【夏祭り・月花紅火‏】はらりひらり(久部 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●大輪の華
 先も見えない闇の中。
 夜の帳が落ちきって、星空と月だけが冴え渡る。
 そこにひゅるりと一筋の光が空を穿つ。
 やがて一拍置いて重い音が響いた瞬間。
 ぱっと大輪の花が夜に咲く。
 花火は夏の風物詩。
 ひとくちに花火といっても、その種類も色もさまざま。
 夜に咲き誇る大型の打ち上げ花火。
 空を見上げれば星が降り注ぐような明るさで散っていく。
 仲間で囲める小さめの打ち上げ花火。
 高さはそれほどではないが、噴射式のものもあれば、
 仕掛けで小さな傘が降ってくるものもある。
 細長く色とりどりの趣向をこらした手持ち花火。
 その光の色は様々で、途中で色が変化したり変わった方向に吹き出すものある。
 そしてちりちりと命をはじけさせる線香花火。
 まるで夏の終わりを象徴するような、切ない色合い。
 あなたはどれを選びますか?

●炎の花弁
 イベントブースの一角に、それはあった。
 そこは花火で遊ぶことが許されている区域だ。
 場所は広く、それでも多くの人で賑わっていた。
 大型の花火はさすがにできないが、小型のものはいくつも種類があった。
 手持ち花火をくるくる回せば、光の残像で縁が浮かぶ。
 それを見てはしゃぐ子供たち。
 小型の打ち上げ花火を見上げて、降ってくる小さな傘を取り合う青年たち。
 そして、しゃがみこんで向かいあいながら、線香花火を見つめ合う恋人たち。
 あなたはどうやって遊びますか?

解説

■花火区域への入場料は300ジェールです。

■花火は1種類のみいくつでも無料です。
 2種類目からは50ジェールがかかります。
 50ジェールを支払えば、2種類目もいくつでも使えます。

■花火の種類は、「小型の打ち上げ花火」「手持ち花火」「線香花火」の3つです。
 変わった花火や絡繰のある花火などもありますので、
 この3種類に該当する中でご自由に想像していただければ、採用します。

■夜の暗い闇の中で、弾けては消える花火に思いをよせるもよし、おもいっきり遊ぶもよし。
 ご自由なひとときを。

ゲームマスターより

ご閲覧ありがとうございます、久部(キューブ)です。
今回は夜空を彩る大輪の花……ではありませんが、
小さな小さな炎の花弁のお話です。
最後には心に灯る火をご提供させていただきたいと思います。
心情重視のエピソードとなりますゆえ、
パートナーさまと存分に楽しんでいただければ幸いです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アリシエンテ(エスト)

  流れ:
【ハイテンション】→【仕様テンション】→【しっとり】

花火をやるのは初めてだけれども……
「小型の打ち上げ花火は、手で打ち上げるものではない」? し、知っているわっ、その様な事!!
い、今手にあるのは、よ、良くある『ひょんなことから』という奴で……!!(言った側から手から放たれる小型打ち上げ花火に吃驚)

ああ、吃驚したわ…っ!本気で驚いたではないっ!
な、なるほど……その様に持てば安心なのね。(手持ち花火)
ええっこんなに綺麗だと言うのに人に向けてはならないのっ!?

線香花火(試しに一本見て)何だか、切ない花火ね。
これって一人一本しか遊べないのかしら?
(試してみて)

…これなら、二人一緒に出来るわねっ。



クロス(オルクス)
  アドリブOK

線香花火5本

青地の桜柄の浴衣

オルク、此処で花火が出来るみたいだぞ
なぁオルク…俺達もやろうぜ!(台詞かぶりお互い見つめ笑い合う)
ふはっ、俺達同じ事考えてたんだな(微笑)
そうだな(ニコ)
あっほら花火しようぜ!
俺は線香花火!

なぁオルク、綺麗だな…
……?
オルク、何かおかしいぞ?
さっきからボーっとして……何かあったのか?
何だよ、ハッキリしろよ!!
ん?話…っ!?
オっオルクが俺の事を!?
あっ愛し…っ!?
うっ嘘だ!
だって…オルクはモテるし俺よりももっと良い人がっ!
…………~~っ!!
あぁもう好きだ!大好き!
…オルクの事大好きだもん!
今は無理でもいつかオルクと子供と一緒に花火したい!
約束だかんな!


Elly Schwarz(Curt)
  花火】
線香花火

心情】
手持ち系の花火なんて村でやって以来で久しぶりです。ワクワクしますね。

行動】
・線香花火勝負
手持ち花火初めてなんですか?では線香花火で勝負です!
先に火が消えてしまった方が負けですよ。
賭け、ですか?そうですね、それも楽しみの1つですよね。
では負けたら出来る範囲で言う事を聞く、で行きます?
そ、そうなんですか……解りました、僕も腹をくくりますよ!

・気合いの入れ過ぎで負け
わわっ手が震え過ぎてしまいました……悔しい。ここは潔くドンと来い!です!
へ?そ、そんな事……ありました。だって意地悪ですもん!

クルトさんの様子が変です。頭痛がするんですか?
……なら良いですけど。僕、心配してるんですよ。



クリスタル・スノーホワイト(キース・ゴルドリオン)
  打ち上げ&線香花火

おじさまに、どの花火で遊びたいんだって聞かれました
海に行った時に手持ちで遊んだから、今日はまだ遊んだ事がない花火で


夜空にするする昇った光の線が次々ぱぁっと開いて
お花畑みたいですごく綺麗です!

「おじさま、もっともっとないですか?さっきのピンク色、可愛かったです」
っておねだりしたら、笑ってまた花火を上げてくれたですよ

打ち上げ花火の並べた筒の導火線に「早撃ち!」とか叫んで火をつけ
連発に成功して拍手を貰ったり
男の子達に火のつけかた教えてる姿は、おじさまがいつも言ってる大人の男っていうより
ガキ大将っていうのが、こういうのなんだと思うです。

「おじさま、次はどんな花火ですか?」
わくわく問い



エメリ(イヴァン)
  小さい頃はよくやったけど最近はさっぱり
イヴァンくんははじめてらしいから花火の楽しさを教えてあげれればいいな

花火は手持ち花火と線香花火にするね
いっぱい遊んだあとに線香花火でしめるのが定番なんだよ

あ、人に向けちゃだめだからね!
えへへ、私も小さい頃それで怒られたんだよね
あっ、もしかして今なら二刀流とかしても怒られない…?

昔は家族みんなで花火したんだ
お父さんとお母さんと弟の4人
イヴァンくんてなんだか弟に似てるんだよね、素直じゃない所とか
だからつい重ねちゃって
よく子供扱いしちゃうけど気に障ってたらごめんね

会いにいく予定は当分ないかな
まだやらなくちゃいけない事もいろいろとあるし
うん、まだまだ頑張らなくちゃ



●ある夏の物語
 ひゅるり。
 ぱぁん。
 夜空に咲く大輪の花。
 大きく円を描くものもあれば、波のように散るものもある。
 いくつもの線状に伸びたそれが舞えば、観客たちは一層の盛り上がりを見せた。
 けれど、それだけではない。
 夜空に咲く大輪の花ではなくとも、宵闇に灯る花弁もある。
 そう、例えばこんな話も――。

●ひとひらの花弁
「どの花火で遊びたいんだ?」
 キース・ゴルドリオンがパートナーであるクリスタル・スノーホワイトに尋ねる。
 すると彼女は打ち上げ花火がやってみたい、と答えた。
 キースは少し待っていろ、と言って売り場へと足を運んだ。
 そして打ち上げ花火を数点と線香花火も買っていった。
 クリスタルのもとへ戻ってきた彼は、はしゃぐ彼女に目を細めた。
 打ち上げ花火を地面に置き、シュッと点火器で導火線に火を灯す。
 瞬間、パァン、という破裂音と共に色とりどりの小さな華が夜空に咲いた。
 これは光に色のついていない、ノーマルタイプの花火だった。
 次の花火に火をつける。
 再び破裂音がして、小さく色とりどりの花が空に舞った。
 量をたくさん買ってきていたので、花火はまだまだ余裕がある。
「おじさま、もっともっとないですか? さっきのピンク色、可愛かったです」
 ピンクの花を咲かせる花火が気に入ったのか、クリスタルがせがむ。
 キースは苦笑しながらも、もう一度同じ花火に点火した。
 先程と同じ、ピンク色の花火が一斉に広がり落ちる。
 ふと。
 そばに見知らぬ男の子たちが立っていた。
 キースが打ち上げた花火に見入っていたらしい。
 すると彼は得意気に笑ってみせた。
「早撃ち!」
 そう叫ぶと、いくつも並べた打ち上げ花火の導火線に連続で火を灯した。
 一斉に吹き出す噴水型の花火に男の子たちは目を輝かせている。
「おじさま、次はどんな花火ですか?」
 わくわくしながらクリスタルが言う。
 キースはぽん、と彼女の頭を叩いた。
「次は線香花火ってヤツだぞ」
 点火器をくるりと回して慣れた仕草で袋に仕舞う。
 そして、取り出したのは鮮やかな色が特徴的な、紙で作られたそれ。
 こより状になったやや頼りなさ気なその紙。
 線香花火だ。
「まずお手本な?」
 キースが言った。
 予め地面に設置しておいたろうそくにそっと花火の先端を寄せていく。
 ぱちぱちとこれまでのものとは違う小さな小さな光に、クリスタルの目が輝く。
 先端の玉が段々と大きくなっていき、やがて、ぽたりと落ちた。
「わぁ……! 私もやります!」
 そういって、線香花火をひとつ掴むクリスタル。
 先端をそっとそっと蝋燭の火であぶると、小さな花火が弾けた。
 微かに聞こえる火薬の破裂音が、何だかとても心地よい。
 しかしクリスタルが行うと手が震えてしまってどうしても長続きしない。
 キースはそんな彼女に苦笑して、アドバイスをしてやった。
 そうして試行錯誤しながらも、彼女の線香花火も少しだけ長続きするようになってくる。
 その淡い光を見ながら、キースはぼんやりと呟いた。
「……線香花火っていうのは、ノスタルジックだな」
「のすたるじっく?」
「そうだな、懐かしい感じかな」
 ふいに2人の視線が交錯する。
 花火の光に照らされて、暗いながらも顔は見える。
 すぐ傍に、パートナーがいる。
 それがどれだけ美しいことだろう。
 ぽとり、と線香花火の玉が同時に落ちる。
「私も、おじさまとたくさん懐かしい。を作りたいですよ」
 彼女が弾けるように笑ってみせると、夜空の大輪が同じように破裂した。
 これは将来魔物にになるな、とキースはひそかに感じた。

 Elly SchwarzとCurtは線香花火を受け取った。
 手持ち花火は始めてだというクルトに、エリーは少し驚いた。
 花火なんて大きな打ち上げ花火しかないと思っていたのだ。
「では線香花火で勝負です! 先に火が消えてしまった方が負けですよ」
 ゲーム性を持たせることで一層楽しめるだろう。
 線香花火でのゲームとしてはポピュラーだが、なかなかに白熱した戦いになる。
「勝負? そう楽しむのか。ならば、何か賭けたいな」
 クルトは勝負という単語にクス、と笑った。
「賭け、ですか? そうですね、それも楽しみの1つですよね。
 では負けたら出来る範囲で言う事を聞く、で行きます?」
 エリーがそう返すと、クルトはにやりと意地悪げに笑ってみせる。
「出来る範囲? 温い。
 そこはドンと何でもやる勢いで来い。自信あるんだろ?」
 彼の笑い顔に怯えそうになりながらも、エリーは決心する。
「そ、そうなんですか……解りました、僕も腹をくくりますよ!」
 こうして、約束は交わされた。
 負けた方が、買った方の言うことを聞く。
 そんなルールが追加された。
「それじゃあ、同時に火をつけましょう」
 地面に設置されたろうそくに線香花火を近付けて、2人で同時に火をつける。
 そっとろうそくから離すと、ぱちぱちと弾ける音が聞こえた。
 大輪の花をそのまま小さくしたかのような、綺麗な造形。
 周りにはたくさん人もいるというのに、なぜかこの音しか聞こえないような。
 そして、相手のことしか見えないような。
 不思議な錯覚に陥った。
 はっ、と集中していたエリーが緊張のあまり手が震えていることに気付く。
 しかしそれも束の間。
 先ほどまで勢いよく弾けていた赤い玉が、ぽとりとその生命を落とした。
 見ればクルトの方はまだ余裕がありそうだ。
 火花がぱちぱちと音をたてている。
「……悔しい。でも負けたからには潔くドンと来い!です!」
 覚悟を決めた瞬間、クルトの線香花火も生命を散らした。
 案外簡単な勝負だったな、と彼はクスリと笑う。
「おおー良い心構えだ」
 どんな罰ゲームが来るのかと、ごくりと緊張するエリー。
 服をぎゅっと握りしめて、さあ来い、とじっと彼を見上げている。
 その様子を見て、クルトは一種の微笑ましさを感じた。
 命令を待っている番犬のような、小さな犬のような。
 不安と期待が入り混じったそれが、彼女の瞳に如実に表れている。
「……まぁ」
「…………!」
 来た、とエリーが唾を飲む。
「別の花火も試したい、でいい。……なんだ、意外そうな顔だな」
 彼の申し出に、エリーはきょとんとする。
「意外だなんてそ、そんな事……ありました。だって意地悪ですもん!」
 意地悪な彼のこと、どんな無理難題を押し付けられるかと考えていたのだ。
 しかしそれは全くの杞憂で、むしろこちらこそ頼みたいほど。
「意地悪……されたいのか?」
「ちちち違います!」
 ニヤリと笑う彼に顔を真っ赤にして否定する。
「新しい花火、買いに行きましょう!」
 エリーはそう言って強引に話題を切り替えた。
 新しく手持ち花火を購入し、元の場所へと戻った。
 今度は賭けもせず、純粋に花火を楽しむことにする。
 2人同時に火をつけて、勢いよく吹き出す火花に見とれる。
 ただぼんやりと、その火花を見ていた。
 クルトは考える。
 どうしても、どうやっても思い出せない記憶。
 そこで何か、似たようなことを体験した気がする。
 そのことを思い出そうとすると、激しい頭痛が彼を襲った。
 思わず花火を持っていない片手で頭をおさえる。
「クルトさん? 頭痛がするんですか?」
 様子がおかしいクルトを見て、エリーが心配そうに見上げる。
 その健気さに優しく瞳を細める。
 しかしそれも一瞬のことで、すぐにいつもの彼に戻った。
「何でもない。気にするな、大丈夫だ」
 ぽん、とエリーの頭を撫でてやる。
 子供扱いされているわけではない、とエリーは思った。
 ただ、大切にされているのだな、と。
 けれど、自分は彼に何が出来るだろう。
 何を返してやれるだろう。
 苦しんでいる彼に、何をしてやれば――……。
 そう思った。

「えへへ。花火なんて久しぶりだな」
 エメリは手持ち花火を持ちながら、微笑ましく言った。
 一方でイヴァンは興味があるのかないのか、手にした線香花火のこよりをくるくるとまわしている。
 エメリは昔家族でやったことがあるが、イヴァンは経験がないという。
 ならば花火の楽しさを教えてあげたい、と彼女は考えた。
「手持ち花火でいっぱい遊んだ後、線香花火で締めるんだよ」
 にっこりとイヴァンに語りかける。
 そんなイヴァンは、はしゃぎすぎないでください、と素気無く答えた。
「あ、人に向けちゃだめだからね!」
「……向けませんよ。エメリさんじゃあるまいし」
「えっ、えっ、何でわかるの!?」
 確かに昔、小さい頃にそれをやってしまって怒られた記憶がある。
 それを見透かされてエメリは動揺した。
 イヴァンは、見ればわかりますよ、と密かに思っていた。
「あっ、でももしかして今なら二刀流とかしても怒られない……?」
 きらりとエメリの瞳に光が灯る。
「僕が怒りますからやめてください」
 イヴァンの冷静な制止にがっくりとエメリは肩を落とした。
 しかし元より楽しめればそれでよいと考えていたので、すぐに復活した。
 地面に設置されたろうそくから、花火の先端へと火を移す。
 吹き出す花火は一段と明るいタイプのものらしく、周囲を光で包み込んだ。
 時折言葉を交わしながら、お互いの花火から火を貰ったりしながら。
 2人は手持ち花火を満喫していた。
 そして手元にある手持ち花火がなくなると、いよいよ締めでありメインである線香花火。
 2人はしゃがみこんで、その儚い火花を見ていた。
「……昔は家族みんなで花火したんだ。
 お父さんとお母さんと弟の4人」
 エメリがぽつぽつと語りだす。
 人に向けそうになったり、二刀流をしようとして怒られたこと。
 父と母の暖かい視線を受けながら、弟と遊んだこと。
 それがどれほど楽しかったか。
「イヴァンくんって、なんだか弟と似てるんだよね。
 素直じゃない所とかつい重ねちゃって」
 だからつい、子供扱いしてしまうと。
 彼女はごめんね、と謝った。
 言ってから、線香花火の玉が落ちる。
 また新しい花火を手に取ると、再び生命が弾け始める。
 イヴァンは彼女の思い出を聞いて思う。
 自分には碌な家族との思い出もなく、共感はできない。
 けれど彼女が幸せだったんだな、という思いは伝わってくる。
「たまには会いに帰ったらどうですか?」
 だから、それが精一杯の彼の誠意だった。
「会いに行く予定は当分ないかな」
 線香花火の玉が落ちる。
 今回は短かった。
 ふいに明かりが消えた笑顔の彼女の横顔がどこか切なそうに見えたのは。
 気のせいだろうか、それとも。
「まだやらなくちゃいけない事もいろいろとあるし。
 うん、まだまだ頑張らなくちゃ」
「無理だけはしないで下さいね。
 貴方はわかりやすいようで本質がよくわからないから、
 色々と抱えこんでいるのではと時々不安になります」
 彼の言葉に、彼女は驚いたように瞬きをする。
 そしていつもの笑顔で、ありがとう、と答えた。

「アリシエンテ、打ち上げ花火は地上に置くもので上に掲げるものではありません」
 アリシエンテのパートナーであるエストが、冷静に告げる。
 エスト自身は幼なじみの付き合いで花火の経験がある。
 しかしパートナーであるアリシエンテにはそれがないという。
 その通り、彼女はいま小型の打ち上げ花火を手にしていた。
 しかも、すでに導火線に火がついている。
「え? し、知っているわっ、そんなこと!
 い、今手にあるのは、よ、よくある『ひょんなことから』という奴で……!」
 言った端から導火線が花火に届く。
 吹出し型の花火は彼女の手の中で勢いよく噴水のように噴き出している。
「熱っ」
 火花が手に落ちてその熱さから思わず花火を落とす。
 正しい状態になった花火は、噴水を段々と小さくしていき、消えていった。
「ああ、吃驚したわ……っ! あ、いや、本気で驚いたのではないっ!」
 誰に対して強がっているのか、彼女は慌てて訂正する。
 小型の花火は1つだけにして、手持ち花火を手にする。
「このタイプの花火は、こういう風に持って、先に火をつけるんです」
 エストが手持ち花火について説明してやる。
 興味津々といった様子でアリシエンテはエストの説明を聞いていた。
 先ほどの失敗もあって恐る恐る花火を手にする。
 地面に設置されたろうそくで、花火の先をあぶる。
 すると先についていた紙に火が移り、やがて火薬に火がついた。
「すごく綺麗ね! これを浴びたら光のシャワーみたいになるんじゃない!?」
「ダメに決まっているでしょう」
「ええっ! こんなに綺麗だというのに人に向けてはならないのっ!?」
 彼女の発言を聞いて、エストは眉間を抑える。
「アリシエンテ……出ているのは火花なのです。
 それを人に向けたら危ない等と、考えた事はありませんか……?」
「そ、そうね、そうよね。も、もちろん考えていたわ、例えよ、例え!」
 1本目の花火が消え、2本目に持ちかえる。
 今度はぱちぱちと色んな色に弾けるタイプだった。
 アリシエンテは楽しそうに笑っていた。
 それを見てやや心配しながらも、エストは黙って見守っている。
「あっという間になくなってしまったわ。
 あとは……」
 線香花火。
 これは2人でやろうとお互いに地面のろうそくの傍にしゃがみこんだ。
 次はどんな花火なのか、期待に胸をふくらませながら火をともす。
 先端の玉を中心に、ぱちぱちと小さな音がする。
 彼岸花が散るようにして、火花が咲いては散っていく。
 花弁も残さずに、火の花は散っていく。
 アリシエンテはその姿を見て、切なさよりも儚さを感じていた。
 あっという間に終わってしまう花火。
 何よりも小さく、繊細なその花。
「これって一人一本しか遊べないのかしら?」
 2人の線香花火の玉が落ちるのは同時だった。
 そして新たなものを用意すると、また同時に火を移す。
 すると、アリシエンテがエストに近付いた。
 2つの線香花火の玉を、そっとくっつける。
 一回りほど大きくなった赤い玉が、激しく生命を燃やしていた。
「……これなら、二人一緒に出来るわねっ」
「……ええ、確かにこれなら二人で共にできますね」
 2人は微笑み合って、花火を見つめていた。

 青を基調とした桜柄の浴衣を来た女性。
 秋海棠柄着流しを洋服の上に着た男性。
 クロスとその精霊オルクス。
「オルク、ここで花火ができるみたいだぞ」
 夏祭りの一角に設置された花火スペース。
 ここでは小型の打ち上げ花火から線香花火まで。
 手に持って出来る規模の花火が用意されている。
「なぁオルク……」
「なぁクー……」
「俺達もやろうぜ!」
「オレ達もやるか!」
 同時に同じ台詞が重なって、お互いにきょとんとする。
 そのあと見つめ合って、そのおかしさにまた2人同時に笑い出した。
「ふはっ、俺達同じ事考えてたんだな」
 未だに微笑み続けているクロスに対して、オルクスもまた似たようなことを考えていた。
 流石オレ達いつの間にか似通ってるな、と。
「あっ、ほら花火しようぜ! 俺は線香花火!」
「んじゃ、俺も線香花火な」
 クロスが受付から線香花火を貰ってくる。
 花火区画は人通りにあふれている。
 今はあまり多くなってしまうと怪我のもととなる。
 今では入場規制がかかっているようだ。
 ギリギリ滑り込めて幸運だったといえる。
 それでも花火に夢中になっている人が多くいるので、火傷などの心配もある。
 受付のすぐそばに救急テントが張られているのはそのためだろう。
 どんどんと進んでいくオルクスに、クロスは精一杯ついていった。
 やがてその様子に気付いたオルクスが、つかんでろ、と着流しの一部を差し出した。
 クロスはそれに従い着流しをしっかりと握り、彼についていく。
 奥の方へ進むと次第に人も少なくなり、空いている場所も見られた。
 その中で空いているろうそくを見つけると、あそこにしよう、とオルクスが言った。
 地面に設置されたろうそくの明かりに照らされる。
 空には星が広がっているだろうに、このろうそくの明かりはひどく脆い。
 そして今、より儚い生命を持つ花火が、その生命に火を灯される。
 ちりちりと咲く小さな花。
 2人は寄り添うようにして、その彼岸花の炎を見つめていた。
「線香花火って、何でこんなに切ないんだろうな」
 クロスがぽつりと呟く。
 最初はちりちりと小さな火花が弾ける。
 次に小さいながらも誇らしげな花がぱちぱちと咲く。
 そして最後は赤い生命を落としてその最期を迎える。
「こんな風に生きられたらいいな」
「ダメだ」
 クロスの言葉に、オルクスがすぐに否定する。
 えっ、と驚いたクロスが見上げると、オルクスと目があった。
「オレのパートナーなら、お前はこんなに呆気無く死ぬな」
 しばらく、じっと見つめていた。
 2人の間に何か意思疎通があったのか、なかったのか。
 ぱっと視線を外すと、クロスはドキドキする心臓が止まらなかった。
「……もう1つ、やろう」
 今度はオルクスから線香花火をつけた。
「う、うん」
 ぎこちない動きで、クロスもまた火をつける。
 ちりちり、ぱちぱち。
 線香花火を見つめていると、ふと、また視線を感じた。
 クロスが振り仰ぐと、オルクスがまたこちらを見ている。
 線香花火の玉を落とさないように、器用に手は固定したまま。
「オルク、何かおかしいぞ?
 さっきからボーっとして……何かあったのか?
 何だよ、ハッキリしろよ!!」
「ん? あ、あぁ、そうだな。
 い、いや、何でも……無くは無いけど……」
 あいまいな言葉にクロスは余計にやきもきする。
「クー、俺は――……」
 ひゅるり。
 ぱぁん。 
 腹の底に響くような大きな音。
 近くで花火大会が行われているようだ。
 周囲の人々も、自分の手元の花火を忘れて空をみあげている。
「だからな、クー、あの……」
 ぱぁん、ぱぁん、ぱぁん。
 連続で打ち上がる花火。
 夜空に咲く大輪の花。
 わぁ、と周囲から歓声のような声も聞こえてくる。
「何!? 聞こえないぞ!」
「ああっ、もういいっ、気にするな!」
「え、ずるいぞ! 途中でやめるな!」
「気・に・す・る・な!」
 オルクスがクロスの額をぴんと中指で弾く。
 言えなかった言葉は、きっと今はまだ早いのだ。
 そうオルクスは考えることにした。

●はらりひらり
 ひゅるり――……ぱぁん。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 久部
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月13日
出発日 08月20日 00:00
予定納品日 08月30日

参加者

会議室

  • クリスタル・スノーホワイトと、精霊のキースおじさまです。
    よろしくお願いしますですよ。

    色々あって、どの花火を選ぶか迷う。ますね。

  • [3]エメリ

    2014/08/17-15:23 

    こんにちは、エメリです。
    精霊はイヴァンくんだよ。今回はよろしくね。

    花火楽しみだよね。
    どれにしようか迷っちゃうなぁ。

  • [2]クロス

    2014/08/16-10:51 

    クロス:
    エリーとアリシエンテは久し振りかな?
    他は初めまして!
    俺はクロス、パートナーはテイルスのオルクスだ
    今回は宜しくな(微笑)

    花火かぁ…あの日以来やってないから楽しみだな(微笑)

  • 殆どの方がお久しぶりになるのでしょうか?
    改めまして僕はElly Schwarzと言います。精霊はディアボロのCurtさんです。
    今回よろしくお願いします!

    やはり花火は夏の風物詩ですよね。
    とても楽しみです!(微笑)


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