【夏祭り・月花紅火‏】落花繽紛(青ネコ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「あの、ウィンクルムの方ですよね?! 今お時間ありますか?! いきなりすみません、ちょっとお願いがあるんですけど!!」
 夏祭り会場に辿り着いたウィンクルム達は、会場の中程まで進んだところで青年妖狐にしがみ付くように引き止められた。
 どうやら祭りの邪魔をする妖怪によって、任されていた屋台が滅茶苦茶にされたようだ。
「ここでは『花灯り』を売る予定なんですが、この有様です……」
 花灯りとは、生花の中に狐火を仕込んで作る一日限りの光る飾りだ。髪飾りにしたりブローチにしたり、様々な装飾品にするのだ。
 しかし今目の前にあるのは、斜めになった屋台と、ぐちゃぐちゃに潰された沢山の色とりどりの花。
「この花、鎮守の森の入り口にいる木霊の姐さんから仕入れてるんです。すぐにでももう一度貰いに行きたいんですが……」
 青年妖狐がチラリと見る視線の先には、足の怪我の治療を受けている女性妖狐。
「……実はここ数年、木霊の姐さんが、その……男嫌いになってしまいまして……」
 言いにくそうに青年妖狐は事情を説明する。
 何でも、木霊は恋仲の男に酷い仕打ちで振られたらしく、以来「男の顔など見たくも無い」と言って、徹底的に男を寄せ付けないのだという。
 だから花を貰いに行く時は女の妖狐だけで行っていたのだが、その女の妖狐が怪我をして動けない。
「木霊の姐さんは女相手なら優しいですし、手土産さえ持って行けば幾らでも花を用意してくれます。でも、会いに行ける者がいないんです。屋台も直さなきゃならないし……」
 どうしたものかと悩んでいたところへ、通りかかったのが―――。
「お願いします! どうか木霊の姐さんのところへ行って、もう一度花を貰ってきてくれませんか?! お礼に花灯りをお好きなだけ差し上げますから!!」
 普段の依頼とは逆に、前に出て頑張らなければいけないのは神人のようだ。
 それでも、特に危険は無い依頼と考えていい。
 そして無事に終われば、美しい花灯りを持って祭りに参加出来るだろう。 

解説

祭りの手伝いとして、沢山の花を木霊から貰って来て下さい。
早く貰ってこないと店が営業できません。出来るだけ急いで下さい。
会場内は人が増え始め、悪い妖怪も紛れ込んでいます。神人と精霊ははぐれたり絡まれたりしないよう気をつけて下さい。

●木霊の姐さん
・美しい女の姿をした木霊
・少しでも男の姿を見ると機嫌を悪くして姿を消す
・手土産を渡すと季節問わず様々な花をくれますが、無いとひたすら渋る
・「男なんて信用しない方がいいわよ」「五月蝿い黙れ男はしね」が最近の口癖
・ちなみに鎮守の森入り口は低木が幾つかあって隠れられそうです

●手土産
・お金をかけたくない! という貴方に …… 鎮守の森の奥の湧き水
※ ただし、鎮守の森は現在悪い妖怪が屯しているようでとても危険で時間もかかります
・危険な目に遭うのは嫌! という貴方に …… ましろ亭の水ゼリーセット(150Jr)
※ ただし、会場入り口にあるましろ亭は稼ぎ時、急がないと売り切れて300Jrのセットになります

●花灯り
・無事に花を青年妖狐に渡せたら花灯りを作ってもらえます
・何の花を何飾りにするのかは自由、プランに書いて下さい
(例:八重桜を帯止め、凌霄花で提灯を作る、薄紅の糸菊を簪、紅白の椿をお揃いのブローチにする、等)


ゲームマスターより

夏祭りです。
二人で仲良くお手伝いするのもあり、皆で楽しくお手伝いするのもあり。
無事手伝いを終え、花灯りを手に夏祭りの思い出を作って下さい。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

テレーズ(山吹)

  手土産:ましろ亭の水ゼリーセット
善は急げです
売り切れる前に急ぎましょう!

今回は私が前にでて頑張りますね
見ててくださいね山吹さーん!

木霊の姐さんに会ったら元気よく挨拶です
お使いで来た事を伝えたら手土産を渡してお花を譲って下さいとお願いしてみます

でもこんなに綺麗な方なのに…恋愛って難しいですね
私も山吹さんに酷い仕打ちを受けたら男嫌いになるんでしょうか?(想像
…まず酷い事をする山吹さんが想像付きません
山吹さん誰にでも優しいですもの、誰にでも

花灯り:山吹の花の髪飾り

選ぶならばこの花しかないなって
つけてるのは私だけでもお揃いですよね!似合ってますか?

では後は楽しむだけですね
さ、行きましょう山吹さん!



ファリエリータ・ディアル(ヴァルフレード・ソルジェ)
  綺麗な花を潰しちゃうなんて酷いけど、犯人を懲らしめるより
お店を再開させてあげる方が大事だものね。頑張るわ!
花灯りも是非見たいしっ。

出来るだけ急いで、でも他の人にぶつかったりはしない様気をつけて
ましろ亭の水ゼリーセットを買いに行くわっ。
ヴァル、ちょっと恥ずかしいけど、はぐれない様に手を繋ぎましょ!

手土産を木霊さんに渡す時は、ヴァルに隠れててもらうわ。
男嫌いも治してあげられたらいいんだけど……時間無いものね。
酷い男の人ばかりじゃないって、いつか気付いてくれます様に。

花をもらえたら、大事に、でも急いで妖狐さんに渡しに行くわねっ。

花灯りはお揃いの桔梗のブローチ!
光る青紫の花、きっと綺麗だと思うのっ♪



ひろの(ルシエロ=ザガン)
  一日しか、もたないんだ……。

行動:
花を入れる篭を、妖孤の青年に借りれたら借りる。

ましろ亭の水ゼリーセットを高くても買う。
人の多さに、逸れぬように無意識に手を強く握る。

木霊に頭を下げ挨拶。
お土産を渡し「お花を、貰いに来ました」
愚痴を少し聞く。(頷くだけ)
花を落さぬよう気をつける。

花灯り用の花の選択に悩み。ふと、木霊が頭を過ぎる。
「ルシェ、あのね」
木霊に花灯りを渡したいと告げる。
「見たこと、無いんじゃないかなって。思うんだ」

立葵の簪を提案。
ルシェの提案に花言葉を思い出し「それは、ちょっと失礼だよ」と少しむっと。

ぽわりとした灯りに、幻燈花を思い出す。

木霊を再び訪れ「花をくれた、お礼です」と簪を渡す。



エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
  心情
一日限りの花灯りですか。良いですね、儚くて。まるで人の命のよう。

行動
木霊の姐さん、荒れてますね。しかし悪口三昧というのは後ろ向きです。ここは前向きに、木霊さんの美貌と美徳を称えるとしましょう!
花灯りはレンゲの腕輪を。牧歌的な風情がありますね。ラダさんにプレゼントです。花よりも食べ物が良かった、という顔をしていますね。自己満足でもこの花を贈りたいのです。
レンゲソウの花言葉は「あなたは私の苦しみを和らげる」。私にとってオーガとの戦いはとても重要なことで、ラダさんの力には感謝しているのですよ。
うふふ……。お祭りだというのに、つい戦いの話をしてしまいましたね。さあ、気を取り直して楽しみましょうか。


■お手伝い その1!
「綺麗な花を潰しちゃうなんて酷い! けど、犯人を懲らしめるより、お店を再開させてあげる方が大事だものね。頑張るわ! 花灯りも是非見たいしっ!」
 口をへの字に曲げて怒っていた『ファリエリータ・ディアル』は、しかしすぐに笑顔で意気込む。
 そんなファリエリータを見て『ヴァルフレード・ソルジェ』は小さく笑う。
「さ、行きましょヴァル! 急がないと開店が遅くなっちゃうわ!」
「はいはい、まずは土産の為にましろ亭に向かうとするか」
 そうして二人は早歩きで動き出す。周囲にぶつからない様に気をつけているが、祭りには大勢の人が来るもの。
「ヴァル、ちょっと恥ずかしいけど、はぐれない様に手を繋ぎましょ!」
 思い切って言い手を差し出せば、ヴァルフレードが一瞬目を瞠ってからにやりと笑った。
「よーし、じゃあ絶対に離すなよ?」
 手を握りながらからかうように言い、ファリエリータが「え?」と首を傾げた瞬間、ヴァルフレードは走り出した。
「きゃ! ちょ、ちょっと待ってヴァル! はやい、はやいってば! あはは!」
「急がなきゃ売り切れちゃうかもしれないからなー!」
 祭りの人ごみの中を二人は走りぬける。楽しそうに笑いながら。
 繋いだ手の温もりを感じながら。

 無事にましろ亭の人気商品、150Jrの水ゼリーセットを買えた二人は、早速木霊のいる鎮守の森の入り口へと向かった。
「ヴァルはそこの木陰に隠れててね」
「わかった、そっちは任せたぞ」
 そしてヴァルフレードが完全に隠れてしまうと、ファリエリータは森へ向かって木霊を呼ぶ。
「すみませーん、お祭りのお手伝いで来たんですけど、木霊の姐さんいらっしゃいますかー?」
「なーにー?」
 応えはすぐに返ってきた。
 声の近さに驚くファリエリータの目の前で木々が揺れ、その木から浮き出るように、すぅっと長い緑髪の美しい女が現れた。
「木霊の姐さん、ですか?」
「そうよー、さっき祭りの手伝いって言ってたけど、もしかしてもう花の追加? 早すぎない?」
 どうやらいつも途中で花の補充をしているらしい。
 ファリエリータは事情を説明すると「えー、それじゃあいつもより沢山花を出さなきゃならないじゃない、面倒臭ッ」と言われてしまった。
「え、でもあの、そうだ! お土産!」
 ファリエリータが買ったばかりの土産をズイッと前に出すと、木霊が「きゃあ!」と喜びの声をあげた。
「そういう事なら話は別よー、これ大好きなのよね、それじゃあ、ハイ!」
 笑顔で土産を受け取った木霊は、右腕をしなやかに上げてパチンと指を鳴らした。すると、ぽぽぽぽん! と音を立てて空中から様々な花が生まれる。
「わ、わ、わっ」
 ファリエリータは慌てて被っていたハットを取りひっくり返し、ぽろぽろと落ちてくる花々を受け止める。あっという間にこんもりと花の山が出来上がった。
「とりあえずこんなところかしらー?」
「はい、ありがとうございますっ!」
「それにしても女の子一人で鎮守の森近くなんて危ないわよー? 今この森変に歪んでるし悪い妖怪一杯よー? 男を連れて来て盾にして生贄にすればよかったのに」
 心配そうな発言の最後だけがワントーン低い声だった。
「あ、あはは……えっと、急いでたので、あの、お花ありがとうございましたっ!」
「どういたしましてー」
 無理矢理切り上げたファリエリータに、木霊は笑顔で手を振りすうっと消える。
(男嫌いも治してあげられたらいいんだけど……時間無いものね)
 下手な事をして余計にこじらせても困るだろう。そう考えながらも、ファリエリータは少しだけ淋しい気分になった。
 だって自分は知っている。木陰から自分を見守ってくれている存在を。
(酷い男の人ばかりじゃないって、いつか気付いてくれます様に)


■お手伝い その2!
「善は急げです、売り切れる前に急ぎましょう!」
「お店に差し支えがでるとなると急がないといけませんね……と!」
 拳をぐっと作って語る『テレーズ』に、『山吹』がこくりと頷いて同意すると、それを待っていたかのようにテレーズが山吹を引っ張ってましろ亭へと走り出した。
(やる気に溢れてますね……)
 人ごみにもひるまず進むテレーズに、山吹は苦笑しながら引っ張られるままついていった。

「今回は私が前に出て頑張りますね、見ててくださいね山吹さーん!」
 鎮守の森の入り口、低木に隠れた山吹への呼び掛けなのか、気合を入れる為の独り言なのか、どちらにしても大きすぎるその声に、山吹は身を強張らせる。
「テレーズさん声抑えて下さい……!」
(やる気充分で頼もしいですが、隠れているのばれてしまいますから!)
 小声で言った注意も心の中の叫びも、おそらくテレーズまで届いてはいないだろう。それでも思いは伝わったのか、その後は大きな声で山吹へ語りかける事はなかった。
 身だしなみを整えてこほんと咳払いするテレーズを、山吹は子供の初めてのおつかいを見守る親の心境で見ていた。
「こんにちは! 木霊の姐さんいらっしゃいますか?」
「はいはーい」
 テレーズの呼び掛けに答えながら、木霊が目の前の木から浮き出るように出てきた。
「初めまして、テレーズといいます!」
「妖狐達のお手伝いちゃんよね? 話は聞いてるわー」
 元気よく挨拶をすると、既に事情を知っている木霊はそわそわとテレーズの手元に注目する。
「……あの、これよかったら」
「ありがとー!」
 視線に気付いて土産を差し出せば、ぱっと顔を輝かせて木霊は受け取った。
 そして上機嫌で右腕を上げてぱちんと指を鳴らす。同時に、ぽぽぽぽん! と音を立てながら様々な花が空中で生まれてテレーズへと降り注ぐ。
 テレーズは急いでベレー帽を取りひっくり返して受け止める。それだけでは足りなくて、ハンカチも取り出して少しでも多くの花を落とさないようにと包み込む。
「ありがとうございます!」
「いいのよー、貴方が男だったら土産貰ってようが何しようが一個たりともあげないけど、貴方可愛い女の子だからいいのよー」
「あ、ありがとうございます……?」
 ずっと笑顔なのに、途中でやたらと怖く感じたのは何故だろう。
(こんなに綺麗な方なのに……恋愛って難しいですね)
 生み出された花に見劣りしない華やかな容姿。豊かな長い緑髪と艶かしい体つきは芸術品と言ってもいいほどだ。
 それでも駄目だなんて。恋とはなんて難しいのだろう。
 ひらりと手を振って「じゃあねー」と消えていく木霊に、テレーズは自分だったら、と考える。
 振り返れば、木陰からほっとした顔を覗かせる山吹がいた。
(私も山吹さんに酷い仕打ちを受けたら男嫌いになるんでしょうか?)
 もしもを想像しようとして、行き詰る。何故なら、酷い事をする山吹、というものが想像できないからだ。
(だって山吹さん誰にでも優しいですもの、誰にでも……誰にでも)
 花を抱えながら思った山吹の事は何処となく誇らしいのに、胸の片隅の本の小さい部分が、拗ねた様にちくりと痛んだ。


■お手伝い その3!
「これが食べ物の屋台なら、お礼にごちそうしてもらえたのになぁ」
「まぁそう言わず。一日限りの花灯りですか。良いですね、儚くて。まるで人の命のよう」
 うふぅ、と笑う『エリー・アッシェン』にツッコミを入れる事もひく事もせずにただ受け流し、『ラダ・ブッチャー』は「でも困ってるみたいだし、お手伝いはちゃんとするよぉ!」とやる気を出した。
 けれど祭りの人ごみは二人の想像以上で。
 まずは手土産を、と考えていたもののあまり急げなかった二人がましろ亭に着く頃には、狙っていた150Jrのゼリーセットは売り切れ、300Jrのゼリーセットを買うことになった。

 鎮守の森の入り口、エリーは呼び掛けに応じて現れた木霊は、貰った土産がワンランク上のものだと気づくとテンションがおかしくなった。
「嬉しいわー! やっぱり女の子は気がきくわねー! 男だったら何も持ってこないで花を強奪して消えるのよきっと、ホント男はしねばいい、しにたえればいい」
 つらつらと男の悪口を言い始めた木霊に、エリーはさてどうしたものかと目を閉じて考える。
(木霊の姐さん、荒れてますね。しかし悪口三昧というのは後ろ向きです)
 考えて、そしてエリーが出した答えは。
(ここは前向きに、木霊さんの美貌と美徳を称えるとしましょう!)
 カッと目を見開くと、そこからのエリーは完全にサービス業特有の『お客様は神様です』モードになった。
「うふふぅ、それにしても木霊の姐さんは本当にお美しいですね、お肌の手入れとかってされてるんですか? 個人的なイメージですが、木霊の方はそんな事をなさらなくても自然に植物エキスとかでお美しいような気がします」
「あらー! そんな美しいだなんて、もっと言っていいのよ! ありがとう!」
「何だかお花の素敵な香りもしますし。私アロマショップの店員なんで、香りには少し五月蝿いんですけど、そんな私でもうっとりする香りを身に纏ってますし」
「やだー! 誰もを魅了する香りだなんて、もっともっと言っていいのよ! 花もオマケしちゃう!」
「そんな美しい方がいつもお祭りに貢献されてただなんて、それはもうお祭りも大成功するに決まってますね、素晴らしい行いです」
「ああんもう! 皆の羨望の存在だなんて、もっともっともーっと言っていいのよ!!」
 ほんのりと紅潮する頬を両手で押さえ身をよじって喜ぶ木霊。そこまでは言ってないと思いながらも称え続けるエリー。そしてぽんぽんと音を立てて溢れ出る幾つもの花。
 そんな様子を木陰からこっそりと見ていたラダは、実はそのブチハイエナの耳をぴくぴくとさせて全て聞いていた。
(エリー、調子の良いこと言ってるけど、お世辞なのかマジなのかわからないよぉ……)
 パートナーの言動に若干呆れながらも、手伝いは成功に終わりそうだと肩の力を抜いた。
 と同時に、あのいつまでも生み出される花はどう考えてもエリー一人で持てる量ではない事に気付き。
(ウヒャァ……そろそろボクでも持つの限界かもぉ)
 軽く冷や汗を垂らした。


■お手伝い その4!
 花を貰っても自分では間違いなく持ちきれない。冷静にそう判断した『ひろの』は、花灯りの屋台の妖孤の青年から篭を借りた。
 そうしてましろ亭へと歩き出そうとするが、祭りに出向いた客は多い。逸れないようにと『ルシエロ=ザガン』と手を繋げば、人ごみに負けないようにと無意識のうちに手を強く握っていた。
 その力のかかり具合に気付き、ルシエロはちらりとひろのの様子を見る。
(手を繋ぐのはこれで何度目か……ようやく慣れたみたいだな)
 少し前までの過剰に反応していたひろのを思い出し、ルシエロは小さく笑った。

「何もないとは思うが、油断するなよ」
 木霊の機嫌を損ねると面倒そうだからな、と言いながら低木に隠れるルシエロに、ひろのは「うん」と頷いて答えた。
「こんにちは、えっと、木霊の姐さん、いますか?」
「はーい、いるわよー!」
 やたらと上機嫌な声がしたと思えば、木々が揺れてそこから美しい女が浮かび出てきた。
(綺麗な人、じゃなくて木霊……ルシェの綺麗さとはまた違うなぁ)
 自分が知ってる綺麗なものと比較しながら、ひろのは頭を下げて挨拶する。
「これ、お土産です。それで、お花を、貰いに来ました」
「いやーん! もうここまでくるとはじめに花を潰した馬鹿に感謝したくなるわー!」
 祭り会場の中をあまり急げなかったひろの達が買ったのは、300Jrのゼリーセットだった。木霊はそれを持ってその場でくるくると回りだす。
「というか貴方一人で来たの? もー、駄目よ、さっき別の子にも言ったけど、この辺り最近危ないんだからー、男を盾にして生贄にして捨てて自分の身を守りなさい、ボロ雑巾のように捨てなさい」
 はたとひろのの若さに気付くと注意してくる。最後が注意になってないが、ひろのは素直に頷く。するとその素直さに満足したのか、笑顔で「じゃあ花ねー」と言ってぱちんと指を鳴らした。
「うわぁ……」
 空中でぽぽぽん、ぽん、と音を立てて生まれる花に瞬間見とれる。けれどすぐに我に返って用意した篭で花を受け止める。
(花を落さないように気をつけなきゃ)
 まだまだ降ってくる花を受け止めながら、ひろのは気を引き締めた。
(……帰りの方が危なっかしい事になりそうだな)
 木陰から様子を見ていたルシエロは、きっと花に集中して歩くだろうひろのを想像する。
 木霊に丁寧に礼を言っているひろのを見ながら溜息を一つ。
 自分が花を持つにしても、ひろのが持つにしても、帰りの方が大変になるだろう。だからこそ行きの時よりももっと強く、守ってやらなければ、と思った。


■花灯りをどうぞ
「いやぁ、ありがとうございました! 何とか営業できそうです。それではお礼に、花灯りをどうぞ!」
 花が揃いようやく一息つけた妖狐が言えば、神人は早速屋台に並べられた花を見て考える。
 どの花を使って、どんな花灯りを楽しもうか―――。
 

■優しい愛情
 ファリエリータが選んだものは。
「お揃いの桔梗のブローチ!」
「俺も?」
「そうよっ」
 言って、出来上がったばかりの桔梗のブローチをヴァルフレードに手渡す。
 ヴァルフレードの大きな手の上にコロンと転がる、光る青紫の花。薄い花びらは光に透けて硝子細工のような繊細さで、宝石のような輝きだ。
「これならヴァルもつけやすいでしょ?」
 ファリエリータの笑顔が、瞳がキラキラと輝いて見えるのは、祭りの雰囲気に酔ったからか。それともこの可愛らしく光るブローチが嬉しかったからか。
「そうだな、つけやすい」
 ありがとう。
 微笑んでそう言えば、ファリエリータもふわりと笑う。
「ファリエにしてはいいセンスだ」
「あ、またそういうこと言う! もう!」
 そうして二人は楽しく言葉を投げあいながら祭りの人ごみの中へと入っていく。
 胸元にはお揃いの光る桔梗。柔らかい澄んだ青紫。
 その意味は―――。


■密やかな揃いの花
 テレーズが選んだものは。
「わぁ、綺麗……!」
 出来上がった山吹の花の髪飾りを受け取り、テレーズは目を輝かせて暫く見つめる。
 選ぶならばこの花しかないと思っていたのだ。
 後ろで待つ優しい人と同じ名前の、赤みの強い黄色の花。
(つけてるのは私だけでもお揃いですよね!)
 自分で考えた事に少し照れながら髪に飾り、待っている山吹へと向かう。
「似合ってますか?」
山吹は選ばれたその花に驚く。自分の苗字と同じものをテレーズは選んだ。その事実は、悪い気はしない。いや、嬉しいと言える。
「ええ、お似合いですよ」
 言って笑いかければ、同じように笑顔が返ってくる。
「お手伝いも終わりましたし、では後は楽しむだけですね。さ、行きましょう山吹さん!」
 テレーズはまた山吹を引っ張って進みだす。
「お祭りは逃げたりしませんよ」
 引っ張られるばかりの一日の最後に、山吹は手を解き繋ぎなおす。
 二人は並んで祭りに向かう。山吹の輝きを飾りながら。


■私の幸せ
 エリーが選んだものは。
「レンゲソウの腕輪?」
「はい。牧歌的な風情がありますね。ラダさんにプレゼントです……花よりも食べ物が良かった、という顔をしていますね」
「そ、そんなことないよぉ」
 ラダは視線を逸らして答える。そんな様子にエリーは呆れ、けれど少し笑う。
 自己満足でもこの花を贈りたかった。
「……レンゲソウの花言葉は『あなたは私の苦しみを和らげる』です」
 エリーにとってラダはまさにその花言葉通りの存在だ。
「私にとってオーガとの戦いはとても重要なことで、ラダさんの力には感謝しているのですよ」
 静かに微笑むエリーにラダは複雑な心境になる。
 オーガがエリーにとって親友の仇なのだと、だからこそオーガ退治に熱心なのだと知ったのは最近だ。
(ボクはエリーの恋人じゃないし、戦いの仲間って感じだけど、でもエリーが常にオーガとの戦いを中心にしてるみたいなのは……)
 何と言えばいいのだろう、この気持ちは。
「うふふ……お祭りだというのに、つい戦いの話をしてしまいましたね。さあ、気を取り直して楽しみましょうか」
「!! ヒャッハーッ! さぁ色々食べるぞー!!」
 エリーの発言で気持ちと空気を切り替える。
 今はまだはっきりさせなくてもいいだろう。今はまだ、この祭りを楽しめればそれでいい。
 二人楽しくすごせれば、それでいい。


■飾らない心
 ひろのが選んだものは。
「ルシェ、あのね」
 一つ思いついたことをルシエロに告げる。いや、お願いする。
 ―――木霊に花灯りを渡したい。
 言われたルシエロは溜息を一つ。
「オレに対しての、初めての『お願い』がそれか」
 ひろのは立葵の簪を手に「駄目かな?」と小首を傾げる。
「だめとは言ってない。オレとしては鳳仙花がお似合いだと思うがな」
 言われて鳳仙花の花言葉『私に触れないで』を思い出し「それは、ちょっと失礼だよ」と少しむっと口を尖らせた。

 ひろのとルシエロは手を繋いでもう一度鎮守の森の入り口へ向かう。
 そしてまたルシエロは隠れ、ひろのが一人、木霊を呼び出す。
「なーにー?」
 ふわりと出てきた木霊にひろのは持ってきた立葵の簪を差し出す。
「花をくれた、お礼です」
 木霊はきょとんとして赤く光る簪を見る。
 そして、笑う。声に出して、きゃらきゃらと。
「あ、あの……?」
「ごめんごめん、まさかまた見るとは思わなくてー」
 木霊はひろのから立葵の簪を受け取ると、面白そうに手の中で弄ぶ。
「花灯りを貰ったのはこれで二回目……自由に動きまわる者達の心は不思議ねー、花に意味を乗せ木霊の私に贈り返すなんて。そんな阿呆さ加減が好きだったんだけど……」
 木霊に初めて花灯りを贈った者、それが木霊を振った男のようだ。
「まぁそろそろ、朱翔(あけがけ)と他の男の区別位はするべきかな」
 あ、それでもまだ許さないのか。
 ひろのとルシエロが同時に同じ事を思ったが、どちらも口に出さない。ここまで来ると朱翔という男はどんな振り方をしたのか気になってくるが、それも口に出さない。
 簪を髪に差した木霊が笑顔で消えていく。
 それを見送ってから、ルシエロが出てきてひろのの横に立つ。
 そしてシンビジウムの簪を取り出した。
「それ……」
「お前は木霊に渡したからな」
 改めてぽわりとした灯りを見て、二人で一緒に見た幻燈花を思い出す。
 ルシエロはひろのの耳の上辺りに差し込む。
「ルシェのは」
 ルシエロの花灯りがないことに気がついて気にするが「男の甲斐性だ。気にするな」と言われてしまった。
「……カッコつけ」
「違う、格好いいんだ」
 当然の事実のように言うルシエロにひろのは笑う。
 視界の片隅で柔らかな灯りが揺れる。
 二人で見る様々な灯りがこれからも増える事をそっと祈りながら、また手を繋いで祭り会場へと戻っていった。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 08月05日
出発日 08月12日 00:00
予定納品日 08月22日

参加者

会議室

  • [4]テレーズ

    2014/08/08-23:38 

    こんばんは、テレーズと申します。
    パートナーは山吹さんです。
    よろしくお願いしますね。

    私達もましろ亭の水ゼリーセットは買っていこうと考えてます。
    これは!争奪戦になりそうですね、ちょっとわくわくします。
    無事にお花を貰ってお店が開けるよう頑張りましょうね。

  • [3]エリー・アッシェン

    2014/08/08-23:06 

    うふぅ……。エリー・アッシェンと申します。
    よろしくお願いしますね。
    それはそうと、木霊の姐さん、荒れてますね~。

  • 私はファリエリータ・ディアル! よろしくねっ。
    パートナーはディアボロのヴァルフレードよっ。

    花灯り、きっととっても綺麗でしょうし是非見てみたいけど、
    それには木霊さんからお花もらわなきゃねっ。
    時間がかかるのは困るし、やっぱり『ましろ亭の水ゼリーセット』を買いに行こうと思うわっ。
    や、安く買えたらいいなあ……!

    あ、あと木霊さんに会う時はヴァル達精霊には隠れててもらわないと。

  • [1]ひろの

    2014/08/08-07:56 

    皆さん。お久しぶり、です。
    ひろのです。
    それと、パートナーのルシェ……。ルシエロ=ザガンです。

    お店、開けないといけないから。
    急いで貰いにいかないと、いけないんですね。

    私は、足が遅い、ので。
    『ましろ亭の水ゼリーセット』って、いうのを。お土産にしようと思います。


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