少女小説家に愛の手を(瀬田一稀 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「ああ、やっぱりだめです! 思いつきませんっ!」
 ココアは叫んで、パソコンの画面を閉じた。締め切りは一週間後だというのに、肝心の場面が決まらない。この小説最大の山場、告白シーンだ。
「……もうさすがにネタは出し尽くしました……」
 背中を椅子につけて脱力する。恋愛小説家と言われるものになってから早○年、様々な恋を書いてきた。一番人気は種族を越えて愛し合い、パートナーに命すら預けるウィンクルムの恋愛だ。
 でもそれも、何十作と書いてくれば似たようなものになってしまうもの。
 しかもココアはこうして家にこもって書いていることが多いため、実際のウィンクルムに会ったことはない。
 いや、住んでいるのはタブロスである。正確に言えば見たことはあるが、実際に親しくしたことはないということだ。
「……ウィンクルムって、どんな感じなんでしょうね。やっぱり情熱的な告白をするんでしょうか。年の差がある方もいるらしいし、もとは気が合わない方もいるらしいし……。ああ、妄想は膨らむのに、肝心の愛の言葉が出てこない!」

 そんなとき、ふと思いだした。
 そういえば、タブロスにはA.R.O.A.というものが存在するではないかと。
 本来ならばオーガを退治する依頼を受けているとは聞く。でも、万が一もしかして、ウィンクルムに会わせてくださいと言ったら……会わせてくれないだろうか。
 さらに告白の話とか聞けたら最高だし、さらにさらに演技でもいいから素敵なシーンを見せてもらえたら……!
「今まで引きこもってましたけど……ここは勇気を出してっ!」
 ココアは原稿の催促が恐ろしいのでベッドの下に隠していた電話機を引っ張り出し、A.R.O.A.本部に電話をかけることにした。
「ええっと職業別電話帳はっと……ああ、これですね。深呼吸して……よし、番号を押しますよ!」

 ※

「……ということなんですけどね」
 A.R.O.A.職員は、偶然その場に居合わせたウィンクルムにココアの依頼を話してみた。オーガ関連のものではないので、あくまでも世間話のついでである。
「ココア……知らないな」
 精霊の一人が言うが職員はあっさり「それは本名らしいですよ」とのこと。
「恥ずかしいからペンネームと年齢は秘密、だそうです。全年齢対象の少女小説ですって言ってましたから、まあ精霊さんはご存じないでしょうねえ」
「……で、それって具体的には何をするの?」
 神人が尋ねると、職員は「さあ?」と首を傾げた。
「知り合いの店を借りたから、ここに来てほしいと言うだけで……。あ、大事なことを忘れていました。しつこいようですけど全年齢対象ですから、その手の心配はないということです」
「……その手の心配?」
「……要はまあ……ね、わかるでしょ」
 職員は首を傾げる神人には答えずに、精霊の肩を叩く。
「…………それを俺に説明しろと?」
「いえいえいえ、そんなことは言いませんけどね。丸投げなんてそんなことっ」
 HAHAHA! と高笑いをした後、職員はごほんとひとつ咳をした。
「ま、暇なら行ってみたらどうです? お店はハンバーガーショップですって。チェーン店ではないそうです。はいこれ、店の名前と電話番号と、地図、出しときましたから。あ、それと」
「……まだあるのか」
「いえね、そこの店、バーガーに挟むハンバーグの形が選べるんですって。変わってますよね」

解説

小説家のお姉さんが困っているようです。
ぜひ助けてあげてください。

ココアからのお願いは「素敵な告白シーンを演じて見せて欲しい」ということです。
しかし『全年齢対象(ここは重要です)の少女小説のネタのため』なので、過度な接触はご遠慮願います。
さらにココアはこれをネタに小説を書こうと思っているため、本気の告白をするとそれがタブロスの少女小説愛読者たちに知れ渡ることになります。
ということで、基本的には演技です。
勇気と覚悟のある方は本気でも構いません。

ハンバーガーショップはココアの友人の好意で貸切りとなっています。
ピーチジュースが用意されています。
もし食事をとりたいようでしたら、バーガーとポテトのセットが一人分200ジェールで食べることができます。

なお、オプションでハンバーグの形を指定することができます。形の意味は店内に張り出してあるので誰にでもわかります。
(指定がない場合は楕円のハンバーグとなります)

三角(ちょっと好き) +20ジェール
四角(そこそこ好き) +40ジェール
正円(けっこう好き) +60ジェール
ハート(すごく好き) +80ジェール
花形(あなたしか見えない) +100ジェール

※オプションは最初の価格200ジェールに足す形になります。花形なら200+100=300ジェールということです。

とても微妙な区分けを、ぜひ告白にご使用ください。


ゲームマスターより

告白エピですが、全力でギャグのつもりです。
そしてリザルトは『ココア視点』が混じります。
ココアが全力で突っ込みます。

【例】
 精霊が神人の手をとると、神人は頬を赤らめた。
「どうしたの、いきなり……」
「いきなり? まさか。俺はずっと前からお前のことが……す、」

 え? ここで好きって言うんですか? ああ、どもってる! あんなにかっこいい人がっ!(ここがココアです)

「……お前のことが……す、好きだ」

 きゃああっ、言った! 言いました!(これもココアです)
【例 終わり】

 という感じです。
 親密度と二人の性格によっては成功しない演技もございます。ご注意を。
 それではよろしくお願いします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

手屋 笹(カガヤ・アクショア)

  告白の演技…で、できますでしょうか…。

というかどちらがやりますか?
って悩むのも時間の無駄ですかね…
わたくしがやりましょうか。

演技とはいえ内容が内容なので緊張しますわね…
告白演技「えと…こほん、カガヤ…その…(カガヤの方をまっすぐ見て)あなたの事、す…好きなのです…」
い、言ってやりましたわ…
これでココアさんの依頼は終わりですね…ああ、変に疲れました…

演技後「え?ええ、そう…ですね…」

今のは演技に対してカガヤが思った事を言っただけですわ。
ええ、ええ…
勿論本気なんかじゃ……本気なんかじゃなかったのに…
何ですの、この感情は…何だか鼻が痛いですわ…

(じんわり涙目になりながら軽くむすっとしています。)



夢路 希望(スノー・ラビット)
 

…ずっと憧れていたんです
告白、なんて
私には縁の無い事だと思っていましたから
…今日だけ
少しだけ夢を見させて下さい

いざお店へ着けば緊張で無言
…ココアさんの今後も掛かっているんです
上手く演技しないと(深呼吸<メンタルヘルス
話しかけられれば一瞬声を裏返しつつ
…す、好きなタイプ、ですか
…優しい方がいいです
…歳は、あまり…私を想って下さる方なら
ぼそぼそと思わず素で答えつつ
僕は?の問いには赤面
(これは演技、これは演技です)
心の中で呟きつつ
勇気を出して手に手を重ね
…嬉しい、です
…本当は、私も、ずっと

…あの…もうそろそろ、手を…

…か、顔から火が出そうです
(これがもし本当だったら…)
…い、いえ
何でもないです



アマリリス(ヴェルナー)
  本当に色々な依頼がありますのね
まあ暇ですし構いません
ココアさんに聞いてみてはいかがでしょう

少女小説なら男性からの告白がセオリーでしょう
さ、どうぞ

褒めようとした努力は買いますが具体性がたりません
色が同じだけでなくもう少し比喩的表現が欲しい所ですわ
やはりヴェルナーには難易度が高かったかしら

お手本?そうですわね…

人の話は湾曲して解釈するし鈍感だし天然だし
どこが好きと聞かれたら顔としか言いようがないくらい
本当にどこがいいのかと首を傾げたくなりますけれど…
好きって自覚してしまったらもうだめですの
そんな所も含めての貴方なんだと思うと好ましく思えてしまいますのよ

そう、演技ですわ
相変わらずですのね、違います



水田 茉莉花(八月一日 智)
  アドリブOK

2人分のバーガーセット頼んで座るわ
わがまま言わないの、おとなしくなさい!

は?(バーガーを皿の上にぼとり)
…こういうのも仕事、なの?
って言っても告白なんて…あの時もしてないわよねぇ?
(ポテトにバーガーソース付け食べる)

うん、その後は一緒に住んで、ご飯作って一緒に食べて
一緒の仕事場行って働いて…

って、ほづみさんが職場の棚とか、家を片付け無さ過ぎるのが原因ですから!
お金の計算とかは得意な癖に、色々ズボラなんだから!

はぁ?言うに事欠いてナニ嫁だとか言ってるんですかこのドちび!
違います!結婚してません、やましいこともえっちぃこともありませんー!

すっ…そうやってさらりと好きって言うな~!(殴)



●「この二人、もはや熟年夫婦じゃないですか?」byココア

「告白してください、あ、もちろん演技でいいですから!」
 ノートパソコンを前に、ココアは微笑んだ。ちなみにバーガーショップである。
「は?」
 水田 茉莉花は注文したバーガーを、ぽとりと皿の上に落とした。
 さっきまで、コーラが飲みたいと騒ぐ八月一日 智を叱りつけていた、その勢いはすでにどこかへ飛んでいる。
「……こういうのも仕事、なの?」
「ええ、依頼しました」
 ココアはキーボードに手を置いた。何かあれば入力して記録に残すつもりだ。小説家も大変なのである。

「告白なんて……あの時もしてないわよねぇ?」
 茉莉花はポテトにハンバーガーのソースを付けて、ぱくりと口に放り込んだ。
「ああ、水たまりをおれン家に連れてったあの時か。確かに告白はしなかったな」
 バーガーに齧り付き、智は言う。

(え、告白してないのに家に連れ込んだ……? どんな関係なんです、この二人。年の差とかありそうなんですけど)

 ハンバーガーの二口目を口に入れ、智はもしゃもしゃと咀嚼した。
「確か……みずたまりの肩を後ろから叩いて、『お前、おれン家来るか? 世話してやるから一緒に住め』って言っただけだよなあ?」
「うん。その後は一緒に住んで、ご飯作って一緒に食べて、一緒の仕事行って働いて……」
 茉莉花は平然とポテトを食んでいる。しかし、だ。

(なにそのラノベ的展開!? 若い男女が、普通それだけで一緒に住みます!? あ、もしかして一目惚れ……ってちょっと、全然そんな甘い雰囲気ないんですけどっ。え? それよりも八月一日さん、社会人だったんですね。働いてって……てっきり学生さんだと)

 智は三口目でバーガーを平らげた。次はポテトだ。小柄でもさすがは男性。食べるのは早い。
「ってか、みずたまりってスゲェのな。見る間に会社の資料とか、おれん家が綺麗になるんだぜ!」
「って、ほづみさんが職場の棚とか、家を片付けなさすぎるのが原因ですから! お金の計算とかは得意なくせに、色々ズボラなんだから!」
 茉莉花はここで、ピーチジュースをすすった。ずずっと色気のない音がする。その間に、智の手が茉莉花のポテトに伸びてくる。
「自分の食べなさいよ」
 茉莉花はぺしりとその手をはたいた。
「いいじゃん、べっつに。おれとみずたまりの仲だろ?」
 智がにやりと笑う。
 それを見、ココアの指は静止した。

(だから、どんな仲、なんですかっ!)

 茉莉花の分から三本のポテトを盗み、まとめて食べながら智は言う。
「おれマヂあん時に声かけてよかったって思った。良い嫁見つけたわーホント♪」
 茉莉花もまた智の分からきっちり三本ポテトを掴み、口に入れた。
「はぁ? 言うに事欠いてナニ嫁だとか言ってるんですか、このドちび! 違います! 結婚してません、やましいこともえっちいこともありませんー!」

(……ないんですか? これで? え、実は異母兄弟とかでだからそういう関係になれないとかいう設定だとおいしいんですけど……ありませんよねえ……っていうか、そういう思いつめた感じも艶やかさも一切ありませんし!)

 智は不満げに唇を歪めた。
「なんだよ、一緒に住んでて嫁にならねーの? 飯も作ってくれてるのに? おれみずたまりの飯好きなのに?」
 あからさまにからかっている、いたずらっ子のような笑み。

(……か、かわいいっ……っていうかあざといっ! 茉莉花さんはどうしてこれで落ちないんですかっ)

「すっ……そうやってさらりと好きって言うな~!」
 茉莉花が拳を繰り出す。拳だから、グーパンだ。
 智はそれを甘んじて受けながらも、くすくすと笑った。そして唇を茉莉花の耳に寄せる。
「ホントのはバレないように言うもんだって。……言ってやろうか?」

(ぜひっ!!)

 しかし茉莉花はまたも、グーパンだ。
「からかわないのっ!しかも言ってやるとか何様のつもり? いいえいらないわ、そんな言葉っ!」

●「女心を勉強しましょう、ヴェルナーさん!」byココア

 告白の演技をして欲しいというココアの言葉を聞いて、アマリリスは驚くよりも、感心したように溜息を漏らした。
「本当に色々な依頼がありますのね。まあ暇ですし構いません」
「そうですね。困っている人を見過ごすわけにもいきません」
 ヴェルナーもまた同意を示す。しかしいかにも真面目そうな彼は、次に思いがけないことを口にした。
「ところで、その手の心配とはなんでしょうか」
 正面に座るアマリリスに聞いてしまうあたりが、ヴェルナーだ。
 しかしアマリリスの表情は変わらない。実にあっさりと「ココアさんに聞いてみてはいかがでしょう」と返事をする。
「そうですか? では、ココアさん」
 ……実行してしまうのが、なんともヴェルナーである。
「あ、別に、わからなければそれで、ええ、いいと思います」
 ココアの答えに首を傾げるのが、さらになんとも(以下省略)

 さて、気をとり直して告白だ。
「少女小説なら男性からの告白がセオリーでしょう。さ、どうぞ」
 アマリリスはそうヴェルナーを促した。なるほど、男性からの、と頷いて一瞬後、ヴェルナーは驚いた顔を見せた。
「……えっ。ということは、私がアマリリス様に告白、ですか」
「そうなりますわね」

(何を言うのかしら? っていうか、言えるのかしら? この人、ずいぶん奥手そうだけど……)

 ヴェルナーは考えた。告白など今までにしたことがない。少女小説も読んだことはない。何を言ったらいいのか……褒めればいいのだろうか。しかしアマリリスのどこを? このすべてにおいて完璧な少女のどこを、あえて――。
 うつむいていた顔を上げ、ヴェルナーは押し黙っていた口を開く。
「アマリリス様の髪はこのピーチジュースのような色ですね……」

(そ、それだけ……せめて、だからきれいだとかおいしそうだとか、口づけたいとか、なにか言わなきゃっ)

 アマリリスはため息をついた。
「褒めようとした努力は買いますが、具体性が足りません。色が同じだけでなく、もう少し比喩的表現が欲しいところですわ。やはりヴェルナーには難易度が高かったかしら」

(このお嬢様、結構厳しいですね……)

 ヴェルナーは指摘を真摯に受け止め、頭を下げる。
「……申し訳ありません。恥ずかしながらこういったことは全く勝手がわからず、アマリリス様ならどういった告白をなさるのでしょうか?」
「お手本? そうですわね……」

(これは上手な誘導です! でもヴェルナーさん、たぶん全然意識してないんでしょうね……)

 アマリリスはかすかに頬を染めた……ように、ココアには見えた。が、それはすぐに、彼女の長い髪で隠れてしまった。
 アマリリスは、つらつらと一気に『告白』を始める。
「人の話は湾曲して解釈するし鈍感だし天然だし、どこが好きと聞かれたら顔としかいいようないくらい本当にどこがいいのかと首を傾げたくなりますけれど……好きって自覚してしまったらもうだめですの。そんなところも含めての貴方なんだと思うと、好ましく思えてしまいますのよ」

(え? これって……ヴェルナーさんのことですよね? アマリリスさん、ヴェルナーさんが好きなんですね? なんでこんな……いやいや、真面目でいい方ですけど! それに、そ、そうですよね、好きに理屈はいらないんですっ!)

 しかしヴェルナーは、アマリリスの想いには気づかない。気づくはずもない。
「さすがです、素晴らしい演技でした。落としてからあげるというあれですね。お見事です」
 純粋に話術を褒めてしまうあたり――。

(ヴェルナーさん……。私だったら立ち直れないかもしれません)

 しかし気丈にも、アマリリスはまっすぐにヴェルナーを見つめた。
「そう、演技ですわ」
 儚げな美少女に見えるが、なかなか気の強い女性である。でも、それにしたって。

(アマリリスさんが気の毒です、ヴェルナーさんっ)
 もちろんココアの声は誰にも届かない。ただキーボードが文字を打ち出しているだけだ。

 ヴェルナーは深く納得したように頷いた。
「ではそれを私がアマリリス様に言えばいいのですね」
「相変わらずですのね、違います」

(答えが速攻で怖いです、アマリリスさん……。でも気持ちはわかります……)

●「優しい恋をしてくださいね」byココア

「……ずっと憧れていたんです。告白、なんて。私には縁のない事だと思っていましたから。……今日だけ、少しだけ夢を見させてください」
 夢路 希望はそう言って、スノー・ラビットに小さく頭を下げた。
 弱気な彼女の、ささやかな願いだ。そんな姿を見、ラビットは微笑む。
「……それじゃあ、期待に応えられるように頑張らないとね」

(ずいぶん大人しそうな二人ですね。告白なんて、大丈夫なんでしょうか?)

 ココアの心配通りと言うべきか。席に座った二人は無言だった。しかも希望の緊張はかなりのものだ。見るからに泣きそうだ。
 希望は深呼吸をした。たぶんこれでやる気を出そうとしているんだろう。
 それを察したのか、それともきっかけを作ろうとしたのか。ラビットが口を開く。
「好きな男の人のタイプってあるのかな?」
「……す、好きなタイプ、ですか」

(うわあ……動揺してる。良い題材といっては申し訳ないですけど、可愛いです希望さんっ)

 ぼつりと消え入りそうな声で、希望が答える。
「……優しい方がいいです」

(ですよねっ! セオリーです!)

 ラビットの耳がぴょこりと動く。
「年下はどう思う?」
 希望は伏せていた眼差しを少しだけ上げた。
「……年は、あまり……私を想って下さる方なら」

 怯えているようにも見える上目使い。たどたどしい口調が、なんというか、守りたくなる感じだ。
(これ、演技じゃないですよね)
 この人はきっと、演技ができるほど器用ではないとココアは思う。ラビットはどう思っているのだろう。
 ココアはラビットに目を向けた。彼は希望をじっと見つめている。
 次に来るのは、きっと。

「……じゃあ僕は?」

(やっぱり!)

 希望の頬が、一気に紅潮する。
 そこに、ラビットは手を伸ばした。
「……僕は、駄目、かな?」
 最初は指先で、触れる。そしてだんだんと手のひらで、包み込むように。
「……ねえ? ノゾミさん」

(……言われたい、言われたいです)
 キーボードを打ちながら、なんだろう、目頭が熱くなってくる。少女小説家になって○年、こんな言葉は妄想の中だけかと……。

 希望の顔が上がる。黒曜の瞳。それを、ラビットの赤い瞳が捕えた。
「……僕は君が好き。ずっと隣にいたい。ウィンクルムとしてだけじゃなくて恋人として」
 柔らかい、声。

(……突っ込む隙がありません)
 ココアはカタカタと、指だけを素早く動かし続けている。

 希望は細く息を吐いた。ゆったりと持ち上げた白くて華奢な手のひらを、そっとラビットの手に重ねる。
 揺れるまなざしは動揺の証。でもこれが演技と言い聞かせ、なんとか勇気を振り絞って。
「……嬉しい、です。……本当は、私も、ずっと」

 ラビットは目を見開いた。
 顔の筋肉が硬直して固まって、それが動くまでに、一瞬。
「……ありがとう」
 ここで、微笑み。
 希望の手を握る。

(もう本当になにも言えません……最高です、ラビットさん!)

「……あの……もうそろそろ、手を……」
 希望は困惑しきった顔で、ラビットに包まれたままの指先を震わせた。
「ああ、そうだね」
 するりと甲を撫ぜて手を離し、ラビットは希望の顔を覗き込む。
「……ドキドキしてもらえた?」
「……か、顔から火が出そうです」
「だったら、告白は成功だね」
「……だ、だと思います」

 完熟トマトのように染まってしまった希望の頬を見て、ココアは思う。
 きっと希望さんは今、これが本当だったらと考えているはずです。たぶん……ラビットさんも。
 鼓動は高鳴り、たくさんの血液が体を巡って、体温を上げている。
 二人とも言わないけど、激しく相手を意識してる。
 わかる。なんとなく。これは、長らく恋を書いてきた作家の予感だ。
(恋の入口、ですね。それにしても……どちらも素敵です、このお二人っ)

●「無邪気って罪ですよね……」byココア

「告白の演技……で、できますでしょうか……」
 手屋 笹の声は緊張している。たいして、カガヤ・アクショアに気にした様子はない。
 だからこそ。
「気恥ずかしいけど、ちょっとやってみる?」
 実にさらりと、そんなことを言ってしまうのだ。

(これはまた対照的っぽい二人が……いいネタになりそうですね)

「というか、どちらがやりますか?」
 笹が聞いた。しかしカガヤが答えるより早く「悩むのも時間の無駄」と言い出すあたりが……。

(わ、わかります! こう一刻も早く終わらせたい的な意味ですよね! 恥ずかしいんですね! やっぱ若い娘さんはかわいいですっ!)

 笹は覚悟を決めたように、大きな息を吐いてから、言った。
「わたくしがやりましょうか」

(……ウィンクルムは、女性の方が強い方が多いのかしら? 今回集まった方たちが偶然そうなのかしら)
 でも笹のは明らかな強がりではあるけれど。

「じゃあ、笹ちゃんお願い」
 カガヤはにこにこと笹の言葉を待っている。笹はそんな彼に一瞬困惑した顔を見せたけれど、それは本当に瞬間のことだった。
「演技とはいえ、内容がないようなので緊張しますわね……」
 笹はきょろきょろと動かしていた瞳を静止させた。
「えと……こほん、カガヤ、その……」
 ここで、意を決したようにまっすぐにカガヤを見る。
「あなたの事、す……好きなのです……」

(語尾が……震えてますよ、笹さんっ!)

 しかしカガヤは気付かないのか、気にしていないのか。
 にっこり人好きのする笑顔を見せた。
「そっか~、嬉しいな!」

(なんて無邪気な……まさにわんこ系って言うんですか? あ、そう言えば耳がわんこですねっ)

 しかし笹はカガヤの顔を見ていない。うつむいてピーチジュースを飲んで、心を落ち着けようとしている。
 言ってやった、という空気が伝わってきて、思わず「頑張りましたね!」と抱きしめてやりたいほどだ。
 しかしそこに、カガヤが爆弾を投下した。
「あれだよね。笹ちゃんはなんかこう妹みたいっていうか! 恋人、ではないよねー」

 ぴきっ!
 空気が固まる。いや、ひびが入る。たぶん漫画なら入る。小説だから入らないけど。

(カ、カガヤさぁーんっ!!)

 しかし笹は偉かった。強かった。頑張った。
「え? ええ、そう……ですね……」
 そう、相槌を返したのだ。
 もしココアがここで気持ちを書くとしたらこうだろう。
 今のは、演技に対してカガヤが思ったことを言っただけですわ。わたくし、本気なんかじゃありませんでした。そう……本気なんかじゃなかったのに……。

 笹の瞳に、涙が浮かぶ。
 唇が震えて、いびつに歪んで、黙り込む。

(あーあ……)
 ココアはため息をついた。

 しかしカガヤには、笹の変化の理由がわからない。
「あれ、笹ちゃんひょっとして泣いてる……? うぇ、何か俺まずい事言った!?」
 俺のジュース飲む? それとも甘いものでも頼む?
 きょどきょどと動き回るのは、それこそわんこのようで愛らしいが、そのすべては間違った努力というものだ。
 むっすり口を閉ざしてしまった笹の頭に、カガヤは困り切った顔で手を置いた。
「えっと……よしよし。笹ちゃんいい子だから泣きやめ~」
 まるで幼い子供を慰めるように、優しく頭を撫ぜる。それでも無駄とわかると、今度は背中をとんとんと叩き出した。

(それじゃまるで子供扱いじゃないですかっ!)

 なんで、どうして。こんなはずじゃなかったのにと、かすかに聞こえる笹の声。
 自分の涙の意味がわからなくて、でもカガヤに子ども扱いされるのが悔しくて、それなのに文句も言えない混乱状態。

(……この二人は先が長そうですね)
 キーボードの上に手を置いたまま、ココアは黙りこくった笹と、彼女をあやし続けるカガヤに同情の目を向けていた。

 素敵な告白……と言えるかは別として、四つのパターンはなかなか興味深かった。
「さて、あとはこれをどう生かすかですね。頑張りましょう! とりあえず、書き上がった小説は、ヴェルナーさんとカガヤさんには送りつけましょう。八月一日さんたちは……ほっとけばどうにでもなりますね。ラビットさんたちには、恋愛小説なんて邪魔でしょう、きっと」
 ココアはそう言って、ノートパソコンを閉じた。
 書くのは、家に帰ってからだ。今はしばらく、恋の欠片の余韻に浸っていよう。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 08月30日
出発日 09月07日 00:00
予定納品日 09月17日

参加者

会議室

  • [4]夢路 希望

    2014/09/02-18:43 

  • [3]アマリリス

    2014/09/02-02:11 

    ごきげんよう、アマリリスと申します。
    今回はよろしくお願いいたします。

    演技とはいえ告白ですか。
    任せたら棒読みの予感しかいたしません。
    どうしようかしら…。

  • [2]水田 茉莉花

    2014/09/02-01:43 

    やほー、笹さんすいか割りぶり!
    水田茉莉花です、よろしくお願いします♪

    ・・・告白ねぇ。
    そんなのしないで逃げるのは・・・アアハイ、無理ですね、わかりました。
    ほづみさーん、いい方法無いかしら?

  • [1]手屋 笹

    2014/09/02-01:06 

    手屋 笹と申します。
    茉莉花さんはスイカ割り以来ですね。
    よろしくお願いします。

    えっと、告白は演技でよいのですよね…。
    何と言えばよいのか…悩む事にしましょう。


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