【夏祭り・月花紅火】本木に勝る絆なし(蒼色クレヨン マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

『狂わせるは四ツ辻 呪うは宮ノ下』

 うらめしー……
    うらめしー……

「……あれ!?おいっ、これ全部処分終えたんじゃなかったか!?」
「え!?あれっ?確かにそう聞いたはずですが……」

 祭りの準備も大分終盤に差し掛かった頃、どよめき立つ一角があった。

「マズイぞ!!言っただろう、結構強力な呪符だってコレ……!」
「祭りの活気や妖気、色々なエネルギーを取り込んでもういつ何が起こるか……」
「おい!至急今十字路歩いてる連中避難させろ……!!」

 妖狐たちがそう叫んだまさにその時だった。

突如、霧が湧き上がったかと思うとそれを乗せ突風が渦巻くように
活気溢れる祭りの路を、轟音を立て通り抜けた。
子供なら飛ばされる程の霧纏う小さな竜巻に、大きめの屋台の下に逃げ込む者、
体の大きな妖怪に捕まる者など。
どうにか風が収まる頃には大きな怪我人が出ることはなく済んだようだ。

・・・・あれ?
一安心したのも束の間、四ツ辻、十字路の分かれ道付近に居た人間や妖怪から
再びざわめきが起こる。

「どうした?!どんな被害が出た!?」
 祭りを取り仕切る妖狐の青年の一人が駆けてきた。

「いや……目の前を歩いていた二人組がいない、ような……」
「私の連れが居なくなったわ……!!」
「なんだって……!?」

 どこかへ飛ばされたのか、まさか最悪……?
そんな恐ろしい思考が妖狐の青年の頭を過ぎってから数分後。
すぐにそれは杞憂に終わる。

「おーーーーい!!」
「あ!彼だわ!」

 心配そうに待っていた女性の連れらしい男性が、十字路の北側から手を振って現れた。

「良かった!おい、何があったんだ!?」
 妖狐の青年は数十分とはいえ行方知れずになっていた男性へと問いかける。
「いやそれが……」

* * * * * * * * * * * * * *

『あー……飛ばされたと思われるウィンクルムの皆さん、聞こえますかー!』

人間世界でいうところの、迷子の館内放送な感じに
突然風に乗ってそんな声が響いてきた。

一体何が起こったんだろう。
自分はただ、パートナーと一緒にお祭りの警備に回っていただけなのに。
十字路に差し掛かって、どっちへ行こうか、なんて話していた時だった。
霧纏った渦巻く突風に巻き込まれたと思ったら、目を開けたら元居た場所と全然違う場所だったなんて。

しかも隣にいるのは自分のパートナーでなく……。

『本当に申し訳ない……!!どうやら、数年前の妖怪の呪いがまだ残っていたらしく……』

 え。呪い?

『数年前、二つで一つの合わせ鏡の付喪神が居たんだけど……
 それまでそれを大事にしてたカップルの都合で、分かれ分かれにさせられてしまったらしく……
 どちらもそれはもうカップルを恨んで、その思念がいつしか出会って、また一つになれたけれども恨みは倍増。
 人と人の出会う路、十字路や誓いや約束の多い宮の下に呪符を仕込んで、カップルを別れさせたり、閉じ込めたりしたことがあったんだ。

 いやその時は先代テンコ様の尽力もあって、呪符も全部取り払って付喪神も払われた、……はずなんだけど……』

 気まずそう~に、館内放送もとい風に乗った妖狐の声が一度途切れた。

『……どうやら、取り除きそこなった呪符が残っていたみたいで……。
 今年はあまりに慌ただしい準備とか、入り乱れすぎた妖気で上手くは発動しなかったのが幸いしたよ!
 連れが入れ替わって、祭りの敷地内にそれぞれ飛ばされた程度みたいだ!』

 いやいや中々の迷惑なんだが。
飛ばされたウィンクルムたちからの一様の思念が風に乗って伝わったらしい。

『ご、ごっほん!!ごめんなさいゴメンナサイ申し訳ない!!
 今、念のための呪符捜索を行ってるから、もうしばらくその場を動かないでいてもらえるかなっ?
 オーガに狙われやすいって聞くし、自分のパートナーがそばにいないのは不安だとは思うんだけど……っ
 一人でいるよりはイイと思うから……!
 
 捜索完了したら、またこの風の言霊で伝えるから!そしたら戻ってきてもらって大丈夫だよ!
 戻ったら今日はもう警備はお休みしてどうぞ遊んでクダサイ……!!』

 ひゅーるりら~

風の切れる音がした。
本部で顔は知ってるかもしれない、任務でもう何度も一緒になってるかもしれない、
隣にいる顔と顔を見合わせる。
……仕方ないか。
少し雑談していればすぐだろう。

お互い、ぎこちない笑顔を向けた。

解説

●一時のパートナー入れ替え!飛ばされた場所からスタート☆
・前半パート:入れ替え組の会話
・後半パート:合流。元のパートナーと屋台デート
という執筆予定です。なるべく、本来のパートナーとの後半パートを多めに、とは考えております。
前半・後半でどちらに重点おいて欲しいかご希望があれば、
その旨書いて頂ければなるべくご要望にお応え致します!

これを機に異性の気持ちを参考に聞いたり、パートナーの愚痴を言っちゃったり
後で合流の際に、向こうから来る意外と馴染んでる笑顔みてイラッ…え?、とかなっちゃったり etc☆
※飛ばされた場所は、ちょっと人気の少ない林や境内裏など。ベンチなど出して頂いて構いません。

●会議室上に表示される、<参加者>の順番で入れ替わった組み合わせが決定☆
上から、1、2、3、4 と振りまして
『1の神人&2の精霊』
『2の神人&3の精霊』
『3の神人&4の精霊』
『4の神人&1の精霊』 という組み合わせとなります。

後半・本来のパートナーパートに重点を置いて頂いて構いません。
折角の機会、入れ替わり同士でどんな話をするか会議室で話し合って練って頂くのも当然大歓迎!
おおまかに「こういう内容の話」とだけでもあれば、添いつつ全力でアドリブします←
入れ替わり組で、「お互いの呼び名」だけは書いて頂けると大変助かります。

●突風で壊れた屋台たちへの寄付援助金
 好きなだけ遊んでいい、という意味は! 妖狐たちも必死なんです。貧乏なんです……
 一組<300Jr>一律消費

●合流・屋台デート
風の放送により、全員が南北東西の方角から十字路中心で同時に合流となります。
途中で、向こうからパートナーが来るのが見えるでしょう。

屋台デートは一箇所のみとなります(描写の限界で)
わたあめ屋、金魚すくい、射的、などお祭りにありそうな屋台でしたら
お好きに選んで頂いてOKです。
お互い、入れ替わりの相手と何を話していたのかソワソワしてください。

ゲームマスターより

席替えとか肝試しペア決めくじとかドキドキしたよね!
ときめきが小学生レベル、大変お世話になっております蒼色クレヨンでございます。

前半パートは正直に言います。
 ア ド リ ブ 多 め に な り ま す 

なんて無謀なチャレンジしてるんだクレヨン!自分の首絞めすぎだよクレヨン!Mなんだねクレヨン!
お忙しい中会議室で発言出来る時間も限られるかな;とか、プランも大変だと思われるので
ご了承頂ければと……っ

アドリブが苦手な方は、全力で逃げて見なかったことにして下さいますようお願い致します!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リゼット(アンリ)

  ロジェさん!
知っている人がいてくれてよかったです

好きなこと…勉強、でしょうか
一人でできる遊びはあまりないけど
勉強だったら一人でもできるから

アンリと最初に会ってから10秒位は本当に王子様みたいだって思ったんです
今は…バカ犬!
でもなんでバカって言っちゃうのかわからなくて
ロジェさんはパートナーのこと、どう思われています?

(ロジェさんに耳打ち)
さっきのこと、リヴィエラさんには内緒にしておきますね

ちょっとバカ犬、クラリスさんに迷惑かけてないでしょうね
って、デート!?どういうことよ!
もう!知らない!
…なんで怒ってるのかしら私

金魚すくい?金魚は食べられないわよ
じゃあたくさんとって
そしたら許してあげてもいいわ


リヴィエラ(ロジェ)
  リヴィエラ:
(神人、精霊共にアドリブOK)

・前半
アモン様、以前の任務の時にお会いしましたね。
…あの、アモン様のパートナーである、リオ様はどのような方ですか?
アモン様…その傷跡は…? あ、いえ、差し出がましい事を申し訳ありません。お許しください。

・後半
良かった…ロジェ様がいらっしゃったわ。
…ロジェ様とリゼット様…何だかお似合いで素敵…
(ロジェにわたあめを買って貰うが、俯いたままもそもそと食べる)
ロジェ様…リゼット様と…その、どんなお話をされていたのですか?
お二人がまるで、童話から出てきたお姫様と騎士様に見えたんです…

(この気持ちは何…? 私、リゼット様にヤキモチを…?)



リオ・クライン(アモン・イシュタール)
  突然飛ばしされた事には驚いたが・・・酷い被害にならなくて安心した。
とりあえず初めましてだな?
(ソルティ→ソルティさん呼び)

《前半》
・ソルティさんとクラリスさんは兄妹らしいが・・・兄弟がいるとはどういう感じなのか詳しく聞いてみたい。
私は一人っ子だからな。
・えっと、アモンとの暮らしについて?
気が付いたらいつの間にか居つかれたというか・・・いつも食い散らかすは、風呂上りにへ、平気で上半身裸でうろつくは、大体あいつは・・・(段々愚痴に変わる)
でも頼りになる。

《後半》
・リヴィエラに変な事しなかったろうな?
・一度金魚すくいをしてみたかったんだ。
いっ、意外と難しい・・・アモン、やり方わかるか?




クラリス(ソルティ)
  吹っ飛ばされたのは癪だけど、せっかくの機会だし楽しまなくちゃ!

イケメンって目の保養になるわー(嬉々)
二人の関係を根掘り葉掘り聞いちゃおっと。
似た者同士って楽しいわね。ソルは真面目なのよ。腹の中真っ黒の癖に!

■合流
へらへらしちゃって…
どうせ迎えに来るんだろうしソルティを待つわ
鼻の下伸びてるわよ、このロリコン(足の脛を蹴り)

■後半 クレープ屋台へ
今日は愚痴ってスッキリ!
ソルティがキラキラしたら居心地が悪くなるじゃない。嫌よ
ニヤニヤしちゃってそんなに楽しかった?ふーん、あたしに良い子ちゃんになれと?
クレープをソルティの顔面に押付けハンカチでクリームを強引に拭きとり「ほら、あたしだって優しいでしょ?」


●添う木々も諸々

「アモン様、以前の任務の時にお会いしましたね。……あっ、『アモン様』とお呼びしてよろしかったですか?」
「別に好きに呼んでいいぜ。そうだな、確か俺たちが最初の任務だった時に顔合わせした奴、だったな」
 東方面。青白い提灯の灯りはどうにか届くものの、やはり生い茂る葉たちに邪魔され薄暗い林の中。
リヴィエラとアモン・イシュタールは顔見知りであったのもあり、どちらからともなく視線を合わせ会話を始めていた。
「その節はお世話になりました。その、私たちは戦いの場には居らず見れなかったのですが……、
 初任務、とは思えないご活躍だったと伺っております」
 ニコッと笑みを向けるリヴィエラに、慣れないように目線をズラしながら。
「よせ。むず痒い。単に暴れただけだぜ……」
「アモン様……その傷跡は……?まさか任務の時に……」
 力の足りなさを痛感した任務でもあった。アモンは思い出すように眉間に皺を寄せる。
その表情を見たリヴィエラは誤解から慌てて言葉を続けた。
「……差し出がましい事を申し訳ありません。お許しください」
「あ?ああ悪ぃ。違う。今のお前の言葉のせいじゃねぇよ。この傷はもっと以前のもんだしな」
 アモンの言葉にホッとした表情を作るリヴィエラ。
しげしげとそれを見つめるアモン。
「なんつーか……同じお嬢様でもこうも性格が違うもんなんだな」
「はい?」
「お前も、リオと同じ貴族なんだろ?……お前ならわざわざ、人のテーブルマナー云々で叱ったり余計な口出ししなそうだ、ってな」
 アモンからリオの人となりの一部を聞いて、なるほどと微笑を向けるリヴィエラ。
「アモン様。アモン様から見たリオ様とはどんなお方ですか?」
 不意打ちで聞かれたことに、アモンは一度目を丸くする。考えるように顎に手をやり。
「堅物で口うるさい。……だがまぁ、出会った時に比べて結構笑う様にはなったがな……」
 後半、呟くように発せられた言葉。リヴィエラは温かく見つめてから。
「リオ様もアモン様も、お互いのことをとてもよく見ていらっしゃるのですね。素敵です」
「違っ……そういうんじゃねー!!」
 アモンの乱暴な言葉も今のリヴィエラには優しいものにしか取られず。
あまりに己に不似合いな印象を持たれた気がして、しばしアモンの怒声が鳴り響くことになった。

(……何かアモンが切れてる気がする……やれやれ、どなたかに迷惑をかけていないといいが……)
西に位置する小さな祠前。正反対な位置であり聞こえるはずもないそれを、
向こうの感情の強さからか、直感で何かを感じ取ったリオ・クラインは小さく溜息をつく。
「クラインさん?大丈夫かい?飛ばされた時どこか怪我した?」
 心配そうに覗き込んできたポブルスの精霊・ソルティの端正な顔立ちに、慌てて取り繕う。
「すまないっ問題はない。それと、私のことはリオで構わない」
 先程まで『初めまして』と互いに丁寧に挨拶を交わしていた二人。
リオの言葉に安心した顔を向けながら、ではお言葉に甘えて……と笑顔を向けるソルティ。
「リオさんのパートナーは……アモン君、といったっけ?」
「あぁそうだ……、じゃない、か?そうで、す……?」
 たどたどしく言い直してみるリオに、気にしないでいいよ、とソルティは会話をさり気なくフォローしリードする。
「アモン君とは一緒に暮らしてるのかな?
 いや俺のところは兄妹同然に暮らしていたから、普通他のウィンクルムたちはどうなのかなって」
「普通、とは私たちのとこも言えるかは分からないが……一緒に暮らしてはいる。というか……」
 一度言葉を区切り、リオはどこか遠い目をした。
「気が付いたらいつの間にか居つかれたというか……
 いつも食い散らかすは、風呂上りにへ、平気で上半身裸でうろつくは、大体あいつは全く人の言うことを聞かずいつまで立っても最低限のマナーを覚えないし……」
 そこまで一気に口から出たところで、ハッ。
「……すまない」
「え?いいよいいよ。聞いたのは俺だし」
「あまり、言い過ぎるのはよくないとは思うのだが……一緒に暮らしていると粗、というのだろうか。そればかり気になって……」
「いやうん。ちょっと分かるかも」
 先程リオがしたのと似たように、どこか遠い目になったソルティ。
「どうしても気になってしまう時は、意識して相手の好きなところ……というと語弊があるか。良いな、と思った部分のことを思い出してみるとか」
「……良いと思ったところ……、頼りにはなる、と思う」
 初任務時、突っ走るかと思っていたら意外と周囲と行動を合わせ、敵へも怯むことなく向かっていたパートナーを思い出し。
リオは小さく頷く。
「うん。そんな感じでいいんじゃないかな」
「ソルティ、さん、のところは?兄妹同然と言っていたが。私のようなことは、思ったりはしないのだろうな……」
「いやー……うん偉そうなこと言っておいてなんだけど。苦労……多いよね。一緒に暮らしていると色々と……」
 そんなソルティの言葉に、クスリと小さく笑みが出来たリオがいた。

「ソルは真面目なのよ。腹の中真っ黒の癖に!」
「あー分かる。リゼットも人様の前じゃすごい大人ぶるんだよ。まだ子供で本性我儘放題で手焼いてんだ」
 すでに意気投合している入れ替わり組なこちらは、北にある開けた休憩所に飛ばされたクラリスとアンリ。
アンリの敷いてくれたハンカチの上からベンチに座り、クラリスは改めて隣りに並ぶアンリを見上げた。
「それにしても、イケメンって本当に目の保養になるわー。何だか本物の王子様みたいな仕草も感動!」
「よく言われるよ」
 冗談交じりにウィンクなどしてアンリもクラリスを眺め。
「俺も役得役得。前に本部でえらい美人が歩いてるなーと思ってたんだ」
「そんなの初めて言われたっ。アンリ君みたいなパートナーと一緒なら絶対ケンカとかなさそうよねー」
 少しはにかみながらも笑みを絶やさないクラリスに、アンリも満足そうに微笑みながらも。
「するぞケンカ。どうしてかいつの間にか俺が怒られる」
「え?そうなの?……リゼットさん、照れてるのかしら」
「多分な」
 今、この場にリゼットが居たら即刻否定されそうだな……と本人の顔を思い浮かべながら、若干苦笑いになるアンリ。
「まぁ、わがまま言うのは俺にだけみたいだし付き合ってやるけどな」
「じゃあやっぱり、アンリ君のことは信頼してるのねきっと」
 ケンカかぁ……と最後に付け足された呟き、金色の耳をぴこぴこと動かしてアンリは首を傾げる。
「そっちは?見た印象だと、ソルティ、だっけ。ケンカとかするタイプに見えねぇけど」
「ケンカ、してるようで何だかんだ私がただ宥められてるだけなのよね……
 長く一緒にいるから、もう私の面倒みるのが当たり前みたいに思ってるみたい」
 そう。対等なケンカならいいのだけど……と、溜息をつくクラリスをしばし見つめてからアンリは夜空へと視線を移す。
「お。上見てみろよ。今日は満月みたいだな」
 言われて、少し俯きそうになっていた顔を上げるクラリス。
その視界にはアンリの髪色を一層金糸に輝かせる、綺麗な黄金色な光が放たれていた。
「わっ……すごいわ!」
 こんなにまぁるい月。久々に見た気がする。
「「 おいし(うま)そう!! 」」
 くーきゅるるー
 重なる声。同時に鳴る二つの音。顔を見合わせる二人。どちらからともなく、ぷはっ
「あー腹減った!この状況片付いたらなにか食いてぇな」
「肉よね」
「肉だな」
 腹ペコ二人、微笑み合って妖狐の館内放送が響けばアンリのエスコートの下、仲良くベンチから立ち上がるだろう。

「好きなこと……勉強、でしょうか。一人でできる遊びはあまりないけど勉強だったら一人でもできるから」
 リゼットに少しの不安も与えないよう、優しく話題を振りそれを穏やかな顔で聞くロジェ。
二人は南に位置する鳥居の下にいた。
肌寒くないようにとロジェがかけてくれた彼の上着を、落ちないよう肩にかけ直しながらリゼットは問いに答える。
「偉いなリゼットは」
 でも……『一人』が前提なのだろうか……と、リゼットの背景に隠されたものを思いながら、しかしそれをロジェは胸の内に留めておく。
どこか寂しさがこみ上げたのは、大切な誰かと重なったのかもしれない。そう感じながら。
「でも本当に、知っている人とご一緒で良かったです」
 改めてにっこりと微笑みを向けるリゼット。
「俺もだ。任務で時々一緒になっているが、ちゃんと話す機会が無かったからな。アンリさんのことも聞いてみたいと思ってたんだ」
 共に戦う仲間のことは少しでも知っておきたい、と真面目に紡ぐロジェに笑みを固定したままリゼットは思う。
(こういう方が本当の王子様っていうのよね、きっと)
相手の言葉と自身の思考に、具体的に思い起こされてきたパートナーの姿に無意識に眉間に皺を寄せながら。
「アンリのことですか?……私からだと、ろくなこと出てきませんよ?」
「一番近しい距離にいるパートナーの君から聞きたいさ」
 じゃぁ……と少し逡巡してからリゼットは口を開く。
「最初に会って10秒位は本当に王子様みたいだって思ったんです」
「……10秒……?えぇと、今は?」
「今は……バカ犬!」
 きっぱりと告げるリゼットに目を丸くしながらも、ああアンリさんと一緒にいる自然体のリゼットはこうだった気がする……と
任務時を思い出しながら、微笑ましそうな笑みを浮かべるロジェ。
「でもなんでバカって言っちゃうのか分からなくて……」
「気兼ねしない、イイ関係なんじゃないか?」
「ロジェさんはパートナーのこと、どう思われてます?」
「えっ」
「リヴィエラさん。可愛いですよね」
 あくまで素直な問いと感想をリゼットは述べただけだったのだが。
唐突にふられた言葉に、ここ最近の距離の変化を途端に意識したロジェ。耳が火照り出す。
「あー……いや。うむ……可愛い、と思う……が」
(あら……?)
本部でその手の噂好きな女性職員の話、本当だったのかしら。
視線を外し口元を隠すように話すロジェを見上げ、リゼットはロジェとリヴィエラの関係を何となく察した様子。
あぁ違うこういうことじゃないっ……と、リゼットの問いに律儀に答えようと考えているロジェを静かに待ちながら、
ふとリゼットは月を見上げる。
(満月なのね……今頃なにしてるのかしら。まぁこんな綺麗な月見ても『うまそう!』としか思わなそうよねアイツ……)

●本木、末木へ還る

『お待たせー!本当にごめんよっ、もう戻って大丈夫だ!』

妖狐による風の言霊が各ウィンクルムたちへ鳴り響けば、それぞれがゆっくりと歩き出し。
そして元のパートナーと分かれるハメになった十字路へと戻ってくる。

 東の路。アモンとリヴィエラの姿を確認。
(……何であいつ、アモンと並んで歩いているんだ?俺以外の男と話す度胸なんかないクセに……)
(あの様子、どうやらリヴィエラに変なことしないでいてくれたか……?)
一気に心に暗雲宿るロジェ。
片やどこか安堵顔のリオ。

 西の路。リオとソルティの姿を確認。
(……日頃あまり笑わないクセに、やたら楽しそうじゃねぇかアイツ……)
(案の定ねっ。へらへらしちゃって……どうせ迎えに来るんだろうし待つわ)
己の思考に不思議そうに、複雑そうに葛藤するアモン。
ほぼ想定内であるが面白くないことに変わりはない、と憮然とするクラリス。

 北の路。クラリスとアンリの姿を確認。
(楽しそうで何より、……あぁうん。不機嫌になったね)
(あのバカ犬それはセクハラよ!)
自分と目が合ったパートナーのその表情の変化をすぐ読んで、その隠さない様に笑みを向けるソルティ。
クラリスをリードするその繋がれた手の先を見つめ、すでに心中説教モードになるリゼット。

 南の路。ロジェとリゼットの姿を確認。
(良かった……ロジェ様がいらっしゃっ、……ロジェ様とリゼット様……何だかお似合いで素敵……)
(離れてたのになんでもうあれ怒る気満々な顔なんだろな……)
二人の並ぶ姿に、どこか切なさを噛み締めるリヴィエラ。
俺何かしたか??と自分へ向けられる視線を心底不思議そうに見つめるアンリ。

 かくして、思わぬ事故から思わぬ心情を生む。

「本当にリヴィエラに変な事しなかったろうな?」
「くどい」
 リヴィエラの様子から分かってはいたが、どうしても本人に確かめずにいられなかったリオ。
何度も何度も確かめられる言葉に、げんなりしているアモン。
(あの狐共……いつか覚えてろよ)
こうなった元凶へと怒りが向く。当然といえば当然だが。
アモンのきっぱりした態度にようやく肩の力を抜き。
そんなリオの視界に飛び込んできた『金魚すくい』の文字。
「アモン、やってみないか……!」
「……俺は疲れたんだが」
「一度してみたかったんだ」
「……」
 こういう時、リオが貴族だったんだと思い出す。
滅多に見ないワクワクした表情に負ければ、アモンは渋々リオと金魚すくいの屋台へ。
早々に店主からポイを受け取り、いざっと水槽の前にしゃがみ込むリオ。
それを横から眺めるアモン。
 どぼんっ ぺしゃぁ
勢いよく水中へ突っ込まれたポイ、見事に穴があいた。
「いっ、意外と難しい……アモン、やり方わかるか?」
「何やってんだ……。金魚すくいってのはコツさえ掴めば簡単なんだよ。そもそもそんな力任せに水に浸けるやつがあるか」
 仕方なさそうにポイを受け取り、その縁だけを水面に寄せ狙いを定め。
 ぴちゃ ひょい
「うわ!アモン、すごいな!」
 無邪気にはしゃぐリオの姿。悪い気はしない。
「あっ、なぁ。金魚すくいなのに、亀もいるんだな」
「店によるが、たまにいるもんではあるな」
「……」
「……」
 きらきらした瞳と出会う。
ミドリ亀にチャレンジさせられるアモンの姿があったとか。

 アンリの元へ駆け寄る間際、ロジェにリゼットは耳打ちをする。
「さっきの話、リヴィエラさんには内緒にしておきますね」
「う……すまない。助かる」
 照れくさそうに小声で答えるロジェの横に、アンリも立ち。
「悪かったなロジェ。こいつ、めんどくさかったろ?」
「失礼ねアンリっ」
「そんなことないさ。アンリとリゼットが良いパートナー同士だって分かって良かったよ」
 にこやかに答え去る背中へ手を振り。
「クラリスもありがとな。またデートしようぜ」
「楽しかったわアンリ!またねっ」
 そんな二人のやり取りにピクッと眉を動かすリゼット。クラリスが立ち去るまでどうにか我慢してから。
「デートってどういうことよ!」
「え。だって男と女が二人で会ったらデートだろ。なんだよリズ、眉毛がいつもより角度決まってんぞ」
「もう!知らない!」
 リゼットは完全にそっぽを向いて歩き出し。
(って、……なんで怒ってるのかしら私)
 ハァと自問自答して小さくなった肩に、温かな手が置かれる。
「ほらリズ。俺らもデートしようぜ。こういうときは美味いもんでも食……、いや、金魚すくいでもやってみるか?」
 アンリのチョイスに思わず疑問いっぱいな顔でリゼットは振り返った。
「金魚すくい?金魚は食べられないわよ」
「いやさすがに俺も金魚食おうとは思わないって」
 お肉じゃないなんて。
これでもアンリなりの気遣いであることに、リゼットは暫く見つめてから気付く。
「……じゃあたくさんとって。そしたら許してあげてもいいわ」
「OK。お姫様」
 どこから来るのか自信満々な顔で、リゼットの肩に手を置いたまま二人は自然と寄り添うように金魚すくいの屋台へと連れ立つのだった。

「鼻の下伸びてるわよ、このロリコン」
「ロリコンはやめて。ロリコンはやめて」
 リオを笑顔で見送るソルティを眺め。
ようやく自分の下にやってきたパートナーに第一声。
真顔で全力否定するソルティのその足の脛を蹴ってから、クラリスはとっとと歩き出した。
痛みで悶えながら慌ててその後を追いつつ。
(俺もアンリ君の柔軟さを見習わないとなぁ。そして後でアンリ君に謝っとこう)
このクラリスにあんな素直な笑顔をさせていたアンリにこっそり尊敬の念を送るソルティ。
追いついた先でクレープに目を留めているクラリスの横顔を見て。
「買ってあげようか?」
「当然ね」
 さっきまでの不機嫌そうな顔がもうどこへやら。
ソルティは楽しそうにその表情の変化を見つめながら、店主からクレープを受け取りクラリスへ渡す。
「はー今日は愚痴ってスッキリ!」
「アンリ君さまさまだね。俺もあぁなった方がいいのかな」
「え。ソルティがキラキラしたら居心地が悪くなるじゃない。嫌よ」
 間髪入れず応えるクラリス。
このやり取りが自分は好きなんだろうなぁ、と自然と笑みになるソルティを横目で睨む。
「ニヤニヤしちゃってそんなに楽しかった?」
 ……誤解なんだけど。うん、まぁいいか。
「小さい頃のクラリスと重なってさ。リオさんみたいな優しくて良い子じゃなかったけどね。あの頃は可愛かったなぁ……」
 む、とするクラリスの表情をこっそり確認。
「ふーん、あたしに優しい良い子ちゃんになれと?」
「いやいや。無理でしょ」
 ハンカチを取り出して、さり気なくクラリスのクリームのついた口元を拭きながらあっさり放つソルティ。
このままでクラリスはいいんだよ、と続けようとした口がクレープで塞がれた。
無理矢理付けられたクリームを、クラリスは強引に拭き取った。
「ほら、あたしだって優しいでしょ?」
「……クラリスといると本当、何が普通か分からなくなるよね……それ俺のハンカチだし」
 嬉しくないの!?ならもう知らないっ、と踵を返すその背中を再び追う。
(まぁこれを楽しいと思う俺も普通じゃないのかも)
願わくば、憎しみの心なんか忘れて、いつもこんなクラリスでいてもらいたい……と
静かに、静かに、秘めながら。

 ロジェに買ってもらったわたあめを口に含みながら、リヴィエラは不安を隠しきれずにいた。
そして、俯いたままとうとう我慢しきれずその思いを口にする。
「ロジェ様……リゼット様と…その、どんなお話をされていたのですか?お二人がまるで、童話から出てきたお姫様と騎士様に私には見えて……」
 しかしこれがロジェの抑えていた理性の糸を断ち切ることになった。
(何故キミがそんなことを俺に伝える?お前こそアモンと……)
確かに以前は他の精霊が現れたら、相応しいと思う相手であれば身を引く覚悟でいた。
しかし今は違う。
怖い。この儚さと強さで自分を支えてくれる青い花を失うことが。
ロジェはリヴィエラの腕を掴むと、強引に人気のない木陰へとその身を隠し。
「っ!??」
「……っ…………君の隣にいて良いのは、俺だけだ……」
 今 何が起きたのだろう
ロジェの顔がほとんど見えなくなるまで近づいたと思ったら、一瞬息が出来なかった。
リヴィエラは、押さえ込まれていない方の手を微かに震わせながら、今は解放された自分の口元へと持っていく。
「ロ、ロジェ……様……?」
「うるさい……!お前は無防備すぎる……!」
 行動と言葉が伴わず、混乱するリヴィエラ。
温かい行為のはずなのに、どうしてこんなに胸が痛むのだろう。自然と目に涙が溢れてくる。
(……しまった……)
そんなリヴィエラの表情がやっと瞳に映りロジェは我に返った。
こんな形で奪うなんて……最低じゃないか……
大切にしたいのに。守ると誓ったのに。
今、己の行為によって目に溢れるものをそれでも流すまいと堪える健気な姿に、余計ロジェの心は締め付けられて。
「……すまなかった……」
「ロジェ様……」
 それ以上はどうしても言葉が出ず。ロジェはそっとリヴィエラの手を、今度は優しく包み込んだ。
(こんなに……自分の心がコントロール出来なくなるとは……思わなかった……)
リヴィエラの緊張が解けるまで、黙ってその手を握り締めながらロジェは思う。
(私が至らないばかりに……っ、ロジェ様をこんなに、怒らせてしまうなんて……)
すれ違う思い。
二人の関係も気持ちもまだ始まったばかり。
それでもその繋がれた手はこれから先離されることはない。
お互いの気持ちを確かめるよう、伝え合うよう、それは強く握り返された。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 蒼色クレヨン
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 08月22日
出発日 08月29日 00:00
予定納品日 09月08日

参加者

会議室

  • [6]リヴィエラ

    2014/08/26-20:42 

    リヴィエラ:
    い、いえ、あの…っ、リオ様の方が立派な方ですし、その…
    もし宜しければ、アモン様に、リオ様のお話をお伺いしたいです
    (照れながら俯いてニコリ)

  • [5]リオ・クライン

    2014/08/26-16:25 

    アモン:
    あー・・・リヴィエラっつったか?
    お前もオレのパートナーと同じ貴族なんだな。
    同じお嬢様なのに、こうも性格が違うものなのか比べてみたいもんだね。

  • [4]リゼット

    2014/08/25-21:00 

    リゼット:
    遅ればせながらこんばんは。リゼットよ。
    ロジェさんとご一緒するのかしら。よろしくお願いします。
    私のことはお好きに呼んでいただいて構いません。
    私もロジェさんにリヴィエラさんについて思うことを聞いてみたいです。
    あっ、お話の内容はリヴィエラさんには内緒にしておきます。
    同じウィンクルムだけど、うちとは随分違う雰囲気ですし
    ぜひ参考にさせてください。

    アンリ:
    アンリだ。よろしく頼むわ。
    俺はクラリスと一緒か。ふむ、えらいべっぴんさんだな。
    並んで歩けるとはラッキーだな、大歓迎だぞ。
    似たもの同士ってんなら話も合いそうだな。
    相棒の愚痴でも悩みでも惚気でもどーんと聞いてやるぞ。
    食いもん話…!悪くねぇな!腹減りそうだけどよー…。

  • [3]クラリス

    2014/08/25-13:19 

    ソルティ:
    こんにちは、クラリスのパートナーのソルティです。宜しく。
    俺はリオさんと一緒だね。せっかくの機会だし気楽に楽しく話せたらいいよね。
    うん、兄妹話でいいならいくらでも話すよ?まぁ、苦労話になりそうだけど(苦笑)
    俺も、リオさんは御令嬢だって聞いてるけど、今のアモン君との暮らしについて
    聞いてみたいな。
    上手くエスコート出来るように頑張るよ。宜しくね。


    クラリス:
    こんにちは、あたしはクラリスよ。
    急にふっ飛ばされちゃうなんてびっくりよね!本当妖狐たち覚えときなさいよ(笑顔)
    ふむふむ…あたしはアンリ君と一緒なのね。キラッキラしたテイルスのアンリ君。
    本部で見掛けた時にスンゴイ眩しい人がいる~って思ってたのよね。話せて嬉しいわ!
    リゼットちゃんの事も聞きたいし、あたしも食べるの大好きな大喰らいだから食談義とかも楽しそうね。
    歳も近いし楽しくお話ししましょ。

  • [2]リオ・クライン

    2014/08/25-11:39 

    リオ:
    リオ・クラインだ、よろしく頼む。
    私はソルティ・・・さんと一緒か。
    とりあえずソルティさんとお呼びしても?
    ソルティさんとクラリスさんは兄妹らしいが・・・私は一人っ子なので詳しく聞いてみたいな。

    アモン:
    リオのパートナーのアモンだ。
    ああ・・・お前(リヴィエラ)は初任務の時に顔合わせした奴だな。(エピNO.1「断ち切れぬ友情」参照)
    別に好きに話してもいいんだぜ?
    呼び方も好きにしていい。
    オレは基本お前呼びで。

  • [1]リヴィエラ

    2014/08/25-08:05 

    リヴィエラ:
    こんにちは、私はリヴィエラと申します。
    あの、その、私はアモン様とご一緒する事になるのですね。
    あの、どうぞ宜しくお願い致します(お辞儀)
    その、お話は…どんなお話をしましょうか…?(あたふた)
    あ、それから…アモン様とお呼びしても宜しいでしょうか…?

    ロジェ:
    俺はリヴィエラのパートナーのロジェと言う。どうか宜しくな。
    俺はリゼットお嬢さん―リゼットと呼んでも良いか? とのペアだな。
    俺は良かったら、リゼットの好きなものや、アンリさんの事について聞きたいと
    思っているんだ。何でも話を聞かせて欲しいと思っているよ。


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