その背を追う影(こーや マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●秘
「皆さん、デミ・オーガが出現しました。至急、討伐に当たってください」
 そう言った受付娘の顔は、声の真面目さと反対に少しげんなりして見えた。
一体、何があるというのだろうか。
 訝しがる君達を他所に受付娘は地図を広げる。
広げられた地図には小さなメモが添えられていた。
「デミ・オーガの目撃があった場所はこのイタテモ村から少し離れた森にある小さな遺跡の中です。
依頼人によればデミ・ゴブリンと思われるのが二体、他にも数体のゴブリンがいたそうです」
 とんっと、受付娘は地図を指差す……ように見せかけ、添えられていたメモを見るように促してきた。
書かれている文字を目で追えば、驚きの内容が。

『デミ・オーガもゴブリンもいません。この依頼は警察からの要請を受けてのものです。
詳しくは皆さんに配る地図に記述してありますので、会議室で読んで下さい。その上でこの依頼を受けるかどうか決めてください』

 どういうことかさっぱり分からないが、今は指示に従うべきと判断した君は地図を受け取り、精霊と共に会議室へと向かった。



●変
 会議室へ入ってすぐに君は地図を広げた。
受付娘が言った通り、右下に事情が記述されていた。
 君の後ろから精霊も地図を覗き込む。

『女性神人のストーカーを行う集団が現れました。
厄介なことに男性の姿を見ると驚異的な速さで逃走を行う為、未だ逮捕に至っていません。
オーガ討伐任務への悪影響が出る前に解決する必要があることから、警察より協力を依頼されました。
今回の本当の依頼は、このストーカーに対する囮及びその逮捕にあります。
人気がなく、精霊が身を隠すに充分な場所があるイタテモ村の森にある遺跡にて囮作戦を実施します。
可能であれば協力を願います』

 なんともいやーな感じの依頼だ。
受付で説明されなかったのはストーカーに本来の目的を悟らせない為だろう。
一応、この依頼を拒否する際の意思表示手段も記述されている。
 はっきりいって、気は進まない。
が、オーガとの討伐任務に支障を来たす事態になるのは困る。
 ここは依頼を受けよう、そう言って君は溜息一つと共に椅子に腰掛けた。
機嫌が急激に悪化した精霊も、君に倣う。
 ストーカーの理由が少しでもまともなものであればいいのだけど。
君のそんな呟きはすぐさま精霊が否定した。
どうせモテたいだとか女の子といつも一緒ズルいだとか、戦う女の子可愛いだとかそういう理由だろ。
 まさか、君は笑った。
けれど、それが当たっていただなんて、この時の君は知る由も無かった。

解説

真面目っぽく見える?

コ  メ  デ  ィ  だ  よ  !  !


●目的
ストーカーの逮捕

ストーカー×4
街のチンピラより弱い程度です
残念な人たちですが、『ウィンクルム』がなんなのかくらいは分かっています。
経験を積んだ精霊さんなら敵にすらなりませんが、男性の姿を見るとすぐに逃走します。
逃走の阻止は出来ません。
逆に、精霊さんの姿が無い間はどんなことがあろうとも逃げません。
可愛い女の子ハァハァな勢いで素直に叩かれてくれます。
女装は高いクォリティが要求されます。
工夫が必要です。


●場所
イタテモ村近くの森にある小さな遺跡のあたり。
精霊さんが遺跡に入って少しするとストーカーは出現します。
皆さんとストーカー以外は来ないのでご安心を。
灯りの心配などは無用です。


●その他
手錠とロープが支給されています。


また、『こーや色に染まる覚悟が、私にはある』というあまりお勧めできない心意気をもたれる方は
豆腐
の二文字をウィッシュプランに記述して頂ければプランをベースにカオスにします。

ゲームマスターより

スカートからちらと覗く太ももって、いいよね

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)

  か弱い乙女を狙うストーカー=女性の敵
つまり、(やり過ぎない程度に)ボコってもいい?

イタテモ村の遺跡内に辿り着いたら、別行動でジャスティには隠れてもらい、他の神人とデミ・オーガにどう対処するかの相談をするフリをして、ストーカーの出現を待つ。

ストーカーたちが現れたら、とりあえずあなたたちは誰?とかどうしてここに?など一応話を聞こうとする。

ストーカーの話とか狙う理由を聞いて、「あ、こいつはボコっていいやつらだ」という認識が確定したら、幼いころから鍛えてきた武術でしめる。
(スポーツの一般スキル使用)

ある程度しめたら、手錠とロープで動きを封じておく。

ストーカーはやはり面倒な存在だ…。



吉坂心優音(五十嵐晃太)
  豆腐

ストーカー…
あの時みたいじゃ無いから大丈夫…!
小さい頃のあたしじゃないもん!
この為に武道に励んで来たんだからぁ!

行動
・デミ・オーガ討伐の任務と装い遺跡内へ
・遺跡内では精霊とは別行動の振りをしてもらう精霊には退路を断ってもらう
・タイミングを見計らって捕縛
・理由を聞く
・一応説得する
・聞いてもらえないなら実力行使

「あの、どうしてあたし達の後を付いてくるんですかぁ?
えっ?モテたい?可愛いから?
だったらストーカーなんてしない方が良いですよ絶対…(汗)
されてる女の子達は怖い思いしてるんですよ!?
兎に角もう止めて下さい!
聞かないと言うのなら…
武力行使しても良いですよねぇ…?(真黒笑)」



市原 陽奈(日暮 宵)
  さて…困った男性もいたものですね。
服装はいつものスーツは止めて女性らしい恰好をしようかと。
スーツを着ていると中性的に見えるらしくて…それで作戦を失敗させるわけにはいきませんから。
スカートだと確実でしょうか?それでも動きを制限するようなものは控えたいですが…。

神人の人達が「振り」とはいえ精霊と離れるのは危険ですからね…オーラでばれない様にトランスもしていませんし少し心配です。いざとなったら私が皆さんを守るくらいの気持ちで。

上手く捕縛が出来るといいのですがもしもの場合にそなえて精霊達にはストーカーさん達の退路を断ってもらって確保。の予定です。
あと、一応お聞きしますけど貴方方はなぜこのようなことを?



出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
  なんか嫌なこと思い出しちゃった
浮気性、マザコン、賭博狂い…そうそう、もちろんストーカーもいた
あたしってホントろくな男と付き合ってなかったわ
あー、思い出したら腹が立ってきた

デミオーガ討伐にきたふりをして遺跡で待ち構える
皆の話の後で近くにいた一人に視線を送り誘き寄せるわ
あたしのこと知りたいの?じゃあ近くにいらっしゃい
…かーらーのー
急所蹴り上げ→足払い→マウント取って罵倒しながら顔面ボコボコに
お呼びじゃないのよ!帰ってママのおっぱいでも飲んでな!
戦意喪失を確認したら縄で手足縛って蹴り転がす
さあ、次に死にたいのは誰?

やっちゃった…
これドン引きしてるわよねさすがに
レムは他の男とは違う、そう信じたいけど…



ルビア・フォーミル(ルクリア)
  アドリブOKですが、関西弁でお願いします。

持ち物:手錠・ロープ・おやつのチョコ

心情
初めての任務やから絶対成功させるで!

行動
・精霊と共にデミ・オーガ討伐任務を装って遺跡に向かう
・遺跡に入り、探索するために見せるため二手に別れる
・一人になったら探索する動作と共に背後を確認する
・ストーカーを確認したら、気づいていない振りのままでいる
・タイミングをみて、ストーカーと対峙して何故こんなことをするのか問いただす
・理由を一通り聞いて、ニコッと笑い油断させて回し蹴りを喰らわす
・ストーカーが逃走した場合、相手めがけて手錠を思い切り投げつける
・全てが終わった帰り道、おやつのチョコを食べながら初任務を振り返る



●釣
 五組のウィンクルム達は偽装の為に渡された地図を頼りに、イタテモ村の森を歩く。
当初のデミ・ゴブリン討伐を装ったままで。
 ストーカーに憤りを覚える者、自身のストーカー被害を思い出す者、初めての任務に高揚する者。
十人の心中は様々だが、ストーカーに関する思いを表面に出せば悟られてしまう。
 とはいえパートナーをストーカーの前に晒さなくてはならない精霊達の心情は想像に難くない。
五十嵐晃太は隣を歩く吉坂心優音にささやくように語りかけた。
「みゆ、大丈夫か?無理せんと怖かったら行かんでもえぇんやで?」
「あの時みたいじゃ無いから大丈夫……!小さい頃のあたしじゃないもん!この為に武道に励んで来たんだからぁ!」
「そりゃそうやけど……まぁ、今のみゆなら平気そうやな」
 強い口調での反論に晃太は苦笑い一つ。
これ以上を言っても心優音は聞かないに違いない。
 ちなみに今の心優音の様子は、ストーカー達には「デミ・オーガ討伐に緊張するおんにゃのこハァハァ」と映っています、やったね!

 歩いている途中、ふいに市原 陽奈は気付いた。
スカートをはいてきたが、別にパンツスーツでもよかったのではということに。
 男性神人と女性神人が行動を同じくすることはまずないし、自身が中性的に見えるにしてもパートナーである日暮 宵を女性と見間違えることもまずありえない。
デミ・オーガ討伐を装っているのだからパンツスーツでも問題なかっただろう。
でも美味しいよね、普段スカートを履かない女の人の生足って。
 付き合いの長い宵にとっても陽菜のスカート姿は随分と久しぶりだ。
陽奈をストーカーの前に晒すなどデミ・オーガと戦うよりも性質が悪いと思うが、ここは彼にとっても役得だろう。
「初陣ですね。上手くやらなくては」
「お嬢、大丈夫ですかい?」
 陽奈はいざというとき、他の神人達を守るつもりでいる。
初陣である陽奈よりも戦闘経験を積んでいる神人達がいるとしても、だ。
「大丈夫です。作戦を失敗させるわけにはいきませんから」
 ぴんと張った背筋のまま陽奈は前を見つめる。
毅然としたその姿は大人の女性特有の色香を漂わせていた。

 憂鬱。
ちょっとハイセンスっぽくいえばアンニュイ。
出石 香奈の瞳に浮かぶ感情がそれだ。
 ストーカーと聞き、思い出したのは過去に付き合った男達。
浮気性、マザコン、賭博狂い。
勿論、ストーカーもいた。
 揃い過ぎである。
どうでもいいかもしれませんが駄目男を引き寄せがちな女性は包容力がパネェらしいです、つまり嫁に来いな人材。
 それはさておき、そんな男たちを思い出しているうちに憂鬱さを着火材料にメラメラと燃え上がる香奈の瞳。
だんだん腹が立ってきたらしい。
 レムレース・エーヴィヒカイトはぞくぞくと、背筋が凍るような何かを感じ取った。
どうやら香奈の怒りが契約の絆を通してレムレースにも流れ込んでしまったらしい。
心情的にも女装は嫌だというのもあるが、そもそも体格的にも無理だったことが癇に障ったのだろうかといらぬ心配をしてしまう。
 香奈の様子をちらと窺えば彼女は自分に怒っている訳ではなさそうで、ちょっぴり安心したレムレースであった。

「遺跡、思ってたよりも小さいなぁ」
 独特のイントネーションで、ルビア・フォーミルは呟いた。
 遠目から見ただだけでも分かるほどに遺跡は小さい。
『遺跡を探索する為に神人と精霊とで二手に別れ、ストーカーに気取られないように退路を塞ぐ』という作戦が使える程の広さは無いように思えた。
控えめに考えてもストーカーに気取られずに退路を塞ぐことは無理だろう。
そもそもいくらデミ・オーガがいる遺跡を探索する為に、神人と精霊が別行動をとること自体が不自然ではあったのだが。
 その事を思えば、作戦を変更する余地が早い段階で出来たことは不幸中の幸いと言えただろう。
どないする?とルビアは視線でルクリアや他のウィンクルム達に問い掛ける。
 するとリーリア=エスペリットが自然な様子で答えた。
「遺跡に入ったら私たちは入り口で待機して、精霊の皆には奥へ進んでもらう形でいいのよね?」
 皆への確認を装い、作戦をどう変更するかを提示する。
今回集まった神人の中で最も経験があり、会話術に関する心得もあるリーリアならではの機転。
「僕はそのつもりでしたが、皆さんは?」
「俺もだ。ルビア達は入り口を固めておいてくれ」
 リーリアの思惑を察したジャスティ=カレックがすぐさま同意し、打ち合せの為に声をかけるつもりだったルクリアも同意した。
他のウィンクルム達もそれに倣う。
 細かく相談することが出来ない以上、他に手は無かった。

 遺跡の中はやはり広く無かった。
受付娘が言っていた『小さな遺跡』の言葉通り。
「それではお嬢、いってきます」
 宵は陽奈に向かってしっかり一礼する。
「はい、気をつけて」
 気をつけねばならないのは陽奈を含む神人たちだがそこは表に出さない。
他の精霊達もそれぞれの神人に声をかけ、離れる。
 誰もトランスはしなかった。
トランス状態で身に纏うことになるオーラでそれぞれの位置を悟られることを警戒した為だった。


●当
「おんにゃのこ達と野郎が離れたっぽい、ktkr」
「マジか……俺達の日頃の行いが良過ぎるせいだな」
「幸運すぎて震える」
 物陰から遺跡の内部を窺う四人のストーカー。
三人が思わぬ幸運にすでにハッスル状態。
行こう、今こそ神人ちゃん達の姿を間近で拝もうそうしような勢いの三人だが、黙っている最後の一人の様子が気になったらしく、振り返る。
 最後の一人(無駄なイケメン)は眼鏡をくいと持ち上げた。
「光ってない」
「え?」
「オーガ相手に誰一人トランス無しで挑むか?確かにデミはウィンクルムじゃなくとも倒せる。
だが一人もトランスせずにデミに挑むものか?」
「確かに……」
 冷静なイケメン眼鏡の指摘に、他の三人も落ち着きを見せる。
無駄にイケメンなだけじゃなくて無駄な知恵もある辺りが面倒なストーカーだ。
「ウィンクルムって言えばトランスだろ。トランスする為には神人が精霊の頬にキス……キス……キス……。
……ええい、おんにゃのこから平然とキスしてもらう機会のあるリア充爆発しろ俺も間近でおんにゃのこの生足にハァハァしてやる!!」
 説明しているうちに腹が立ってきたらしい眼鏡に、すぐに他の三人も同調する。
やっぱり唯の残念な人たちだ。
「おんにゃのこ達の姿を間近で眺める為に、いくぞ!ジョブ、ジョン、ゴンザレス!」
 眼鏡――ジョナサンの言葉を合図にストーカー達は遺跡へと駆け出した。
無駄な熱気を撒き散らしながら。



 ぞくり。
先ほどのレムレースと同じように、香奈は背筋が凍るような気がして後ろを振り返る。
 すると猛然と、なんていうか、とても興奮しているというか、危ない男四人がこちらへと走ってきているところだった。
あまりの勢いに心優音が僅かに慄き、後退る。
忘れることが出来ない過去のストーカーを思い出したからではなく、あまりにも必死すぎる様子が怖すぎたから。
「なんや、あれ……」
 頬を引きつらせたルビアの言葉が神人全員の心中を代弁している。
あれはストーカーなんて生易しいものではなく、もっと禍々しい何かの集団だ。
 ジョナサンが遺跡に入るや否や飛び上がり、両手と両足をくっつけたルパほにゃららダイブをして……きたところを野球の要領ですっぱーんと鞘に収めたままの短剣で打ち返す。
スポーツの心得は戦闘技能ではないというのにまさかこんな形で役に立つとは。
 打ち返され、ずべしゃあと崩れ落ちたジョナサンを遅れて到着したストーカー御一行が羨ましげに見つめる。
大丈夫、言わなくても分かる、「おんにゃのこからの痛みはご褒美」だからですね、本当に残念だな。
「で、あなたたちは誰?どうしてここに?」
「「「「うおおおおおおおお!!!」」」」
 リーリアが質問すると、ストーカー達は雄叫びのような歓声をあげた。
中に生きてきてよかったといわんばかりに目頭を押さえている者もいる。
 あまりの声に驚く17歳のリーリア、ルビア、心優音の三人に対し、平然としている香奈と陽奈。
年長ゆえの人生経験だろう。
……香奈に関しては、先程からの思い出し怒りを未だに引きずっていることが理由なのかもしれないが。
「俺、ジョ
「ジョ
「ジョ
「ゴン
「一斉に言うな、まだるっこしいいい!!!」
 無駄にきらきらと頬を紅潮させながら一斉に好き勝手名乗ろうとするストーカー達をルビアが一刀両断。
すると次は俺が俺がと先を競って名乗ろうとするものだから、陽奈が一番手前の男(ジョナサン)から名乗るように促してやっと収束。
「可愛いおんにゃのこ達の姿を心のファインダーに焼き付ける、それが俺たちの唯一にして絶対の使命だから!」
「戦うおんにゃのこの見えそうで見えない絶対領域を見れるのはウィンクルムだけ!」
「おんにゃのこを後ろから見守りたくて!」
「寡黙でミステリアスな男はモテるって聞いたから!」
 誰一人として救いが無い。
心優音は笑みを深くする。
けれどその笑みは、深遠のように深く、黒い闇のようであった。


 遺跡の奥からこっそり神人達とストーカーの様子を見守る精霊達。
反応は三者三様だが、自身のパートナーに怯えているのは晃太ただ一人。
「ひぃぃぃ、みゆ……怒っとる、アレは絶対に怒っとるっ!!笑顔が、笑顔が怖い!!!」
 むしろ怒らない理由を教えてください。
声を潜めているとはいえ、本来なら喋らない方がいいのだろうがこうやって心の悲鳴を漏らさねばならないほどに心優音が怖い。
大人しい人ほど怒らせると怖いって言うけど、今の彼女は魔王なんてちゃちなもんじゃない、邪神だよ。
 昔、心優音につきまとったストーカーは晃太や心優音の父達がボコボコにしてやったが、今回は晃太の出る幕は無い。
まあ、警察がどうしても捕らえることが出来なかった連中なので、男性陣が出れば驚きの速さで逃げるんでしょうけどね。
 とはいえ晃太ががたがた震えている理由は心優音だけじゃない。
他の神人達からも「殺る」な波動を感じるからだ。
 現にレムレースも香奈の殺意を感じ取って、どこか遠いところを見ながら「ロイヤルナイトとはなんだったのか」と人生の迷路に迷い込んでしまっている模様。
香奈を守るためにロイヤルナイトとなることを選んだが、もしかして必要なかったのか、いや、もしかしなくとも今の様子を見る限り必要ないのではと、どんどん迷宮の奥深くへ潜り込んでしまっている。
 ジャスティに至ってはリーリエたちの応援をしている。
確かにストーカーは許しがたい行為だし、リーリエを囮とすることには説明しづらい感情があった。
けれど、拳という名の肉体言語でストーカーを病院送りとなったら……とストーカーの心配をしていたが、犯行動機があまりにもあんまりだった為、今では「リーリア、容赦なくやっていいですよ」なんて物騒な呟きを零す始末。
 宵は宵で、陽奈に無茶をしないで欲しいと思っていたが、他の神人達の様子を見るにむしろ陽奈が無茶をする余地は無さそうで少しばかりほっとしていた。
とにかく自分達精霊は神人達が倒したストーカーを逃がさないようにしっかり捕まえなければと、気持ちを切り替える。
 そんな四人の精霊の後ろで、ルクリアは眠そうに大きく欠伸をした。
さっさと終わらせて帰りたいと言わんばかりに。


 それぞれの主張を聞き終えたルビアはにっこりと笑って見せた。
可愛らしいおんにゃのこの可愛らしい笑顔に、自分の人生に春が来たと言わんばかりに喜ぶゴンザレス。
 けれど、世は無常。
その胴目掛けてルビアの回し蹴りが炸裂した。
 リーリアの中でも、か弱い乙女を狙うストーカー=女性の敵、つまり、(やり過ぎない程度に)ボコってもいいという式が成立した。
こいつらは間違いなくボコっていい相手。
 ぎゅっと手甲を締めなおすと下から上へ、拳をジョブの顎目掛けてアッパーを繰り出した。
はうぅと声をあげ仰け反るジョブだが、悲しいことに彼の頬は、赤い。
 そして邪神じゃなかった心優音も笑顔(黒)のまま剣を手に取る。
勿論、鞘からは抜かないが……代わりに力いっぱい振りかぶってジョンの脛へ叩きつける。
ジョンはあまりの痛さに悶絶するも、心優音の揺れるスカートと太ももが見られてそれでチャラといわんばかりの嬉しそうな表情。
 どいつもこいつも終わってる。
しかしダントツなのは……――
 羨ましそうにハァハァしながら仲間を見つめるジョナサンに、香奈が大人の女性特有の艶を乗せた視線を送る。
そんなことされたら「ウホッ、いい女」となるのは火を見るよりも明らか。
「あたしのこと知りたいの?じゃあ近くにいらっしゃい」
 香奈の誘い文句にほいほい釣られるジョナサン。
……かかった。
 香奈の瞳から色香が消え、代わりに宿ったのはやっぱりまだ引きずっていた思い出し怒りの炎、いや、爆発。
ストーカー達の主張が起爆剤となってしまったと思われる。
 狙い違わずおいなりさんのある辺りを蹴り上げる。
見ていた精霊達の何かがひゅんとしたのは言うまでも無い。
 しかもそれだけではすませない。
声にならない悲鳴と共に股間を押さえて前屈みになったジョナサンの足を払う。
力の入らない体で抗することが出来るはずも無く、「ぶべっ!?」と間抜けな声と共にジョナサンが倒れると、すかさず香奈はマウントを取ったちょっとまって怖いよ何か手馴れてないか。
「お呼びじゃないのよ!帰ってママのおっぱいでも飲んでな!」
 罵声を浴びせて手加減無く顔面に幾度も拳を振り下ろす香奈。
陽奈は止めるべきかどうか悩んだものの、これはきっと止められないだろう。
そっと香奈から離れ、他の三人が香奈と同じ領域に達しないよう見守ることを陽奈は決めた。
「ご褒美なんでしょ、じゃあ代わりに何か寄越しなさい!あ!?無理!?そんな甘えたことほざいてんじゃないわよ!!」
 香奈の恐ろしい声が聞こえてきても彼女がストーカーをぶちのめすまで、陽奈は決して香奈を見ることはなかった。


 戦意を喪失したジョナサンをぐるぐるとふんじばった香奈は次なる獲物を求め、顔を上げる。
「さあ、次に死にたいのは誰?」
 殺すのは精神だけだよ!
肉体は九割九部しか殺してませんよ、香奈さん優しいなー(棒読み)。
 けれど香奈が次の獲物に手を出す必要はなかった。
すでにゴンザレスとジョブはそれぞれルビアとリーリアによって拘束されていたし、ジョンは心優音の前で震えながら平伏している。
 心優音さん、何したんですか。
晃太さんも奥で携帯のバイブレーション機能のように激しく震えているんですが。
 陽奈は震えるジョンに若干の同情の眼差しを浮かべながら近づき、その手にがちゃりと錠を落とした。
事件の終焉を示す音だった。



●終
「いやー、こんなやばい奴もおるんやから世の中って広いなぁ」
 初任務を振り返りながらルビアはおやつのチョコをぱくり。
「かなり特殊な例だろう、今回のは」
 面倒臭そうに言いながらも、ルクリアも分けてもらったチョコを口へ放り投げる
むしろ初めての任務がこんなので良かったのかとすら思ったが、考えることも面倒臭くなったのだろう。
さっさと家に帰ろうと、ルクリアはルビアを促した。

「お嬢、お疲れ様でした」
「私は何もしてませんよ」
 宵からの労いの言葉に陽菜は苦笑いを返す。
 他の神人達を守るつもりでいた。
けれど戦闘に関しては彼女達の方が積極的だったし、なによりも戦闘に関する行動を特に考えていなかった為に手を出せなかったのだから。
「次は気をつけないといけませんね」
「次が無いことを祈りますぜ」
 努力家らしく次を見つめる陽奈に聞こえぬよう、宵は小さく呟いた。
陽奈を囮としなくてはいけない……そんな任務と出くわすことが二度とないよう、願って。

 自分がやらかしたことに気付いた香奈は、そろり、レムレースの様子を窺う。
「やっちゃった……」で済ませられる範囲はかるーく通り過ぎていることはさて置いて。
 ドン引きされていることを覚悟していた。
レムレースは過去の男達とは違う――そう信じたいが、そういう問題でもないことは理解していた。
 けれどレムレースはドン引きどころかとても真摯な眼差しを香奈に向けてきた。
「もしや今までは俺に合わせていたのだろうか。あまり無理するな、普段通りのお前でいいんだぞ
ストレスを溜めすぎるのはよくないからな。愚痴ならいくらでも聞いてやるから」
 ぽんぽんと香奈の頭を撫でるレムレース。
もしやストレスが爆発したと思われたのだろうか。
 香奈はぱちくりと瞬きを繰り返した末、ぷっと吹き出した。
「ありがと。その時はお願いするわ」
「ああ、任せておけ」
 レムレースは答えておきながらも、最後の一言を飲み込んだ。
何故か過去の男のことはあまり聞きたくない――そう思った意味を見出せないまま、浮かんだ思いを迷宮の奥底へと押し込めた。

 リーリアの怒りは未だ燻っているようだ。
「お疲れ様でした」
 落ち着かせるような声音を心がけ、ジャスティは声をかけたのだが、その判断は正しかったらしい。
剣呑な気配がほんの少し、柔らかくなった。
「ストーカーはやっぱり面倒……」
 ぽつりと吐き出された言葉から、平常通りとまでは行かなくとも帰路で宥められる範囲だとジャスティは推測した。
その推測は正しく、家が近くなる頃にはリーリアの怒りは静まったのだった。




 余談。
「御協力、ありがとうございます。流石はウィンクルムの皆さんですね!」
「いやいや、こういう時はお互い様ですし」
「捕まえなければ後々困るのはあたし達ですしね」
「そういって頂ければ幸いです。ところで……」
「はい?」
「あの二人は、何故あんなにも怯えているのですか……?」
「さあ……」
 M音さんが、のほほんと笑うその横で、K太さんが目は逸らしぶるぶると震えていた。
ストーカーよりも怖い何かに、怯えて。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター こーや
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 少し
リリース日 08月30日
出発日 09月05日 00:00
予定納品日 09月15日

参加者

会議室

  • [10]出石 香奈

    2014/09/04-09:59 

    遅くなってごめんね、作戦了解よ。
    逃亡防止のためにできれば捕縛まであたしたちでやれるといいわね…
    あ、あと確認だけど、オーラでばれるかもしれないからトランスはしないでいいのかしら。
    いいなら今回はなしでいくわね。

  • [9]吉坂心優音

    2014/09/03-23:26 

    心優音:
    遅れてすみません!

    ならあたし達も皆さんと合わせますね~

  • [8]ルビア・フォーミル

    2014/09/03-21:41 

    なるほど・・・ウチらも同じような行動を取ろうと思います。
    皆さん、ありがとうございます!

    ルクリア:ともかく、油断しないほうがいいな。

    そうやね・・・うん、気を付けるわ。

  • [7]市原 陽奈

    2014/09/03-19:18 

    リーリアさんと出石さんの意見を参考にするとこんな感じでしょうか。

    デミ・オーガ討伐の任務と装い遺跡内へ。
    遺跡内では精霊とは別行動の振りをしてもらう精霊には退路を断ってもらう。
    タイミングを見計らって捕縛。
    あとは…やっぱり理由を聞いた方がいいですかね。
    万が一にも正当な理由があるかもしれませんし。


    宵:
    いや、それはないでしょうお嬢…。

  • [6]出石 香奈

    2014/09/03-13:16 

    理由を聞く……!(ぽんっ)
    ごめんなさい、あたしボコることしか考えてなかったわ…
    まず話をするなら、そこは皆に任せるわね。

    リーリアの言ってる「デミ・オーガ討伐のふりをする」っていう案、いいと思う。
    遺跡がどんな形態なのか(洞窟状なのか開けた場所か)ちょっと分かりづらいから
    中に入れるのなら、待ち構えて迎撃が方向を限定できていい気がするのよね。
    その場合、精霊には隠れながら退路を断つように移動してもらえればいいかなと思ってるの。

  • こんにちは。
    私はリーリア。よろしく。

    行動は、
    精霊には遺跡内で別行動してもらうようなフリをしてもらい、に先に進ませて近場で身を隠せるとこに潜んでもらう。
    一応「デミ・オーガをなんとかする任務」で来ているっていう風に見せる(これからどうするかとかの段取り相談のフリとか?)
    とりあえず、ストーカーの理由を聞こう。
    くだらない理由ならボコって縛って警察へ引き渡そう。

    こんな感じに考えてたわ。

  • [4]吉坂心優音

    2014/09/03-10:31 

    心優音:
    おはようございます!
    吉坂心優音です!
    よろしくお願いします~♪

    今の所の行動はコレです!

    行動
    ・囮となって遺跡へ入る
    ・ストーカーがついて来たら暫く歩く
    ・頃合いを見計らって立ち止まり声をかける
    ・何故ストーカーするのか一応聞く
    ・変な理由なら迷惑だからやめて欲しい事を伝える
    ・聞いてもらえないなら武力行使

    こんな感じですねぇ
    でも遺跡の中に入らないなら歩かなくても良いのかぁ…

    晃太:
    俺はみゆのパートナーでシノビの五十嵐晃太や
    よろしゅう頼むわ!

    >レムはん
    せやなぁ…
    遺跡の外で確保するんやったらそれがえぇと思うで
    俺は賛成や!

  • [3]出石 香奈

    2014/09/02-23:23 

    こんばんは、出石香奈とこっちはパートナーのレム。
    皆よろしくね。

    あたしはあえて隙を作って、相手が近づいてきたところを取り押さえようと思ってるの。
    ちょっと手段が乱暴になっちゃうかもしれないけど。
    って、あら?これ、もしかして場所は遺跡の中じゃなくて遺跡付近になるのかしら?
    精霊には遺跡の入り口付近に隠れてもらって、退路を断つ予定だったんだけど…
    ちょっと作戦を変える必要がありそうね…

    レムレース:
    失礼、香奈のパートナーのレムレースだ。クラスはロイヤルナイト。
    遺跡の外の、『身を隠せるが開けた場所』で捕り物を行うのなら、
    俺達精霊は神人とストーカーを囲むような配置で身を隠したいと思うのだが、どうだろうか。
    よければ皆の意見を聞かせてほしい。

  • [2]市原 陽奈

    2014/09/02-20:23 

    こんにちは、市原陽奈です。
    パートナーは宵と言います。よろしくお願いしますね。

    さて…どうしましょうかね…。
    私はいつもより女性らしい恰好をしようとは思っていますが…。
    そうですねおとり捜査という形になるでしょうか。

  • [1]ルビア・フォーミル

    2014/09/02-19:28 

    皆さん、初めまして。
    ウチ、ルビアって言います。
    で・・・隣で面倒くさそうにしてるんが相方のルクリアです。
    ウチら、今回が初めての仕事なんですが絶対ストーカーを逮捕したいと思てるんで、よろしくお願いします!

    ルクリア:・・・よろしく。

    ところで皆さんは、どないな感じでストーカーを捕まえようと考えてますか?


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