の皿が彼の手元へ攫われた。
「俺が骨を取ってやる。お前は食べろ、ハニー」
 アモンの箸が器用に動き、解した身をリオの皿へと置いていく。
「あ、有難う。だ、ダーリン……」
 綺麗に骨のない身は、香ばしくて凄く美味しかった。
 頬を染めるリオに、アモンの口の端が密かに上がったのだった。

 食後のクリーム白玉ぜんざいを口にして、リオはホッと一息つく。
 どっと疲れたけれど、料理は本当に美味しかった。
 そして、このクリーム白玉ぜんざいも甘くて美味しい。思わず顔が綻ぶ。
「なぁ、ハニー」
 そんなリオを頬杖を付いてじっと見つめ、アモンが口を開いた。
「それ、一口食べさせてくれよ」
「な、何でキミに……」
 驚いて瞬きすると、アモンはニィッと瞳を細める。
「前はやってくれたろ、ハニー?」
 リオ自ら差し出してくれた、あのさくらんぼの味は忘れられない。その可愛さも。
「うう……」
 忘れろと言ったのに。
「はい、あーん」
 口を開いて待つ彼に、リオは震える手で白玉を掬って、彼の口へと運ぶ。
「うめぇ」
 可愛い彼女と、甘いデザート。
 また一つ、アモンの記憶に残った。


●4.

 桃色の扉の前に、一組のウィンクルムが立っていた。
「イチャイチャ……うむむ難易度が高いですわね」
 顎に手を当て、深刻そうに呟く。
「ですがご飯の為ですわ! サフラン、頑張ってイチャイチャしましょうね!」
 金の瞳を煌めかせ、ぐっと拳を握ったマリーゴールド=エンデに、サフラン=アンファングは思わずといった様子で笑った。
「ヤダマリーゴールドサンッタラクイシンボサンー」
「だって、普段は行列で入る事さえ難しい所なんですからっ」
 エヘンと胸を張る。
 まぁ、それは分かるけれども。
 サフランは店の看板を見上げて呟いた。
「ところで、イチャイチャは頑張ってするものなの?」

 マリーゴールドとサフランは手を繋いで店内へと入った。
「いらっしゃいませ!」
 明るく出迎えた店長の視線が、二人の繋がれた手にじっと注がれる。
(意識するとちょっとだけ恥ずかしいですわね……)
 マリーゴールドは、平常心と心で唱えた。
 だって、鼓動が早くなったら、きっとサフランに伝わってしまうに違いないから。
「お席に案内するッス!」
 猫にテーブル席へ案内されると、向かい合わせで座る。
「あれ? 隣同士じゃなくて良かったッスか?」
 猫が不思議そうに首を傾けたのに、マリーゴールドは微笑む。
「ご飯って相手の顔を見ながら食べると美味しいんですの」
「成程! ごゆっくり楽しんでくださいね♪」
 ペコリと頭を下げて去る猫を見送ってから、トレイを持って料理を取りに向かった。
「へー、自分でトレイにとって選ぶ形なのか」
 サフランは物珍しげに、棚に並ぶ一品料理を眺める。
「目移りしますわね……!」
 豊富なメニューに唸りながら、マリーゴールドはサフランを見上げた。
「サフランは普段何を頼んでいたんですの?」
「うん? 俺?」
 サフランは料理からマリーゴールドへ視線を移す。
「えぇ。サフランはどんな食生活をしていたのかなって」
「俺はまぁ手作りなら何でも」
 そう言って、再び料理達へ視線を戻した。
「特に気にして頼んでいた事はないかな」
「好き嫌いがないって事ですわね」
 良い事ですわとマリーゴールドが笑う。
「あ、でも、魚とか野菜系が多かったかも」
「お魚や野菜ですか。成程」
 覚えておこうと、マリーゴールドは思った。
「それにしても悩むネ」
 マリーゴールドは、踊るような動きの店長へ視線を向けた。
「こういう時はお店の方にオススメを聞くに限りますわ」
 彼女が手を挙げると、直ぐに店長がやって来る。
「本日のオススメは、肉じゃがとお味噌汁ね。お味噌汁はシメジと小松菜で、美肌効果もあるのよ♪」
 二人は肉じゃがと味噌汁、ご飯をトレイに載せて、席に戻った。
「いただきます」
 二人で一緒に手を合わせ、箸を付ける。
「お芋がホクホクですわっ♪」
「味噌が甘くて染み込んでくるネ」
 顔を見合わせ、微笑み合う。
 暫く料理を楽しんだ。

「サフラン知ってました? お味噌汁って家毎に味が違うんですって」
 飲み干した味噌汁の器を置いて、突然マリーゴールドがそう言った。
「味噌汁? 何かで読んだことあるな」
 サフランも手元の器へ視線を落とす。
「マリーゴールドサンッタラツクッテクレルンデスカー?」
 冗談のつもりで問い掛けると、マリーゴールドは花が咲くような笑顔で一つ、頷いた。
「うふふ。そうですわね、今度作ってあげますわっ」
 不覚にも数秒停まってしまってから、サフランは瞬きする。
 からかうつもりだったのに。
「楽しみにしてマス」
 笑顔の彼女を見つめ、少し悔しいような気持ちになるのは何故だろう。
 誰かと一緒に食事をする。
 今はマリーゴールドが居るから当たり前の事だけど、少し前まで、サフランはそれについて余り考えた事がなかった。
(食事は栄養を取る為って言ったら、知り合いに叱られたっけ)
「腕によりをかけて作りますわねっ」
 だって食べている時のサフランの表情、とても穏やかで何だか嬉しそうですもの。
 そんな彼の表情が見れるなら、お安い御用。
(本人は気付いてないみたいですけれど、ね)
「マリーゴールド」
 不意にサフランの手が伸びて、微笑む彼女の口元に触れた。
「ご飯粒」
 マリーゴールドが驚いて固まった間に、サフランは彼女にご飯粒を見せ、パクッとそれを自分の口へ入れたのだった。


●5.

 日が傾き夜の気配が漂う時間帯。
 また一組のウィンクルムが桃色の扉を開いた。
 しかし、彼女達は今までのカップルとは少し違っていたのだ。

「いらっしゃいませー!」
 店長の声を背に、八月一日 智はパートナーを見上げる。
「なー、みずたまり、そろそろ機嫌直してくんねぇ?」
「……」
 水田 茉莉花は、ムスッと智を一瞥した。
 険悪そうな二人の空気に、店長と猫は顔を見合わせる。
『喧嘩ップル?』
 しかも茉莉花の方は疲労困憊オーラが漂っていた。
 二人は席に案内されると、直ぐに料理を取りに向かう。
 雑穀米と焼きホッケ、味噌汁にお浸し、ひじきの煮物。
 迷わず茉莉花はトレイにそれらを載せた。
 それから、徐ろにサラダを手に取ると、智のトレイに問答無用で置く。
「カツ丼と豚汁と……あ、みずたまり、何すんだよ!」
「野菜も食べるっ」
 茉莉花に睨まれ、智は渋々そのままトレイを持って席へと戻った。
「ほづみさん、お座りっ!」
「わん!」
 智は反射的に思わず椅子に座る。
 トレイをテーブルに起き、向かいの席に座った茉莉花の瞳が険しく光った。
「何で3ヶ月前の研修報告書が、ほぼ白紙の状態で見つかるんですか。しかも3日分!」
 ダンッ。
 叩かれたテーブルが揺れ、料理も揺れる。
「ああいや」
 智が明後日の方向を見た。
「書くのメンドくて机の上に放り投げてたら、忘れちゃったぁ……」
 空笑いしつつ、智は箸を取ると、取り敢えず食べる事にした。
 だって、お腹が減っているのだ。
 茉莉花も箸を取ると、雑穀米を掬って口に入れる。
 もぐもぐ。ごっくん。
「じゃあ、あたしが机の上片づけなかったら、ずーっと書かなかったんですか?」
 味噌汁を飲んで、ジロリと智を睨む。
「そ、そーなる、かなぁ?」
 豚汁を啜りながら、智は再び明後日の方向を見た。
「いやぁね、一緒の家に住まわせてもらってるんだし、働かざるもの何とやらで、ほづみさんの会社で専属秘書のようなことやってますけどね」
 焼きホッケを解しながら、カッと茉莉花の瞳が光る。
「あの片づけなさはヒドいと思うわけ!」
「ア、ハイ、スミマセン」
 カツ丼のカツを頬張りながら、智は小さく頭を下げた。
「あたしが居なかったら、大変な事になってますよ!」
「カンシャしてマス」
「本当に反省してるんですかっ?」
 カツを飲み込んで、智はまん中部分のカツを箸に取った。
「みーみみみみずたまり……これ、やる」
 茉莉花へと差し出す。
「……何そのカツ? 仲直りの品って訳?」
 カツを一瞥し、茉莉花が智を見た。
「美味いから! ほらっ!」
 笑顔でカツを示すと、茉莉花はふっと息を吐き出す。
「良いわよ、ここに置いて」
 少し表情を緩めると、彼へ茶碗を差し出したのだが。
「?!」
 智はテーブル越しに目一杯身を乗り出すと、茉莉花の口の中へカツを入れたのだ。
 所謂『あーん』である。
 口いっぱいに広がるカツに、直ぐには言葉が出ない。
「な、美味いだろ! 丁度真ん中は脂身少なめで美味いんだぜ♪」
 智はニコニコと茉莉花を見ていた。
 もぐもぐ、ごっくん。
「ほー、ほほほ、ほづみさん」
「ん? もう一切れ欲しいのか?」
 ぷるぷる震える彼女に首を傾ける。
「口の中に突っ込むってそれ……間接キスじゃないですかバカー!!」
 茉莉花は立ち上がると、ポコポコと智へパンチの雨を降らした。
「あ、コラ、でかっちょ、そんなに叩くな! いててて」
「でかっちょって、言うなー!」
「美味いだろ! 来てよかったろ! ……いてて」
「美味しいけど、それとコレとは別よーッ」
「あのなー、俺の嫁になるんだから少しは慣れろよー」
「だ、誰が嫁かーッ」


「店長」
「何? 桃太郎クン」
「喧嘩ップル、イイっすね」
「だよねーッ」


Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:リゼット
呼び名:リズ
  名前:アンリ
呼び名:アンリ

 

名前:水田 茉莉花
呼び名:みずたまり・まりか
  名前:八月一日 智
呼び名:ほづみさんさとるさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月07日
出発日 09月13日 00:00
予定納品日 09月23日

参加者

会議室

  • [5]水田 茉莉花

    2014/09/11-22:33 

    あ・・・水田茉莉花でっす。仕事帰りでっす。
    匂いに釣られてほづみさんと入りました。

    ・・・そんなところ?そんなの関係ないわよ
    今日はほづみさんのおごりだから来ただけだし!
    (PL:完全に気付いてない神人ですが・・・ガンバレ精霊君!

  • [4]ティアーゼ

    2014/09/11-21:15 

    ティアーゼと申します。よろしくお願いしますね。
    か、カップルのフリをしなければいけないなんて、聞いていないのですけど。
    それだったらまだ並んだ方がましなのですが…。

  • マリーゴールド=エンデと申します。
    皆様、どうぞよろしくお願いします!

    美味しそうなご飯につられてきましたら、カップルらしい事ってどんな感じかしら……。
    ……い、意識すると、何だかちょっとだけ恥ずかしいですわねっ

  • [2]リオ・クライン

    2014/09/11-13:36 

    リオ・クラインだ。
    ふ、フリとはいえ恋人同士だなんて・・・!?
    上手く出来るだろうか・・・。

  • [1]リゼット

    2014/09/11-00:55 

    リゼットよ。よろしくお願いね。
    かわいいお店だと思って来てみたら…こんなの聞いてないわ!
    …まあ、入るけど。お腹すいたし。


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