プロローグ
●とりあえずパンツ一枚でこんにちは
その男がA.R.O.A.支部へ無事に辿り着けたことは、奇跡だったのだろう。
風になびく黒髪は絹のように艶やかで、目鼻立ちは爽やかでありながらくっきりと。
両の眼は翠玉の輝きで、体は細身でありながらも引き締まっている為、華奢な印象はない。
A.R.O.A.の受付娘が男に目を奪われなかったかといえば嘘になる。
いや、確かに目を奪われた。
男の容姿が端麗であったから?
否。
男の肉体に魅了されたから?
否。
男があまりにも堂々と歩いてきたから?
是。
なぜならば男は―
「やあ、こんにちは。ウィンクルムへの依頼はここでいいのかい?」
―パンツ一枚だったのだ。
●解き放った
警察を呼ぼう、いや、まってくれ、これには深い訳が云々でどたばたしたことは省略。
そりゃあ痴漢一歩手前の人間が来たらそういう騒ぎにもなる。
「……で、近くにある洞窟に異常がないかを確認しに行ったら熊と遭遇、咄嗟に服を脱いで危険を回避した……ということでいいんですか?」
違うと言ってくれ、受付娘の目はそう訴えているが、男―ロージュは気付いていないようだ。
爽やかに頷き、間違いないねと肯定。
「近頃、熊を見るようになったって村で噂になり始めてさ。
今までそんなものいなかったから気のせいだろうとは思ったんだけど、一応見ておこうと洞窟を見に行ったんだよね」
そしたら出ちゃった、二頭の熊。
ロージュは機転を利かせ、着ている服を(パンツを除く)全て脱ぐことで害意がないことを示し、そのままの足でA.R.O.A.まで来たらしい。
『機転を利かせ』、『熊と遭遇して脱衣』、『A.R.O.A.支部にとりあえずパンツ一枚でこんにちは』……もはや匙を投げるどころか、匙を溶鉱炉で溶かしたくなるレベル。
それでも受付娘が話を聞かざるを得なかったのは、ロージュが『オーガ』という単語を出したからだ。
それさえなければ、いろんな意味で「警察に行ってください」と言えたのに!
「服を脱いで、OK、OK、落ち着いてって言ってる時に、洞窟の奥の方にも熊がいることに気付いてね。
あの時は僕も必死だったから考えてる余裕がなかったんだけど、ここに来るまでの間に、オーガだったんじゃないかって気付いてね」
ロージュは茶目っ気たっぷりの様子で、側頭部に指で角を作ってみせる(ただしパン一)。
堪え切れず、受付娘ははぁと溜め息を吐いた。
どうかしたのかい?というロージュの問い掛けに、「誰のせいだと思ってる」と言ってやりたいが、どうにか飲み込んだ。
いえ、何でもありません。
受付娘はそう答え、本当に言いたいことの代わりに勇気ある質問を投げかけた。
「で、どうして服を着てこなかったんですか?」
偉い、よくぞ聞いた!
やり取りを盗み聞きしていた全てのA.R.O.A.職員が、ウィンクルム達が胸中で拍手喝采。
「ああ、そんなことか」
眩しくなるような笑顔、白い歯をきらり、輝かせロージュは答えた。
「開放感があって、いいだろ?」
解説
●目標
デミ・オーガの討伐
熊の討伐は目標に入っておりません
討伐するか否かはお任せします
●熊
デミ・くまー ×1
嗅覚がいいです。
洞窟内にいる為、存在を気付かせずに奇襲は難しいでしょう。
牙と爪で攻撃してきます。
くまー ×2
こっちも嗅覚がいいです。
隠れても、気をつけなければすぐに気付かれるでしょう。
やっぱり牙と爪で攻撃してきます。
一体一体の強さはデミ・オーガには及びません。
害意がないと行動(脱衣)で示せばスルーしてくれますが
神人の皆様はご自分の肌を大切にしてください。
くまーと戦闘になれば、デミ・オーガは物音で気付いて奥から出てきます。
●場所
入り口の前は林とまでは言いませんが緑豊かな場所です。
深くは無い洞窟ですが、デミ・オーガは一番奥にいます。
灯りをお忘れなく。
熊は洞窟の外、入り口前にいます。
余談ですが
「ここを新しいおうちにしようそうしよう!」
↓
「どうしよう、おっかないのにおうちとられてもうた……」
という流れのようです。
ゲームマスターより
私は、私の限界を憎む……。
女性神人サイドでぱんつをやる……それがこのザマ!
こんなのじゃ、先人に申し訳が立たない!!
と、思ってるかどうかはご想像にお任せします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
心情 ロージュさんがパンツ一丁で生還しているので、二頭のクマーはあまり獰猛な気性ではなさそうですね……。 でも野生のクマーを放置しておくのは危険ですよね。うふふ……。(最近クマ肉料理の番組を見て興味を持った模様) 持ち物 懐中電灯・携帯・ビニール袋 行動 野生クマーを意地悪な継母のごとくジーッと観察。人間に害を及ぼすと判断したら、猟友会に連絡をとろうとします。仲間の猛反対があればクマーの肉は諦めるとしましょう。 パンツ一丁状態でデミと戦うラダさんが心配ですね。 危険な判断かもしれませんが、状況によっては前衛に出て、精霊をサポートする覚悟はあります。 スキルサバイバル発動! 可能ならデミクマ肉を持ち帰りたいです。 |
アマリリス(ヴェルナー)
持物:懐中電灯 なるほど、脱ぐと安全ですのね なぜその思考に至ったのか理解に苦しみますが有力な情報ですわ …どうして世間には顔はいいのに、な方が多いのでしょうね? (下心が一切ないのが逆にたちが悪い…) 脱がずともヴェルナーが守ってくださるのでしょう? ヴェルナーは脱ぐ必要はありませんわ だってロイヤルナイトですもの 盾を持つ貴方が戦いから逃げてどうするのですか くまーは対応する方に任せてデミを探します 洞窟の奥にからなるべく開けた戦いやすい場所まで誘い出したい所です 灯りはわたくしが持ちますから気兼ねなく進んでくださいませ …しかし目のやり場に困る光景ですわね 服を着ているヴェルナーの方が浮いてみえるのも不思議ですわ |
メリッサ・クロフォード(キース・バラクロフ)
初めての戦闘任務なので、緊張する。 キースに頭を撫でられ、赤面して「もうそんな年じゃありませんわ!」と言うが、内心嬉しい。 キースのおかげで緊張もほぐれた。 くまーが可愛くて、ちょっと躊躇しかけるが、頑張る…。 デミ化しているのはもうだめかもだが、普通の子はなるべく傷つけたくない…。 キースが脱いだ時は「おじさま、何をしてますの!」と赤面しつつとりあえず一喝。 入り口のくまーが脱いだ人に反応を示している隙に、洞窟の中へ。 戦闘時は、手持ちの武器で戦うようにする。 だが、まだ戦闘は不慣れなところがあるので、自分の身を守るために剣を振るうという感じ。 |
華(柘榴)
▽心情 世の中には、ロージュ様のように下着一枚で来る事に抵抗のない方もいらっしゃるんですね。とても信じ難い事ですが……受けた依頼は、しっかり果たしたいと思います。 ▽行動 懐中電灯で洞窟内を照らしながら進む。 時々、皆さんや柘榴が足をひっかけて転ないよう足元も照らします。 くまーさん達を見つけたら、そっと柘榴の背後に隠れて様子見。 智様とラダ様がくまーさん達を引き寄せている間、 わたくし達は、奥にいるデミ・ベアーの方へ向かいます。 ▽デミ・ベアー 柘榴が詠唱している間 彼がデミ・ベアーに攻撃されないよう、盾になります。 もし、柘榴が戦闘の邪魔になるようなら 壁際もしくはデミ・ベアーの攻撃が届かない場所へ移りましょう。 |
水田 茉莉花(八月一日 智)
あたし戦闘依頼初めてだわ 脱げば目こぼしをしてくれるくまー まずはちょこまか動いて、くまーの目を引かなきゃ とにかくくまーを引き寄せて洞窟から放さなきゃ よし、次は…あーっと…ほづみさんっ あたしと一緒に脱いで下さいっ! あたしは水着と一緒のような、スポブラ着てるんだもん 見られて別に減るモンじゃなし…えーいっ! 次に、くまーと意思の疎通を取ってみるわ ボディランゲージしたり、地面に絵を描いたりして あたし達がオーガを倒しに来た事を 伝えられるといいんだけど… あと、洞窟に近寄らないようにって伝えられないかな? 落ち着いてくれたら懐中電灯を付けて 駆け足で仲間に合流するわ! あたしは直接攻撃しかできないけどやってやるわよ! |
●一歩手前
ロージュはA.R.O.A.支部の前に病院へ行くべきだったのではないかと、トランス状態に入ったアマリリスは思う。
おかげでパンツ一枚の精霊が量産されることになってしまった。
街中でないことが不幸中の幸いと言うべきか。
パートナーのヴェルナーはデミ・くまーの引き付け役を担うことになっている為、脱ぐ予定はない。
が、ヴェルナーはそんな方法があったかと感心してしまった。
しかも真剣に、真摯で曇りの無い眼差しで「どうか脱いでください」なんてアマリリスに言ってのけたのだから天然って怖い。
下心が一切ないから逆にたちが悪い……胸中でそう呟いてから、ふわり、柔らかな笑みと共にアマリリスは言う。
「脱がずともヴェルナーが守ってくださるのでしょう?」
「それもそうですね」
納得したヴェルナーは全力でアマリリスを守るのだと決意を新たにした。
自身の発言により、アマリリスのあられもない姿を披露させかねなかったことに彼は未だ気付いていなかった。
「ウヒャァ……」
『脱いでください』からのやり取りをひやひやしながら眺めていたラダ・ブッチャーは、胸を撫で下ろした。
人前でパンツ一枚という笑える姿になる予定の自分には、あの空気は冷たすぎるというか辛いというか拷問というか。
とはいえ彼の心労はまだ他にもある。
エリー・アッシェンが漂わせる物騒な雰囲気。
表面上こそは普段と変わらないものの、エリーと契約で繋がっているラダにはよく分かる。
デミ・オーガへの感情ではないことも分かっている。
洞窟に近づくにつれそれが強くなっていくのだから……間違いなくくまーに対してのものな訳で。
今回、苦労することになるだろうとラダは予感した。
ウィンクルムとして初めての戦闘任務となるメリッサ・クロフォードは緊張していた。
彼女は未だ幼い。
ゆえにその緊張もひとしおだろう。
メリッサの緊張に気付いたキース・バラクロフはその大きな手で包むように頭を撫でてやった。
「もうそんな年じゃありませんわ!」
すぐにメリッサは自身の髪色のように顔を赤くし、抗議の声を上げる。
けれど本当は嬉しいのだ。
撫でてもらったことも、気遣ってもらったことも。
同じようにこれが初めての戦闘任務となる華と柘榴。
二人の様子からはメリッサのような強い緊張は感じられない。
「なんでこないな洞窟にデミのと、普通のが両方おるんでっしゃろ?こういうのA.R.O.A.の依頼では日常茶飯事なんでっか?」
首を傾げ、柘榴は疑問を口にする。
とはいえ誰かの答えを望んでいる訳ではないようで。
「まぁ、依頼人があないな格好で来る事が普通じゃありまへんですけど」
全くです。
多分、一部のA.R.O.A.職員のところにだけ変な依頼人が集まるんです。
「世の中には、ロージュ様のように下着一枚で来る事に抵抗のない方もいらっしゃるんですね」
人はそれを露出狂と呼びます。
「とても信じ難い事ですが……受けた依頼は、しっかり果たしたいと思います」
●解き放っちゃった
洞窟の近くまで一行が来たことに、二頭のくまーは早々に気付いた。
風に匂いが乗ってしまったのだろう。
くまー達がこちらを見ていることに、一行の先頭を歩いていた八月一日 智は早々に気付いた。
ラダ同様、くまーの注意を引く役となっている智よりも先に、水田 茉莉花がくまーの前に飛び出した。
「オイ、バカみずたまり!」
智の制止の声を振り切り、くまーの気を引くべく動き回る茉莉花。
くまーは茉莉花を見てはいるものの、その場を動く気配は無い。
予想外の事態にラダは慌てて飛び出し、その勢いのまま服を脱いで敵意が無いことをアピール。
動物について知識はあるラダだが、くまーが茉莉花に注意を向けている以上うかつな動きはできない。
「ナニ無鉄砲にくまーに向かってってんだよ!」
追いついた智が茉莉花の隣に並んだ。
茉莉花は引き付けてから服を脱ぐ決心をしていたものの、くまーが洞窟の前から離れてくれず、焦りは募るばかり。
動き回って注意は引けたが警戒心を煽っただけだと気付いた今、どうすべきか分からずにいる。
智も自身が脱げば逆に茉莉花だけを注目させることになると分かっているだけに動けずにいた。
くまーの引き付け役であるラダと智、そして飛び出した茉莉花の三人以外は物陰に隠れてはいた。
しかしくまーの嗅覚について失念していた結果、先に気付かれてしまった以上、隠れる意味はほぼ無い。
じーっと危ない眼差しでくまーを観察していたエリーがぽつり。
「倒した方がいいのではないでしょうか」
このままでは茉莉花と智が危ないという判断からだが、熊肉を食べてみたいという欲求も無きにしも非ずというかむしろ結構な比重を持ってそうです。
なんでも熊肉料理を見て興味を持ってしまったらしい。
「普通の熊はなるべく傷つけたくないですわ……」
場合によっては仕方ないと分かってはいるが、メリッサは出来ればくまー達を傷つけたくないのだ。
そんなメリッサの様子を見て、隠れていたウィンクルム達の中から決意の声が。
「ここでの戦闘を回避する為だ、仕方ない」
メリッサが声の主を見ると、すでに声の主であるキースはずんずんとくまーの元へ歩み寄りながら、脱いでいた。
「おじさま、何をしてますの!」
「戦闘行為を最低限にして、デミ・くまーとの戦いに備える為だ。決して、脱ぎたいからではない!」
もっともらしいことを言ってるが、溢れ出るキースのドヤ感。
がっしりした筋肉が素敵です。
「じゃあ、あっしも」
柘榴も続いて移動しながら脱衣開始。
引き締まった無駄の無い柘榴の肉体が晒される
キースさん、見てください。
本当に『仕方なく』っていうのは、この柘榴さんのような状態を言うんですよ。
くまー達の前に立ったキースの、露出した大胸筋が語っている。
『見よ!俺の肉体美!』と(ただし本人はあくまでも否定の姿勢)
ちら、ぷい。
くまー達はキースと柘榴を一瞬だけ見た後、やはり茉莉花と智に視線を移す。
「……脱衣してもくまーはスルーするだけなんじゃないでしょうか」
「「あ」」
追加の二人の男がパン一になってから響く、冷静なエリーの指摘。
確かにそうだ。
スルーしてくれたからこそロージュはA.R.O.A.支部に辿り着けた訳で。
しかしパンツ男が二人増えたからか、くまーの警戒心は少し解れた模様。
動くなら今だろう。
「二人とも、背中を見せずにゆっくり後ろに下がってねぇ」
ラダは智と茉莉花に指示し、自身も背中をくまーに見せないように注意しながら、近くの樹に生っていた小さな果実をもぎ取る。
野生のサクランボだ。
いくつかをくまーの前に置いてやると、慎重にラダの様子を窺った後にもぐもぐとサクランボを食べ始めるくまー。
「可愛い……」
つい、メリッサが呟いてしまったのも仕方ない。
座り込んで一生懸命にサクランボを食べているくまーは確かに可愛い。
くまーのすぐ側にいるパン一男を見ないように気を付けなくてはいけないが。
「寝床をデミに取られちゃったのかなぁ?熊は洞窟を寝床にすることもあるからねぇ」
続いてラダは後ずさりながらサクランボを落として行く。
するとサクランボを食べながらついていくくまー。
ようやく二頭のくまーは洞窟の前から立ち退いた。
動物の知識が豊富なラダだからこそ取れた手段だ。
これが上手くいかなかったら、くまー達を倒すかデミ・くまーを討伐しに行く全員が脱ぐしかなかっただろう。
惜しいじゃなかった危ないところだった。
察したキースと柘榴もサクランボをもぎ取り、ラダの元へ持っていく。
採りつくさないようにと気をつけた為、決して量は多くないが幸いにもくまーの食べる速度は遅い。
隠れていたヴェルナーはこの隙にと隠れていた神人達と智、茉莉花を連れて洞窟に入って行く。
「デミは外に出さない方がいいと思うよぉ」
その背にラダが声をかけた。
洞窟を気にしている以上、くまーはこれよりも遠くへは動いてくれないだろうと踏んでのことだ。
野生動物を傷つけたく無いが、デミを外へ出せばくまーがどうなるか分からない。
「あっしらは先に行っとりますわぁ」
「うん、お願いするね。ボクはもうちょっとだけ様子見るよぉ」
「頼んだ」
先に洞窟へ入った皆を追ってに駆けて行くキースと柘榴の背を見送り、ラダは大きく息を吐いた。
それはくまーの安全を一先ず確保できたという安堵から来るもの。
何故ならラダは感じ取っていたのだ。
エリーが珍味としてくまーを見る、その視線を。
懐中電灯が行く先を照らす。
エリー、アマリリス、華、柘榴、茉莉花が持参していた為、灯りに困ることは無い。
智、ヴェルナーの二人が先頭を歩き、その後ろをキース、柘榴、エリーが、さらにその後ろを茉莉花、華、メリッサ、アマリリスが続く。
五人が並んで歩ける程の広さはある。
しかし武器を振るう為に先頭は二人だけにし、神人達の中でも比較的場慣れしているエリーが精霊達のサポートが出来るようにと後方からの攻撃を得意とする二人の横に並んだ。
おかげでキースのパン一姿を嫌でも見なくてはいけない神人達。
そして同じ列にもパン一の柘榴。
シュールとしか言えない状況。
「目のやり場に困る光景ですわね」
率直なアマリリスの感想に神人達が同意する。
智が脱いでいたら、服を着ている精霊がヴェルナーだけになっていた可能性もあったことに気付いているだけに、しみじみと。
ふいに、先頭の二人が足を止めた。
察した神人達と柘榴、キースも同様に立ち止まる。
ぐるる……聞こえる小さな唸り声。
懐中電灯で照らされた先に、黒茶色の毛皮に包まれた影が姿を現した。
表にいたくまー達とは違う、獰猛な眼と明確な殺気。
ヴェルナーが盾を前に構え、デミ・くまーの元へ駆ける。
「あなたの相手は私です!」
気合の入った言葉を放てば、デミ・くまーはヴェルナーに注目せざるを得ない。
そこへ繰り出されるのは智の斬撃。
素早く交互に振るわれたダガーはデミ・オーガ化により強化したデミ・くまーの体に傷を残すことは出来ない。
聡が舌打ちすると同時に、デミ・くまーの頭部を二発の銃弾が掠める。
「いまいちのようだな」
効果はいま一つと分かってもキースは動じない。
元より彼の目的はデミ・くまーの接近を許さないことにある。
その体で守る、メリッサに近寄らせない為に。
茉莉花はぐっと歯噛みした。
自分も戦うべきだと思うものの、智の攻撃が有効打にはなっていない以上、精霊よりも非力な自分が前に出ても彼らの動きを制限するだけ。
それを理解した茉莉花は、握った剣の柄を強く握る。
初陣における最大の目的は己の力量を知ること、そして無事に帰ることにあるのだと、茉莉花は知った。
同じように初陣のメリッサはいざとなれば自分自身を守る覚悟を決めていたが、不安げキースを見つめる。
今はキースが自分を振り返ることは無い。
「おじさま……」
小さな呟きは戦闘音にかき消され、キースには届かない。
それでも分かる。
今よりも幼い頃からずっと見てきた背中は、この状況下でも変わらず自分を守ってくれているのだと。
「鳳はん、詠唱するさかい離れといてくださいや」
ヴェルナーが完全にデミ・くまーの注意を引き付けている以上、詠唱の邪魔をされることはないだろう。
けれど華は懐中電灯で戦場を照らしながら、すっと柘榴の前に立った。
「鳳はん」
「いざというときの為です」
再度の忠告は先回りされて言えず。
何を言っても華は聞き入れてくれないだろう。
柘榴は溜息一つ吐いて、「ほっ!」と気合の声を入れる。
それは詠唱に入る際の己への掛け声。
「危ななったら逃げたってくださいや!」
「はい」
返事をしながらも、華に逃げる気は微塵もなかった。
いざというときはその身を盾にする覚悟で、華はその場に立っている。
気兼ねなくヴェルナー達が戦えるようにと、アマリリスは慎重に懐中電灯を動かす。
照らした先に精霊達が動けば灯りで目を潰すことが無いように。
デミ・くまーが後ずさればその足元を照らし。
精霊が飛び退いたのならすぐさまその方向を照らし。
洞窟に入ってからずっと彼女はそうやって精霊達をサポートしてきた。
それはとても小さなこと。
けれどその小さなことがあるから、精霊達は思う存分に戦える。
剣を振るわなくとも出来る戦いがあるということを、アマリリスはその行動で示していた。
「これでっ!!」
ヴェルナーの突きで後ずさるデミ・くまーに、智が追い討ちをかける。
偶然にも彼が切りつけた場所は今しがたヴェルナーが傷を付けたところ。
デミ・ベアーが怒りのままにその爪を振るおうとすれば、洞窟に響く発砲音。
姿勢を崩したデミ・くまーの攻撃を、テンペストダンサーである智は軽やかに避ける。
キースの銃から立ち上る硝煙は洞窟に吹き込んでくる風がすぐにかき消す。
「皆さん、離れてください!」
声の主である華を見れば、その後ろには今しも詠唱を終えようとする柘榴の姿。
智とヴェルナーはすかさず飛び退いた。
「いきまっせぇ!!」
杖を振るい、練り上げた魔法をデミ・くまー目掛けて解き放つ。
精霊随一の火力を誇るエンドウィザードの炎がデミ・くまーを襲った。
●洞窟のくまー
「ごめんよ、間に合わなかったねぇ」
デミ・ベアーを倒してすぐに合流したラダは開口一番、皆に謝った。
デミ・オーガとの戦闘に間に合わず申し訳なさそうにしている。
「いえ、ラダさんが表の熊を見ていて下さったおかげで、背後の心配をする必要がありませんでした。
ですから気になさらないでください」
「そうだな。おかげで助かった」
精霊達は口々にラダをフォローする。
「そう言って貰えるならよかったよぉ」
それぞれが己の成すべきことを果たした男達の会話は友情のようなものを感じさせて、いい話といえばいい話なのだが―
「とりあえず、服を着られてはどうでしょうか?」
穏やかなアマリリスの指摘。
その声音に冷たいものを感じ取っていたヴェルナー以外の精霊達は、そそくさと服を着始めたのだった。
「アッシェンさん、何をしてるんですか……?」
茉莉花が恐る恐る尋ねたのも無理は無い。
エリーはやや焦げたデミ・くまーに小刀を差し込んでいるのだから。
「デミ・オーガの肉はウィンクルムであれば食べれなくもないと聞いたので」
「食べるつもりなんですかっ!?」
「はい」
話しながらもさくさくと持ち前のサバイバル技術を元に解体を進めるエリー。
食べれるにしてもあまり食べない方がいいんじゃないの!?でもどうやって止めたら!?
美味しい物は好きだけどニュアンス的には美味しくなさそうだし!
どうやって止めるべきか思いつかぬうちに、茉莉花の思考はどんどん逸れていく。
現実逃避かもしれない。
こういった作業を見慣れていないメリッサは早々にキースの元へ避難済み。
華は豪快ですねと、うっすら笑って見守る姿勢。
ああ、エリーを止める人は誰もいないのか……そう思われたところに現れたのは一人の救世主。
服を着たままだった智だ。
「持ち帰ってる間に腐っちまうんじゃないのか?」
エリーがその手を止めた。
確かに彼女は袋を持参し、肉を持ち帰る用意をしてはいるが今は夏。
冷蔵の容易をしていない以上、腐って駄目になる可能性は否めない。
料理をする男だからこそ出来る指摘。
「……それもそうですね」
残念そうにエリーが小刀を引き抜いた。
彼女とて『オーガの肉』を食べたいのであって『腐った肉』を食べたいわけではないのだ。
服を着る最中だった為、ラダはこのやり取りを後から知ることになるのだが、勿論彼は智に深く感謝したという。
報告の為にウィンクルム達はロージュの家を訪ねた。
扉が開くまでの間、パンツ一枚どころか服を着ていなかったらどうしようと身構えていたものの、一応、服は着ていたので全員でほっとする。
タンクトップにハーフパンツと、男性にしては露出が多いが、パンツ一枚でA.R.O.A.に来たことを思えば充分だ。
万が一を考え、メリッサがロージュを見ずに済むようにと気をつけていたキースも安心したようだ。
自身が積極的に(本人は否定)パン一になったことはこの際、触れてはいけない。
「ロージュさんが仰っていたように、デミ・オーガがいました。こちらはきちんと討伐しましたのでご安心ください」
「やっぱりオーガだったんだ。いやー、お願いしといてよかった」
主な報告は比較的会話が得意なアマリリスに任された。
表面上は穏やかに進む会話。
「ところで熊はどうしたの?」
「野生動物ですので討伐は控えました」
「そっか」
ふんふんと相槌を打つロージュにラダが問いかけた。
「熊、倒した方がよかった?ボクが見た感じでは不用意に近寄らない限り、襲ってくることはないと思うんだよぉ」
「いや、問題ないよ。ただ村には子供もいるから何かしら対処はしないといけないかな」
「それなら村の境目辺りに鈴をつけるといいよぉ。熊も警戒して近寄らなくなるはずだから」
ロージュはラダの助言をメモしながら、あれこれ質問もしていく。
一通りメモを終えると漏れが無いかを確認してから、ロージュは顔を上げた。
「僕らのことも気にしてくれたんだね、ありがとう。
やっぱり無闇に殺したくは無いからね。教えてくれて助かったよ」
そこには爽やかで、感謝の意が現れた笑顔。
親しみの持てるその態度は、事情を知らなければ好意を持てたのに。
そう、パンツ一枚でA.R.O.A.に来なければ……。
ウィンクルム達は残念な依頼人からの丁寧な感謝の意を、複雑な心境で受け取った。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:エリー・アッシェン 呼び名:エリー |
名前:ラダ・ブッチャー 呼び名:ラダさん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | こーや |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | 冒険 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 少し |
リリース日 | 07月25日 |
出発日 | 08月01日 00:00 |
予定納品日 | 08月11日 |
参加者
- エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
- アマリリス(ヴェルナー)
- メリッサ・クロフォード(キース・バラクロフ)
- 華(柘榴)
- 水田 茉莉花(八月一日 智)
会議室
-
2014/07/31-21:38
>華さん
うふふ。
難易度が簡単で、コミカルな雰囲気だったので、多少の遊び心を出しても良いかな、と思いまして。
掲示板で「デミの肉は瘴気を含んでいるけど、ウィンクルムなら気合いで食べられるよ!」という衝撃の情報しった時から、食べる機会はないかと狙ってたんです。
さてさて。お肉を持ち帰るためのジップロックは「らぶてぃめ」世界のコンビニでも取り扱っていますでしょうかね。
出発が楽しみなエピソードです。 -
2014/07/31-20:39
>エリーさん
ふふ、豪快ですね。その夢が叶ったら、いい思い出になりそう。
この依頼もですが、成功することを祈っています。
こちらは、プランを提出しておりますが、
他の方の意見によっては出来る限り対応させていただきたいと思います。
今夜の23:30までなら、対応できますので皆さん、よろしくお願いします。 -
2014/07/31-17:19
華さん、了解です。うふふ。
そういった流れのプランを書いて提出しておきますね。
作戦の流れとは無関係ですが、私たちのペアはこんな感じの心情や方針で、この依頼に挑みます。
エリー:あわよくば、クマ肉を食べるチャンスを狙う
ラダ:野生動物を全力で守ろうとする -
2014/07/31-13:58
では当日の流れとしましては、
持ち物
・懐中電灯(または相当するもの)
くまー(敬称略)
1.ラダと智がくまーを、戦闘の邪魔にならない場所へ惹きつける
(万が一、くまーが2人に寄らない場合は、キースと柘榴も加わって惹きつける試み)
2.その間、残りのメンバーは洞窟の奥へ
3.以降、未定
デミ・ベアー(敬称略)
1.ヴェルナーさんがジョブスキル「アプローチ」を試みて、デミ・ベアーを引き寄せ
2.戦闘開始
でよろしいでしょうか。
わたくしは柘榴が魔法を発動するまでデミ・ベアーの攻撃から彼を守るか、
デミ・ベアーから離れた所でくまーが来ないか警戒しながら、待機する予定です。 -
2014/07/31-01:00
んじゃ、あたしはくまー対策をメインにするわね!
ってことで、ほづみさん、ガンバッテネー♪ -
2014/07/31-00:11
あら、脱がれる方が多いですし平和的(?)な進行になりそうですわね。
そうなりますとくまーとは戦闘になりそうにないので、
ヴェルナーには奥に進んでもらってアプローチでデミの誘き出しをしてみます。
奇襲は無理そうですし堂々と行きますわ。
くまーは脱がれる方にお任せしてちょっと入り口からどかして頂ければと。
ヴェルナーは特に脱がさない予定ですわ。
まあロイヤルナイトですし注目を集めて殴られておけばいいのではないかと。 -
2014/07/30-02:17
遅れてすみませんでした。
皆さん、はじめまして。わたくしは、華と申します。精霊はエンドウィザードの柘榴。
わたくしも初めての任務になりますが、どうぞよろしくお願いします。
パンツは・・・
万が一、ラダ様とほづみ様が脱いでも攻撃するなら、柘榴もそうさせていただきます。
恥ずかしいですけど、仕方ないと思っていますから。 -
2014/07/29-23:55
うふふ……。
今回の依頼、けっこう精霊のジョブがバラけましたね。
クマ二頭を戦闘の邪魔にならない場所まで誘導したり、洞窟の奥にいるデミを誘い出すのには、ロイヤルナイトのスキルを持つヴェルナーさんの力が必要だと思います。
クマ対応はパン一チームで、デミ対応はヴェルナーさん、と役割分担しても良さそうですね。
お互いのジョブの特質を活かして、依頼、成功させましょうね! うふふっ! -
2014/07/29-20:10
はじめまして。メリッサ・クロフォードと申します。
パートナーはプレストガンナーのキースおじさまですの。
今回、初めて戦闘任務に参加なのでドキドキしていますわ。
よろしくお願いします。
とりあえず、入り口にいるくまーは穏便になんとかして、奥にいるターゲットを倒せるようにしないとですね…。
おじさまが、「いざとなったら俺も脱ぐか!」って妙なやる気を出しています。
どうしましょう…。 -
2014/07/29-01:54
ごきげんよう、アマリリスと申します。
精霊はロイヤルナイトのヴェルナーですわ。
どうぞよろしくお願いいたします。
依頼人はAROAに来る前に(頭の)病院に行くべきだったのではないでしょうか…。
デミは倒すにしても、くまーの処遇については悩む所ですわね。
とりあえずは一肌脱いで下さる方がお2人いるようですし、
安全に気を引いて頂ければその隙に奥まで進んでデミをどうこうしてしまいたい所ですわ。 -
2014/07/28-22:43
水田茉莉花です、『まりか』と呼んでください。
精霊は、マキナのテンペストダンサー、ちび…じゃなかった、ほづみさんです。
あたしは、つい最近神人になったばかりだから、余計な戦闘は避けたいなーって思ってるの。
そのためには、ほづみさんを剥いてパンツ一丁でクマさんに放り投げようかな~って思ってるわ。
その隙に奥に忍び込めればいいなーって。 -
2014/07/28-22:15
うふふ……。エリー・アッシェンと申します。
いっしょの依頼を受けた皆さま、よろしくお願いいたします。
さて。
私個人の考えとしては、デミ・オーガ退治の阻害になるならクマ二体の殺傷も辞さないつもりなのですが……。ですが……。
パートナーの精霊のラダさんが動物好きで、クマに危害を加えることを断固として拒んでいます。
動物のためなら、ラダさんはパンツ一丁になる覚悟はあるようです。