プロローグ
●たぬき、参上する
それは鎮守の森にて、人間を恨む妖怪たちが炎龍王にひれ伏していた場面でのこと。
「炎龍王様! 私は、屋台を小豆まみれにしてやります!」
「炎龍王様、わしはとおせんぼをして、人間どもを夏祭り会場に来られなくしてやります!」
妖怪たちの声が次々と響く。
そんな中、出し抜けに、ぽぽーん! というちょっと間の抜けた音が響いた。
胴長短足にも拘わらず、ひらり、華麗な空中一回転を決め、さっ!と炎龍王の前にひれ伏したのは、茶色の体に目のまわりと四肢の黒い、愛嬌あるふかふかの獣。甲高い声で、
「炎龍王様! わたくしも炎龍王様のお力になるべく、参上つかまつりました!
聞くところによれば、こしゃくな妖狐どもが応援を頼んだ、ういんくるむ、とかいう連中は、恋仲どうし懸想しあうことで力を高めるという、まことにけしからん妖術を用いるとのことです!」
それを聞いていた周りの妖怪のうち、恋人いない歴イコール年齢な妖怪の目に、ういんくるむとやらに対するあからさまな敵意の色が浮かんだ。
「そこで、わたくしが変化の術を用い、ういんくるむどもの仲をめちゃめちゃに引き裂いてまいります!」
おー、と妖怪たちから賛辞の声が上がった。
炎龍王は目を細めた。それを肯定の返事と受けとったたぬきは、嬉しそうにもう一度腹鼓を打つと、またくるりと一回転して、それから風のように走り去った。
●たぬき、暗躍する
夏祭りの会場は沢山の人でごった返していた。
次第に夜の色の濃くなる暗がりに灯りがともされれば、屋台の群は闇の中に浮き上がるようで、幻想的な雰囲気に包まれる。
妖怪たちの妨害はあっても、やはり祭りは特別なもの。普段の日常から解放されて、大人たちも子供のような顔をしている。
楽しげに行き交う人々を見守るのは、瞬きはじめた星々と、北の空にぽかり、ウィンクルムにしか見えない、赤い月。
わたあめ、たこ焼き、焼きそば、金魚すくい。
ヨーヨー釣りに射的にリンゴ飴……。
どこからか、祭りばやしの笛の音。
今夜、一緒に祭に遊びに来て、先ほどまで隣を歩いていた精霊は、今は少しの間そばを離れて、屋台で買い物をしていた。
「やあ、待たせたね」
精霊の声が聞こえた。しかし、いつもとはほんの少し、雰囲気が違うようだ。
声がした方を見ると、にこりと笑った精霊の姿。しかし注意深い人なら、お尻にふさふさとした黒と茶色のしっぽが生えているのに気がつくだろう。
「手、つなごうよ」
神人の驚きを知ってか知らずか、精霊の姿をしたたぬきは、相変わらずにこにこしながら手を差し出した。
解説
夏祭りデートに闖入者です。
●化けだぬき
あなたの精霊の姿に化けていますが、しっぽはたぬきのまま。人懐っこく優しい性格で、あなたとデートをしたがっています。
目立ちたがりで、炎龍王の前では啖呵を切りましたが、本当は人間の女の子とデートしたいだけの、ただのいたずらたぬきです。
戦闘能力はなく、びびるとたぬきに戻ります。
●手をつなぐ場合
手をつなぐと10分ほどの間、二人はパートナーの精霊から姿が見えなくなります。一度手をつなげば、手を離しても見えない効果は持続します。10分たつとたぬきはどこかに消えてしまいます。
突然神人が10分もいなくなるのですから、本物のパートナーは相当心配するでしょう。あとでフォローしてあげてくださいね。
●手をつながない場合
すぐに精霊に見つかります。たぬきは精霊が帰ってきても、自分が本物だと言い張ります。たぬきは自分の変身は完璧だと思っています。
●付近にある屋台
色々なものが売っています。変わり種もあります。
・ひんやりわたあめ(かき氷のように冷たいのに溶けません) 150Jr
・たこ焼き 40Jr
・ジャンボたこ焼き(ジャガイモサイズ) 120Jr
・焼きそば 50Jr
・ヨーヨー釣り(暗がりで光ります) 70Jr
・射的(4回) 50Jr
・リンゴ飴(表面が七色に変化) 150Jr
ただし、たぬきは射的の鉄砲を怖がります。
近くには、少し雑踏から離れた場所に、ゆっくりできるベンチもあります。
●遊び方
だまされたフリして、あるいは本当に気がつかずに、たぬきと手をつないで、しばし普段と違った彼とデートを楽しむもよし。
あるいは手をつながないで、同じ顔の二人があなたを取りあうのもよし。
二人してたぬきをとっちめ、妖狐の前に突き出すのもいいでしょう。
たぬきをさっさと追い払い、あとは普通のデートを楽しまれてもかまいません。
ゲームマスターより
お初にお目にかかります。蒼鷹(おおたか)です。
たぬきと仲良くなっても、本物の精霊との親密度は上がりませんので、必ず後で本物をかまってあげてくださいね。
真夏の夜の、いつもとは違ったデートをお楽しみください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
月野 輝(アルベルト)
アル、何か口調が変ね それに笑顔が爽やか?? って、あら、尻尾…遊んで欲しいのかしら? いいわよ、じゃあ手繋ぐ? 狸さん、バレてないと思ってるのかしら かわいい それに、こんな屈託のない人懐っこいアルなんて新鮮 ちょっと楽しい …でも、何だか (10分経過後、バイバイ狸さん、と手を振り) アル? もしかして心配した?(頬を引っ張り ああ、ごめんなさい、本物のアルよね 貴方はこうでなくちゃ くすくすと笑う 狸さんの化けたアルの方がとてもいい人そうだったのに 私、今とても安心してる 我慢しなくていいと言ってくれた人 この人の隣が私の居場所なんだって思ってる… (手を繋がれそっと寄り添い 心配掛けちゃったし、私傲るわ(ひんやりわたあめ購入 |
手屋 笹(カガヤ・アクショア)
人混みで疲れてしまいましたね…。 あ、いいんですか…? それじゃお言葉に甘えて待っています。 あら…カガヤ随分早かったですね…? …何だか雰囲気が違う気がしますが …本当にいつものカガヤですか? (手を繋ぎそうになるも本来のカガヤに気付き 手を伸ばすのを止める) えっと…何が何だかという気もしますが …あなた(たぬきに向かって)はカガヤじゃありませんね? ちょっと間抜けで飾れない純粋さんがカガヤなので。 カガヤの方へ寄り手を取りましょう。 あら…よく見たら尻尾が…なるほどそういうことですか。 カガヤ、偽物さんを捕まえて下さい。 恐らくたぬきさんですね。 ひんやりわたあめを奢りなおして頂きましょう! 服装:白地に青い朝顔の浴衣 |
ペシェ(フランペティル)
フランがリンゴ飴を買いに行ってる間に遭遇 たこ焼きとわたあめで両手が塞がってるから手は繋げません 尻尾も違うし獣臭いし肉呼ばわりしない!ので偽物ですね ナルシストなフランは同じ顔の偽物が気に入った様です 三人で縁日を回ることに 偽物さんに持たせたわたあめにかぶりつきます それを見たフランも私にリンゴ飴を差し出したのでこちらもかじります 甘くておいしくて幸せ! ヨーヨー釣りは1つしか取れませんでした… 射的屋の側に来ると偽物さんが怯えたのでベンチで休みます 目的を聞きます 悪い人ではなさそうですが… 悪さをしないと言うなら三人で楽しかったお礼にヨーヨーをあげます 反抗的なら制裁(参加エピ7参照)後、妖狐に突き出します |
ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
何か悪いものでも食べたの…? 訝しみつつ手を繋ぐ 玩具?尻尾握る アルヴィン…2人? じーっと狸見ながら貴方…誰? 狸?悪い人じゃなさそうね ちょっと隠れなさい、え、見えない? 精霊に手を振ったりしながら …ぜんっぜん、心配してなそうだけど…ふーん…へ~… デート…尻尾触らせてくれたらいいわよ?その姿はやめてね もふもふ…テイルズいいなぁ 楽しくタコヤキ食べる 変な悪戯やめなさいよ? 10分経過したら脅かしてみる いったいー不可抗力よっ!……怒ってるの? 貴方そんなに心配そうじゃなかったじゃない ぐいっとされて事情を説明する ぷいと横を向き…悪かったわよ …少し悪戯したくなっただけよ 背中を向け 髪の毛、ぐちゃぐちゃ…挿してくれる? |
●たぬき、狙いを定める
黄昏時の夏祭り会場を、たぬきは一匹物陰から眺めていた。
「さて、誰にするか……」
たぬきの目は小柄な少女に惹きつけられた。白地に青い朝顔の浴衣に、緑の長髪がよく映える。暗がりに雪駄の音が愛らしく響く。
「可愛いなぁ。あの娘に決めた!」
●カガヤ・アクショア、怪奇現象を目撃する
真夏の日暮れ時を楽しむ客は多く、道はかなり混みあっていた。手屋 笹はふぅ、とため息をついた。
(人混みで疲れてしまいましたね……)
そんな笹の表情をちら、とのぞきこんで、紺色の甚平姿の精霊、カガヤが話しかける。
「疲れちゃった?」
笹が頷くと、
「そっか、それじゃ笹ちゃんここに居なよ。なんか冷たいものでも買ってくるよ」
「あ、いいんですか……? それじゃお言葉に甘えて待っています」
笹はほっと息をついた。カガヤのくるんとした尻尾が雑踏に消えると、しかしほとんど待たずに、自分を呼ぶ彼の声がする。
「あら? カガヤ随分早かったですね……?」
「うん、並ばずに買えたんだ」
カガヤ、片手に二本、ひんやりわたあめを持ち、にこにこ笑って空いた手を差し出してくる。
何かおかしい。
「……なんだか雰囲気が違う気がしますが、本当にいつものカガヤですか?」
「やだな、笹ちゃん。いつもの俺だよ」
偽物、攻勢をかける。強引にでも手を握ればこちらのものである。
笹は小首を傾げながら手をつなごうとしたが、やはり何か引っかかってその動きを鈍らせた。そのとき、
「え……? 俺がもう一人……?」
明らかにショックを受けた『彼』の声。そちらを見れば、目を点にしたもう一人のカガヤ。その手から二本のわたあめがこぼれ落ちた。手を差し出した方のカガヤ、すかさず、
「な、なんだあれは! 俺の偽物がいる!」
「ど……」
もう一人のカガヤ、呆然としつつ、出し抜けに、
「ドッペルゲンガーだあああああああーーーーー!!!!!」
絶叫する。周囲の人、びっくり。
「わっ、あれは何だ、同じ顔が二人居るぞ?!」
ざわざわ。
「た、確か自分のドッペルゲンガー見ると死ぬとかだったっけ!? ああああ……」
がっくりと地面に崩れ落ち、しゃがみこむカガヤ。
「笹ちゃん! 騙されるな、こいつは……」
「どうしよう……俺、死ぬのかな(ずどーん)」
「ってか人の話を聞け偽物!!」
驚く周囲の視線は、やがてその二人を交互にじっと見比べている少女の真剣な視線に吸い寄せられた。
笹、やがて心得たように頷くと、伸ばしかけた手を引っこめ、立っている方の彼に、
「えっと……何が何だかという気もしますが、あなたはカガヤじゃありませんね?」
びしっ、と断じた。うっ、と言葉を詰まらせる偽物。笹は地面に崩れているカガヤに近寄り、
「ちょっと間抜けで飾れない純粋さんがカガヤです」
そのとき、本物のカガヤはショックのあまり、周囲の話など全く聞いていなかった。
(死ぬ……俺は死ぬ……)
走馬燈のように駆けめぐるこれまでの人生。なんと短く、楽しい時間。ときに辛く、しかしすべてが美しかったことか。
従兄弟の思い出……雄々しくオーガと戦った記憶……笹ちゃんと過ごした日々……。
……笹ちゃん?
小さな、温かい手が彼の手に触れた。ふっ、と、魔法が解けるように意識が覚醒してくる。
顔を上げた彼の翠の瞳の正面に、笹の黒い瞳があった。
「あれ……笹ちゃん? もう一人の俺は?」
笹はくるっと偽物を振り返り、
「よく見たら尻尾が……なるほどそういうことですか」
「え、笹ちゃんこいつが何なのかわかったの? ドッペルゲンガーじゃない?」
「おそらく、たぬきさんですね」
「いや、笹ちゃん、えーと、あの……」
弁解しようのない偽物。
「なんだ、たぬきか」
「いたずら野郎め」
周囲の屋台から妖狐が飛び出し、腕まくりをしている。偽物、じりじりと後退。
「カガヤ、偽物さんを捕まえてください。ひんやりわたあめを奢りなおして頂きましょう!」
「よっしゃあ! それじゃ捕まえてくるよ!」
偽物、わたあめを取り落とすと、それはひらりと二枚の葉っぱに変わった。くるりと背を向け、走り出すと、みるみる獣に変化する。
「笹ちゃんの言うとおりだ! 逃がさないぞ!」
たぬきと精霊の全力疾走のレースが始まった!
数分後、カガヤは息を切らして戻ってきた。人混みで思うように走れなかったようだ。
「ごめん、見失っちゃった」
「困ったたぬきさんですね」
「それにしても、笹ちゃん、よくすぐ偽物がどっちかわかったね」
笹が偽物を見抜いたのは、尻尾に気がつく前だったのだ。笹は微笑んだ。
「私が、カガヤを見間違うはずがありませんわ」
たとえ、尻尾まで同じだったとしても、きっとわかるから。
●たぬき、気を取り直す
「はぁ~。びっくりした。カガヤって奴、人間の速さじゃないよ……」
精霊ですからね。
たぬきはとぼとぼ歩いていた。途中で柳の木に化けてなんとか追跡をまいたのだ。
「終わった恋にすがってもしかたない。次はもっとうまくやるぞ」
闘志に燃えるたぬきが次に見惚れたのは、可憐な、大人びた少女。黒い長髪の上で髪飾りの金魚がゆらり、揺れる。
「すてきだ。あの娘に決めた!」
●月野 輝、化かされてみる
輝はきょとんとして、アルベルト?の笑顔と差し出された手を交互に眺めた。口調が変だ。それに笑顔が爽やかすぎる。
(って、あら……)
よく見れば、マキナにあるはずのないふさふさ尻尾。
輝の口の端に笑みが浮かんだ。彼女にはわかってしまったのだ。彼が偽物であることも、その正体も。そして偽物の人懐っこい瞳が、害をなす妖怪のような、危険な悪意を持っていないことも。
(遊んでほしいのかしら?)
「いいわよ、じゃあ手繋ぐ?」
たぬきとわかっていながら、あえて手を繋ぐ輝は大物であろう。たぬきは無邪気に喜んだ。輝にもそれが伝わるくらいに。
「疲れてない? そっちのベンチで少し休もうか」
紳士の優雅さで輝をエスコートしてベンチへ向かう。
アルベルトはたこ焼きを手にあたりを見回していた。輝が居ない。念のため、五分待ってみたが戻らない。
(おかしいですね)
大したことはない、という直感と、妖怪が妨害している祭りだ、何かあったのかもしれないという不安。精霊は感覚であたりに神人がいることがわかる。この近くに彼女はいる。なのに見えない。
じわり、わずかな焦りがアルベルトの眼鏡の奥、黄金色の瞳に浮かんだ。
「輝、こうして少し離れると、灯りがきれいだね」
ふわり、狐がともした屋台の灯りは夜を幻想的に彩る。嬉しそうに微笑む偽物に、輝はそうね、と微笑み返す。しかし笑う理由は別のことだ。
(たぬきさん、バレてないと思ってるのかしら。かわいい)
「輝と一緒に見るから、こんなに綺麗なんだろうね」
こんな屈託のない、人懐っこいアルなんて新鮮だ。ちょっと楽しい。
(……でも、なんだか)
少し視線を落とした輝に、優しく声がかかる。
「ありがとう、輝。今夜は楽しかった」
ふっと顔を上げると、アルベルトの姿はなかった。輝は少し戸惑ってから、バイバイたぬきさん、と手を振った。
「アル?」
ついに探していた人の声がして、アルベルトは振り返った。その顔に、安堵の色の次に浮かんだのは、黒いオーラの滲み出る笑顔。
「どうして黙っていなくなるんですか。理由があるなら聞きましょう。納得のいく理由をお願いしますよ」
いつもの彼だ。輝は改めてそれを確かめるように、彼の頬を引っ張った。
「もしかして心配した?」
常ならぬ行動に驚いたのはアルベルトである。
「何をするんですか。まさか頭がどうかしたのでは……」
違う意味で心配する彼に、輝はくすくす笑った。溢れるように胸に押し寄せる安堵。
「ああ、ごめんなさい。本物のアルよね。あなたはこうでなくちゃ」
そして事情を打ち明ければ、危険かもしれないたぬきの誘いに乗ったことを黒笑顔でちくちく責められる輝だった。
「たまたま害のない妖怪だったからよかったものを。何を考えているのですか」
そして手が差し出される。
「また勝手にいなくなられては困ります」
輝は微笑んで手を取った。今度は本物の手を。
ああ、これが本物の手だ。我慢しなくてもいいと言ってくれた人の。この人の隣が私の居場所なんだって思ってる……。
そっとそばに寄り添えば、安堵感が身を包んで。
(たぬきさん化けたアルの方がとてもいい人そうだったのにね)
アルベルトは彼女の方から寄り添ってきたのに少々驚いたが、不思議な満足感を味わっていた。
(時間にしたらたかだか10分。私はどうしてあそこまで焦ったのでしょうね)
アルベルトは自問した。それは、彼女が小さな子供だったときの記憶を重ねたから? それとも、別の気持ちの変化なのだろうか?
この屋台のわたあめは狐のひんやりわたあめ、甘いのに冷えている。かき氷みたいなのに溶けない。
私奢るわ、といって輝が購入したわたあめ。差し出してくる輝に、
「では、同時に両側から食べましょうか」
とアルベルト。輝が焦るのを見て楽しそうに笑む。からかいなのか、本気なのか。
赤くなりながら、輝がわたあめの片方に口を付けると、アルベルトもその反対側の端に口づける。直に口づけするように優しく。
溶けないはずの凍ったわたあめは、口の中では甘くとろけた。
●たぬき、心から満足する
たぬきとしてはもっと輝と居たかったが、彼の妖力では見えない術と変化の術の併用は10分が限界なのだ。
「嬉しいなぁ。調子が出たところで、次!」
切り替えの早い浮気性たぬきだった。
「生き生きした瞳が可愛いなぁ」
次に目を奪われたのもやはり黒髪黒目、簪を挿した細身の娘であった。
●ミオン・キャロル、悪戯する
「何か悪いものでも食べたの……?」
ミオンは訝しみつつも、アルヴィン・ブラッドローは元々笑顔の似合う男である、素直に手をつないだ。おかしな特徴に気がついたのは、その後だ。
「尻尾? 玩具?」
「わっ、ちょっ、やめろっ、何すんだっ……」
不意に尻尾を捕まれて偽アルヴィン、あわあわする。どうやら付けているのではなく、生えているようだ。
「アルヴィン……二人?」
ミオン、じーっと偽物を見て、
「貴方……誰?」
「え、だから、俺はアルヴィンだよ」
ミオン、軽い首振りでその主張を一蹴。
「たぬき、なの? 悪い人じゃなさそうだけど」
と、屋台から本物のアルヴィンが出てくるのが見えた。ミオンの心にちょっとした悪戯心が生まれた。
「ちょっと隠れなさい」
偽物の手を引っ張って隠れようとするが、
「あ、大丈夫だよ、あっちには見えないから。10分くらいは」
「そうなの?」
ミオン、手を振ってみる。本当に見えていないみたいだ。
「本当だ」
「うん、すごいだろ? ていうかさ、バレちゃったけど、デートしてくれない?」
「デート? 尻尾触らせてくれたらいいわよ? でも、その姿はやめてね」
「えーっ」
偽アルヴィン、ふくれっ面。
「おれ、この格好がいいんだけど」
「じゃあ、遊んであげない」
偽物はしばらく考えたが、ぽん、とたぬきの姿に戻った。
一人と一匹はベンチでたこ焼きを食べた。あつあつのたこ焼きをはふっ、はふっ、とたぬきが頬張れば、ミオンが、テイルズいいなぁ、と尻尾をもふもふする。変な悪戯やめなさいよ? の言葉には、たぬき、小さな舌をべーっと出した。デートというより、完全にペットと飼い主がいる光景だ。
すぐそばで、本物のアルヴィンが腕を組んで木にもたれながら雑踏を眺めていた。変わらないその表情に、ミオンは、
「ぜんっぜん、心配してなさそうだけど……ふーん……へ~……」
たぬき、これには反論する。
「そんなことないよ。あの顔は心配してる顔だよ。男のプライドで顔に出すのが嫌なんだよ」
「そっかなぁ……」
「そうだよ。たこ焼きごちそうさま。ちゃんとフォローするんだよ?」
たぬき、念を押すと、くるりと宙返りしてぱっと消えた。アルヴィンが気づいていない様子なので、ミオンは木の後ろからそっと回り込んだ。
「わっ!!」
「っ?!」
一瞬驚いたアルヴィンだったが、すぐ真顔に戻り、少々低い声で、
「……見てたら声かけろよ」
真顔で頭をぐしゃっとしてくる。少し痛むくらいに。
「ちょ、いったーいっ不可抗力よ! 怒ってるの? 貴方そんなに心配そうじゃなかったじゃない」
反論には無言。これが本当は一番怖い。ポーカーフェイスの裏で、内心何やってるんだあいつは、とむーっとしていた青年はなおもミオンの頭をぐしゃっと掴んだ。
(怒ってる。それもかなり怒ってる!)
そんなミオンの胸中をよそに、そのまま頭と背中が直角になるくらいぐりぐり。
「うぅ……ごめん……なさい」
上目使いに潤んだ目で謝れば、アルヴィンは気が済んだらしく手を離した。
「何があったんだよ」
ミオン、事情を話して、
「……そんなわけで、手を握った後に気がついたの。わざとやったんじゃないんだから。ついでに少し悪戯したくなっただけよ」
こんなに怒るとは思っていなかったのだ。ちょっとした罪悪感に、ぷい、と横を向いて視線を逸らした。悪かったわよ、と一言。一拍おいてその返事は。
「わたあめ、奢れよ」
振り返れば、いつものアルヴィンの茶色い瞳と目があった。引きずらないのが彼の善さなのだ。ほっと、ミオンの心に安堵が広がる。
「髪の毛、ぐちゃぐちゃ……挿してくれる?」
自分がやったことだ、アルヴィンの手が簪に伸びる。そのうなじのほっそりとした繊細なかたちに、思わずどきりとして。
「どうしたの?」
「なんでもない。……できた。いいぜ」
少し頬を染めても、ミオンが振り向く前に朱は消えている。よし、行くか、とにこっと笑えば、ミオンはさっきの偽物の笑顔を思い出す。
(やっぱり、本物が一番よね)
屋台の裏に尻尾がちろり、見えた気がした。ちゃんと仲直りできるか、心配していたのだろう。ミオンは微笑してから、アルヴィンの後を追った。
●たぬき、初心を忘れる
「ミオンちゃんとアルヴィン、うまくいってよかったなぁ」
たぬきは安堵しながら歩いていた。炎龍王の前で言ったことは完全に忘れている。
「さて、今夜はこれが最後かな」
そして最後にたぬきが見初めたのは……。
たゆんたゆんの見事なおっぱいと、白い花柄の浴衣にオレンジの髪をお下げにした少女であった。
●フランペティル、弟ができる
二人は周辺の食べ物の美味しそうなことで盛り上がっていた。ペシェはたこ焼きとわたあめを両手ににっこりしているし、フランペティルは虹色に輝くリンゴ飴とは吾輩に相応しい! と買いに行ってしまった。
ペシェが偽物に手を差し出されたのはそんなとき。しかし彼女の手はもう塞がってしまっていた。
「尻尾も違うし獣臭いし肉呼ばわりしない! ので偽物ですね」
あっさり見抜かれて、偽物慌てる。
「そんなことないぞ?! 風呂はちゃんと入ってるし……」
感心な妖怪だが、匂いフェチのペシェの前では無力であった。たれ目の困り眉がますます寄せられ、眼鏡の奥の翠の眼光が偽物を射抜く。
「また偽物だって? 懲りないたぬきだな!」
周りの屋台から妖狐が出てきた。偽物、絶体絶命。しかし、まさにそのときだ。
「美しい!」
一同振り向けば、黄金色の瞳を輝かせたフランペティルの姿。つかつか! と偽物に歩み寄り、
「唯一無二の美の体現者たる吾輩が二人も居るとは、なんたる奇跡!」
「フラン、それ偽物ですよ」
「偽物? そんなことはどうでもいい! 肉! こっちの吾輩に手の物を寄越して我らの写真を撮るがいい!」
偽物、すっかり本物のペースで、気がつくとペシェの荷物を持たされていた。周りの人や妖狐も呆気にとられている。
「……ほ、本物がそれでいいっていうなら、捕まえなくていいかな?」
「そうだね。あ、写真、撮りますよ~」
売り子の妖狐の提案により、フランペティルとペシェと偽物は三人仲良く写真に収まった。
本物のフランペティルに気に入られたたぬきは、ペシェと三人で縁日を回ることになった。しかしフランペティルのしっかりしたところは、偽物の両手を意図して塞いで、変な妖術など使わせなかった点だ。
「偽物さん、わたあめ食べたいです」
男が苦手なペシェだが、偽物は顔がフランなので話しやすいらしい。偽物がわたあめを差し出すと、冷たいわたあめをパクリ。美味しそうににっこりする彼女の顔を見れば、本物、思わず胸の奥でちりっ、と妬いて(同じ顔でも妬くのである)、
「肉、吾輩のリンゴ飴も食べるがいい!」
と差し出した。パクリ、口にすれば、わたあめとは違った甘さにペシェの顔がほころぶ。手ずから食べるペシェの無防備な表情に照れながら、フランペティルは何ともいえない満足感を覚えた。
ぱしゃり、冷たい水の上にゆらゆらと浮かぶお祭りヨーヨー。ペシェが手にした、ティッシュのこよりの先の釣り針にかろうじて引っかかったのは、紺色の地に銀河をちりばめたものだ。
なぜこれしか釣れなかったのか。それは他の男二人の視線が、釣っているペシェの豊かな胸が、腕を上下する度にゆらゆら揺れるのに釘づけで、注意力散漫だったからだ。
隣の屋台の射的は偽物が嫌がったので、ベンチで一休みすることになった。
「ところで吾輩、なぜ吾輩に化けたりしたのだ?」
「そうですね、悪い人ではなさそうですが、返答によっては……」
フランペティル、偽物の耳に口を寄せ、
「ペシェの背面投げはすさまじいぞ、吾輩ならともかく、並の男なら二度と生きて日の目を見られんほどの威力だ……って、あだっ?! 何する肉?!」
「言い過ぎです!」
偽物、ペシェを恐怖の目で見たが、聞かれたことにはちょっと黙った。やがてぽん!、とたぬきの姿になる。
「ある妖怪のお偉いさんが、人間を困らせてほしいっていうから、そのつもりだったんだ。けど……」
たぬき、うなだれて、
「おれ、たぬきの中では目立たない顔なんだ。だから、フラン兄さんみたいな美男子になって、ペシェちゃんみたいな可愛い子とデートがしてみたかったんだ!」
「ふははは! なんと正直な! 気に入った! たぬきを弟に持った覚えはないが特別に兄と呼んでもよいぞ!」
「フラン兄さん!」
よくわからないノリで抱き合う一人と一匹。
「ならば、制裁の必要はありませんね」
ペシェ、笑って、今夜は楽しかったですよ、と告げた。フランペティルも同じく笑った。
たぬきは去っていった。フランペティルは、偽物がペシェと手をつなごうとしていたのを見て、思うところがあったらしい。
ベンチから腰を浮かしたペシェに、彼の手が伸びる。ペシェは驚いたが、やがて微笑んでその手を取った。
温かい、柔らかい手の感触。赤くなった顔を見られないようそっぽを向きながら、フランペティルはペシェと共に夜道を帰路に就いた。
●たぬきを狙う影
じゃぼん、じゃぼん。
ペシェとフランペティルからもらった、暗がりで光る紺色のヨーヨーを手首に付け、たぬきは二足歩行で嬉しそうに夜道を歩いていた。
この無邪気なたぬきに、あのような悲劇が襲いかかろうとは、そのとき誰が予想しただろうか……。
●たぬき、心を入れ替える
翌朝、たぬきは夏祭り会場近くの池で、パトロール中の妖狐により発見された。簀巻きにされたあげくドロ船に乗せられて池に沈められたのであった。
犯人は、炎龍王配下の、恋人いない歴イコール年齢の妖怪たちであった。たぬきがちゃんと仕事をするか尾行しているうちに、美男美女と夏祭りを満喫している様子にぶち切れたらしい。
親切な妖狐たちの介抱で息を吹き返したたぬきは、以後心を入れ替え、妖狐とともに、夏祭りの手伝いをするようになったとのことだ。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 蒼鷹 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 4 |
報酬 | なし |
リリース日 | 08月15日 |
出発日 | 08月21日 00:00 |
予定納品日 | 08月31日 |
参加者
会議室
-
2014/08/19-13:46
こんにちは!皆さんよろしくお願いしますね!
うふふ…お祭り、美味しそうなのがいっぱいで楽しみです!
フランが二人もいたら…
フラン「ふははははは!吾輩が二人も居れば世の女子たちが吾輩を奪い合うことも無かろう!良いことではないか!
ふははははは!」
すごく…うるさいです… -
2014/08/19-03:34
ミオンよ
たかだか10分以内くらいでアイツ心配するのかしら?
…祭りから帰りそうな気がするのだけど、私
何はともかく皆さん、よろしくお願いします(お辞儀) -
2014/08/18-12:48
手屋 笹と申します。
既に知っている方のみですね。よろしくお願いします。
お祭りに回りたいのですが、カガヤがいつもと違う雰囲気なのですよね…。
どうしたのでしょう。 -
2014/08/18-06:36
こんにちは。今回は見知った方ばかりね。
相談する事はあまり無さそうだけど、皆さんどうぞよろしくね。
たぬきさん、可愛いわよね。
ちょっと遊んであげてもいいかしら……
やりすぎると誰かさんに怒られそうだけど(笑)