プロローグ
「おや、珍しい。こんな時期に……」
タブロス市近郊にある、小さな町『ケスケソル村』。
暑さが厳しいこの季節の早朝、経営する喫茶店の窓から外を眺め、ケスケソル村の村長シリルは大きく瞬きしました。
『恋虹華(れんこうか)』と呼ばれる村名物の花が、蕾をつけ始めていたのです。
『恋虹華』は、角度によって虹色に輝く、クローバーに似た三つの花びらを持っている花です。
非常に寿命が短くデリケートな花で、手折ったり掘り起こしたりなどすると、虹色の花びらは色を失い、すぐに枯れてしまいます。
このため、この小さな村にしか存在していない、不思議な花です。
『この花の花びらを紅茶に浮かべ飲むと、願い事が叶う』
『極稀に存在する、四つの花びらを持つ個体を見つけたカップルは、永久に結ばれる』
そんな言い伝えがあり、恋虹華の咲く間は、数多くの人々が花を愛でに村を訪れます。
「ホタルが飛ぶ季節だ。……祭りをしないといけないな」
シリルは直ぐに村人達と祭りの準備を始めました。
★夏の『恋花祭り』開催★
ホタルと恋虹華を楽しもう!
夜の恋虹華の花畑を、ホタルが舞います。
幻想的な光景を楽しみませんか?
人気の『恋虹華の花びらを浮かべた紅茶』も勿論ございます。
※ホタルの光を楽しむために、誘導灯の灯りだけでご案内しております。ご協力をお願いいたします。
解説
夜のお祭りで、恋虹華とホタルを楽しんでいただくエピソードです。
参加費用として、お一人様150Jr掛かります。
恋虹華の花畑から花を採る事はできませんので、ご注意ください。
(見つかった場合、お祭りのスタッフさんにきついお叱りを受け、町から追い出されてしまいます)
花畑から少し離れた場所で、屋台が出ており、一般的な日本の縁日にあるような食べ物と飲み物が売られています。
飲み物は50Jr、食べ物は100Jrです。(成人している方はお酒も飲めます)
飲食は、屋台傍の決められたスペースでお願いします。
花畑に併設されているカフェから、花畑を眺める事も可能です。
『恋虹華の花びらを浮かべた紅茶』を含めた、一般的な日本のカフェにあるようなメニューが、ひと通り揃っています。
こちらも、飲み物は50Jr、食べ物は100Jrです。
なお、カフェ内もホタルの光を楽しむため、照明は消されており、蝋燭の明かりだけとなっております。
お祭りは日の暮れた辺りから、深夜まで行われます。
以下、行動可能な場所です。
・恋虹華の花畑(近くの川からやって来たホタルが舞っています)
・花畑に併設された小さな展望台(花畑を一望することができます)
・花畑から少し離れた場所で営業している屋台(飲食可能なベンチが設置されているスペースがあります)
・花畑に併設されたカフェ(村長のシリルが営業しています)
ゲームマスターより
このたびゲームマスターを務めさせていただく、『夏と言えば浴衣だよね!』雪花菜 凛(きらず りん)です。
夜のお祭りエピソードです。
是非、パートナーさんとのんびりと過ごしていただけたらと思います♪
勿論、神人さん・精霊さん同士での交流も大歓迎です。
皆様の素敵なアクションをお待ちしております!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)
恋花祭りがあると聞いたら いてもたってもいられませんわね、サフラン! サフランを誘ってウキウキとケスケソル村へ向かいます 初めて恋花祭りに参加した時と同じく 恋虹華の花畑へ行きます 夜に見る恋虹華もまた違った綺麗さがあって とっても素敵ですわねっうふふ そう言えばサフランはサングラスを取らないんですの? 夜にサングラスしていたら転びそうで危ないので サングラスに手を伸ばして取ってみます 恋虹華の花畑の中を歩きながら しゃがんで恋虹華と目線を近づけてみたり ホタルを驚かさないようにそっと手を差し出してみたり ほらっホタルが恋虹華にとまっていると 何だか花びらが4つあるように見える気がしませんか? だから、今回はいいんですの |
ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
あの時はデミ・オーガを退治しにこの村に来たんだったよね 『虹色リンゴ』今でも忘れないよ、本当に素敵だったもの ホタルと恋虹華も凄く楽しみ♪ 私もエミリオさんと手を繋ぎたい、な・・・(真っ赤になって俯く) えへへ、嬉しい・・・ありがとう、エミリオさん シリルさんのカフェに行ってみようよ 恋虹華の紅茶が飲みたいな もうお願い事は決まってるんだ えへへ、エミリオさんには内緒だよ(笑顔) 『エミリオさんがずっと笑顔でありますように』 (エミリオさんが笑うとね、心がすごく温かくなるの 男の人に守りたいって言ったら怒られちゃうかな・・・? でもね、エミリオさんが私を守ってくれるように、私だってエミリオさんを守りたいんだよ) |
ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
アドリブ歓迎 綺麗な所ね、貴方の故郷もこんな感じ? 行先:恋虹華の花畑 蛍を堪能しつつちょこんと座り 恋虹華どこにあるかしら 特には…講義で習ったくらいね あ、足元! 踏まないように押しのけて勢い余って二人して倒れこむかも …花は無事!? 綺麗…線香花火みたい…何よっ!? 儚い感じが…似てる…って何が可笑しいの!? ぼそっと…ようやく笑ったわね べ、別にっ… たまに怖い顔してたから気になっただけよ! か、勘違いしないでよっ 貴方が怪我したり死なれると私が困るの! 依頼は達成したし保護対象も無事だったわ それでいいじゃない くるっと背を向け 展望台の後はカフェよ、ちゃんと調べたんだから …次に何処かに行く時はエスコートしなさいよね? |
クリスタル・スノーホワイト(キース・ゴルドリオン)
蛍……ですか?見たことないので、楽しみ!ですよ。 白地に赤い金魚柄の浴衣。帯も赤いきんぎょ結びです 夜の花畑 明るい陽射しの加減で虹色に輝くという恋虹華の花は 蛍の光を反射して、また別の彩りで幻想的に輝くのかもしれない 夜風が蛍の住む川の水の匂いを運び、涼しい。 「ホタルブクロ?」 キースの手元を覗き、手渡されたものを手のひらで包むようにして見つめると 蛍の明滅と共に花の中にとじこめられた明るい緑色の光が、小さな提灯のように 夜にぼんやりと浮かぶ 「……きれい」 少し照れた顔で頬を掻いた後、手を引いて屋台に連れて行ってくれる キースの手をきゅと握り返し いつかまた、おじさまと一緒に見にきたいです 恋虹華への小さなお願い。 |
エリナ=スペトリク(アルヴィス)
お祭り…ですか? 噂には聞いていましたが、実際行くのは初めてですっ どこに行きましょうか…? …へ? わたし、決めて良いのですか? それなら…『カフェ』に行ってみたいです~ 【注文:飲み物】 外から見るのも良いのですが中から見ても素敵ですね~お花 あそこのふよふよ飛んでるのがほたる、ですか? わあ…綺麗です…! わ、あそこのほたるさん達、仲良いですね~ アルくん、そんなこと言ったらダメです…! 夢が壊れちゃいます… …だけどわたしにもいつか、あのほたる達みたいに大切な人を見つけられるでしょうか。…どう思いますかアルくん? |
●1.
「お祭りって、噂には聞いていましたが、実際行くのは初めてですっ」
エリナ=スペトリクは、深海の瞳を輝かせてアルヴィスを見上げた。
彼女も彼も、本日は浴衣姿。
だって、お祭りなのだから。
アルヴィスはエリナを一瞥してから、目的地である村の入り口へと視線を投げる。
『恋虹華の里・ケスケソル村へようこそ!』
そんな看板が、仄かな誘導灯の灯りに浮かんでいた。
二人並んで村の中へと足を踏み入れる。
村の中は、あちこちに仄かな誘導灯の灯りが灯されて、暗いけど暗くない、何所か別世界のような雰囲気だった。
屋台からは、食欲を刺激する良い香りが漂い、祭り独特の熱気が漂っている。
「こういうの嫌いじゃねェだろ?」
「はい!」
アルヴィスがエリナを見下ろすと、彼女は花咲くような笑顔で頷いた。
「……おい、どこ行きたいんだ?」
「どこに行きましょうか?」
二人同時に同じ事を訪ねて、思わず顔を見合う。
「……へ? わたし、決めて良いのですか?」
「ああ」
エリナは迷うように首を傾けてから、
「それなら……『カフェ』に行ってみたいです~」
近くの案内板に記されていたカフェを指差す。
「ならさっさと行くぞ」
アルヴィスが先導する形で、二人は虹色の花畑の隣にあるカフェへと向かった。
運良く窓際の特等席に座れて、エリナは大きな窓の外に広がる幻想的な光景にほぅっと息を吐く。
「外から見るのも良いのですが、中から見ても素敵ですね~お花」
「ああ、そうだな」
向い合って座る二人のテーブルの上では、蝋燭の明かりが揺らめいていた。
テーブルや壁に設置された燭台の蝋燭の炎だけが照明だ。
そのお陰で、窓の外で舞う蛍の光と、それに照らされる恋虹華が良く見える。
「あそこのふよふよ飛んでるのがほたる、ですか? わあ……綺麗です……!」
「凄いな。沢山飛んでる」
「お待たせ致しました」
二人の前に、注文した紅茶が置かれる。
「いただきます。……良い香りです」
品の良い優しい香りに微笑み、エリナはカップを口に運んだ。
「美味しいですね~」
「悪くないな」
何所かゆったりと流れる時間を感じながら、二人は紅茶を楽しみつつ、窓の外の景色を眺める。
「わ、あそこのほたるさん達、仲良いですね~」
ふと、絡み合うように飛ぶ二つの光を見つけ、エリナが指差した。
「……たまたまじゃれ合ってるように見えるだけだろ」
「アルくん、そんなこと言ったらダメです……! 夢が壊れちゃいます……」
そっけないアルヴィスに、エリナが眉を寄せて首を振る。青混じりの銀髪がふわりと揺れた。
「ふん、知らねェ」
赤の瞳を細め、アルヴィスは紅茶のカップに口を付ける。
窓の外では、先ほどの二匹の蛍が、変わらず絡み合うようにして元気に飛び回っていた。
「……だけど」
その光景をじっと見つめ、エリナの唇からぽつりと言葉が漏れる。
「だけどわたしにもいつか、あのほたる達みたいに大切な人を見つけられるでしょうか」
「……」
「……どう思いますかアルくん?」
蛍を見ていた視線がアルヴィスに戻され、深海の瞳が真っ直ぐに見つめてきた。
アルヴィスは視線を合わせず、窓の外の蛍を見遣る。
少しの沈黙の後、彼の唇が動いた。
「……大切なヤツ、天然エリナに見つけられるかどうかはさて置き」
そこで言葉を止めて、視線をエリナへ向ける。
「けど……テメーを想うヤツ、もしかしたら世界のどっかに居るかもな」
「……はい!」
エリナは本当に嬉しそうに笑ったのだった。
●2.
「綺麗な所ね、貴方の故郷もこんな感じ?」
ミオン・キャロルの問い掛けに、アルヴィン・ブラッドローは小さく瞬きした。
「まぁ……似てる、かな」
自然豊かな森付近の小さな集落が、彼の故郷。
沢山の蛍が舞う所が故郷と重なり、懐かしい感じがしているのは事実だ。
もしかして、だから誘って来たのだろうか?
ミオンの横顔を盗み見るけれど、それで彼女の考えが読める訳もない。
ミオンとアルヴィンは、並んで座り花畑を眺めていた。
「四つの花びらを持つヤツが、あるのよね」
蛍の光を頼りに、花畑の中へ瞳を凝らす。
「花、好きだったのか?」
「特には……講義で習ったくらいね」
じゃあ何で?
ますます彼女が、この恋花祭りに自分を誘ってきたのか分からない。
「あ、足元!」
突然ミオンの声が近くでしたと思ったら、アルヴィンの視界が一回転した。
「い、イタタ……」
柔らかい感触に、アルヴィンの頬が赤く染まった。
自分を押し倒すようにして、ミオンが上に乗っかっているのだ。
「……花は無事!?」
がばっと身を起こすと、ミオンはアルヴィンの足があった辺りを見遣った。
「よかった、無事だわ」
そこには、花畑から種が飛んだのだろうか。ぽつんと一輪だけ恋虹華が咲いている。
「近くで見ると、一段と不思議な花ね。綺麗……線香花火みたい」
「詩人?」
後ろからアルヴィンが花を覗き込んだと思ったら、突然噴き出して笑い出した。
「儚い感じが……似てる……って何が可笑しいの!?」
カーッとミオンの顔が赤く染まる。
その様子がますますアルヴィンの笑いのスイッチを刺激した。
二人して倒れ込んでいる状況とか、ミオンの思いもよらぬ言葉とか。
楽しくて可笑しくて。
「……」
不満そうだったミオンの顔が、ふっと柔らかく微笑んだ。
「……ようやく笑ったわね」
唇からぼそっと小さく呟きが溢れる。
「え?」
笑い過ぎて浮かんだ涙を拭いながら、アルヴィンが不思議そうにミオンを見つめた。
「べ、別にっ……たまに怖い顔してたから気になっただけよ!」
ミオンがどもるように言い返す。
「……そんな顔してたか?」
思わず己の頬を撫でる。意識してなかったが、言われてみれば、思い切り笑ったのは本当に久し振りだった。
「気を遣わせたか……さんきゅ」
感謝の意を込めて、彼女の頭にぽんと手を乗せる。
「か、勘違いしないでよっ」
耳まで赤くしながら、ミオンは俯いた。
「貴方が怪我したり死なれると私が困るの!」
「うん、そーだった。悪い」
自分独りの命じゃない。
ミオンに心配させてしまったらしい。しっかりしないと。アルヴィンは心で呟く。
「依頼は達成したし、保護対象も無事だったわ。それでいいじゃない」
「……ああ」
アルヴィンの中で、複雑な感情が交差する。
初めてあったオーガに、敗北を喫して見逃され……悔しい気持ちもある。
ただ、死を目の当りした恐怖が、消えないのだ。
出来れば、もう会いたくないとさえ思う程に。
けれど、そんな弱さを、彼女に……ミオンに見せる訳には行かない。
(しっかりしないと)
もう一度心で呟き、ミオンの頭をぽんぽんと軽く叩いた。
大丈夫だと、そう誓うように。
ふいっとミオンが背を向けた。その耳はまだ赤い。
「展望台の後はカフェよ、ちゃんと調べたんだから」
「へ?」
「……次に何処かに行く時は、エスコートしなさいよね?」
ちらりとこちらを振り向く彼女に、アルヴィンは満面の笑顔を返したのだった。
●3.
「ミサ、転ぶといけないから手貸して」
そう言ってエミリオ・シュトルツが差し出した手に、ミサ・フルールは自分の顔が熱くなるのを感じた。
そっと彼を見上げると、エミリオの顔も仄かに赤いのが、薄暗い中でも分かる。
「私もエミリオさんと手を繋ぎたい、な……」
小さな声で答えて、ミサは真っ赤になって俯いた。
彼の赤い瞳と目が合うと、それだけで胸の鼓動がどんどん高鳴ってしまう。
伸ばされたエミリオの長い指が、優しくミサの手を包んだ。
「……お前の手、小さいな」
「……エミリオさんの手は、大きいね」
どちらのものか分からない早鐘のような鼓動が、繋いだ手から伝わるようだった。
「えへへ、嬉しい……ありがとう、エミリオさん」
「……礼を言うのは、こっちの方だ」
見上げてくるミサの笑顔が眩しくて、エミリオは瞳を細める。
二人は人混みに紛れないようしっかりと手を繋ぎ、ケスケソル村の中へと足を踏み入れた。
「あの時はデミ・オーガを退治しにこの村に来たんだったよね」
依頼で訪れた時の村とは、空気が違った。
華やかで熱気のある、お祭りの雰囲気。
「『虹色リンゴ』。今でも忘れないよ、本当に素敵だったもの」
思い出の風景を思い出し、ミサの頬が緩む。
「そうだね。またこの村に来れて嬉しいよ」
エミリオも同意すると、喫茶店で食べたケーキの味を思い出して微笑む。
「ミサ。どうする? このまま花畑に行ってみるか?」
遠くに見え始めた虹色の光へ瞳を凝らしながらエミリオが尋ねると、ミサはその隣に立つ喫茶店を指差した。
「シリルさんのカフェに行ってみようよ。恋虹華の紅茶が飲みたいな」
「紅茶か、いいね。飲みたいと思ってたんだ」
二人はカフェへと向かう。
「いらっしゃいませ」
聞いた事のある声と共に、蝋燭の明かりだけで幻想的に照らされた喫茶店が二人を出迎えた。
「シリルさん。こんばんは」
二人揃って頭を下げると、ウェイター姿の村長シリルがにっこりと笑顔を見せる。
「ようこそ。ミサさん、エミリオさん」
シリルの持つ蝋燭の炎に足元を照らして貰いながら、二人は窓辺の席へと腰を掛けた。
恋虹華の紅茶とケーキを頼んで、大きな窓の外へと視線を遣る。
虹色の絨毯を、キラキラと無数の光の珠が照らしていた。
「綺麗……」
蛍が動くと、虹色の花が次々を色を変えて、闇夜に浮かび上がる。
何ものにも代え難い、不思議な光景だった。
「お待たせ」
少しの間、言葉を失って花畑を眺めていると、シリルが紅茶とケーキを運んでくる。
黄金色の紅茶の上に、キラキラと虹色の花びらが浮いていた。
「花びらは15分ほどで色が落ちるから、それまでに飲んでね」
シリルはそう言い残し、テーブルを離れていく。
「もうお願い事は決まってるんだ」
カップを手に取って、ミサは揺れる花びらを見つめた。
「俺も願い事は決まってるよ」
エミリオもまた、カップを手にミサを見遣る。
「ミサは教えてくれないの?」
「えへへ、エミリオさんには内緒だよ」
輝くような笑顔でミサはそう答える。
エミリオはふっと優しく微笑んだ。
「だったら俺も教えない」
二人は同時に、祈りを込めて紅茶をくいっと飲み込む。
『エミリオさんがずっと笑顔でありますように』
『ミサがずっと笑顔でありますように』
祈りを込めながら、ミサは思う。
(エミリオさんが笑うとね、心がすごく温かくなるの
男の人に守りたいって言ったら怒られちゃうかな……?
でもね、エミリオさんが私を守ってくれるように、私だってエミリオさんを守りたいんだよ)
祈りを捧げながら、エミリオは考える。
(この温かな笑顔を守るのは俺の役目だ。
俺はミサの隣にいられるだけで幸せなんだよ。
その為なら俺は何だってできる気がする)
煌めく光と虹色の花が、二人の祈りを静かに見つめていた。
●4.
「恋花祭りがあると聞いたら、いてもたってもいられませんわね、サフラン!」
予想通りのマリーゴールド=エンデの言葉に、サフラン=アンファングはやれやれと笑った。
恋花祭りがあると聞いた時から、こうなるだろうなと思っていたら、やっぱりこうなったか。
(ま、俺も結構、好きなんデスケドネ)
「マリーゴールドは恋虹華がホント大好きだなぁ」
「うふふ、私(わたくし)大好きですっ」
マリーゴールドは即答すると、ずいっと身を乗り出してサフランを見上げる。
「サフランだって、好きですわよね?」
何だか悔しいような複雑な気持ちになりながら、サフランは小さく頷いた。
「ソーデスネ」
「では、参りましょう♪」
マリーゴールドの手がサフランの手を掴み、急かすように歩き出す。
「そんな引っ張らなくてモ……」
「サフラン、早く早くっ」
「あんまりはしゃぐと転びますヨー」
生き生きとしたマリーゴールドの横顔を眺め、サフランは小さく笑ったのだった。
「また会えましたね……!」
闇の中を、光の珠が鮮やかに彩る。
その光に照らされて、虹色に輝く花へ向かい、マリーゴールドは大きく両手を広げた。
ふわりと風が吹き、まるで返事をしているかのように恋虹華が揺れる。
マリーゴールドの顔に満面の笑みが広がった。
「夜に見る恋虹華もまた違った綺麗さがあって、とっても素敵ですわねっ! うふふ」
「ダネ。在り来りな言葉しか出て来ないけど、綺麗だ」
サフランは、闇夜に浮かぶ虹色の絨毯を見つめ口元を緩める。
その彼を振り返って、マリーゴールドは大きく瞬きした。
「そう言えば……サフランはサングラスを取らないんですの?」
「え?」
思い掛けない言葉に、今度はサフランが大きく瞬きする。
「夜にサングラスをしていたら、転びそうで危ないですわ」
言うなり、マリーゴールドの手がサフランの顔に伸びて、サングラスを抜き取った。
「これでヨシ、ですわ」
サフランの服の胸元にサングラスを差して、マリーゴールドはにっこり微笑む。
「……ドーモ」
完全に虚をつかれて、全く動けなかった。
「……何か自分以外の人にサングラスを取って貰うのって、ミョウニキハズカシイデスネ」
「サフラン、何か言いました?」
先へ歩き始めていたマリーゴールドが、不思議そうな顔をして振り向く。
「イエ、ナンデモナイデス」
「そうですか? では、参りましょう! 花畑、ぐるっと回ってみたいですわっ」
「ハイハイ」
軽い足取りで歩くマリーゴールドの後ろを、サフランは付いて行く。
「マリーゴールド、そこ段差があるから、気を付けて」
「あ、ホントですわっ ありがとう、サフラン!」
彼女が転ばないよう気を付けながら、のんびりと歩く道。
明かりは、遠くに見える誘導灯と、蛍達のみ。
他にも人が居る筈なのだが、まるでこの空間に彼女と二人だけのような錯覚を覚える。
マリーゴールドが差し出した手に、蛍がキラキラと集まっていた。
上を見上げると、夏の正座が夜空を彩っている。
天上の光に、地上の光。
二つの光に照らされたマリーゴールドは、今日は何だかやけに眩しかった。
暫く蛍とじゃれた後、彼女はその場にしゃがんで、恋虹華に目線を近付ける。
ふと、最初に二人でここに来た時の事を、サフランは思い出した。
四つの花びらを持った恋虹華を、彼は確かに見たのだ。
「今回は、四つの花びらを持つ恋虹華は探さないの?」
気付いたら、マリーゴールドへそう尋ねていた。
マリーゴールドの金の瞳が見上げてくる。
「見てくださいな、サフラン」
彼女は微笑むと、彼女の前で揺れている恋虹華を指差す。
花びらが一つ、光っていた。
「ほらっ、ホタルが恋虹華にとまっていると、何だか花びらが4つあるように見える気がしませんか?」
「……確かに」
「だから、今回はいいんですの」
サフランは瞳を細めると、自らもマリーゴールドの隣にしゃがみ込んだ。
それから暫く、飽きることなく、ホタルがとまる恋虹華を二人で眺めたのだった。
●5.
「夜に紅茶なんか飲んだら、お前眠れなくなるだろ?」
黒の絣の浴衣に、灰色の角帯を締めたキース・ゴルドリオンは、そう言ってクリスタル・スノーホワイトの黒髪を優しく撫でた。
「それに、絶対あっちの方が好きだろうしな」
キースの視線の先には、食欲を掻き立てる匂いが漂う屋台がある。
クリスタルはきょとんと首を傾けた。
白地に赤い金魚柄の浴衣で、帯も赤いきんぎょ結びのクリスタルは、いつも以上に可愛い。
キースは頬が緩む己を感じながら、もう一度、彼女の頭をぽんぽんと軽く撫でた。
「まずは花畑に行ってみような。蛍、沢山居るらしいぞ」
「蛍……ですか? 見たことないので、楽しみ!ですよ」
クリスタルの表情が輝くのに、更に緩む頬を引き締めつつ、キースは彼女の手を引いて花畑へと向かう。
蛍の住む川の水の匂いと共に、涼しい風が吹いた。
無数の光が、自由に空を飛び回り、辺りを幻想的に照らす。
キラキラとしたその光に照らされている、虹色の花。
蛍が動くのに併せ絶えず色彩を変える不思議な花畑を、クリスタルは息を呑んで見つめた。
風が吹くたび、蛍が舞うたび、万華鏡のように色が変わり、煌めく。
キースもまた、言葉を失くしてこの光景に目を奪われたが、きゅっとクリスタルが強く手を握ってくるのに、彼女へ視線を落とした。
花畑と蛍に心を奪われている彼女の黒髪が、風に揺れている。
(クリスが誰かと恋をしてこれを見る頃、俺もすっかりおっさんだよなぁ……)
そう考えると、何だか感慨深い。
(イイ女に育てよ?)
ポンポン。
無意識に彼女の頭を撫でてから、キースは『よし』と口の端を上げた。
「クリス。ちょっとこっち」
「おじさま?」
キースはクリスの手を引いて、花畑の端っこへと移動する。
「やっぱり間違いなかったな」
キースはそう言うと、柵の傍に咲いていた大きな釣り鐘状の花を一つ、手折った。
「ホタルブクロって言うんだ」
「ホタルブクロ?」
続いてキースは、ふよふよと飛んでいた光を素早くキャッチすると、袋のようなその花の中へ入れた。
「ほら」
クリスタルの手にその花が置かれる。
手のひらで包むようにして見つめると、ポゥっと淡い光を放った。
「……きれい」
暗闇の中で、蛍が光を発する度にホタルブクロが浮かび上がる。
明るい緑色の光が、まるで小さな提灯のように、闇夜にぼんやりと浮かぶのだ。
幻想的な光景に、クリスタルは瞳を輝かせた。
「おじさま、すごく素敵。ありがとう」
少し照れた顔で、キースが頬を掻く。
「ホタルさん、ありがとう」
暫く楽しんだ後、蛍に別れを告げて、二人は屋台へと向かう。
繋いだ手をクリスタルはぎゅっと握り返した。
(いつかまた、おじさまと一緒に見にきたいです)
花畑を振り返り、クリスタルは心で祈る。
虹色の花。
願いを叶えてくれますか?
●6.
「アルくん、見てください。ほたるが沢山……綺麗です」
花畑の中で、エリナは踊るようにくるっと一回転する。
蛍が歓迎するように、彼女の回りを飛んでいた。
「お星様の中に居るみたいですね」
「星、か……」
アルヴィスが指を伸ばすと、指先に蛍が集まってきた。
「アルくんの事も、歓迎してくれていますね」
「愛想よくしても、何も出ないぞ?」
「アルくん、そんなこと言ったらダメです……!」
「冗談だ」
アルヴィスが何時になく優しい表情なのに気付いて、エリナは微笑んだのだった。
「何をお願いするの?」
虹色の花びらが浮かんだカップを手に、ミオンは向かいに座るアルヴィンを見つめた。
カップに視線を落とし考えるようにしてから、彼は笑顔で顔を上げる。
「ミオンに心配を掛けませんように、とか」
「ばっ……」
馬鹿じゃない。
言い掛けた言葉をミオンは飲み込んだ。
「心配とかしてないしっ」
が、結果的に大して変わらない悪態になってしまい、内心どうしてこうなったと頭を抱える。
「ミオンは?」
「……別にいいでしょ」
貴方の笑顔が曇らないように。そう祈る事は内緒だ。
ミサとエミリオは、虹色の花畑の中を歩いていた。
繋いだ手。同じ歩幅。
凄く幸せだと、ミサは思う。
暗闇の中、蛍の光に照らされているエミリオは、本当に綺麗で。
(王子様、みたい)
暗闇の中、ミサの髪をキラキラと蛍が彩っている。
虹色の花に囲まれた彼女は、とても綺麗だと、エミリオは思う。
(天使みたい、だ)
繋いだ手の温かさが、彼女が自分の傍に居ると教えてくれていた。
「美味しい、です」
屋台にて、クリスタルの表情がふにゃんと蕩けた。
「クリス、こっちもイケるぞ」
キースは、買ったばかりのたこ焼きをクリスタルへ示した。
「熱いから気をつけろよ」
息を吹き掛け、十分に冷ましてからクリスへと渡す。
「とっても美味しい、ですっ」
「お祭りフードは最高だなっ」
二人は屋台メニュー制覇へ向け、着実に食べ歩いていく。
「次はいつ、会えるでしょう?」
マリーゴールドは少し寂しそうな表情で、虹色の花へ語り掛ける。
「気紛れで咲くって話ダカラネ。恋虹華の気分次第カナ」
「また、絶対に会いに来たいです」
サフランの言葉に、マリーゴールドはそう言って微笑んだ。
「蛍と一緒に見れたのは、とてもラッキーなんですわ。恋虹華に感謝ですわねっ」
「いいモノ、見せて貰ったネ」
「次に会える時を楽しみに……またいつか!」
マリーゴールドの明るい声が、夜の空気に優しく溶けたのだった。
Fin.
依頼結果:大成功
MVP:
名前:クリスタル・スノーホワイト 呼び名:クリス |
名前:キース・ゴルドリオン 呼び名:キースおじさま |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 雪花菜 凛 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 07月29日 |
出発日 | 08月04日 00:00 |
予定納品日 | 08月14日 |
参加者
- マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)
- ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
- ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
- クリスタル・スノーホワイト(キース・ゴルドリオン)
- エリナ=スペトリク(アルヴィス)
会議室
-
2014/08/02-20:39
クリスタル・スノーホワイトですよ
隣は精霊のキースおじさま。なのです。
初めましての方は、はじめまして(ぺこり)
マリーおねえ様はお久しぶりなのです。(ぺこり)
蛍をみるのは初めてなのです、みんなが楽しみにしてるくらい
きれいなんですねぇ……わくわくする。です。 -
2014/08/02-07:20
ミサ・フルールです。
パートナーはディアボロのエミリオさんです。
マリーさんとミオンさんはお久しぶりです!
エリナちゃんとクリスちゃんは初めまして(微笑み)
お祭り、思いっきり楽しみましょう♪ -
2014/08/02-06:44
ミオン・キャロルよ
ミサさん以外は初めましてかしら
皆さん、よろしくお願いします
蛍が沢山、早くみたいわ -
2014/08/01-21:12
皆様初めてお会いする方ばかりですね~
エリナ=スペトリクと申します。
お祭り、ですか。素敵な夜になると良いですね♪
パートナーのアルくん共々楽しみにしています。
宜しくお願いします~ -
2014/08/01-20:29
ごきげんよう、マリーゴールド=エンデと申します。
パートナーはマキナのサフランと言いますわっ
ミオンさん、エリナさん、はじめまして!
ミサさん、クリスタルさん、今回もよろしくお願いします!
恋虹華がホタルと一緒に見られるなんて素敵ですわねぇ。
うふふっ楽しい恋花祭りになりますようにっ