花酔いの蜜氷(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●花に酔い蜜に酔い
「『とりどりの花が咲き乱れる『花の町』で、夏の甘味に酔ってみませんか?』」
ミラクル・トラベル・カンパニーの青年ツアーコンダクターは、ウィンクルムたちにそう笑みかける。
「春にもお誘いした花の町ルチェリエで、またまた素敵な物を発見したんだよね」
機嫌良く笑う青年が勧めるのは、『花酔い』という名のかき氷。珍しい花を育てることを生業とするルチェリエでは今、夏にだけ咲く甘い蜜色の花『酔花』から採れる蜜をふんだんに使ったかき氷が食べ頃なのだという。それは、少し変わった名物で。
「『酔花』の蜜はちょっと不思議で。名前の通りなんだけれど、食べればふんわりと酔い心地になれるんだ。お酒に酔う感じに似てるかな? でもアルコールは含まれてないからさ、未成年でも安心して食べられるんだよ」
それから、と青年が言うことには。
「広場には、夏の花が溢れててさ。花のベンチに座って、その景色を楽しみながらちょっと変わったかき氷に酔ってみるのも楽しいんじゃないかなって」
広場には前述の『酔花』を始めとする夏の花が元気に咲き誇り、中々に壮観だという。広場の中央には『誓いの門』と呼ばれる見事なフラワーアーチもあるのだとか。
「ツアーのお値段はウィンクルムさまお一組につき250ジェールとなっております」
興味のある方はどうぞ素敵な時間をと、青年ツアーコンダクターは再度笑み零した。

解説

●今回のツアーについて
花の町ルチェリエの夏を楽しんでいただければと思います。
『花祭りと誓いの門』と同じ町が舞台ですが、該当エピソードをご参照いただかなくとも今回のツアーを楽しんでいただくのに支障はございません。
ツアーのお値段はウィンクルムさまお一組につき250ジェール。
(かき氷をお買い求めの場合は、そちらは別料金となります)
ツアーバスで朝首都タブロスを出発し、午前中に町へ着きます。
数時間の自由時間の後タブロスへ戻る日帰りツアーです。

●屋台の食べものについて
ここでしか食べられないものとして、ツアーコンダクターくんがご紹介している『酔花』の蜜をふんだんに使ったかき氷『花酔い』があります。
お買い求めは広場の屋台にて。1つ50ジェールです。
酔いの程度には個人差がありますが、お酒に強い方でも酔い心地を楽しめます。
また、お酒に弱い方でも気分が悪くなったりはしませんのでご安心を。
わけもなく楽しくなったり普段よりちょっと大胆になったりぽろっと本音が零れたりはしちゃうかもしれませんね!
ちなみに、屋台では通常のかき氷も販売しております。
味も色々と揃っておりますので、ご希望の味をご指定いただきますとリザルトにできる限り反映させていただきます。
普通のかき氷は1つ30ジェールです。

●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは極端に描写が薄くなってしまいますので、お気を付けくださいませ。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

未成年もお酒に強い方も弱い方も、偶にはふんわり酔い心地になってみませんか? なお誘いです。
一緒に『花酔い』を楽しむもよし、ウィンクルムの片方だけが『花酔い』を食べてしまうのも楽しいのではないかなぁと。
純粋に花の町を楽しむプランもOKです。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

シルヴァ・アルネヴ(マギウス・マグス)

  マギが酔っぱらったらどうなるか見てみたい。
と顔に書いた状態でマギを引っ張り花の町へ

誓いの門
「へぇー、スイカってこんな花なんだなぁ」
零れんばかりに咲く夏の花達の中に、観光客相手のガイドからの説明で
酔花を見つければ、つんつんと花弁をつっつき匂いをかぐ
「……不思議な甘い匂いがするな」

花弁も甘いよと齧ってみる事をすすめられたらちょっと試し
優しい甘味に花酔への期待が高まる


花酔い
かき氷は花の町らしく食べられる花が添えらえれているものもありそう
花木の枝が陰を落とすベンチを選んで腰をおろし、溶けない内にいただきます

いざ『花酔い』を口にして暫し
「あ、確かにふわっとするな」
ふふと小さく笑った後、ふはっ

笑→泣→爆睡


栗花落 雨佳(アルヴァード=ヴィスナー)
  夏の花が沢山見られるんだって、凄く楽しみだな

・バスの中でさして楽しみにしている様には見えない

大丈夫、画材道具ぐらい自分で持てるよ……?

・ベンチに座ってスケッチを始め相方放置

あ、折角だからガイドさんがオススメしてた…なんだっけ?かき氷?食べてみようか?丁度喉も乾いたしね


…うん、甘い…ね。んー…酔ったらどんな風になるのかと思ったけど…良く分からないかも…?

・食べてる最中は良く分からず首を傾げているが、次第に頬が紅潮し相方に必要以上にくっ付いて(ひっつき魔になる)手の形を確かめる様に触る

…ふふ、君の手は大きいよねぇ…この手から美味しいご飯が出来るんだねぇ
…早く帰りたいな…君の作ったご飯が食べたい…


鹿鳴館・リュウ・凛玖義(琥珀・アンブラー)
  ■心情
花酔い、か
良い名前のかき氷だよね
イメージするだけで甘く酔いしれそうだよ
あっ、僕ったら花より団子ならぬかき氷になっちゃったね
でもますます楽しみになってきたし、行こうか!琥珀ちゃん

■行動
しかし、お花とかき氷どっちがいいんだろう?
食べ歩きはマズイだろうけど
一応、ツアーコンダクターに聞こうかな

で、かき氷は、やっぱり花酔いを食べなきゃね
できることなら、花のベンチに座って食べたいけど、
座れる所がなければ、レジャーシートを敷いて食べよう
でも一人で食べるのも勿体ないから琥珀ちゃんと半分こしよう
ほら、あーんして

■帰り道
琥珀ちゃん、疲れて寝ちゃうかもなぁ。
そうなったら、おんぶしてでもバスまで連れて帰らなきゃ



エルド・Y・ルーク(ディナス・フォーシス)
  『花酔い』各1個
精霊が甘党なのは知っていたので、好奇心から連れて来てみましたよ

咲いている夏花が綺麗なので花のベンチからフラワーアートが美しい『誓いの門』を眺めましょうか
美しさに辺りを見渡している精霊に待って頂いて、花酔いを2つ買って戻りましょう

もちろん、奢りに決まっているではありませんか。生活環境上所持しているJrの量が違うのですから…傷つかないで下さい、本当に桁が違うのですから

おお、これは結構な美味ですねぇ
余り酔う事を知らない私ですが、心地良い酔いが
連れの方は早速管を巻いてますが…
彼の日常を壊したのは確かに私の責任です、せめて愚痴位は聞きましょう

おや、眠ってしまいました
どうやって帰りましょう



ティート(梟)
  たくさんの花を見るのもカキ氷を食べるのも初めて
内心嬉しいしわくわくしてるがバス内では言葉に出さない

すごいな…これ全部花?あれも?(きょろきょろ
あ、おっさん、カキ氷ってあれか?(そわそわ

いろんな種類があるんだな…ぶ、ぶるーはわ…?
見慣れない単語に思わず顰め面

ベンチに座って花酔いを一口→美味しくてかっ込む
おいし…ッなにこれ頭イタっ!
…ほんとだ、治った。ありがとうフクロウ

ふわふわ、する
視線を追いかけ誓いの門を見
…昔の事でも思い出してんの?
分かり易いなおっさん

あまり昔を話さない梟になんとなく聞いてみる
どんな奴だったの、あんたの相棒
表情を見て何か罪悪感
…今隣にいるのが俺で悪かったな

帰りのバスは寝てる



●触れる温度
「ほら、持ってやるから早く降りろよ」
「大丈夫、画材道具ぐらい自分で持てるよ……?」
アルヴァード=ヴィスナーの不器用な好意を柔らかに無下にして、栗花落 雨佳はさっさとバスを降りる。その後を追いながら、アルヴァードはため息を漏らした。車中にて、
「夏の花が沢山見られるんだって、凄く楽しみだな」
等と窓の外を眺めて言葉を零した雨佳ではあるが、窓に映ったその表情はさして楽しげには見えなかった。楽しみだって言いながらこのどうでもよさそうな態度は何なんだろうなコイツは……と胸の内に思ったアルヴァードではあるが、毎度のことなので取り立てて口にはしない。
「……うん、いい景色だね」
広場へと辿り着き、雨佳が足を止める。咲き誇る花を愛でるでも名物を買い求めるでもなく、雨佳は当たり前のようにベンチに腰を下ろし、画材を荷物から取り出した。スケッチブックに、軽やかにペンを走らせる。
「……着いた途端こうだもんな……まぁもう慣れたがな……」
アルヴァードの呟きと2度目のため息は、既にスケッチの世界に没頭している雨佳には届かない。静かにパートナーの隣に腰掛けて、アルヴァードは退屈を持て余しながらとりどりの花に視線を遣った。遠く聞こえる広場のざわめきと、ペンがスケッチブックを走る音だけがアルヴァードの耳に届く。そんな時間が、しばらく続いた後。
「ああ、そうだ」
不意に、雨佳が思い出したように声を漏らした。
「あのさ、アル。折角だから、ガイドさんがオススメしてた……なんだっけ? かき氷?」
「あぁ、酔花のかき氷か……」
「食べてみようか? 丁度喉も乾いたしね」
やっと深い青の瞳を自分に向けた雨佳に「買ってくるからお前は此処に居ろよ」と言い含めて、アルヴァードは『花酔い』の屋台へと足を向けた。買い求めるは、甘い蜜色を纏うふんわりとした氷の山。それを手に元の場所へと戻れば、雨佳はまた自分の世界に深く沈んでいて。自分が帰ってきたことにも気づかない相棒に3度目のため息を落とし、アルヴァードは彼の目前へと『花酔い』を差し出した。やっと『こちら側』へと戻ってきた雨佳が、ありがとうと表情をゆるりとさせる。そして、アルヴァードが再度傍らに腰を下ろせば、しゃくりと匙に掬われる蜜氷。
「どうだ? 美味いのか?」
「ええと……うん、甘い……ね」
トラットリアのシェフの性だろうか、人が食べるのを眺めるのが好きなアルヴァードにまじまじと観察されながら、雨佳は緩く首を傾げる。
「んー……酔ったらどんな風になるのかと思ったけど……良く分からないかも……?」
言いつつ、『花酔い』を食べ進める雨佳だったが。
「……おい、大丈夫か?」
「え? 何が……?」
「顔、赤いぞ」
指摘されて、雨佳は自分の頬にそっと触れた。その瞳が、甘く蕩けているのをアルヴァードは見留める。
「そう? ……やっぱり自分じゃ良く分からないな。ねえ、アル。今僕、どんな感じ……?」
とろりとした瞳でアルヴァードの顔を見つめて、雨佳は猫のように相棒へとその身を擦り寄せた。
(?! ち、近い……!)
別段悪い気がするわけでもないが、気恥ずかしく思うのも道理ではある。近すぎる距離に頬が火照るのを感じれば、「あ。アルも赤いよ」と雨佳が表情を僅かふにゃりとさせた。アルヴァードにぴたり身を寄せたまま、雨佳は細い指でアルヴァードの手をなぞる。その手の形を確かめるように。
「……ふふ、君の手は大きいよねぇ……この手から美味しいご飯が出来るんだねぇ」
零される言葉すら、甘やかな響きを帯びている。雨佳の指は冷たいはずなのに、触れられている部分が熱いのは自分の熱か。顔を合わせることができなくて、アルヴァードは明後日の方向に視線を遣る。
「……早く帰りたいな……君の作ったご飯が食べたい……」
「……か、帰ったら何でも好きなもん作ってやるよ……」
呟きにそう返せば、「約束だよ」と雨佳は殊更にアルヴァードとの距離を詰めるのだった。

●花酔いの口づけ
誓いの門前にて。運良くも観光客向けの案内人を捕まえたシルヴァ・アルネヴとマギウス・マグスは、今は誓いの門を彩る数多の花のうちの一つ、酔花について説明を受けていた。
「へぇー、酔花ってこんな花なんだなぁ」
零れんばかりに咲き乱れる夏の花の中に蜜色の花を見留めたシルヴァは、つんつんとその花をつついた後、顔を近づけて匂いを嗅ぐ。
「……不思議な甘い匂いがするな」
「シルヴァ。子どもみたいなことをしないでください」
マギウスがぴしゃりと言った。仲睦まじい2人の様子に笑みひとつ、案内人の男が言うことには。
「花弁も甘いんだよ。優しく摘んで齧ってみな」
勧められ、シルヴァは躊躇なく、マギウスはやや間をおいて、それぞれに酔花の花弁を口に運ぶ。口の中に広がる、柔らかな甘み。ますます『花酔い』を食べるのが楽しみだと、シルヴァは口元を緩ませた。案内人に礼を言って、2人はかき氷の屋台を目指す。買い求めるのは勿論『花酔い』だ。酔花が飾られた蜜色かき氷を手に、2人は広場のベンチに並んで腰を下ろす。小さく可憐な青の花を咲かせた花木が、ベンチに影を作っていた。
「それじゃ、溶けないうちにいただきます!」
「いただきます」
シルヴァに続けて挨拶をし『花酔い』をさくりと口に運び――マギウスはふと、シルヴァにじぃと見られていることに気づく。その口からため息が漏れた。
「……考えていることは大体分かります。僕が酔ったらどうなるのか興味がある。違いますか?」
「あれ、ばれた?」
「そう顔に書いてあるので。馬鹿なことをしていないで早く食べないと、本当に溶けてしまいますよ」
木陰は涼しいが、それでも季節は夏である。じわり溶け始めているかき氷を、シルヴァは慌ててかき込んだ。そして暫し。
「――あ、確かにふわっとするな」
ふふ、とその口から小さく笑みが漏れる……だけでは終わらず、シルヴァは何が可笑しいのか、けらけらと声を上げて笑い出した。その頬には、僅か朱が差している。
「……もしかして、笑い上戸ですか?」
すっかり上機嫌で自分の肩をぱしぱしと叩くシルヴァに呆れつつマギウスが問えば、当のシルヴァは、ふにゃりと笑み湛えたまま軽く首を傾げてみせて。
「んー? どうだろ? マギは全然変わらないのなー……あ、何か悲しくなってきた……」
ぽろり、不意にシルヴァの目から涙が一粒落ちる。突然のことに驚くマギウスを置き去りに、シルヴァは頬に涙の跡を残したまま、ずるずると倒れ掛かってマギウスの膝に頭を落ち着かせてしまった。その穏やかな寝顔を見て、マギウスはため息を零す。
「全く……。それにしても……どうやら僕は、『花酔い』では酔わないようですね」
小さく呟いて、マギウスは2人分の器を脇に避け、相棒の寝顔をじぃと見つめる。ひらり花木から落ちた青の花が、シルヴァの髪を彩った。その様子にふと笑みを漏らし――マギウスは自然、背を屈めてシルヴァの額へと口づけを零す。と。
――ジリリリリリ!
不意に、シルヴァの携帯電話のアラーム音が鳴り響いた。とび起きるシルヴァとぱっと身を引くマギウス。現実感が、マギウスの元へと戻ってきた。
「やば! 集合時間だ、マギ!」
言いつつ、慌てて立ち上がるシルヴァ。そんな彼に見られないよう、真っ赤になっているであろう火照る顔を、マギウスは額に手を当てて隠す。酔ってなどいないつもりだった。だけれども、先刻の口づけは。あの時自分は、一体何を思っていたのか。思考が上手く纏まらない。自分は今、
(……どう考えても、酔ってる)
シルヴァを追って立ち上がろうとしたら、くらりとした。どうかシルヴァにこの酔いがばれぬようにとまだ上手く働かない頭で思いながら、マギウスは精一杯何でもないふりをして相棒の後を追った。

●隣にいる人
「すごいな……これ全部花? あれも?」
広場中に咲き乱れる鮮やかな夏の花に、ティートは目移りしきりだ。沢山の花を見るのも初めて、かき氷を味わうのも初めて。バスの中では口にこそしなかったものの、胸の内には初めてだらけの小旅行へのわくわくと嬉しさを、いっぱいに抱えていたティートなのである。
「あんまりきょろきょろしてると迷子になるぞ、坊や」
苦笑混じりにそう忠告して、それでも梟は僅か歩みを遅くした。長い旅の途中、何度か噂を耳にしたルチェリエの町。
(坊やに見せてやりたいと思ってツアーに誘ったが、正解だったな)
ティートは梟の新しい生きる意味だ。こうして与えてやれるものがあることを、梟は心底から嬉しく思う。と。
「おっさん、かき氷ってこれか?」
いつの間にか、ティートは『花酔い』の屋台の前にいて、そわそわを隠しきれない様子で梟を待っている。梟は少し足を速め、ティートの待つ屋台へと急いだ。
(色んな種類があるんだな……ぶ、ぶるーはわ……?)
興味津々メニューを覗き込み、ティートは見慣れぬ単語に思わず顔を顰める。「かき氷の味は……」とティートに尋ねかけた梟がその何とも言えない表情に気づき、
「……いや、同じのでいいな? これを2つで」
と注文を済ませた。2人分の『花酔い』を買い求めれば、ベンチに座り早速匙で蜜のかかった氷を掬って。まずは一口そっと頬張り、口の中で解ける柔らかな氷と甘い蜜のハーモニーを大層気に入って、ティートはそれを一気に口の中にかき込んだ。
「あ、そんな一気に食べたら……」
と梟が口を開いた時にはもう遅し。
「おいし……ッ何これ頭イタっ!」
「……言わんこっちゃない」
呆れつつ、梟は自分のかき氷の容器をティートの額に当ててやった。痛みが引いていくのをティートはぼんやりと感じる。
「こうするとすぐ治まるんだ」
「……ほんとだ、治った。ありがとうフクロウ」
常は生意気なティートのあまりに真っ直ぐな物言いに、梟は僅か目を見開く。
(やけに素直だな……『花酔い』のせいか?)
思いつつ、梟もまた『花酔い』を口に運んだ。流れゆく、静かな時間。仄か酔い心地で、梟は『誓いの門』へと目を向けた。祭りの日に親しい人と共に潜れば縁が続く。そう伝えられるフラワーアーチを見やり、思うことは。
(大切な人、ね……)
ふと、隣を見ればかつての相棒が座っているのではないかと、感傷めいた空想が頭を過ぎった。ティートに重なる、その人の面影。けれど、掛けられた言葉は紛れもなくティートのもの。
「……昔のことでも思い出してんの?」
気付けば、梟の視線を追ってかティートの目も『誓いの門』へと向けられていた。酔いのせいかふわふわと宙に浮くような言葉は、しかしあまりにも的確だった。
「……いや、そういうわけでは。あの門に、つい見惚れてしまっただけだ」
「おっさん、分かり易い」
図星を突かれて口を滑らかにした梟の嘘を、ティートは一蹴する。変なところで鋭いんだなと、梟は生まれた間を埋めるように『花酔い』を口に運んだ。
「どんな奴だったの、あんたの相棒」
梟は、あまり昔のことを話さない。ティートが何とはなしに問いを零せば、梟はごく薄く口元に笑みを浮かべた。
「あいつは……坊やに似て生意気なガキだったよ」
その言葉に宿る色、手の届かぬ場所に想いを馳せる時のどこか痛ましいような表情。胸に罪悪感が頭をもたげ、ティートの口から、ぽろりと言葉が落ちる。
「……今隣にいるのが俺で悪かったな」
返された言葉に胸の内では驚きつつも、梟はそれを顔には出さない。からりと笑いとばして、梟はティートの頭をわしわしとした。
「……痛い。酔ってるだろ、おっさん」
「何、坊やほどじゃない」
2人の不器用で優しいやり取りを、『誓いの門』が静かに見守っていた。帰りの時間が近い。一時の非日常を味わった後は、日常行きのバスの中でゆっくりとおやすみを。

●花に酔い眠る
「美しい、ですね。手入れが良く行き届いている……」
「ええ、本当に。見事なものです」
『誓いの門』がよく見えるベンチにて。ディナス・フォーシスが辺りに広がる美しい景色に思わず感嘆のため息を零せば、エルド・Y・ルークは穏やかに微笑みを返した。
「少々ここで待っていていただけますか」
声を掛けて、エルドはかき氷の屋台へと向かう。2人分の『花酔い』を買い求めるためだ。2つの『花酔い』を手にベンチへと戻れば、ディナスはまだ飽きずに『誓いの門』に視線を遣っていた。容姿だけの話をするならば、ケチのつけようもないような美青年であるディナス。咲き誇る夏の花に溢れた広場のベンチに座すその姿は、まるで1枚の絵画のようで。
「待たせてしまいましたか?」
柔和な笑みと共に『花酔い』を一つ差し出せば、ディナスははっと面を上げて老紳士の顔を見た。
「あぁ、ありがとうございます。……奢りですよね?」
冗談のつもりでディナスがそう言えば、エルドは笑みを深くして、曰く。
「もちろん、奢りに決まっているではありませんか。生活環境上所持しているジェールの量が違うのですから」
「う……」
好意から零される言葉が、ナイフのようにディナスの胸に突き刺さる。突きつけられる現実。ディナスの心中を察してか、エルドが更に言葉を重ねる。
「傷つかないで下さい、本当に桁が違うのですから」
柔らかながらも重い、まさかのトドメの一撃。
「……事実って残酷ですよね」
ディナスは遠い目をして、ため息を漏らすのだった。気を取り直して口にするのは、蜜色を纏った雪のように柔らかな氷の小山。エルドもディナスの隣に腰を下ろして、『花酔い』を口へ運ぶ。
「おお、これは結構な美味ですねぇ」
「はい。自然な甘さがたまりません」
嬉しそうに笑み零すディナスを見て、エルドも相好を崩した。
「喜んでもらえたようでなによりです。貴方が甘党なのは知っていましたので」
僅か目を見開くディナス。
「ミスター、もしかして僕のために?」
「何、ほんの好奇心からですよ」
ウインクひとつ、エルドは悪戯っぽい笑みを零した。そんなやり取りを交わしつつ、2人はしゃくりしゃくりと『花酔い』を食べ進める。あまり酔うことには縁のないエルドも、ふわり心地良い酔いに包まれて。一方のディナスも、段々と気分が良くなってきたらしい。瞳が蕩け、その表情がゆるりと緩む。そして。
「どうして僕はライフビショップなんてやっているのでしょう。テンペストダンサーになりたかったのに……人生最大の誤算です」
そちらの経歴さえきちんと把握していれば……と管を巻き始めるディナス。ぽつぽつと呟かれる愚痴を、エルドは口を挟まず静かに聞いた。彼の日常を壊したのは確かに私の責任だから、と。しばらくそういう時間が続いた後。
「それから……あー……段々どうでも良くなってきました……」
言葉を零し続けていたディナスの声がとろりと緩慢な響きを帯び、美しい青の瞳は眠そうに細められて。そのうちにその目は完全に閉じられて、ディナスはうつらうつらと舟を漕ぎ始める。ぽすり、とディナスは頭をエルドの肩へともたれかからせた。
「……おや、眠ってしまいましたね」
自分に寄りかかりすーすーと気持ち良さそうな寝息を漏らすディナスを見やり、エルドは静かに目元を柔らかくする。
(さて、どうやって帰りましょう)
僅か首を傾げれば、ディナスが小さく身をよじった。困った状況ではあるのだけれど、無防備なその姿に、エルドは緩く微笑む。と。
「……あ、れ……? 僕……」
ディナスが、ぼんやりと目を開いた。
「おや、目が覚めましたか」
ミスター? とディナスは小さくエルドのことを呼んで――途端、我に返ったようだった。
「うわああ! 忘れてください! 今すぐ忘れてください!!」
大いに慌てるディナスを見て、エルドは思わずふふと笑みを漏らす。ディナスの頬が朱に染まっているのは、『花酔い』のせいだけではないだろう。

●一匙に幸せを乗せて
花の町の広場にて。誇らしげに咲き誇るとりどりの花をぐるりと見渡し目を細めつつ、鹿鳴館・リュウ・凛玖義は『花酔い』へと思いを馳せる。
「花酔い、か。良い名前のかき氷だよね」
イメージするだけで甘く酔いしれそうだと、凛玖義は口元に笑みを浮かべた。
「あっ、僕ったら花より団子ならぬかき氷になっちゃったね。でも……うん、ますます楽しみになってきた」
「りくっ!」
凛玖義の服の裾を掴んだ琥珀・アンブラーが、凛玖義を見上げ瞳を輝かせて言う。
「お花、とってもきれいだね! かき氷もすっごく楽しみ!」
はしゃぐ琥珀の愛らしさに、凛玖義は蕩けるような笑みを向けて。すると、琥珀の笑顔もますます明るくなった。
「行こうか! 琥珀ちゃん」
「うんっ! りく、行こう!」
互いに顔を見合わせて笑み零し、2人は仲良くかき氷の屋台を目指す。
「かき氷は、やっぱり『花酔い』を食べなきゃね」
「えーっと、はくはねぇ、普通のレモン味っ!」
少し人の多い屋台に並べば、しばらくはかき氷かき氷と楽しげに歌っていた琥珀が、そのうちにうずうずとし出した。
「琥珀ちゃん、どうしたんだい?」
「あのね、はく、りくがかき氷買ってる間、お花を見てきたいな」
もじもじと上目遣いに自分を見上げる琥珀の姿に、凛玖義は軽く苦笑を漏らす。ツアーに参加するにあたり、実は花かかき氷かと大いに悩んだ凛玖義。けれど、ツアーコンダクターに尋ねたところ、広場のベンチに座れば花を目に楽しみながらかき氷も味わえるとのこと。だから、後ほんの少し待てば両方いっぺんに満喫できるのだけれど、幼い琥珀にはもう我慢の限界だったらしい。
「いいよ、琥珀ちゃん。でも、気をつけて、知らない人にはついていかないで、ちゃんと近くにいるんだよ」
この応えに、琥珀はぱああと顔を輝かせる。
「うん、大丈夫! 遠くには行かないよぅ! 知らない人にも、ついていかないっ!」
だから、かき氷買ってきたら、鈴を鳴らして、はくを呼んでね! 明るい声を残して琥珀が駆けていくのを見送り、やがて凛玖義は2人分のかき氷を買い求めた。花のベンチを確保し腰を下ろして、凛玖義は琥珀に言われた通りに鈴を鳴らす。涼やかな音色は、よく聞こえる精霊の耳に心地よく響いたようで、じきにぱたぱたと駆けてくる琥珀。かき氷に目を輝かせて、琥珀は凛玖義の隣にちょこんと腰かける。
「一人で食べるのも勿体ないから半分こしようか」
「ほら、あーんして」と差し出される蜜氷に、琥珀は僅か躊躇いながらも、「あーん」と口を開けた。もぐもぐとする琥珀の頬が赤いのは、どうやら酔いのせいではないらしく。
「みんな、見てないか心配だよぅ。……ちょっと、はずかしいの」
琥珀が言うのを、凛玖義はからりと笑いとばした。
「大丈夫だよ、琥珀ちゃん。ほら、皆夏の花とかき氷に夢中なんだから」
凛玖義の言に琥珀は広場の様子を見回して――確かに凛玖義が言う通りだと納得したらしくふわりと笑んだ。
「あっ、そしたらはくの分もまだ残っているから……」
いそいそと匙にレモン色の氷を掬う琥珀。
「はいっ、りくっ! あーんしてね」
「ん、あーん」
凛玖義が口を大きく開ければ、甘やかな冷たさが口の中へととび込んでくる。
「りく、おいしい?」
「うん。琥珀ちゃんが食べさせてくれたから、一等美味しかったよ」
再び顔を見合わせて2人は笑い合い――けれど間もなくに、琥珀はふあぁと可愛らしい欠伸を漏らした。
「……あれ? なんか眠い……花酔いってかき氷、食べたからかな……?」
うとうとと、凛玖義にもたれかかってくる琥珀。
「りくぅ、ひざ枕して……」
そのまま琥珀は、凛玖義の膝へと頭を落としことりと夢の中へ。凛玖義は、すぅと寝息を立てる琥珀の頭を愛おしげに撫でてやる。
「さて、疲れちゃったか、それとも『花酔い』のせいかな?」
おんぶしてでもバスまで連れて帰らなきゃと、凛玖義は柔らかく笑みを落とした。



依頼結果:大成功
MVP
名前:シルヴァ・アルネヴ
呼び名:シルヴァ
  名前:マギウス・マグス
呼び名:マギ

 

名前:栗花落 雨佳
呼び名:雨佳
  名前:アルヴァード=ヴィスナー
呼び名:アル

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月23日
出発日 07月31日 00:00
予定納品日 08月10日

参加者

会議室

  • [5]エルド・Y・ルーク

    2014/07/30-01:24 

    おやおや、ゆっくりしている間に、あっという間に出発期間まで後一日未満となりましたねぇ。

    名乗りが遅れました。私は、エルド・Y・ルークと申します。
    今回は、精霊が甘いものが大好きであった為、思い出作りも兼ねての参加です。
    カキ氷ですか、懐かしいですねぇ。それでは、皆さん。よろしくお願いしますよ。

  • [4]ティート

    2014/07/30-00:58 

    もう少しだな。
    俺はティート、精霊はおっさ…梟。

    …かき氷、食べるの初めてなんだよな
    楽しみだ。

  • [3]シルヴァ・アルネヴ

    2014/07/29-23:56 

    出発時間も近づいてきたなー
    シルヴァ・アルネヴと相棒のマギだ。よろしく。

    何となく、このツアー
    帰りのバスの中は、死屍累々って感じになりそうだけど……
    カキ氷も花の町もすごく楽しみだ。

  • うーん、一応挨拶しとくね。
    鹿鳴館さん家の凜玖義っていうよ、パートナーは、琥珀ちゃん。

    こちらこそ、見かけたらよろしく。
    ツアーバスかぁ。
    皆と喋りたいけど、眠くならなきゃいいなぁ。

  • [1]栗花落 雨佳

    2014/07/26-23:36 

    取り敢えず、挨拶だけでも。

    こんにちは。栗花落雨佳と相方のアルヴァード・ヴィスナーです。

    同じツアーに参加しているので、何処かで顔を合わすかもしれませんね。
    よろしくお願いします。


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