【夏祭り・陽炎の記憶】忘れ去られた神様(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 紅月ノ神社付近で、突然の嵐が吹き荒れていました。
 そんな中、テンコ様からウィンクルム達へ招待状が届いたのです。

『ウィンクルムの皆さん

 いつも任務ご苦労様なのじゃ。
 生憎の天候で、お祭りを楽しんで貰う事が出来ず、申し訳なく思っておる。
 そこでじゃ。
 ちょっとした時間旅行で、過去のお祭りを楽しんで貰おうと考えた。
 100年前の世界のお祭りじゃ、面白そうだろう?
 参加費は、一人につき150Jrじゃ。
 参加したい者は、わたしの所へ来ておくれ。
 待っているぞ。』
 

「キタキタ」
 神社へ集まって来たウィンクルム達を眺め、テンコ様はにんまりと微笑みました。
「作戦成功だね!」
 テンコ様の幼馴染で妖狐シバが、楽しそうに耳をピコピコさせます。
「人聞きの悪い事を言うんじゃない」
 テンコ様はびしっとシバを指差します。
「『時間旅行でお祭り』っていうのは、本当の事なんだから」
 窓ガラスを叩く雨を眺め、テンコ様は僅かに表情を曇らせたのでした。


「おほん。皆、よく来てくれたのじゃ」
 テンコ様とシバは、ウィンクルム達を見回します。
「これから、諸君にはこの1000年鏡で時を遡り、100年前の世界へ行って貰う」
 テンコ様は、ウィンクルム達の前に大きな鏡を示しました。

 1000年鏡とは、時間を遡れる特殊な鏡です。
 この鏡に姿が映る妖怪は、まだ心が悪に染まっておらず、過去の道を踏み外した事件を解決できれば、更生できる可能性が残っているといいます。

「100年前のとある小さな祠の前で、祭りを行って欲しいのじゃ」
 祭りを行う?
 ウィンクルム達は首を傾けます。
「その祠には、神様が宿っていると言われておる。が、実際に住み着いているのは妖怪なんじゃよ」
「『雨降小僧』っていう妖怪なんだよ」
 シバがそう付け足しました。
「実は、今のこの雨、雨降小僧が降らしておるのじゃ」
 テンコ様は窓の外を吹き荒れる雨を見遣ります。
「その祠に住む雨降小僧は、恵みの雨を降らせる神様として、近隣の住人に親しんでおられたそうだ」
「でね、1年に一度、必ず、祠の前でお祭りをしていたんだって」
「祭りといっても、祠の前で飲み食いして楽しく騒ぐという、ささやかなものだったらしい」
「当時祠を管理していた、近所のお寺の住職さんが取り仕切っていたんだ。でも……」
 シバはそこで眉を下げました。
「100年前、そのお祭りの前にお寺の住職さんが、病気で亡くなってしまって……跡継ぎが居なかった寺は廃寺に。
 祭りは行われなくなっちゃったんだ」
「雨降小僧は、100年間ずっと祭りが開かれるのを待っていたらしい。けれど、終ぞ祭りは行われなかった」
「それが悲しくて、泣いているんだ」
 外で雨風が唸りを上げます。
 テンコ様とシバは、ウィンクルム達に頭を下げました。
「どうか、100年前の世界へ行き、祭りをして欲しい。そして、雨降小僧に教えてやって欲しいのだ。もう住職は居ないと」


 ※


『さみしいよ、さみしいよ』
 祠の影で、中骨を抜いた和傘を頭に被り、提灯を持った小さな影が泣いていました。

解説

1000年鏡で時を遡り、雨降小僧の涙を止めるため、お祭りを行っていただくエピソードです。

100年前の世界に滞在できる時間は、1時間です。
時間切れになった場合は、自動的に現在へ強制送還されます。

スタートは、祠の前となります。
時刻は20時過ぎ。辺りは暗く、空には星が煌めいています。
祠の周囲は小さな森となっており、人里離れた静かな場所です。
(お寺のある近所の村までは、徒歩で15分程掛かります)
皆さんには、テンコ様とシバが用意した、お弁当や飲み物、お菓子が事前に配られています。
祠の前で、賑やかに過ごしていただき、雨降小僧を楽しませてあげてください。

テンコ様達が用意したお弁当などの代金として、一人当たり150Jr掛かります。(パートナーと合わせて300Jr)

上記の他に、持ち込みも歓迎いたします。
その場合は、持ち込みたいものを明記願います。

雨降小僧はとても恥ずかしがり屋なので、基本、人前には姿を見せません。
が、彼が喜ぶと、彼の和傘に付いている鈴が音を立てて喜んでいると分かります。(この情報は事前にテンコ様より知らされています)

雨降小僧は、賑やかなのが好きなので、パフォーマンスをしても喜ばれるでしょう。
また、恋愛事も大好きなので、皆様がイチャイチャする程、雨降小僧は嬉しくなります。

※祭りを取り仕切っていた寺の住職は、すでに病気で他界しています。
 彼を助ける事は出来ませんので、あらかじめご了承ください。

※同じ妖怪に対して、時間旅行出来るのは一回きりとなります。

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『お祭りの後半にはもう切なくなってくる』方の雪花菜 凛(きらず りん)です。

時を遡り、問題解決いただくエピソードです。
少し変則なハピネスエピソードとなりますが、基本はお祭りでイチャイチャして頂けたらと思います。

皆様のお力で、是非、雨降小僧を楽しませて頂き、仲良く過ごして頂けたら幸いです。

皆様の素敵なアクションをお待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)

  ○服装
浴衣

○持ち物
打ち上げるタイプの花火

○行動
お祭りと聞くと何だか心が弾みますわねっ
美味しい食べ物!鮮やかな花火!リンゴ飴!

そして、そんな楽しい気持ちを大勢で分かち合えるのが
お祭りの醍醐味ですわ

雨降小僧さんと一緒に皆で楽しめるよう
頑張りましょうね、サフランっ

○一般スキル:植物学使用

100年前の世界に到着しましたら
祠の周囲や頭上の木々の具合を確認

火事にならなそうな位置を考えて
打ち上げ用の花火を用意します

お祭りが始まったらお弁当を食べつつ
タイミングを見て花火を打ち上げましょう
近くの人も遠くの人も皆が楽しめますようにっ

もちろん自分達もめいっぱい楽しみますわっ
お弁当やお菓子も美味しそうですし、ね!


月野 輝(アルベルト)
  ある日突然、大切な人や大切な物が無くなっちゃうのは辛いわね
もういないんだって判れば乗り越える事も出来るけど誰もそれを教えてくれなかったら寂しさしか残らない
少しでも慰めになれればいいなと思うわ

■服装
紺地に朝顔模様の浴衣

■祭り
・携帯用音楽プレイヤーに祭囃子を数曲DLしておく
・横笛持参
・祭囃子を流しつつ、アルと合わせて横笛を吹く

私達の演奏だけじゃ賑やかさが足りないと思うのよね
村の方まで音が響くといいのだけど

・時々演奏をプレイヤーに任せて盆踊りを踊る

・帰り際
悲しいけれど住職様はもういらっしゃらないの
だから100年後に紅月ノ神社に来てね
一緒にお祭りしましょうと話しかけ

・帰ってから
雨降り小僧さん、見てる?



日向 悠夜(降矢 弓弦)
  ●心情
降矢さん、何時になく気合いが入ってるね
…よし!私も頑張るよ!

●服装
旅装束の着物

●所持品
鈴を付けた和傘

時間が無いから村まで走るよ!
村に近づいてきたら息を整えよっか

村に着いたら旅人の振りをしてお祭りについて聞くよ
村で一番偉い人と話せれば良いんだけれど…

良い返事を貰えなくても…存続を考えてくれればいいな
話終わったら持っている傘を置いて祠へ戻るよ
雨降小僧が鈴の付いた和傘を持っているのは村人も知っている可能性が高いからね…何時の日かの切欠になってほしいな
「お祭りをしてくれるのを100年先も、神様は…雨降小僧は待ってるよ」

あはは、走り回ってお祭りにはあんまり参加できないけど…楽しい体験になると思うな



アマリリス(ヴェルナー)
  待ちぼうけはつらいですものね
少しでも慰めになれればと

星は出ているそうですが念のために明かりの用意をしておきます
花火もあるので雰囲気を壊さないよう提灯持参

わたくし達はお祭りの一参加者として楽しみましょうか
食べ物も飲み物も準備してもらって他の方の催し物もありますもの
楽しもうと意識せずとも素敵な時間を過ごせるはずですわ

そういえば雨降小僧は恋愛事も好きだとか
ヴェルナーはできます?イチャイチャしているフリ
……(わたしの事何だと思ってるのかしら
いるじゃありませんの、目の前に

隣に座って食べ物を取り分けてにっこり
まあ、恥ずかしがらないでくださいませ(楽しい
食べさせてあげましょうか?
(小声で)フリがばれますわよ


クリスタル・スノーホワイト(キース・ゴルドリオン)
  えーっと、踊りを踊るのが定番だってキースおじさまが言ってましたけど
踊りはへたっぴなので、歌を歌う。ですよ。

ボク……じゃないや、私の村にあった雨ふりをお祈りする歌とか
畑で作業をするときにうたう、楽しい歌です。

もしもチリチリと聞こえる鈴の音の回数が多くなったら
雨降小僧さんに、少し住職さんのことや、今までのお祭りのことを
聞いてみたいと思うです。

「かみさまは、ここにずっといるんですよね?今までのお祭りと今日のお祭り
どっちが面白いです?」
比べられないという言葉が返ってきたら、笑って
「比べられないくらい、楽しくて良かったです!」

住職さんの話が出たら、その人の話を聞いてみる
「住職さんて、どんな人でしたか?」



●1.

 濃紺の空に、月と星が輝いている。
 アマリリスとヴェルナーの持った提灯の明かりに照らされて、月野 輝は携帯用音楽プレイヤーのスイッチを入れた。
 明るい祭囃子の音楽が、風に乗って流れ出す。
「さぁ、お祭りの始まりよ」
 輝の唇が、横笛の吹き口にそっと添えられる。紺地に朝顔模様の浴衣が、夜風に僅かに揺れた。
 柔らかい音色が、レコーダーの音に混じり夜空を駆ける。
 黒地の浴衣姿のアルベルトもまた、横笛を構えると、輝の音に寄り添うように低く艶めいた音色を奏でた。
 二人の笛の音が、優しく夜の空気を震わせる。
「きれい……」
 クリスタル・スノーホワイトは、輝達の音に瞳を輝かせ、夢中でその音を追った。
 祭囃しの音は、クリスタルの故郷の音楽と似ている気がした。
 例えば、雨を祈願して歌う歌とか、畑で作業をする時に歌っていた、そんな楽しい歌。
 その彼女の隣で、キース・ゴルドリオンがトンコリと呼ばれる五弦琴に指をかけた。
 事前にテンコ様から借りてきた弦楽器だ。
 木製の胴体をチェロのように立てて演奏する。
 温もりのある澄んだ音が、祭囃しに更に華を添える。
 クリスタルは誘われるように、すぅっと息を吸い込むと、その音へ歌を乗せ始めた。

 チリン。

 微かに聞こえた笛の音に、アマリリスとヴェルナーは顔を見合わせる。
 耳を澄ますと、更に鈴の音が、チリンチリンと連続して鳴った。
「どうやら、気付いていただけたみたいですわね」
 アマリリスは、演奏しているウィンクルム達に身振りでそれを伝える。
 輝達は頷き合い、音へそれぞれの想いを乗せた。

(ある日突然、大切な人や大切な物が無くなっちゃうのは辛いわね)
 輝は、チクリと痛む胸を感じながら、笛の音で語りかけた。
 その痛みは、自分も知っているものだから。
(もう居ないんだって判れば、乗り越える事も出来るけど……誰もそれを教えてくれなかったら、寂しさしか残らない)
 それはどんな孤独だろう。
(少しでも慰めになれればいいなと思うわ)

 アルベルトはチラリと輝を見遣る。
 彼女が考えている事は、大体分かった。
 自分の痛みと重ね合わせているだろう事も。
 ならば、自分はその想いに、そっと音を重ねよう。
 せめて、痛みが和らぐように。

 クリスタルは歌う。
 懐かしい歌を。
 少しだけ過去を思い出して、胸を叩くような悲しみも浮かんでくるけれど。
 でも大丈夫。
 あの時の彼の言葉は、この胸に残っていて。
 今も響いてくる優しい弦の音と共に、暖かい力をくれるから。
 その言葉を、このかみさまにも届けたい。そう思った。

 歌うクリスタルを眺め、キースは瞳を細める。
 明るい声の、よく通る歌声。
 届け。
 100年の孤独を晴らすんだ。

「素敵な音色ですわ……!」
 祠の周囲や、頭上の木々の具合を確認しながら、浴衣姿のマリーゴールド=エンデはほぅっと感嘆の吐息を吐いた。
 チリンチリンと鳴る鈴の音の回数も、段々増えてきた気がする。
「私(わたくし)達も負けてられませんわっ。頑張りましょうね、サフランっ」
 ぐっと拳を握ってパートナーを振り返ると、同じく浴衣着用のサフラン=アンファングは、丁度地面にしゃがみ込んだ所だった。
 二人は、花火を打ち上げるための場所を探している。
「この辺りでいーんじゃないカナ。ここなら、木にも当たらないデショ」
 手招きするサフランに、マリーゴールドは歩み寄り、隣にしゃがんで一緒に周囲を見渡す。
「サフラン、ちょっと待っててくださいなっ」
 大きく頷いたと思ったら、マリーゴールドは立ち上がり、祠の方向へと駆けて行った。
「少しだけ、近付かせてくださいね」
 マリーゴールドは祠にお辞儀すると近寄り、サフランが居る方向を見遣る。
 それから手で大きく丸印を作り、走って戻ってきた。
「祠からもバッチリでした! ここにしましょうっ」
「リョーカイ。ご苦労サマ」
 サフランは立ち上がると、ポンとマリーゴールドの頭に手を乗せる。
「じゃ、設置しますか」


●2.

「あまりお祭りは楽しめないかもしれないけれど……悠夜さん、着いて来てくれるかい?」
 降矢 弓弦のその言葉に、日向 悠夜が反対する理由は何一つ無かった。
 そんな訳で、旅装束の着物姿の二人は、夜道を駆けている。
 手に持った鈴を付けた和傘が、チリンチリンと音を鳴らす。
「悠夜さん、こっちだ」
 道に当たりを付け、弓弦が悠夜の手を引いた。
 よく踏み固められた道は、人がいつも通る事を示している。
 果たして、二人の眼前に家の明かりらしきものが見えて来た。
「息を整えよっか」
 手を握り返して悠夜が声を掛けると、弓弦は歩調を緩めて深呼吸をする。
 焦る気持ちを抑えて、大きく息を吸い込むと思考がクリアになっていく気がした。
(失われた祭り……それを失われたままにするだなんて、僕にはできない……!)
 そのために、出来る事をする。
「行こう、降矢さん」
 悠夜の微笑みに後押しされるように、二人は村へと足を踏み入れた。

 パチッ。

 暗い中、華やかな火花が視界に入る。
「だぁれ?」
 村の入口は広場になっており、そこで数人の子供達が線香花火を楽しんでいた。
 旅装束な二人に、興味津々といった視線を向けてくる。
「カミサマだ!」
 子供の一人が、悠夜が持っていた和傘を指差した。
「ホントだ。カミサマと同じだ」
 子供達の言葉に、悠夜と弓弦は顔を見合わせる。
「コラ! お客人に失礼でしょ!」
 子供達を叱りながら、一人の女性が二人の前にやって来た。
「旅の方かい? 生憎とこの村には宿屋なんて気の利いたものはないよ」
「僕達は、お祭りに参加する為に来たのです」
 弓弦は、悠夜の持つ和傘を示す。
「恵みの雨を降らせる神様を称える小さなお祭りです。ご存知ですか?」
「あー……寺の住職様が取り仕切っていたヤツだね」
「知ってる!」
「すごく楽しかったの!」
「今年はないって聞いて、寂しいの!」
「コラ、静かにしな!」
 騒ぐ子供達に怒鳴り、女性は渋い表情をした。
「残念だけど、住職様は亡くなって、お祭りはもうないよ」
 ぐっと拳を握り締め、弓弦は口を開く。
「僕達は、以前お祭りに参加した事があります。とても温かい素敵なお祭りだったのに、無くなるのは勿体無いと思うのです」
「そうは言われてもねぇ……全て住職様が取り仕切って、参加者は子供ばかりだったんだ。どんな事をしてたのかも、私達は知らないんだよ」
 女性は困ったように眉を下げる。
「ならば、お願いします。この村の村長さんがいらっしゃるのなら、お話をさせて貰えませんか?」
 弓弦と悠夜は、二人揃って頭を下げた。


 レジャーシートを敷いて、テンコ様の用意した弁当を広げ、アマリリスは笑顔でヴェルナーを見た。
「雨降小僧は恋愛事も好きだとか。ヴェルナーはできます? イチャイチャしているフリ」
「なるほどイチャイチャ……イチャイチャ!?」
 アマリリスの言葉を納得顔で復唱して、ヴェルナーはハッと固まる。
「ええ。イチャイチャ」
 にっこり微笑むアマリリスを見つめ、ヴェルナーの顔がみるみる赤くなった。
「わ、私には荷が重過ぎると思いますが、それが雨降小僧のためになるのならば……」
 コクリと頷く。
 100年も待ち続ける。
 誰のせいでもないというのに悲しい話。
 その孤独を癒せるのならば、協力しないという選択肢はない。
「それで……私は誰とイチャイチャすればよろしいのでしょうか?」
「……」
 真顔で問い掛けた来たヴェルナーに、今度はアマリリスが停止する。
(わたしの事何だと思ってるのかしら。居るじゃありませんの、目の前に)
 けれど、そんなヴェルナーの鈍感さには、ちょっぴり慣れてきているアマリリスだ。
 アマリリスは素早くヴェルナーの隣に移動すると、お弁当箱からタコさんウインナーを箸で持ち上げる。
「食べさせてあげましょうか?」
「え!?」
 口元に持って来られたタコさんウインナーと、アマリリスを交互に見つめ、ヴェルナーが耳まで紅に染まる。
「まあ、恥ずかしがらないでくださいませ」
「そ、その。あの。私にこの役は恐れ多い……!」
 ヴェルナーの視線が助けを求めて彷徨う。
 丁度通りがかったサフランと目が合った。
「さ、サフラン様!」
「あーイマトッテモイソガシイカラ」
 サフランは被せるようにそう言うと、にっこりと手を振る。
「ガンバッテ」
「ふぁいとですわっ」
 何故かマリーゴールドにも応援された。
 チリン。
 鈴の音も聞こえた。
「フリがばれますわよ」
 耳元でアマリリスが囁く。
「……」
 ヴェルナーは覚悟を決めて、タコさんウインナーを見た。
「い、イタダキマス」
 チリン。
「美味しいですか?」
「ハイ。とっても美味しいデス」
 カチコチになりながら、ヴェルナーは笑顔を作ったのだった。


●3.

 お祭りといえば、盆踊り。
 暫し演奏を休み、輝とアルベルトは祭囃子に合わせて踊っていた。
 優雅な振り付けの穏やかな動きの中に、凛とした体捌き。
 二人を中心に夜の空気が流れて、浴衣の裾を揺らす。
 チリン、チリン。
 楽しそうな鈴の音も響いていた。
(何でだろう? 凄くアルと息が合ってる気がする)
 盆踊りといえば、有名な踊りがある一方、各地方で特色もあったりする。
 輝が踊っているのは、比較的有名なものではあるのだけども、それにしてもアルベルトはぴったりと彼女に合わせていた。
 それが不思議で仕方がない。
「あっ……」
 考え事をしていたせいで、輝の草履が小石に引っ掛かった。
 グラリと傾く身体に思わず目を瞑った瞬間、温かな腕が彼女の身体を支える。
「しっかり者で通ってるはずなのに、何故こんな何もない所でこけるのでしょうね」
 耳元で笑いを含んだ声がした。
 アルベルトが、輝の身体を支えている。
「……!」
 輝は自分が耳まで赤くなった事を自覚しつつ、不思議な感覚に首を傾けた。
(何か前と違う……)
「耳まで真っ赤にして、そんなに恥ずかしかったんですか?」
 追い打ちを掛けるように面白がっている声が聞こえても、少しも嫌じゃない。
 以前の自分なら、慌てて言い返している所なのに……。
「気を付けてくださいね。輝は存外ドジなようですから」
「わ、悪かったわね」
 身体を離してから、輝はアルベルトを見上げ、ぼそっと呟く。
「ありがとう」
 驚いたようにアルベルトが軽く目を瞠った。
「おや、素直ですね」
「『溜め込まないで』って、言ったのはアルよ」
 チリン、チリン!
 澄んだ鈴の音が響く。


「ボク……じゃないや、私、踊りはへたっぴなので、歌を歌う。ですよ」
 踊る輝達を少し眩しそうに見つめて、クリスタルは歌う。
 キースもまた、クリスタルの歌に併せて弦をかき鳴らす。
 覚えやすい歌のフレーズを繰り返し、雨降り小僧も歌えるように。
 チリン。
「あ……」
 鈴の音に混じり、微かに自分のものではない歌声が、確かに聞こえた。
 クリスタルの声に、喜びが溢れる。
 弦を奏でるキースの口の端が持ち上がった。
「かみさまは、ここにずっといるんですよね?」
 一曲歌い終え、クリスタルは恐る恐る祠に問いかける。
 チリン。
 返事をするように、鈴の音が鳴った。
「今までのお祭りと今日のお祭り、どっちが面白いです?」
 チリン。
「今までのほうがよかったです?」
 チリン、チリン!
 否定するように激しく鈴が鳴る。
「今日のお祭りのほうが?」
 チリン、チリン!
 再び否定するように激しく鈴が鳴った。
「比べられない、です?」
 チリン!
 肯定するように明るい音色がした。
「比べられないくらい、楽しくて良かったです!」
 チリン!
 クリスタルは満面の笑顔を見せ、キースはポンポンとその頭を撫でたのだった。


●4.

「お祭りといえば、美味しい食べ物! 鮮やかな花火! リンゴ飴! ですわねっ」
 下準備を終えたマリーゴールドとサフランは、アマリリス達と一緒に、レジャーシートの上でお弁当を楽しんでいた。
 祭囃子とクリスタル達の演奏を聴きながら、輝達の盆踊りまで見れて、贅沢な気分だ。
「ヤダ、マリーゴールドサンッタラ。タベモノガフタツモハイッテマスヨー」
 鯵の竜田焼きを口に運びつつ、サフランが笑う。
「楽しい気持ちを大勢で分かち合えるのが、お祭りの醍醐味ですわ」
 マリーゴールドは少しも気にしていない様子で、玉子焼きを手に力説した。
「マリーゴールドは祭りも好きなんだな」
「お祭りと聞くと何だか心が弾みませんかっ?」
 輝くような笑顔のマリーゴールドを眺め、サフランは思う。
(恋花祭の時もそうだったけれど、うずうずワクワクしっぱなし)
「花より団子と言いますが、マリーゴールドは花も団子もみたいだな」
「うふふ、どちらも捨て難いですもの!」
「あ、俺、そのおかず食べたい」
 マリーゴールドの弁当を覗き込むと、サフランはひょいっと佃煮を攫って行く。
「では、サフランのも頂きますわねっ」
 マリーゴールドはお返しとばかりに、切干大根をサフランの弁当箱から取った。
 二人で交換したおかずを食べて和む。食べながらサフランが口を開いた。
「花火の点火は俺がやるからネ」
「え?」
「ソワソワシテイテキケンデスカラネー」
 驚いたように瞬きする彼女に、サフランはにっこり微笑んだ。
「心配してくれるんですか?」
「……そ、俺だって、ちょっとは心配するんですよー」
 ちょいとマリーゴールドの額を人差し指で押して、サフランは笑う。
「そろそろ頃合いカナ?」
 一曲終わったタイミングで、サフランが立ち上がった。
「皆さん、花火を上げますわ!」
 マリーゴールドも立ち上がり、輝やクリスタル達へ声を掛ける。
 サフランは、設置していた花火の点火装置へ歩み寄ると、手早く点火した。
 そして、マリーゴールドの隣に戻ると、一緒に空を見上げる。

 ポン! ポン!

 弾けるような音と共に、夜空に大輪の華が咲いた。


「仰られる通り、お祭りを待っている神様が居るのなら、続けなければならないでしょう。
 それに、このままだと亡くなった住職様にも申し訳ない」
 村の村長だという男性は、弓弦と悠夜の嘆願にそう答えた。
「では……」
「私が責任を持って、祭りが続けられるようにしましょう」
「有難う御座います!」
 弓弦と悠夜は深々と頭を下げる。
 二人の真摯な想いが届いたのだ。
 その時、南の空に、明るい光が燦めいた。
「あれは……花火?」
「私達の仲間が、先にお祭りをしているんです」
 驚いている村長に、悠夜は微笑む。
「花火! お祭り! 早く行こうよー!」
 外から村の子供達の声が聞こえた。弓弦は瞳を細める。
「僕達が案内します。行きましょう」


●5.

「悠夜さん達、間に合わないかしら……」
 腕時計で時間を確認し、輝は瞳を曇らせた。
 タイミリミットまで後15分。
 出来れば、祭りを存続して欲しい。
 その想いは、同じだ。
「っ……皆さん、あちらを!」
 アマリリスにお茶を飲ませて貰っていたヴェルナーが、声を上げる。
「皆ーッ!」
 手を振りながら走って来たのは、弓弦と悠夜だ。
 彼等の周囲に、無数の人影があった。
「近所の村の人達を連れてきたよ!」
「皆さんで、これからもお祭りを続けてくれるそうです!」
 チリン! チリン!
 鈴の音が一層強く鳴る。
「カミサマー!」
「遅くなって、ごめんね!」
 元気よく駆けて来た子供達が、祠の周囲に集まってきた。
「一緒に、歌いましょう、です!」
 クリスタルが両手を広げ、すぅっと息を吸い込む。
 キースが五弦琴の弦を弾き、輝がレコーダーを再生した。
 明るい祭囃子と歌が響き出す。
「皆で一緒に踊りましょう!」
 輝とアルベルトが村人達を招き入れ、祠の前に円を描くようにして、盆踊りを始めた。
「宜しければ、どうぞ」
 アマリリスとヴェルナーは、余っていた飲み物やお菓子を村人に配る。
「お疲れ様でした!」
 マリーゴールドとサフランは、悠夜と弓弦にお弁当を渡した。
「よく説得できたネ」
「悠夜さんが、一生懸命お願いしてくれたからね」
「何言ってるの。降矢さんが頑張ってたから、私も頑張れたんだよ」
 悠夜が弓弦の脇を小突き、弓弦は照れ臭そうに頬を掻く。
「ふふっ、お二人の力ですわね!」
「花火、まだ上げるから、食べながら観ててヨ」
 マリーゴールドが二人にお茶を用意し、サフランは花火の点火装置へ向かった。

 ポン! ポン! ポン!

 夜空を火の華が彩る。
 歓声を上げながら、歌い、踊り、食事を楽しむ。
 紛れも無く、『お祭り』がそこにはあった。

「あ、カミサマ!」
 その時、祠の影から、中骨を抜いた和傘を頭に被り、提灯を持った小さな影が姿を現した。
 子供達が手を振ると、小さな影はペコリと頭を下げる。
 和傘に付いた鈴が、チリンと音を立てた。
「貴方が、雨降小僧さん?」
 輝が問いかけると、小さな影は頷く。
「貴方に、伝えないといけない事があるわ」
「待ってくだされ、お嬢さん。それは私達から説明させておくれ」
 盆踊りの輪の中に居た、村長が前に出た。
「神様。お寺の住職様だが……病でな、先月、亡くなったんだよ」
 チリン……。
 鈴が物悲しげに鳴く。
「それで、私達はお前さんの『祭り』の事を忘れておった。このお嬢さん達に教えて貰うまで」
「カミサマ、ごめんなさい!」
 子供達が口々に謝った。
「けれど、もう忘れたりはしない。村全員で、これからもお祭りをする」
 チリン、チリン……!
 小刻みに鈴が震える。
 大粒の涙が地面に落ちた。
 小さな影が顔を上げる。和傘の間から、その一つ目が涙を零していた。
「かみさま」
 クリスタルが歩み寄ると、少し背伸びして和傘の頭を撫でる。
 それから、微笑んで自分の胸を指差した。
「会えなくなった人も『ここ』にいるです。泣いたら悲しむですよ……笑えば、喜んでくれます」
「……ワラウ」
「笑ったら、にっこりとなる。です」
「ワラウ」
 ぽつりと呟いて、一つ目の妖怪はぎこちなく、けれど確かに笑った。
「たくさん、笑うですよ」
「一緒に、踊りましょう?」
 クリスタルと輝は、雨降小僧の手を取る。
 キースとアルベルトは頷き合うと、トンコリと横笛で祭囃子に華を添えた。
 弦を弾きながら、キースはクリスタルの姿を目で追う。

『会えなくなった人もここにいるぞ。泣いたら悲しむ。笑えば、喜んでくれるんだ』

 紛れも無く、数年前、キースが彼女に言った言葉だった。

「サフラン、ジャンジャンお願いしますわっ」
「出し惜しみはしないヨ」
 マリーゴールドに頷いたサフランは、立て続けに花火に点火する。
「ヴェルナー、わたくし達も踊りますわよ」
「え?」
「ほら、雨降小僧さんを笑顔にするためですわ」
 アマリリスはヴェルナーの手を引き、踊りの輪に加わった。
「……よかったね!」
「本当に……」
 瞳を細めてから弓弦は、隣に居る悠夜に手を差し出す。
「碌に食事も楽しめなくて申し訳ないけど……よかったら、僕らも踊らないかい?」
「うん、踊ろうか!」
 悠夜は笑顔で弓弦の手を取った。


●6.

 周囲の風景が暗くなっていくのを感じて、ウィンクルム達はタイミリミットを悟った。
「今後も別れは訪れるだろうけど……今回のように沢山の出会いもある筈です。もう泣かなくて大丈夫」
 ヴェルナーはそう言って、そっと和傘に触れる。アマリリスもその手に自分の手を重ねた。
「会えてよかったですわ」
 続けて、アルベルトが膝を折り、雨降小僧と視線を合わせた。
「人間の寿命は妖よりも短い。貴方はその事を理解しなくてはなりません。
 もし村人がお祭を忘れるような事がまたあれば、自分から村の方へ歩み寄ってみては? 今の貴方なら、きっと出来る」
 輝もまた、屈んで雨降小僧を見つめる。
「100年後に、また一緒にお祭りしましょう」
 チリン。
 不思議そうに雨降小僧が首を傾けた。
「お祭り後半戦は、皆さんにお任せしますわ」
「沢山笑わせてやってネ」
 マリーゴールドとサフランが村人に頭を下げる。
「もう忘れないでね」
「お願いします」
 悠夜と弓弦の言葉に、村の子供達が『忘れないよ!』と元気に返事した。
「忘れないでね? かみさま」
「もう泣くんじゃないぞ」
 クリスタルとキースが、雨降小僧の手をぎゅっと握り締めた。元気を分け与えるように。

 そこで、世界はぐるっと回った。


「おかえりなさい、なのじゃ」
 ウィンクルム達に、テンコ様とシバが笑顔を向ける。
「こっちのお祭、始まっておるぞ。行ってくるといい」
 ウィンクルム達は顔を見合わせ、走り出す。
 和傘を被った小さな神様に、再び会う為に。


Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:日向 悠夜
呼び名:悠夜さん
  名前:降矢 弓弦
呼び名:弓弦さん

 

名前:クリスタル・スノーホワイト
呼び名:クリス
  名前:キース・ゴルドリオン
呼び名:キースおじさま

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月21日
出発日 08月27日 00:00
予定納品日 09月06日

参加者

会議室

  • あ、踊りはむずかしいですけど、私も知ってる歌を歌うですよ。
    輝おねえさまは、今回もよろしくです。

  • ううっ

    すっかり挨拶が遅れてしまったのですよ。
    村の人にお話しするの、いいと思います。ずっとお祭り続けてくれるといいですね。

    今回もよろしくお願いします。です。

  • [6]日向 悠夜

    2014/08/26-19:58 

    村の人へ接触するのは概ね賛成してもらえたみたいかな?ありがとう!

    私たち2人が旅人の振りをして村まで行って、誰か偉い人に接触してみようと思うよ。
    村人を直接お祭りに呼ぶのじゃなくて、お祭りを続けませんか?と提案する形にするつもりだよ。
    1時間しか居られない私たちが帰った後にお祭りをしてもらえるかもしれないからね。

    もう直ぐ締切だね。皆がお祭りをめいっぱい楽しめますように!

  • [5]月野 輝

    2014/08/25-18:12 

    花火素敵ね!
    賑やかにお喋りするだけでもきっと喜んでくれると思うわ。

    それに、村の人達に続けて貰えたら雨降小僧さんにとって一番よね。
    問題はやっぱり時間……
    アマリリスさんが言う通り、往復30分プラス話をする時間となると……
    取り仕切ってた住職さんが亡くなって…って事なら、その村の偉い方…
    例えば村長さんにでも「続けて下さい」ってお願いしたらどうかしら?

    説得できたら、私達が帰る時間になっても、そのまま村の人達で当日の祭りをやってて貰えばいいわよね。
    それで翌年以降も開催して貰えれば…これ以上ない成果だと思うわ。

  • [4]アマリリス

    2014/08/25-12:44 

    ごきげんよう、アマリリスと申します。
    お久しぶりの方も初めましての方もよろしくお願いいたします。

    昨日何かわたくし達にできそうな事はあるかしらと考えてみましたが特に思いつきませんでしたわ。
    なので、飲食をして楽しむ賑やかし要員でいこうと考えています。

    >人を呼ぶ
    わたくしは特に異論ありません。
    往復30分に加えて住人の方に話を通す事も考えると時間は大分かつかつになりそうなので、
    連れ出すかお願いするかは悠夜さんの判断にお任せいたします。

  • [3]日向 悠夜

    2014/08/24-23:49 

    こんばんは!私は日向悠夜って言うよ。
    クリスタル・スノーホワイトさんははじめまして。よろしくお願いするね?
    他の皆は人喰い刀の一件振りだね。改めてよろしくお願いするよ!

    100年前のお祭りを私たちが帰った後も続けて欲しいな、と思っているんだよね…
    村へ行って人を連れて来ようかな~なんて考えたりしているよ。
    …あ、でも村からマリーゴールドさんの花火が見えるかもしれないから「祭りを続けて欲しい」とお願いをするだけでもいい…のかな?

    うーん…人を増やすのは私一人の独断では決められないからさ、このことについて意見を貰えたら嬉しいなぁ

  • ごきげんよう、マリーゴールド=エンデと申します。
    また皆様とご一緒出来て嬉しいです!今回もよろしくお願いしますっ
    雨降小僧さんに笑顔になって貰いたいですわ……!

    お囃子、素敵ですわねっ
    えっと、私達は花火を持っていこうかな、と思っておりますわっ
    打ち上げられるタイプの物でしたら、どこからでも見えるかなと思いまして。

  • [1]月野 輝

    2014/08/24-09:23 

    こんにちは、クリスちゃんは先程ぶりで、他の皆様は人食い刀ぶりですね。
    またよろしくお願いします。

    この人数で1時間のお祭りって、出来る事が限られてる気もするけど、
    精一杯、雨降小僧を楽しませてあげたいわね。

    とりあえず私達は楽器を持っていってお囃子でも演奏しようかなと思ってるの。
    歌ったり踊ったりすれば喜んでくれるかなって。
    皆さんはどんな事を計画されてるのかしら(にこっと笑って)


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