【夏祭り・月花紅火‏】影遊びの夜(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●貴方の影、解きます
祭りの夜を華々しく飾る沢山の屋台に紛れるようにして、地味な装いのこじんまりとした屋台がありました。ふとその屋台に目を留めれば、屋台の主――片眼鏡を掛けた初老の紳士は、柔和な笑みをこちらへと向けて。店主に軽く頭を下げ、一体何を商っているのかと目を凝らせば、屋台の前の立て看板には何とも妙なことに『影縫い屋・影解き屋』との文言が踊っています。不思議めいたその商いに興味を引かれ、自然、足を屋台の方へと向かわせれば、「いらっしゃいませ」と店主が柔らかな声音で言いました。
「『影縫い』にご用ですか? それとも、『影解き』にご用でしょうか?」
問われても、『影縫い』も『影解き』も何のことだか一向わかりません。説明を求めれば、店主はにこやかに言葉を零し始めました。
「影をその人に縫い付けている糸のような物を一旦するりと解くことを『影解き』と申します。影には心が宿っておりますので、解かれた影はその人の姿を取って、自らの意思で喋り、動き出します。影の心は、その人の心の欠片です。ですから影は、その人であってその人でない。その人の姿を取りながらも、その人が普段やりそうもないことをやったり言いそうもないことを言ったりしますが、それも全て、何らかの形でその人の心の内にあるものです。影は、それを垣間見せてくれるのですよ」
影は、解いてもしばらくは影の主から遠くへは行けない。けれども、半日もすれば影はもうすっかり自由になって主を置いてどこへでも行けるようになってしまう。そこで『影縫い』が必要になるのだと店主は言います。
「『影縫い』は、一度解いた影を、元の通りに縫い直すことを言うのです。この屋台は、祭りを楽しむほんの数時間の間影を自由にしてやって、その人の心を映す鏡とも言える影と共に祭りを楽しんでいただく。そして、祭りから帰る前に影を縫って終いにする。そういう店でございます」
そこまで柔らかに話し終えると、店主は再び、「『影縫い』にご用ですか? それとも、『影解き』にご用でしょうか?」と、お決まりらしい文句を口にしました。
――さて、貴方は、貴方や、貴方の大切な人の影に、何かご用はございませんか?

解説

●『影縫い』と『影解き』について
簡単な内容は、概ねプロローグにて屋台の主が説明した通りです。
屋台では、神人か精霊、どちらかの影を解くことができます。
お値段は『影解き』とその後の『影縫い』を合わせて300ジェールとなっております。

●影について
解いた影は、影の持ち主と同じ姿形になりますが、夜闇にも判るほどには色が薄いです。
影の性格は、屋台の主の説明通り影の持ち主の心の一部を映します。
パートナーのことが好きだけれど普段それを素直に出せない人の影は、『好き』の部分を映してパートナーにべたべたするかもしれません。
倒錯的な愛情や捨て切れない子ども時代の心等、何らかの事情で抑圧している部分がある人の影は、その部分を色濃く反映するかもしれません。
影がどんな性質でどんな言動をするのかを必ずご指定くださいませ。
また、持ち主と口調や人称等が異なる場合はそれもご記入ください。
口調等について記載のない場合は、持ち主と同じ口調・同じ人称とさせていただきます。
また、影は影の持ち主から半径3m以上遠くへは行けません。影の持ち主、若しくは影がそれ以上に離れようとすると、磁石が引き合うように見えない力にぐいと引き寄せられます。
影の身体能力等は影の持ち主と全く同じです。

●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは描写が極端に薄くなりますので、気をつけていただければと思います。
それから、今回のエピソードに関しましては、プランに影の性質の指定がない場合描写が薄くなる場合がございますのでお気をつけください。
また、影の言動の細部(指定のない部分)はお任せとなりますこと、ご了承願えますと幸いです。

●その他注意点
祭りの屋台で食べ物を買い求めたり金魚掬いや射的等のゲームに挑戦したりする場合、1つ(1回)につき一律50ジェール消費させていただきますことをご了承くださいませ。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

自分やパートナーの意外な一面を、影を通して垣間見ていただければと。
自分の影の思わぬ大胆さに赤面したり、パートナーとパートナーの影が貴方をめぐって険悪になったり。
はたまた、影の言動を自分の一部と認められずに葛藤したりも。
ラブコメ、シリアス、その他諸々。皆さまの思い思いのプランを拝見しリザルトの形にさせていただくのを楽しみにしております……!
貴方とパートナーと影。3人(?)での奇妙な夏祭りデートをお楽しみいただければ幸いです。

こちらのエピソードは9月発ですが、時間軸は紅月祭りの期間中の出来事となります。
8月中にご参加いただきますと『オリジナルパペット券』も配布されます。

また、余談ではありますがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

夢路 希望(スノー・ラビット)

  自分の心って自分でもよく分からないものですから
ちょっと気になります
「わ、私がやってみてもいいですか?」
…ユキが二人もいたら心臓が持ちそうにないです

解いた影には妹が出来た気分

…って
ひ、人前でそんなっ
確かに腕を組むのは憧れていましたけどっ
…迷惑じゃないですか?
返事に安堵しつつ
「あ、あのっ…わ、わた…綿菓子食べましょうか!」
私も、とは言えず
溜め息

彼に甘える影を見る度
恥ずかしい様な
羨ましい様な
変なもやもや感

影縫いの帰り道
囁きに赤面しつつ
影がしていた様に甘えてみる努力


影:
一人称と精霊の呼び名は同じ
性格は元より明るめ
口調は少し砕けて(~だね、~だよ
少女漫画で見るような王道的スキンシップをしたり求める



日向 悠夜(降矢 弓弦)
  ●心情
私の影がどんな事をするのか、気になっちゃた
…なんだか随分と子供っぽいね
うーん、自分はまだまだ子供って事かなぁ…複雑

●影
性格は子供っぽく悪戯好き
楽しい事に敏感で本体を置いて動き回ろうとする
「~だよっ、~だもん」など元気一杯の子供口調
元となる感情は他人に受け入れられたいという欲

短い時間だけどよろしくね。私の影さん
って、わあ!一人で先に行かないで!
ひ、引っ張られる…!

なあに?わたあめ食べたいの?
はい、どうぞ…って、今度は何処に行きたいのー

射的…?たぬきのぬいぐるみが欲しいの…?
…降矢さん、お願いしてもいいかな?

さよなら。私の影ちゃん
…楽しかったよ。ぬいぐるみ、大事にするね

●Jr消費
わたあめ
射的


アマリリス(ヴェルナー)
  影解きする
一人称:わたし
口調:~ね、~よ
元気な普通の子
ヴェルナーにべたべたしつつ連れ回す

観察する気満々
なるほど、あれがわたくしの心の一部なのですね
あら、腕を組みにいきましたね
影のわたくし、積極的ですわね

わたくしのことは気にせずにどうぞ
べたべたは自分の影だしとあまり気にしてない

ヴェルナーの「顔」が好きだと思っていましたが
影の行動を見る限りそれ以上の気持ちがあるようなないような…
それにしても本当に嬉しそうですわね

あら、影はよくてわたくしはだめ?
どちらもわたくしな事に違いはないのですけれど

やはり影の気持ちがまるで伝わっていませんが結果オーライかしら
さすがわたくしの影、と自画自賛しておきますわ


水田 茉莉花(八月一日 智)
  ※影を解くのは精霊
影が伸びたときに解いて貰ったら
身長が高くなるかもしれないわねーほづみさん♪
(本人悪気無し)

ええっと…この人ダレー?
ほづみさん、これが影って事は
ほづみさんの中に厨二b…

きゃあ!…い、イキナリ腰に手を回すんですか?!
えっと…ほづみs…じゃなくて、智さん、です?
あ、ほづみさん…よかった、手を繋いでいて下さい

[あたしの話を聞いてくれるし、行きたいお店にも行ってくれるけど…なんか、変な感じ]

あ…ほづみさん、ここは見るだけだから
欲しいのは綿あめだし…

は?あ、子ども?!…子どもじゃありません、こっちが彼氏ですっ!(手を引っ張りつつ)
[あれー?言うに任せてなんか変な事言った気がする!(赤面]



ルビア・フォーミル(ルクリア)
  消費:射的をするために50ジェール

なぁなぁ、あそこにもお店があるで。行ってみようや。
へぇ~…じゃあ、ルクリアの影解いてもろたらえぇんちゃう?
だって、何か面白そうやもん!

うわぁ、びっくりしたっ。
影くんがこないなことしてくるなんて思わんかったわ。
ルクリアは絶対してくれへんし…何かドキドキしてもうた。

あっ…あそこの射的にヒヨコのぬいぐるみがある!
メッチャ可愛いし、絶対フワフワしてるんやろうなぁ~。
ルクリア、あれ欲しい!あれ取って!!

そっか…もう影くんとお別れなんや。
ウチもメッチャ楽しかったで、ありがとう♪
また一緒に遊ぼなっ。

え?ぁ…うん、えぇよ。


●影の心私の心
「どのような影になるのでしょうね。……少し緊張してきました」
影を解かれる本人でもないのに何故か固くなるヴェルナーが見守る中、アマリリスの影がするりと解かれた。現れたのは、アマリリスそっくりの少女である。本物のアマリリスがふわりと笑んだ。
「なるほど、あれがわたくしの心の一部なのですね」
「色は薄いですが外見はアマリリス様ですね。影とはいえアマリリス様。無礼があってはいけな……」
ヴェルナーがどこまでも真面目にそこまで言葉を紡いだところで、影がしなやかに彼の腕を取った。楽しそうに笑み零して言うことには。
『さ、行きましょ』
「えっ? え?」
困惑しきりのヴェルナーを連れて、影は屋台通りを歩き始める。
「あら、腕を組みにいきましたね。影のわたくし、積極的ですわね」
至極冷静に2人の様子を観察するアマリリス。ヴェルナーにひっついているのは元より自分の影である。べたべたされても、あまり気にはならない。影に連行されるヴェルナーの後に、アマリリスも続いた。
『ヴェルナー、あれ、面白そうよ!』
「はい。ええと、あの、そうですね……」
元気いっぱいの影に振り回されて、ヴェルナーは困り顔で後ろを振り返りアマリリスへとヘルプの視線を送る。が、アマリリスはにっこりとして、
「わたくしのことは気にせずにどうぞ」
と一声。忠誠を誓う相手にそう言われてしまっては、ヴェルナーとしては、彼女の言う通りに動く以外の選択肢はない。覚悟を決めたヴェルナー、影の気が済むまで腕を取られたままでいることを決意する。影に腕を引かれ、辿り着いたのは安価な装飾品を扱う屋台だ。
『ねえ、ヴェルナーはわたしにはどれが似合うと思う?』
「そうですね……アマリリス様と同じお顔ですので、どれも一等似合うかと」
『もう、ヴェルナーったら……。わたしは、ヴェルナーがどんな物を選んでくれるか聞きたかったのに』
「? 申し訳ありません……?」
口を尖らせる影を見て、何がいけなかったのだろうかと首を捻りつつもヴェルナーが謝る。不機嫌な顔を見せつつも、影はどこか楽しげだ。
(まあ、ヴェルナーは気づいていないのでしょうけど)
自分の影を見つめ、それからヴェルナーへと視線を移すアマリリス。
(……ヴェルナーの『顔』が好きだと思っていましたが)
影の行動を見る限りでは、それ以上の気持ちがあるようなないような……それははっきりとは分からないけれど、それにしても。
「本当に嬉しそうですわね」
小さく呟いて、アマリリスはふっと笑う。ヴェルナーと共に祭りを満喫できたことに、影は満たされた様子だった。

(嵐が去った……)
それが、影を縫い戻した後にヴェルナーが最初に思ったことだった。ほっと息をついたところに、またするりと腕を取られる。驚きに目を見開いて腕の主を見やれば、そこには敬愛する少女の姿。
「あ、アマリリス様……!」
「あら、何ですのその顔は? 影はよくてわたくしはだめ?」
ヴェルナー、この言葉にぶんぶんと首を横に振る。
「いいえ! 決してそのようなことは!」
「じゃあ、構いませんわね。どちらもわたくしなことに違いはありませんし」
にこりとしてアマリリスが口にした言葉に、ヴェルナーははっとした。影は消えてしまったわけではない、あれはアマリリスの一部なのだ。つまり――。
「――アマリリス様は、祭りがお好きなのですね!」
「……はい?」
流石ヴェルナー、解釈がアマリリスの予想の斜め上を行く。
(やはり影の気持ちがまるで伝わっていませんわね……)
等とアマリリスが心内で嘆息していることなど露知らず、ヴェルナーは晴れた顔だ。
「でしたら、存分に楽しまなくては。僭越ながら、相伴させていただきます」
真剣な顔で言うヴェルナーは、どうやらアマリリスの腕を解く気はないらしい。
(結果オーライかしら? 流石わたくしの影、と自画自賛しておきますわ)
くすり、アマリリスは密か笑みを零した。

●もっと頼って
「へえ、影が自我を持ち動くのか……面白いな」
『影縫い屋・影解き屋』にて話を聞いた降矢 弓弦は、穏やかな金の瞳に知識欲の色を覗かせる。僅か首を傾けて、日向 悠夜が言った。
「ねえ降矢さん、私の影を解いてもらってもいいかな? 私の影がどんなことをするのか、気になっちゃった」
「勿論構わないよ。悠夜さんの影はどんな感情を基にしているのか、気になるところだね」
店主に影を解いてもらえば、現れたのは悠夜と同じ顔の女性。
「短い時間だけどよろしくね。私の影さん」
手を差し出そうとした悠夜だったが、その行動は、影の『あ!』という唐突な叫びによって阻まれる。
「え、何? どうしたの?」
『あそこの屋台、面白そうっ!』
言うが早いか、影は跳ねるように通りを駆け出した。弓弦が、呆気に取られたように言葉零す。
「ず、随分と子どもっぽいね」
「そうだね。うーん、自分はまだまだ子どもってことかなぁ……複雑」
苦笑する悠夜。その身体が、不意にぐい! と見えない力に引かれる。悠夜は店主の説明を思い出した。
「わ、ま、待って! ひとりで先に行かないで! 引っ張られる……!」
「ゆ、悠夜さん?!」
通りを行く人たちにやや怪訝な目で見られながら全力疾走(そうしないと身体ごと持っていかれそうになるのだ)する悠夜を弓弦は慌てて追うが、祭りの喧騒の中、あっという間に置いてきぼりを食らってしまう。
「拙いな……早く、悠夜さんたちを見つけないと」
人波をかき分けるようにして、弓弦は悠夜たちを探す。一方の悠夜は、綿菓子屋の前でやっと影に追いついていた。
「……なあに? 綿飴食べたいの?」
乱れた息を整えながら問えば、影はにっこりと人懐っこい笑みを悠夜に向けて。
『うんっ! だって、とっても美味しそうなんだもん!』
邪気の欠片もないその笑みに悠夜も「しょうがないな」と軽く笑み零し、綿飴を一つ買い求める。
「はい、どうぞ」
差し出せば、綿飴を受け取った影はぱあと顔を輝かせた。
『わぁい! ありがとうっ! ……あ!』
影が、また何かに気づいて綿飴を手にしたまま走り出す。悠夜は急ぎ影を追った。
「今度は何処に行きたいのー?」
「ゆ、悠夜さん……!」
耳に馴染んだ声に呼ばれて、悠夜は足は止めないまま振り返る。弓弦がすぐ後ろを走っていた。
「あ、降矢さん」
「やっと追いついたよ。悠夜さんの影は元気だね」
「うん、本当に」
等と笑い合い言葉を交わしつつ影を追えば、辿り着いたのは射的の屋台。
『あのたぬき可愛いね! 欲しいなぁ』
景品のぬいぐるみを指差して瞳をきらきらとさせる影を見て、悠夜は弓弦へと視線を遣った。
「……降矢さん、お願いしてもいいかな?」
遠慮がちな悠夜の問いに、弓弦はふわりと笑む。
「本職がこんなことするのはズルだろうけれど……一度だけだから、大丈夫だよね」
小さな声で悪戯っぽく零して、弓弦はコルクの弾が2発込められた銃を構える。1発目の弾丸が、過たず目当ての品を捕えた。
(影を見ていて気づいたけれど……悠夜さんは、影みたいな我儘は言わないな)
残りの弾で、弓弦はもう1つぬいぐるみを狙う。
(年上として、パートナーとして、そういう我儘も言ってほしいし……)
何より頼られたいと、弓弦は思う。引き金を引けば、たぬきのぬいぐるみは2つになった。
『降矢さんありがとうっ。すっごく嬉しい!』
ぬいぐるみを受け取った影が満面の笑みを弓弦に向け、弓弦も影へ笑みを返した。一方、影と同じくぬいぐるみを抱いた悠夜は、ちょっと申し訳ないような顔。
「ごめんね、降矢さん。私の分まで取ってもらっちゃって……」
「謝らないで。僕が悠夜さんの分も取りたかったんだ」
柔らかく笑み零せば、悠夜もつられたように笑顔になった。そろそろお別れの時間だと、2人は影を連れて元の屋台へと戻る。
「さよなら、私の影ちゃん。……楽しかったよ。ぬいぐるみ、大事にするね」
2人分のぬいぐるみを抱いて悠夜が言えば、影はどこか満足げに微笑んだのだった。

●素直な気持ちで
「なぁなぁ、あそこにもお店があるで。行ってみようや」
「あっ、おい!」
弾むように屋台通りを行くルビア・フォーミルと、彼女を追うルクリア。辿り着いたのは『影縫い屋・影解き屋』だ。店主から不思議な商いの話を聞いたルビアは、
「へぇ~……じゃあ、ルクリアの影解いてもろたらえぇんちゃう?」
とルクリアに笑顔を向けた。
「『じゃあ』って……何でそうなるんだ……」
「だって、何か面白そうやもん!」
きらきらと瞳を輝かせて、ルクリアの方へ身を乗り出すルビア。近すぎるその距離にどきりとして、「な、えぇやろ?」と続けられた言葉にルクリアは仕方なく頷いた。店主がするり影を解けば、現れたのはルクリアそっくりの男。
「わ! ルクリアと一緒の顔や!」
興味津々、影に近づくルビアに――影はおもむろに抱きついた。
「え? ええっ?!」
『ふふ、温かい』
驚きに目を丸くするルビアと、幸せそうに笑み零す自分と同じ顔の影。その様子を目前にしてルクリアは絶句した。ルビアを抱く腕を解いた影が、彼女の頬にそっと口づけを零す。
『出してくれてありがとう、ルビア』
「え? うん、いや……うわぁ、びっくりしたっ。影くんがこないなことしてくるなんて思わんかったわ」
『驚かせたか? 悪い、ルビアに会えたのが嬉しくて』
影がにこりとする。頬が火照るのを感じながら、ルビアは自分の胸を抑えた。
(あかん、ルクリアはこないなこと絶対してくれへんし……何かドキドキしてもうた)
一方のルクリアは、目の前の軟派な男が自分の影だということを、未だ認められずにいて。痛む頭を抱えれば――この隙にとばかりに影がルビアの手を取って走り出す。が、影と持ち主は磁石のように引き合う。グン! と逆らいようのない強い力が働いて、ルクリアは影に思い切りよく激突した。転びもつれ合う2人。
「うわ、痛そうや……2人とも大丈夫?」
『ん、平気だ。心配してくれてありがとう、ルビア』
「影、いいから降りろ! 重い!」
ともかくも影とルビアの逃避行(?)は失敗に終わり、3人は共に祭りを回ることになった。楽しそうに言葉交わしながら通りを行くルビアと影の後ろを歩きながら、ルクリアは胸の内のもやもやを持て余す。ルビアの明るい笑い声が影に向けられている度、苛立ちが胸を掠めて。と。
「あっ……あそこの射的にヒヨコのぬいぐるみがある!」
ルビアが、声を上げた。
「えぇなぁ……メッチャ可愛いし、絶対フワフワしてるんやろうなぁ~。ルクリア、あれ欲しい! あれ取って!!」
「……分かったよ」
コルクの弾が2発分込められた射的用の銃でヒヨコを狙うルクリア。1発目は目標を掠り、2発目で何とか目当ての品を落とすことに成功する。「やった!」とルビアが跳ねた。
「ほら、ルビア」
「ありがとう、ルクリアっ!」
受け取ったぬいぐるみをぎゅっと抱き締めるルビアの顔は本当に幸せそうで。彼女を喜ばせてやれたことが嬉しくて、ルクリアはそっと微笑んだ。そんな2人の様子を、影は柔らかく見つめていて。――さあ、そろそろ別れの時間だ。

「そっか……もう影くんとお別れなんや」
『影縫い屋・影解き屋』の前。しゅんと目を伏せるルビアの頭を、影が優しく撫でる。
『お別れじゃない。俺は、いつもルクリアと共に在るから。……今日はルビアのおかげで本当に楽しかった』
「ん……ウチもメッチャ楽しかったで、ありがとう♪ また一緒に遊ぼなっ」
笑顔を取り戻したルビアの言葉に、影はそっと微笑みを返した。そして影は、ルクリアの元へ。歩み寄り、そっと耳に囁く言葉は。
『もっと自分に素直になれよ』
目を見開いたルクリアの肩を、影はぽんと叩くのだった。『影縫い』が終わり、ルビアとルクリアは、元通り、屋台通りに2人きり。
「……ルビア」
「ん? 何?」
顔を上げたルビアに手を繋ぐかと言おうとして、けれど結局、ルクリアはその言葉を紡げずに終わる。けれど、少しずつ、少しずつ。遠くない未来には、きっと。

●ありのままの姿で
「影が伸びた時に解いて貰ったら、身長が高くなるかもしれないわねーほづみさん♪」
場所は『影縫い屋・影解き屋』の前。機嫌良く零す水田 茉莉花の顔には悪気の色は一切ないが、その言葉は、八月一日 智の心にぐさりと刺さった。
「おれはいずれ改造して大きくなる身だ。そんな影の背を伸ばそうなんてことはしない!」
と、智は口を尖らせ言い返し――でも、と言葉を続ける。
「……背が高くなることって、あるのか?」
2人分の興味津々の視線が、屋台の店主に向けられる。店主の説明によると、普通は本人と同じ姿形になるよう影を解くが茉莉花の言うようなことも不可能ではないらしい。好奇心のままに伸びた智の影を解いてもらえば――現れたのは、顔立ちは確かに智に似た、高身長の男だった。
『会えて嬉しいぜ、みずたまり? 2人を導いた運命の女神に、感謝を捧げないといけねぇな』
呆気に取られる茉莉花の手を滑らかな動作で取る影。茉莉花がやっと絞り出した言葉は。
「ええっと……この人ダレー?」
「何だこのスかした野郎は?!」
続いた智に、茉莉花が冷えたような視線を投げた。
「ほづみさん、これが影ってことは、ほづみさんの中に厨二びょ……」
「……言うなよ、その言葉はゼッタイ言うなよみずたまり!」
叫ぶ智を尻目に、影、茉莉花の腰にするりと手を回す。
「きゃあ! ……い、イキナリ何するんですか?!」
『何って、天使が飛んで逃げちまったらイケナイだろ?』
「か、顔が近いです……えっと、ほづみさ……」
『名前で呼んでくれよ、天使ちゃん』
「うっ、じゃあ……智さん、です?」
イイ子だ、と影が茉莉花の耳元で囁く。智が叫んだ。
「うあーっ! やめろ、おれそんなことぜってーしねえし! みずたまりっ! て、手を貸せっ!」
「あ、ほづみさん……よかった、手を繋いでいて下さい」
ほっとしたように手を差し出す茉莉花に、緊急事態の不可抗力だからな! と付け足して、智は茉莉花の手を取る。3人で通りを歩き出せば、影はことあるごとに、茉莉花へと甘やかな言葉を零した。例えば簪の屋台の前では、
『似合うんじゃねぇの? ほら、コイツもみずたまりのキレーな髪が気に入ったみたいだぜ?』
というふうに。その度に智が、
「やい影! テメェは金持ってねぇだろ? そんなに気前よくホイホイ買えるか、計算して金は使え!」
等と守銭奴らしい物言いで影を止める。そんな2人を横目に、茉莉花が思うことは。
(智さんはあたしの話を聞いてくれるし、行きたいお店にも行ってくれるけど……なんか、変な感じ)
違和を感じつつ、茉莉花は智へと声を掛ける。
「ほづみさん、ここは見るだけだから。欲しいのは綿飴だし……」
「みずたまり……じゃ、綿飴屋台に行くぞー」
茉莉花と影を引き離すかのように、智は茉莉花の手を引っ張った。そして、綿飴の屋台。
「さてと、どの綿飴が良いかなー」
視線を巡らせる智に、店主が言った。
「どの綿飴も特別美味いよ、坊や!」
ざくり。言葉は時に残酷だ。
「ぼ、坊や……」
ショックのあまり呆然とする智。茉莉花、そんな智を見て思わず彼の手をぐいと引いた。
「坊やじゃありません、こっちが彼氏ですっ!」
言われて、すぐに店主が謝りを入れるも――智はもうそれどころではない。
「みずたまり……ちょっとあの、その……」
茉莉花に手を引っ張られたまま真っ赤になって下を向く智。そんな智を見て、自分が半ば無意識に引いた彼の手を見て、茉莉花、ぼっと顔を赤くした。
(あれー? 言うに任せてなんか変なこと言った気がする!)
場を満たした気拙い沈黙を破るようにして、智が上げるは大きな声。
「さ、さっさと綿飴買って、縫い戻しに行くぞオラ!」
この言葉に茉莉花もこくと頷き、足早に最初の屋台へと戻る。影とはここでお別れだ。
「やい影!」
薄れゆく影に、智は言った。
「おれはこのまんまで気に入って貰う予定だ!」
幻のように消える刹那、『それでいい』とでもいうように、影が満足げに口の端を上げるのが智の目にしかと映った。

●勇気を出して
(自分の心って自分でもよく分からないものですから、ちょっと気になります)
『影縫い』と『影解き』の話を聞いて、夢路 希望が最初に抱いたのはそんな感想。
「心の一部、か。何だか楽しそう」
と傍らのスノー・ラビットが笑み零せば、希望も慌てて言葉を紡いだ。
「あのっ。わ、私がやってみてもいいですか?」
常より控えめな希望の精一杯の主張にスノーは目をぱちぱちとして、それからふわり目元を柔らかくする。
「勿論だよ。どうぞ、ノゾミさん」
「あ、ありがとうございます……」
優しく希望を促すスノーの笑顔が、祭りの灯りより眩しく感じられて。希望は火照る頬を隠すようにそっと俯いた。自分の影を解きたいと申し出たのは、勿論その不可思議に興味を引かれたせいもあるけれど。
(……ユキが2人もいたら、心臓がもちそうにないです)
なんて、そんな想いもあるのだった。店主がするりと影を解けば、2人の眼前に現れるは希望そっくりの少女。
「わ、本当にノゾミさんが2人になっちゃった。ええと、何て呼べばいいかな?」
スノーが問えば、『何でもいいよ』とにっこりする影。
(何だか、妹が出来た気分です)
と、2人のやり取りを見守っていた希望だが、
「じゃあ、ノゾミちゃんって呼んでもいいかな」
と全然何でもないふうにさらりスノーが口にするので、自分がそう呼ばれたわけでもないのに頬がまた熱くなる。それは、影の方も同じだったようで。
(……ふふ、照れ屋さんなのは一緒みたい)
真っ赤になった希望と影を見やって、スノーはそっと目を細めた。と。
『ユキ』
未だ頬を朱に染めながらも、影がスノーを呼ぶ。
『私、ユキと一緒にお祭り回りたいな』
「うん、それじゃあそうしようか」
肯定の答えが返れば、影は意を決したようにスノーの腕にぎゅっと自分の腕を回した。スノーが軽く目を見開き、希望は大いに狼狽する。
「ひ、人前でそんなっ」
確かに腕を組むのは憧れていましたけどっ、という言葉は何とか飲み込んだ希望。一方、スノーにひっついた影は嬉しそうで、スノーもまた、そんな影の様子を見やってふんわりと笑む。
「……迷惑じゃないですか?」
おずおずと希望が問えば、スノーは「そんなことないよ」と微笑んで。希望はほっと安堵の息を漏らした。そして。
「ユキ。あ、あのっ……わ、わた……」
「わた……?」
首を傾げるスノー。
「わた……わ、綿菓子食べましょうか!」
「綿菓子? そうだね、行こうか」
返る笑顔に、零れるのはため息。私も、とはどうしても言えなかった希望の手を、空いている方のスノーの手がそっと握った。3人で祭りを回れば、スノーにひっついて甘える影を見る度に、希望の胸はもやもやとして。
(恥ずかしいような、羨ましいような……)
買い求めた綿飴と一緒に、希望は落ち着かない気持ちを飲み下した。

「ノゾミさんの気持ち、教えてくれてありがとう」
『影縫い』の直前。スノーは影にこそり耳打ちした。影を通して希望の心の一部を垣間見る度に、何だか嬉しいような気持ちになったスノーである。幸せめいた笑顔をスノーに向けた影は、間もなく希望の足元へと戻っていった。そして、その帰り道。スノーはそっと、隣を歩く希望へと自分の腕を差し出す。
「え……あの……?」
おろおろとする希望に、スノーはにっこりとして曰く。
「人前でするのは、恥ずかしそうだったから」
秘密めいた囁きに赤面しながらも、希望は自分の影の言動を思い出し――勇気を出してスノーの腕をぎゅっと抱いた。触れ合った部分から、温もりが2人を満たす。その温度に、スノーは僅かどきりとした。いっぱいいっぱいの様子の希望は、スノーの些細な変化には気づかなかったようだけれど。
「……楽しかったね、お祭り」
柔らかに目を細め、スノーがぽつり呟いた声が夜闇に響いた。



依頼結果:大成功
MVP
名前:夢路 希望
呼び名:ノゾミさん
  名前:スノー・ラビット
呼び名:スノーくん

 

名前:日向 悠夜
呼び名:悠夜さん
  名前:降矢 弓弦
呼び名:弓弦さん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月25日
出発日 09月01日 00:00
予定納品日 09月11日

参加者

会議室

  • [5]日向 悠夜

    2014/08/31-20:13 

    挨拶が遅れちゃってごめんよ!
    日向 悠夜って言います。
    久し振りの方も、初めましての方もよろしくお願いするね。

  • [4]夢路 希望

    2014/08/31-09:12 

    挨拶遅れました……。
    えっと、夢路希望、です。
    お久しぶりの方も、初めましての方も、宜しくお願いします。

  • [3]水田 茉莉花

    2014/08/30-20:57 

    初めましての人は初めまして、ご一緒した方はお久しぶりです!
    水田茉莉花といいます、よろしくお願いします。

    ってか、影って解いた人と同じ姿形を取るの・・・よね?
    影が長いときに解くと、身長って変わるのかしら?
    ねーち・・・ほづみさんっ♪

  • [2]ルビア・フォーミル

    2014/08/30-19:15 

    皆さん、初めまして。
    ウチはルビアって言います、よろしくお願いしまーす!

    アマリリスさん、ホンマにそうですよね~。
    絶対オモロいことになると思いますよ♪

  • [1]アマリリス

    2014/08/30-15:11 

    ごきげんよう、アマリリスと申します。
    どうぞよろしくお願いいたします。
    解かれた影がどんな影となるのか楽しみですわね。


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