プロローグ
とある秋晴れの日、コンコンといい音を立ててA.R.O.A本部の扉がノックされた。
「はぁい、どうぞ」
受付嬢が返事をすると扉が開き、すらりとした体躯の男性がにっこりとほほ笑む。
「こんにちは、初めまして。A.R.O.A本部はこちらで間違いなくって?」
「はい」
プラチナブロンドのセミロングヘアに水色の瞳。陶器のように滑らかな白肌。にそぐわない濁声。
「アタクシ、大鎌ケリーと申します。メイクアップアーティストをやってますの」
そういいながら、彼は名刺を取り出して受付に差し出す。名刺からふわりと薔薇のフレグランスが香った。
「おおかま……さん?」
「やんっ、ケリーって呼んで頂戴」
くねっと体をしならせ、彼は上目づかいでこちらを見やった。悔しいけれど、かわいい。
「あの、180㎝の長身でくねらないでください」
受付嬢はとりあえず突っ込みを入れてあげないといけないと判断した。
「本題なんだけど、アタシ今個人作品のネタ探し中なのよぉ。今度写真集を出すんだけどね、いろんな人をアタシの手でメイクしてあげるっていう企画のページがあるのぉ」
そこまで一息で言い切り、ケリーは髪の毛の先をくるくると指でいじりながらこう切り出したのだ。
「それでね、……アタシ、オトコノコをメイクアップしたいなって思ったのヨ」
「はい」
「ウィンクルムの皆さんは、ほら。絵になりそうじゃない?しかもウィンクルムはかた~い絆で結ばれてらっしゃるんでしょ?絆って美しいわよね。アタシの求めてるものってやっぱそれなのよ~!」
オオカマはよくしゃべる。
「ほう」
「と、いうわけで、是非!アタシの作品に協力してくれる……メイクさせてくれて、お写真撮らせてくれちゃう男子っ。募集したいんだけどいいかしら~?」
「わかりました、募ってみますね」
「撮った写真はその場で現像して差し上げるつもりだけれど、経費がどーしてもかかっちゃうのよね、それを了承してくれる方で頼むわン」
アタシ専属のプロカメラマンが来るから腕は確かよ、素敵な思い出になるわ。と彼は付け足してウインクを一つ。
「オトコノコにもね、変身願望ってあるはずよ、きっと来てくれるってアタシ信じてるわ」
解説
●目的
オオカマことケリーさんの作品協力
(ケリーの手でメイクを施してもらう&その後スタジオ撮影)
参加費:200ジュール(ここにお写真お渡し代も含まれております)
*神人もしくは精霊はたまた二人とも……に、メイクを施します。
変身したパートナーに可愛い!きれい!なんて惚れ直しちゃったり
似合わないねー!!と爆笑したり楽しみ方は皆様それぞれ。
お写真はペアかピン(メイクした方のみ)かお選びいただけます。
*基本はケリーが選んだ服を着ていただきますが、着用したい服の指定がある場合は取り寄せます。
取り寄せたい場合はどんな服か明記いただき、手数料100ジュール頂きます。
別途アクセサリー(ヘッドアクセサリーや小道具含む)をご希望の方は、さらに50ジュール頂きます。
*メイクのイメージ(色や、雰囲気)をお伝え頂きますと基本的にそのようにメイクいたします。誰にどのようなイメージのメイクをしたいか、プランにどうぞ!
が、ケリーが「こっちの方が似合うわよ~!」とアドリブをぶっかます可能性も否定できませんので悪しからず。
☆補足
ケリーにはちゃんと年上の彼氏がいるので皆さんがどんなに美しくともその気にはなりませんので安心してください(笑)でも、メイクって顔を触りますからね。ウィンクルムたちのいろんな一面が見れそうですね。
ちなみに彼の本名は大鎌健三郎です。呼ばれると怒ります。
ゲームマスターより
こんにちは、寿です。つよくてにゅーはーふ。失礼しました。
メイクって楽しいですよね~。女装男子ってきれいな人はほんとに綺麗で。
もちろん!雄々しいメイクもどんとこいですよ。
アドリブOKの方は是非そのようにお伝えください。
ケリーが面白楽しくラブロマンスしてくれると思います。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
スウィン(イルド)
ねえ、メイクしてみない? (楽しそうにイルドをちらっと見る イルドにメイクさせようと依頼を受けたが 拒否され撃沈。自分がする事に ケリーに会う前はしゅんとして) うぅ、イルドのメイク楽しそうだったのに… おっさん、口調はちょっと(?)オネエっぽいけど オネエってわけじゃないからメイクなんてや~よ~… (ケリーに会えば、失礼になるといけないのでしゃんとして もうどうにでもなれ状態) よ、よろしくぅ…ははは (メイク後鏡を見ても自分を可愛いとは思えず 唇を尖らせ) ほら~、やっぱおっさん、おっさんだし… (せめてもの嫌がらせとしてイルドにキスマークを付け ケラケラ笑い) 付けちゃった☆ さ、それもばっちり写真に撮ってもらいましょ♪ |
シルヴァ・アルネヴ(マギウス・マグス)
メイク:神人のみ メイクのコンセプト服装お任せ 「A.R.O.A.って、たまーに変な依頼受けるよな?」 だらっとした格好で本部を訪れ、依頼内容に首を傾けている。 わりと軽い気持ちで依頼を受けてみたが…… 「わぁ、本当にオオカ…」 ケリーって呼んでという声がすかさず飛んだらケリーさんと呼ぶ 詳細説明前にしゅぴっと手を挙げ 「ケリーさんは、彼氏とかいるんですか?」 んもぅからかわないで、とか言いつつも惚気話を聞けそうだったら聞きながら すべらかな手で、手際よく肌を作られメイクが進む 「ケリーはどうしてこの仕事選んだの?」 顔や髪を触られるのは何だか眠くなるが 手に職を持つプロの意識を聞かされると、何だか尊敬してしまうかも。 |
栗花落 雨佳(アルヴァード=ヴィスナー)
うーん、そろそろAROAの職員さんに僕達は別に女装趣味な訳では無いって念を押しておいた方が良いかな…? まぁ、でもほら。困っている人はほっとけないよ…まぁ、無理にとは言わないけど……一緒に来てはくれるでしょ? えっと…化粧の事はよくわからないので、お任せしたいのですが… どんな感じが良いと思います? 洋服は…あんまりふりふりしているのはちょっと…いや、着ろと言われれば着ますけども 前回女の子のドレスを着たら重たくってびっくりしたので… 本当はあんまり写真は好きじゃないんだ リアル過ぎて怖いっていうか…だから僕は写真いらない アルにあげるよ ・クリエイターのイメージに忠実にあろうと指示に従うが、物憂げな雰囲気 |
瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
緊張するな 普段、愛想悪い顔をしているだけに上手く笑えるか心配だ せめてケリーさんが来るまでは 作り笑いだけでも出来るようにしとかないと メイク? 個人的には薄紫のアイシャドウに、黒マスカラとアイライン チークは薄い桃色、口紅は・・・・・・出来るなら薄紫を希望 合わなければ、ケリーさんのセンスにお任せします 服やアクセサリーは特に希望はないですから、 その・・・・・・今日はよろしくお願いします それにしても、この顔がおれ? いや、もっと酷い顔になるかと思っていたから 珊瑚、化粧の出来はど・・・・・・何だ、その顔は 鏡見たのか? 何って化粧どころか、おてもやんになってるぞ おてもやん?あとで電子辞書を貸すから自力で調べてくれ |
エルド・Y・ルーク(ディナス・フォーシス)
「『オトコノコにもね、変身願望ってあるはず』 ならば、この老体にも新たな魅力に目覚めてみたいものですねぇ」 この度は、素敵なメイクアップに写真までお願い出来るようで ……ディナス?どこに行くんですか 貴方ももちろん一蓮托生ですよ、決まっているではありませんか、ねぇ(とても嬉しそうに) そうですねぇ…新しい試みでしたら、この老体の傷も、隠すよりもアレンジをして新たにメイクアップを施していただけませんか?もちろん形式や慣習には囚われないで頂いて思いっきりに 服は如何な形でも問いませんが、ここは敢えて『一番似合うと思っていただいたもの』をお願いしましょうか 写真はディナスと並んで是非 どの様なものでも楽しめそうです |
「A.R.O.A.の依頼はこんなのばかりなのですかーーーッ!!」
叫び声が響き渡る。声の主はディナス・フォーシス。その横では彼の神人であるエルド・Y・ルークが穏やかな笑みを湛え、依頼書に目を通していた。
「『オトコノコにもね、変身願望ってあるはず』……ならば、この老体も新たな魅力に目覚めてみたいものですねぇ」
「え?……まさか、ミスターあなた……」
エルドは頷く。そうして彼に引きずられるようにしてやってきたのは……。
「いらっしゃぁい!待ってたわよぉ!」
ケリーは体をくねらせ、会釈をする。
「この度は、素敵なメイクアップに写真までお願い出来るようで……ディナス?どこに行くんですか」
笑顔で挨拶を交わす二人の横をすり抜けようとしたディナスの腕を取り、エルドは更に笑みを深める。化粧を施されるのはエルドだけ、自分は見ていようと思ったところやはりそう一筋縄には行かないもので。
「……僕もメイクをするのですか?」
「貴方ももちろん一蓮托生ですよ、決まっているではありませんか、ねぇ」
それはもう、とても嬉しそうに言うものだから。そこにケリーも畳み掛けるように続ける。
「んまっ。なんて端正な顔立ちなのあなた!そのままでも充分美しいけどこれはね!ケリーの手で更に輝かせてあげたいところね」
ん?ケリー?
「依頼書には『大鎌健三ろ…』」
ギッとケリーの視線が殺気を帯びたものに変わる。察してディナスは口を閉ざし、仕切りなおす。
「ケリーさん宜しくお願いします」
棒読みでそう頭を下げるとケリーは頷き、二人を席へ案内した。
「さあ、どうしようかしら?何かご希望はあって?」
「そうですねぇ……」
エルドは少し悩んでこう付け加えた。
「新しい試みでしたら、この老体の傷も、隠すよりもアレンジをして新たにメイクアップを施していただけませんか?」
ケリーの手がエルドの傷をなぞる。そして、納得したように一度頷いた。
「わかったわ。服は似合うものがいいってアンケートに書いて頂いてたけれど、私その白いスーツが素敵だと思うの。それに、白の中折れ帽を合わせましょう」
そうして、ケリーはブラシを持ちベースメイクを始める。そして、傷の周りにシルバーのアイライナーで絵を描き始めた。それは、白蛇。横で見守るディナスはそんなメイクもあるのだと感嘆のため息を漏らす。ほどなくして、エルドの左目の大きな傷は頬を這う白蛇へと変わっていった。口の左端には赤い大きめのラインストーン。白蛇が咥えてエルドに差し出すかのようなデザインだ。
「思いっきりにって言ってくださったから、ちょっと攻めたデザインにしちゃったかしら?でも、よくお似合いよ。次はディナスさんね。エルドさんは撮影までほんの少しお待ちになってね」
ディナスは遠い目で何かつぶやいている。
「……今更、何を、失うものがあるというのでしょうか……ええ本当に……」
彼は以前にも依頼で女装をこなした身。しかも脱毛まで。意を決して頭を下げる。
「やると決めたからにはとことん決めたいところです、女性用だろうと問いません。是非、美しく整えてください」
「んまぁあっ!」
ケリーは手を合わせ、目をキラキラと輝かせて何度も頷いた。
「任せてくれるのね!じゃあ衣装はこれで!あと、メイクはセクシーに決めましょ!せっかくエルドさんに白蛇を描いたから、そのイメージで!」
ディナスの白い肌には内側からぽっと灯るような薄橙のチーク、唇には元からその色だったかのような血色ピンクが彩られていく。まつ毛長いのね~なんていいながら、ビューラーでまつ毛をしっかりと上げると、そこには女性とも男性とも取れぬ神秘的な姿が出来上がっていた。ギリシャ彫刻のようなヒマティオンを身にまとい、エルドの左横に並ぶ。
「完璧よ!そのまま、エルドさんの顎に左手を添えて?そうそう、誘うような感じで。いいわねェ」
そうして、シャッターが切られる。エルドは小さな声でディナスに告げた。
「妖艶ですよディナス、……恐ろしいほどに」
後日付けられた写真のタイトルは“temptation”。
そんな中、二組目のウィンクルムが現れる。時間ぴったりだ。
「A.R.O.Aって、たまーに変な依頼受けるよな?」
だらりとした恰好でやってきたのは神人のシルヴァ・アルネヴ。その横でこくり、と頷いたのが精霊のマギウス・マグナ。
「あらっ、……お二人はよく似ているのね。やっぱりずっと一緒にいると似るのかしら?」
にこっと笑ってケリーはよろしくねと右手を差し出す。頭をさげ、シルヴァは感心したように呟いた。
「わぁ、ほんとにオオカ……」
「ケリーって呼んで」
ピシャッとケリーの制止が入るや否や言い直す。
「はーいケリーさん!」
「よろしい。そっちの彼はメイクはなしなのね?」
「はい」
マギウスが頷くとじゃあ、撮影だけは参加してねと微笑む。
「メイクの間暇よね、これ、過去の作品集なんだけどよかったら見てて?」
そういってマギウスに手渡されたのは切り抜きのアルバム。今までの雑誌モデルのメイク集だ。
シルヴァを椅子へ座らせ、タオルを肩から胸にかける。何か質問はある?と聞かれ、あ、とシルヴァが漏らした。彼は元気に右手を挙げる。
「ケリーさんは、彼氏とかいるんですか?」
「んもぅ、からかわないでっ」
なんていいながらも、ケリーは嬉しそうだ。シルヴァはへへっと笑ってつづける。
「いるんだ。どんな人なんですか?」
「彼はね、美容師なの。この髪も彼に切ってもらってるのよ」
「へぇ、同じ美容関係なんですね!」
そーなのよ、と頷きながらケリーは手際よくシルヴァの顔に化粧水を叩きこみ、下地を塗り、少し白めのリキッドファンデーションを手に取り、伸ばしていった。するする、と自然な流れでいつもは褐色をしたシルヴァの肌が白く染まっていく。
「どこで出会ったんですか?」
「ファッションショーのヘア担当とメイク担当で同じモデルさんを担当したの」
彼の銀のウルフヘアに、マギウスと同じ黒髪のセミロングウィッグを被せ、馴染ませていく。次に、薄桃色のチークをブラシにたっぷりと含み頬へ。
「ケリーはどうしてこの仕事を選んだの?」
優しく髪や顔を触られるとなんだか眠たくなってくる。マギウスはそのやりとりをケリーの作品集を見ながらゆったりと聞いていた。あ、今呼び捨てになった……大丈夫かな。
「仕事の理由か……コーリングってやつかな」
「コーリング?」
「天職ってことよ」
なんてねと照れくさそうに笑うと、シルヴァは目をキラキラさせてケリーを見つめる。
「すごい!それってなるべくしてなったってこと!?」
「そ、ウィンクルムみたいに……なぁんてかっこいいこと言いたいけど、努力してもがいてもがいてここまで来たのよ。……ハクチョウと一緒……なんちゃって」
あ、目を閉じてね。と付け足し、手に取ったブラウンのアイシャドウを薄く伸ばしていく。アイラインをブラウンで引き、まつ毛にはブラウンのマスカラ。ホットビューラーで自然なカールをつけている間、シルヴァはさらに続けて質問した。
「じゃあさ、どんなときに遣り甲斐感じてる?」
シルヴァの唇にベージュゴールドのリップグロスを引きながら、ケリーは答えた。
「……お客様が笑顔になってくれたときね。ああ、綺麗になるお手伝いができたんだなって思うの。彼も、同じって言ってた。価値観が合うのよね」
さ、できたわよ!と鏡を手渡すと……。
「こ、これが私……?!」
お約束のあれである。ノリよく手鏡を覗き込んだシルヴァはほぅっとため息をついてみせた。ケリーは満足げに頷く。目をキラキラと輝かせ、シルヴァはくるりとマギウスを振り返った。
「私きれい?」
その問いかけに、頷くわけでも無く無感動な表情でマギウスはじっと見つめる。それもそのはず。自分と同じ黒髪のウィッグに、自分とうり二つの顔が今日は色白になっている。それに、非の打ちどころのない美少女メイク。
「ちえー。マギはこういうの絶対褒めないよなぁ」
笑いながら更衣室へ衣装替えに行くシルヴァの背中を見つめながら、マギウスは複雑な表情を浮かべた。ほどなくして、女性用の白いワンピースに着替えたシルヴァが登場。手やデコルテまで綺麗にファンデーションが塗られ、肌の色はほぼマギウスと同じくなっている。撮影に入る前に軽く手を引き、マギウスはこっそりとシルヴァに告げる。
「瓜二つの相手の容姿を褒めるのは、微妙じゃないですか?」
ぷっとふき出し、シルヴァはマギウスの肩をバシバシ叩いてこう返した。
「褒めたいか褒めたくないかでいいと思うぞ」
ん、と考え込んだところ、ケリーからポーズの指示が入る。向かい合って両手を合わせたポーズで、シャッターが切られた。直後、シルヴァの耳元に唇を寄せ、マギウスは一言だけ。
「綺麗です。とても」
パッと顔をあげ、シルヴァははにかんだ笑顔を見せた。なんだか妙に気恥ずかしくて。いつもは冷静なマギウスは少し胸を高鳴らせながら俯いた。後に写真につけられたタイトルは“鏡”。
三組目のウィンクルムは……。
「おい、あの職員さも当たり前の様にこの依頼投げてきたぞ。お前、そろそろ本気で身の振り方改めないとどんどんエスカレートするぞ……。俺はしらねぇぞ?」
線の細い儚げな青年、栗花落雨佳の後ろからその精霊のアルヴァード=ヴィスナ―。何やら言い争いながら歩いてくる。
「うーん、僕達は別に女装趣味な訳では無いって念を押しておいた方が良いかな……?まぁ、でもほら。困っている人はほっとけないよ……まぁ、無理にとは言わないけど」
「俺はやらないからなっ!」
「あらん、残念」
会話にするっと自然にもぐりこむケリー。
「よく来てくれたわねェ、ありがと!雨佳さんにアルヴァードさんね?」
「俺は!やらないからなっ!」
「わかったわよぉ、でも見守ってあげててね?絶対似合うメイクしたげるからっ」
わーったよ、と呟き、アルヴァードはスタジオの隅に腰かけた。雨佳はすとんと椅子に腰かける。
「えっと……化粧の事はよくわからないので、お任せしたいのですが、どんな感じが良いと思います?」
「そうねぇ……あなたの神秘的なイメージ……名前にも雨って入ってるけどそのイメージを活かしてみようかしら」
任せてもらっていいの?そう尋ねると、雨佳はお願いしますね、と頭を下げた。遠巻きに見つめながら、アルヴァードはぼんやりとこんなことを思う。
(……あいつは元々モデル……『被写体』になる様なやつじゃない。あいつも表現者の方だからな……そういった意味で、同じ表現者として困ってるやつをほっておけ無いってとこか)
雨佳は絵を描くことが大好きで、それへの執着も際限がない。表現者として、どこかケリーに同調するところがあったのだろう。それがわかっているからこそ、アルヴァードはこの仕事を止めなかったのだ。
「お肌、何も塗らなくてもいいくらいきめ細やかね」
ケリーはそういいながらも肌の保護のため保湿液と下地、白粉を雨佳の肌に乗せていく。アイラインはネイビー。マスカラもそれに合わせたロングタイプ。頬にうっすらと桃色を乗せていく。なんだかキャンバスに描いていくみたいだ。そんな風に思いながら、雨佳は目を閉じてメイクの完成を待った。
「唇は……そのままでも本当に綺麗ね。透明なグロスだけ塗らせてね。荒れない保湿グロスだから安心して」
ケリーが筆でグロスを乗せると、雨佳の唇は朝露を受けたように更に瑞々しく輝いた。そして……。
「洋服は……あんまりふりふりしているのは……」
言いかけたところでケリーがにっこりと笑う。
「この造花。今着ているカットソーの上からピンとクリップで止めても大丈夫かしら?」
シンプルな雨佳のカットソーに、上等な紫陽花の造花を一つ一つつけていく。元から胸元が開き気味の服に付けたものだから、すっかり紫陽花を身にまとっているような風貌になった。左耳には一滴の水晶を飾り、完成。
「できたわよ、アルヴァードさん」
顔を挙げた雨佳とアルヴァードの視線が合う。
「っ!」
一瞬顔がカッと熱くなり、アルヴァードは慌てて下を向いた。口元を押さえ、気持ちを落ち着けようとため息を一つ。
「アル?」
(……にしても、なんでこんな事に……っ!似合いすぎてシャレになんねぇんだよ……っ)
そんなこと、言えない。
「どお?神秘的でしょう?紫陽花の妖精みたいでしょう?」
「紫陽花の……妖精」
そんなイメージで作ってたんだぁと納得しながら雨佳は鏡を覗き込む。
「撮影、お願いするわね」
「ああ、はい」
どんな表情をしたらいいのかな?とケリーを見やると、ケリーは察して答える。
「そのままの表情で良いわ。遠くを見つめる感じで」
雨佳は何処か遠い場所を見つめるような儚げなおぼろげな雰囲気で写真に納まった。タイトルは“紫陽花の雫”。
「ありがとうね。はい、こちら、お写真よ」
デジタルで撮った方の写真はすぐに名刺サイズに現像され、手渡される。雨佳はありがとうございます。と答えるも、それをすぐにアルヴァードに渡した。
「本当はあんまり写真は好きじゃないんだ。リアル過ぎて怖いっていうか……だから僕は写真いらない」
「いらねぇ……って……折角貰ったんだからしまっとけよ」
「アルにあげる」
「あげるって……い、いらねぇよっ!持っててどうしろって言うんだよっ!?」
怖いからいらない、と言った雨佳だが、アルヴァードを見つめてもう一度繰り返す。
「アル、……いらないの?」
自分が持つ分には怖いけれど、アルになら持っててほしいかな、なんて。
「~~~~!ああもう!」
照れくさいやら恥ずかしいやらなんだかよくわからないけれど。写真でも雨佳を捨てることなんてできやしないし、確かに美しいとは思う。アルヴァードは、静かにその写真をメモ帳に挟んでポケットに突っ込んだ。
四組目のウィンクルムは今まさにメイクスタジオの扉を開けんというところで。
「ねえ、メイクしてみない?」
そんな風に切り出したのは神人のスウィン。精霊のイルドは大きくかぶりを振る。
「俺が似合うわけないだろ!責任持っておっさんがメイクしろよ!」
「うぅ、イルドのメイク楽しそうだったのに……おっさん、口調はちょ~っとオネエっぽいけどオネエってわけじゃないからメイクなんてや~よ~……」
しゅんと俯いてしまうスウィンにイルドは呆れて返した。
「じゃなんで依頼受けたんだよ」
「イルドのが見たかったんだもん」
がちゃ、と扉が開く。
「来てたんなら入ってよかったのよ!遠慮しないで!ささ、どーぞ!」
ケリーが笑顔で招き入れると、スウィンはスッと居住まいを正した。
「よ、よろしく~……ははは……」
もうどうにでもなれだ。スウィンは招かれるままメイク用の椅子に腰かける。イルドは自分はメイクはしないことを伝えるとソファに座ってスウィンを待つことにした。
「え……!え!?スウィンさんアタシより年上なの~!?」
ケリーはエントリーシートを再確認し、驚きの声を上げる。
「そーよ、おっさん、おっさんなのよ~」
「見えないわよ!若い若い!肌もきれいだし!」
「褒めてもなぁんもでないよ~」
はは、と苦笑いすると、ケリーは鼻息荒く告げた。
「絶対超ど級の美女になるわね、うん」
「えっ」
不安そうな顔をするスウィンをよそに、ケリーは下地を整えていく。ブラウンとゴールドのアイシャドウで品よく、頬紅は薄いオレンジ。セミロングのゆるふわカールのウィッグを被せ、耳には小ぶりの銀のイヤリング。
「目を軽く閉じていただける?」
ボリュームタイプのマスカラでふわふわのまつ毛に仕上げ、唇には。
「ワインレッドね。大人にしか似合わない色よ。……はい!できた」
手渡された鏡を覗き込み、スウィンは口を尖らせる。……ほらね。おっさんなんてかわいくない。
「ほら~、やっぱおっさん、おっさんだし……」
「そんなことないわよっ!ちょっと!イルドさん!?どう思う?」
呼びかけると、イルドが顔を上げる。用意していた言葉を言おうと唇を開く、が
「似合……っ」
わねぇ、とも、う、とも……言えない。おっさんにゃ似合わねぇなと笑い飛ばすつもりが。
(くそっ……)
ワインレッドの唇が、つやつやと艶めかしく光っている。不意に高鳴る鼓動に動揺していると、唇の横、顎のあたりに柔らかい感触。
「付けちゃった☆」
ケラケラと笑いながら、用意された白いブラウスに上だけ着替える。ナイス!とケリーが手を叩く。
「ば、バカ!何しやがるっ……」
「さ、それもバッチリ撮ってもらいましょ!」
おっさんのくせに、柔らかい唇しやがって、いや違うそうじゃなく、おっさんのくせに……。混乱と羞恥に苛まれながら顔を真っ赤にしながら、イルドはスウィンの横に並ぶ。その写真のタイトルは“ルージュ”
最後の一組は、硬い表情で入室したのが瑪瑙瑠璃。そして、彼の精霊瑪瑙珊瑚だ。
「ようこそ!」
まず、瑠璃を椅子へと案内する。一方で珊瑚は興味津々でケリーのメイク道具をあれこれと見ていた。
「瑠璃さん、希望を事前に書いてくれてたけど」
「合わなければ、ケリーさんのセンスにお任せします」
ぺこ、と頭を下げるとケリーはううん、と首を横に振り、答えた。
「良いと思うわ。ちょっと待っててね」
するり、とファンデーションを塗り伸ばし、薄紫色のアイシャドウを瞼に乗せる……とその時。
「すげぇすげぇ!赤、青、黄色、緑……いろんな色があっぞ!?やべぇ、瑠璃!面白いんじゃねぇ?オレ、これ使いたい!」
無邪気でかわいいわね、なんてケリーは笑っている。
「珊瑚ちゃんは?なにがいいの?」
ついつい、ちゃん付けなんてしてしまって。
「アイシャドウ?じゃあ、これ使う!アイライン?そこの茶色がいい、マロンブラウンみたいなやつ」
ケリーが瑠璃のアイメイクをしている間に珊瑚は次々手に取って並べ始める。カチャカチャとブラシの音が聞こえた。
「あら、あなた自分でするの?」
ケリーが尋ねると、時すでに遅し。珊瑚はなんとも器用に珊瑚色のアイシャドウを瞼に乗せ始めていた。続きは?と聞くと。
「え!?チーク!?面倒くせぇな、薄いオレンジでいいよ。で、口紅の色だな!オレはこの、チェリーピンクみたいな色を使うぜ!」
そうこうしている間に、瑠璃のメイクアップが完了した。品のいい涼しげなラベンダーカラーのアイメイクに、リップはプラムカラー。
「薄紫を入れようと思ったらちょっと血色が悪くなっちゃったから。プラムもなかなかでしょ?」
ケリーが手渡した鏡を覗き込み、瑠璃は呟いた。
「それにしても、この顔が俺……?」
「なんで?」
「いや、もっと酷い顔になると思ってたから……」
「失礼ねっ」
「おお!早速お出まし!?瑠璃、てぃんさぐやっさーね、まだまだもっと派手に行こうぜ!派手に!」
くるっと振り返った珊瑚の顔を見て。
「ぶふっ」
ケリーが盛大に吹き出した。
(わや……)
瑠璃が軽く頭を抱える。
「ちゃーやっさー?わん、ちゅらかーぎーやっさーろ!?」
盛んに自分の美しさを褒めろと珊瑚が迫る。
「……何だ、その顔は鏡見たのか?何って化粧どころか、おてもやんになってるぞ」
「ん?ぬー笑ってるんやっさー?ハァ!?おても……って、ぬーやっさ?」
笑いをこらえきれずに震える瑠璃をよそに珊瑚は首を傾げる。
「あとで電子辞書を貸すから自力で調べてくれ」
いつもはクールな瑠璃も、ケリーと一緒に爆笑する羽目に。
「っていうか瑠璃!笑うなー!笑ってんじゃねぇー!」
「大丈夫よ、色のセンスは悪くないから。ちょっと手直ししてあげる、こっちいらっしゃい」
そして、ケリーの手で濃すぎたメイクはぼかしをかけ、リップは一度拭いてから付け直し。チークも上から白粉をはたいて薄め、なんとか見られる雰囲気になった。笑顔が作れずに戸惑う瑠璃にケリーは自然体でと笑いかけ、落ち着いた表情での撮影。つけられたタイトルは“対極Doll”
数日後、書店に並んだ写真集は……驚くほど好評を博したとか。
「当然よン!」
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
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マスター | 寿ゆかり |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 09月04日 |
出発日 | 09月09日 00:00 |
予定納品日 | 09月19日 |
参加者
会議室
-
2014/09/08-22:57
挨拶遅くなったけど
シルヴァ・アルネヴと精霊のマギだ。
なんか面白そうだし、依頼受けてみたんだけどさ
どんな事になるか楽しみだなー。 -
2014/09/07-04:45
皆様、失礼を致します。お邪魔しますよ。
メイクを施していただけるとは……いやぁ、こういうものも悪くはないものですねぇ。
背後から精霊の悲鳴が聞こえるような気が致しますが、恐らくは気のせいでしょう。
今回は、皆様がどの様なお姿になるのか楽しみにしておりますよ。(深々とながらに会釈をして) -
2014/09/07-01:21
-
2014/09/07-00:37
瑪瑙瑠璃です、何かに導かれて参加しました。
皆さん、よろしくお願いします。
協力するという気持ちで入りましたが、笑顔が作り笑いにならないか心配ですね。
特に自分は。
-
2014/09/07-00:25