【夏の思い出】南国の夜はあなたと共に。(加持 桜子 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 パシオン・シー、それはタブロス市から自動車でおよそ1日程の距離にある南国の海。今は季節柄とても賑わっているという。
 そして観光会社ミラクル・トラベル・カンパニーでもパシオン・シーへのツアーがいくつも企画されていた。そしてそのうちのツアーのひとつを、ツアーコンダクターであるマリウスがA.R.O.A.に紹介する為に訪れていた。

「こんにちは、今回はパシオン・シーへのお誘いを持ってきましたよ」
「こんにちは、もう夏だものね。南国でバカンス……ウィンクルム達の息抜きに丁度よさそうだわ」

 A.R.O.A.の職員とマリウスは暫し話し込み、ツアーの概要を説明する。その内容はこうだ。

 今回のツアーはパシオン・シーでも屈指の豪華ホテルで花火大会を楽しむという物。タブロスから現地ホテルへの送迎費用と宿泊費用がパックになった物。代金は1500Jrだ。
 オーシャンビューの豪華ホテルに泊まる事を思えば安いくらいですよとマリウスは言う。
 何より今回の目玉は、宿泊しているホテルの部屋から花火が見れるという物。お部屋にルームサービスを頼んでバルコニーから眺めて……なんて事もできると言うのだ。花火大会の会場に行くのもいいけれど、ホテルのバルコニーから二人っきりでと言うのもいい思い出になるだろう。

「あら、神人と精霊は同じお部屋なの?」
「はい、ご希望があればベッドはツインかダブルか選べるタイプですが……何か問題でもありましたか?」
「……まぁ、大丈夫でしょう。それじゃあ神人と精霊の皆さんにお話しておきますね」
「お願いします、それでは私はこれで!」 

 ツアーコンダクターを見送りながら、A.R.O.A.の職員は渡されたパンフレットを人目の付く場所へと置いた。

解説

●費用
1500Jrとなります

●お部屋について
様々なお部屋があります、南国タイプやロマンティックな天蓋付きベッドのあるお部屋、和風のお部屋等々。
ご希望があればこんなお部屋で、とプランにてお申し付け下さい。お任せも可能です。
お部屋のベッドですが、ツイン(シングルのベッドがふたつ)かダブル(クィーンサイズのベッドがひとつ)かお選び下さい。
(ツインを頼んだはずなのに間違えてダブルにしてしまった、とかも有りです)
広めのバルコニーがあります、イスとテーブルのセットが置いてあります。

●花火について
19:30から21:00まで上がっています。
港で上げられるので夜景と花火の両方が楽しめます。

●その他
希望者には浴衣の貸し出しと着付けのサービスなんかもあるようです。
他にも、こんな物があればいいなと言う物があればプランで教えて下さい、ホテルにあればお部屋にお届けできると思います。



ゲームマスターより

はじめまして、またはこんにちは。加持桜子です。
三本目のエピソードとなります、よろしくお願いします。

パートナーとの甘いひと時をお過ごしになるのもいいですし、喧嘩しちゃって仲直り……なんていうのも楽しいかもしれません。
パートナーと一緒の部屋でドキドキして下さいね、過度なプランは様々なアクシデントでなかった事になる可能性もありますのでご了承下さいませ。

皆様のご参加、お待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ☆心情
エミリオさんに私の気持ちを伝えなきゃ
緊張しすぎて昨日は一睡もできなかったよ

(部屋に到着)
う、嘘、私間違えて『ダブル』に申し込んじゃった
エミリオさん、これは違うの!その、きゃああっ!?
~っ、私エミリオさんのことが(紅茶のルームサービスがきて慌てて離れる)

(バルコニーで花火観賞)
わぁ、綺麗・・・
あ、あのね、私エミリオさんのことが(大きな花火が上がり)
えっ、聞こえなかったの!?
好き・・・ずっと好きだったんだから・・・っ
私の一番はエミリオさんだよ

(就寝時)
エミリオさん、私をす、好きになってくれてありがとうね
お、おやすみなさい!(頬にキス)
とは言ったものの、ドキドキしすぎて眠れないよ(徹夜2日目)



クロス(オルクス)
  アドリブOK

王室風 ダブル

淡い青地 桜柄

オルクこの部屋凄いな
まさに豪華って感じは良いんだけどさ?
何故ベッドが一つしか無いんだ?
ツインにしてって頼んだ筈…オルク謀ったな!?
毎晩一緒に寝る予行練習?
何言ってんだ馬鹿!

花火は浴衣着てバルコニーで?
まぁ人が多そうだし、良いぞ(ニコ
頼むなら酒な
大人の雰囲気で良いだろオルク?

わぁ綺麗だなぁ…
って何言ってんだ!//
俺じゃなく花火見ろ!//
まっまぁ嬉しいけど//
驚いたけど別に嬉しくなかった訳じゃねぇよ
ホントは嬉しかった…//

ん、ちょっと酔ったか?
俺オルクに撫でてもらうの好き
もっと撫でて?

んーオルク一緒に寝よ~
えい押し倒し☆
オルク大好きだからぎゅーしてね、る…



ロア・ディヒラー(クレドリック)
  わ、私高校生だけどこんなに贅沢して良いのかなー
(天蓋ダブルベッドの部屋)
同じ部屋なの!?
あのねクレちゃん、それは同性同士の友達の場合だよ・・・

紫地に蝶々柄の浴衣をレンタルで着付けてもらう。ルームサービスでこっそり焼きそばを頼んでみる。

わああ良く見える!特等席だね。
夏といえば花火とお祭りじゃない。今年はまだだから焼きそばで気分だけ。小さい頃両親と行った事ないの?
ご、ごめんそうだったんだ・・・(辛い事思い出させちゃったかな)
クレちゃん今度一緒にお祭り行こう!きっと楽しいよ

床は申し訳ないから一緒に寝るけど・・・目をつぶってみたものの眠れない。
不安?
ってええちょっとなんで抱きしめて寝てるの!?


リオ・クライン(アモン・イシュタール)
  《心情》
何故んな事に・・・。
あいつと同じベッドで寝るはめになるとは・・・ただでさえ一緒の部屋だというのに・・・。
うぅ・・・折角のバカンスなのに、これでは楽しめないじゃないか!

《行動》
・部屋は南国タイプ。
・ツインを頼んだはずなのに手違いでダブルになっており、意識してしまい何処かギクシャク。
・精霊と一緒に浴衣の貸し出しと着付けのサービスを希望し、花火会場に向かう。
・髪は簪で結い上げている。
・人の多さに驚きながらも、夜の海に上がる綺麗な花火を見て感動。
・なんだかんだで堪能しており、優しい笑顔を見せる。
・就寝時「ぜっ、絶対に変な事をするなよ!?」と釘を指しながらも、就寝中に寝ぼけて自分から精霊に密着。



出石 香奈(レムレース・エーヴィヒカイト)
  ラタンを沢山使ったアジアンリゾート風ツイン
浴衣着用

レム…浴衣似合うのね、意外
素敵だと思う、ねえこっち座って
バルコニーに椅子を並べて座る
相手にもたれかかろうとして空振り、隣の椅子に突っ伏す
…ちょっと、なんで避けるのよ
って飲み物?タイミングわる…

や、これは眠いわけじゃなくて…
何か勘違いしたレムと揉み合ううちにバランス崩して倒れ込む
あ…かばってくれたのね
あのね、そのまま聞いてくれる?
寝不足なのは一人寝が寂しいから
契約してから他の男は全部切ったから
でも今夜は安心して眠れそう、ありがとね

花火が始まりやっと今の状態を思い出す
ところでいつまで押し倒してるつもり?
…なんてね、不可抗力よね
ほら花火見ましょう?



●特別な夜を、あなたと

 ロア・ディヒラーはホテルの部屋に入った瞬間、目を見開いて驚いた。それを横で見ていたクレドリックも、ほほぅと小さく呟く。

「わ、私高校生だけどこんなに贅沢しても良いのかなー?」
「バカンスとは日頃の疲れを癒す為にあるのだろう? これくらいの贅沢は許されるというものだよ」

 ロアがそう言うのも無理はない、その部屋はどこもかしこも贅沢に満ち溢れていた。南国らしいスタイルであったが、調度品の一つ一つが美術品のようであった。何よりロアの目を惹いたのは天蓋付きのベッドで、その大きさは人が二人寝ても余裕があるほど。

「……クレちゃん、もしかして私達同じ部屋なの!?」
「友達とはお泊り会なるものをするらしいではないか、自然な事ではないのか?」
「あのね、それは同姓同士の友達の場合だよ……」

 諦めを含んだ口調でロアがクレドリックに諭す。けれど頼んでしまった物は仕方ないと意識を切り替えて、もうすぐ始まるであろう花火大会の準備をする事にした。
 浴衣のレンタルがあると聞いていたので、二人で着付けをしてもらう。ロアは紫地に蝶々がひらひらと舞う浴衣、クレドリックは藍色の浴衣でシンプルな流水文の模様が入った物。綺麗に着付けをしてもらい部屋へと戻ると、ロアがルームサービスで頼んでおいた焼きそばが届けられたところだった。
 その焼きそばや飲み物をバルコニーのテーブルへと運べば、ひゅるるると言う音と共に花火が上がり、夜空を大輪の花が飾る。

「わああ、良く見える! 特等席だね」
「確かに良く見えるな。どのような調合をすれば、あの模様になるのか興味深いな。……ところでロア、何故焼きそばが?」
「夏と言えばお祭りじゃない。今年はまだだから焼きそばで気分だけね、小さい頃両親と行ったりしなかった?」

 クレドリックを見ると、その横顔は打ち上がった花火に照らされて表情はよく見えなかった。花火の音が少し遠のくと、クレドリックが口を開く。

「祭か、行ったことが無いな。ああ、私の両親は幼い頃に他界しているからな」
「ご、ごめん……そうだったんだ」

 辛い事を思い出させてしまっただろうかと少し目を伏せると、クレドリックが無表情なその顔にほんの僅かではあったが笑みを浮かべる。

「何を謝っている、事実を述べたまでだ」
「そうだけど……あ、そうだ! クレちゃん今度一緒にお祭り行こう! きっと楽しいよ、ね?」
「一緒に……ふむ、楽しみにしている。今一緒に焼きそばを食べながら花火を見ているのも、十分楽しんでいるがね」
「絶対だよ! この焼きそば美味しいよね」

 打ち上がる花火は大玉な物が多く、響く音もまた乙な物。同じ音を胸に響かせ、スターマインと呼ばれるクライマックスを楽しんだ。
 花火が終われば、それぞれ借りた浴衣を返し就寝となるのだが……。

(うぅ……床は申し訳ないから一緒に寝るけど、目をつぶってみたものの眠れない……! ね、寝たふりしちゃおう)

 離れて寝ているけれど、同じベッドというのは緊張してしまってロアは寝たふりをする事にする。そんなロアを見ながら、クレドリックは少し心配になる。目を閉じて動かない姿を見ると、不安になるのは……。

「ロア、寝ているか? ……やはり不安だ」
(寝たふり、寝たふり……不安?)

 不安って何がだろうとロアが思う暇もなく、クレドリックはロアの傍に寝直すとその頭を撫でた。

(ってえええ!? 頭、撫でられてる! っていうか近い……!)

 ロアは半分パニックになりながらぐるぐると思考を回す。そしてそっと薄目でクレドリックの様子を伺うと、いつの間にかすぅすぅと寝息を立ててクレドリックは寝ていた。その顔はなんだか幼い子どものようで、ロアは心の中で溜息を吐くとそっと目を閉じた。
 今日は特別、バカンスだし。そう考えながらロアもゆっくりと眠りに落ちた。



 ミサ・フルールは緊張していた。パートナーであるエミリオ・シュトルツから先日告白をされ、その返事を保留にしたままだったのだ。妹扱いなのだとずっと思っていたけれど、そうじゃなかった……一人の女性として見ていてくれていた。嬉しさと、突然の告白に頭が真っ白になってしまって返事ができないまま、豪華ホテル一泊となってしまったのだ。
 なんとしても自分の気持ちを伝えなくては、と思いながら案内された部屋へと入る。オーシャンビューも美しいその部屋は、まるでお城の一室のような豪奢な部屋でミサは一瞬緊張を忘れて、すごいと呟いた。

「ミサ」
「は、はい!?」

 エミリオに名前を呼ばれ、ミサが少々うわずった声で答える。そっとエミリオを見ると、その目線はベッドへと注がれている。

「気のせいかな、ベッド……ダブルなんだけど」
「えっ!? あ、なんで……嘘、私間違えてダブルに申し込んじゃった!?」

 二人が寝ても尚余裕のあるベッドにミサが駆け寄って、呆然としながら確認する。エミリオもまた、ミサの後ろからベッドを覗き込んだ。

「ミサのくせに、俺を誘うなんていい度胸だね」
「エ、エミリオさん、これは違うの! その、きゃああっ!?」

 ぼそりと耳元で囁かれ、ミサがエミリオを振り返ろうとしたその時。
 優しいけれど力強いエミリオのその腕が、ミサをベッドへと押し倒す。ふかふかのベッドに沈んだ身体を動かせず、ミサは顔を真っ赤にしてエミリオを見る。

「ねぇ、あの時の返事を聞かせてよ? 俺そろそろ我慢の限界なんだけど」

 耳元でエミリオの甘い声が響く。まるで甘いお砂糖に頭が溶けてしまいそうな気持ちになりながら、ミサは必死に唇を動かした。

「~~っ、私、エミリオさんの事がっ」

 その瞬間、部屋にチャイムの音が鳴り響く。エミリオはいい所で邪魔をされ、少し不機嫌そうだったがベッドから下りてドアへと向かった。ルームサービスの紅茶を受け取ると、ミサを手招きしてセットされたテーブルで二人で紅茶を飲む。ほんの少し気まずかったけれど、バルコニーで花火を見る頃にはそんな気まずさも吹き飛んでいた。

「わぁ、綺麗……」

 次々に打ち上がる花火は美しく、ミサは思わず呟く。そうだな、とエミリオの声が聞こえてミサはさっきの返事を言わなくちゃと気合を入れた。

「あ、あのね、私……エミリオさんの事が」

 好き、と言ったけれどその瞬間に大きな花火が打ち上がり、ミサの声は掻き消されてしまう。

「え?花火の音で聞こえなかった。もう一回言ってよ」
「えっ聞こえなかったの!?」

 本当は聞こえていたけれど、散々焦らされたのだから少しくらい意地悪をしてもいいだろうとエミリオが聞き返す。

「だから、その……好き……私もずっと好きだったんだから……っ!」

 そう言った瞬間、ミサはエミリオの胸に抱きしめられていた。それから、額にキス。

「やっと手に入れた……もう離してあげないから、覚悟して」
「私の一番はエミリオさんだよ……」

 打ち上がる花火よりも、腕の中に大輪の花。やっと手に入れた喜びにエミリオの頬は緩み、ミサは恥ずかしさからただ目を閉じてエミリオの鼓動を感じるばかりだった。
 やがて豪勢だった花火が終わり、寝る準備を整えると薄明かりの付いたベッドへ潜り込む前にミサがエミリオを呼び止める。

「エミリオさん、私を……す、好きになってくれてありがとうね。おやすみなさいっ」

 そっと背伸びをしてエミリオの頬にキスをすると、ミサは逃げるようにベッドに潜り込み端っこの方へと横たわった。

「な……! ミサ、あんまり可愛い事しないでくれる? って、もう寝たの?」

 寝たふりをするミサの横へ倒れこむように寝ると、エミリオも目を閉じる。けれど好きな人……それも想いを確かめあった人を横に眠れる訳もなく、エミリオとミサは眠れぬまま朝を迎えるのだった。



 出石 香奈と レムレース・エーヴィヒカイト が取った部屋はラタンをふんだんに使用したアジアンリゾート風のツインタイプの部屋だ。ラタン……藤で編まれた家具はどれも最高級の物ばかりでどこか涼しげだ。落ち着いた色合いのランプや室内灯も部屋の雰囲気をよりよい物にしていた。
 香奈は落ち着いたデザインの浴衣を身に纏い、バルコニーで花火が始まる直前の空気を楽しんでいた。そうしていると、レムレースが浴衣に着替えてこちらへやってくる。

「レム……浴衣似合うのね、意外」
「おかしいか?」
「ううん、素敵だと思う。ねえ、こっち座って?」

 ラタンの椅子を二つ並べ、二人で座る。契約したばかりの二人は、まだ相手の事を深くは知らない。レムレースが絆を深めなければと生真面目に考えながらテーブルに目をやると、相手の飲み物が切れているのに気が付く。お代わりを持ってきてやろうと立ち上がった瞬間、同じタイミングでそっとレムレースにもたれ掛かろうとしていた香奈がレムレースが座っていた椅子に突っ伏した。

「……お前は何をやっているんだ」
「レムこそなんで避けるのよ」
「俺は飲み物を取りに行こうとしただけだ」
「飲み物?タイミングわる……」

 はぁ、と溜息を吐いた香奈は、朴念仁相手に色気のある行為など無駄かしらと思いながらそのまま椅子に寝転がる。その様子を見て、レムレースは香奈が眠いのだと思い当たった。検討違いだったが。

「そういえば最近寝不足だと言っていたな、眠いならベッドまで運ぼう」
「や、これは眠い訳じゃなくて……えっ」

 有無を言わさぬレムレースの力強い腕に掴まれ、横抱きにされそうになるけれど、そうではないと揉み合う内に二人はバルコニーへと倒れこんでしまった。香奈の上に乗りかかる格好になってしまったレムレースは、体重をかけないようにしながら香奈の頭を触って頭を打ったりしていないか確認する。

「おい、大丈夫か?」
「えぇ……レムが庇ってくれたから……あのね、そのまま聞いてくれる?」

 香奈の言葉にレムレースが無言で頷く。

「寝不足なのは、一人寝が寂しいから……契約してから、他の男は全部切ったからよ」
「……正直、香奈の寂しさとやらは余りよく分からないが……俺といる事で少しでも癒されるのなら傍にいるといい」
「ふふ、でも……今夜は安心して眠れそう、ありがとね」
「む……これもウィンクルムとしての絆を深める為だ」

 相変わらず朴念仁なレムレースの返事に、香奈が笑うと夜空にぱっと大輪の花が咲き、ドォンッと言う音が響く。花火が始まったのだ。

「ところでレム、いつまであたしを押し倒してるつもり?」
「む、すまん……」

 言われて自分達の状況に気が付き、慌ててレムレースが体を退ける。

「ふふ、嘘よ。不可抗力だもの、ほら……花火を見ましょう?」

 二人は立ち上がると、改めて飲み物を用意してバルコニーに並べた椅子へと座る。隣に座るその距離は、さっきよりどことなく縮まったような気がして香奈は微笑んだ。
 レムレースは用意されたカクテルを飲む香奈を見つめ、口を開く。

「俺は下戸でな。酒に付き合えなくてすまない」
「あら意外……いいのよ。その代わり、もしもあたしが酔い潰れたら面倒みてよね?」
「……構わんが、節度ある飲酒を心がけるように」

 どこまでも堅いレムレースに、はいはいと返事をして香奈は花火を見つめた。夜空に何発も打ち上がる花火は美しく、香奈とレムレースは感嘆の声を上げるのであった。



「オルク、この部屋凄いな!」
「結構豪華だな……流石有名ホテル、侮れねぇ……」

 クロスとオルクスが予約した部屋は王室風で、豪奢なシャンデリアが目を惹く部屋だ。全てが品のいい調度品で纏められている。

「まさに豪華って感じはいいんだけどさ? 何故ベッドが一つしか無いんだ?」
「あっれーおかしいなぁ、ツインにした筈なんだけどなぁ……?」

 ほぼ棒読みで言ってのけるオルクをキッとクロスが睨む。

「ツインにしてって頼んだ筈……オルク謀ったな!?」
「謀ったなんて大袈裟な……クククッ別にいいじゃないか♪ 近い将来、毎晩一緒に寝る事になるんだし? 予行演習ってことで諦めろ」
「毎晩一緒に……何言ってんだ馬鹿!」

 にこにこと笑うオルクに、クロスが照れて突っかかる……それは二人にとってはいつもの事だったし、コミュニケーションの一環のようなものだ。

「そうだ、花火は浴衣着てバルコニーで見るぞ。そっちの方が風情あるしな」
「まぁ人が多そうだし、良いぞ。頼むなら酒だな、大人の雰囲気で……良いだろオルク?」
「はいはい、良いけど弱いんだから程々にな?」

 酔っ払ったクーも可愛いけどな、という呟きはクロスには聞こえなかったようで、クロスは浴衣をレンタルし着付けてもらう為にフロントへと向かう。行くぞ、と言う声に返事をしてオルクスもその後に続いた。
 クロスは淡い青地に桜柄の浴衣、オルクスは淡い紺地に秋海棠柄の浴衣を着付けてもらうと部屋へと戻り、バルコニーへと移動する。暫くするとポンポンと音がして、小さい花火がいくつか上がるのが見えた。
 テーブルには頼んでおいたカクテルやお酒が並び、隣り合わせた椅子へと座ってグラスに花火を映しながら乾杯をする。

「ふぅ……本当に綺麗だな、花火」
「あぁ、綺麗だ……まぁクーには劣るがな」
「……っ何を言ってんだ! 俺じゃなく花火を見ろ!」

 照れて赤くなっているのかほんのりお酒が回っているのか、クロスの頬は艶めいていてオルクスはドキっとしてしまう。

「……まぁ、嬉しいけど」
「素直で宜しい」

 オルクスがクロスの頭を撫でて笑う。

「それと驚かしてゴメンな、クー。でもこのぐらいのアピールは勘弁してくれ、いつまでも足踏みは嫌なんだ」
「驚いたけど、別に嬉しくなかった訳じゃねぇよ。……ホントは嬉しかった」

 ツインではなくダブルにした事を言っているのだろうか。クロスはオルクスに向かって素直に言葉を紡ぐ。いつもより数段素直な自分にクロスはちょっと酔っただろうかと考える。花火は綺麗だったし、用意されたお酒は美味しくてつい多めに飲んでしまっていたのは事実だ。

「俺、オルクに撫でてもらうの好き。もっと撫でて?」
「良いが……クー、酔ったな? ほら、ベッド行くぞ」

 甘えてくるクロスは可愛かったけれど、肩を貸してベッドまで連れて行く。水を飲ませる為に備え付けの冷蔵庫に行こうとすると、クロスがオルクスを押し倒すようにベッドへと倒れこんだ。

「って、うわっ!?」
「んー……オルク、一緒に寝よ~」
「……普通逆なんだが、今回は仕方ないか」

 既に目を閉じて気持ちよさそうに、うにゃうにゃと寝言のように言うクロスを見てオルクスは仕方ないとそのまま寝転がる。

「オルク大好きだから、ぎゅーして……ね、る……ん……」
「おやすみ、クー。俺も大好きだぞ」

 すやすやと寝息を立ててしまったクロスに、どうやってこの埋め合わせをさせようか……等と考えながら目を閉じる。クロスが目を覚ました時、どんな反応をするのだろうかと思いながらオルクスは眠りに付いた。



  リオ・クラインは何故こんな事になったのか、と部屋に立ち尽くす。予約した南国タイプの部屋は豪華ホテルの名に恥じない造りで、カラフルさとシンプルさ、そしてライトアップによって壁に映し出される幾何学模様がなんとも美しい……それこそ申し分の無い部屋だった。なのに、何故リオは立ち尽くしているのか。アモン・イシュタールがニヤリとして口を開く。

「おーおー、ダブルベッドねぇ……ホテル側のミスとはいえ、中々面白い事になってんじゃねぇか」

 すぐに別の部屋をと思ったのだが、あいにく満室で他の部屋は空いておらず渋々承諾したのだ。ホテル側はこちら側のミスなので、と部屋にサービスとしてお詫びとしては余りある程の高級フルーツや飲み物を持ってきてくれていた。

「まぁ、仕方ねぇよな?ここは我慢して一緒に寝るしかねぇよなぁ、お嬢様?」
「……もういい! 過ぎた事を言っても仕方ない、それよりも花火を見に行く準備をする!」

 本当は全然仕方なくなどなかったのだが、アモンがニヤニヤしているのが気に入らずリオは荷物を置いて片付けを済ますと、アモンを伴って浴衣の着付けサービスへを向かった。
 リオは髪を簪で結い上げてもらい、黒地に白と赤の金魚が泳ぐ浴衣を着付けてもらう。アモンは落ち着いた藍地の浴衣だ。

「よし、それじゃ部屋に戻ってバルコニーで花火を見るとするか?」
「いや、直接会場に行きたい。遠目から見るのは飽きているからな」
「あぁ……なるほどな」

 リオの言葉に頷いて、アモンが会場近くまでの車を手配する。すぐに用意された車に乗り込み、会場近くまで送ってもらう事にした。会場付近は混み合っていて、途中からは歩きだ。

「こんなに人がいるのか……」
「そりゃ、花火大会だからな。ほら、迷子になるなよ」
「なっ、子ども扱いするな!」

 人の多さにリオが驚いていると、いつの間にかアモンがリオの手を引いている。アモンの気遣いが嬉しかったけれど、照れて素直になれないリオはつい反論してしまうが、アモンはどこ吹く風だ。
 そうやって手を繋いで歩いていると、ポン、ポン、と花火が上がり始める。頭上に大きく打ち上がる花火を見て、リオが感嘆の声を上げた。

「遠目から見る花火も美しいが、近くで見るとこんなに迫力があるものなんだな……!」
「そうだな、ほらもう一発大きいのが上がるぞ」

 なんだかんだ言っても楽しそうなリオを見て、アモンはやれやれと笑う。ゆっくりと歩きながら花火を楽しみ、人混みにリオが疲れないように気を使う。
 そして最後の大玉が打ち上がる頃には二人とも笑顔を見せていた。
 花火大会が終わると迎えの車が来ている場所まで歩き、そこからはホテルまですぐだ。はしゃいだのと歩き疲れていた為、早めに就寝準備を済ませてしまう。

「ぜ、絶対に変な事をするなよ!?」
「しねぇよ、だからさっさと眠っちまえ」

 アモンと同じベッドという事に警戒するリオに適当に返事をしつつ、アモンもベッドに寝転がる。南国風と言うことで、ベッドは思っていたよりも広い。アモンはなるべく間を空けて、背を向けて寝る事にした。
 数分もした頃だろうか、隣からは寝息が聞こえていてリオが眠ったんだなとアモンは思う。その時だった。

「ん……んー」

 そんな声と共に、リオがアモンにくっついてきたのは。

「な……!」

 慌てて振り向こうとしたけれど、リオは寝ているのか遠慮なくアモンに密着してくる。寝ているとは言え、普段リオが絶対にしてこないであろう行動にアモンは心臓の鼓動が早くなるのを感じた。

(人の気も知らないで、気持ちよさそうに寝やがって……!!)

 寝息を立てながらくっつくリオは可愛らしく、アモンは引き剥がす事もできないまま眠れぬ夜を迎えるのであった。



 パシオン・シーの南国の夜はそれぞれの思いを抱いて朝を迎える事となったのである。



依頼結果:成功
MVP
名前:ミサ・フルール
呼び名:ミサ
  名前:エミリオ・シュトルツ
呼び名:エミリオ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 加持 桜子
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月24日
出発日 07月31日 00:00
予定納品日 08月10日

参加者

会議室

  • [6]クロス

    2014/07/28-00:23 

    クロス:
    先程間違いを見つけたので削除させてもらった!
    改めて、初めましての方は初めまして!
    久振りの方は久振りだな(微笑)

    俺はクロス、パートナーはオルクスだ
    宜しくな(微笑)
    たまには仕事休んでバカンス楽しみたいから来てみたが…
    豪華過ぎたかな…(汗)
    でもまぁ花火大会楽しみだな♪
    其処で飲む酒は格別だろうし!

    オルクス:
    横から失礼
    待てクー、キミは酒が弱いんだから程々にするだぞ?
    (酔うと甘えん坊且つ抱きつき魔なんだからな (滝汗))

    クロス:
    分かってるよ〜
    兎に角皆、花火大会楽しもうな!!

  • [5]ロア・ディヒラー

    2014/07/27-23:54 

    ロア・ディヒラーと申します!パートナーはクレドリックです。
    お久しぶりな肩はお久しぶりです、出石さんとリオさんは初めまして!

    たまにはバカンスなんていいなーとおもってためた依頼料で奮発してみたけど・・・豪華すぎたかな・・・?
    まあたまにはいいよね。花火大会楽しみだなー。

  • [4]リオ・クライン

    2014/07/27-19:33 

    リオ・クラインだ。
    パートナーはアモン。

    折角のバカンスだからな。
    楽しみたいと思っている。

  • [2]出石 香奈

    2014/07/27-05:46 

    みんな初めまして。
    出石香奈とパートナーのレムよ。

    あたしたちは契約したばかりだから、まずは相手と仲良くならなきゃね…
    というわけで、よろしくね。

  • [1]ミサ・フルール

    2014/07/27-05:34 

    ミサ・フルールです。
    パートナーのエミリオさんと一緒に参加します。

    お久しぶりの方はお久しぶりです!
    香奈さんとレムレースさんは初めましてですね。

    バカンス楽しみましょう♪
    皆さんどうぞよろしくお願いします(微笑んでお辞儀)


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