【バレンタイン】パティスリー『ショコラ』にて(うき マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 人々が作りだすどこか甘い空気に、街そのものがそわそわとした雰囲気を漂わせている。
 そんなバレンタインの季節が今年もやってきた。
 毎年この時期になると女性陣の対チョコリサーチが開始されるのだが、その中でも注目を集めているのが、最近ダブロス市内の中心部から少し離れた場所に出来た『ショコラ』というパティスリーだ。
黒で統一されたクラシックな外観に、ドアの前に下げられた金色のプレートに書かれた『あなたの日常にちょこっとだけ甘い優しさを』という文字――――それだけで女心を擽られるそこは、チョコレート専門店である。
 専門店というだけあって、文字通りチョコレートのみを専売としており、その分チョコレート一つひとつにかける職人の情熱と技術には目を見張るものがある。
味はもちろんだが見た目にも美しいチョコレートは女性だけでなく甘党の男性にも人気を博しているところだ。
 そんなショコラのチョコレートだが、実は人気の秘密は他にもある。
 売られているチョコレートの全てに簡単な魔法がかけられているのだ。
 その魔法は『小さな幸せ』という少し抽象的なものから、『気分すっきり』といったわかりやすいものまで様々だが、いずれもささやかな願いを叶えてくれるものであり、そのささかさがかえって親しみやすさを生んでいるようだ。

 さて、パティスリー・ショコラの店舗前に、とある日一つの看板が立った。
 黒板に可愛らしい字で書かれてあったのは、『バレンタイン当日限定 手作りチョコレート教室』。
 その詳細はこうだ。
 バレンタインの当日、午前中の3時間を使って教室を開催。費用は150ジェール。
 ショコラのチョコを、プロの指導を受けながら手作りすることが出来る。
 更に、その手作り教室で作ったチョコには自分だけの願いを込める事が出来るということらしい。
「想い人にチョコレートを渡すというのは、やはりどうしても緊張してしまうでしょう?ショコラのチョコレートがそんな可愛らしい女性の背中を少しだけ押して差し上げることが出来たらと思いまして」
 ショコラのオーナーである老齢の紳士は、そう語って笑った。

 あなたもショコラのチョコレートに勇気をもらって、あの人に想いを告げてみませんか?

解説

●チョコに込める願いは『ささいなこと』に限定されます。
例えば、『○○を買ってもらいたい』とか『相手が自分のことしか見えなくなるように』などあまり大きなことや具体的過ぎることは叶えられません。
●一人につき一つの願いに限定されます(チョコの数が複数でも一つ)。
●今回は料理のスキルがなくても問題ありません。ショコラのスタッフがフォローしてくれます。しかし、上手い方が願いの効力は強くなりますし、壊滅的に下手な方は効力が若干落ちます。
●メインはチョコ作成後の行動(願いをかなえる場面)になります。チョコレート作成過程の行動も入れていただいて構いませんが、そちらが主にならないように気を付けてください。

ゲームマスターより

みなさんのささやかな願いを叶えられるように頑張りたいと思います。
よろしくお願いします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セリス(三ツ矢 光)

 


セリス(三ツ矢 光)
 


セリス(三ツ矢 光)
 


セリス(三ツ矢 光)
 


セリス(三ツ矢 光)
 


●運命の一日
バレンタイン当日、ショコラには5人の女性が集まっていた。
「色々と学んで帰りたいと思います」
最初に口を開いたのはミサ。目を輝かせながら期待を隠せない様子だ。パティシエ志望の彼女にとって、ここは憧れの場所。興奮するのも無理はない。
「今日はよろしくお願いします」
折り目正しく一礼してみせたのはアミィ・マールタイル。普段は凛とした雰囲気の際立つ彼女だが、可愛らしい私服に身を包んだ姿はそんな彼女の印象を少しだけ和らげていた。
「初心者ですが頑張ります」
ニッコリと笑って挨拶をしたのはクラウディア・ヴェーラー。その所作一つひとつの優雅さからは彼女の育ちの良さが伺える。
「私、今日の教室すごく楽しみにしていました」
ニーナ・ルアルディは白いワンピースを汚さないようにしっかりとエプロンを着用してやる気満々の様子だ。
「えっと、皆さんと一緒に頑張れたらと思います」
最後におずおずと口を開いた月泉悠は、挨拶だけでも恥ずかしいのか顔を真っ赤に染めている。

メンバーは以上の5名。オーナーは全員を見渡してニッコリと笑う。
「ようこそお越しくださいました。今日は皆様だけの特別なチョコレート作り、頑張りましょうね」
 その優しい笑顔と言葉に皆の緊張もほぐれ、それぞれがコクリと頷いたのだった。



「お菓子作りがこんなに難しいだなんて……。私は知識不足ですね」
「ふふ、奥が深いよね」
普段料理をすることがないクラウディア。彼女としては今回、ケーキを作りたいところだったのだが、いきなりそれはハードルが高いのでは? とパティシエに指摘され、皆と同じトリュフを作ることになった。それでも慣れないことの連続で、教室が中盤に差し掛かった時点でぐったりとしている。
(ちゃんと予習はしていたのに……)
とはいえパートナーにばれないようにと意識すると、本を読むだけでも緊張するもので、あまり内容は頭に入ってこなかったことはクラウディア本人も自覚している。
そんな彼女の隣で、ミサは手際よく作業を進めていた。
「すごい……。手付きがいいのね」
 その姿を見て感心したように呟くクラウディア。素直に褒められ、ミサはその顔を赤く染めた。
「私、パティシエを目指しているから」
「それで……。流石だわ」
「ありがとう。―――あ、そこはゆっくりかき混ぜながら入れると上手くいくみたい。私もさっき教えてもらったの」
「そうなの? やってみるわ」
 そんな彼女達の斜め前では、悠が神妙な顔をしてまだ溶けたままのチョコを見つめている。
「どうかしたのか?」
 そんな彼女に声をかけたのはアミィだ。
 慌てて「なんでもないです!」と手を振って見せる悠をじっと見つめたアミィは、静かに口を開いた。
「ひょっとして、願いが決まらないのか?」
「え……?」
「今の工程だと願いを込める場面なのかと思ってな。すまない、余計な世話だったか?」
「いえ、そんなことないです!」
 実際の所、悠は悩んでいた。この教室に参加すると決めた時から願いを何にしようかと考えてきたのだが―――
(お願い事……えっと、エードさんと仲良くなりたい、っていうのはアバウトすぎる気が……)
 そんな調子で今の今までこれといったのが思い浮かばないままなのだ。
「あ、の……。アミィさんはもうお願い事決めたんですか?」
「私か? ああ、もう願いは込めた」
「そうですか……」
「私の願いは明確だったからな」
少しでもカイナと会話がしたい―――それがアミィがチョコに込めた願いである。
(私はウィンクルムとして力を伸ばしたい。その為には、どれだけ反りが合わなくても絆を深めたいし、その努力をしたい)
アミィは今回の件が関係性の溝を少しでも埋めていく為の、ほんの些細な取っ掛かりにでもなってくれればと思っている。その上での願いだ。考えるまでもなくすんなりと思いついた。
 チョコを作りに来たということは、悠もパートナーと近付きたいという思いを少なからず抱いているはずだとアミィは考えた。
「大それたことを叶えてもらうわけでもないんだ。そんなに考え込まずに少しでもこうだったらというのがあったら願ってみればいいんじゃないか?」
「こうだったら……」
 深く考える必要はないのだと言われ、悠は自分の気持ちをもう一度見つめ直してみる。
「そう、ですね。それだったら……はい」
 ひょっとしたら望みすぎなのかもしれない。そう思いながらも自分の中にある純粋な願いに気付いた悠は、小さな声でチョコの上に願いを落とした。

 さて、チョコが無事に完成し、後はラッピングという段階。ここで皆の注目を集めたのはニーナである。
「わぁ! かわいい!!」
 ミサに褒められて彼女は満面の笑みを浮かべた。
「近所のおばさまにレクチャーしてもらったんです」
「メッセージカードもバッチリだし、気合入ってますね……!」
「気合というか、こうしないとダメっていうか……」
悠の言葉に、ニーナは注文の多いパートナーの顔を思い浮かべて苦笑した。ラッピングもカードも、更にいえばチョコの甘さもこのワンピースも彼に言われて実行したことだ。とはいえ、彼女自身に気合が入っていないかといわれればそんな事はない。
(一度くらい美味しいって言って欲しいし、これをきっかけにもっと仲良くなりたい)
だから、その希望を叶えるために頑張ったのだ。
「よければラッピングの仕方、皆さんにも教えますよ」
ここにいるのはニーナと同じ気持ちを抱える女の子達。少しでも力になれたらいい―――そう思わずにはいられないニーナのそんな提案に皆の目が輝いた。

「皆様、本日はお疲れさまでした。素晴らしいチョコレートが出来上がりました。自信を持って、お相手に渡して来て下さいね」
全ての工程を終え、嬉しそうな表情を隠しきれない彼女達が礼を言って立ち去って行くのを、オーナーは微笑みながら見守っていた。



●それぞれのバレンタイン
「お疲れ様」
ショコラを出てすぐにかけられた声はクラウディアに取って聞き慣れたもので、だからこそ驚きを隠せなかった。
「どうしてここにいるの!?」
 思わず叫ぶと、アーダルベルトははあっと息を吐いた。
「あンなにそわそわしてて、バレてないと思っテたの?」
「うっ……!」
確かにここ数日、挙動不審だったかもしれないという自覚のあるクラウディアは思わず項垂れる。
と、その場に残っていたニーナが「頑張って」とクラウディアに耳打ちして駆けていった。その言葉に励まされ、彼女は顔を上げる。
(そうよ、今日はちゃんと感謝の気持ちを伝えるんだから、こんなことで動揺してちゃダメ!)
今までこの時期は不思議と忙しく、バレンタインというイベントに参加することはなかったクラウディア。しかし今回、同じウィンクルムの仲間にこの教室の事を聞き、チャンスだと思ったのだ。
(アディはいつだって私の傍にいてくれた。私はそんな彼の優しさに甘えてばかり……)
 少しでも何か返すことが出来たら。せめて感謝の気持ちだけでも伝えたい―――それはずっと彼女の中にあった思いだ。タイミングが掴めず中々言いだすことが出来ずにいたが、今日はクラウディアを後押ししてくれるものが手の中にある。
『料理は愛情というでしょう? お菓子作りも一緒です』―――そう言ったオーナーの言葉を思い出す。
(アディも、そんな温かな感情をいつも料理に込めてくれていたのかも)
そうだったら嬉しいと思いつつ、クラウディアには一つの自信があった。
このチョコレートに込めた気持ちだけは、誰にも負けないのだと。
「あの、これっ……!」
 顔が火照り、赤く染まっていくのを感じながらクラウディアはおずおずとチョコを差し出した。
 「ちょっと形は崩れちゃったけど、気持ちは込めたの。……いつもありがとう」
 少しの沈黙の後、自分の手から箱が無くなるのを感じてクラウディアはホッと息をついた。
 アーダルベルトは早速包みを開けて、中のトリュフを口にする。リキュールをきかせた大人な味のチョコが彼の舌の上で溶けた。
「……最初に気ガ付いた時、トめようかって思ったよ。お菓子作りだって手ヲ切ったり火傷するかもしれないシって。でも、止めなかったのはコウやって貰えルのを期待してたカラだ」
 思いがけない言葉にクラウディアがアーダルベルトを見つめると、彼はふわりと笑った。
「ありがとう。嬉しい」
 その言葉に、自分の願いが、そして想いが伝わったことを理解してクラウディアも笑った。

 帰り道、いつもより少しだけ近くなった肩の距離にどことなくくすぐったさを感じつつ、クラウディアはいつもより心が温かく、フワフワしているのを感じていたのだった。



一人店内に残っていたアミィは時計を見てハアッと息をついた。
(やはり時間通りにはこないか……)
 店内の奥に設置されたカフェスペースを借りられると知り、ここに来るようにと約束した時間は既に10分を過ぎている。奴らしいと思いつつ、アミィが再度溜息をついたところにスッとホットチョコレートが差し出された。「サービスです」とだけ言って立ち去るオーナーの気遣いに一つ礼を返してから温かなそれを口に含む。程良い甘さが身体を満たし、アミィは気持ちがホッと落ち着くのを感じた。
(これにも魔法がかかっているのかもしれないな)
小さく笑った、その時だ。
チリンチリンとドアに付いた鈴が鳴る。中に入ってきた人物はキョロキョロと屋内を見渡し、アミィを見つけると一瞬驚いたような顔をして近付いて来た。
「……」
かと思ったら押し黙ってじっとアミィを、というよりはその服を見つめている。無言に加えてその視線が突き刺さり、居たたまれなくなったアディは口を開いた。
「……な、なんだ。私の格好がおかしいか?」
「別に。そんなこと言ってねーだろ。ちょっと珍しかっただけだ」
「珍しいって……」
「いつも堅苦しい格好してんだから、たまにはそういうのもいいんじゃねーの?」
ガタンと椅子に腰かけたカイナ・モリノにアディは呆気に取られてしまう。
(これは、褒められてる、のか……?)
「……なに?」
「いや、なんでもない……」
折角いつもよりも打ち解けた感じなのだ。今が好機とばかりにアディは手元にあったチョコを差し出した。が、どうにもカイナの目を見れずに顔を逸らしてしまう。
「ここに呼び出したのは他でもない。―――これを、受け取って欲しい」
「なにこれ?」
「チョコレートだ。今日はバレンタインだろう?」
「俺に?」
「ああ。……っ、勘違いするな、別に他意はない」
「他意、ねぇ」
「だからないっ! ……ただ、君と落ち着いて話すことなどなかったから、いい機会だと思っただけだ。いつまでも余所余所しいままではお互い面倒だろう」
「で、コレなわけか」
 カイナはチョコの箱をつつきながら、気だるそうにテーブルに肘をついている。
 その姿を見て、やはり受け取ってはもらえないのかとアディが落ち込みかけたその時、ガサガサと包装紙を開ける音が彼女の耳に響いた。
 逸らしていた顔を戻すと、彼は丁度チョコを口に運んだ所で。
「ま、チビすけが作ったにしては上出来なんじゃねーの?」
「本当か……?」
「嘘言ってどうすんだよ。つか、甘い物食ったらコーヒー飲みたくなったんだけど。ここ、置いてないの?」
「どうだろう。聞いてみるか?」
「ああ」
 半ば呆然としながら会話を続ける。
(食べてくれた……。いがみ合わずに話せてる……)
 徐々に回りだした思考に頬が赤くなるのを感じ、アディはそれを誤魔化す様にコーヒーを取りに席を立ったのだった。



ショコラからの帰り道、悠は通い慣れた自宅へ向かう道ではなく、パートナーであるエードラム=カイヴァントの家へ向かって歩いていた。
(迷惑じゃないかな……)
そんな事を考えつつ何度か足を止め、それでもやっぱりと足を踏み出してを繰り返し、随分と時間をかけて彼の家まで辿りつく。
震える指で押した呼び鈴の音にビクッと身体を強張らせていると、キイッと扉が開き、中からエードが顔を出した。
「おや、いらっしゃい」
「あ、あの! 急にお邪魔してすみません!」
「気にすることはないですよ。さぁ、どうぞ」
「失礼します……」
 エスコートされて家の中に上がると小洒落たリビングに案内される。
「どうぞ座ってください」
「は、はい」
 緊張でカチコチに固まった悠はぎこちなくソファーに腰を下ろし、エードはそんな彼女を微笑みながら見つめていた。
「それで、今日はどうされたんですか?」
「あ、あのっ、そのっ……」
「ああ、そんなに焦らないで。緊張しなくていいんですよ」
 悠がエードと契約してから少し経つが、いまだ全然慣れることの出来ない悠を彼は度々こうやって気遣ってくれていた。
(やっぱり、悪い人じゃないよね。それはもう十分わかってる。だから、もっと仲良くなれるといいな……。なりたいな)
 そう思ったら、悠の身体は自然と動いていた。
「あ、あの……、こ、これ、チョコです……!」
 悠の突然の行動に驚いた様子のエードだったが、彼女の差し出したチョコをそっと受け取ると微笑んだ。
「ああ、今日はバレンタインでしたか。……ありがとうございます。折角なので今頂きますね」
「はいっ」
 少し待っていてください、と言って席を立ったエード。戻ってきた彼の手には温かなカフェオレがふたつ。
「チョコのお供に。どうぞ」
「ありがとうございます」
「では早速。……ああ、これは美味しい。もしかして手作りですか?」
「はい。実は今日、ショコラというお店で手作り教室があって参加したんです」
「ショコラ……、有名なお店なんですか?」
「最近すごく人気があるんです。ショコラのチョコレートには魔法がかかっていて、今回の教室でも願いを込める事が出来て――――」
「……悠さんはどんな願いを?」
「私は、エードさんともっとお話しできるようにって……、あっ!」
言うつもりのなかった願い事をぽろっと零してしまった悠は思わず口を抑えるも、零れ落ちてしまった言葉が戻る訳もなく。彼女は顔を真っ赤に染めた。
そんな悠を見て、エードは一層笑みを深くする。
「可愛らしいお願い事ですね」
「いえ、あのっ……!」
「どうやら僕は魔法にかかってしまったみたいです。もう少し、悠さんとお喋りしたいのですが付き合ってくれますか?」
「は、はいっ!」
 それから暫くの間、二人は会話に花を咲かせた。お互いに距離が縮まったのを感じつつ……。



「わぁ、綺麗な所……」
 チョコを作る事に集中しすぎて、それをどこで渡すのか考えておらず焦るニーナに、ミサが教えてくれたのがこの場所だ。ショコラから程近い位置にあるこの公園には、今の時期でも綺麗な花が植えられていて目を楽しませてくれる。花好きのニーナがその色彩に夢中になっていると――――
「なんなのさ、こんなとこに呼び出して」
「グレン!」
 グレン・カーヴェルが欠伸をしながらやってきた。連日準備の為に遅くまで起きていたニーナはつられて欠伸をしそうになって、それを慌てて噛み殺す。
「あ、ひょっとしてチョコ?」
「なんでわかったの!?」
「だってお前、その格好……。まさか本当にやるとは思わなかったぜ」
「……そう言われるんじゃないかって思ってました」
それでも、今日という日を絶対に成功させたいからこそニーナはここまでやったのだ。
(素直な気持ちが聞けますように……)
もう一度、チョコに祈りを込めてグレンにそれを差し出す。
「ちゃんと甘すぎないチョコにしましたから! カードも読んで下さいね!」
「おっ、どれどれー」
受け取ったチョコを早速といった感じでグレンが開ける。その前に包装も確認して頷いたところを見ると、どうやら合格点は貰えたらしい。
「へぇ、中々上手く出来てんじゃん」
 そう言うと、グレンは何故かチョコをニーナに差し出した。
「え?」
 まさか、返された!? とショックを受けたニーナに、グレンはにやりと笑ってみせる。
「あーん」
「……え?」
「こういう時の定番だろ? ほら、あーん」
(……まさか本当に言われるなんて)
彼の性格上、更なる要求があるのではと考えていたニーナ。こんなケースもチラリと頭をよぎりはしたが、想像と実際に言われるのとではわけが違う。それに―――
「ええっ! だってここ、外ですよ!?」
今は誰もいないが、いつ人が通るかわからない場所なのだ。
「別にいーだろ。ほら、早くしろよ」
 よくない! と心の中で叫びつつ、だが口を開けて待つグレンにこれ以上どうする事も出来ず、ニーナは覚悟を決めた。
震える手でチョコを掴み、彼の口に押し込む。真っ赤に染まったその顔を見てグレンはにやにやと笑いながらチョコの味を楽しんだ。
「へぇ、結構美味いじゃん」
「……今、なんて?」
「だから、そこそこ美味いって」
「ほんと!?」
「もう一個」
「はい!」
 言われるがまま、口にトリュフを運んで再度その反応を固唾をのんで待つニーナにグレンはふはっと笑った。
「だから美味いって。ありがとよ」
そんな彼を見て、ニーナは呆然と呟いた。
「ホントに叶っちゃった……」
 
 その後、びっしりと書かれたメッセージカードに「お前、本当にやりすぎ!」と大笑いされ、真っ赤な頬を膨らませたニーナがいたとか。



チョコ作りから数時間が経過し、外はすっかり暗くなっている。
(いい加減行かないと今日が終わっちゃう……!)
 どういう風に渡そうか、何と言って渡そうかなど考えている間にこんな時間になってしまい、ミサは慌てていた。まだ考えは纏まらないが、これ以上迷っている暇はない。
「ええい、なるようになれ!」
 気合を入れて宿屋の自室から飛び出し、彼のいる部屋に向かう。深呼吸をしてから扉をノックすると程なくしてエミリオが顔を見せた。彼はミサの顔を見て驚いたような表情を浮かべた後、すぐに顔を顰めた。その様子に怯みそうになったミサだが、なんとか自分を奮い立たせる。
「急にごめんなさい。どうしてもエミリオさんに渡したいものがあったの!」
「……入れば」
「はい!」
 思いのほかすんなりと受け入れてくれたことに喜んだミサが中に入ると同時だった。バンッと扉が大きな音を立てて閉まり、驚いたミサが振り返ると、そこには扉に手をついたままミサを睨みつけるエミリオがいた。
「……夜遅くに男の部屋に訪ねて来て、どういうつもり? お前には危機感ってものがないの?」
「あ……」
「お前は神人だけど、一人じゃ力もない女だって事を自覚しろ!」
「ごめ、んなさい……」
 泣きそうになりながらも、ミサは彼の言い分が正しいと反省した。そんなミサを見て、エミリオはハアッと息をつく。
「……次からは気を付けろよ」
「はい……」
「で? なんだよ、俺に渡したいものって」
「あ、えっと……」
 なんとか気持ちを切り替えて、ミサはチョコの入った袋を差し出した。
「私、まだまだ頼りないけど、頑張るから! だから、これからもよろしくお願いします」
「これって……」
「チョコレート!」
「え、うそ……」
驚きながらも袋を受け取ったエミリオはすぐに中身を取りだす。
「まさかこれ、手作り?」
「はい。今日ショコラっていうパティスリーで習ってきたの」
「ショコラってあの新しく出来た―――」
「知ってるの?」
「い、いや、噂で聞いただけだ」
何故か早口でそう言うと、エミリオはパクリとチョコを口に含んだ。
「う、まい……」
その顔に自然と笑みが浮かぶ。もう一つと手を伸ばす様子を見ても、どうやらお気に召したようだ。
「ミサにしては頑張ったね。……ありがとう」
 優しい笑みを浮かべた彼は、ミサの頭をポンと叩いた。先程とは違う意味で泣きそうになりながらミサは思う。
(この笑顔はチョコの魔法が見せてくれたものかしら? でも、きっとそれだけじゃない)
ショコラでチョコを作っている時、皆幸せそうだった。そして今、エミリオも滅多に見せない笑顔を見せてくれている。
(甘いものには人を幸せにする力があるのね)
 そんなお菓子を作る魔法使いのような存在―――ミサはパティシエになりたいという思いをまた一つ強くしたのだった。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター うき
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月16日
出発日 02月23日 00:00
予定納品日 03月05日

参加者

会議室

  • [4]月泉 悠

    2014/02/21-03:34 

    あ、あの……月泉 悠、です……。

    えっと…チョコ作り、頑張ります……!
    喜んでもらえるといいな……大丈夫かな……

  • 初めまして。私はクラウディア・ヴェーラーよ。
    今回のチョコレート教室、よいものができるようお互いに頑張りましょうね。

    …その、私もアディには普段からとてもお世話になっているから
    ほんの少しでも、感謝の気持ちを伝えられたらいいのだけれど。

  • [2]ミサ

    2014/02/19-09:01 

    初めまして、ミサっていいます!
    私のことは気楽にミサって呼んでくれると嬉しいな(微笑み)

    エミリオさんってば、いつもイジワルばっかり言うし、受け取ってもらえるか心配だけど、ここは素直に気持ちを伝えてみようかな。
    せっかく手作りするんだもの、ちゃんと受け取ってもらいたいよね!

    よし!皆で頑張ろう!(片手をぐっと握りしめる)

  • お初にお目にかかる。私はアミィ・マールタイルだ。
    こうして出会ったのも何かの縁、どうか宜しく頼む。

    さて、どの様にして奴にチョコレートを受け取らせるか……
    今後の為にも、少しでも関係を良好な物にしておきたいしな。


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