プロローグ
●兎と魔法とお月見と
「『兎になって、お月見祭りに出かけませんか?』」
メモを読み終えて、ミラクル・トラベル・カンパニーの青年ツアーコンダクターが浮かべるは悪戯っぽい笑み。明るい笑顔と共に溢れだすのは、彼自身の言葉だ。
「チェリコっていうタブロス近郊の村で、伝統あるお月見祭りがあるんだ。それがさ、ちょっと変わったお祭りで。参加する人は、村人も観光客も皆、うさぎさんに変身するんだ」
面白いでしょう? とツアーコンダクターは頭の上に両手で兎の耳を作ってみせて、ころころと笑った。何でも広場で行われる祭りに参加する際には、必ずうさ耳カチューシャかうさ耳頭巾を着用する決まりがあるらしい。そして。
「お祭りの間は必ず、語尾に『~ぴょん』と付けなくちゃいけない」
何だその祭り怖い。引き気味のウィンクルムたちを余所に、ツアーコンダクターは楽しそうに喋り続ける。チェリコ村には、満月の夜に兎を連れた魔法使いがやってきて、村を危機から救ったという言い伝えというかおとぎ話のようなものがあるらしく……って、それは謎の語尾の理由になっていなくはないだろうか?
「無料で配られるうさ耳には古い古い魔法の力が込められていて、『~ぴょん』と付けずに喋ると――」
右の手の甲に、うさぎさんマークが現れる。それでも無視して普通に喋り続けると……。
「何と、ふわふわもこもこの本当のうさぎさんになっちゃうんだって! すごくない? 面白くない?」
面白くないよ、怖いよ。と、その場にいたウィンクルムが思ったかどうかは謎だが、とりあえずそういうことらしい。ちなみに、兎になっても人間の言葉は喋れるが、語尾は強制的に『~ぴょん』である。それから、魔法の効力は数十分ほどで切れるからご安心(?)。
「それでそれで! チェリコ村のお月見祭りって言ったら『満月プリン』が欠かせないの!」
原材料からこだわりにこだわった村から見える満月と同じ黄金のプリンは、舌触り滑らかでとろっとろ。味は勿論絶品だ。
「そんな素敵がいっぱいのこのツアー、お値段はウィンクルムさまお一組様につき250ジェールとなっております」
興味のある方はどうぞ楽しんでぴょん! と、青年ツアーコンダクターはおどけてみせた。
解説
●今回のツアーについて
チェリコ村のお月見祭りを楽しんでいただければと思います。
ツアーのお値段はウィンクルムさまお一組につき250ジェール。
(『満月プリン』をお買い求めの場合は、そちらは別料金となります)
ツアーバスで首都タブロスを出発し、日が暮れてから村へ着きます。
数時間の自由時間の後夜行バスでタブロスへ戻るツアーです。
●魔法のうさ耳について
祭りの日に村を訪れた人に無料で配られる不思議なうさ耳。(アイテム発行はございません)
詳細は、プロローグにてご確認願えますと幸いです。
カチューシャタイプと、耳の形状が人間と異なる精霊も装着しやすい頭巾タイプがありますが、種族に関わらず頭巾の方も選択可能です。
色々な色のうさ耳が用意されており、好きな物を選んでいただくことができます。
うさ耳の色はうさぎさんになってしまった時の毛色となります。
希望がありましたらプランにてご指定くださいませ。
ご指定ない場合は、村人の方で勝手にうさ耳をチョイスさせていただきます。
また、うさぎさんになった時の瞳の色は普段の瞳の色準拠です。
なお、うさぎさん化した場合のサイズは一般的に考えられるうさぎさんのサイズとなります。
●屋台の食べ物とお月見について
ここでしか食べられないものとして、ツアーコンダクターくんがご紹介している『満月プリン』があります。
お買い求めは広場の屋台にて。1つ30ジェールです。
月は村のどこからでも見えますが、広場からが一番よく月が見えます。
ルーメンもテネブラも綺麗に見えます。
ちなみに、ルーメンが満月の時、テネブラは暗い濃紺です。
村の広場には月と兎をあしらった愛らしいベンチが幾らもありますので、プリンを食べるのにもお月見を楽しむのにも最適です。
●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは極端に描写が薄くなってしまいますので、お気を付けくださいませ。
ゲームマスターより
お世話になっております、巴めろですぴょん。
このページを開いてくださり、ありがとうございますぴょん!
秋らしくお月見なエピソードをお届け……ですが、ちょっと不思議なお月見ですぴょん。
神人orパートナーがふわふわ小さいうさぎさんになってしまって愛でたり愛でられたりするもよし、『~ぴょん』を貫き通してお月見を楽しむもよしですぴょん。
相棒を罠にはめてうさぎさんにしたり、どちらが最後までうさぎさんにならずにいられるか対決したりするのも楽しいのではないかなぁと思いますぴょん。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたしますぴょん!
また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せておりますぴょん。
こちらもよろしくお願いいたしますぴょん。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
黒うさ耳カチューシャ着用。広場でプリン2つ買い求め ベンチ探す途中で不慣れな語尾と羞恥心に負け兎化 ごめんなさいラセルタさん、俺ですぴょん…(ぺたんと耳垂れ 相手の視界から隠れるようにベンチの下へ移動 動物、苦手なんでしょう?此処なら声は届くから…駄目かな 縮んだ目線から見る彼の迫力に、おずおず顔覗かせ 毛並み撫でる手に一瞬照れるも次第に微笑ましさ感じ ラセルタさん、もしかして兎は大丈夫だったりするの? ……丁重にお断りさせて頂きますぴょん(前足てしてし叩き ?大丈夫、魔法の効果は数十分らしいからそろそろ戻るよ 憤る彼を安心させたくて、ほんの少し擦り寄ってみる (……もう少し兎のままでも良かった、なんて言えない、な |
シルヴァ・アルネヴ(マギウス・マグス)
マギうさぎモフモフしたいし、プリンも美味そうだからさ 一緒に出掛けよう!とマギの手を引っ張ってきたぞ まず『満月プリン』を二人分ゲットして、お月様を見上げながら堪能 プリンは口の中に入れると、とろりと柔らかく溶けるようで ふわりと立った卵やバニラの香りが鼻孔を擽る。 真ん丸お月様が薄雲に隠れ、うっすら青い輪郭と 人肌のような茫洋とした温かみのあるオレンジ色に見えるかも 「それじゃ、うさぎになってみよう!なっ!」 手の甲にうさマークが出現 黒いネザーランドドワーフの子兎に 「こちらラビット・ワン偵察を開始するぴょん」 参加者達が気になり、こっそり様子を見て回るかも 「話してる内容は分からなかったけど、皆仲良しだぴょん」 |
柊崎 直香(ゼク=ファル)
悪い魔法使いは兎にしてしまえー 抵抗なくうさ耳カチューシャ装着 あと満月プリンを僕の分だけ早速購入 ぴょんぴょん言うぴょん 僕が兎になるメリットが浮かばないぴょん 小さくなるのありえないぴょん 妙に物分りのいいゼク兎で遊ぶぴょん 僕よりずっと小さいぴょーん、と優越感。 抱きかかえたり撫でたりするぴょん ベンチでゼク兎を膝に乗せながらプリンも堪能ぴょん ゼクの分は無いぴょん。だってその姿だと食べにくいぴょん? 完食後。美味しかったぴょんそして飽きたぴょん、と ベンチにゼク兎を置いたままどこか行っちゃうぴょん 簡単に追ってこれまいぴょん! ……物陰からゼク兎の様子覗くぴょん 元に戻ったゼクと追加購入したプリン一緒に食べるぴょん |
アレクサンドル・リシャール(クレメンス・ヴァイス)
お誘いは凄く嬉しいけど 兎耳で語尾「ぴょん」って……なるほど無言貫けば兎にならないか でも兎耳は恥ずかしいなあ 目立たないのにしよう (短く白いうさ耳カチューシャを選択) 二人無言で広場のベンチに移動 並んで座り月を見上げ物思いにふける 静かだな 辺りは暗くて月が綺麗で 人はいるけど声は遠くて 俺には寂しいけど クレミーはこんな静かな夜と森を好んでて 街では住めないんだよな 確かに、明るい太陽より静かな月が似合うか 少し動かした指先が触れ合いこちらを向く視線 「月が綺麗だな」 声をかけたら驚いた顔 不思議に思う間もなくあっさり兎に しまった忘れてたぴょん! 撫でまわられるとくすぐったいぴょんー (その後心地良さに膝でうとうと) |
ウィーテス=アカーテース(パラサ=パック)
○うさ耳 茶色のカチューシャタイプ ○行動 お月見祭りかぁ……楽しみだね、パラサ チェリコ村についたらうさ耳カチューシャをつけます 語尾の『ぴょん』は何だか恥ずかしいね……ぴょん パラサが『ぴょん』はつけないぎゃー! って言っているから、多分うさぎさんになる……ぴょん だから頑張って、語尾をつけるようにしないと……ぴょん お祭りを眺めながら町を歩いて 満月プリンをそれぞれ購入し広場の公園へ ベンチに座って月を見上げながら パラサと一緒に満月プリンを食べます パラサがうさぎになっていたら そっと手で抱き上げて膝の上へ わ、すごくふわふわしてる……ぴょん プリンを食べづらそうにしていたら スプーンで少しずつすくって差し出してみます |
●君の温度
「ラセルタさん、プリン無事買えて良かったね……ぴょん」
黒いうさ耳を頭に揺らしながら、羽瀬川 千代は傍らを歩くパートナーへとたどたどしく声を掛ける。繋いだ手から千代の緊張を感じ取り、ラセルタ=ブラドッツはふっと笑みを漏らした。
「そう固くなるなぴょん。その調子では、菓子の味も分からんのではないかぴょん?」
白うさ耳のカチューシャを着用したラセルタ、それはもう堂々と『~ぴょん』を使いこなす。千代が感嘆の息を漏らした。
「すごいね、ラセルタさん……ぴょん。俺にはちょっと、難しいし恥ずかしいしで……」
「1回目、ぴょん」
「え? わ、ほんとだどうしよう……ぴょん」
「千代、慌てるなぴょん。但し、2度目はないぞぴょん。早く慣れろぴょん」
「そうだね、頑張るよ……ぴょん。――あ。ラセルタさん、あそこのベンチ空いてるよ」
瞬間、ラセルタの手からするりと千代の手が逃げる。追うように振り返るもそこに千代の姿はなく、代わりのように鎮座するのは黒くてふわふわの――。
「……兎か、ぴょん?」
「うう、ごめんなさいラセルタさん、俺ですぴょん……」
黒兎がしゅんとしたようにぺたんと耳を垂れた。
ともかくもベンチへと移動する1人と1羽。何とか目的地に辿り着くと、千代、もそもそとベンチの下へと逃げた。不意に消えた小さな兎をじきに探し当てたラセルタが、
「何故其処にいるぴょん?」
とベンチ下を覗き込みいかにも不服げな声を出す。千代は縮こまって答えた。
「動物、苦手なんでしょうぴょん? 此処なら声は届くから……駄目かな、ぴょん」
気遣いの滲むその言い分にラセルタは青の双眸を瞬かせ、次いで色んな想いが綯い交ぜになったため息を零す。
「千代兎、こちらへ来いぴょん」
千代、縮んだ目線から見る相棒の迫力に僅か戸惑いつつも、おずおずとベンチの下から顔を覗かせる。そんな千代をぐいと掴んで、ラセルタはベンチに腰を下ろすと自分の膝の上に乗せた。そうして、不慣れな、けれど優しい手つきで黒い毛並みを撫でる。何だかくすぐったいような心地がして千代は密かに照れ、けれど、何度も何度も背を撫でてくれる手のぎこちない温度にじきに微笑ましさを覚えて、言った。
「ラセルタさん、もしかして兎は大丈夫だったりするのぴょん?」
「うん? ああ、千代兎は言葉を理解して会話が出来るからな、悪くないぴょん」
答える間も、ラセルタは柔らかく千代の背を撫でる。
「三食美味い人参付きで飼ってやってもいいが? ぴょん」
と冗談めかしてラセルタが薄く笑うので、
「……丁重にお断りさせて頂きますぴょん」
と千代は小さな前足でラセルタの膝をてしてしと叩いた。しかし、とラセルタが声を漏らす。
「古い魔法とはいえ、俺様の所有物に印を刻むなど気に食わんぴょん」
拗ねたように声を尖らせ、千代を目線の高さまで持ち上げるラセルタ。
「兎の姿では千代の百面相も拝めないからな……早く元に戻れ、ぴょん」
密やかな口づけが、千代の右前足に落ちた。ラセルタ、膝に戻されて首を傾げる千代の頬を、手の甲でぺちぺちとしつつ、
「キスで魔法が解けるのは御伽話のセオリーだろう? ぴょん」
「? 大丈夫、魔法の効果は数十分らしいからそろそろ戻るよ、ぴょん」
応えるも、ラセルタがやっぱりむすっとしているので。千代はそんな彼を安心させたくて、頭をほんの少し彼に擦り寄せた。瞬間、魔法が解ける。気付けば人間の千代は、上半身をラセルタの膝に預けた状態で。慌ててとび退きながら、
「ら、ラセルタさんごめんなさいぴょん!」
と真っ赤になって謝る千代。面白いものを見たとばかりにラセルタが口の端を吊り上げる。
「流石千代兎、人に戻っても語尾が様になっているな、ぴょん」
可笑しげな声を千代はどこか遠くに聞く。ずっと触れていたラセルタの温度の心地よさが、まだ残っているような気がする千代である。
(……もう少し兎のままでも良かった、なんて)
そんなことは言えないなと、千代は火照る頬を隠すように口元を覆った。
●こだわりますぴょん
「お月見祭りかぁ……楽しみだね、パラサ」
茶色のうさ耳カチューシャを手に、ウィーテス=アカーテースは相棒のパラサ=パックへと柔らかい笑みを向けた。カチューシャは村に着き次第装備するつもりだったが、村人に「広場のお祭りに参加する時には必ず頭につけてくださいね」と言われたので、広場への道を行く今はとりあえず着用せずにいる。何と言っても、『~ぴょん』はやっぱりちょっと恥ずかしいし。
「そうだね、オイラも月見祭りは楽しみさ、となりの」
黒いうさ耳カチューシャを手に弄びながら、パラサが明るく笑み零す。が、「だけど」と急にとても真剣な表情を作ってみせるパラサ。
「パラサ=パックの語尾は『ぎゃー』だぎゃー」
「? うん、そうだね」
「だからこそ、オイラは男らしく、語尾はつけないのさっ」
「えっ? ええっ?」
きっぱりと言い切るパラサは、本人の申告通り男らしいといえば男らしい。でもそれはつまり、広場に入って間もなくにパラサは兎になってしまうということで……。
(……頑張って、語尾をつけるようにしないと)
2人共兎になってしまっては大変だと、ウィーテスは密か胸の内で決意を固める。そんなウィーテスの気苦労は知らずに、パラサはころころと笑った。
「でも、となりのは存分につけると良いよ。これを機に、語尾を新しい個性にしてみるのはどうだい?」
慣れたら楽しいもんだぎゃー、とパラサに言われて苦笑を漏らすウィーテス。歩みを進める毎に違った顔を覗かせる満月を楽しみながら、2人は広場の入口へと辿り着いた。2人してうさ耳を装着し、可笑しいような楽しいような心地がして顔を見合わせ少し笑い合う。
「あ、プリンの屋台すぐそこだね……ぴょん。パラサ、折角だから買って食べようか……ぴょん」
ウィーテスのぎこちない兎っぷりに、パラサが思わずといった調子で噴き出した。
「すいません、『満月プリン』ください……ぴょん」
「2つ買うから、ちょっと勉強してもらえると嬉しいぎゃー」
「もう、パラサやめようよ……ぴょん」
広場の屋台にて。いきなりプリンを値切ろうとするパラサの守銭奴っぷりにウィーテスは慌てたが、屋台の主はいきなりの値段交渉よりもパラサに一切『~ぴょん』を付ける気がないことの方に驚いたようだった。パラサの右手の甲に、早速現れるうさぎさんマーク。けれど、パラサがそれを気に留める様子はない。結局通常の値段で購入されたプリンをウィーテスの手に押しつけて、
「物を持っている時にうさぎになったら困るから、プリンはとなりのに預けるぎゃー」
とにっと白い歯を零したかと思うと、パラサはあっという間に小さな黒兎になってしまった。
「わ、パラサ大丈夫? ……ぴょん」
「おお! いつもオイラはとなりのを見上げているけれど、またこれも違っていて面白いね……ぴょん」
「……ぴょん?」
「……」
「……」
2人は、「兎になったら強制的に語尾は『~ぴょん』」というツアーコンダクターの言葉を思い出した。
「綺麗だね……ぴょん」
広場のベンチに座って、月を見上げて。ウィーテスはそのまんまるに見惚れるようにしてそう零した。何だかんだで気を取り直して兎目線を楽しんでいたパラサが、
「となりの! パラサ=パックも見たいぴょん!」
と騒いだので、そっと抱き上げて膝の上に乗せてやる。
「わ、すごくふわふわしてる……ぴょん」
柔らかな毛並みを撫でてやると、パラサは気持ち良さそうに膝の上でだらーんとなった。
「そうだ、プリン食べようか? ……ぴょん」
兎の身では食べ辛かろうと、スプーンで掬って食べさせてやる。2人は口の中で幸せにとろけるプリンを、一緒に楽しんだ。
「パラサ、美味しいね……ぴょん。……うーん、語尾の『ぴょん』はやっぱり何だか恥ずかしいね……ぴょん」
「オイラは恥ずかしいよりも悔しいぎゃ……ぴょん」
パラサ、魔力に抗おうとして撃沈する。そんなパラサの様子に、ウィーテスは密か笑みを漏らした。
●魔法使い、兎になる
「悪い魔法使いは兎にしてしまえー」
「誰が悪い魔法使いだ、誰が」
柊崎 直香の言が自由気ままなのは常のこと。相棒たるゼク=ファルのつっこみも、すっかり堂に入っている。ゼク、髪と揃いの銀のうさ耳カチューシャを手に、ため息を一つ。
「……概要と目的は把握した。俺は兎になればいいんだな?」
「おお、鋭いぴょん」
「お前の考えそうなことだからな。面倒ごとはさっさと片づけるに限る」
広場への道を行きつつ、諦念の色を覗かせて淡々とゼクは言う。口を尖らせる直香。
「潔すぎてちょっとつまんないぴょん」
「じゃあ俺にどうしろと?」
「お、そんなこと尋ねちゃうぴょん? 尋ねるってことはつまり僕の言うこと何でも聞いてくれるって解釈でOKぴょん?」
「……」
「ま、いいぴょん。今日は兎で勘弁して進ぜようぴょん」
渋い顔のゼクが言葉を失っているうちに、2人は広場へと辿り着いた。ここから先は魔法のうさ耳が必須である。迷いなく黒のうさ耳を装着する直香。ぴょんぴょん言うのに抵抗はない。ぴょんぴょんを拒否することで兎になるのはあり得ないけれど。小さくなるなんて信じられない。でも、相棒の兎姿は見てみたい。
「さあゼク、うさ耳をつけるのだぴょん! そして普段通り喋るぴょん!」
再びのため息を零し、ゼクはうさ耳を装備した。
「これで満足か」
途端、右手の甲に現れるうさぎさんマーク。
「ふっふっふ。さあゼク、兎になるぴょーん」
「両手の甲に文様……」
直香がノリノリでそう言う横で、ゼクは疲れたように呟いて額を抑えようと――したが、それは叶わなかった。ぽつり言葉を零した瞬間銀色兎に転じてしまったゼクのちっちゃな前足は、額を抑えるのにはちょっと向かない。
「おおー、ゼク小さいぴょん! 僕よりずっと小さいぴょーん」
「小さい小さいってうるせえ……ぴょん。少し黙ってろぴょん」
「おや、見た目かわいいのに可愛げがないぴょん」
優越感に浸りつつ、直香は物分かりはいい癖に口の悪いゼク兎を抱きかかえる。そのまま屋台で『満月プリン』を買って、ベンチに腰を落ち着けた。ゼク兎は膝の上だ。ふわふわの毛並みを手に楽しんだ後、お待ちかねのプリンを口に運ぶ。
「うん、満足満足ぴょん」
「というか俺のプリン……ぴょん」
「あ、ゼクの分は無いぴょん。だってその姿だと食べにくいぴょん?」
さらりと言われてもう言葉も出ない様子のゼクを余所に、直香はプリンを完食した。
「美味しかったぴょんそして飽きたぴょん」
とゼクをベンチに下ろして、直香は立ち上がるや否やさっさとベンチから歩み去る。一度だけ振り返りにやりと笑って、
「ふふー、簡単に追ってこれまいぴょん!」
「おい、直香! ぴょん!」
慌てるゼクを尻目に、直香、するりと人の間をすり抜けて、ゼクにバレないように近くの木の陰に隠れた。
(兎はさびしいとしんじゃうって本当ぴょん? 全力で寂しがるといいぴょん)
等と思いつつ、ゼクの様子をこっそりと窺う。
「今回は先手を打ったつもりが……月をゆっくり眺める時間もねえ……ぴょん」
またまたため息を零したかと思うと、ゼク兎は思い切りよくベンチからとび降りてきょろきょろとした。どうやら、あの小さな体で直香のことを探すつもりらしい。直香が胸に過ぎった思いの色を確かめるよりも早く、ゼクが兎から魔法使いに戻る。不機嫌めいて見える鋭い赤の視線は、すぐに直香のことを探し当てた。
「直香、お前な……ぴょん」
また兎化しないよう慎重に語尾を付けつつ、ゼクが何やら文句を言おうと口を開く。直香はそれを、自分の声で遮った。
「ゼク、プリン買ってきてぴょん」
「は? さっき食べただろ、ぴょん」
「食べたけど、いいから早く買ってくるぴょん!」
ゼク、もはや何度目とも知れぬため息をつき、それでもちゃんと屋台の方へと身を翻す。
「はぁ……そこで待ってろ、ぴょん」
「2つだぴょん」
ゼクが、直香の方に顔だけで振り返る。
「2人で食べるから、2つ買ってくるのだぴょん」
難しい顔のままで、魔法使いは諾の返事をした。
●月と太陽の円舞曲
「秋と言えば月見やと思うて」
広場へと向かう道の途中。白いたれ耳が愛らしい兎頭巾を手に、クレメンス・ヴァイスはしっとりと言葉零した。隣を行くアレクサンドル・リシャールの手には、恥ずかしいからなるべく目立たないようにと耳の短い物を選んだ、白のうさ耳カチューシャ。それをまじまじと見つめながら、アレクサンドルは複雑な表情を作る。
「お誘いは凄く嬉しいけど……」
そう、鍵の町で聞いた言葉通りにクレメンスの方から声を掛けてくれたことが、アレクサンドルには堪らなく嬉しかった。だけど。
「兎耳で語尾『ぴょん』って……難易度高すぎだろ」
がくり、肩を落とすアレクサンドルの方を見やって、クレメンスはゆったりと言う。
「ああ、あの謎の語尾ならあたしも無理やけど」
「え? でも……」
「ほら、喋らん限り関係ないと思うんやけどねぇ」
「なるほど! 無言貫けば兎にならないか」
アレクサンドル、クレメンスの画期的なアイデアに、ぱあと顔を輝かせた。
広場に着けば、祭りの約束通りにうさ耳を着用して。『~ぴょん』の責め苦に耐える代わりに、2人はそっと口を噤む。そして、どちらともが無言のままベンチに並んで腰を下ろした。見上げれば、思わずため息が零れるほどの美しい月。言葉を封じているからこそ、心はずぶりと物思いに沈む。
(……静かだな)
祭りの賑やかしさはどこか遠く、辺りは薄暗くて月が綺麗で。アレクサンドルが想うのは、傍らの大切な相棒のこと。
(俺には寂しいけど、クレミーはこんな静かな夜と森を好んでて。街では住めないんだよな)
ああ、だけど。確かにクレミーには明るい太陽より静かな月が似合うかと、アレクサンドルは頭上の月にクレメンスの姿を重ねる。そのクレメンスが、胸に想うことは。
(まるで街の夜、やね)
辺りは夜の色に染まっていてはっきりとはその様子は見えないけれど、周りのベンチに座る人々が祭りを楽しんでいるのは伝わってくる。だけれども、傍らのパートナーはただ静かに月を見上げていて。その様を、まるで夜の街の縮図だと思うクレメンスだ。
(他の家には家族がおって楽しそうで、せやけど、アレクスは独りで)
クレメンスの知っているアレクサンドルは、いつも太陽のように明るく賑やかだ。けれど彼は、長い夜を言葉を繋ぐ相手もなく、ひとり寂しく過ごしているんだろうか?
全てを見透かし見守るような月の下、2人は互いに互いのことを想う。僅か動いたアレクサンドルの指先が、クレメンスの指先と触れ合った。不意に伝わる確かな温度に、クレメンス、はっとしてアレクサンドルへと視線を遣る。期せずして目が合えば、アレクサンドルの口からぽろりと溢れ出る、言葉。
「月が綺麗だな」
犯された禁忌にクレメンスが目を見開けば、アレクサンドルは首を傾げて思わず「何だ?」と。途端、アレクサンドルはちょこんと小さくて丸い、真っ白兎に姿を変える。
「うわ?! しまった、忘れてたぴょん!」
ベンチの上でアレクサンドルが叫べば、クレメンスはくすりと笑みを漏らした。迂闊に口こそ開かないが、
(これは……ふわふわで、かいらしいねぇ)
なんて思っているクレメンスである。そっと抱き上げたふわふわを、クレメンスは自分の膝の上へと乗せる。柔らかな手つきでなでなですれば、
「撫で回されるとくすぐったいぴょんー」
と愛でられたちび兎がふるふると揺れた。けれど撫でられ続けるうちに、クレメンスの手の優しさと温度が生む心地良さが、アレクサンドルを眠りの底へと誘う。うとうとするアレクサンドルをクレメンスは静かに撫で続けていたのだけれど――やがて、不思議な魔法は解けて。そこには気恥ずかしさに頬を朱に染めながら、自分の膝に頭を預ける相棒を揺り起こすクレメンスと、目を覚まして、同じく照れから真っ赤になるアレクサンドルの姿があったとか。
●うさみみ探険隊
「よっし、プリンゲットぴょん! マギ、一緒に食べよう! ぴょん!」
シルヴァ・アルネヴの黒いうさ耳がゆらり、宝石のような満月の下で揺れる。さてどこかいい場所は……と辺りを見回すシルヴァの背を、白いうさ耳のマギウス・マグスがつんつんと突いた。
「シルヴァ、あちらのベンチが空いてます……ぴょん」
恥じ入るような尻すぼみの声に「マギ、ありがとぴょん」とシルヴァはからりと笑みを零し、2人一緒にベンチに腰を下ろす。一緒に出掛けよう! とチェリコ村までマギウスを引っ張ってきたシルヴァの誘い文句は、「マギうさぎモフモフしたいし、プリンも美味そうだからさ」だった。期待を微塵も隠そうとしないシルヴァの物言いにマギウスは呆れ、同時にそう簡単に兎になるものかとも思ったのだが、例の語尾を維持するのは、恥ずかしいだけでなく中々に難儀だった。ため息を漏らすマギウスの隣で、シルヴァが『満月プリン』の封を開ける。マギウスもそれに倣った。
「それじゃ、いただきますぴょん!」
「いただきます……ぴょん」
2人手を合わせ、そっとプリンにスプーンを入れる。バニラの優しい香りが鼻孔をくすぐった。口に運んだプリンはとろりと滑らかに溶け、口の中に広がる濃厚な卵の風味が堪らない。その美味しさに2人は顔を見合わせてどちらからともなく笑み零し、それから自然、見惚れるような月へと視線を移す。薄い雲に隠れた月の輪郭は淡く輝き、人肌を思わせるような温かみのある色は、どこか慎ましやかにシルヴァたちを見守っていた。
「……御簾越しの美女はこういう感じでしょうか」
思わず呟いたマギウスの右手の甲に浮かぶ、うさぎさんマーク。しまったと再びのため息を漏らすマギウスの隣、シルヴァはきらと目を輝かせる。
「それじゃ、ついでにうさぎになってみよう! なっ!」
同じく右手の甲にうさぎさんマークを乗せて、明るい顔で無茶苦茶を言うシルヴァ。3度目のため息を零したマギウス、諦め顔で、
「何のついでですか、シルヴァ」
と返すや否や、真っ白ふわふわの子兎に転じる。
「おお! マギ可愛い!」
とふわり笑ったシルヴァも、あっという間に小さな耳が愛らしい黒の子兎に変身だ。目線が変われば、見えるものも変わる。シルヴァ、月見を楽しむ人たちの姿を目に留めてうずうずとした。
「マギ、祭りを見て回ろうぴょん! 探険ぴょん!」
言って、えいとばかりにベンチからとび降りれば、マギウスもそれに続いて。
「こちらラビット・ワン偵察を開始するぴょん」
ノリノリのシルヴァ、近くに転がる段ボール箱を見留めて、その中に入り込む。が。
「あッ! 前が見えないぴょん!」
「人間のうちに覗き穴を開けておくべきでしたね、ぴょん」
呆れ混じりのマギウスの声を耳に、段ボール箱から這い出てくるシルヴァ。
「こうなったらほふく前進だぴょん!」
「……そもそも草に隠れるような子兎が、ほふくする必要あるんですか? ぴょん」
宣言通りほふく前進でずりずりと進むシルヴァの後ろに、しっかりつっこみを入れながらマギウスがぴょんぴょんと続いた。
「話してる内容は分からなかったけど、皆仲良しだぴょん」
花壇には、橙色のコスモスが綺麗に咲き誇っていた。煉瓦でできた花壇の淵に腰を下ろして、シルヴァ兎は嬉しそうに声を弾ませる。広場中の様子をぴょんぴょんと見て回れば皆思い思いに祭りを楽しんでいて、何だか幸せをお裾分けしてもらったような気持ちのするシルヴァである。ほっこりしているシルヴァに、マギウスは兎の体をとん、ともたれかけた。
「僕たちも……仲良しだと思いますよ、ぴょん」
その温度が、柔らかな言葉が心地よくて。シルヴァは兎の鼻をひくひくとさせる。
「ん、そうだな、ぴょん。すごーく仲良しだぴょん」
今自分が人間の姿だったら、きっとにこにこと顔を綻ばせているだろうなとシルヴァは思う。2人寄り添い合って見上げた月は、目眩がするほど美しかった。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 巴めろ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 09月16日 |
出発日 | 09月23日 00:00 |
予定納品日 | 10月03日 |
参加者
- 羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
- シルヴァ・アルネヴ(マギウス・マグス)
- 柊崎 直香(ゼク=ファル)
- アレクサンドル・リシャール(クレメンス・ヴァイス)
- ウィーテス=アカーテース(パラサ=パック)
会議室
-
2014/09/22-22:44
締切直前になってしまいましたがご挨拶を。
羽瀬川千代とパートナーのラセルタさんです、宜しくお願い致します。
兎さんに満月プリン、とても楽しみです。
俺も語尾付けにあまり自信は無いのですけれど…どうか良い夜になりますように。 -
2014/09/20-23:22
とろとろプリン美味しそうだにゃー。
にゃーじゃない、ぴょん。
クキザキ・タダカだぴょん。よろしくだぴょん。
うちはたぶん何の問題もなくぴょんぴょん言ってると思うよー。
たまにはのんびり過ごしてあげるのも悪くない。うむ。 -
2014/09/20-20:14
ウィーテス=アカーテースと、相棒のパラサ、です。
よろしくお願いしますー。
うさぎ、かわいいですよね。
普段と視点が変わるから、なってみるのも面白そう、かなって。
……い、いえ、あの、その、ぴょんが恥ずかしいわけでは、決して……!決して……! -
2014/09/19-22:51
シルヴァ・アルネヴと精霊のマギだ。よろしくなー。
うさぎってモフモフしてて可愛いよな
うーん、皆がどんなうさぎになるか見てみたい。
(円陣で、口もしゃもしゃしながらうさぎ集会とか想像した)
オレ達は、いつもどおりのんびりしてる予定。 -
2014/09/19-21:43
アレックスと、相方のクレメンスだ。よろしくな。
つか、語尾「ぴょん」とか無理だから。
相方と二人で無言耐久レース(?)やってる予定。
俺は黙ってじっとしてるとか苦手だけどな。