サムライと料亭(うち マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 天気は晴れ、昼下がりのA.R.O.A.は今日も平和です。
「(なんて、フラグ立てるような事を考えてたらこれだよ……)」

 見慣れてしまった(正直、見慣れたくはなかったが)着物姿の青年、半鬼〈デミオーガ〉狩りのサムライ『山葵』がニコニコしながらこちらに向かってくるのをA.R.O.A.職員は見つけてしまう。
 このままではまた面倒な依頼を頼まれる事になるのは確定的に明らか、今すぐにでも受付を締め切りたい気持ちで胸一杯になるが、他にも依頼を申請しに来ている人達が居る手前そのような事は出来ない……。
 などとA.R.O.A.の受付職員が考えている間に山葵は受付まで辿り着いており、いつもの様に自己紹介から始めた。
「拙者、山葵という者にござる。一週間後、拙者の師匠である生姜師匠が53歳の誕生日を迎えるのでござるよ。それで宴を開こうという事なのでござるが、少々資金が足りなくなってしまって困っているのでござる」
「……は、はぁ(こいつが来た時点で分かってたけど、嫌な予感しかしない)」
「それで生姜師匠の誕生日の宴に招待するので少々足りない資金を工面してもらえないでござらぬだろうか?」
「……はい?(このサムライ、絶対A.R.O.A.を何かと勘違いしてるよ)」
 流石に断らなければ、と受付席から立ち上がろうとして職員が机に着いた手に力を入れようとしたその時。
「……わっちからもお頼み申す」
 と、山葵の後ろに完全に隠れていたと思われる、紫陽花模様の着物を着たおかっぱ頭の小さい女の子にひょっこりと出した頭をそのまま下げられ、職員の力〈腰〉が抜けた。

 そして、腰を抜かした職員はそのまま山葵の依頼を断り切れず、為すがままにウィンクルムを集める事となったのだった。

 後から聞いた話だが少女の名前は『鴉丸 紫〈からすま むらさき〉』、山葵の師匠『鴉丸 生姜〈からすま しょうが〉』の一人娘らしい。

解説

 ●目的
 生姜師匠の誕生日を祝う。

 ●足りない資金の援助〈参加費〉
 400Jr(一人200Jr)。

 ●宴について
 東の山奥にある『鴉丸の里』の料亭で宴は行われます。
 参加者は生姜、山葵、紫とウィンクルム達だけのようです。
 サムライ達に話し掛けたり、ちゃんこ鍋に舌鼓を打ったりして和風の料亭でごゆっくりお過ごし下さい。
 誕生日を祝う為に何か芸を披露したりして宴を盛り上げてみると面白いかもしれません。
 お酒を飲ませて生姜に稽古を申し込む事も出来るかと思います。

 ●山葵
 髷を結っていないさらさらの黒髪の好青年で身長は175cm程、長刀『月光』を腰に佩いています。
 自信満々のようですが、彼はあまり強くありません(笑)。
 矢鱈とポジティブなのですが精神力が弱く、一度落ち込むと中々立ち直れなくなります。
 女の子が好きなようです。
 酒には弱いようですが、その事に本人は気付いていません。

 ●生姜
 白髪交じりのやや長い髪を後ろで一本に結っている中年、身長は170cm程度、腰には木刀を佩いています。
 山葵の剣の師匠との事ですが、実力は高いようです、デミオーガ程度なら相手に出来るでしょう。
 山葵と似通っている所は女好きな所でしょうか。
 山葵にはやや厳しいですが、紫には甘いらしいです。

 ●紫
 礼儀正しい黒髪おかっぱ頭の可愛らしい幼女です。
 生姜の一人娘です。
 山葵の事は兄上と呼んで慕っております。

ゲームマスターより

毎度プロローグ閲覧ありがとうございます。

断ろうとしたら可愛い座敷童子風の女児に頼まれて僕はもう……みたいな?
目的としては生姜師匠の誕生日を祝う宴ですが、あまり気にせず伸び伸びと料亭の料理や東方の景色等をお楽しみ下さいませ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  山葵さんに会うのデミ・シルバーウルフの一件以来だね、元気にしてるかな?
お師匠様の生姜さんってどんな人なんだろう、会うのが楽しみ
私 誕生日会って大好きだから皆と楽しい時間を過ごせるといいな

生姜さんお誕生日おめでとうございます
山葵さん、お久しぶりです
紫ちゃん初めまして、よろしくね(微笑み)

私誕生日プレゼントに『生姜のパウンドケーキ』を焼いてきました
と、共食い!?
違うよ、私そんなつもりじゃ…!
もう、エミリオさんのいじわる!
皆の分焼いてきたからよかったら食後に食べてね

エミリオさん、お酒注ごうか?
いつか私も一緒に飲みたいな
着物姿のエミリオさん、素敵だな
ドキドキするよ…

☆使用スキル
調理
菓子・スイーツ
会話術


淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)
  生姜さんや山葵さんにお会いするのは初めてですが。
お子さんがいらっしゃるとの事ですのでその子の為にも素敵なお誕生日にしないといけませんね。

プレゼント何にしようか悩んだのですがまだ残暑も厳しいですので扇子にしてみました。デザインは男性のイヴェさんに選んでいただいたので私が選ぶより男性の好みにあってると思います。
あと娘さんにはこちらの可愛い扇子を。

ふふ、イヴェさんの好みを知ることが出来たので今度イヴェさんのプレゼントを選ぶ時の参考にさせていただきますね。

せっかくのお祝いなのに私ったら特に披露できる特技もないもので…せめてお料理をとったりお酒を注いだりそういうことでお役に立てればと思っています。




ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  【プレゼント】
ハロルド=長根付(象牙・龍の意匠)
ディエゴ=小型の革製鞄(根付とセットです)

んー…あまり食欲ないな
お話してたほうが良いっていうか

山葵さん聞いてよ…私がお酌してあげるね
ディエゴさんあっちいって

最近ディエゴさん酷いんだよ
私を放っておいて他の神人さんの心配するし
この間なんて…恋人同士に間違われたんだけど
「違う」って言うんだよ、本当の事だけど
はっきり違うって言うことないよね?

何か私ひとり訳わからないのに怒ったりしてて馬鹿みたいじゃない?
こういう事あまり考えないから頭がぐつぐつ煮えてるみたいなんだ…仕返ししたいな…

ターゲットは男性、193cm、髪は黒、筋肉モリモリ、マッチョマンのマキナだ



八神 伊万里(アスカ・ベルウィレッジ)
  もうすぐアスカ君の誕生日だし、いろいろ参考にしたい
前に褒められた浴衣、また着てみたけど反応薄いな
やっぱりキスのことまだ気にしてるのかな…

山葵さん、お久しぶりです
生姜さん、誕生日おめでとうございます
プレゼントの大小湯呑みペアセットです
これなら紫ちゃんと一緒に使えると思って
あ、前回アスカ君に釈明を受けたのでセクハラは警戒します
ってアスカ君!?おめでたい席なんだから穏便に穏便に!

…ちょっとこっち来て
どうして連れてきたと思う?私がアスカ君と一緒に居たかったから
食事がおいしくても景色が綺麗でも、アスカ君がいないと意味ないよ
私が山葵さんを…?そんなことあるわけないじゃない
え、それってもしかしてヤキモチ…?



七草・シエテ・イルゴ(翡翠・フェイツィ)
  心情
・山葵さんや生姜さんは報告書でどんな方かは伺っています。けれども折角ですから、今回を機会に少しでもお話をしながら、親しくなれればいいですね。

生姜さんの誕生日プレゼント
・わらび餅、葛餅などが入った和菓子の詰め合わせセット

行動
・華美な服装は避け、ブラウスとロングスカートを着ます。
私は皆さんや山葵さん、生姜さんのお話の聞き役をしたり、相槌を打ちながら、場の雰囲気を盛り上げましょう。
・山葵さんと生姜さんは女性がお好きだったと聞いていますね。あまり、深入りするような内容でなければ楽しくお返事しましょう。
・お料理が出たら取り分けたり、お酒が出たらお酌したりして、生姜さん達と宴を盛り上げたいと思います。



 ●天気は晴れれど、顔色は優れぬ

 いい加減、夏の暑さにも飽いてきた残暑の頃、厄介事しか運んでこないサムライに頼まれ、ウィンクルム達は東方の山奥にある鴉丸の里へと到着した。

「わぁ、綺麗な眺めですね」
 里を一望出来る場所から見える景色に『七草・シエテ・イルゴ』はほう、と感嘆の声を漏らした。
「確かに、こいつは良い景色だ……」
 『翡翠・フェイツィ』もシエテが見る景色を見て相槌を打った。
 いつもの華美な服とは違い、落ち着いた色のブラウスとロングスカートを着ているシエテと抹茶色の浴衣姿の翡翠を傍から見るとお忍びでやってきた深窓の令嬢とそのボディーガードにしか見えないのはここだけの話。

 ウィンクルム達がそうやってこの緑一色の絶景を堪能していると、こちらに青紫色の着物を着たおかっぱ頭の少女が小走りに近づいてきて。
「お、お待たせ致しました」
 と言って、ぺこりと頭を下げた。
「本日はわっちのおと……じゃなくて父上の誕生日の宴に参加していただき、ありがとうございます。早速ですがわっちが宴が催される料亭までご案内しますので着いてきて下さい」
 やや早く、舌足らずな感じはするが聞こえの良い可愛い声でそう言った後、紫はくるりと身体を反転させて来た道を戻り始めた。

「わ、わ、小さくて凄く可愛い子ですねっ!」
 先導して歩く紫の後に続きながら目をキラキラさせた『淡島 咲』は小声で隣を歩く『イヴェリア・ルーツ』に話し掛ける。
「……あぁ、そうだな」
 と頷いて、『サクも可愛いと思うが』と心の中で思い付いてしまいイヴェリアはほんのり頬が火照るのを感じ、俯き気味に歩く。

「山葵さんに会うのってデミ・シルバーウルフの一件以来だね、元気にしてるかな?」
 いつもとは違う薄桃色の着物を着た『ミサ・フルール』は同じく黒色に桜吹雪の柄の着物を着た『エミリオ・シュトルツ』に笑い掛ける。
「まぁ山葵の事だから元気にしてるとは思うけどね」
 山葵の事を思い出しながらエミリオはそう答えた。
「それにお師匠様の生姜さんってどんな人なんだろう、会うのが楽しみだね」
「ふふ、何があっても大丈夫なように用意はしてあるさ」
「……?」
 楽しそうなミサの隣でエミリオの不敵な笑みを浮かべた。

 和気藹々とした雰囲気で紫に着いて行くウィンクルム達だったが、中にはそうでない者達も居るようだ。
「前に褒められた浴衣、また着てみたけど反応薄いな。アスカ君、やっぱりキスの事まだ気にしてるのかな……」
 『八神 伊万里』は少し前に着た白地に紫の蝶柄の浴衣を着てみたのはいいものの『アスカ・ベルウィレッジ』の反応があまりない事に少し残念そうにしていた。
 しかし、実際の所は。
「(伊万里の浴衣、可愛いな……)」
 浴衣に合わせて結い上げた髪のお陰で時折覗かせる伊万里のうなじに見惚れたアスカは呆けたままここまで着いてきたらしい。

 そして最後尾を歩くのは『ハロルド』と『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』だ。
 やや元気のないハロルドの様子を見たディエゴは腹でも空かせているのだろうと思い、元気付けようと朗らかに声を掛ける。
「ハル、もう少しで料亭だぞ」
 言葉尻が少し上がり気味なのはディエゴの期待の現れなのだろう、柔らかい笑みでハロルドを励ますが。
「……」
 何やら考えこんでいるらしく俯いたままのハロルドからの返事はなかった。
「(うぅむ、今はそっとしておくか)」

 紫に着いて行く事数分、見えてきたのは中々立派な造りをした和風の料亭。
 門の前で待っていたのか山葵と生姜も歩いてくるこちらに気付き、大振りに手を振っているようだ。
「……げっ、なんでまたあいつらが!? ってここ何処だよ!?」
 ボーっと歩いていたアスカはそれ〈手を振る山葵〉に気付たようで猫耳をピンと立たせて足を止める。
「……何言ってるのアスカ君、今日は生姜さんの誕生日だって言ったじゃない」
「なっ、……えぇ?」
 思考停止してしまっているアスカは放っておいて、伊万里は挨拶をし始める。
「山葵さん、お久しぶりです。生姜さん、誕生日おめでとうございます」
「おぉ、伊万里殿。本日は師匠の為の宴に来ていただき、誠に感謝でござるよ」
「この前の嬢ちゃんかのぉ、久しぶりじゃな」
 二人に挨拶を済ませた伊万里はここまで道案内をしてくれた紫の目線と同じになるように屈み、笑顔で自己紹介をする。
「そして紫ちゃんははじめまして、私の名前は伊万里、あっちのお兄ちゃんはアスカ君だよ、よろしくね」
「よ、よろしく……です」
 面と向かうと人見知りをするのか、紫は少し俯き気味になりながらもぺこりと挨拶を返した。

 伊万里が挨拶をしているのを見てミサもエミリオの手を引きながらにこりと微笑み、挨拶する。
「生姜さんお誕生日おめでとうございます。山葵さんもお久しぶりです。紫ちゃん初めまして、よろしくね」
「お、おめでとうございます」
 楽しそうなミサの雰囲気につられてエミリオも小さく頭を下げて挨拶をした。
「ミサ殿にエミリオ殿もよくぞ参られた。本日はごゆるりと拙者達の里の料理をお楽しみくだされ」
「よろしく……です」
 挨拶を返す山葵の後ろに隠れるように紫もぺこりと頭を下げた。
「それではこのような所で立ち話もあれじゃし、早速中に入ろうかの」
 生姜にそう促され、ウィンクルム達は料亭の中へ。



 ●絢爛豪華な宴の始まり

 案内されたのは料亭の一番奥の広間。
 部屋は畳の良い匂いに包まれ、既に開けられている障子戸の向こうに見えるのは透き通るような綺麗な池のある料亭の庭だ。
 池にある鹿威しの音を背景にウィンクルム達はそれぞれ席に着くと同時に土鍋を中心にした料理の数々が運ばれてくる。
「えぇ、本日は拙者の師匠、生姜の誕生日に遠路遥々集まって頂き誠に感謝でござる。此度は無礼講、日頃の疲れ等を存分に癒して欲しいでござるよ」
 飲み物が行き渡った所で、山葵が立ち上がって乾杯の音頭を取り始める。
「では生姜師匠の53回目の誕生席を祝して……乾杯」
 そして、生姜の誕生日を祝う宴が始まった。

 コップに注がれたジュースやビールを飲み、ちゃんこ鍋をつついていく。
「……うん、美味いな」
 腹を空かせていたディエゴは一口食べる度にこくこくと幸せそうに頷いて感想を口にする。

 そして一頻り腹も膨れた所で生姜の席に近い者達から用意したプレゼントを渡そうと近付いていく。
「初めまして、今日は私達をお招き頂きありがとうございます。そしてこれを、つまらない物ですがどうぞ」
「生姜の爺さ……じゃなくて師匠さん、初めてにはなるが俺の方からも祝わせてもらうよ。おめでとさん、こいつはその気持ちだ、娘さんと一緒にと楽しんでくれ」
 先ずはシエテと翡翠、挨拶と共に二人が手渡した緑と白の包みからは蕨餅、葛餅などが入った『和菓子の詰め合わせセット』と『ドンジャラ』だ。
「シエテ殿、翡翠殿、ありがとうのォ。これは紫と貰った和菓子を食べながら遊ばせてもらおうかのォ。これからも儂らと仲良うしてくれると嬉しいのォ」
 にたりと皺の刻まれた顔で笑い掛けながら生姜はシエテの太腿に手を伸ばそうとして、隣に座る紫の視線を感じて手を引っ込める。
「何をして居るのですか父上?」
「はっはっは、何でもないぞ紫」

 シエテ達が戻った後、生姜の前まで来た伊万里は礼儀正しく礼をして。
「はい、プレゼントの『大小湯呑みペアセット』です。紫ちゃんと一緒に使って下さいね」
 小箱に入れられた湯呑みセットを手渡した。
 礼儀正しく礼をする伊万里の後ろに着いてきたアスカは生姜に怪訝そうな顔を向けながら溜め息を一つ吐いて口を開く。
「ま、まぁ娘さんに免じてお祝いはしてやるよ。おめでとう。さ、帰るぞ伊万里」
「伊万里殿にアスカ殿、ありがとう。お、紫、酒が切れたみたいなので次のを頼んできてくれんかの?」
「はい、父上」
 伊万里とアスカが席へと戻ろうとして、紫が席を立って後ろを向いた直後、するりと生姜の手が伊万里のお尻に伸び―――。
「ッ!」
 常に気を張っていたアスカが逸早くそれに気付き、生姜の腕を手刀ではたき落とす。
「何しやがるこのエロジジイ!」
「ほっほっほ、これは一本取られたのォ」
「俺の伊万里(パートナー)に手ぇ出すんじゃねぇっ!」
「あ、アスカ君!? おめでたい席なんだから穏便に穏便に!」
 威嚇する猫のようなアスカを宥めながら今度こそ伊万里とアスカは自分の席へと戻っていった。

「初めまして、淡島 咲と言います。今日は誕生日おめでとうございます」
 次にやってきた咲は笑顔で一礼する。
「イヴェリア・ルーツだ。これは俺とサクからの気持ちだ、受け取ってくれ」
 咲が挨拶するのに合わせてイヴェリアも頭を下げ、用意した『扇子』を渡す。
「これは助かるのう、最近暑くて堪えて居ったんじゃよ。咲殿、イヴェリア殿、ありがとうのォ」
 貰った扇子をパタパタと扇ぎながら生姜は笑顔で礼を言った。
 他にもプレゼントを渡す人が居るので特に長話はせずに席を立っていた紫と入れ変わるように自分達の席に戻りながら咲は嬉しそうにイヴェリアに微笑み掛けた。
「生姜さん喜んでくれて良かったね。イヴェさんに選んで貰って良かったよ」
「プレゼントは俺の好みで選んだのだが、まぁ……喜んで貰えたなら何よりだな」
「ふふ、イヴェさんの好みも知ることが出来たので今度イヴェさんのプレゼントを選ぶ時の参考にさせていただきますね」
「それは……楽しみにさせて貰うとするよ」
 フッと柔らかい笑みでイヴェリアはそう返した。

「私、誕生日プレゼントに『生姜のパウンドケーキ』を焼いて来たんです。紫ちゃんと一緒に食べて下さい」
 そう言ってミサは持って来た包みを生姜に手渡す。
「儂も紫も甘味が好物でな、ありがたくいただかせてもうとするよ」
 生姜はそう言いつつ、紫の視線がケーキに向いている間にミサの方に手を伸ばす。
「へぇ、生姜に生姜のケーキなんてね、共食いさせるつもりなの? ミサも成長したねぇ、ふふっ」
 しかしエミリオが、にやりとミサをからかうような笑みと共にミサと生姜の間に入り、生姜の手を退ける。
「と、共食い!? 違うよ、私そんなつもりじゃ…!」
 慌てて弁解するミサの様子に満足したエミリオはミサの頭をポンポンと撫でて、後ろからミサを抱きしめる。
「ふふっ、冗談だよ冗談(残念だけど俺のミサに触れていいのは俺だけだよ)」
「もう、エミリオさんのいじわる! 皆の分焼いてきたからよかったら食後に食べてね」
 そう言ってミサが焼いて来たケーキを皆に配りに行ったのを見て、改めてエミリオは生姜の前に戻り。
「それじゃあ俺は誕生日プレゼントとお詫びを兼ねて『剣舞』を披露しようと思う」
「ほぅ、それは楽しみじゃのォ」
 にやり、にたり、と二人は笑い合ってからエミリオは少し離れてしゃらんと双剣を抜き剣舞を披露し始める。
 くるりくるりと流れるような剣舞〈ソードダンス〉は見事と言う他なかった。
 そして一頻り披露を終えると一礼をして自分の席へ戻っていった。

「んー、なんでだろ……今日はあんまり食欲無い、な」
 いつもなら喜んで食事をするハロルドなのだが、眉をハの字にさせ元気がない。
「俺達の番が来たみたいだ、行くぞハル」
「ぁ、うん」
 ディエゴにそう言われ、持って来たプレゼントを持ち、ハロルド達は生姜達の所へと向かう。
「誕生日おめでとうございます」
「誕生日おめでとう。俺達からは長根付と小型の革製鞄を用意してきた。どうか受け取って欲しい」
 言いながら龍の意匠が彫られた象牙の長根付と革製鞄を手渡す。
「ほぅ……これはいい物じゃなァ。ありがたく使わせてもらうとしようかの」
 プレゼントを渡し終え、帰ろうとするディエゴの背中を見ながらハロルドはハッと何かを思い付いたようで静かにちゃんこ鍋をつついている山葵の方に視線を向けた。
「そうだ、良い事思いついたよ」
 思い付くなりささっと山葵に近付いたハロルドは山葵に耳打ちをする。
「ハロルド殿? どうしたでござる?」
「山葵さん協力して! 『はみれす』の唐揚げ丼奢るから! ディエゴさんを無視して二人でお喋りしてよう。ディエゴさんも私のもやもやした気持ちを分かるべきなんだよ、うん」
 ハロルドが山葵に寄り添っているのを見つけたのかディエゴは山葵に寄り添うハロルドに声を掛ける。
「ハル―――」
「ディエゴさん、あっち行って。私は山葵さんに話があるの……あ、お酌は私がしてあげるね」
「お、これはかたじけないでござる」
「む、そうか……」
 ハロルドに追い払われたのは初めてのディエゴは少し困惑しながらも自分の席へと戻り、一人で用意された酒をちびちびと呑む事に。
「それで、どうしたでござるか?」
「うん、最近ね。ディエゴさんが酷いんだよ。私を放っておいて他の神人さんの心配するし、この間なんて恋人同士に間違われたんだけど「違う」って言うんだよ、本当の事だけど、はっきり違うって言うことないよね?」
「うむ、そうでござるな……」
「何か私一人だけ訳分からないのに怒ったりしてて何だか馬鹿みたいじゃない? だから今日はこうやって山葵さんと仲良くさせてもらうね」
「ふむん、拙者としては問題はないのでござるが……それならばハロルド殿はもっと拙者に近寄った方がいいと思うのだが?」
「それもそうだね」
 更に寄り添うようにハロルドが近付くと山葵はゆっくりとハロルドの肩に撓垂れ掛かるように倒れ込もうとして―――間に入ったディエゴに止められる。
「ディエゴさん……」
「山葵、酒を持って来たぞ。ほら、飲め飲め」
 ドン、と片手に持った一升瓶を隣に置いて座り、山葵の空の盃に酒を注いでいく。
「む、注がれれば飲まざるを得ないでござるな」
 山葵は受けた盃をぐいっと傾けて、そのまま横に倒れた。
「山葵さん!?」
「(どうやら想像以上に下戸のだったようだが、まぁ丁度良いだろう)山葵は起こさないでくれ死ぬほど疲れてるみたいだからな。その、なんだ……ハル、あまり山葵とばかり仲良くするなよ……」
「(これってディエゴさん、ちょっと怒ってるのかな……?)う、うん」

 席に戻ったアスカは
「……その、騒いで悪かった。なぁ伊万里、どうして山葵の仕事ばっかり受けたりするんだ? 若しかしてあいつ〈山葵〉の事が好きなのか?」
「私が山葵さんを……? そんな事ある訳ないじゃない。どうして私がここに連れてきたと思う? 私がアスカ君と一緒に居たかったから、食事が美味しくても景色が綺麗でもアスカ君が居ないと意味ないんだから……」
「そ、そうだったのかぁ……それならそうと早く言ってくれれば良かったのに。と言うか、それなら次は二人が良いぞ。あ、あと俺以外の前でそんな可愛い格好するの禁止だ禁止!」
 一気に気が抜けたのかアスカは大きな溜め息を吐いた。
「え、アスカ君それってヤキモチ……?」
「べっ、べべ別に妬いてなんかねーよ!」

「生姜の爺……師匠さん、呑んでるかい?」
 そう言ってディエゴから受け取った一升瓶を抱えて翡翠が生姜の席の方へと戻ってきた。
「お、翡翠殿はイケる口かの?」
 翡翠を見る片目を見開いた生姜は嬉しそうにそう問い掛ける。
「まぁ人並みにはね」
 その問に翡翠はにやりと笑みで返した。
「それではお酌は私が……」
 翡翠と一緒にやってきたシエテが一升瓶を持って二人の盃に酒を注いでいく。
「うむ、美味いのう」
「あぁ、美味い」
 二人は幸せそうにシエテが注ぐ酒を交互に飲み干していった。

 その隣では紫と咲が楽しそうにちゃんこ鍋をつついている。
「咲お姉ちゃんこの鶏団子凄く美味しいよ」
「ふふふ、そうですね。紫ちゃん、こっちの白菜も美味しいですよ」
 和気藹々と鍋をつつく様は宛ら姉妹のようだ。
 そんな姉妹のような二人をすぐ近くでイヴェリアが眺めている所を見ると、危なっかしい姉妹を見守る兄のようで大変微笑ましい雰囲気である。
「(サクが楽しそうで何よりだ)」
 咀嚼する鶏団子を味わいながらイヴェリアからも自然と笑みが溢れていた。

 全員にパウンドケーキを配り終えたミサと同じく剣舞を終えたエミリオは静かに自分の席に着いた。
「エミリオさん、お疲れ様。とっても格好良かったよ」
「ありがとうミサ」
 エミリオはフッと口元を緩めた笑みを向ける。
「エミリオさん喉乾いたでしょ? お酒注ごうか?」
「うん、それじゃあ少し貰おうかな」
「(うわぁ……着物姿のエミリオさん、素敵だなぁ。なんだかドキドキするよ
……)」
 着物姿のエミリオの言い様のない艶っぽさにミサは見惚れてしまう。
「……ミサ、ミサ? 溢れるよ」
 そのままお酌をしていた所為で並々と注がれたエミリオの盃からお酒が溢れてしまい、エミリオの太腿を濡らす。
「わわ、ごめんなさいっ!」
「全く、お酌をしながらボーっとするなんて一体どうしたんだミサ?」
「な、なんでもない、なんでもないよっ!」
 エミリオに見惚れていたなんて本人に言える筈もなく、首をブンブンと振って曖昧にするしか無かった。



 ●宴も酣

 酒や鍋の飲み食いを終え、宴も酣といった所だが楽しい宴はいつかは終わる。
 終わりなき宴はただの日常となり、それは最早宴ではなくなる。

「本日は父上の為にお集まり下さり誠にありがとうございました」
 料亭を出て、最初に口を開いたのは紫だった。
 小さいながらもしっかりとした様子に、宴の終わりの寂しげな空気は雲散し、ウィンクルム達も全員笑顔になる。

 本日の宴はこれでお終い、料理や景色、雰囲気や交友を深められたウィンクルム達は全員満足気に帰路へと就いた。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター うち
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月22日
出発日 08月28日 00:00
予定納品日 09月07日

参加者

会議室

  • [10]淡島 咲

    2014/08/25-16:08 

    こんにちは、遅れて参加させていただきます。
    淡島咲とパートナーのイヴェさんです。よろしくお願いします(ぺこり)

    以前の報告書を読ませていただきましたが…ふふ、憎めないというか面白い人達のようですね。
    娘さんの為にもきちんとお祝いできればなぁと思っています。

  • [9]ハロルド

    2014/08/25-13:29 

    ミサ、シエテさんお久しぶり
    プレゼントなる程です…自分たちもスキルで何か芸できないかな

    今のところは根付と革の小さい鞄を考えてます。

  • [8]ミサ・フルール

    2014/08/25-05:07 

    ミサ・フルールです。
    ディアボロのエミリオさんと一緒に参加します。
    ハルと伊万里ちゃんは久しぶり!
    シエテさんはご一緒するのは初めてですね。
    皆さんどうぞよろしくお願いします。

    私はプレゼントに『パウンドケーキ』をエミリオさんは『剣舞』を披露しようとしているみたい。
    素敵な誕生日会にしようね!

  • 七草・シエテ・イルゴと申します。
    精霊はハードブレイカーの翡翠・フェイツィです。
    伊万里さんはこちらでは初めまして、ハロルドさんは、動物園以来ですね。
    今回どうぞよろしくお願いします。

    私は山葵さんや生姜さんとは初対面なので、報告書を通してしかわかりませんが、
    生姜さんには和菓子セット(わらび餅、葛餅など)を用意したいと思っています。

  • [6]ハロルド

    2014/08/25-00:38 

    うん、良いよ
    私も呼び捨てしちゃってるから。

    プレゼントか…私はどうしようかな?
    やっぱり戦場に行くことだし、お守りとかかな…

  • [5]八神 伊万里

    2014/08/25-00:27 

    あっと、書き忘れが…
    誕生日と言うことなので、生姜さんには、
    『大小湯呑みペアセット』をプレゼントする予定です。
    親子で使ってもらえるかなと思って。

    お久しぶりです、ハロルドさん…ええと、呼びづらいのでハルさんって呼んでもいいですか?
    今回もよろしくお願いしますね。

  • [4]ハロルド

    2014/08/25-00:24 

    ハロルドです、よろしくお願いしますー
    イマリ、久しぶりだね

    頑張ります(色々

  • [3]ハロルド

    2014/08/25-00:17 

  • [2]八神 伊万里

    2014/08/25-00:17 

    あっ…すみません、パートナーが失礼しました。
    八神伊万里です。パートナーはそこで項垂れているアスカ君です…

    ええと、誕生会には引きずってでも連れて行きますので、よろしくお願いします。

  • [1]八神 伊万里

    2014/08/25-00:16 


PAGE TOP