【夏祭り・鎮守の不知火】狐狗狸三角形(椎田 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 
「いらっしゃいませー!」
 
 賑々しいお祭り。
異空間にも関わらず、祭りの期間だけゲートが開いているという状況の為外の人間も訪れることが出来ているのです。例年ならば妖狐達の甲斐甲斐しい働きもあってお祭りは楽しく無事に終えられるのですが、今年は少々事情が違いました。
炎龍王の配下である妖怪によって売り子が怪我をしたり屋台が壊されたりしてはいますが、そう言った被害にめげない売り子の声が響きます。その中でも特に幼さの残る声がひとつ。年の頃はテンコ様と同じくらいでしょうか。利発そうな茶色い目をした小さな少年が、青年の姿をした妖狐たちに混ざって売り子をしています。しかしまだ年若いせいでしょう、時折退屈そうな素振りを見せたり欠伸を噛み殺したりする事もあります。
今も丁度、大きく欠伸をひとつ。ちらりと可愛らしい八重歯が覗きます。

 と、細い木の葉がその少年の目の前に落ちてきました。やや前方に生い茂る木立のものでしょう、かさついた色と質感が祭りの灯に揺らめきます。
風もないのに踊るように宙を舞う木の葉に興味を惹かれ、思わずそちらに身を乗り出します。
 
「コンジ!」
 
「は、はいっ!」
 
 油断しきっていた所に己の名を呼ぶ大声。
びくっと肩を震わせるのとほぼ同時、赤茶けた髪からぴょこりと可愛らしい狐の耳が現れます。彼の名前は紺二郎。略してコンジ、と呼ばれています。
見ようによってはサボっていたようにも見えるだろうことを自覚しているのか、慌てて先輩売り子の元に戻っていきます。
 
 
「……うぐぐ、あやつ見向きもせんかったぞ。ヒマそーだからあたいが構ってやったのにっ」
 
「いや、興味は示していたようだぞ」

 お祭りとは裏腹に薄暗い木々の下。
背を向けた紺二郎を歯噛みしながら見つめる少女に、薄闇によく馴染む青年が声をかけます。突然声を掛けられたことに驚いたような表情こそ見せますが、青年を警戒する様子は有りません。

「なに!?」

「仕事中だったからあれ位じゃ駄目なんだろうな。次はもっと大掛かりにやればいいんだよ」

 大掛かりに、との言葉に少女――フウリは狸の尻尾を揺らして考え込んでしまいました。狸の妖怪とは言えまだ幼い為、うんうんと唸りながら思案しています。
 そんな様子を微笑んで見守る青年の名は渦斗。完全に人間の姿をとっていますが、彼もまた妖怪。しかも、炎竜王の配下のうちの一人なのです。

「簡単さ。こないだの狸囃子は気になったみたいでこっちに来ただろう?きっと賑やかなのが好きなんだ」

「な、なるほど。あんな事してるくらいだもんな!」

 あんな事、とは売り子の事でしょう。

「ああ」

 そう言って、渦斗はニヤリと笑います。
木立を透かすような視線の先には、売り子の仕事の代わりに店番を任されるコンジの姿。不服そうに口を尖らせつつ、やがて指示通りに屋台の中へ向いました。『あぶらあげ有り〼』ののれんが下がる店先に商品は1つもなく、その人気の程を伺わせます。

「油はまだ熱いから気をつけろよー、それと……」

「もー、わかってるよ!」

 おれだってもう仕事できるのに、と呟いて兄貴分らしい妖狐を見送りました。
予想通りコンジが一人きりになったのを確認すると、同じく彼の様子を伺うフウリに飽くまでやさしく言い聞かせます。

「お前は、狸囃子であのあぶらあげ屋の周りに人を集めてくれるだけで良いよ。そうすれば俺がイイものを見せてやるよ」

 渦斗の言葉疑うこと無く意気揚々と屋台に向かうフウリの後ろ姿に、渦斗は笑みを深めました。

解説

お祭りに沸く異世界の神社、紅月神社を舞台にしたお話です。

フウリはコンジの事を知っていますがコンジは彼女の事はよく見るかわいい子だな、程度の認識。渦斗の事は全く知りません。
また、渦斗は素性を隠してフウリに接しているためフウリはお人好しの妖怪、程度の認識です。

渦斗は二人ならば反撃されても大丈夫だろうという理由からちょっかいをかけています。
今回は調子付いているのか、フウリに人を集めさせてからあぶらあげ屋の油に火を付け、混乱する様子を楽しもうという魂胆のようです。
あぶらあげ屋には沢山の油が置いてあし、火を付けられると非常に危険です。また、外の世界からの訪問者達だけでなく妖狐達にも非常に人気の出店ですので、被害がないと喜ばれます。


紺二郎(こんじろう)
妖狐の少年。気は優しいのですが年相応な面がまだ強く、背伸びしたいお年頃。売り子の仕事も半ば無理矢理混ぜて貰っています。
変化の術を覚えたばかりなのでびっくりすると褐色の耳や尻尾が出ることも。

フウリ
偶然ゲートに入った狸の妖怪です。炎龍王の配下では有りません。
濃茶の髪に赤い目、短い尻尾は髪と同色です。木の葉の髪飾りにモダンな和服の少女の姿に化けています。素直ではありますが正直では無く、どうにかして紺二郎の気を引こうと渦斗にそそのかされてイタズラをしています。

渦斗(かと)
炎龍王の配下の狗の妖怪。独特の光沢を帯びた黒髪の男性。
狡賢く、フウリよりは強いものの妖狐たちの相手をするほどでは有りません。精々幼いフウリを、同じく変化の術を使えるようになったばかりの紺二郎にけしかける程度です。しかし、彼はそれが楽しくてしかたがないようです。
火を吹くことも出来ますが、炎を喰らう事のほうが得意です。頭脳派を自称しており肉弾戦は不得意な様子です。

ゲームマスターより

初めましての方は初めまして、そうでない方はごきげんよう。椎田です。

はじめてのイベント連動シナリオ、はじめてのアドベンチャーエピソード。もうくらくらしちゃいます。あ、熱中症とかじゃあないです。
少年少女の淡い恋のようなものを応援するも良し、悪いお兄さんを懲らしめるも良し。渦斗は今までは大きな被害を出しているわけでは有りませんでしたが、今回は非常に危険な事をやろうとしています。
せっかくのお祭り、皆様のお力で守ってあげてください。

それでは皆様のご参加、お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  お祭りに来ている人達が楽しい時間を過ごせるように頑張らなきゃ
他の仲間とは違う場所から見回りを開始するよ

各屋台を見て回って最近困ったこととか不思議なことが周囲で起こってないか質問

一通り巡回したら仲間と合流
手に入れた情報を共有

あぶらあげ屋さんのコンジ君、か
情報によると最近彼の周りで不思議な事が起こっているみたい
今夜も何か起こりそう、警戒した方がいいね

☆フウリ達の恋を応援
コンジ君、屋台は私達が手伝うからフウリちゃんとお祭りに行っておいで
コンジ君いつも仕事頑張ってるんだからたまには遊んでもいいと思うよ
ほら、フウリちゃんも
2人仲良く、ね(微笑)

☆持ち物
インカム(仲間全員分用意し配布)

☆使用スキル
会話術



エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
  心情
私の生き甲斐はオーガ退治。今回は直接オーガと戦うわけではありませんが、紅月ノ神社やムスビヨミに協力することは、ウィンクルムにとって有益な活動です。

行動
有志の仲間で神社の見回りをします。
紺二郎は背伸びしたい年頃ですか。うふふ、一人前の大人として扱いましょう。異変がないか聞きます。紺二郎以外の妖狐たちからも話を聞きたいですね。
不審な情報があれば、油揚げの屋台周辺の警備を強化。仲間と合流後は、インカムは外しておきます。
ラダさん。殺してはなりませんよ。生きたままとらえるのです。(悪役っぽく)
未然に被害を防ぐのが理想ですが、問題が発生してしまった場合、事件を起こした者に責任をとってもらいましょうか。


都 天音(チハヤ・スズアキ)
  楽しそうな屋台を素通りするしかないこの悲しみ
はい、真面目にやります
私超真面目です

インカム着用
祭りが妨害を受けてると聞き自主的に見回り
範囲は被らないように

なにやら楽しげな音楽が聞こえます
気になるので行ってみましょう(ぐいぐい

音の出所がわからないのにこの人だかり
作為的なものを感じ連絡です
連絡を受けた場合も集合
インカム外す

ここで騒ぎが起きたら収拾がつかなそうですね
油も一杯で火事が起きたら困ります
お店の人に消火器等対策はあるか確認です

音の出所に気づけた場合は少し話を聞いてみます
騒ぎが起きたら私達はお客さんなどの避難誘導に努めます

フウリにアドバイス
仲良くなりたい時はアタックあるのみです
結婚してくださいと



●祭りの見回り
 神社で行われる祭り独特の、やわらかい雰囲気が空間に満ちていた。子供は屋台を楽しみ、大人は趣きを楽しみ、老人は笑顔の人を見て楽しむ。これほど幸せに満ちた時間と場所はなかなかに難しい。
 ウィンクルム達はそれを守るために見回りをしていた。

「はい……わかりました」
 都 天音は見回りのウィンクルムが装備しているインカムの通信スイッチから手を離す。テンションに一切の変化はなく、誰がどう見てもたいしたことのない通信だったかのように見えた。
「で、なにかあったか?」
 しかし、彼女の精霊であるチハヤ・スズアキはそうは思わない。この少女はそういう部分で難しいところがあるため、逐一通信内容を尋ねることにしている。
「はい、見回るにあたって注意すべき点などの確認の通信でした。あっ」
 さすがに祭りの場というだけあって人は多い。都は通行人にぶつかりよろけてしまう。スズアキはさりげなく都を支えていた。
「…………」
「な、なんだよ。じっと見つめて」
「いえ、今のように人とぶつかってしまってお金持ちの人に助けてもらったらどう対応しようかなと」
「……そうかい」
「夢は玉の輿……」
「知ってる知ってる! ほら、真面目に警備するぞ!」
「はい、真面目にやります。私超真面目です」
 しかし、都は少し寂しそうに屋台を見つめていた。

「ヒャッハー! 祭りだよッ!」
「……ラダさん、目的を忘れないでくださいよ」
 祭りの雰囲気に浮かれるラダ・ブッチャーを、エリー・アッシェンはやんわりと諭した。祭りの場を楽しまないほうが本来無礼であるのだが、ウィンクルム達の今回の目的は見回りであった。はしゃいで見落としがあってはいけなかった。
「わかってるよぉ。油断はしてないってぇ」
「両手いっぱいに屋台の食べ物を持って言われても、説得力がないですよ」
「このくらい心配ないよぉ。ボクだって精霊なんだよぉ? ほら、エリーも」
 エリーはラダの差し出した綿菓子を仕方なさそうにうけとった。
 ラダは、常にオーガ撃退を優先するエリーのことを案じていた。なぜそうなったのかは知っているため協力は惜しまないが、心配ではあった。この場所はとても暖かい。その空気を無視してまで任務に集中するようでは、将来どうなるかわからなかった。
「食べ物は楽しむよ。だから、この幸せを壊すような奴がいたらただじゃおかないからねぇ」
「うふふ~」
 エリーはただ微笑んだ。

「ありがとう。ご協力感謝だよ!」
 ミサ・フルールは屋台から離れ、店主と話した情報を紙に書き込んでいく。彼女は全員分の用意し配っていたので、得た情報の共有も忘れない。歩き出すときは自然と精霊のエミリオ・シュトルツの手を握っていた。普段からこうというわけではないが、祭りの場はそうさせる雰囲気があった。
「だいぶ情報が集まってきたね、ミサ」
「うん。一通り回ったら、人の集まりやすい人気の屋台の傍を重点的に見回ろうかな」
「そうだな」
 ミサはエミリオのそっけない返事に落胆しなかった。エミリオが作戦を考えることが好きだということを知っているため、今色々考えてるんだろうなぁと思っていた。
 それに、エミリオはミサが人とぶつかりそうになるたびにミサを自身のほうに引き寄せていた。ぶつからないようにということもあるが、エミリオの独占欲ゆえの行動であることも理解していたため自然と笑顔になってしまっていた。
「そういえば、あぶらあげを売っているお店があるんだけど、そこの売り子の紺二郎って子、よく妖怪にちょっかいかけられるみたいなんだよね」
「詳しく教えてみてよ」
 ミサの話しを聞いて、エミリオはミサに全員に指示を出すように伝えた。

●紺二郎
 いちはやくあぶらあげの屋台に異変を感じたのは、都だった。といっても、明確な理由があったわけではない。
「スズアキさん、なにやら楽しげな音楽が聞こえます。気になるので行ってみましょう」
「へいへい」
 スズアキが返事をするまえに、都はスズアキの腕を掴んでぐいぐいを引っ張っていた。人が増えるとスズアキは引っ張られるのではなく、引っ張る側になっていた。都が人とぶつからないようにしていた。少し移動すると、音の発生源らしき屋台に到着した。あぶらあげを売っている屋台だった。
 あぶらあげの屋台は大盛況で、人が集まっていた。
 集まりすぎていた。
「……なにか音を出しているものは見当たりませんね。それにしては、人が集まりすぎています」
「怪しいな」
 そのとき、情報を仕入れたミサから連絡があった。
 あぶらあげの屋台付近集合。
 紺二郎にちょっかいを出す要注意妖怪あり。

 屋台集合後のウィンクルム達は、必要以上に警戒されないようにインカムをはずして各々聞き込みに入った。
 エリーは直接、紺二郎から話を聞くことにした。
 忙しそうに動き回る紺二郎の視界に入り込み、「ちょっとこちらへ……」と手招きしてみた。エリーとラダのツーショットはなかなかの迫力があったが、紺二郎も妖怪であったため素直に近づいてきた。
「なあに、おねえさん」
「うふふ……ちょっと、聞きたいことがあるのよ」
 エリーは自身の周りで異変が起きていないか尋ねた。
「う~ん。そういえば、人が多すぎかなぁ。全員がお客さんってわけでもなさそうなのに……。ここは変わった出し物をやってるわけじゃあないし」
「原因はわからないかなぁ?」
「……そういえば、この狸囃子は聴いたことがあるよ。そのときの犯人はフウリと禍斗だったんだ」
 聞き込みが終わるとエリーは協力ありがとうと丁寧にお礼を言った。紺二郎のような背伸びしている子供にはきちんと大人の対応をしてあげたほうが喜ばれることをわかっていた。
 インカムを取り出す。
「もしもし? フウリと禍斗っていう子たちがなにかしでかしそうよ」
 インカムで連絡を取っているエリーの横で、ラダは一人気合を入れていた。
「食い物屋に悪戯するようなら、ただじゃおかねぇぞ」
 普段は温厚な彼。しかし食べ物については譲れないものがあるようであった。

「売り子の紺二郎? あぁ、フウリちゃんがぞっこんしてる男の子だろ?」
 ミサは屋台で商品を買い終わった客に怪しい動きがないか聞き込みを行っていた。両手にはチョコバナナや風船ヨーヨーなどをぶら下げている。
 エミリオいわく
「聞き込みするときにこうしていたほうが警戒されない」
 とのことだった。ミサは素直にエミリオの采配に関心していた。実際は、祭りの場で何も持っていない女が歩いているとナンパされやすい(何か買ってあげようかと声をかけやすい)からでもあるのだが。
「フウリちゃんはいい子なんだけど、禍斗って坊主が悪がきでねぇ。フウリをそそのかすんでさぁ。こうすれば紺二郎が寄ってくるよ、ってね」
「なるほど。協力ありがとう!」
 紺二郎、フウリ、禍斗の三人は連日の揉め事で少し有名になっていた。話しを聞くと、紺二郎とフウリの関係は微笑ましい程度で済んでいるが、どうにも禍斗がそれをややこしく、エスカレートさせている問題児であるようだった。
「禍斗っていう子、聞くと炎を使えるみたいだよ」
「炎か……揚げ物を使う屋台のあるここで、炎を使われたら危ないね。エリーからの連絡では、十中八九この人だかりはフウリという子のせいみたいだし……念のため、消火器の準備と消防に待機してもらおう。消防の理由はなんでもいい。祭りの場だ、なんとでも説明できるだろう」
「うん。まったくもう、恋する女の子の気持ちを悪戯に利用するなんて、お説教が必要だね」
 エミリオはそうだなと返事をし、ミサの頭を軽くなでた。

●禍斗
 ウィンクルム達はすでに騒動を起こす原因となりえる紺二郎、フウリのことは発見していた。しかし、一番の問題となる禍斗の姿はまだみえていない。
 だが、炎を操る妖怪と、油を多量に使用する屋台。そしてそこに集められた人々。ここから禍斗がどういう行動をとるかは予測しやすい。
 ユニゾンというこの状況にもってこいのスキルを所有しているミサとエミリオは屋台の横に待機し、エリーとラダは屋台の周辺をうろつくフウリを監視し、都とスズアキは人だかりの後方で非難誘導を行いやすいように準備を行っていた。
 ウィンクルム達の結論からいうと、悪戯レベルを超えつつある禍斗を現行犯で捕まえ、ここいらでキツクお灸をすえるということであった。
「避難ルートは完璧です。ばっちり見回りしてましたから」
「そうだな。しっかりと屋台を見てきてたからな」
 都とスズアキのなんでもない応対。だが、スズアキの言い方にはなにか含まれるものがあった。
「なんですか。まるで屋台ばかり見てきたみたいな言い方は」
 あと、高級品を身につけている男もしっかり見ていたな。そういいかけてスズアキはやめた。玉の輿をしたいと口にする理由がどうあれ、深く突っ込みすぎるのはよくなかった。
「それにしても、子供の恋愛事情も妖怪となると大事ですね。ひとつ、事が済んだらアドバイスしてあげましょう」
「嫌な予感がする……」
 都は返答せず、避難誘導用の笛を口に咥えた。

 ミサとエミリオは高い社交性をいかし、すっかり屋台の人たちと仲良くなっていた。それは、屋台の軽い仕事を手伝う程度には。しかし、それによって屋台周辺の警備はやりやすくなっていた。
 ただ、屋台はというと……。
「エミリオさん、そっちはどう?」
「もうあがる。ほら紺二郎、客待たせてるぞ」
「お、おう!」
 二人人手が増えた分回転率があがり、むしろ忙しさは増していた。二人はその忙しさを周囲に気を配りながら楽しんでいた。
 やがて気づく。動く人ごみのなかに動かない少年がいることに。
「エミリオさん」
「気づいてる。怪しまれないように動いていよう」
「ユニゾンは発動させる?」
「ああ」
 指示を出すまでもなく、他のウィンクルムも動いていた。

「エリー、フウリの監視はいいのぉ?」
「いいんです。それより、禍斗がなにかアクションした場合ミサさんとエミリオさんのユニゾンが飛んで返ってきてしまいますので、打ち消さないと危険ですね」
「なるほどぉ」
 エリーとラダは、禍斗に近づき発動するであろうユニゾンを阻止するつもりだった。ユニゾンは禍斗が放つであろう炎に対して有効な代わりに、心配なのはカウンタースキルということであった。
「ラダさん、禍斗の確保は頼みますね」
「……もちろんだよぉ」
 ラダは笑顔だったが、顔に影が出来ていた。あまり怒ることのない彼だが、食べ物に関してはそうではない。そうとう頭にきているようだった。
 そしてついに、禍斗は両手を大きく空にあげた。

●フウリ
 フウリという少女の気持ちは紺二郎に振り向いてもらいたい、気にしてもらいたいという気持ちに満ちていた。しかし素直になれない彼女の行動は空回りしていた。
 だから、禍斗の言葉を信じてしまった。
 よくわからないまま悪戯をして、紺二郎に気にしてもらった。
 今日もまた、禍斗の言うことに従った。彼のやろうとしていることを理解しないままに。

「エミリオさん!」
「ミサ!」
 禍斗から放たれた小さな炎を確認し、ミサとエミリオはお互いを呼び合った。小さな火。しかし、油が備えてある屋台にはとんでもない大惨事の火種であった。
 ユニゾンが発動しているため油の付近にいればなんの問題もなかった。しかし、自然と油をかばうように身体は動いてしまう。
 まずミサがかばい、そのミサをかばうようにエミリオが前にでる。
 ユニゾンが無事発動したことを知らせる、属性オーラの光があふれ出す。
「やった!」
「出るよ!」
 炎が反射されたのを確認すると、エミリオはミサの腕を掴んで屋台を飛び出した。

「ラダさん」
「ヒャッハーッ!」
 エリーはラダの名前を呼ぶ。事前に打ち合わせしていたためそれだけで十分だった。
「アヒャヒャ」
 ラダはエリーを両手に乗せ、そのまま空へ飛ばす。エリーは儀式杖「深海の掟」を構え、炎に向かって振りぬく。炎は小さなものだったので、あっけなく打ち消されてしまった。
「受け止めてください」
「はいだよぉ!」
 ラダはエリーの落下位置に走り、エリーを受け止める。
「はい、ナイスキャッチです」
「うん、ばっちりだよぉ。……あっ!」
 炎の撃退には成功したが、禍斗が逃げ出しているのが二人には見えた。
「うふふ……大丈夫ですよ。あちらには、都さんとスズアキさんがいます」

 笛の音が鳴り響いていた。突然の炎の出現と、その反射、打消し。その現象に混乱する人々はもちろんいたが、その音は人々を注目させるのに十分であった。
 笛の音の主は都。ピピー、ピピーと規則正しく笛を鳴らす。人々がこちらに注目したのを確認すると、笛を止める。
「みなさん落ち着いてください。僕たちはウィンクルムです」
 ウィンクルム。その言葉だけで多くの人間が平静を取り戻しつつあった。
 しかし、妙にあわてて人ごみから離れようとしている人がいる。
「スズアキさんスズアキさん」
「どうした……あれだな」
 スズアキはエリーが指さした方向に禍斗を見つける。彼を捕まえれば、避難誘導もなにも必要なくなる。
 ピッピッピー。
 都は叫ぶ代わりに禍斗に指さし笛を鳴らす。
「覚悟しろぉ!」
「う、うわぁあああ!」
 スズアキは禍斗にタックルする。
「は、はなせぇ!」
「こら、暴れるな!」
「暴れんなこらぁ!」
「あ、ラダさんとエリーさんも合流です」
「うふふ~ラダさん。殺してはなりませんよ。生きたままとらえるのです」
「みんな、禍斗捕まえた!?」
「確保だな。よしミサ、皆に説明して落ち着かせるよ。異変は終了だ」
「わかったよエミリオさん」
 こうして禍斗はつかまった。紺二郎は目の前の騒動に唖然としてしまい、フウリは大事になったことがわかり座り込んで泣いてしまっていた。

●三人のエピローグ
 禍斗はおそらく人生で一番説教を受けた。
「混乱するところを楽しみたかったって、お前はガキなの? バカなの? バカなんだね、可哀相に。客の中には火に耐性のない普通の人間もいるんだ。爆発に巻き込まれたら死ぬんだよ。それが楽しいっていうの? 自分の犯そうとした罪を思い知れ大馬鹿者。だいたい――」
「ちゃんと聞いてるのかなぁ? アンタ、かなり危険なことを企てたよねぇ。しらばっくれてもムダだよぉ。ちゃんとわかってるんだ。食べ物の屋台に火をつけようとしたよなぁっ!!」
 説教を担当したのは主にエミリオとラダだった。これはほんの一部。長い長い説教の一部でしかなかった。

 エリーはエプロンをつけるミサを見てなにをするのかがわかり、自身もエプロンを付けた。
「いいんですかエリーさん。私に付き合わなくても……」
「うふふ~いいんですよ。お互い、相方の説教が終わるまでまだまだかかりそうですから」
 二人は屋台のなかに入った。エリーは屋台の大人に紺二郎が離れることを説明し、ミサは紺二郎に話しかけた。
「コンジ君、屋台は私達が手伝うからフウリちゃんとお祭りに行っておいで」
「え、でも……」
「コンジ君いつも仕事頑張ってるんだからたまには遊んでもいいと思うよ
ほら、フウリちゃんも」
 エリーは屋台の傍で隠れるようにしていたフウリを呼ぶ。
「2人仲良く、ね?」
「……コンジ」
「……ほら。はぐれたら困るだろ」
 紺二郎はフウリに手をさしだす。フウリは涙を拭き、ゆっくりと紺二郎の手を握った。
「一件落着、だな」
「そうですね」
「だから、そっちに歩いていくな」
 スズアキは紺二郎とフウリのもとに行こうとする都を止めていた。
「なぜ止めるのです。私はちょっと二人の純情な恋にアドバイスを」
「よし、じゃあもう一回だけ聞いてやろう。なんてアドバイスする気だ都?」
「フウリちゃん、仲良くなりたいときはアタックするのみです」
「うんうん」
「結婚してくださいと」
「段階飛びすぎだろ!」
 これが、スズアキが都を引き止めていた理由だった。
「普通、友達になってくださいからだろ」
「あぁ、なるほど。ちょっと焦ってしまいました」
 二人がコントをしている間に、紺二郎とフウリはすっかりといなくなってしまっていた。

「ん、もうこんな時間か。まだ説教したりないが、ここら辺で勘弁してあげるよ」
「反省した? もう二度とこんなことしちゃあ駄目だよぉ」
 エミリオとラダの説教は、二時間近くにわたるものだった。
 禍斗は、すっかりと憔悴しきっていた。
「はい……もう、しません」
「うん。わかったならいいよ。ミサ、もう客も減ってきているし、屋台は任せて二人で回ろう」
「うん、エミリオさん!」
「エリーエリー! 屋台がしまらないうちに、見て回ろうよぉ!」
「うふふ~しょうがないですね」
 祭りも終盤に近づき、屋台の客足も減ってきていた。もう手伝いはいらないと屋台の人にも言われ、ウィンクルム達はようやく気兼ねなく祭りをみることができるようになった。
「あ、みなさん少々お待ちを」
 いつのまにかいなくなったように思えた都とスズアキが戻ってきていた。
「少年少女がな、お礼したいってよ」
 紺二郎とフウリが駆け寄ってきた。二人の両手にはいっぱいにお菓子が持たれていた。
「これ、お礼!」
 ウィンクルム達ははじめ遠慮した。ちょっとのお菓子をもらい、あとは君たちでと言おうとした。
 しかし、よく考えて気づいた。両手がふさがっていては、手が繋げない。
 だからウィンクルム達は、紺二郎とフウリが掲げたすべてのお菓子を受け取った。
「おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとー!」
 紺二郎とフウリは祭りの中に消えていった。二人の手はお菓子ではなく、違うものが握られていた。


(このリザルトノベルは、タクジンマスターが代筆いたしました。)



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 椎田
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 日常
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 4
報酬 ほんの少し
リリース日 08月19日
出発日 08月25日 00:00
予定納品日 09月04日

参加者

会議室

  • [7]都 天音

    2014/08/24-18:07 

    こちらこそよろしくお願いします。
    呼び方はお好きなようにどうぞですよ。

    カウンタースキルが2つもあればとても心強いです。
    有事の際はお二人ともよろしくお願いします。
    こちらは特にスキルはないので、戦闘になった際は集まっていたお客さんなどの避難誘導にあたろうかなと思っています。
    いざとなったら体当たりでもなんでもして頑張ってくれるそうです。

    あ、そういえば持ち込みは制限があるんでしたね。
    油を扱うお店なら備え付けで準備されているかもしれないので事前に確認しておこうかと思います。
    と、思いましたが火はPL情報でしたね。なんとか落とし込んできます。

  • [6]ミサ・フルール

    2014/08/24-17:26 

    仲間が増えた!
    嬉しいな、初めまして(にこ)
    都さん・・・天音ちゃんって読んで平気かな?
    エリーさんも、改めてよろしくお願いします(ぺこり)

    >インカム
    なら一通り巡回して合流する際にインカムをはずしましょうか。

    渦斗の性格ならしらばっくれる可能性十分にありえるよね。
    大惨事にならないようにスキルでの阻止頑張るよ、エミリオさんが!(ぐっ)

    本日出発ギリギリまで起きてようと思うので(寝落ちしてたらごめんなさい)それまでちょくちょく会議室覗きますね。

  • [5]エリー・アッシェン

    2014/08/24-17:14 

    ミサ・フルールさん、インカムありがとうございます。とても助かります!
    都 天音さん、はじめまして! いっしょに頑張りましょう~。

    渦斗の件、了解です。命まで奪わずに、生かしたまま観念させる感じですね。
    ユニゾンほど強力ではありませんが、シンクロサモナーのスキルにもカウンター技があるのでそれをセットしておきますね。
    渦斗は「火を吹くことも出来ますが、炎を喰らう事のほうが得意」とあるので、もしアイテム持ち込みで消火器が用意できず、なおかつ火災が発生した場合、渦斗に責任をとって炎を全部喰らってもらえないかと考えています。

  • [4]都 天音

    2014/08/24-12:39 

    はじめまして、都 天音です。
    もう時間がないですが、よろしくお願いします。

    アッシェンさんはまとめありがとうございます。私もその流れでいいと思います。
    あと見回り案にも賛成です。
    狸囃子も行われていて人が集まっているようで、妖怪が関わっていそうと目星はつけ易そうですし。
    現在3組ですが、祭りの広さの規模がわかりませんし見回りは全員ばらばらにでいいんじゃないかなと思います。

    フルールさんはインカムありがとうございます。
    見回りの体ですからつけていても不自然にはならないと思います。
    ただ、妖怪側に見られるとウィンクルムがいると警戒されてしまうかもなので渦斗の目星がついたら外しちゃう方がいいかなと思いました。

    >放火を防ぐ
    ユニゾン、調べてきましたが強力ですね。
    悪意のある攻撃を反撃できるのなら効果がありそうですしとても心強いと思います。

    渦斗に真相をはかせるにはかなりぎりぎりまでおびき寄せる必要がありそうですね。
    フウリには人を集めたらイイモノを見せてやる、とまでしか言っていないのでまだ事が起こっていない状態で捕まえるとしらばっくれられる可能性があると思います。
    フウリは純粋そうな雰囲気なので渦斗は悪い人って事を目視させないと庇ってしまうかもしれません。
    なので個人的には渦斗に悪事を行わせてユニゾンで反撃の流れが理想かと考えてます。

    私も渦斗は捕まえてお説教の流れでいいと思います。

  • [3]ミサ・フルール

    2014/08/24-11:53 

    こんにちは!
    昨夜 書き込みしていたのですが、勘違いしている箇所を発見したので削除しました。すみません。

    見回りして情報収集する案賛成です!
    なら最初見回りは二手に分かれた方がいいんでしょうか。
    その場合は私インカムを全員分用意して配りますね。

    >放火を防ぐ
    エミリオさんのカウンタースキル『ユニゾン』で止めようと考えています。
    万が一引火した時の為に消火器の用意と、情報収集した際に消防署に連絡してみてもいいんじゃないかと思いました。

    その後エミリオさんには体術で渦斗を気絶させてもらって、彼が目覚めたらキツく説教しようと考えていますがどうでしょうか?

    指摘大歓迎なので、何かあれば教えてください。
    白紙提出を避ける為にひとまず仮プランを仕上げちゃいますね。
    後でエリーさんの意見を聞いた上でプランを調整したいと思います。

  • [1]エリー・アッシェン

    2014/08/24-00:55 

    うふふ……。エリー・アッシェンと申します。
    本日中に作戦をまとめる必要がありますので、思いついたことをとにかく書いてみますね。



    以下、メタ発言を含みます。

    A.R.O.A.への正式な依頼ではないため、PCたちが積極的に事件に関わる必要があります。またプロローグにあるフウリ、コンジ、渦斗、それぞれの心情などは、PCが事前情報としてしる手段はなさそうです……。PLがしっている情報=PCがしっている情報ではないため、プランを書く時はその点も考慮する必要がありますね。

    大まかな流れを考えてみました。ご指摘、ツッコミ大歓迎です。

    ・妖怪の妨害が相次ぐ紅月ノ神社の状況から、PCたちは自主的に見回りをしている。
    ・「最近、変わったことはなかったか」など、コンジに話しかける。狸囃子など、少しでもフウリや渦斗に繋がる情報を聞き出す。フウリのちょっかいで、コンジの周りでは色々と変わったことが起きているはず。情報収集で不審に感じたウィンクルムは、油揚げの屋台周辺の警備を強める。
    ・渦斗が悪事を働いたら戦う。できれば屋台への放火される前に被害を防げれば良いのですが、そのための具体的な方法はちょっと頭に浮かんできません。
    ・フウリから事情を聞き、渦斗に悪用されただけだとわかったら、彼女の心のフォローやコンジとの恋を応援する。


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