不思議な鏡ともう一人の自分(まめ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

■不思議なお店で
カランカラン。
少し古びた木造作りの扉をあけると、すぐ上に吊るされていた看板が小さく揺れて音をたてた。

「あら?あなた達が依頼を受けてくれたウィンクルムの皆さんね!」
その音に反応して、店の奥から店主がひょっこりと顔を出した。

古道具屋『ムーンドロップ』。
街の大通りから少し外れた路地裏にその店はあった。

店の中に並べられた商品はどれも不思議な物ばかり。
表紙に何も書かれていない古書や、取っ手のとれた花瓶、怪しい雰囲気をまとったアクセサリーに、
どう使っていいのかさっぱりわからない謎の道具の数々…。
色々な物が雑多な様子で棚に置かれていた。

「ふふ。どれも不思議な物ばかりでしょう?全部、私の祖父が集めたものなんだけどね。
祖父はどれもこれも魔法の力が込められた魔法具だって言ってるんだけど、私にはただのがらくたにしか見えなくて。
あまり売れてもいないから、店を継いだこの機会に全部整理しちゃおうってわけなの。」

確かに本部で目を通した依頼所にも『がらくた整理』と書いてあった。
それでもウィンクルム達に依頼をしたということは、依頼者自身、魔法の道具という言葉を信じているからなのだろうか。

「さぁ、それじゃあ早速お願いね。」

依頼者の微笑みを合図に、各自が持ち場につき、作業を開始した。


■しばらくして…
雑多な雰囲気だった店内も大分整いつつある頃、事件は起こった。

依頼者の「休憩しましょ♪」を合図に、一同が店の奥に足を踏み入れた時だった。
廊下の壁に立て掛けられていた何かを覆っていた布がはらりと地面に落ち、そこから現れた大きな鏡。

不思議そうに神人たちが鏡を覗き込むと、鏡に映った自分がにこりと微笑んだ。
と、それと同時にあたりが一瞬ぴかっと光ったと思ったら…

気づくとそこには自分がもう一人。
なんと鏡を覗き込んだ神人が二人に増えてしまっていた。

「あ、あらあら~。本当にあったのね。魔法の道具…。」

突然の出来事に固まってしまった一同を前に、店主は気の抜けた声をあげた。

解説

残念ながら、店主の祖父が集めた品々には魔法の力なんてありませんでした。
ただ一つ、この鏡を除いては。

ただの雑用か?!…と思われる依頼でしたが、不思議な鏡の力によって
神人が二人に増えてしまうというハプニングが起きてしまいました。

そしてなんとこのコピーさん。
しゃべれはしませんが、神人の本能の通り行動してしまいます。(!)
普段、パートナーの精霊が大好きでも照れてなかなか素直になれない、
ついつい冷たくしてしまう、可愛くてついからかっちゃう…。
そんな本音を覆い隠していた気持ちも全部とっぱらって行動してしまいます。

幸いなことに、鏡に込められた魔力はあまり強くなかった為、この魔法は解除することができます。

店主の祖父が残した店の仕入れ台帳によると、魔法の鏡と他の鏡を使って作った合わせ鏡に分身を映すだけでいいのです。

ただこの店主、この状況を楽しむだけでは飽きたらず、とてもちゃっかりものなので、店にある手鏡をここぞとばかりに売り付けてきます。

「魔法を解除する手鏡はこちらですよ~。一つ300Jrになります~。(にこにこ)」

この笑顔からは逃げられそうもありません…。
…各自、お財布の準備をお願いします。

ゲームマスターより

皆さま、はじめまして。新米GMのまめと申します。
記念すべき第一回目のエピソードとなります。

コピー(本音)と本物の(建前)の間で揺らぐ神人と、巻き込まれる精霊の図。
想像するだけでとても面白い…いえ、ハートフルですねっ!!

コピーが勝手に精霊といちゃいちゃする姿を見て嫉妬するもよし!
普段素直になれない自分の代わりにコピーに色々してもうのもよし!

皆さんが普段覆い隠している部分、この機会に精霊に見せてみてはいかがでしょう?

コピーがどういう行動をとるか、神人さん・精霊がどういう行動をとるか、
そしてコピーが消えた時、お互いどのような反応をするかについても、記載があると嬉しいです。

それでは皆さん、本音を見せる覚悟は出来ましたか?

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)

  わー…自分がもう一人いるとか何だか変な気分ですね…
本能のままに行動するとか何だか怖いです…
へ、変なことしないといいんですけどっ!

今のところ何も問題はなさそうですが…
こ、こんにちはー…あ、笑った!
しかもジェスチャーらしきもので
意思疎通を図ってくれてるっぽいですっ!
見てくださいグレン、何か面白いです、これ!!!
…あ、はい、そうですね、鏡買ってきます…

またグレンに怒られちゃいますし戻りましょうか。
よーし、そのままそこに立ってて下さ…
ああっ!何で、何でそこで抱きつきに行くなんて
そんな行動取るんですかーっ!

私が逆の立場だったら、確かにグレンとお別れは寂しいけど…
はっ、じゃなくて!はーなーれーてー!


リヴィエラ(ロジェ)
  リヴィエラ:
(※コピーの行動…ロジェの事が好きで仕方ない。彼にうっとりとしながら抱き付き、キスをしようとする)

ま、待って…嫌! ロジェ様を取らないでえぇぇっ!
(手鏡を使いコピーを消す)
ち、違うんです、ロジェ様…これは…っ

(ボロボロと泣き出し)だ、だって…好きなんだもの…貴方が好きなんだもの…!
ロジェ様はズルいです…一方的にキスをして、私の気持ちなんて…っ

ロ、ロジェ様!? ロ、ジェ様…いいえ、私が自分の気持ちに正直になる事に臆病だっただけ!
(自分からも抱き付きながら)ごめんなさい…私も貴方の事がこんなに好きです…!
ロジェ様…私、私だって胸が張り裂けそうな程に貴方の事が好きなんです…っ



クラリス(ソルティ)
  ★アドリブ大歓迎

出てくるなりソルティを見て至極嬉しそうに駆け寄り、勢いのままみぞおちに拳を打ち込む分身
我ながら素晴らしい正拳突きね!惚れ惚れするわ

ちょっと。本物の許しなく好き勝手されちゃ困るんだけど?…何よ、分身の癖に気に入らないって顔ね
分身がソルを振り返った隙を見て無理矢理に鏡で魔法解除

ったく、あたしはあんなに物騒じゃないわよ
悩みって程じゃないのよ…全て失ったあの日、ソルは来てくれたじゃない?
皆の事は間に合わなかったけど、それでもソルだけは生きていてくれた
それが凄く嬉しかったのよ
だからこそこうして契約を利用してソルを巻き込んでいる事が…そんな自分自身が許せないの

今更だけど…ソルってド変人よね



桜倉 歌菜(月成 羽純)
  ※弄りアドリブ歓迎

私が二人になっちゃった!?
しかも、その私、羽純くんに対して何してるのーッ?


コピーの行動:
羽純くん、大好き!(ぎゅっと抱きつく
ねぇ、私の事…嫌いでもいいの
私、とても寂しくて…
一人は嫌
だから、私の事を嫌いでもいい
一緒に…傍に居て欲しい
私の事、ぎゅっと抱きしめて…お願い


嘘!そんなの嘘だからねっ
羽純くん!
離れてよ、変な事、言わないでよっ(涙目
こんなの私じゃない…!

店長さん、鏡ください!
弱い私は、要らないんだから…!

コピーが消えたら、羽純くんに主張
あれは嘘だから、信じないで…お願い

うぅ…変な子と思われた
嫌われたかな?呆れられたかな?

そう考えたら涙が出そうですが堪えます
強い私になるの



●子犬のワルツ
「わー…自分がもう一人いるとか何だか変な気分ですね…」

鏡の前に立つもう一人の自分を見て、ニーナ・ルアルディはぽつりと呟いた。
なんともいえない不思議な感覚に包まれ、思わず駆け寄りそうになるのだが、先ほど店主から聞いた言葉を思い出しぴたりと歩を止めた。

『コピーは、映した者の本能のままに行動する』

「本能のままに行動するとか何だか怖いです…へ、変なことしないといいんですけどっ!」

本能という言葉に何か思い当たることがあったようで、ニーナはパートナーであるグレン・カーヴェルにちらりと視線を向ける。
視線に気づいたグレンは、ニーナを見ると、にやっと微笑んだ。
その微笑みが何もかも見透かしているような気がしてニーナはさっと目を逸らした。なんだか自分の頬が熱い。
再度、自分のコピーに視線を戻すと、コピーとばっちり目が合ってしまった。

「えと、こ、こんにちは~…。」

コピーに向かってひらひらと手を振ってみる。するとそれに答えるかのようにコピーは笑顔を浮かべた。
そしてニーナに何かを伝えようと、両手を前に出しグーパーグーパーとしだした。

「…あ、笑った!しかもジェスチャーらしきもので意思疎通を図ってくれてるっぽいですっ!」

ニーナは店主の言葉などすっかり忘れてしまったようで、この事態を楽しみだしているようだった。
ニーナ自身も笑顔を浮かべながらもう一人の自分に駆け寄ると、コピーも同じような笑顔を浮かべ近づいてきたニーナときゅっと手を取り合った。

「見てくださいグレン、何か面白いです、これ!!!」

その光景から、グレンは子犬が二匹じゃれあっている姿を想像してしまい思わず吹き出す。

「こいつ、元々分かりやすい奴だとは思ってたが、ここまで裏がないって分かると拍子抜けだな…。」

拍子抜けだと思いつつも、いつも見ているニーナが裏表の無い「そのままの姿」であったことが、嬉しかったことに驚いてしまう。
けれどそんなことはちっとも表に出さず、グレンはぶっきらぼうに答えた。

「いや、2号と揃って笑顔で報告されてもな…報告はいいんだよ。遊んでねーでとっとと元に戻して来い。2号もとっとと鏡に帰れ。」

グレンのその言葉に、二匹…いや、二人してしょぼんと肩を落とす。
2号のほうに至っては、くりっとした瞳に涙を浮かべているようで。

(…同時に凹んでやがる、おもしれー…)

その姿を見たグレンは、面白そうににやっと微笑んだ。

「…あ、はい、そうですね、鏡買ってきます…。」

ニーナは店主の元へ手鏡を買いに、肩を落としたままその場を離れた。

その場に残されたグレンは、もう一人のニーナを見つめる。

「泣いたり笑ったり鬱陶しいことこの上ねーが、普段のこいつの行動が演技ではなく本物だっつーことは分かった訳だ。…今後、少しくらい信用してやってもいいかもな。」

そう呟いたグレン言葉がコピーの耳にも届いたようで、コピーは満面の笑みを浮かべる。
本当にころころと表情が変わる。

「鏡買ってきました。またグレンに怒られちゃいますし戻りましょうか。」

そこで戻ってきたニーナが片手に手鏡を持ち、コピーの腕を引いて魔法の鏡の前に向かう。
さっきのグレンの言葉で、にこにこ状態のコピーは素直に鏡の前までやってきた。
さて合わせ鏡をしようかとした時…。

「よーし、そのままそこに立ってて下さ…ああっ!何で、何でそこでグレンに抱きつきに行くんですかーっ!」

ニーナの手を振り払ったコピーは、グレンに思い切り抱き付いていた。

「っておい!急になんだ…こいつは2号か!」

突然抱きついてきた彼女に驚いたが、それが2号だとわかると、グレンはニーナに向かって大きな声をあげた。

「ニーナこれお前だろ!早く何とかしろ!」

グレンの声に慌てて駆け寄ったニーナは、コピーの腕を引っ張り、何とかグレンから引き離そうとするも全然動く気配が無い。
私こんなに力あったかしら。と思う程。それほど鏡に戻りたくない、ううん、きっと…。

「私が逆の立場だったら、確かにグレンとお別れは寂しいけど…」

グレンと離れたくないから…。
コピーの気持ちが痛いほど伝わってきて、手の力が弱まってしまう。

「…はっ、じゃなくて!はーなーれーてー!」

気持ちはわかるけど。でも今はそんなことを言っている場合でもない。
ニーナが再度引っ張ると、今度は簡単にコピーはグレンから離れた。

「…へぇ、『お別れは寂しい』ねぇ…」

ほっとしたと同時に頭の上のほうから聞こえた、グレンの笑いを含んだ声。

「グレン…そんな意地悪そうに笑わないでっ…!」

すごいセリフを聞かれてしまった。ニーナは耳まで真っ赤にしてグレンに抗議の目を向ける。
しかしその目にはまったく迫力が無い。

「へー、ふーん…別に笑ってねーし?それよりも早く戻して来いよ。」
「う~~…」

顔を真っ赤にしたニーナがコピーの方を見ると、コピーは鏡の前でにっこりと微笑みを浮かべていた。

●拳が語る愛

「グハァァァァ…!!」

店内に響き渡る苦悶の声。
今一体何が起こったのだろう…と、天井へ向けた瞳を閉じて、ソルティは数分前の出来事を思い出す。

鏡からもう一人のクラリスが現れて、とっても嬉しそうな顔をしてソルティの元へ駆け寄ったかと思えば。
その走りの勢いをのせた拳が見事にソルティのみぞおちにヒットした。
クリーンヒット&ノックダウン。今床と仲良くしているのはそうゆう訳で。

「我ながら素晴らしい正拳突きね!惚れ惚れするわ!」
「…俺、死ぬかもしれない。」

倒れたソルティの傍に歩いてきたクラリスは、助け起こすわけでもなく、うんうんと頷いてコピーの拳を褒め称えている。
さっきまでは、駆け寄ってきたクラリスの笑顔に、別の意味で死ぬかもしれないと思っていたソルティだったのだが、
今のこの状態は本当に死んでしまうかもしれない…と、悲しみの声をあげた。

「え、クラリス…俺を殴りたかったの…?」

よろめきつつ上体を起こすと、拳を決めたコピーがソルティの上に伸し掛かり両手を広げてきた。
第二波に怯え思わず目をつぶったのだが、コピーがとった行動は予想外のもので。
コピーはソルティにぎゅっと抱き付き、とても嬉しそうに微笑んでいた。

「え?え?凄く…可愛いっ!!あ~…この感じ懐かしいなぁ~」

そのコピーの行動にふにゃっととろけた顔を浮かべるソルティとはうって変わり、ピシッと固まった表情になるクラリス。

コピーの頭を優しく撫で、ソルティは遠い故郷の日々を思い出した。
二人で兄弟のように過ごした日々。遠慮無しに甘えてくる小さなクラリスがとっても可愛かった。
そんな懐かしい思い出に想いを馳せながらコピーの顔を見つめた時、決して声は聞こえないが、その瞳から、表情から、何かを必至にソルティに伝えていることに気付く。

「…何か伝えたがってる?」

コピーの肩にそっと手を置き、その何かを読みとろうと体を近づける。

「ちょっと。本物の許しなく好き勝手されちゃ困るんだけど?」

が、それを拒むかのようにクラリスが間に割って入ったきた。コピーの腕を引っ張り、無理やり立たせようとしている。
その行動が気に食わなかったコピーは、クラリスをきっと睨み付け、その腕を振り払う。

「…何よ、分身の癖に気に入らないって顔ね。」

その言葉に一瞬悲しげな表情を浮かべたコピーだったが、またすぐに鋭い瞳でクラリスを睨みつけると、自由になった腕を振り上げてクラリスに殴りかかった。
しかしコピーのその動きにクラリスは微動だにしなかった。まるで殴られることを受け入れているように。

「こら。ダメだよ。」

突然ソルティに腕を掴まれて、態勢を崩したコピーの拳は空しく宙を切った。
再度殴りかからないように、ソルティはコピーの両手をぎゅっと掴んで動きを塞ぐ。
動きが止まりほっと安堵のため息をもらしたソルティの瞳に突然、振り返ったコピーの悲しげな顔が映った。
そしてその口が言葉を紡ぐ。

「…コピー、何でそんな悲しそうな顔…「ごめん」って?」

声が聞こえたわけじゃない。けれどそう言っていることが不思議と伝わってきた。

「あ…。」

気づいたらソルティの目の前からコピーは姿を消していた。

「ったく、あたしはあんなに物騒じゃないわよ」

視線をずらすと、横に立っていたクラリスが手鏡を掲げているのに気付く。そして正面には魔法の鏡。
クラリスによってコピーは消されてしまったのだ。

あの悲しそうな顔。そして「ごめん」の言葉…。
ソルティはクラリスにゆっくりと近づくと、バツが悪そうに腕を組んでいるクラリスの腕をそっと解き、現れた両手を自身の手で優しく包み込んだ。

「…お前の口から聞かせて。一人で何を抱えてる?」

ソルティの言葉に一瞬瞳を大きく瞬かたクラリスだったが、ソルティの真剣な瞳に観念したのかぽつりぽつりと語りだした。

「別に悩みって程じゃないのよ…。全て失ったあの日、ソルは来てくれたじゃない?」

全て失ったあの日…。ソルティは自身の手が震えていることに気付く。

「あの日、町が襲撃されて壊滅状態って聞いて真っ白になったよ。今でも思い出すと手が震えるんだ。…情けないよね。」

自傷を帯びたソルティの言葉を振り払うように、今度はクラリスが、ソルティの震える手を強く握りしめた。

「皆の事は間に合わなかったけど、それでもソルだけは生きていてくれた。…それが凄く嬉しかったのよ。」

そしてその言葉に反応するようにソルティも強く手を握り返した。

「だからこそ今、こうして契約を利用してソルを巻き込んでいる事が…。そんな自分自身が許せないの。」
「ありがとうクラリス。…俺はクラリスの力になりたい。それは昔も今も変わらないよ。その為に俺は一人で故郷を出たんだ。」

心に秘めていた気持ちは、お互いを想い合う気持ちだった。
二人は瞳を交差させ、微笑み合う。

「クラリスの気が向いたら、また本音話してよ。俺、待つの好きだからさ。」

ソルティがそういって笑うと、クラリスは少し照れているのか、また腕を組んで…。

「今更だけど…ソルってド変人よね。」
「それ、クラリスだけには言われたくないよね。」


●交差する想い

「リヴィーが二人に…? お、おい、リヴィー?」
突然目の前に現れたリヴィエラのコピーに、ロジェは驚いて交互に2人を見つめた。
茫然とした顔をしているのが本物のリヴィエラで、今、ずいずいとロジェに近づいているのがコピーのようだ。
コピーは愛おしそうにロジェを見つめると、その首に両手を回しぐいっと顔を近づけている。

ただでさえ愛おしいと思っている少女が2人になってしまって訳がわからない状態なのに、大胆に接近してくるコピーの行動に、ロジェの頭はもう限界になりそうだった。

「…はっ!ま、待って!何してるの私!…じゃなくて、私のコピー!」

やっと意識を取り戻した本物のリヴィエラが、慌ててロジェとコピーに駆け寄る。
それでもまだ混乱をしている様子である。本能のままに行動していたコピーが自分の姿と重なってしまっていたようだ。

コピーをぐいぐいと引っ張り、何とかロジェから引き離そうとするものの、ぴたっとくっついていてなかなか離れない。
ロジェもリヴィエラの姿をしたコピーを冷たくあしらう事も出来ず、成すがままになってしまっている。

さっきまでロジェに抱き付くコピーに自分の姿を重ねて見ていたのに。
自分が出来ないことを簡単にしてしまうコピーがなんだか別の女の子に見えてきて、リヴィエラは自分の心に隠しきれない強い想いがあることに気付く。
居てもたっても居られなくなったリヴィエラは、店主の元へ駆け、手鏡を手に戻ってきた。
戻ってきたリヴィエラの目に飛び込んできたのは、今にも唇を重ね合わせそうなロジェとコピーの姿。

「ま、待って…嫌! ロジェ様を取らないでえぇぇっ!」

慌てて手にした鏡をコピーにあてると、思いの外うまくいったらしく目の前からコピーが姿を消した。
ほっとしたリヴィエラだったが、すぐ直前に自身が発した言葉に気付くと、耳まで真っ赤に染めてロジェの方を振り返る。
視線の先にいたロジェは、目を丸めて驚いた表情を浮かべていた。

「ち、違うんです、ロジェ様…これは…っ」

リヴェエラは、恥ずかしさのあまり先ほどの言葉を否定しようと両手をバタバタと振ったが、片手に握りしめられた手鏡に気付くと静かにその手を下ろした。
『コピーは本能のままに行動してしまう。』そう言った店主の言葉が頭の中を駆け巡る。
そしてその言葉をロジェも思い出していたようだった。

「そうか、このコピーは本能のままに行動するのだったな。違うって何が違うんだ?『君は俺にキスをしようとした』それが君の本能じゃないのか?」

ロジェはクスクスと笑いながらリヴィエラをそっと優しく抱き寄せた。
浮かべた笑みが意地悪そうに見えるのは気のせいだろうか。
突然近づいたロジェの顔から目が離せなくなってしまったリヴィエラを見て、ロジェはくすりと微笑む。
そして優しくリヴィエラに口付けた。

ロジェの事はもちろん大好きなのだが、先日も急にロジェから口付けをされ、その口付けにどう答えればいいのかリヴィエラはずっと悩んでいた。
そして自分が悩むことで、ロジェが苦しんでいることも知っていた。

自分の心と向き合っていこうと決心したばかりだったのに、急に表れたコピーによって、心は置いてけぼりに自分の気持ちがロジェに曝け出されてしまった。
そのショックで、リヴィエラの瞳からはボロボロと大きな粒のような涙が零れ出す。

「リヴィ…」

心配そうに肩に手を置くロジェの手にそっと自身の手を重ねると、リヴィは泣きじゃくりながらロジェを見つめる。
そして心の奥の想いを一気に漏らしはじめた。

「だ、だって…私、好きなんだもの…貴方が好きなんだもの…!ロジェ様はズルいです…。一方的にキスをして、私の気持ちなんて…っ!」

リヴィエラの涙を拭うように優しく瞼に口付けをすると、ロジェは強くリヴィエラを抱きしめた。

「俺はこの前、君に無理矢理キスをして、俺の本能を君にぶつけてしまったのではないかと後悔した。怯えて当然だよな…本当にあの時はすまなかった。」
「ロ、ロジェ様!? ロ、ジェ様…いいえ、私が自分の気持ちに正直になる事に臆病だっただけ!」

突然の謝罪に戸惑いながらも、リヴィエラは自身の腕をロジェの背中にそっと回した。
お互いを抱きしめ合うことで、やっと2人の気持ちが通じ合ったような気がした。
そう。ただ本当の気持ちを見せることが怖かっただけなのだ。

「ごめんなさい…。私も貴方の事がこんなにも好きです…!ロジェ様…私、私だって胸が張り裂けそうな程に貴方の事が好きなんです…!」
「リヴィエラ。君の事が誰よりも好きだ。本当に君の事が好きだよ。もう誰にも渡さない…!」

お互いの心を確認し合うように、リヴィエラとロジェは強く強く抱き合った。

もう何も怖くない。二人一緒なら…。
リヴィエラはそう思いながら、静かに瞳を閉じた。


●暴かれる本心

「私が二人になっちゃった!?」
「歌菜が二人?」

同時に驚きの声をあげた桜倉歌菜と、パートナーの月成羽純は、お互いの顔を見合わせる。
魔法の鏡の前には、歌菜とまったく同じ顔、服装をしたコピーが嬉しそうな顔をして立っていた。
二人が驚き固まっていると、コピーが突然駆け出した。

「「え?」」

またも同時に声をあげた二人。その二人の視線の先には…羽純に嬉しそうに抱き付くコピーの姿。

「ちょ…!羽純くんに対して何してるのー!?」

抱き付いたあげく、猫のように羽純の頬に頬ずりをしている。
その行動から、歌菜の気持ちは一目瞭然である。
『コピーは本能のままに行動する。』それが店主から聞いた衝撃の言葉だった。
その事実はもちろん、羽純も知っているわけで…。

歌菜は自身の顔が熱くなっている事を感じた。

(それじゃあ、私が羽純くんのことを大好きって言っているも同然じゃない!!)

そんなコピーと歌菜の様子を見て、羽純も店主の言葉を思い出していた。
羽純に抱き付いているため歌菜の方からはコピーの顔が見えていないが、羽純が見ていたコピーは、好意とは別の気持ちを伝えようとしていた。
その瞳は涙を浮かべ、悲しそうに羽純を見つめている。抱き付く腕も微かに震えているようだった。

”一人は嫌。私の事を嫌いでもいい。一緒に…傍に居て欲しい…”

言葉は無い。…しかし、そんなコピーの気持ちが、不思議と羽純にも伝わってくる。

「成程、これが歌菜の本音か…。」

いつも明るく振る舞っている影で隠されていた孤独という気持ち。寂しいという気持ち。
歌菜が時々見せる悲しげな表情を目にしたことはあったが、こんな風に正面から気持ちをぶつけられたのは初めてだった。
この気持ちを前にして、このか細い腕を振り払う事なんてできなかった。

けれど、羽純は歌菜のその気持ちを認めるわけにはいかなかった。
自分が一人きりだと思う気持ちも、歌菜が羽純に嫌いでもいいと思う気持ちも、すべて歌菜自身が勝手に決めたものだ。

「少し、いや、かなり…気に食わないぞ。どうして俺の感情をお前が決め付ける?嫌いなどと、一言も言った事はない。」

羽純のその言葉に歌菜は一瞬で表情を変えた。真っ赤な顔がたちまち青くなっていく。
自分の胸に秘めていた気持ちが、コピーによって曝け出されてゆく。よりによって一番知られたくなかった羽純に。

「嘘!そんなの嘘だからねっ?羽純くん!…離れてよ。変な事言わないでよっ!こんなの私じゃない…!」

あわててコピーに駆け寄り、羽純から引き離そうと躍起になる。
恥ずかしさと、こんな自分を知られたら羽純から嫌われてしまうかもしれない不安が入り混じり、歌菜の瞳には涙が浮かぶ。
その歌菜の潤んだ瞳を見て、羽純の気持ちはますます苛立つ。

(嘘って何だ…!俺に本音を隠したいという訳か。…何で俺がイラッとしなけりゃならないんだ。)

本音を伝えるコピーとそれを否定する歌菜。そんな二人を見て、羽純は自分の気持ちが激しく波打つのを感じた。

「店長さん、鏡ください!弱い私は、要らないんだから…!」

半ばひったくるように店主から手鏡を掴みとると、歌菜はコピーに向けてその鏡をあてた。
魔法の鏡と手鏡に反射して、コピーはたちまちに姿を消した。

二人の間に沈黙が訪れる。
その静寂を破ったのは歌菜の弱々しい言葉だった。

「…あれは嘘だから、信じないで…お願い。」

震える手をぎゅっとおさえつけながら、羽純に主張をする歌菜。
どうしてこう頑ななのか…。羽純は大きなため息をつくと、沈んだ歌菜の額目掛けてデコピンを放った。

「いたっ…!」

急におでこを弾かれて、歌菜は額を手で覆った。
痛みに閉じた目をうっすらとあけると、羽純の呆れているような顔が映る。

「うぅ…変な子と思われた。嫌われたかな?呆れられたかな?」

その顔に驚いて、つい口から零れてしまう不安。
その言葉に再度大きなため息をつくと、羽純は歌菜の額にデコピンしようと指を近づけた。
先ほどの痛みを想像した歌菜は、条件反射のようにぎゅっと瞳を閉じた。
が、待っても額に痛みが走ることは無かった。

「…まったく。だから、お前が俺の感情を決め付けるな。変だと思ってないし、嫌ってもいない。」

デコピンの形を作っていた指が崩れ、羽純の手のひらは、そのままぽんっと歌菜の頭にのせられた。

大好きな人に嫌われたくないという気持ち。いつも不安で仕方なかった寂しい気持ち。
その歌菜の本当の気持ちを知っても、羽純は拒絶することは無かった。
多少の意地悪はあったものの、優しく受け止めてくれている。

堪えきれず歌菜の瞳から涙があふれ出す。
頭の上にあった暖かな手のひらがそっと歌菜の頭を撫でる。

「大丈夫だから。もう泣くな…歌菜。」
「ありがとう羽純くん…。弱い私もちゃんと受け止められるように…私、強くなるよ。」

そういって歌菜は心の底からの笑顔を見せた。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター まめ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 09月06日
出発日 09月13日 00:00
予定納品日 09月23日

参加者

会議室

  • [3]リヴィエラ

    2014/09/10-00:17 

    ロジェ:
    途中参加失礼する。
    俺の名はロジェ。パートナーはリヴィエラだ。
    ニーナ、クラリス、歌菜もどうか宜しくな(柔らかく微笑む)

    俺もあいつの本音を知りたいと思っていたから
    良い機会かもしれないな。

  • [2]桜倉 歌菜

    2014/09/10-00:10 

    こんにちは!桜倉 歌菜と申します。

    魔法の力が込められた魔法具なんて素敵♪と思っていたのだけど…
    何で、私が二人になっちゃったの?
    し、しかもあんな行動取るなんてっ…
    だ、駄目ですってばーッ

    だ、駄目だ、早く何とかしないと!

    皆様、宜しくお願い致します!

  • [1]クラリス

    2014/09/09-16:54 

    ソルティ:
    こんにちは。俺は精霊のソルティです。神人のクラリスのパートナーやってます。宜しくな。
    えーと、…魔法具の整理なんてすっごーーーーく嫌な予感しかしなかったんだけどさ。案の定だよね。
    一人でも手を焼いてるっていうのにクラリスが二人なんて…もう…もう…っ!(頭を抱えて)
    まぁ本音を聞くにはいい機会だし、このチャンスを利用させて貰おうと思ってるよ。


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