らぶ★トラップを抜けて(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「いよいよ決行だ……みんな、準備はいいな!?」
「本当に、本当にやるのか……実は命がけなんじゃね……?」
「お前っ、もうあの時決意した熱い思いを忘れたのか!?」
「ほっとけよ。やる気のない奴はとっとと帰りゃいい」
「わ、分かってるよ!俺だって……俺だって!!」

 タブロス市旧市街。
古代ビスチオ王国時代の城壁都市の上にあるその市街地には、迷宮とも言える地下道が広がっており
様々な遺跡へと繋がっている。

「この日の為に創意工夫してあれだけ罠を張ったんだ……!成功させるぞ!真近で見るぞ!!」
「頑張ろうぜ!!」
「うぉぉおっ、俺どきどきしてきた!」

 とある地下道の入口付近から響く声。
そこから一人、また一人と、年の頃15~18といったあたりの若者たちが飛び出してきたのは
太陽が頂点を過ぎた午後のこと。



 A.R.O.A.本部も構える新市街地。
買い物に出たり丁度任務から帰還したりと、外を歩くウィンクルムがちらほら。
その背後に忍び寄る囁かなる影があり。
物陰に、柱に、隠れるように近づいては、人通りを気にしながら
そのまま後をつけるもの、諦めるように他へ移動するもの。

そしてその影は。
今すぐ真後ろに迫っていた。

周りに丁度人の姿なし
狙いをよく絞り、ぬきあし……さしあし………ダダダダーッ!

「よっしゃーーー!!!」
「!??」

 突如、パートナーに背後からぶつかってきた影。
そのまま凄い勢いで駆け抜けていくのを見れば、しばし唖然。
直後、隣りから上がる声。

「な!!武器を取られた……!!!」

 な ん だ と ! ?
すぐさま逃げていく背中へ振り返り、パートナーと共に全速力で後を追う。
見た限り若い……青年、いや、少年か?
ならばどうにかすぐに取り戻せるだろう、と駆けながらも考える。

しかして。
とんだ冒険を味わうハメになるとは、この時は夢にも思わなかったのである。

解説

●各自がバラバラに、少年の後を追うところからスタート!

<以下、PL様情報>
・少年たちはちょっと青春謳歌中でグレてる所謂不良たち。
・しかし全員、ウィンクルムに憧れを抱いている(中には崇拝している)可愛い一面持ち
・ウィンクルムを生で見たいっあわよくば話したい!武器絶対かっこいい持ちてぇ!!
 と、募った思いがとうとう爆発し、ねじ曲がった行動を起こすに至る
・とはいえ、このままだと窃盗罪である。全力で追いかけよう

各々の行き先には、少年たちが無い知恵を絞ったあまり頭のよろしくない罠がある。
回避不可能。必ず引っかかります。
どの罠にかかるか、1つ選んでプランを書いて下さい。

1. 落とし穴
 ⇒ クッションが敷き詰められた、深さ2m弱、2人が横に並んで少し余裕がある幅。
   何故かYes・No枕ばかり……
2. 仲良く纏めてふん縛り
 ⇒ 投げ縄のようにいくつも飛んできて絡まり……気付けばパートナーと密着状態でグルグル巻
   何で出来ているのやらなめらか素材。しかし解くには少々手こずりそう
3. 指示に従わないと出られない密室
 ⇒ 密室の出口と思われる壁に一言『トランスせよ』
   どこからか少年の視線を感じる。どうやら単にトランスが見たいだけ

 罠は、地下道迷路を抜けた直後の遺跡手前もしくは遺跡内。
憧れているものの少々舐めてかかっているのか、どの罠も時間経過後、少年の手によって脱出出来るようになっている。
待つも良し、自力で抜けるもよし

●あ!武器取られた時の衝撃でお金落としてた!……己ガキどm
 今のところ交番には届けられていないようです。ごめんなさい。
 <200Jr>一律消費

●少年たちの逃げた先
 最終的に全員が遺跡に挟まれて少し発見しにくい、小さな空き地に居ます。
 空き地まで追いつかれれば、少年たちは観念して武器を返してきます。
 その後をどうするかは皆様の判断次第☆

突然の災難であることから
日頃持ち歩かない物はナシ、とご了承下さい

ゲームマスターより

 トラップは時としてラブハプニングだ!! 

と言い張る、まいどのヘタレGM・蒼色クレヨンでございます。
長い解説も含めここまでご拝読ありがとうございます!

どんな結末になるか、ドキドキ待機

リザルトノベル

◆アクション・プラン

羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)

  ラセルタさん、凄く怒ってるな…早く追い付かないと
必死に後姿を追いかけて部屋合流、此処は行き止まり?
壁の文字を認識する前に立ち塞がる相手を見上げ

唐突な頼みに目を丸くして狼狽
えっ、いやちょっと待って、今ここで?
勢いに押され後退り、近付く顔見れば反射的にガード
至近距離につい視線が相手の頬、唇へと滑り
……ト、トランスだよね?うん、確認したかっただけ
一瞬よぎったそれ以外の行為を頭振って掻き消し

少年達を発見したら怒る相手を押さえ、事情を尋ねる
武器は返してくれるかな?彼の大切な物だから
…俺は神人になったけれど、それ以前に同じ一般人だよ
こんな方法じゃなくて気軽に話し掛けてくれたら嬉しいな(和解の握手求め)


スウィン(イルド)
  ちょ、ちょっと待ちなさい!
(慌てて追いかけるが拘束され倒れ)
お、重…ッ!イルド、のいて!

ったく、何であの少年はこんな事…
とにかく動けるようにならないと
おっさんの小刀が腰のとこにあるんだけど
縛られてるせいで手が届かないのよ
イルド取れる?もっと右…いきすぎ左よ
ちょ、そこくすぐった…あはは!
(拘束が切れなければ引っ張ったり解こうとしたり
別の方法を試し可能なら自力脱出)

何でこんな事したの?
(空き地まで追いかけ理由を聞き脱力)
…もうこんな事しちゃ駄目よ
ウィンクルムに興味あるなら
A.R.O.A.の職員目指してみるとかどうかしら?

イルド、さっきおっさんの事庇おうとしてくれたでしょ?
ありがとね♪


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  ちょ、待てよお前等
ランスの武器返せ!

慌てて追ったら床が無かった(落とし穴!
ランスを反射的に掴もうとして
⇒い、なーい!

(ボスン!)
あ…お前も落ちたのか(苦笑

ランスの軽口には思わず枕掴んでポスポス殴る
YESかNOの枕…って今はどっちでも良いだろ(汗
な…なんだよその不満げな顔は
(無言でYes枕を突き出す
*片面Yes片面Noのタイプなら裏返す

兎に角、外に出よう
と、肩車して出ようとする
ダメならクッションを積んで階段にしてみよう

★犯人を追い詰めたら
武器さえ返してくれたら怒らないから…と諭す
AROAの職員になるとかさ
で、その中で顕現を待てば良いんだよ

★ランス…後に隠してるのは何だ?(確認
バ…バカ野郎(真っ赤



柊崎 直香(ゼク=ファル)
  彼らをA.R.O.A.にスカウトしよう(提案)
多少とも実戦経験のある精霊の不意を衝くってなかなかできないよ
彼らならいい感じにウィンクルムを使いこなすであろー

ゼクに奪還の指示だけ出すつもりだったけど
面白そうだし僕も参戦してあげよう
今オーガに襲撃されても僕がこの武器でキミを護るからね、と
恩着せがましく笑顔で告げるのを忘れない

罠は3の密室に閉じ込められたよキャー
トランスかー。お仕事以外じゃしないけど仕方ない
実はちょっと僕怒ってるので、
八つ当たりにさらにゼクを困らせてやろう
わざと時間掛けて顔近づけるよ

対犯人。少年ではあるけど僕より年上っぽい?
お兄ちゃん、僕達困らせて楽しいの、と下から目線で良心突いとく


エルド・Y・ルーク(ディナス・フォーシス)
  それはA.R.O.A.への報告後の出来事でした
二人並んで歩くその合間に、少年達が颯爽と駆け抜けていったのは

「……ふむ、今のは間違いなくスリですね
私は警戒していましたが、そちらはどうですかディナス」

案の定、ディナスの武器が取られたとの事
せっかくなので得物を刃物に変えたい等と訴える言葉を軽く流します
「貴方はライフビショップなのですから、武器を刃物に変えたら無能以外の何もないではありませんか」とあっさり答え、後を追います

そして、二人揃ってクッションの落とし穴へ落ちます
不思議そうに尋ねられた事柄にはこそりと小さく答えておきましょう、とここは私に枕をぶつける所ではありませんよ!

追い詰めたら優しく説法を



●らぶトラップ発動!

「なにぼんやりしてるの。さっさと追いかけたまえ」
「……わかっている」
「しょうがないから僕も追いかけてあげる。今オーガに襲撃されても、僕がこの武器でキミを護るからね」
「恩着せがましいような……」
「何か言ったー?」
 呆然としかけたゼク=ファルに、正気に戻しているのか追い詰めているのか分からない台詞がかけられる。
柊崎直香は、さも平然とした表情で少年を追いかけ始めた。
しかし笑顔の裏で、どうやらその心中も思うところあるようだが。
遺跡内の角部屋へ逃げ込んだのを追いかける2人。そこへ同時に足が踏み入れられた瞬間。
 ゴゴゴッ……ゴン!
「へ?」
 振り返った先には、びくともしなそうな岩の壁が入口を塞いでいた。
「犯人は複数ってことかな。こんなの動かせるなんて。それとも何か仕掛けが元々あって上から降りてきた感じ?」
 動かない岩に触れながら淡々と分析する直香に、感心と呆れの表情を作りながら、ゼクも他に出口がないか部屋の中を一通り見て回る。
ピタッ
その足が、とある壁の前で固まった。
その動きに、不思議そうに寄ってきた直香の目に入ってきたのは壁に貼り付けられた一枚の紙切れ。
『トランスせよ。さすれば扉は開かれり』
「……」
「……」
 無言の間がさも響き渡るように、その部屋を満たした。
しかしてそれぞれの無言後見つめ合った思考は、全く交わらないものであったようで。
「トランスすれば出れるって」
「……直香、」
「今回は強く出れないよね?」
「……」
「よりによって武器を奪われるとか。危険性は剣や銃に比べたら低いのが救いだけど、それにしても自覚が足りないんじゃないかと僕は思うわけだよ。口には出さないけどね」
「思いっきり出してるじゃねえか」
 最後に発せられた疲弊したゼクの言葉で勝敗は決まった。というか最初から決まっていた。
にっこりと顔を近づける直香に、眉間に皺を寄せ憮然としたまましかし大人しく膝をついてその時を待つゼク。
……こない。中々こない。
「おい?」
「視聴者サービスだよ」
 ゆっくり。ゆっくりと唇が寄せられるそんな傍からみた雰囲気。
直香やゼクからは見えない死角の位置、小さな穴が空けられておりそこから注がれる二つの視線があった。
「うおおお……やっぱり本当にああやってするんだな!」
「っていうか、女の子!?女の子じゃねっ!?」
 自分たちが知っている神人は男だけだ。
しかし今映るところに居るのはどこから見ても可憐な少女。
少年たちは色々な意味で興奮しながら、その一部始終を見守っていた。
おそらくそんな視線には薄々気付いていた直香。
「スペルに依りて叶えよ。事、総て、成る」
次第に、耐え忍ぶ汗が浮かんできたゼクに、無駄に雰囲気を高めながら囁くように、その頬へと唇を落とすのだった。

「おい!こっち!こっちの密室の雰囲気もすげーぞ!!」
そんな少年の掛け声がこっそり響く数十分前。

(ラセルタさん、凄く怒ってたな……早く追い付かないと)
武器が盗られたと分かった瞬間、電光石火の速さで走り出したラセルタ=ブラドッツを慌てて追いかけている羽瀬川 千代。
ギリギリその背中を見失わないよう走っていれば、地下から出た光に一瞬目を細め。
ちょうど遺跡の中へと入っていくのを見つけると、急いで後に続くように駆け込んだ先に。
岩に囲まれた部屋の奥にラセルタの姿を捉えた。
すると、千代が部屋へ入ったのを見計らったように、入口に岩が落とされた。
「え!?しまった……罠だったのかな……ごめんラセルタさん」
 部屋へ飛び込む前に、よく確認すれば良かった……と謝る千代。
返事がこない。
「ラセルタさん?」
 怒ってるのだろうか……とそっと近寄っていく。
すると、奥の壁前にいたラセルタ、振り返り一言。
「千代、口付けをしろ」
「……うんっ?」
 予想だにしない台詞が跳ね返ってきて、一気に狼狽の兆しを見せる千代。
「しろ、早く、今すぐに」
 いやいやいや待って待って、と勢いに押されるように千代の体は徐々に後退していく。
容赦なく迫るラセルタ。
そうして訪れるのはもちろん。
 壁 ドンっ
ラセルタの両腕に挟まれ逃げ場を失った千代。近づく顔に反射的に腕でガードを作る。
それに気付き、ラセルタ、むっとする。
「嫌なのか?」
「あの……そういうことじゃなくて、ねっ?」
「ならば良いではないか」
「落ち着いてラセルタさん!」
 いや。もしかして落ち着くのは自分なのか?
ふと忘れていた単語が頭をよぎった。
「……ト、トランスだよね?もしかしなくとも」
「そうだ。それをすれば入口が開く、とあの壁に書いてあったではないか」
知らないから!最初に言って……!
そうして感じる何故か複雑な思い。
何か、違う何かをずっとどこか想像していた己を追いやるように、首を振って。
「静かに、微睡みが近寄るように……」
 ようやくトランスの口付けを受け、張り紙の貼ってあった壁が徐々に開いていくのにラセルタは足早に寄りながら。
「流石にもう慣れたと思っていたが」
「うんちょっと本当ごめんっていうか……」
 追いやったものが、あっさり張本人により無自覚に引き上げられた。
いつかの、星々が消え姿を見失った時に与えられた温もりと同時に感じた思いと、
似てるようで心拍数が違うような……っ、と。
 僅かに頬を赤らめ気まずそうにする千代がいるのであった。


「今回の任務も、無事完遂出来て何よりでしたね」
「そうですね、ミスター」
 それはウィンクルムとしての日常的平和な時間であったはずだった。
明らかに意図的に、並ぶ二人の間を強引に割って駆け抜けていった少年の行動で、その時間はあっさり破られた。
「……ディナス。何か盗られていませんか?」
「え?いきなり何を……、マジックブックが無い!?」
 エルド・Y・ルークの突然のそんな言葉に、怪訝そうに聞き返しながらも己の胸元を確認したディナス・フォーシスから
予想通りの反応が返ってくれば、エルドは溜息をついた。
「……ふむ、間違いなくスリですね。私は警戒していましたが」
「ミスター!スリに気付いていたならどうして教えてくれなかったんですか!」
「いえ。ディナスが気付いているなら、余計なお節介かとも思ったもので」
 ディナス、ぐうの音も出ない。
ともかく追わなくては!と走り出した2人。
少年を見失わないようにしつつ、不貞腐れるディナスから漏れる言葉に付き合うエルド。
「このまま戻らなければ……いい機会なので獲物を刃物に変えたいですね……」
「貴方はライフビショップなのですから、武器を刃物に変えたら無能以外の何ものでもないではありませんか」
 半分ほどヤケになった台詞に淡々ばっさり、と切り返される。
おかしい。自分は以前からこんなに迂闊な言動だったろうか。
(……ミスターの穏やかさに毒され過ぎているのでしょうか……)
余計な思考がもたげたのを追いやり、先程よりも加速をつけるようディナスは少年の背中を追う。
遺跡に入ろうとしたその背中にもう少しで追いつくという一歩手前で、突如二人の体は落下した。
「……どうやら落とし穴があったようですねぇ。まさか計画的なものであったとは……いやはや流石に私も油断しました」
「ミスター、お怪我は」
「はい、無傷ですよ。これのおかげでしょうか」
 気遣いの言葉には微笑で返して。エルドは自分の体の下のクッションたちを指す。
ディナスは不思議そうに、クッションを二つ手に取り。
YES、NO。その文字を見つめ首を捻る。
よっこらせ、とクッションの上を若干歩きにくそうにしながら、
落とし穴の高さを測っていたエルドに思わぬ声が向けられたのは数十秒後。
「ミスター、YesとNoって何ですか?」
 ミスター、ぴたりとその動きを止めた。
「そうきますか」
 困ったような笑顔に出会い、また首を捻るディナスへとのんびり近づいて。
耳元へと寄せられるそれを大人しく待つディナス。
こそこそぼしょぼしょ
そうして答えられた問いに、ディナスの顔は途端見る見ると赤くなったり青くなったり。
一体どんな説明をしたのかミスター。
「うあぁあああっ!!!」
「っと……ここは私に枕をぶつける所ではありませんよ!」
 教えてくれたはずのエルドの顔面に枕が次々と投げつけられた。
NO。拒絶。
(これは意外な……)
あまりこれまで見たことのないディナスの行動に、そうですか意外と純真でしたか……とどこか嬉しそうなエルドの姿があった。
それはあくまで、パートナーに対する新しい発見への喜び。そのはずだ。

 別の場所にて、同じく今まさに落とし穴に足を踏み入れてしまったのはアキ・セイジ。
(なんっだと!?)
咄嗟に先程まで真横にいた気配に向けて手を伸ばす。も。
 い、なーい!
身を固くし衝撃に備えるセイジだったが、痛みは一向にやってこなかった。
恐る恐る両の瞳を開く。
「セイジ、大丈夫か?」
「あ……お前も落ちたのか」
 パートナー、ヴェルトール・ランスの覗き込むような顔。
セイジが穴に足を踏み込んだ瞬間、ランスはいち早く自ら穴に飛び込み、セイジの体を守るように抱き寄せていた。
苦笑いを向けながら、居るはずの場所に姿の無かった一瞬の不安からか、心の片隅で安堵の息をセイジはこっそり漏らし。
「ありがとう、な。……も、もういいだろっ。離してくれ」
「ちぇー」
 役得だったのにと軽口を叩きながらセイジを解放しつつ、ランスは思う。
(セイジが、セイジも俺を掴もうとしてくれてた)
じーん
数秒の出来事を目に焼き付けていたらしいランス。感動を味わっている。
「少し枕を重ねて肩車でもすれば出られそうだろうか。……ランス?聞いてるのか?」
「え?ああ、そうだな!じゃ、肩車は俺がする」
「分かった。枕積むの手伝ってくれ」
 ぽす。渡された枕。ランス、無言でガン見。
「……?なんだ?」
「セイジ……何もこっち渡すことないじゃんか」
「は?!」
 渡されたNO枕を突き出し、ランス拗ねる。セイジ、目が点になる。
「こんな時に何言ってんだ!い、今はどっちでも良いだろっ?」
「こんな時にでもどんな時にでも、俺はYESだぜっ!」
 渡されたYES枕で、こ、このバカ!とポスポス殴ってくるセイジに。
(あぁ可愛い)
ランス氏堪能中。
しかしからかいを続行する為、また不満そうな顔を作ってみせる。なんと駆け引き上手。
「……」
 ランスの横を向いた真顔に、枕攻撃を止めたセイジ。
オロッと手を彷徨わせた末。ずい。
YES枕が無言でランスに押し付けられた。
セイジにとってはいっぱいいっぱいである。耳まで赤い。
嬉しそうに目を細めるランス。
「なぁセイジ……あの告白、ここでもう一回聞きたい」
「ぜっったい嫌だ」
「えー。雰囲気読もうぜ」
「線香花火で二度見てるだろっ。今は脱出が先だ!」
「おっと、そうだった」
 ようやくからかいを止めて、大人しく枕積みを始めたランスにホッとするセイジ。
その後、肩車しながら下からセイジを見上げているランスの心中はきっとこうである。
(『今は』ってことはまた別のいい雰囲気がくれば……!)
セイジの受難はまだまだ続きそうである。

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
「クソッ、武器返しやがれ!」
「ぐお……!!重てぇ!」
「弱音吐くな!追いつかれるぞ!!」
 ベク・ド・コルバンを2人がかりで器用に持ち逃げしている少年たちの後を、スウィンとイルドは追いかけていた。
さすがに重量のある鈍器、地下迷路に入ったところで今にも追いつかれると踏んだ少年の一人が叫ぶ。
「や、やば……!おいやれ!やってくれ!!」
「えっ?」
「なんだ!?」
 少年の声が合図に、通路の四方に空いた穴から突然グルグル回転した何かが放たれた。
思ってもいなかった方向からの何かに、立ち止まったスウィンをイルドは体を急反転させて庇いに飛び出す。
ぐるぐるぐる!
1本は避けたものの、3本の白い縄が二人を仲良く巻きつけた。
「お、重…ッ!イルド、のいて!」
「わ、悪い!」
 イルドの体当たりに完全に押し倒された状態のスウィンの声に、ハッと我にかえるイルド。
正面から抱き合うようにスウィンの上に乗っかっゴホン、スウィンを下敷きにしているのに気付き、
慌ててごろりと、互いに真横に寝そべる体勢へ。
「ったく、何であの少年はこんな事……とにかく動けるようにならないと」
「どうすんだ?」
「おっさんの小刀が腰のとこにあるんだけど、縛られてるせいで手が届かないのよ。イルド取れる?」
「俺がか?!」
「やぁねー。当たり前じゃない」
 けろっと言われ渋るイルド。
しかし他に方法が浮かばない以上、ごそごそとスウィンの腰付近を探り出す。
「もっと右……いきすぎ左よ。ちょ、そこくすぐった……あはは!」
「体クネらすな取れねぇ!!」
 罵声を浴びせるも顔は赤い。何故か赤い。
真正面からぴったりと密着した体。
(……意外と腰細……っじゃねえええ俺しっかりしろ!)
何かと格闘している奮闘の赤さのようだ。
そうして、追いかける者たちが動けない隙に、少年たちはまんまと。
 じー
まんまと……
 じ――――
逃げていなかった。
スウィンとイルドのやり取りに思わず立ち止まってガン見してしまっている。
縄の飛んできた方角の至る穴からも、視線が注がれるのが感じられた。
「……ねぇイルド」
「何だよ」
 やっと小刀掴んだのにと物申したそうなイルドの瞳と出会い、可笑しそうに笑みを向けながらもスウィンの声色は真剣に。
「おっさんね。見られるプレイってそんなに好きじゃないのよね」
「言いたいことは分かったけども言い方は考えろよおっさん!!」
 そう叫ばれた瞬間、ざくっと縄が切れた音。
イルドに助け起こされながらスウィンがいい笑顔を少年たちに向けた。
「見物料、頂かなくちゃねぇ」
「おう」
 半分ヤケに答えながら、拳ばきっと鳴らしたイルドを見て、ヒィ!と少年たちから声が上がる。
「しまった!逃げろ逃げろ!!」
 再び走り出した少年たちを足並み揃えて追いかけるスウィンとイルドの姿があった。


●青少年たちよこれがウィンクルムだ

「えー意外!セイジ君が武器盗られたの?」
「誤解だ直香。盗られたのはランスだ」
「ディナスさん、すごい顔色ですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。そっとしておいてあげて下さい。お気遣いありがとうございます千代さん」
「ねーえ?ラセルタが今にも少年たちに掴みかかりそうだけれど、止めないでよいのかしら?」

 各々が少年たちを追い詰めた先、小さな空き地にて。
ウィンクルム一同がばったりと顔を合わせ、お互いの事情を察し合っていた。
全員が集結して迫力が増したのか、空き地の隅っこで武器を持った少年たちが怯えるように固まっている。
その様子を見つめてから、セイジはそっと近づいて声をかけた。
「武器さえ返してくれたら怒らないから……」
「そもそも何でこんな事したの?」
 続くようにスウィンが尋ねた。
「お、俺たち……ウィンクルムになりたくって……」
「本物……真近で見てみたくって……!」
「……そんな理由?」
 脱力したスウィンの後ろで、イルドが指をバキバキ鳴らしながら凄んだ。
「ならお前らの体で、そのウィンクルムを体感してみるか?」
「全くだな。俺様の物を奪うとは万死に値する」
「お兄ちゃん、僕たち困らせて楽しいの?」
 反省させる為わざと脅しをかけるイルドに対し、ラセルタは結構本気である。
そしてトドメとばかりに良心へダメージを与える、下からつぶらな瞳で見つめる直香。
少年たちが怯えと歓喜で打ち震えるには十分である。

 千代は慌ててラセルタを抑えながら、少年たちへと優しく笑顔を向けた。
「とりあえず、武器は返してくれるかな?彼の大切な物だから。
 ……俺は神人になったけれど、それ以前に同じ一般人だよ。こんな方法じゃなくて気軽に話し掛けてくれたら嬉しいな」
 にこっと、手を差し出した千代に少年たちが顔を一斉に上げた。
「あ、あざっす……!!」
「うぉぉぉおお……っ!兄貴って呼んでいいっすか――――!!」
「うんそれはやめとこうか」
 すごい勢いで千代の手に縋り付こうと少年たちが動いた。
ラセルタの額にぴきっと何かが浮かぶ。尻尾が、びったんびったん。
「握手ならば俺様がしてやろう。光栄に思え」
 千代を横にさっとどかせ。ぎゅぅぅぅぅ
「いたっ痛―――!!」
「あああでも俺今精霊さんと握手してる……っっ」
 少年たち、かなり逞しかったようだ。
(ふん。相変わらずのお人好しめ。先程は一瞬でも俺様を拒んだクセに)
ラセルタ氏、それは八つ当たりというものですが、少年たち喜んでいるので結果はオーライ。

「うっうぅ……すいませんでした―!」
 やたら感極まった一人が、武器を差し出すと続々と他の者も武器を返してきた。
「ったく」
 イルド、武器を受け取りながらゴツンと手加減のゲンコツを少年の頭に打ちながら。
「もうこんな事すんじゃねーぞ」
「はい!!あざっす!!」
 斜めなお礼を言われれば、イルドもがっくりせざるをえなかった。
「優しいわねイルド」
 微笑ましくそんなやり取りを見つめた後、スウィンが放った言葉に物凄く不本意そうな顔をイルドが向け。
そんな表情を笑って見つめてから。
「やぁね。さっきのことも含んでるのよ。イルド、おっさんの事庇おうとしてくれたでしょ?ありがとね♪」
「……敵の罠かもしれねーからな」
 照れくさそうに顔を背けながらもイルドは思う。慣れない筆に思いを乗せたことを。
またあんな思いをするのは沢山だ。怪我をさせねぇと誓ったんだ、と。

「すげーっす!神人って本当にどんな年でもなる可能性あるんスね!」
「俺、まだまだ希望湧いたぁ!」
「私におかしな希望を見出さないで頂きたいですが。まぁ若者にそれを与えられるのも悪い気はしないでしょうか」
「ミスター……僕は一発殴らないと気がすまないのですが……っ」
 のほほんと。説法するつもりが毒気を抜かれたと言うようにもう言葉を収め始めているエルドに、
拳をプルプルさせながらそれでも一応堪えてディナスは許可を求める。
「枕の逆恨みが入っていませんか」
「いけませんか……!」
「やれやれ。隠居したら押し掛けてくれると言っていましたが。
 その調子ではいつか後ろから刺されるような恨みを買ってしまいますよ」
 それはちょっと困りますねぇ、と呟かれた言葉に、う……とゆるゆる拳が下がる。
(ええ。貴方にはそんな余計な業を増やして欲しくないですからね……私のように)
ディナスの気付かぬところで、眼鏡の奥の瞳が細められた。

「本部の職員になるとかさ。で、その中で顕現を待てば良いんだよ」
「お、俺たちでも、慣れるっすかね兄貴!?」
 すっかり少年たちの相談に接しているセイジの後ろで、ランスが徐ろに杖を上空へと掲げた。
「ランス?」
「武器返してくれたしな。ま、反省したご褒美ってことで!」
 杖から淡白く発せられたプラズマ球は、一直線に空へと放たれ。
ぱーん!と、人気のない遺跡上空へと四散する。
うおおお!!!と感激の声を上げる少年たちの後ろ、ランスの更に背後でふと直香が何かに気付く。
「ねぇランス君、その枕どうしたの?」
「あっやべ!見えちゃった?」
「……枕、だと?お前まさか……!」
「だって折角のセイジとの記念の枕だし。もらってきちゃった☆」
「人聞きの悪い言い方するなぁ!」
 こ、このバカ野郎……ッ、と真っ赤になってランスを追い回すセイジを楽しそうに見つめる視線たちがあった。

「直香……お前ずっと実は機嫌悪くないか?」
「お?ゼクにしては鋭い」
 空き地からの帰り道。直香はゼクを振り返らぬまま言葉を続ける。
「武器を無くしたら僕たちがどれだけ命の危険に晒されるか、分かってないあのお兄さんたちに怒ってたのもあるし」
 数歩進んだところで、くるっと振り返り。
「ゼク、武器取られたら取られたで、仕方ないって思ってなかった?」
「……そんなことは」
「僕ねぇ。そういう自棄的なの、イラッとくるんだにゃー」
 あくまで冗談でも言うように、微笑む直香にゼクは沈黙でしか答えることは出来なかった。
ただ静かに、その小さな背中を眩しそうに見つめ後に付いていく。
重ならない影が遺跡へと伸びていた。



依頼結果:成功
MVP
名前:アキ・セイジ
呼び名:セイジ
  名前:ヴェルトール・ランス
呼び名:ランス

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月07日
出発日 09月13日 00:00
予定納品日 09月23日

参加者

会議室

  • [7]羽瀬川 千代

    2014/09/12-23:42 

    ……スタンプと一緒に少し文字も書けたら良いのにな(うむむ)
    羽瀬川千代です、どうぞ宜しくお願いします。
    俺たちは密室部屋行きのようです、無事に罠を抜けられたら良いのですが。

  • [6]羽瀬川 千代

    2014/09/12-23:37 

  • [5]アキ・セイジ

    2014/09/12-23:12 

    アキ・セイジだ。よろしくな。

    気がついたら足元に床が無かったよ(落とし穴に落ちたの意味
    しかも、なんだこの枕は
    犯人はウィンクルムを何か勘違いしているようだな(脱出しようともそもそ

  • [4]柊崎 直香

    2014/09/12-02:25 

    ハローハロー、こちらクキザキ・タダカ。よろしくどうぞ。
    ……皆夏バテでも引きずってたかなー。
    うちは密室に引っ掛かってるかも。
    あれですよね。見せつければいいんですよね。

    スウィンさんは問い合わせありがと!
    ハリセンでも装備しようかと思ったけどとりあえずいつもの武器でいくー。
    彼らに対してはちょっと口で応戦するだけだよ。

  • [3]スウィン

    2014/09/11-16:46 

    気になったから問い合わせてみたわ。
    取られたのは精霊の武器だけで、神人の武器は無事みたいよ。
    武器でぼこぼこに…なんてもちろん考えてないけど、ゲンコツくらいはいいかしらねぇ?
    それかほっぺたむに~か。
    おっさん達は今のとこ「2」で考えてるわ。ま、色々頑張りましょ~!

  • [2]エルド・Y・ルーク

    2014/09/10-21:31 

    おじゃましますよ。皆さんどうぞ宜しくお願いしますね。
    おや、こちらは、クッションか指示実行の密室に行く気配が……(何)

    どちらにしましても、どうかよろしくおねがいますよ。

  • [1]スウィン

    2014/09/10-00:28 


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