【夏祭り・月花紅火】屋台作りSOS(叶エイジャ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ


「よし、ここをこうして……」
 ここは妖狐たちの作業場。紅月祭りで裏方を務める彼らが人知れず働く場所である。
「あとはこいつを組んで……できた!」
 そんな妖狐の一人、鬼野・平蔵は完成した「作品」に満足した表情を浮かべた。神社近くで採れる木材を使って組み上げられたのは屋台。祭では必須とされる出店の骨格である。
 今年は炎龍王に与する妖怪たちの妨害が激しく、屋台の多くも壊されたり、火をつけられたりと損害が激しい。それでもこうして予備や代わりの屋台が作られているため、怪我をするなどで人出が減ることに比べればまだ取り返しのきく問題だ。
 平蔵の作業する場所では木組みの屋台が作られていた。丈夫な割に軽く、祭の味が出ると平蔵は思っている。今年は事情が事情なだけにすぐに壊れてしまうかもしれないが、大切に使ってもらえたらいいと思うし、壊れる時は使ってくれた人を守りきった上であってほしいと思う。そう願いながらいつも作業している。職人気質であった。
 さて少し休んでから次の製作に取り掛かろうか、と彼が思った矢先、作業場の扉が荒々しく開かれた。顔見知りの妖狐が顔を歪ませていた。
「大変だ、あいつらが……!」
「また屋台が壊されたのか」
 憎たらしい炎龍王派の妖怪たちは、休ませてくれる気はないらしい。
「だけどいくつか作っておいたぜ。材料ももうすぐ届くから大丈夫だ」
 材料は彼の妹や、親友たちが運んでいる。
「違う、材料を運んでる妖狐たちが襲われたんだ!」
「!」
 平蔵の顔から血の気が引いた。

 ボロボロになった妖狐の一人が、息も荒く森の小道を歩いている。
「ウサギ、大丈夫か!?」
「親友、来るのが遅いぜ」
 ウサギと呼ばれた女性妖狐が、駆けてくる平蔵の姿を見てへたり込む。
「見ろよ、私の尻尾が焦げてしまった。自慢だったのに」
「バカ野郎! お前は俺の妹達を庇って……!」
「ああ、春香ちゃんに雛菊ちゃん、風香ちゃんに穂之火ちゃんは無事か?」
「ピンピンしてるよ。大きな借りができちまったな」
「まったくだ。当分は返せないほど大きいからな」
「そうだな、一生かけて返すよ」
「えっ」
「ウサギ、俺、ずっとお前のこと――」

 なにやらイイ雰囲気に移行しつつある妖狐の男女。
 それをやや離れた木の上から見つめる者たちがいた。
「――ようやく兄ちゃがコクハクしたみたいなの!」
 双眼鏡を手に煎餅をかじるのは、長女の春香。
「アドバイスしてあげた甲斐があったわね」
 クールに微笑むのは次女の雛菊。
「『身体張って私たちを守ったら好感度アップだよ』ってさ、正直どうかと思う」
 眼鏡をかけた三女の風香が本をめくりつつ答える。
「なによ、風香だってその本燃えないならって賛成したじゃない」
「ウサギ姉さんは燃えても良いけど、本は嫌」
「ホノカも見るー!」
「穂之火ったらまだ上がってこれないの? ほんとドジねえ」
「あ! キスするの! 今日の二人は煎餅がはかどるの♪」
 茶の間のおばさまよろしく上機嫌な長女。三女の風香が本を閉じた。
「でも実際、兄さんの仕事が厳しくなるのはマズイと思う」
「だよね。屋台作りどうしよ」
 次女の雛菊がうーんと唸る。ぽつりと呟く。
「女神様にもしものことがあったら、兄ちゃんが幸せになっても意味ないよね」
 屋台の供給が増える一方で、材料となる木材は燃えてしまった。材料は最悪どうにかなるが、肝心の作り手の不足……狐手が足りなさすぎる。
「ねーねー」下から四女の声がした。
「なによ穂之火。引き上げるのは嫌よ」
「ウィンクルムの人たちにお願いするのはどうかなー?」
「ウィンクルム?」三女が興味を示す。
「ウィンクルムってみんな『かっぷる』なんでしょー? じゃあかっぷるの後輩になるおにーちゃんたちのこと、助けてくれるよねー?」
「この本を見た限りウィンクルムってそうじゃないと思うけど……」風香が本を閉じ、ほくそ笑む。「すごく良い案だと私は思う。トランスや契約のこととか、根掘り葉掘り聞けるし」
「風香ちゃんって相変わらずウィンクルムフェチなの」
 双眼鏡を降ろした長女が、空を見上げて微笑んだ。
「でも、ウィンクルムさんたちなら甘酸っぱい恋とかしてそうで、見てみたいの♪」
「私も、興味あるわ」
 次女が小悪魔的な笑みを浮かべた。
「精霊とイチャついたら、神人も悔しがったりするのかしら?」
「ホノカもー! 遊ぶのー!」
 四人は顔を合わせた。うなずく。
「じゃ、決まりなの~♪」


 ……なんて話の、平蔵とウサギの経緯だけを、紅月祭に訪れたあなたは聞かされる。
 その女性妖狐は話す。
「お願いします。どうか人助けと思って、兄ちゃんを助けてくれませんか? 材料は用意をします。設計図も用意します。ウィンクルムの皆さんは手順どおりに屋台を組み立てていただければいいだけ。すぐ終わるので、空いた時間はお二人でゆっくりして戴いて構いません」
 矢継ぎ早に、その女性妖狐は説明する。
「泉のすぐそばだから、暇なら思う存分いちゃいちゃ……いえ、ゆったりとした時間を過ごせるの~♪」
 別の場所で、眼鏡をかけた妖狐が微笑む。
「よければ、ウィンクルムに興味があるので教えてほしいです。契約を交わした時とか、オーガと戦った時とか、一緒にいてどう思うとか……いえ、参考までに」
 更に別の場所では、狐の耳としっぽを生やした女の子が。
「屋台作りながらでいいからホノカと遊んでー!」

 妖狐の姉妹たちは説明を終えると、変身を解いて五歳から十歳くらいまでの姿に戻り、どこかに消えていく。
「あ、材料はとってくるから、その費用はもらいますね!」
 最後にそんな意味の台詞を、残しながら。
 ……なんの茶番だ。

解説

妖狐の屋台作りを手伝うという名目の、二人でゆっくり過ごしてね、な依頼です。
必要なものは四人の妖狐がそろえます(材料費:300ジェール)。
すぐ作成できる簡単キットみたいなものなので、それほど苦労はしません。
むしろ半ば恣意的に、二人でゆっくり過ごせる時間が作られています。

妖狐に頼めば、追加でいろいろと持ってきてもらえます。
かき氷:100Jr
たこ焼き:120Jr
綿菓子:100Jr
お面(狐のお面など各種):100Jr
やきそば:150Jr
りんご飴:100Jr

場所は静かな泉のほとりで、各ウィンクルムにつき広い空間があります。
神人と精霊の二人が製作中、あるいはゆっくりとしている時、四人の子狐がアクションを取ります。

長女・春香:二人の様子を妄想を膨らませながら見ている。見ながら煎餅食べるのが至福。のほほんとした性格。気にしてる神人が落ち込む程度には、ボディラインに恵まれている。将来有望。

二女・雛菊:グラマーな女性(あるいはイケメン男性)妖狐に化けて現れ、神人か精霊のいずれかにべったりと構ってもらいに行く(話す、寄り添うなどのスキンシップ)。そして相手の反応を見て楽しむ。小悪魔的な性格。

三女・風香:ウィンクルムの話が大好き。ウィンクルムの童話本を大事にしている。二人が契約した時のことや、ずっと一緒にいてどうなのとか、相手の事をどう思っているのとか。神人、精霊構わずいろいろ興味を持って突っ込んで聞いてくる。眼鏡っ子。

四女・穂之火:遊びたいお年頃。たとえシリアスな状況でも「遊んで-」と突撃してくる。変化が下手。

ゲームマスターより

こんにちは、叶エイジャです。

前半はなんだか茶番になった気がします。すみません(汗)
「へ」から始まる名前がなかったので出てきた平蔵……不憫な。

妖狐たちのアクションは、必要なら取り入れる形で充分です。
全員を相手する必要はありません(しても大丈夫です)。
見るだけで満足するようですから、適宜利用する感覚で良いかと。
向こうも、屋台作りにかこつけて楽しんでいるようなものですから!

メインはウィンクルムの時間。
皆様のプラン、お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

夢路 希望(スノー・ラビット)

  私達にできる事があれば
お手伝いさせて下さい

屋台作りは真剣に丁寧に
協力して行います
…この屋台を訪れた皆が、楽しい思い出を作れますように

…あ、はい
この道具ですね
…っ
一瞬手が触れて赤面
一緒にいるのは少し慣れた気がしますが
触れるのはまだ少し恥ずかしいです

…えっと
もう少しで完成ですね
…あれ?
確か、穂之火ちゃん、だよね
視線を合わせて尋ね<子供好きスキル
遊んでと言われれば彼にちらりと視線
…じゃあ、あっちの広い所でね
童心に返って追い駆けっこ
彼が来たら
いーいーよ
と二人で
彼の腕の中に捕まれば硬直
不注意で一度あったけど(依頼9
こんなにしっかり抱きしめられるのは初めてで
…ゆ、き?
囁きにドキドキ
穂之火ちゃんの声でハッと



リーヴェ・アレクシア(銀雪・レクアイア)
  目的:焼きそば作るか
心情:ま、作るか
手段:
『調理』スキル使用

私は焼きそばを作るか。
銀雪…お前、料理できないだろ。
後で味見してもらうから、妖狐と話してていいぞ。
野菜を切って、それから…(準備してる)
銀雪、だから無理に手伝わなくていい。
ほら、見ろ、指切っただろ。
あっちで手当てしてもらいなさい。
(いなくなった後で)自分の得意分野を伸ばすことをあいつは考えるべきなんだが。恋する男は大変だな。手助けはするつもりはないが。(小さく呟く)
出来上がったら、銀雪に味見してもらうか。
私の料理は普段食べてるから、別段新鮮でも何でもないんだが、こういう屋台の料理も趣があるだろう。
妖狐対応は銀雪に任せる。調理に専念。


楓乃(ウォルフ)
  妖狐の皆さんのお役に立てるよう精一杯頑張るわ!
えーっと説明書によるとここをこーして、これはこーで…。あ、あら?何だか変なオブジェクトが出来上がりつつあるわね?
あ、ウォルフ!大丈夫よ。私ちゃんと作れるわ!…え?私に任せたら日が暮れるって?ひどい!
あらそれりんご飴?くれるの?わー!ありがとうウォルフ!(満面の笑み)
…はっ!りんご飴に夢中になっていたら、いつの間にか屋台が組みあがってる。さすがウォルフね。ありがとう。
それじゃ残った時間は二人でゆっくりしましょうか。
あら?あそこに四人の子狐さんが…。
こんにちわ。よかったら一緒にお話しませんか?(にこっ)
※アドリブ可です。存分に絡ませてやってください笑


ティアーゼ(リンド)
  困ったときはお互い様です
私達にもぜひお手伝いさせてください

不備があってもいけませんし早めに完成させて確認してもらいましょう
リンドさんも張り切っているようですしよかったです
…何ですかその動機は!不純です!

休憩?
あと少しですし仕上げてしまいたいんですが…
もう、わかりました!

ところで春香さんにすごく見られている気がするのですが…
遠めにもわかるあのライン羨ましい…
(見下ろし)ま、まだ私だって成長期ですし
ど、どこを見ているんですか!訴えますよ!

組み立て以外で疲労が溜まった気がしますが無事終わってよかったです
その、リンドさんが頑張ってくれたのでこんなにすんなり終わったんだと思います
…ありがとうございました



 見上げた木々は高く、遠く鳥のさえずりが聞こえる。泉はかすかなさざ波を立てて、ひんやりとした空気が髪を撫でていく。
 案内されたのは、静かな場所だった。なんでも案内した妖狐たちの遊び場だとか。

「これが一式なのー。入り用があればいつでも読んでくださいなの~」
「ええ、お役にたてるように精一杯頑張るわ!」
「そういうことなら開けた場所がお勧めなの。誰も見てないから安心するの♪」
「???」
 たぶん、妖狐を呼ぶ時は見えやすい場所がいいという意味だと、楓乃は解釈した。早速説明書片手に部品を探していく。
「よーし、やるわよ~」
 その様子にため息を吐いたのは、契約精霊であるテイルス、ウォルフだった。
(あ~あ、楓乃のやつ無駄に張り切って……)
 こういう時の彼女の行動は大抵上手くいかない。人それを空回りという。残念なことに後片付けとか尻拭いといった行為はウォルフがすることになるので、吐く息の量だって自然、多くなるというものだ。
 案の定、開始からわずかな時間で、楓乃は屋台とは確実に違う何かを生み出しつつあった。
「ここをこーして、この部品は此処で……あ、あら?」
 説明書があると楽ね~と呟いていた楓乃も、途中写真と見比べて気付いたようだった。
「変ね、なんだかおかしなオブジェクトが出来上がりつつあるわね?」
「ほ~ら、やっぱな。まったく、世話が焼ける」
 さもありなん、と呟いたウォルフだったが、楓乃は不満そうに唇を尖らせた。
「大丈夫よ、ウォルフ。私、ちゃんと作れるわ!」
「どーだかな。一度オレと交代した方がいいんじゃないか?」
「ダメよ。せっかく私がイイとこまでやったのに、最後に持っていくのはズルイわ!」
「いや、それはないぞ?」
 イイとこないから一度ゼロに戻すだけ――とは、流石に言わないでおいた。
「とにかく、楓乃に任せてたら日が暮れるって」
「ひどい! もういいわ。ウォルフが間違ってるって、証明してあげるから!」
 頑なに言い張ると、楓乃は再び作業に戻る。ウォルフはしまったとため息を吐いた。こうなった彼女はもうこちらの話など聞かないだろう。
(あ、そういや)
入り用があればいつでも……妖狐の言葉を思い出す。
「んじゃああれだな、食いもので釣るか」
釣ってる間にオレがなんとかすればいい。
 さっそく森に向かって手を振ると、驚くほど早く妖狐が現れた。
 露出が多めの服を着た女性だ。
「何かしら?」
「そうだな、りんご飴頼めるか?」
「分かったわ。他には?」
「いや。じゃ頼む」
「そ、そう……ね、ねぇ私って白い肌が自慢なの」
「ん? そうか」
「え、ええ。貴方は逆に黒いのね。逞しくて素敵よ」
「?」
 どう屋台を作ろうか考えていたウォルフは、ようやく女妖狐が密着しようとしていることに気付いた。
「ここの泉、体を清めるのにも使うのよね――ねぇ、ハダカの付き合いって興味ある?」
「は、だ、か――!」
 突如、劇的に変わったウォルフの表情に女性も動揺する。
(あれー、必殺技だったんだけど。このおにーちゃん見た目ワイルドなのに『うぶ』ってやつなのかしら?)
 必死に大人の女っぽい演技をする次女、雛菊(9歳、タイプは青雪)は知らない。ウォルフがつい最近立ち直ったある出来事を。
「……悪いが、りんご飴早く頼むわ」
「あ、うん。なんかごめんね?」
 素に戻った次女が消えていった。

「おーい、楓乃」
「だめよ、まだ諦めてない――あら?」
 振り返った神人は、精霊の持つりんご飴に目を奪われた。
「身体動かしたから、甘いものいるんじゃねーか?」
「それくれるの? ありがとうウォルフ!」
 なんだかんだ言いつつ苦戦中の楓乃は、満面の笑みで受け取った。
 罠とも知らず。
(くくっ、ほんとに食い意地張ったヤツ)
 精霊はそっと離れた。
「は!」
 食べ終えた楓乃が作業を思い出し振り返ると――なんということでしょう。
 そこには立派な屋台が完成しているではありませんか。
 これには楓乃も褒めるしかありません。
「すごいわ。さすがウォルフね。ありがとう!」
「まあな」
「それじゃ、あとは二人でゆっくりしましょうか」
「あ? これでオシマイじゃねーの? ゆっくりって……」
 そこで楓乃の笑顔を見て、ウォルフも照れくさそうに返した。
「ま、まぁたまには二人っきりってのも悪くねぇよな」
「ビッグチャンスなの♪」
「って二人きりじゃねーのかよ!」
「あら? かわいい妖狐さんが四人も」
 木陰からこちらをのぞく四姉妹に気付き、楓乃が手招きする。
「こんにちは、良かったら一緒にお話ししません?」
「じゃあ、私はウィンクルムについて質問が」
「ホノカ遊ぶのー!」
「あの、お兄ちゃんさっきはごめんね?」
「……なんなんだ、まったく」
 一気に騒がしくなって、ウォルフがため息を吐いた。長女が耳打ちする。
「必要なら隠れるから思う存分イチャイチャするといいの。協力は惜しまないの♪」
「……」
 無言の彼に、春香はでも、と言った。
「初心だからって、全年齢対象は守ってほしいの。お約束なの」
「やかましいわ!」


「不備があってもいけませんし、早めに完成させて確認してもらいましょう」
「肉体労働はあんまり得意じゃないけど、俺も協力するよ」
 屋台作成キットを前に、ティアーゼとリンドが作業を開始する。
「あら、良い心がけですねリンドさん」
「まあね。ティアちゃんも重いのは素直に言ってね?」
 神人のまなじりが上がった。
「いつも言ってますよね、『さん』を付けてください!」
「はいはい。分かったよ、おねー『さん』」
「からかわないでください!」
 ――と、そんないつもの会話はまあさておいて。
「話通り、そこまでは難しくない感じだね」
 感覚は少し大きめのプラモデル製作だ。加えて組木が中心なので接着剤なども不要だ。これなら簡単と、リンドはてきぱきと組み立てていく。
(まずいですね、この木材、思ったよりバランスが……)
長めの木材を持ったティアーゼは、予想よりも大きいその重さに足元がふらつかせ――でも持った以上弱音を吐くなんてこともできず、運んでいく。
「……あ!」
 バランスが、崩れた。
 咄嗟に目をつぶったティアーゼは、しかしなにも音がしない事に恐る恐る目を開けた。
「さっきも言ったでしょ、重いもの運ぶとか力仕事は俺がやるから任せて」
「ぁ……はい」
 さっと、彼女が苦労していた木材をリンドが持っていく所で。ティアーゼは異性に優しくされた戸惑いと、学校と違って頼らなければいけない悔しさと、それでもお礼は言わなければいけないという理性の狭間に、声を出す機会を逃した。
 小さく、呟く。
「ありがとう……ございます」
「え? ティアちゃん何か言った?」
「い、いえっ、なにも……リンドさんが張り切っているようですし、良かったです」
「ああ、そりゃあ可愛い子もいるし、俺頑張っちゃうよ」
 その言葉を聞いて、ティアーゼの眉根がまた寄せられた。
「……なんですかその動機は! 不純です!」
(頑張っているのは、下心アリだからですか……!)
 ふと、自分たちに助けてほしいといった、春香という女性妖狐のことを思い出す。たしかに男性受けしそうだ。急激にさっきの感謝の念が消えていく。
 一方、リンドは軽口に対する叱責に肩をすくめていた。
(ティアちゃんも含めてなんだけどなー……と)
 作業時間を見計らって、リンドは妖狐に声を掛ける。
「はーい、どうしましたの? なんでも言って下さいなの♪」
「実は……」
 耳打ちするリンド。それを横目に見て、ティアーゼの機嫌が(さっきのこともあって)悪くなっていく。その事に比例するかのように、作業は速度を増していった。
 声を掛けられたのは、数分ほどたってからだ。
「ティアちゃん、一度休憩しない?」
「休憩、ですか?」
 時間を計れば、作業開始からかなりの時間が経過していた。だが、ティアーゼは首を振った。
「私は大丈夫です。あと少しですし仕上げてしまいたいので。必要ならリンドさんは休憩して下さってかまいませんから」
「それが、そうもいかないんだよ」
「……どういうことですか?」
 不思議そうな顔をする神人に、精霊は身体をずらして、テーブルの上に置かれた食べ物を見せる。
「実はかき氷頼んじゃってさ。妖狐たちがせっかく用意してくれたのに、食べないと溶けちゃうよ?」
 食べ物をムダにしちゃいけないと思うなーと、リンドはテーブルを指差した。すでに容器が結露し、かき氷は今にも溶けそうだ。その時間制限とかき氷の色に、ティアーゼも手を止めるしかなかった。
「もう、分かりました! 休憩して食べますから!」

「それで、どう?」
「……どう、とは?」
「かき氷の味だけど」
「……美味しいです」
 ティアーゼの反応は薄い。かき氷に集中しているのも一つの理由だが……
(すごく、視線を感じます……)
 森の方を見れば、木の影に隠れるようにして春香がティアーゼを見ていた。なぜか楽しそうにこちらを見つつ、手にした煎餅をかじっている。
(それよりも、あの身体……)
 見た目は、春香とティアーゼより下(実際は十歳)のはず。だが両者のラインには絶対的な差があった。
(羨ましい……)
 自らの『それ』を見下ろす。自然とため息が漏れた。
「皆違って、皆いいと思う」
「良くありません。まだ私だって成長期ですし――って」
 年下の少年がさらりと言った言葉の意味を、ティアーゼは理解した。どうも妖狐と自分を見比べているらしいリンドに、赤くなる。
「ど、どこを見ているんですか! 訴えますよ!」
「ごめんごめん、ついー」
「ついー、じゃありません! 大体――」

「ふぅ」
 一騒動の末、作業はようやく終わった。なんだか作業以外のことで疲労が溜まった気がする。
「お疲れ様、ティアちゃん」
「だからちゃんは――」
 言いかけ、神人は息を吐いた。
「今日はありがとうございました」
「え?」
「よく考えれば、リンドさんが頑張ってくれたから早く終わったんだと思います。無事終われましたし」
 リンドが、ふっと噴き出した。
「素直だね。珍しい」
「余計なお世話です」
「こちらこそ、ありがとう」
 そして二人して、笑った。


「それでは、焼きそばでも作るか」
 完成した屋台の使い勝手も確かめる上で、リーヴェ・アレクシアは鉄板をしいて調理を始めた。
「あ、俺も手伝うよ」
 契約精霊の銀雪・レクアイアがそう言うが、リーヴェは静かに首を振った。
「銀雪……お前、料理できないだろ。向こうで妖狐と話してていいぞ」
 たんたんたん、と小気味よく野菜を切り出した神人に、銀雪は不満そうな顔をした。
「だ……いじょうぶだよ。確かにそうだけど、野菜くらいちゃんと切れるから、さ」
 食い下がるようにそう繰り返す銀雪。肩をすくめて、リーヴェが一歩脇に寄った。嬉しそうな顔で、精霊はキャベツを手に取る。
(よし、それ――)
 ダスンッ!
「――痛ぅっ」
「ほらみろ、指を切っただろ。無理に手伝わなくていいんだ」
 ため息でもつきそうな顔で、退場を促すリーヴェ。さすがに治療もあって、銀雪はすごすごと屋台から離れていく。
 その小さくなる背を見て、神人は今度こそ小さくため息を吐いた。
(自分の得意分野を伸ばすことを、あいつは考えるべきなんだが)
「恋する男は大変だな」
 手助けするつもりは、ないが。
 最後にそう小さく呟くと、リーヴェは本格的な調理にかかった。せめてもの情けではないが、出来上がったら銀雪に味見してもらおうか――そんなことを思いながら。

 さて、銀雪であるが。
「お兄さん大丈夫? ため息ばっかり」
「うん、大丈夫……かな」
「はっきりしないわねぇ」
 妖狐の次女、雛菊に傷の治療をしてもらいながら、ダメ出しをされていた。
「神人のおねーさんの方がよっぽど漢前じゃない。そこのところどうなの、男としてリードしたいとか思わないの?」
「したいさ、したいと思ってるん、だよ」
「――その受け答えで無理って分かったわ」
 九歳にダメだしされて凹む銀雪。そこで次女はニヤリと笑った。
「押してダメなら引いてよね。おにーさん、私に名案があるわ」

「こんにちはなのー。いい匂いなの~♪ 料理上手なの~」
「妖狐か。すまないが集中したい。相手は出来ないぞ」
「それは大丈夫なのー。聞こえる音に反応いただきたいだけなの~」
「?」
 ちらっとリーヴェが見れば、スピーカーみたいな装置を手にする長女。
 そこから声が聞こえてきた。

「…………」
「さあ、おにーさん、どれくらいの背丈がいいの? 凛々しい感じが好き?」
「わ、わ……」
「あー、やっぱり胸に視線行ってる? 同じくらいの大きさがいい? それとも触って確かめる?」
「いくらなんでもそれは、破廉恥……」
「え? ああいいのどうせ尻尾の毛で厚増ししてるだけだし。最後に髪はどうしよう?」
「……短め、かな」
「神人さんと同じわけね。さあ、これで好きなタイプに近い女性が、目の前に現れたわけね~それっ」
 慌てたような銀雪の声。リーヴェは眉一つ動かさず答えた。
「くだらん。しようもない」
 その様子が本当につまらなさそうだったので、長女から次女たちに連絡が入った。

「――というわけで、まったく嫉妬されなかったみたい。残念ね」
「……」
 少しばかりは嫉妬してくれると思っていたのか、突っ伏した銀雪は指を切った時よりも凹んで見える。ちなみに次女の攻勢はやらせではないので、色々と疲れているのは確かだろう。
「ホノカとも遊んでくれなーい」
「やめなさい穂之火。目を逸らしていた事実に目を向けなきゃいけないってのは、結構きついものなのよ?」
 四女をさとす三女。この子たち本当に年齢一ケタなのかな?
 三女の風香が眼鏡を正した。
「では、ウィンクルムについて私から質問を。いつから神人さんのことを好きに?」
 がばっと、銀雪は顔を上げた。
「やっぱり女の子だから、僕が好きっていう気持ち、わかるのかい?」
「……」
 子狐たちは顔を見合わせた。これだけ凹んどいて、分かる分からないの問題ではない。
「こほん。質問を少し変えますが、あなたは神人さんのどんなところに魅力を感じるのですか?」
「リーヴェの魅力か……。そうだね、語るっていうほど、あまり上手く言えないかもしれないけれど――」
 そこからが、長かった。
 最初は強い意志を宿した瞳が気になったとか、凛々しい性格に惚れたとか、自分にない性格にすごく興味があるとか、いつか何かでリーヴェに勝ちたいとか、エトセトラエトセトラ……。
「け、けっこう言えるのね」
 次女の雛菊が若干引いてる。
「ウィンクルム特有のことで質問したいのだけれど……」
「遊びたいのー」
 三女と四女が辟易としている。
「……ここのところどう思いますの?」
 聞こえる声に、リーヴェは笑った。面白そうに。
「仕方のない奴だ」
「やっぱり、見ていて飽きないウィンクルムなのー」
「そうか? とりあえず銀雪を呼んで来てくれ。焼きそばができたとな」
「お疲れ様なの」
「普段私が料理を作るから、新鮮でもないが。屋台で作ると趣があるだろう」
 少しはしゃきっとしないと帰りが面倒だからな、とリーヴェ。
 そして焼きそばを美味しく食べた銀雪は、彼女の想像通り少しは立ち直ったという話である。


「並んでいた屋台、こうして作られるんですね」
 夢路・希望は骨組みに使われる木材を持ち上げる。
 スノー・ラビットが受け取り、指定通の箇所にはめた。
「うん、ここはもういいかな。次の場所に取り掛かろう」
「はい」
 事前に聞いた通り、作ることそれ自体は簡単で、迷っても解説つきなので作業が滞ることはなかった。
「ノゾミさん、そこにある道具取ってくれるかな?」
「あ――はい。この道具ですね」
 道具を手に取り、スノーに渡す。その時だった。
「……っ」
 二人の手が一瞬触れ合い、希望は顔を朱に染めながら手を離した。
(私……)
 元々異性には不慣れ。最近はスノーと一緒にいるのは慣れてきたと感じているが、それと触れるのはまた別だ。気恥かしかった。
 でも、つい意識してしまう。
(ユキ、あんなに白くて、細い指に見えるのに。温かかった)
 そして大きくて、力強い。自分の手と全然違う。
「ノゾミさん?」
「――!」
 考えていた当人から声を掛けられ、希望の肩が震えた。
「道具、ありがとう」
「……いえ」
 微笑みかけられて、胸の鼓動が早打った。顔が熱くなった気がして、気付かれないよう解説書で顔を隠す。もちろん本の内容は頭に入らない。
(可愛いな)
 耳まで真っ赤になった神人――完全に気付かれていた――に、スノーは隠れてクスリと笑った。

「奥手だわ」
「奥手ね」
「奥手なの♪」
 木陰からその様子を見つつ、長女から三女まで頷き合う。
「見守るしかないわね」
「誘惑しないの、雛菊?」
「私には無理よ」
「?」
「こういうことなの~」
 春香が録音機のボタンを押す。
『――この屋台を訪れた皆が、楽しい思い出を作れますように』
「……これ、神人の?」
「作ってる時、こっそり録音したの♪」
 希望が聞けば、羞恥で卒倒するかもしれない話である。
「こんな風に思って作ってくれる人に悪戯するほど、私悪い女じゃないもぉぉん!」
「はいはい、涙もろいわね。じゃあ、完成したら私が?」
「風香ちゃん沢山質問するといいの♪」
「あ」
「どうしたの雛――あ」

 作業は順調に進み、もう少しで完成――そこで、希望の服の裾が引っ張られた。
「……あれ?」
 下を見れば、耳と尻尾を生やした妖狐の女の子がいた。
「遊んで!」
「……えっと、確か穂之火ちゃん、だよね?」
「うん、ホノカだよ!」
 希望が視線を合わせれば、元気な声が返ってくる。神人は精霊を見上げた。スノーが微笑んで頷く。
「残りは少しだから、やっておくよ」
 後で僕も混ぜてね、という言葉に希望もつられて笑った。
「ありがとう、ユキ……じゃあ、あっちの広い所でね」
 手を繋いで歩き出す二人。スノーは心もち、作業の手を速めた。

「これで完成、かな?」
 何度かチェックしてから、スノーは二人を見る。
 希望と子狐は、追いかけっこをしていた。歩幅が小さい妖狐から、希望は足をやや遅めて逃げている。追いつかれ、今度は攻守交代。休憩用にと置かれた椅子やテーブルを盾にぐるぐると逃げながら、子狐が歓声を上げる。希望も笑っていた。
 ――その光景が、スノーの遠い記憶に触れた。
 遠くから眺めていて、でも決して手に入らなかった世界。
 見るだけだったセカイ。
 ――うわ、赤目だ。
 ――こっち来んなよ。白いのがうつるだろ。
 声を掛ければ遠くなるセカイ。近寄ればもっと離れていくセカイ。
 あんな風に誰かと遊んだり、遊んでもらった記憶は、ない。
 ずっと触れられなかったセカイが、目の前にあるような気がした。
「……あ、ユキ」
 気付いた希望が立ち止り、子狐も見つめてくる。スノーは口を開いた。口の中は乾いていた。
「……いーれーてー?」
 少し幼く発した彼の声に、希望と穂之火は顔を見合わせ笑った。
「いーいーよー♪」
(あ……)
 ほんの少しだけ、身体が軽くなった気がした。希望が、そんな彼を祝福するようにおずおずと触れた――袖口を、軽く。
 そして、逃げた。
「じゃ、ユキが鬼ね」
「…………あ」
 ずるい。
 三人で追いかけっこが始まった。はしゃぐ穂之火をスノーが優しく抱きしめるようにして交代。子狐はパタパタと小さい足を動かして希望に追いつく。しばらくして鬼に返り咲いた妖狐が、スノーを捕まえる。再び鬼になった。そして彼は希望へ。
「それっ」
「あ――」
 背後から抱きしめられ、希望が硬直した。遅れて彼も気付く。子どもと同じ対応をしていた。
「ご、ごめん」
 離れなきゃ――そう思いつつ、スノーは感じる心地良い温もりに動かなかった。
「……ゆ、き?」
 困ったのは希望だ。真っ赤になりながら肩越しに彼の名を呼ぶ。
「ごめん――もう少し」
「……っ!」
 背後から耳を震わせる囁き。その近さにドキドキが止まらない。
「――」
 どちらともなく声を失った、その時。
「ずるい!」
 子狐の声で二人は我に返り、離れた。
「二人だけぎゅーぎゅーずるいー。ホノカもー!」
「……あ、うん、ごめんね」
 お詫びにと抱き上げるスノーに、希望は背を向けた。
(どうしよう……)
 胸の鼓動は、鳴り止まなかった。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 叶エイジャ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 08月21日
出発日 08月26日 00:00
予定納品日 09月05日

参加者

会議室

  • [4]ティアーゼ

    2014/08/24-21:28 

    ごきげんよう、ティアーゼと申します。
    パートナーはリンドさんです。
    どうぞよろしくお願いします。

  • [3]楓乃

    2014/08/24-20:46 

    リーヴェさん、お久しぶりです。
    希望さんとティアーゼさんは初めまして。
    楓乃と申します。こちらはパートナーのウォルフです。
    どうぞよろしくお願いしますね。(微笑)

  • [2]夢路 希望

    2014/08/24-19:14 

    ゆ、夢路希望、です。
    パートナーはラビットさん、です。
    ……よ、宜しくお願いします。

  • リーヴェだ。
    パートナーは銀雪。

    よろしく頼むよ。


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