プロローグ
●誘拐犯を追え
「青い瞳を持って、三毛の猫又を探しておくれ」
そう言ってやってきたのは狐の青年だった。
ただの迷子ならば、自分達でも対応できる、でも……。
と話始めたその狐曰く。
「その猫又がな、人間の子を連れさっちまうんだよ。それもな、みーんな綺麗な青い目っこの子さ」
ちなみに、妖怪の「人間の子」という表現なので、20代までは人間であれば「子供」と判定されてしまうようだ。
解せぬ……という瞳をしつつ、年若い職員はメモを取りながら詳しく聞いていく。
「これが普通の時ならいざ知らず、今は祭りだろ? なかなか仕事から手を離せないし手も足りない状態っていうわけさ。猫の手も借りたいってやつさぁね」
今ならその猫又の手も借りたいんだがね、と狐がいい、時間を気にするかのようにちらりちらりと視線を彷徨わせる。
「猫の手に例えてあんたらにゃぁ悪いが、ちょいと手伝ってくれんかね? 猫又は気が立ってるようでな、普通の人間なら怪我もする」
そこらへん、ウィンクルムの皆ならば戦闘にも慣れとるだろう? と首を傾げた。
「猫又は一時間もしたら誘拐した子供を解放はするんだがな、放置しておくわけにもいくまいて。
あんたらにお願いしたいのは、猫又が誘拐しそうならば阻止してほしいのと、猫又の捕獲。捕獲したら俺のとこに連れてきてほしいってことだな。
もしも誘拐されてる最中ならば、子供の安全もお願いするな」
まぁ、言わんでも分かるとは思うがね、と言って今一度職員と内容を確認すると、去って行った。
●依頼です
「青い瞳を持つ子供、ということですが、コンタクトでもいいそうです。青い瞳であれば、男女問わずだそうですよ。
あと、境内近くの屋台の方で目撃情報が多発されています。そこらへんで青い瞳の子を注意して見守るのか、寧ろ囮になるのかはお任せ致しますね」
職員はそう言って、たまたま捕まえたウィンクルム達にとお願いする。
「それにしても青い目の子供を連れて行くって、なんか理由でもあるんですかねー?」
しかも、一時間もしたら解放する。
一体どんな目的があるのか……。
「気になるのなら、猫又に話を聞くのもいいかもしれませんよ。
あ、そうだった、狐のお兄さんの屋台はでっかいたこ焼きですって!
こんこん焼きって大きく書かれてありますから、迷うこともないと思いますよ。
せっかくだから食べてくるといいですよ! 事件解決さえすればただらしいですよ! ただ!」
たこ焼き、たこ焼きか……。
それぞれの思いを抱えながら、祭りへと向かうのだった。
解説
なにやらわけあり猫又を捕まえて下さい!
●猫又
猫耳と二つに分かれた尻尾を装備した猫又(メス)。
青い瞳を持ち三毛猫です。
攻撃はその鋭い爪による引っ掻きです。
そんなに強くはなく、皆でかかって攻撃すれば程なく戦意を喪失するでしょう。
なにやら青い瞳の人間との間で色々あった模様。
捕獲した後は、こんこん屋の青年に引き渡して下さい。
●出没
境内の近くの屋台で目撃情報が多発しています。
●青い瞳について
OPにある通り、コンタクトで十分囮になることが出来ます。
また、20代までならば子供と判定されるようです。
●こんこん屋
狐の青年がやるでっかいたこやき屋。
そこに猫又を引き渡せばただでたこ焼き(子供の拳程度の大きさのたこ焼き)がゲットできます。
たこ焼き:
オーソドックス ネギたこ焼き ピザたこ焼き ハニーたこ焼き 激辛たこ焼き ねぎぽん(ポン酢)
デザートたこ焼き(バナナ・チョコ・カスタード・苺・マンゴー) たこせん オリジナルメニュー(自分で中身を選ぶ)
※中身を選ぶ際は、奇抜の物でない限りは大抵あります。
ゲームマスターより
お祭りと言ったらたこ焼き! な如月修羅です。
今回はちょっと分けありな猫又の捕獲をよろしくお願い致します。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
青い瞳の猫又が青い瞳の人間を探している…のか? 例えば昔大切に思ってた人間が居て、どうしても会いたい けど人間はあっという間に外見が変わるから、手がかりはもう瞳だけで…とか 違うと分かったら解放するとかそういう事かな 訳を聞きたい 力になれると良いんだが ◆行動 上記推察と目的で極力荒事にはせずに行動 ランスと分担して囮役を隠れて追跡し、猫又を待つ 囮が連れ去られたら追跡するし、話し合いに持ち込めたら俺達も参加 素早い猫又が逃げちゃわないように”退路から接近”する事で確保したい 騒いだらフライパン! 「ビックリさせたな。…ゴメンな」 「なあ、誰を探してるんだ?」と根気強く訳を聞き、説得 ★解決したらこんこん屋に連れて行く |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
トランスは最初にしておく。 境内青い目の一般客を探し囮役と同様に見まもる。 一般の子供が連れ去られるといけない。 すでに解放された子が見つかるかも? 見付けたら猫又の外見や一緒に何していたとか話を聞きたい。 屋台で猫又の目撃情報も聞き込むぜ。 猫又がどうして連れ去りしているのか気になるんだ。 連れ去る「子供」の年がいかにも子供なら 自分の子供(生き別れたとか)を探しているとか。 少年以上なら想い人を探してるかもしれないじゃん? 猫又の事情も解らないのに手荒な事したくないし。 猫又を見付けたらケイタイメールで仲間の皆にそっと知らせるぜ。 囮役に巧く接触してもらってから猫又の身柄を確保したいぜ。その方が騒ぎにならない。 |
俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
誘拐してもすぐ返してくるってことは、害意はないってことか? まあ当事者には迷惑かもしれないが、ちょっと気になるよな、理由 事前に『今誘拐されている人はいるか』の確認 解放された奴がいたらその人の話も聞いておきたい 誘拐中何があったとか、覚えていること何でもいい 何かヒントになるかも 囮役から少し離れて屋台付近を張り込み 猫又がかかったらこっそり尾行 人気を避け退路を断つ側と挟みこむ形で囲む 『誘拐の理由』『青い目の子供について』等を聞く 抵抗するようなら説得(物理)ででも トランスは最終手段 うっかり殺したら後味悪い たこ焼き食べながら猫又を見つめる …ちょっとだけもふもふできねえかな 同じこと考えてる奴、他にもいるだろ? |
ティート(梟)
なんで青い瞳の子を狙うんだ? 傷付ける為に攫ってるんじゃなさそうだし 人探しとか力になれるなら手伝ってやりたいかな …あわよくばモフりたい(本音) 俺と優純絆さんで一緒に境内の近くの屋台をうろついて囮をする ルーカスさんに言われたし、優純絆さんが無茶したりしないよう手を握って気を付けつつ。 この子は男の子男の子…(ぶつぶつ 下手に抵抗して怪我しないために猫又が接触してきたら大人しくしていよう 人気の無いところまできたらおっさん達の出番 俺は優純絆さんを庇う様にして下がる 猫又と話せたら あんたも綺麗な青い瞳なんだな、と覗き込む たこ焼きは初めて食べる 内心わくわくしながらかぶり付き熱さに涙目 …猫舌?うう、ヒリヒリする |
西園寺優純絆(ルーカス・ウェル・ファブレ)
アドリブOK 紺色和ゴス ねこまたのお姉ちゃんを見つけて、たぬきのお兄ちゃんに渡せば良いですの? そうすればたこ焼き食べれるですの!? ユズ頑張るですの! 行動 ユズはおめめが蒼いから囮になるですの! だいじょーぶ!ティートお兄ちゃんもいるもん! ん?お姉ちゃんだぁれ? ユズは西園寺優純絆なのだよ お姉ちゃんはユズ達になにか用事でもあるの? はいですの! お姉ちゃんに付いて行くです☆ ティートお兄ちゃんも行こ~!(手繋ぐ ねぇなんで青瞳の子達をゆーかいするですの? 誰か探してるの? 探し物なら手伝うよ? 理由教えてほしーな猫又お姉ちゃん(あざとく上目遣い微笑 ユズ、お姉ちゃんの力になりたいから…(ショボン ダメ?(涙目上目 |
●誘拐犯を追え!
沢山の、人、人、人。
勿論、その中には妖怪だっている。
お祭りは、盛況だった。そこかしこで楽しげな笑い声が響いている。
「まずは、今行方不明の青い瞳の子がいないかの調査ですね」
ルーカス・ウェル・ファブレが西園寺優純絆から目を離さずに言う。
(何故青い瞳の子しか連れて行かないのか……)
ルーカスの思いも気にせず、紺色の和風ゴスロリの衣装を身につけた優純絆は、ゴスロリながらも和風テイストもあり違和感なくその場の雰囲気に溶け込んでいる。
「ねこまたのお姉ちゃんを見つけて、たぬきのお兄ちゃんに渡せば良いですの? そうすればたこ焼き食べれるですの!?」
ユズ頑張るですの! と張り切る優純絆に伸ばされる指先は、転んで怪我をしてしまいそうな彼を捕えようとする。
「ユズ、食べ物で釣られるのは止めなさい」
頑張るのは良いことですが……と少々心配げに言い聞かせる。
すでにルーカスの胸には、心配の二文字がこびりついていた。
(この子は男の子男の子……)
優純絆を見ながらぶつぶつと呪文のように唱え続けるのはティートだ。
それは、それとして……と改めて思う。
「傷付ける為に攫ってるんじゃなさそうだし、人探しとか力になれるなら手伝ってやりたいかな」
「好きになった人間が青い瞳でそいつの子供を探してるとか? どうなんだろうな」
梟が推測を交えてそう言えば、とにかく。とティートがちらりとルーカスをみた。
「ティートさん、無茶させないように見てて下さい! 気付くと怪我してるので」
私がもう少し若ければ……っ! と溜息混じりに呟きつつ、ティートにと頭を下げる。
「分かった。頑張ろうな、優純絆さん」
「ティートお兄ちゃん、頑張ろうですの!」
囮として歩き出す2人を見つめ、梟も知らず息を吐いた。
「ま、迷惑な猫ちゃんは大人しくさせないとな」
そうは言いつつも、囮がティートだと思えば心配が募る。
残された2人の精霊は、つかず離れずの距離で見守るのだった。
「誘拐してもすぐ返してくるってことは、害意はないってことか?」
俊・ブルックスがそんな囮をを見ながら首を傾げる。
その言葉を受け、穏やかな笑みを浮かべたネカット・グラキエスが言う。
「いけない猫ちゃんですねえ……」
その言葉に含まれる何かに気がついたのか、俊が視線をやれば慌てたように言葉を紡ぐ。
「だ、大丈夫です、殺しませんよ? 私はただ戦闘が好きなだけですから」
その言葉に、俊は頷くに留める。
誘拐され中の子供はいないという、今は張り込みに集中しなくては……。
ただ、青い瞳の子がいれば、話も聞いてみたいと思う。
そんな隣では、屋台のおっちゃんに話を聞くセイリュー・グラシアの姿。
すでに一体化は済ませており、猫又を見なかったかと言う問いかけに首を振った。
あまりにも忙しくてそうそう見ていられないということらしい。
ありがとう、とお礼を言って引き下がり、すぐ近くにいた俊達に声をかける。
「きた?」
「いや、まだだな」
淡く光るねこじゃらしが動くのに合わせて揺れながら、ラキア・ジェイドバインが青い瞳の子を探す。
セイリュー達には、明確な指針があった。
「連れ去る『子供』の年がいかにも子供なら、自分の子供を探しているとか。少年以上なら想い人を探してるかもしれないじゃん?」
「なるほどな……」
アキ・セイジがそう言い、屋台を見ている囮達を見つめる。
あくまでも自然に、ということだろうか。
「例えば昔大切に思ってた人間が居て、どうしても会いたいけど人間はあっという間に外見が変わるから、手がかりはもう瞳だけで……とか」
そういうことかな。とアキは呟く。
風向きをみていたヴェルトール・ランスが視線をやった。
「ちょっと、こっち側だとばれるかも」
「あぁ、じゃぁあっち側に回るか」
それぞれ、囮を見失わぬよう動き出す……。
優純絆とティートは仲良く屋台を見て歩く。
勿論、周りに気を配るのも忘れてはいないが。
「あ、おいしそうなの!」
不自然にならぬ程度に楽しげにあちこちに行く優純絆を、あわててティートが止める。
まだ、現れない……。
セイリューの尽力により一緒に猫又と過ごしたという話だけではなく、子供も見つかった。
流石に全員を捕まえるのは無理だったため、その子に詳しく話を聞いてみる。
小さな子供も、人からすれば青年と呼ばれる年代も見られ、少なくとも年齢から何かを察するのは厳しいようだ。
「誘拐中何があったとか、覚えていること何でもいい」
教えてくれないかという俊の質問に、子供は簡素に答えを返す。
「一緒に遊んだ、と……それだけかな?」
ラキアが今一度確認するのに、こくんと頷きが返る。
「……そうか、ありがとう」
じゃぁばいばい! と元気に駆け出した子供を見送るセイリューとラキアの元へ青年の方から話を聞いていたアキとヴェルトールが戻ってくれば、それにもう少し色がつく。
「貴方は違う、と言って解放された……と言っていたよ」
アキが言えば。
「……やっぱり、誰か探してるんだなー」
ヴェルトールが納得したように頷く。
そんな中、囮を見守るルーカスと梟の視線の先で、動きがあった。
ふわっふわの耳がぴくりぴくりと動き、二つに分かれた尻尾がそれぞれ別の意思を持って動いている。
「……来ましたね」
「どうみても、猫又だ」
間違いようがない、その姿にルーカスと梟が言葉を零す。
どこか鋭く、獲物を狙うような色を宿したその青い瞳が、確かにこれは猫なのだなぁ……と物語っていた。
「ねぇ、ちょっといいかしら?」
「ん? お姉ちゃんだぁれ? ユズは西園寺優純絆なのだよ。お姉ちゃんはユズ達になにか用事でもあるの?」
優純絆が上目使いで見つめながら問いかける。
そんな可愛らしい様子に警戒することなく猫又が頷く。
「ちょっと、来てほしいの。本当にちょっとだけだから、今すぐによ」
有無を言わせず優純絆の手を取る。
思った以上に強い指の力に、これが何も知らぬ子供であればちょっとという言葉についていくかもしれないし、青年であればその力で強引に連れて歩かれたかもしれない。
「はいですの! お姉ちゃんに付いて行くです☆」
ティートお兄ちゃんも行こうですよ~!
手を繋いだ三人は、再びお祭りの喧騒の中歩き出す……。
「強引というか……微妙な路線だな」
そんな三人を追いかけながら、俊が呟く。
「どちらにしても、いけない猫ちゃんですから……ちょっとお説教しないとですね」
ルーカスの言葉とは裏腹に、その瞳はどこか憂いを帯びる。
しかし、気持ちを切り替えるように今一度見つめなおし、追いかけていく……。
●誘拐犯を捕まえろ!
出来るだけ大人しくしておこう。
ティートはあえてあまり喋らなかった。
優純絆が、何か情報を得れないかと問いかけていく。
しかし、問いかけが続けば不審に思ったのだろう。猫又がどこか警戒するように眉を寄せた。
「ユズ、お姉ちゃんの力になりたいから……ダメ?」
涙目で見上げれば、ぐっと言葉に詰まる猫又。
そんな優純絆を見つめ、ルーカスは胃を抑えていた。
(……泣き落しで相手に迫る方法は誰から教わったんですか。あぁお姉様達ですかそうですか)
「ユズの性別間違え過ぎです……」
「可愛いもんなぁ」
隣で見つめていた梟が少し笑いながらそう言えば、ルーカスが頷く。
「躾し直さなくては……」
「まぁ、別にそこまで気負いしなくても」
次に続く言葉を飲み込み、緊張が走る。
流石に優純絆に危害を与えようとは思っていないようだが、尻尾はどこか不機嫌にゆらりゆらりと揺れている。
なぜ、誘拐するのか。
その言葉は飲み込み、優純絆が手をくいっと引っ張った。
「ユズ、あっちにも行ってみたい!」
優純絆が上手く誘導し、人が居ない方へと向かっていく。
人もまばらになり、猫又が2人を見つめた所でティートと視線があった。
「あんたも綺麗な青い瞳なんだな」
覗き込まれて言われたのに、猫又が青い瞳を大きく見開いた。
言葉もなく優純絆から離されたその指先が、手首を折れそうな程強く握りしめる。
「……何?」
「お姉ちゃん?」
「見つけた……」
そのまま、連れ去ろうと引っ張っていく今までにないその行動に、いち早く動いたのは梟だった。
「坊や!」
鋭いその声に、はっと猫又の動きが止まれば、すぐに割り込む面々。
俊とネカットが背後にと忍びよれば、猫又がそちらに意識を持っていかれ、その隙にティートは優純絆を連れて割り込んできたセイリューやアキたちと入れ違うように後ろに下がる。
にっこりと微笑んだネカットから放たれるオーラは、その笑顔に反して黒い。
本能が、こいつやばい! とでもいうように尻尾がぶわっとなったが、猫又にだって譲れないものがある。
人の道理で動いていない猫又にとって「自分の思い通りにならない」は少なくとも今の段階では敵としての認識にとなった。
敵ならば、思い通りにならないのならば。
「力づくでも、思い通りにさせる!!」
激昂した猫又の鋭い爪が邪魔をした梟の腕を切り裂き血がぱっと舞う。
それは、普通の猫がひっかいたソレよりも、もう少し深く。
本当に軽くさすった感じではあったのだが、流石に妖怪ともなれば力加減も違うのだろう。
確かに怪我は怪我だが、デミ・オーガやオーガと戦うことにもなるウィンクルム達からすれば、まったくといっていいほどかすり傷だった。
「……!」
けれど、猫又はその血を見ればどこかはっとしたように瞳を見開く。
わずかに理性を取り戻したかのように見えた猫又にヴェルトールの声がかかる。
「敵じゃないぞ、味方だぞ」
宥めるように抱きしめれられて、猫又の尻尾がぶわっとなった。
流石に驚いたのだろう。フシャーっと声をあげる猫又に笑う。
「食べない食べない」
俺が食べるのはセイジだし、と言うのに優純絆がきょとんと見詰める。
ルーカスがそっとそんな優純絆の耳を塞いでみた。
それでも、邪魔をするな! とばかりに立てられた爪が、フライパンにあたりカンッといい音を立てる。
「ナイス!」
さすがの猫又もそれは想像できてなかっただろう、爪を引っ込めて後ろに下がろうと見せかけたところで……。
猫又がしゅるんと消えた。
……否、猫の姿になっていた。
逃げようと算段したのだろうが、すでに包囲はされている。
退路を断つという考えで動いていた皆に隙はない。
「……」
猫又はうろうろとした後……これは無理だと判断したのだろう。
「……」
「……」
見つめあうこと暫し。
「……モフモフしたい」
「ちょっとぐらい、モフモフしてぇな」
ティートと俊のその言葉に、同じくもふもふしたい誘惑に駆られていた面々。
その気持ちを汲み取ったのか降参するように肉球を差し出す。
ちなみに、猫じゃらしにめちゃくちゃ食いついてしまった猫又が、その後自己嫌悪に襲われるという事態もあったりしたのだった……。
もふもふを堪能した暫しあと……。
少し遠くに祭りの喧騒を聴きながらラキアが梟の怪我を治療し始める。
「緩くない?」
「大丈夫だ」
少し深めの傷は、一日ぐらいは腫れてしまうだろうとのことで猫又がしゅんっとうなだれた。
「坊やは大丈夫か?」
「平気……」
心配されれば少々恥ずかしそうにティートが首を振るが、ラキアが包帯を手に覗きこむ。
「あぁ、これぐらいなら湿布を貼っておけばいいよ」
サンクチェアリを使わないですんでよかったと微笑みながら湿布を貼って行く。
そんな2人の様子に猫又がそわそわと尻尾を揺らめかした。
「おっさんも坊やも平気だ。お前さんは怪我をしてないか?」
包帯の巻かれた腕をみせて、治療してもらったから大丈夫だと伝えれば少しだけ安心したように尻尾を揺らす。
「私は怪我はしてないから平気だよ……それにしても、皆、すまなかったね」
頭を下げる猫又に、アキが問いかける。
「なあ、誰を探してるんだ?」
答えが返ってこなければ根気よく……そうも思っていたが、大人しくなった猫又はすんなりと唇を開く。
その唇から紡がれる遠い昔の出来事はどこか悲しくも優しい恋物語だ。
種族を超えて愛し合った人間の子の瞳は青かった、と。
「それにしては、ばらばらだったみたいだけど……」
セイリューが首を傾げれば、猫又が笑う。
「私が覚えているあの人は、 いつだって子供さね」
言い方を変えれば、「子供時代しか知らない想い人」なのかもしれない。
ネカットは、その「年月」を思う。出来れば一緒に探してあげたかったけれど。
(その人は……もう)
「待っていて、と言ったあの人は戻ってこなかった。だから、もう待つのはやめたんだ」
「待つのをやめた……か」
ティートの言葉に頷けば、私から、動けばいいと気が付いたんだと答えが返る。
「じゃぁ、探し始めたばっかりなのー?」
優純絆の言葉には首が振られた。
「久しぶりに里に下りたら、もうなにもかも変わっていたよ」
「一体どのくらい前の話か分かります?」
猫又の言葉にルーカスが問えばそれに猫又が眉を寄せる。
「春が10が来た頃にはもう数えるのをやめたね」
「……よく、抱きしめて頭撫でれたな……」
「……そこは、ほら、猫の本能が強かったみたいだし」
アキとヴェルトールの会話がこっそりと交わされる。
とはいえ、いくら妖怪だとはいえども女性に対して年齢のことは禁句だろうか。
「ということは、少なくとも十年以上は立ってるってことだな」
梟が確認するように言えば、そうなるねぇと答えが返った。
「本人だと思って声をかけてたのか?」
春を10も数えた割には、なぜに若い子を? という俊の問いに、猫又が唸った。
「人間は年を重ねるのだったね」
そんな当たり前のことも忘れるぐらい、ただただ面影を探していたのだろうか。
「じゃぁ、年を重ねた姿なんかは思いつかない感じ?」
ティートの問いかけに、暫し悩んではいるが全然でてこないようである。
「まぁ……場合によってはがらりと変わるしなぁ」
琥珀色の瞳を瞬かせ俊が呟く。
他に怪我人が居ないか見ていたラキアも話に加わった。
「探してあげたかったけれど……ちょっと、難しいかもねぇ」
聞き込みや村の役場とかで探そうと思っていたが、流石に話を聞いていれば『本人』に行きあたることはないだろう。
けれど、と思案顔だったアキが言葉を紡ぐ。
「孫とか、子供は……見つかるかもしれない」
「調べ物なら、セイジに任せればいい」
ヴェルトールの言葉にアキが頷く。
尻尾がだらんとしていた猫又が希望を見出したかのように微笑んだ。
「オレも手伝うよ」
セイリューがそういえば、ラキアも赤い髪を揺らしながら頷く。
「うん、ここまで話をきいたからね……手伝わせてもらうよ」
「私も手伝いますよ」
もう、居ないだろう思い人。
けれど、その思い人が残した『証』ならば見つけられるかもしれない。
ネカットも頷けば梟やティート達も頷く。
皆、思いは一緒だろう。
「お姉ちゃんの思い人、ユズも探すね!」
一生懸命安心させるようにそう言う優純絆を、ルーカスが瞳を細めて見守る。
猫又は、嬉しそうに微笑み、皆に頭を下げた。
そして、改めてティートに向き直る。
「ティートやらはすまなかったね。あの人も、この瞳が綺麗だと言ってくれたんだよ」
青い瞳を輝かせ、猫又が笑う。
すぐにでも行きたい所だけれど……調べるのには少々時間を取ってしまうだろう。
依頼人を放っておくわけにもいくまいと、今は終わったことを伝えに行こうと、皆、ゆっくりと歩き出した。
●さぁ、遊ぼう!
「あぁ、ありがとさんなぁ」
青年がにぃっと口元を歪めて笑う。
その笑いに猫又の耳と尻尾がぶわぁぁっとなったが、安心させるように青年が視線を寄こす。
今回のこの騒動は、被害もそこまで大きくないことから、こんこん屋での無料奉仕という形で決着を見たようだ。
「調べるのなら、俺も協力しよう」
でも今は祭りを楽しみな。
そう言って青年が焼き、猫又から渡されたたこ焼きは、外がカリカリ中がとろぉっとした極上のたこ焼きだった。
「たこ焼きはかつお多めのマヨ抜きでお願いしますね」
そんな俊の隣で頼んだネカットの要望に答えてカツオ多めのマヨ抜きたこ焼きが猫又の手から渡される。
「熱いから気をつけてね」
「えぇ」
(やっぱり猫舌なんでしょうか……)
熱い、と言うのにちょっとした疑問。
やはり猫になるからには猫舌かもしれない。
「シュン、はい、あ~んしてくださ……」
爪楊枝では役に立たないため箸でつまんだソレを俊の口元へ。
猫又の言う熱いはそこまででないかと思ったら、俊は熱さに眉をしかめた。
「あ、ごめんなさい、熱かったです?」
ちょっと涙目の俊を覗きこみながら聞く。
「出来たてなんだから熱いに決まってるだろ!」
ごめんね。と謝ればもう少したったら一口欲しい、と答えが返ったのだった。
そんな2人のやりとりを聞きながら、ティートと梟はオーソドックスなたこ焼きを手に取る。
熱いから気をつけて、と断られて寄こされたそれを、器用に口に運ぶのは梟だ。
「ん、一仕事終えた後だから美味いな」
あつあつとろりと舌に広がる美味しさに瞳を細める。
そんな隣で、初めて食べるたこ焼きはどんなものだろう? とわくわくしているティート。
わくわくし た気持ちを抑えきれずにあっつあつのたこ焼きを口にと運べばどでーんと大きなソレは、かなり熱かった。
「~~っ」
涙目になったティートに梟が笑う。
「……ははは! 坊や猫舌だったんだなー」
「……猫舌? うう、ヒリヒリする」
また一つ、新たな一面が見れた。
「まぁ次は冷やして食べるといいさ」
「そうする……」
冷めるまでの少しの間、今日の事でもお話しようか。
楽しげに話す2人の傍ら、優純絆とルーカスも、お祭りを楽しむ。
オーソドックスなたこ焼きは、とても美味しそうに湯気を立てていた。
「あーん!」
ルーカスにと強請るのを聴きながら、ラキアが注文したのは、ピザ味と普通のもの。
「へぇ……ピザ味かぁ」
覗き込んだセイリューに普通の たこ焼きを渡しながら微笑む。
「一つ食べてみる?」
「そうだね」
でも、まずはこちらから。
ぱくんと食べている隣を通り、青いソーダ飴を邪魔にならぬように差し出したのはヴェルトールだ。
「ほら、これ。青い瞳の替り」
「ありがとう」
受け取った猫又の笑顔にアキも笑顔になる。
2人の笑顔をみれば、ヴェルトールも嬉しそうだ。
「ほら、これ」
アキから渡されたたこ焼きに、瞳を輝かせる。
「一緒に、食べよう」
その言葉に、笑顔が返る。
さぁ、これからどんな時間を過ごそうか。
祭りを楽しんだその日から暫し後。
猫又は思い人の墓参りに行けたと、そんな話をきけたのだった。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 如月修羅 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 少し |
リリース日 | 08月13日 |
出発日 | 08月21日 00:00 |
予定納品日 | 08月31日 |
参加者
- アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- 俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
- ティート(梟)
- 西園寺優純絆(ルーカス・ウェル・ファブレ)
会議室
-
2014/08/20-23:34
囮は優純絆ちゃんとティートさんに任せて、
見守り系も皆に任せた。
俺達は一般人で連れて行かれそうな子を探したり、
猫又目撃の聞きこみとかしているぜ。
何か判ったり猫又見かけたらその時点で皆には連絡するからな。
という感じでプランは提出済みだ。
あとは巧く行く事を祈っているぜ。
美味しいたこ焼きが皆を待っているぞー!
相談諸々、お疲れさまでした! -
2014/08/20-22:40
優純絆:
ユズたちもプラン書き終わったよ~!
お兄ちゃん達よろしくですの!
ユズ頑張るですの!
ルーカス:
皆様、改めてよろしくお願いします(ペコリ)
私達も頑張りますね(微笑) -
2014/08/20-22:09
ん、じゃあ俺達はセイジたちとは別方向から、追いかけるような形で近づくことにする。
魔法も…2レベルじゃあ死なないかもしれないが、うっかりクリティカルしたらまずいから極力使わない方向で。
プランも提出したし、後は実際行ってみるだけか。
改めて皆よろしくな。 -
2014/08/20-18:20
囮役の人達を見守りつつ猫又の接触を待つよ
むこうが戦う気満々だったらフライパンで叩くくらいはするけど、魔法は使わない予定
(殺しちゃうからな、ランスの魔法が当たると…)
ちなみに、逃がさないように、退路をたつ形で接近する予定 -
2014/08/20-00:38
…男の子だよな、うん。よかった(ほっ
>ルーカスさん
分かった。はぐれたり無茶したりしないよう気を付けとく -
2014/08/19-21:47
ルーカス:
えぇティートさんの認識で合ってますよ(微笑)
是非ともユズと一緒に行動して貰えると嬉しいです(汗)
この子、一見すると女の子ですが性別は男の娘なんです
ですが少し無茶をする時がありましてね…(溜息)
良ければ見ていて下さると…(苦笑)
お願いしても宜しいでしょうか? -
2014/08/19-21:37
ん。囮は俺と優純絆さんの二人でいいのかな…?(この子男の子だよな…?という視線)
囮は境内の近くの屋台をうろついて、猫又が現れたらとりあえず大人しく連れてかれる
って認識で合ってる?
あと優純絆さんと俺は別々じゃなくて一緒に行動…でいいんだよね、不安だし。 -
2014/08/18-14:40
お、満員だな。初めましての奴が多いか?
よろしくな。
人数もそろったし、囮役そのものの危険性はだいぶ減ったと思う。
一番気を付けるべきは、人の多い屋台近辺で暴れられることか。
囮と接触したらたぶんどっかへ連れてこうとするだろうが、そこまでにそれ以外の奴がついていくのを
気付かれないように気を付けるって書いといたほうがいいかな…隠密尾行のスキルとかねえけど。
客や店に被害が出ないとこなら、万が一のことがあっても大丈夫だと思う。
とはいえ、『そんなに強くはない』猫又一匹を10人で囲んでボコるのは…ちょっと可哀想だよな…
できれば話し合いで決着がつけられるといいんだが、一応用心だけはしておく。
…みんな考えることは同じか(もふもふしたい) -
2014/08/18-11:45
優純絆:
わわっ人が増えてるですの~!
セイジお兄ちゃん、ティートお兄ちゃん、セイリューお兄ちゃんよろしくお願いしますなの!
ティートお兄ちゃんもユズと一緒に囮するです?
わぁい(ニコニコ)
ルーカス:
おや皆さん初めましてですね(微笑)
私はルーカス、この子はユズキ
よろしくお願いしますね(ペコリ)
ティートさん、ユズが無茶しないよう見ててくれませんか?
気付くと怪我しそうになるので…(苦笑) -
2014/08/18-09:12
アキ・セイジだ。皆、よろしくな。
俺と相棒は囮役には不適切だと思うので、そのフォローに回りたい。
できるだけ怪我人なく完遂できたら嬉しく思うよ。
猫又と仲良くなるのは無理かなあ…仲良くなりたいなあ… -
2014/08/18-02:33
ティートだ、よろしく。
アキさんとセイリューさんは久しぶり、俊さん優純絆さんは初めまして。
青い瞳って文字が見えたから参加したんでまだノープランだけど
今出てる案に今のところ異論は無い
俺も青い瞳で18だし、囮になれると思う。
猫又っていうのがどんなのか知らないが、出来れば話してみたいな(うずうず -
2014/08/18-00:23
セイリュー・グラシアだ。
西園寺さんとブルックスさんは初めましてだよな。ヨロシク!
猫又側の事情も聞いてみたい所なので、
早めに猫又と接触出来るようにしたい所。
猫又が「実は誰かを探している」とかなら
協力してやった方がいいかもしれないし。
人に危害を加えている訳ではなさそうなので
猫又に酷い事はしたくないな。
囮は優純絆さんが良いと思うけれど、
小さいから少し心配かな・・・とも。
人数増えたから少し囮役を増やそうか?
20代でも囮出来ない訳じゃなさそうだし? -
2014/08/17-10:39
ルーカス:
人が増えませんでしたね…
えぇ分かりました
当初の予定で行きましょうか
しかし…
私がもう少し若ければ…← -
2014/08/17-09:23
人増えなかったな…じゃあ当初の予定通り、
・囮…優純絆
・張り込み…俊
の割り振りでいくか。
俺達は優純絆から少し離れて、客に紛れて屋台の周りを回ってみようと思う。
猫又が現れたらこっそりあとをつけていく。
客がたくさんいるところで荒事になったら周りに被害が出る可能性があるからな、
戦闘になった場合のことを考えて、人がいないところまでついて行った方がいいと思うんだ。(ジャンル:戦闘だし)
この場合ルーカスは…俺達と反対側の位置で同じく張り込みかな?
ルーカスの目も青いが子供じゃないからな。
・優純絆が猫又と接触
・どこかへ連れ去ろうとしたら後をつける
・その後話をつける、聞かないようなら懲らしめる
・誘拐された子供がいれば捜索
流れとしてはこんな感じか?
あ、優純絆は猫又と接触した時にできれば話を聞いてやってほしい。
なんで青い目の子供を誘拐するのかってな。
何かツッコミとか気付いたことがあったら遠慮なく言ってくれ。 -
2014/08/16-19:03
ルーカス:
遅くなりすみません…
えぇそうですね
今は私達しかおりませんし…
取り敢えずはユズが囮になる方向で考えときましょう
えぇ私ももう少し考えておきますね -
2014/08/16-15:44
俊・ブルックスだ。パートナーはエンドウィザードのネカ。
優純絆たちは初めまして、よろしくな。
で、まだ俺達二組しかいないわけだし、猫又に接触するならこの中じゃ優純絆が一番適任だよな…
しばらくしたら誘拐された人を解放するって話だし、害意はないのかもな。
ルーカスは心配かもしれないが、俺はその案には賛成するぜ。
もし人が増えたら、俺達もコンタクトつけて猫又に接触してみるかな…
誘拐されてた子供の方にもちょっと話を聞いてみたい気もするんだが。
何にせよ、もうちょっと考えてみるな。 -
2014/08/16-11:17
優純絆:
初めましてですの!
ユズは西園寺優純絆(サイオンジユズキ)って言いますの!
俊お兄ちゃん、ネカお兄ちゃん宜しくなのですの(ニコニコ)
ルーカス:
お二人共お初にお目にかかります
私はルーカス・ウェル・ファブレと申します
以後お見知りおきを…(微笑 会釈)
さて今回ですが、青い瞳の子達が狙われると言う事でユズが丁度その対象になるんですよね…
優純絆:
ルカさま、ユズが囮になって猫又お姉ちゃんに理由を聞くですの!
ユズがてきにん?なんですの!
ルーカス:
と言ってまして…(汗)
他に案があれば遠慮なく言ってください…(苦笑)