黒くてテカテカしたすばしっこいアレ(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●その存在がホラー
夏は、虫が元気になる季節。奴とて、その例外ではなく。
カサカサカサ、なんて音を深夜に耳にしたら、眠れなくなる人も多くいるだろう。
ひとたびその姿を目にすれば、恐怖に背筋が凍りつく、そんな人も幾らともなくいるだろう。
だが、奴らはやってくる。
どんなに部屋を綺麗に掃除しても、食べ物の扱いに細心の注意を払っても、出会う時には何故だか出会ってしまう。
それが奴、通称Gである。

●Gとの遭遇
「出た出た出た出た出たんだって!!」
A.R.O.A.本部にて。顔を真っ青にして休憩室から全力疾走してきた男性職員のただならぬ様子に、廊下で談笑していた女性職員が顔を上げる。
「何? どうしたの?」
「休憩室でオーガでも見たんですかぁ?」
ふるふると首を横に振る男性職員。彼は青白い顔のまま、低い声でこう呟いた。
「奴が……休憩室に奴が出た」
「!!」
言葉を失う女性職員たち。
「奴の前で……俺は無力だった。奴は今もきっと、あの場所に潜んでいる」
「役立たず」
「わ、傷つく!」
「うわぁ、どうしましょう。私しばらく休憩室に行けません……」
暫しの沈黙。重苦しい空気が廊下に満ちる。と。
「……あ、そうだ」
男性職員が再び口を開いた。
「今日、ウィンクルムたちが本部に来るじゃないか。ほら、結婚するウィンクルムの先輩に贈り物するのの、プレゼント代集めるとかで」
「あー、あれ今日だったかしら」
「でもそれが、どうしたんですかぁ?」
にやりと口の端を上げる男性職員。
「奴を退治してもらおう、ウィンクルムに」
オーガと戦えるほどの猛者たちなのだから奴の相手なんて楽勝だろうと男性職員は言うが、女性職員たちは首を傾げる。
「幾らウィンクルムでも、アレは苦手なんじゃない?」
「じゃあ鍵かけて閉じ込めよう。有無を言わさず倒してもらおう」
「わあ、鬼畜」
「休憩室、安心して使いたいだろ?」
「まあ……」
「それは、ねえ?」
じゃあ決まりだな、と男性職員が結論づける。ウィンクルムたちがやってくるのは、もうすぐだ。

解説

●このエピソードについて
男性職員に件の休憩室に2人きり閉じ込められたところからスタートです。
そしてわけもわからないまま奴と遭遇します。
奴は複数いるため、どのペアも残念ながら必ず奴に遭遇します。
奴を倒した後、ドアの外の職員に「倒した」若しくは「完全に逃げられた」ことを宣言したら鍵を開けてくれます。
嘘申告はバレます。不思議ですね。

●武器について
休憩室には一応殺虫スプレーとか箒とかモップとか新聞とか武器になりそうな物が色々あります。
上記以外にも、休憩室にありそうもない物以外は採用いたしますのでお好きな武器で奴と勝負してください。
トランスしてスキル発動したりしてもOKですが、皆の休憩室ですので部屋を壊さないように気をつけましょう。
壊しさえしなければ多少暴れても大丈夫ですが、本物の武器の使用はお控えください。
また、皆さま何も知らずに本部へとやってきておりますので、持っていて不自然な物も採用いたしかねます。
変わった物を使いたい場合はそれが手元にある理由をプランにご記入いただけますと幸いです。

●消費ジェールについて
結婚する先輩ウィンクルムへのプレゼント代、おひとりさまにつき150ジェール(2人で300ジェール)を徴収させていただきますことをご了承くださいませ。

●で、どう楽しむの?
自分のために頑張るパートナーの勇姿にキュンとしたりアレが怖くて思わず相手の服の裾に縋ったりはたまたそれらの逆も……みたいな密室でのちょっとしたラブもアリ、2人ともアレが無理で嫌な役目を押し付け合ったりきゃーきゃーギャーギャー騒いだり……みたいなコメディ風味の密室劇もアリ。
勿論、上記以外の色んなプランも大歓迎です。

●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは描写が極端に薄くなりますので、どうかお気をつけくださいませ。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

まず、皆さま本当にすいません。でも、思いついちゃったんです。
アレは私も大の苦手です。重ねてになりますがすいません。
ジャンルがサスペンスなのはあまり気にしないでください。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ではありますがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アレクサンドル・リシャール(クレメンス・ヴァイス)

  お説教を横で聞きながら物思い

クレミーはいつも大人しやかで鷹揚で
決して声を荒げる事もなく
気遣い細やかで優しくて
でも、間違った事はちゃんと叱れる人なんだな

(正式名称の辺りで助け舟)
要するに害虫退治をして欲しいんだろ?

ふうん、御器被っていうのか
ちょっとお勉強になったな

二人でスプレーでさくっと退治してゴミ箱へポイ

あ!面白い事思いついた!
コンビニで買ったアーモンドチョコを二つ
直接白ビニール袋にイン(瞬間Gに見える)
退治終わったぞ!と、いい笑顔でその袋を職員へ手渡し
職員の反応を見てから「チョコは差し入れ」と種明かし

なあクレミー
悪い事したら俺も叱ってくれる?
ん、ありがと
あ!さっきのは「可愛い悪戯」って事で!



天原 秋乃(イチカ・ククル)
  休憩室から出ようとしたら、外から鍵がかかってて開かない?
一体なんで閉じ込められたんだ俺達。
まさか、イチカがなにかしでかしたのか?

俺達に個人的にどうのってわけじゃないなら、なんで閉じ込められ……。
「Σ!?い、今見てはいけないものをみた気がする!!」
サクッとって…こいつたまに恐ろしいこと簡単に言うよな

アレから逃げようとして、反射的にイチカにしがみつく
それはそうと、早くなんとかしてくれよ!虫は嫌いじゃないが、アレだけは苦手なんだよ!!

それにしても、やけに退治に時間かかってるな
ってか、イチカの奴へらへら笑ってるし…
「…イチカ…あんた手ぇ抜いてるだろ…!?」
こいつ、あとで覚えてろよ……!!


俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
  あいつらとんでもないことしやがって…
まあとっとと退治してここから出…ん?
ネカの様子がおかしい
おーい、ネカットさーん?

はぁ!?ちょっと待て
初トランスがG相手とかしょっぱすぎる
誰も見てないとかそういう問題じゃない
たかが虫に本気出すなよ!?

伝統に則って丸めた新聞紙で退治を試みる
しかしなかなか当たらず
Gが顔に向かって跳躍
涙目で硬直

…悪い、正直G舐めてたわ
実家じゃトラファルガー(飼い犬)が全部駆除してたもんだから
ここまで怖いとは思わなかった…
有り難うな、ネカ
まさしくGを一匹残らず駆逐する狩人(イェーガー)だな
…抱っ!?
い、いやそこまでは

さて、報告して出るか
頭はおとなしく撫でられとく
頑張ってくれたからな



エルド・Y・ルーク(ディナス・フォーシス)
  閉じ込められましたねぇ。テーブルの上には早速巨大なGが鎮座しているではありませんか

早く退治してしまいたいのですが、連れが何やら非常に不満そうかつ涙ぐましくGを庇う発言をしている始末

Gは増殖速度も桁違いなのです
故に早く倒さなければ…

(殺虫剤:ぶしゅーっ)

って、言っている側から「サンクチュアリI」でGを回復しないで下さい…っ
Gが集まってきてしまっているではありませんか……!

しかし、こんなにも数がいるのでしたら、少し案を立てる必要がありそうですね

彼がサンクチュアリ発動時に集まってきた部屋中のGを、全て箒で、ゴミ箱交換用に設置されているでしょう巨大ゴミ袋に入れて結び、それを見せて退治といたしましょうか



ティート(梟)
  閉じ込められた!?え?Gって何?ヤバイ奴なのか…?
ていうかおっさんの真面目な顔初めて見た
あんな顔もするんだなーとちょっと吃驚
…え、Gってそんなヤバイの。おっさん早くなんとかしろよ。

あ…あれ?え?クロスケじゃないか!おっさんちょっと待った!
クロスケは…俺が昔独りだった時に傍にいてくれたんだ…
ヤバイ奴なのは分かったけど、クロスケだって生きてるんだよ
だからせめて殺さないで捕まえて外に逃がし…クロスケーー!!

何とかして止めようとするも力で叶うはずも無くクロスケ全滅、拗ねる
クロスケ…○| ̄|_

虫図鑑?綺麗とかの問題じゃないんだけど…
…かき氷買ってくれたら許す(花酔いで気に入った

シリアスと見せかけてギャグ



●第1ラウンド
A.R.O.A.本部にて。ティートと梟の2人が休憩室に足を踏み入れた途端、バタン! と閉められるドア。ティートがガチャガチャとドアノブを回すも……、
「閉じ込められた!?」
どうやら、外側から鍵がかけられているらしい。変事に、ティートを庇うようにして身構える梟。警戒に目を鋭くした梟の面差しを見て、ティートは僅か驚きに目を瞠る。
(おっさんの真面目な顔、初めて見た……)
あんな顔もするんだな、とまじまじとその横顔に見入るティートの耳に、ドアの向こうから間延びした声が届いた。
「いやー、突然すいません! 実はその部屋、Gが出るんですよ。それで、ウィンクルムさんに退治してもらえたらなー、なんて」
状況を理解した梟の肩から力が抜ける。その口から、思わずため息が零れた。
「何だ、ゴキブリか」
呆れ顔で銀の髪をくしゃりと撫でる梟の傍らで、ティートは頭の上に疑問符を浮かべて。
「え? Gって何? ヤバイ奴なのか……?」
新たな敵登場かと戦慄するティートを見て梟は軽く苦笑を漏らし――Gについて掻い摘んで説明を始めた。
「いいか、坊や。Gっていうのは……」
説明の詳細は、ホラー&グロテスクな話になるので省略。しかし、この状況で初めてGのことを知ったティート青年に走った衝撃はお察し下さい。
「……え、Gってそんなヤバイの。おっさん早く何とかしろよ」
「言われなくても、だ」
ここにずっと閉じ込められるのは御免だからな、と手に取るは目についた新聞紙。くるりと丸めれば対G用武器の完成だ。
「っていうか不衛生な場所に出るんだぞ。仕事も大事だろうがこんな騒ぎにする前にちゃんと掃除しろっての」
敢えて外まで聞こえるようにそう付け足して、梟は武器を構える。Gの相手なら、旅の途中に何度もしたことがある。気負いや恐れの色は一切ない。そこへ、呑気にもGが隙間から這い出してきた。
「全く、さっさと片付けて出してもらおうかね。シノビの素早さに掛かればこんなもの……」
と、金の目を光らせてGに照準を絞る梟の後ろで――ティートは青の目を見開く。
「あ……あれ? え? クロスケじゃないか! おっさんちょっと待った!」
「うおっ?!」
飛び出そうとしたところに服を思いっ切り掴まれてつんのめる梟。
「何だ、どうした坊や」
やや勢いを削がれた様子で相棒の方を振り返れば、ティートは縋るような目で梟のことを見つめていて。
「クロスケは……俺が昔独りだった時に傍にいてくれたんだ……」
「……何? クロスケ?」
「ヤバイ奴なのは分かったけど、クロスケだって生きてるんだよ……!」
力説するティート。この辺りで梟、クロスケ=Gだと察する。
「だからせめて殺さないで捕まえて外に逃がし……」
――スパァン!
「クロスケーー!!」
ティートの悲痛な叫び声が部屋に響き渡る。先の『スパァン!』は梟が視界に入ったGを新聞紙で倒した音です。梟、話を聞くのが途中で面倒臭くなった模様。その後も次々と姿を見せるGを遠慮なく屠っていく。ティートには梟を止める力はなく――間もなく、彼らの前に姿を見せたGは全てその命を摘み取られた。
「クロスケ……」
がくりと膝から崩れ落ちるティート。その寂しげな背中に、梟は声を掛ける。
「あー……今度坊やに虫図鑑見せてやるよ。クロスケなんかよりも綺麗な虫いっぱいいるから。な?」
「虫図鑑? 綺麗とかの問題じゃないんだけど……」
ティート、分かり易く拗ねている。どうしたものかと顎を撫でる梟。と。
「……かき氷買ってくれたら許す」
ぼそり、梟に背を向けたままでティートが呟いた。先日出かけ先で食べたのを、よほど気に入ったらしい。可愛らしい我儘に、梟は密か笑み漏らした。
「……分かった、それも買ってやるよ」
かき氷と、それからやっぱり虫図鑑も買って帰ろう。梟はティートに、色んな世界を見せてやりたいのだ。

●第2ラウンド
天原 秋乃とイチカ・ククルも、件の休憩室を出ようとした際に異変に気づく。
「……あれ? 外から鍵がかかってて開かない?」
何度もドアノブを回してみる秋乃だが、一向に扉が開く気配はなく。
「もしかして……閉じ込められたみたい?」
「はぁ?! 一体何で閉じ込められたんだよ、俺たち」
「うーん、僕に聞かれてもなぁ」
秋乃に詰め寄られて困り顔を作るイチカ。一方の秋乃、顎に手を遣って暫し思案し、導き出した一つの仮説は――。
(まさか、イチカが何かしでかしたのか?)
じとーっと向けられるのは疑いの眼差し。イチカはすぐに、その視線の意味を察した。
「って、秋乃は何で僕をそんな目で見るのかな。僕何もしてないからね……?」
「何だ、イチカじゃないのか」
特に疑ったことを謝ったりはしない秋乃である。イチカの口から、重いため息が零れた。
(僕ってそんなに信用されてないのかな……)
肩を落とすイチカを華麗にスルーして、秋乃は部屋を見回し状況整理を始める。
「俺たちに個人的にどうのってわけじゃないなら、なんで閉じ込められ……」
そこまで口にした時、秋乃は視界の端に、壁をカサコソと移動するソレを見た。背筋を冷たいものが走る。
「!? い、今見てはいけないものを見た気がする!!」
「見てはいけないものって……お化けとか?」
「違う! ベクトルが違う! って、うわ! また出た?!」
突如取り乱してじりと後ずさる秋乃の視線の先に黒々と輝くGを見留め、イチカは「ああ」と得心したように呟いた。
「何だアレか。あんなの、その辺のスリッパでサクッと潰せばいいじゃん?」
言いつつ、イチカは言葉そのままに『その辺のスリッパ』を手に取る。何でもないふうのイチカを見て、やや青ざめた顔の秋乃がぽつりと零すは。
「サクッとって……あんた偶に恐ろしいこと簡単に言うよな」
「えー、そう?」
と、へらりと自分に笑いかけるイチカの向こう、Gがまた動き出すのを見て、秋乃は反射的にイチカにしがみついた。
「それはそうと、早く何とかしてくれよ! 虫は嫌いじゃないが、アレだけは苦手なんだよ!!」
ぴたり引っ付かれたままでぎゃんぎゃんと騒がれて、怖がる秋乃も可愛いなぁなんて口にした途端怒られそうなことを思いつつ、イチカは「りょうかーい」と間延びした返事をする。手にしたスリッパを構え直しながら、考えることは。
(早々に退治しちゃってもいいんだけど、ちょっと手を抜いて秋乃の反応を見てみようっと)
普段、あまり秋乃から(全然めげていないが)良い扱いを受けていないイチカである。Gに怯えているせいだとは分かっていても、いつもより距離が近いのが嬉しくて。イチカは秋乃に見咎められないよう密か口元を緩めつつ、程よく手加減しながらGと格闘する。
「い、イチカ! 早く倒せって! 早く!」
「分かってるよー。それにしても、秋乃に頼られてるなんて何だか嬉しいなあ」
「馬鹿言ってないで早く! ……っつーか、やけに退治に時間かかってないか?」
ふと訝しみ、相棒の顔を覗き見れば――秋乃の緑の瞳に映ったのは、気合など微塵も感じられない、へらへらとした笑顔だった。秋乃の胸にふつと沸き上がる怒りの感情。
「……イチカ、あんた手ぇ抜いてるだろ……!?」
低い声で追及されても、イチカは特に動揺するわけでもなく、
「あー、ばれた?」
なんてえへへと笑っている。ぷつん、と秋乃の中で何かが切れる音がした。
「イチカ、後で覚えてろよ……!!」
「あれ? 秋乃怒っちゃった?」
参ったなぁなんて言ってみてはいるが、全然参った顔をしていないイチカ。可愛い秋乃が見られたから、怒られたって気にしない。イチカはそういう男である。
「いいから早くそいつを始末しろっての!!」
秋乃の怒声に背中を押されるようにして、イチカはようやっとGをスリッパの一撃で仕留める。無事に部屋から出してもらった後、イチカがどういう目に遭ったかはまた別のお話。

●第3ラウンド
「くそっ、とんでもないことしやがって……」
突然Gが出るという部屋に閉じ込められて、俊・ブルックスは低く漏らした。けれど、ため息一つ、俊は気持ちを切り替えようと努める。要はGを倒しさえすればいいのだ。
「とっとと退治してここから出……ん?」
ポジティブな言葉を紡ぎ切ることは、傍らのネカット・グラキエスが放つ殺気にも似たオーラによって阻まれた。
「ふ、ふふふ……私たちをあの黒い悪魔の元へ閉じ込めるとは……」
黒い笑みを口元に貼りつけて何やらぶつぶつと呟くネカット。
(ネカの様子がおかしい……)
尋常ではないその様子に、俊は思わず一歩後ずさる。
「おーい、ネカットさーん? 笑顔が怖いデスヨー?」
恐る恐るつっこみを入れる俊に視線を遣って、
「え? 笑顔が怖い? そんなことないですよ」
とネカットはにっこりとした。だがしかし彼の目は一切笑っていない。
「とりあえず、即刻倒して差し上げましょう。サーチアンドデストロイです」
キリリと宣言して、ネカットは俊の目を真っ直ぐに見た。
「というわけでシュン、トランスです」
「はぁ!?」
「さあどうぞご遠慮なく」
「ちょっと待て初トランスがG相手とかしょっぱすぎる!」
「誰も見ていませんよ?」
等と小首を傾げるネカットの緑の瞳はどこまでも本気である。
「そういう問題じゃない! たかが虫に本気出すなよ!?」
俊にトランスをする気が一切ないと見て取って、ネカットはやれやれと首を横に振った。
「仕方ないですね……では文明の利器でいきましょう」
やや残念そうに構えるのは休憩室に常備されている殺虫スプレー。
「とはいえ奴も日々進化します……旧式では確実ではありません」
「だけど、何だかんだこういう昔ながらの武器が一番効いたりするだろ?」
と、俊が手にしたのは新聞紙。くるりと棒状に形を整えれば、それはもう伝統に則った対G用兵器。そこへ、飛んで火に入る夏の虫、噂のGの登場である。
「速攻で終わらせてやる!」
手作りの武器を手に、俊は颯爽と前に出た。壁を這うGに一撃を食らわそうとするも、敵は素早くトリッキーな動きで俊を翻弄する。
「ああもう、なかなか当たらねぇ……!」
これでどうだ! と武器をぶんと叩きつければ――こともあろうに、Gは最終兵器・羽を使って飛んだ。しかも、俊の顔面に向かって一直線に、である。そしてGは、余裕綽々、俊の鼻先へと身を落ち着けた。あまりの衝撃に叫び声を上げることさえ叶わず、涙目でフリーズする俊。ネカットの目が冷たく光った。
「シュンに手をかけたら許しません……!」
こうなったら最終手段です、と、風のような速さでネカットはティッシュを巧みに用いGを捕え、屠ったGをゴミ箱にポイする。俊が、その場にへたり込んだ。
「シュン、大丈夫です?」
「あー……悪い、正直G舐めてたわ。実家じゃトラファルガーが全部駆除してたもんだから」
ここまで怖いとは思わなかった……と呟く俊の声には実感がこもっている。ちなみに、トラファルガーは俊の飼い犬の名前です。
「有り難うな、ネカ」
先ほどのネカットの姿は、まさにGを一匹残らず駆逐する狩人だったと思う俊である。立ち上がろうとする俊にGとの戦闘に用いなかった方の手を貸しつつ、ネカットは穏やかに微笑んで曰く。
「今の心境を代弁しましょうか。『キャーネカットさん素敵! 抱いて!』……です?」
「……抱っ!? い、いやそこまでは……」
俊の反応を見て、ネカットはくすりとした。
(頭を撫でてあげたいところですが、手を洗ってからの方がいいですね)
そんなことを思うネカットの隣で、俊が疲れ切ったような息をつく。
「さて、報告して出るか」
「そうですね、名残惜しいですが出ましょうか」
「……名残惜しいって何だよ」
「? そのままの意味ですよ」
部屋を出て、手を洗って。頑張ってくれたからと俊が大人しくしていたので、ネカットは思う存分俊の頭をなでなでしたとか何とか。

●第4ラウンド
「さて……閉じ込められましたねぇ」
顎を撫でながら、エルド・Y・ルークはゆったりと言葉零した。部屋の外にいる職員の話によると、部屋内のGを退治すれば鍵を開けてくれるらしい。そして、部屋のテーブルの上には、お膳立てされたように巨大なGが堂々と鎮座している。いるのだが……。
「ミスター! どうしてGを退治しなくてはならないのですっ。彼らは存在しているだけです! 彼らは、人や精霊の様に喧嘩をふっかけてくる訳でもない、非常に平和で温厚な動物ですよっ?」
パートナーのディナス・フォーシスが、この調子なのである。Gを屠るのに絶対反対、その訴え様は涙ぐましいほど。流石自然を愛するファータ……と言いたいところだが、普段余計な一言等で『喧嘩』の原因を作っているのは専らディナスの方だったりする。閑話休題。
「ディナス。Gは増殖速度も桁違いなのです。故に早く倒さなければ……」
涙ながらに、懸命に訴えかけるディナスの気持ちを思い、エルドは眉尻を下げるも――その手には、しかと殺虫スプレーが握られている。
「?! ミスター!!」
凶行を阻止しようと伸ばされたディナスの手が、空しく空を切った。ぶしゅー、とGに向かって放たれる殺虫剤の白い霧。
「あぁ……」
世の中とはかくも無情なものなのか。膝から崩れ落ちたディナスの目に滲む涙。しかし、神は彼を見放さなかった。
「……おや、効きませんか。なかなか根性がありますね」
エルドの声に、バッ! と顔を上げるディナス。テーブルの上、Gは無事だった。殺虫剤攻撃を受けてなお、彼(?)は気丈に立ち上がる。が。
「こういう時は……新聞紙かスリッパですかねぇ」
エルドが、常と変らぬ口調で不穏なことを呟いた。今度こそ、止めなくてはならない。その時、使命感に燃えるディナスの頭にぴんと閃くものがあった。
「……ミスター」
呼ばれて、エルドが振り返る。
「どうしました、ディナス?」
「僕が間違っていました。さあミスター、スペルを唱えて、僕の頬に口づけを」
「えぇと、それはつまり……」
「はい、トランスです! Gを倒す為ならば……!」
ディナスの急な心変わりに内心首を傾げつつも、その勢いに押されて、エルドは力呼ぶ言葉と頬への口づけを零す。
「それでは行きますよ……!」
オーラ纏ったディナスが展開するのは――Gのいるテーブルを中心としたエナジーフィールド。それは、まごうことなき癒しの力。
「って、言っている側から『サンクチュアリI』でGを回復しないで下さい……っ」
エルドがつっこみを入れるも、ディナスの目はどこまでも本気である。
「この力でGの救出に当たります!!」
と、カサカサと気味の悪い音が、部屋中から微かに、しかし確かに響き始めた。重なり合う音、現れる無数の黒。
「ほら、Gが集まってきてしまっているではありませんか……!」
「な、何だか沢山集まってきましたね……」
回復フィールドにわらわらと集うGを見て、ディナスの声がここにきて引き攣る。
「Gは悪くないのですが、ここまで来るとさすがに眩暈が……」
とか言ってる傍から、テーブルの上のGはぞわぞわ増えていく。
「ひ……! た、助けてください、ミスター!!」
遂にディナスが音を上げた。美しいかんばせを歪めて、もう半分泣いている。ため息一つ、エルドはこの異常事態の対策を考え始めた。
「こんなにも数がいるのでしたら、少し案を立てる必要がありそうですね」
言ってエルドは箒を使って、部屋に常備されている巨大ゴミ袋へと果敢にもGを掃き入れていく。しかと封をすれば、任務完了だ。
「もう大丈夫ですよ、ディナス。さぁ、これを見せて退治といたしましょうか」
エルドは穏やかに零すも、袋からは擦れるような不快な音が聞こえ続けている。これを見たらG嫌いの職員はどんな顔をするだろうと思いつつ、ディナスにはもう、そのことをつっこむ気力もないのだった。

●最終ラウンド!
「あのなぁ、これは人に物を頼む態度ではないやろ? 相手を閉じ込めて、自分が嫌なことを強要しようとするやなんて……」
アレクサンドル・リシャールと共に休憩室に閉じ込められたクレメンス・ヴァイスが外にいる職員から事情を聞いてまず始めたのは、G退治ではなく職員へのお説教だった。決して怒っているわけではなく怒鳴ることもないのだが、低い声音にどすがきいているので、扉の向こうの職員は恐縮しきりである。クレメンスの声を傍らで耳に聞きながら、アレクサンドルは物思いに耽る。
(クレミーはいつも大人しやかで鷹揚で、決して声を荒げることはないし、気遣い細やかで優しくて……)
でも、とアレクサンドルはそんな相棒の横顔を見やった。
(間違ったことは、ちゃんと叱れる人なんだな)
口元に知らず浮かんだ笑みは、きっとそんなパートナーのことが誇らしいから。
「お願いごとがある時にはそれ相応の頼み方いうもんがあると思うんやけど?」
「おっしゃる通りです……」
「せやったら、どうしたらええかわかるよね?」
「は、はい、その、Gをですねぇ……」
「Gって何?」
「え」
「せやから、それは何?」
職員が狼狽するのが、扉越しでもアレクサンドルに分かるほどだった。ちなみに、クレメンスに一切悪気はないんです。ただ、Gという略称が示すものが何か本気で分からないというだけで。
「あの、ご、ごきっ……」
この辺りでG嫌いの職員がガチ泣きしそうになったので、アレクサンドルは慌てて助け船を出す。
「要するに、害虫退治をして欲しいんだろ?」
そうなんですお願いしますと職員が涙声ながらもきちんと頼んで、クレメンスもそれでようやっと納得した。元より、ちゃんとお願いされたらG退治とやらを引き受けるつもりだったクレメンスである。
「せやけどほんまに、Gって何なんやろか?」
クレメンスが不思議そうに首を傾げるので、アレクサンドルはその正式名称をこそりクレメンスの耳に囁いた。「ああ」とクレメンスが合点のいった顔をする。
「何や、御器被が出たくらいで何やの」
「ふうん、アレのこと御器被なんていうのか」
「伏せた器の下によぅおるからやろうね」
「成る程ー。ちょっとお勉強になったな」
等と何でもないような会話を交わしつつ、2人は殺虫スプレーを構えさくさくっとGの残党を退治していく。倒したGをゴミ箱にぽいすれば任務完了だ。
「割とあっさり終わったな……あ、面白いこと思いついた!」
アレクサンドルの顔に明るい笑みが浮かぶ。ここへ出向く前にコンビニで買ったアーモンドチョコを2つ、白いビニール袋に直接落とせば――。
「瞬間Gに見えると思わないか?」
「はぁ。よぅそないなこと思いつくねぇ」
感心半分呆れ半分でクレメンスがそう漏らせば、アレクサンドルは悪戯っぽく笑み零して。
「おーい! 退治終わったぞ!」
部屋の外に出て、職員に満面の笑みで件のビニール袋を手渡せば、
「う、うわあぁぁぁ!!」
と予想以上の反応を見せて、職員はビニール袋を壁に向かって投げつけた。悪戯成功、とアレクサンドルはころころと笑う。隣でクレメンスも、思わずといった調子で吹き出した。
「それ、中身チョコだから! 差し入れってことで!」
種明かしをして、2人はそのまま本部を後にする。その帰り道のこと。
「なあ、クレミー」
「何やの、アレクス」
呼べば答える声に、「悪いことしたら俺も叱ってくれる?」とアレクサンドルは問う。
「そんなん当たり前やんか」
「ん、ありがと」
自然笑顔になるアレクサンドルへと、今度はクレメンスが問いを投げかけた。
「あんさんもあたしに何かあったら、叱ったり制止したりしてくれはる?」
「勿論!」
「そう、おおきに」
顔を見合わせて、どちらからともなく2人は笑み漏らす。と。
「あ!」
アレクサンドルが、思い出したように声を上げた。
「さっきのは、ほら。『可愛い悪戯』ってことで!」
「ああ、あれ。褒められたもんやないと思うんやけど、あたしも笑うてしもうたしねぇ」
2人分の思い出し笑いが、往来に響いたのだった。



依頼結果:大成功
MVP
名前:アレクサンドル・リシャール
呼び名:アレクス
  名前:クレメンス・ヴァイス
呼び名:クレミー

 

名前:ティート
呼び名:坊や、ティート
  名前:
呼び名:おっさん、梟

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル サスペンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 08月01日
出発日 08月10日 00:00
予定納品日 08月20日

参加者

会議室

  • [5]ティート

    2014/08/05-19:27 

    ティートだ、よろしく。
    ん…前回?ぜんk……あぁ……(思い出した(顔を覆った)

    梟:
    エルド以外ははじめましてだな?梟だ、よろしくな。
    それにしてもエルド、この前の宴は楽しかったなぁ!
    機会があればまたお前さん達と一緒に行きたいもんだ。

    にしてもGか。旅の途中で何度も相手したし怖かないが、坊やがどんな反応をするかだな…

  • [4]天原 秋乃

    2014/08/05-00:53 

    天原秋乃だ。
    「2人きり閉じ込められたところからスタート」とあるから、直接絡むことはないかもしれないが、よろしくな。

    ……正直、アレは俺も苦手だ。
    できれば遭遇したくねぇんだけど………。

  • [3]エルド・Y・ルーク

    2014/08/04-08:34 

    初めまして、エルド・Y・ルークと申します。
    ティートさんは前回、大変楽しませて頂きました。
    他の皆さんも、どうか宜しくお願いしますよ。

    ……Gですか。私は苦手意識は無いのですが、どうも相方が……老体に鞭を打たせるつもりでしょうか、全く難儀な事です。

    それでは、皆さん別室となりそうですが、どうか宜しく。

  • [2]俊・ブルックス

    2014/08/04-08:09 

    俊・ブルックスと相棒のネカだ。
    みんな初めましてかな?
    なんかネカの奴、すげえ怖い笑顔なんだが…さっさと退治して帰るか。

    ところで、ここのウィンクルムってみんな男同士ってことは
    結婚する先輩って、つまり……

  • アレックスだ、よろしくな。
    たかが虫一匹……いや、何匹いるか知らないけど、職員テンパリすぎだろ。
    まあ適当に退治して、適当に職員いじめて帰ろうかなって思ってる。
    所で、皆別の部屋なんだろうか。
    そんなに出るなら、真剣に燻煙剤とか使った方がいいんじゃ……。


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