【夏の思い出】怒涛のヤシの木戦線(木乃 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

パシオン・シー。
そこには青い空、白い雲、鮮やかなコバルトブルーの海が広がる。
まさに絵に描いた『楽園』のような場所だ。

その一角に、ヤシの木が並んだ『パーム・ロード』と呼ばれる海岸線に沿った通りがある。
夕方頃には落日を迎える夕日を眺めにカップルが度々訪れてくる。
とあるカップルは真っ赤なオープンカーを走らせて、クラブ音楽を大音量で流していた。
「タク~、夕陽がちょーきれいなんだけど~」
「メグ、そんなお前の瞳に映る夕陽はもっと綺麗だ・ゾ☆」
タクとメグはキャッキャウフフと2人の時間を満喫しながらパームロードを車で走っていると

―――――突如、路肩のヤシの木が動き出した。

***
「暑い中来てくれてマジサンキュー☆」
軽いノリで男性職員が汗を拭きながらウィンクルムと向き合う。
「実は、パシオン・シーにオーガが紛れ込んだみたいなんスよ」
「え!?」

パシオン・シーといえば夏はバカンスを楽しみにやってくる者が多く、
恋人たちも集まってくるデートスポットでもある。
そんな場所にオーガが現れたとなると一大事だ。

「パーム・ロードっていうヤシの木の並んだ海岸通りに現れたみたいでぇ、
 被害を受けたカップルは幸いにも無傷だったんだけど車はおシャカ的な?
 まぁ、すぐに逃げたからちゃんと確認出来てないみたいなんだけど彼女さんの方が『絶対オーガだー!』って言い張っててさ」

ということは討伐の依頼かな?と思った矢先に職員が不思議そうに首をかしげる。

「でもさぁ、そのパーム・ロードで車を走らせてたのってそいつらだけじゃねぇんだけど。
 海岸通りなら1日のあいだでも他の車が通って当たり前じゃん?だからなんでこの2人だけ襲われたんだろって。
 俺的には大音量で音楽流してたからじゃね?と思うんだけど」
ま、その時はカップルの車しか通ってなかったらしーし俺の推測だけどね?と職員は補足する。


「ラジカセくらいなら貸してくれんじゃねぇーかな、お前らのユーロビートで引っ張り出すかは任せっから」
じゃあ調査の方はオナシャーッスと軽いノリで依頼説明は終わった。

南国の楽園で起きた、陽気で奇妙な依頼に挑む。

解説

目的:
パーム・ロードの調査

パーム・ロード:
パシオン・シー内にある海岸通り。
全長10kmで海岸線に沿うようにヤシの木が5mの等間隔で並んでいる。
間隔には茂みなどは無く、見通しが良い。隠れることは難しい。

車線は1車線なので複数台の車で行動すると身動きが取りづらい。

オーガ?について:
大音量のクラブミュージックを流している時に襲撃してきた。
依頼人のカップルは襲撃してきた相手をきちんと目撃していない。

音楽に反応するヤシの木に酷似した
トレントの亜種・パームトレントという生き物は居る。
トレントよりは小柄だが、身動きはトレントよりも僅かに早い。
擬態化していると見分けは付かないが、音楽を聴くと踊りだしてしまう。
陽気で楽天的な性格が多い。

その他:
職員の計らいでラジカセは5台まで用意できる。
ただし、キチンとプランに書いて申請する必要アリ(重要)

ゲームマスターより

お久しぶりです、室内で蒸しあがった木乃です。

今回は調査依頼ですが調査対象をどうするかは皆さんにかかってます。
違う場所へ行くように説得できるでしょうし、戦って討伐することもまた一興。

それでは皆様のご参加をお待ちしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リチェルカーレ(シリウス)

  音楽を聞くと踊り出しちゃう…何か可愛らしい
車からの音楽に つい踊っちゃったのかしら?

時間があれば 道路から外れてトレントの好みそうな場所がないか調べる

インカムとラジカセ用意
パームロードの左端から 音楽を大きめの音でに鳴らしながら歩く

パームトレント またはオーガが出てきたら皆に連絡

オーガだったらトランス
トレントなら一歩前に出て

あなたが 音楽好きのトレントさん?
優しくに話しかける
この道は人がたくさん通ること
悪気はなくても 急に動いて物を壊したり人を傷つけることになったらいけないこと
わかりやすく説明
好きなだけ踊っても 誰にも怒られない所に移りませんか?
と提案
先に調べがついていたら そこへ案内



楓乃(ウォルフ)
  ■持ち物
本部でラジカセとインカムを申請
念のため自身の携帯電話も保持

■行動
・バーム・ロードを3分割し3組に分かれて調査。
(楓乃組は右端を担当)
・順々にラジカセでクラブミュージックを大音量で流していく。
・自身の範囲内で異変が起きた場合、すぐにトランス。インカム(または携帯)で他の神人に伝える。他の神人から連絡を受けた場合は、現地に向かう。
・オーガの場合→精霊と共に合流するまでオーガを足止め。合流後、戦闘。
・ちがった場合→合流する間に去らないよう音楽で気を引いて足止め。合流後、別の場所に移動してもらえないかを説得。難しい場合はやむなく退治。


空朱音(鴇色 灯火)
  【申請】
・ラジオカセット
・インカム

インカムは通らなかったら携帯電話で連絡取るよ

動く木が人を襲うの?
じゃあ、痛い事しちゃ…メッて教えてあげないと
ダメだよね?

人が、嫌がる事をしちゃダメって
主様も言ってた

じゃあ、楓乃姉様とリチェルカーレ姉様とインカムで連絡を取りつつ

ラジオカセットを鳴らして進んでみようね!
えへへ、大きな姉様…村にはいなかったから
今日は二人も大きな姉様が居て嬉しい♪

でも、任務だから気を引き締めなきゃだめだよね
私と主様は中央の地区を担当してラジオカセットを鳴らしてみるよ

音楽は何種類か持っていくけど
一番はやっぱりクラブ音楽かな?

オーガ見つけたらインカムで連絡
他で見つけたら素早くそっち行くよ


◆南国の怪事件
「動く木が人を襲うの?」
「恐らくパーム・トレントという生き物だと思いますが、音楽を聴くと踊りだしちゃうそうですよ……なにか、可愛らしい」
幼い空朱音が思案顔で首を傾げていると、リチェルカーレが『今回の犯人はオーガではないだろう』と告げる。
会話する雰囲気はふわふわと緩やかなモノだった。

しかし現場はふわふわとした雰囲気に反して、太陽からの情熱的な陽光が照りつけており
アスファルトから上昇する熱気も潮風を浴びて蒸し暑い空気が流れている。

ここはパシオン・シーの一角を彩る海岸通り―――――パーム・ロード。
名称があらわす通り、ヤシの木が海岸線を沿うように植えられており南国然とした作りで
路肩はサンドベージュのレンガが隙間なく敷き詰められている、設備がキチンとしていることが容易に分かる。
しかし、現在はオーガが潜伏している疑いがあり依頼人のメグとタクの通報を受け、
A.R.O.A.本部から地元警察が要請を受けパーム・ロードの通行は一時的に封鎖されている。
現在は出発地点としてパーム・ロードから砂浜に面する位置で言うと、右端の地点に集合していた。

「風光明媚な地ですのに、誰もいない景色は物悲しいですね」
楓乃は真昼であるにも関わらず、無人の海岸通りを見て悲しげに呟く。
「とっとと見つけて、どっか行ってもらわねぇとな……しっかしあちぃぜ」
「火もまた涼し。心頭滅却の精神でもって挑み、早期に解決すればよい」
ウォルフは片方のナックルラダーを外して団扇替わりに自身を扇ぐが、生ぬるい風に萎え気味。
砂漠の民のような薄着をしているとは言え、蒸し暑さには適していないのかもしれない。
対して返事をした鴇色 灯火は腕組みして涼しい顔をしている……と言っても『狐面越し』なので想像しかできない。
防具は一切身に纏っていないが、一番分厚い格好だけに水分補給は大丈夫だろうか。
「じゃあ、痛い事しちゃ……メッ!て早く教えてあげよ?」
空朱音も元気良く応じる。

(実際に見てみなければ解らない事もあるだろうし、仕方あるまい)
「一番奥だから先に行く。リチェ」
「あ、シリウス……じゃあまた後でお願いしますね?」
パーム・ロードの奥まで静かに見つめていたシリウスは、一言告げて歩き出す。
実は本部にあったパーム・ロード周辺の地図を借りて『ある場所』を見つけようと考えていたのだが、
具体的な場所までの目星をつけておらずあまりにも候補の場所が多かったため
『現地で見つけた方が早い』と思い先行して探すことにした。
慌ててリチェルカーレもシリウスの後ろを追いかけていく。
「じゃあ、オマエらが着いたら音楽を鳴らし始めっから連絡してくれよ」
「気をつけて下さいね?」
ウォルフもA.R.O.A.本部から貸与してもらったインカムを耳に付けながら見送る。
楓乃もヒラヒラと手を振る。

「では俺達も。アカネ、行くぞ」
「う、うん!楓乃姉様もまた後でね」
実は今回が初めての任務である空朱音。
すこし興奮した面持ちで灯火と共に借りてきたラジカセを抱えて出発した。

◆行く先はいずこへ
作戦開始の少し前。

先に出発したリチェルカーレとシリウスは路肩のヤシの木に注意しながら進んでいた。
シリウスはリチェルカーレに先ほど思案していたことを伝えた。
「候補が多過ぎる、ですか……観光地ですものね。遊べる場所は沢山ありますし」
「こうなったら実際に見て回った方が早いだろう……パーム・トレントの移住先」
シリウスは実はパーム・トレントを説得できた場合に考えておくべき『移住先』の候補を探していたのだ。
『別の場所に移ってくれ』と、頼むだけでは同じような人通りのある場所に出現してしまう恐れがあるからだ。

話を聞いたリチェルカーレは『ビーチ内やクラブ等に場所を絞った方がよかったかも?』と少しだけ後悔した。
「だが、10kmなら広範囲というほどじゃない」
「はい。すぐ近くに適切な場所もあるでしょうし、向かいながら探しましょう」

暑い日差しの中でもリチェルカーレ達は諦めず、額に汗をにじませながら移住先を探していた。

◆海岸通りはラテンが似合う
時間にして2時間ほど経過した頃、シリウス達から通信が入る。
『ザザッ……待たせたな、少し探し物をしていた』
「ほう、それは見つかったのか?」
『すっげぇ待ったぞ、汗だくになっちまったぜ』

シリウスからの連絡に淡々と応じる灯火と、インカムの音声に水を飲む音が混じるウォルフ。
任務とは言えこの暑さでは水が恋しくなるのも仕方がない。
『いや、やはり候補を絞っておくべきだった』
「ふむ?とにかく、作戦を開始するぞ」
シリウスの呟きに疑問を抱く灯火だったが、通信の途中でウォルフが『早くしようぜー』と声を上げている。
精霊達が自身のパートナーに目線を向けると各々で頷いて了承の合図を出す。
作戦の内容は『両端と中央部から音楽をかけて目標を炙り出す』、いわゆるロードローラー作戦だ。
どこに居るのか解らない以上、しらみ潰しに探すのが確実と判断したのだろう。

神人達がそれぞれラジカセの再生ボタンを押す、設定はもちろん全リピートモード。
ラジカセから流れるのは陽気なサンバだったり、激しいユーロビートだったり、軽快なレゲエだったり。
とにかくダンス好きなら踊りたくなってしまうようなダンスミュージックを揃えてきた。

***
「早く見つかると良いですね」
「そうだな、早く日陰に入りてぇぜ」
「「……」」

楓乃とウォルフは潮風に気まずさを漂わせながら中央部へ向かって歩いていた。
ウォルフは心当たりがあるような、ないような……曖昧な感覚で察しているせいか困惑しており、
楓乃は楓乃で見てはいけないモノを見てしまった意識が強いせいで直視できないでいた。
大音量で流れるサンバのマラカスや掛け声が僅かながら気まずさを軽減してくれている気がする。
「なぁ……オレ、なんか悪いことしたか?」
「そ、そんなことないですよ」
「……流石に全く目が合わないと寂しいんだけど」

ウォルフの問いに目を逸らしごまかしてしまう楓乃、ウォルフの本音はサンバのリズムにかき消されてしまうのだった。

***
「シリウス、結局見つからなかったですね……」
「こうなったら直接聞いてみるか」
地図で見た場所で、時間がかかり過ぎないように場所を探してみたものの、
地下施設だったりパーム・トレントの移動が困難な場所だったりと、適切な場所は見つからず時間切れ。
最後の手段として、シリウスは『パーム・トレントの要望を叶えられそうな場所』に絞ることにしようと思い立つ。
少なくとも、パーム・トレント自身が望む場所であれば目的地を絞るのに容易だ。
「こちらからの提案なら、主導権も握れるし」
「……上手く、いくと良いですね」

リチェルカーレは少し不安げな表情を浮かべ、シリウスは横目でその表情をしっかりと見ていた。
二人の間で流れるユーロビートは中央部へ向かうごとに激しさを増していった。

***
「えへへー」
「上機嫌だな、アカネ」
「うんっ、大きな姉様…村にはいなかったから今日は2人も大きな姉様が居て嬉しい♪」
空朱音はニコニコしながら歩いていると不思議そうに灯火が問いかける。
どうやら出身の村には楓乃やリチェルカーレのような10代後半の女性がいなかったようだ。
灯火は思わず口角を上げて微笑むが、それは狐面の奥にしまい込まれている。
「あ……でも、任務だから気を引き締めなきゃだめだよね」
ハッとして空朱音は「むむむっ」と気を引き締めようと顔をキリッと引き締める、その様子は7歳らしい微笑ましい光景だ。

『そっちはどうだぁ?右端からはなんの反応もねぇぜ』
『左端からも異常は見られない』
そこへウォルフとシリウスからの通信が入る、今のところ双方は異常がないようだ。
「解った、こちらは……」
灯火もインカムに手をかけて辺りを見回していると――――
『―――――ッポーゥ!ッポーゥ!』
突如、数メートル先のヤシの木が動きだした。
「きゃあッ!?」
「……珍妙な動きのヤシの木が1本あった、至急こちらに来てくれ」
驚いた空朱音はラジカセを落としそうになるが直ぐに抱え直す、灯火も通信を返して発見したことを伝える。
『空朱音ちゃん!?すぐ行きます』
『待ってて下さいね!』
リチェルカーレと楓乃も空朱音の悲鳴が聞こえたのか、慌てた様子で通信を返した。

「よりによってこことは、な……おい」
『オー!ユーがソウルフゥルなー、ミュージック流したネー?』
腰(という幹)をぐりんぐりんスウィングさせながら灯火の声に反応するヤシの木――――パーム・トレントは上機嫌に応答する。
ヤシの房をチラリと見てみるが、角はない。オーガではなく普通のパーム・トレントだ。
『グッチョーイス、ヨー!ミーは、とーっても気に入ったヨー』
「貴殿は何故、人を襲った」
レゲエのリズムに乗って踊り狂う様子に反してトレント特有の遅いペースの口調で話すパーム・トレントに灯火は冷静に問い質す。

『ハーイ?ミーが襲ったネー?』
「ダメなんだよ、人が嫌がることしちゃ!」
空朱音も「主様も言ってたんだから」とパーム・トレントに教えるが、パーム・トレントは不思議そうに首(というか幹)を傾げる。
『ミーは人なんかー、襲わないヨー?ソウルフゥルなダンスィングしたいだけネー』
「うー……主様、全然解ってないみたいだよ?」
(……やはり、オーガでなくとも有害だな。容赦せずに倒しにかかった方が良いか)
灯火は懐に手を伸ばし、紅葉を構えようとした瞬間。

「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さひぃ」
急いで走ってきたのだろう、肩で息をしてへたりこむ楓乃と汗だくなウォルフの姿が。
「い、インカムから……お話を、聞いてました」
「どうやらオーガではなさそうだぜ」
楓乃は息を整えながらラジカセの音楽を止めてフラフラと立ち上がる、ウォルフもパーム・トレントがオーガか否かをしっかりと確認した。

「あの、本当にここで踊っていただけですか?」
『イェース!ミーは音楽に合わせてー、ダンスィングしただけネー。バッド……』
「バッド?なんかあんのかよ」
ウォルフが不思議そうにパーム・トレントに話の続きを促す。
『ソウルフゥルなミュージックがー、流れたのは一回ダケー。その後ドカーン!って大きい音とー、ファンファンって怖い音流れたヨー』
『ビックリして、ミーの頭のココちゃんが震え上がるネー』と、両腕(という枝)で自分の幹を抱きしめるような動作を見せて震え上がる。

「まさか、それが依頼人の受けた被害の真相だというのか」
灯火も予想の斜め上を突き抜けるパーム・トレントの証言に思わず固まってしまう、事実は『勢い余った不慮の事故』だったのだ。
まともに確認していなかった依頼人の2人も悪いといえば悪いが、1番の原因はこの傍迷惑なパーム・トレントである。
「お、お待たせしました……ホントにパーム・トレントだったのですね」
リチェルカーレとシリウスも到着した、楓乃から被害の真相を伝えられる。
一旦、ウィンクルム達はパーム・トレントの証言を元にそれぞれの見解をまとめることにした。

***
「……嘘を吐いている可能性もあると思うが」
「私もあんまり反省してないと思うんだよ?」
空朱音と灯火はパーム・トレントの話がイマイチ信じられない様子のようだ。
「私は、嘘を吐いてないと思います。車の事故と……多分、パトカーの音は聞いていたようですし」
「オレも嘘吐くなら事故のことも知らないって言うと思うぜ」
楓乃とウォルフも首を傾げながらパーム・トレントの証言を思い返す。

「もしかして、ぶつかったこと自体に気づいてなかったのではないですか?」
リチェルカーレはふと思ったことを呟くと、4人も「あっ」と思考の外側からの見解に反応する。
「現に今もレゲエに夢中でこちらの様子なんか気にも留めてない。踊ることにしか興味がないのだろう」
シリウスはチラッとパーム・トレントの様子を見ると鼻歌交じりにクネクネとレゲエに合わせて踊っていた。
それを見たシリウスは呆れたように溜め息を吐き、灯火も流石に納得したようだ。

どうやらこのパーム・トレントは、『陽気で楽天的な性格+能天気で快楽的』
自身の起こしたコトの重大さに全く気付いておらず、自分の楽しいコトを優先しているというだけでも証明に値する。

「やはり殺処分すべきでは?」
「いえ、パーム・トレントさんは踊りたいだけのようですしキチンとお話すれば解ると思います」
頑張って説得してみましょう、と楓乃はグッと両手の拳を握りながら提案する。
「私も一緒に説得してみます、悪い人……いえ、悪いトレント?ではなさそうですし」
リチェルカーレも素朴な疑問を感じつつ、同意して楓乃と共に説得に向かった。

◆トゥギャザーして下さい
「あの、音楽好きのトレントさん?」
『ハーイ?ドゥしたヨー』
リチェルカーレは踊りまくってテンションの高いパーム・トレントに優しく語りかける。
「この道は、人がたくさん通る場所です」
「トレントさんが踊ったとき、ここを通った車にぶつかって事故が起きたのですよ?」
それがドカーン!って大きな音がした原因です、と楓乃もやんわりとたしなめる。
シリウスは敵意がないことを示そうと、武器は懐にしまっているがリチェルカーレが不用意に近づかないかと様子を後ろから伺っている。

『オー!?ミーは知らないネー?』
「トレントさんに悪気はなかったのは解ります、でも……物を壊したり、人を怪我させてしまったことはいけないことです」
「ビックリして隠れちまった気持ちも解るけどさ、ここに居ても封鎖してるから大好きなミュージックも聞けなくなっちまうぜ」
動揺しているパーム・トレントに解りやすく説明するリチェルカーレに続いてウォルフも危機感を煽るように説得をする。
『オーマイガー、ミーは楽しくダンスィングしたいだけネー……もしかして、ミーのことコロしに来たノ?』
「ち、違いますよ!オーガが出たって驚いた方が連絡してきてくれたんです」
流石に落ち込んだのか、ヤシの葉を垂らしながら見つめてくるパーム・トレントに楓乃は慌てて弁解する。

『では、ミーはドゥすればいいネー?』
「好きなだけ踊っても、誰にも怒られない所に移りませんか?」
「ここだと、本当に怪我したりもっと悪いことが起きるかもしれません。別の場所に移りましょう」
困り果てているパーム・トレントにこの場から離れてもらうようにリチェルカーレと楓乃は説得を試みた。
『オー!ナイスアイデアですネー!』
パーム・トレントもゆっくりとした口調ながら、名案だと嬉しそうに目を見開く。
『……で、どこへ行けば良いのヨー?』
「えぇ!?」
(や、やっぱりそうなりますよね……)
楓乃は想定していなかったパーム・トレントの切り返しに思わず言葉を詰まらせしてしまう。
リチェルカーレも結局見つかっておらず、万事休すかと思った……その時。

「ところで、なぜこの海岸通りに来た?」
突然、後方から質問が投げかけられる――――――――シリウスだ。
『オー!それはここから見えるオーシャンビューがビューチフルでミステリアスだからヨー』
「では、海が見えて存分に踊れる場所ならいいな?」
『イエース!オフコースッ!!……あ、出来ればいーっぱい踊る人がいる場所がいいヨー』
シリウスの問いにパーム・トレントは痒いところに手が届いたと言わんばかりに喜びの舞を見せる。
どうやら、パーム・ロードに来た理由自体も『海が見えるから』という単純な理由らしい。
「……それなら、海の家の近くで踊ってもらえばいいだろう。砂浜なら海は嫌でも見える」
「でも人通りが多いとこだぞ?大丈夫なのか?」
シリウスが面倒くさそうに呟くと、ウォルフが怪訝そうな顔をする。

「トレントさん、もう痛いことしちゃメッ!だよ?」
『ミーはハッピーハッピーなダンスィングがしたいだけヨー!痛いコトしない、お約束するネー』
傍らから見ていた空朱音の問いに幹を揺らしながら陽気に返すパーム・トレント、人嫌いどころか人懐こい性分のようだ。
「では、善は急げだ。すぐに移動しよう」
同じく灯火もパーム・トレントが説得に応じた様子を受けて移動の準備に取り掛かる。
「この近くの海岸だと、来る途中に小さな海の家があったな」
シリウスが地図を確認して、最寄りの海の家を探す……どうやらパーム・ロードの端にこじんまりとした海の家があるようだ。
少し離れた場所に居てくれれば、踊っていても海の家を壊してしまうこともないだろう。
「よかったですね、トレントさん」
楓乃はニコリとパーム・トレントに笑みを向けた。

空朱音達はシリウスのナビゲートを受けながらパーム・トレントを海の家まで誘導していった。
パーム・トレントも例に違わずトレントの特徴である鈍足で、ダンスを踊っている時の俊敏さは移動では発揮されず。
――――――――――気づけば、夕焼けが見える時刻になっていた。

◆パシオン・シーのアミーゴ
パーム・トレントを連れてやって来たのはパシオン・シー内でも小さな海の家『マール・デ・アモール』
―――――『愛しの海』と称した海の家だ。

海の家の主人は色黒のガタイの良い老人で、パーム・トレントの存在に最初は驚いたものの
人好きする性格やここが迷惑をかけずたくさんの人と踊れるだけの広さ、
そして海がよく見える場所であることにいたく感動したらしくこの海の家の近くに是非住みたいことをパーム・トレントが伝えると、
最初は渋っていた主人だったがパーム・トレントの真摯な姿勢を受け入れてくれた。

「どうなるかと思ったが、これで一件落着だな」
「よかったね、トレントさん!」
『ハーイ、皆さんのおかげネー!ミーはとってもハッピーでインプレッションしたヨー』
灯火は夕焼けを眺めながらポツリと呟いた。
いつの間にかパーム・トレントと和気藹々としていた空朱音の言葉にパーム・トレントも笑みをこぼす。

『オレンジ色のオーシャンがとってもビューチフルネー、インプレッションなダンスィングしたくなるヨー』
パーム・トレントは夕焼け色に染まる海を眺めながら再び踊りだす。
レゲエやサンバのような激しい踊りではなく、ユラユラと揺れるフラダンスのような動きだった。
穏やかな波の音をバックミュージックに踊る姿は、芸術的で踊りに情熱をかけるパーム・トレントの魂を表すような踊りだった。
「ふふ、ほんとにダンスが好きですね」
「一日中踊っても飽きなさそうだ」
リチェルカーレは思わずパーム・トレントの踊る姿に笑みを浮かべる。
シリウスもお騒がせなパーム・トレントに振り回されて疲れたと言わんばかりだが、どこか言葉には穏やかさがあった。

「なんか、物足りねぇ気がすっけど……ま、いっか」
戦わずに済んだ事でウォルフは少し物足りなさを感じていると楓乃が声をかけてくる。
「ウォルフ、あの、私……ウォルフの、その……見ちゃって、えと……ずっと気になっちゃって」
「……しょうがねぇよ!あれも事故だろ、事故……変なトコ見せて、悪かった」
しどろもどろと謝る楓乃に思い出したウォルフが照れ臭そうに頭をボリボリ掻く。
楓乃とウォルフの距離は少しだけ戻った……かもしれない。

***
後日。
マール・デ・アモールの新名物としてデビューしたパーム・トレントとのダンススペースは大盛況だった。
元々、サーファーだった主人がサーファー向けに作っていたこともあり
若者が集うこともあってフレンドリーなパーム・トレントと踊る者が徐々に増えていったのだ。
看板娘ならぬ、看板トレントとしてマール・デ・アモールの一角を担っていくのだろう。


主人からは『アミーゴ』というアダ名で呼ばれており、常連客からも慕われている。
陽気なパーム・トレントは今日も浜辺の片隅で元気に踊り狂っている。


『皆さーん、今度はミーと一緒にダンスィングしヨーネー!』
踊るトレントはウィンクルムに感謝しつつ、一緒に踊る日を夢見ている。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木乃
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 日常
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 07月20日
出発日 07月28日 00:00
予定納品日 08月07日

参加者

会議室

  • [12]空朱音

    2014/07/27-22:51 

    うんっ
    私も、そう呼ばれると、嬉しい(笑顔で頷きつつ)
    ありがとう…リチェルカーレ姉様(嬉しそうにしつつ)


    灯火:
    ありがとう、では俺も二人の事は呼び捨てで呼ばせてもらう。
    改めて宜しくな(微笑み

  • [11]リチェルカーレ

    2014/07/27-22:44 

    はい、呼び捨てで平気ですよ。ね?(背後を振り向くと頷く精霊)
    姉様…(ぽや、と顔を赤らめ)うん、よろこんで。
    私も「朱音ちゃん」って、呼んでもいいかな?(こてり、首を傾けて)

  • [10]空朱音

    2014/07/27-22:12 

    続けてごめんなさい;

    あのね、あのね。
    二人の事は楓乃姉様とリチェルカーレ姉様ってお呼びしても、いい?(首傾げ

    出発間際で、本当にごめんなさい;

  • [9]空朱音

    2014/07/27-21:57 

    リチェルカーレとシリウスは初めまして…だな。
    …む、つい呼び捨てで呼んでしまったが、呼び捨てで呼んでしまっても構わないだろうか?人数が少ないのが割ときついと思っていたので正直入ってくれて助かる。
    宜しく頼む。

    >陣形

    陣形については了解した。
    異変があり次第そちらに迅速に合流しよう。

    こちらはまだ時間あるので23時までなら修正可能だ。
    何かあったら、宜しく。

  • [8]リチェルカーレ

    2014/07/27-21:04 

    はい、よろしくお願いします!
    私たちは左端から、ですね。わかりました。
    トレントの場合は説得…で良いんですよね?
    何かあったらインカムで連絡。うん、了解です。
    今までの依頼でインカムが通らなかったことはないので、大丈夫だと思います。

    それでは、もうすぐ出発ですけども皆さんよろしくお願いします。

  • [7]楓乃

    2014/07/27-20:40 

    リチェルカーレさん、はじめまして。
    私は楓乃と申します。こちらはパートナーのウォルフです。
    どうぞよろしくお願いいたしますね。(微笑み)

    範囲が広くて人手不足が否めなかったので、
    参加していただけてとても助かります!

    3組になったことですし、
    調査範囲を右端側担当と中央付近担当、左端担当と
    3人で分割して探すことにしましょうか。

    その場合は、どちらか端側で異変があった時に早く駆けつけていただけるよう、
    素早そうなトモシビさんを中央に配置し、
    右側を私たち、左側をリチェルカーレさんという陣形にするのはいかがでしょうか。

    お互いの範囲内を調査し、異変があったら報告。
    その後、すぐに合流という流れですね。

    あ、リチェルカーレさんは過去にトレントさんとお会いしたことがあるんですね!
    説得できたということで、とてもほっとしました。
    うまく説得できるかが不安だったので…(汗)

    では、時間も迫ってきているので、
    いったんこれまで話合った内容でプラン提出してきます。
    そしてまた話し合いで変わったことはプラン修正をして直していきます。

    皆さん、改めましてどうぞよろしくお願いいたします。

  • [6]空朱音

    2014/07/27-12:32 

    ふむ、では改めて楓乃、ウォルフ。
    宜しく頼む(微笑み


    >インカム
    あぁ、念のためにしておいた方がいいかもしれん。
    申請が通った方が個人的にもいいんだがな…手がふさがるのは実は結構痛い。
    もし携帯を持つとしたら片手がふさがるから…強いて言えば精霊より神人が連絡役として居た方がいいかもしれん。

    という事くらいか。


    俺も大体の流れはそれでいいと思う
    オーガが出て来た場合、俺もできるだけ足止めする事に力を注ぐとしよう

    スキルはないから物理的に攻撃して地面に縫いとめられれば重畳と言ったところか。
    何、命中率だけ何故か異様に高いから、狙いを外しはしないだろう


    と。特に異論を唱える部分もなかったので、こんなところだろうか?

  • [5]リチェルカーレ

    2014/07/27-12:23 

    滑り込みで失礼します。
    はじめまして、リチェルカーレといいます。
    パートナーはマキナのテンペストダンサー、シリウスです。
    よろしくお願いします、ね。

    ここまでの流れ、見させていただきました。
    音楽に反応するトレントさん…つい踊り出しちゃって車壊してしまったんでしょうか?
    別の依頼でトレントに会ったことがありますが、話もわかってもらえましたし。
    オーガでないのなら、私も説得したいなと思います。

    ええと、パームロードの端から音楽流しながら探すんですよね?
    私たちもどちらかの組に入れて頂いていいでしょうか?

  • [4]楓乃

    2014/07/27-07:52 

    はいっ!呼び捨てで呼んでくださいませ。

    >インカム
    そうですね…。大抵の依頼で申請は通っているみたいですが…。
    本部にラジカセと一緒に申請を出してみて、
    もし難しそうであれば、自分たちの携帯で連絡を取り合いましょう。

    それでは流れを整理しますと…。

    本部でラジカセとインカムを申請(念のため携帯電話も保持)
     ↓
    2組に分かれて、パーム・ロードの端と端に。
    それぞれ中央に向かって、順々にラジカセでクラブミュージックを大音量で流していく。
     ↓
    異変が起きた場合、すぐにパートナーとトランス。
    神人が携帯で異変の起きた場所を伝え、精霊は警戒態勢。
     ↓
    オーガが出てきた場合→もう一組と合流するまでオーガを足止め。合流後に一斉攻撃。
    オーガ意外の生き物だった場合→もう一組と合流するまでどこかに行ってしまわないように音楽で気を引いて足止めをする。
    合流後、生き物に別の場所に移動してもらえないかを説得。難しい場合はやむなく退治。

    こんな感じかしら?(首かしげ)
    かなり文字もじしくなってしまったわね…(汗)

    どこか修正する場所や足りない場所がありましたら
    ご指摘いただけると嬉しいです。

  • [3]空朱音

    2014/07/26-14:25 

    鴇色:

    ああ、そう呼んでくれて構わない。
    こちらこそ、宜しく頼む
    俺は…ふむ。
    いつも呼び捨てに慣れてしまっているので…。
    貴殿等を呼び捨てで呼んでしまっても構わんだろうか?

    >襲われる原因
    だな。
    とりあえずは今提示されてる一番可能性がありそうな物で…。
    音量という線もありそうな気もするが…さて、どうしたものか。

    連絡手段は欲しいところではあるな。
    インカムか…もしくは携帯か。
    使いやすさならインカムだが…申請して通るかどうか、か。

    (PL:コンビニで買える物はいいって書いてますが…インカムは普通に申請通ってるエピ多いですし…とちょっとだけ心配なPLの呟き)


    >退治するかどうか

    …確かに。
    説得できるかにもよるな。
    調査して、なんで襲ってきたかが判らなければ判断できない部分でもあるが…。
    どうしても判りあえないならやはり退治せざるを得ないだろうな。

    …そうだな…。
    人数が、もう少し増えてくれると、俺も嬉しいんだが…。
    時間はもう少しあるし、気長に増えるのを待とうか。

    【PLより】
    すみません;これから背後の方が夜勤があるので明日まで書き込みができないです;
    時間がないのに本当に申し訳ありませんー;

  • [2]楓乃

    2014/07/26-08:53 

    失礼いたします。
    調査の依頼に参加させていただくことになりました楓乃(カノン)と申します。
    こちらは、パートナーのウォルフです。

    アキアカネさん、トモシビさん。と呼ばせていただいていいかしら?
    どうぞよろしくお願いいたします。

    今回の調査はとても不思議な依頼ですね。
    謎な部分が多いので、色々整理をしてみる必要がありそうです。

    >襲われる原因
    依頼者は大音量で音楽を流していたのが原因でないか。との事ですが、
    それだけが原因なのかがわからないですねー…。(首をかしげ)

    襲われた方はクラブ音楽を流していたとの事だったので、音楽の種類も関係があるのか。実は車の色に原因があったのか、カップルの方が襲われているのでカップルだったことが原因なのかとか…。

    まぁ、現場がパシオン・シーで、日々カップルの車はたくさん通りそうですし、
    後者は関係ないと思いますが。

    うーん。けれど原因を考え出すとキリがなさそうなので、
    トモシビさんのおっしゃるように、一番可能性のある「広い範囲で音楽を流してみる」という案で進めてみましょう!
    後、離れて行動することになりそうなので、インカムがあるとよさそうですね。

    >退治するかどうか
    私も調査次第では、退治する必要も出てくると思っています。
    本当にオーガだったとしたらいつ他の方も襲われるかわかりませんし。

    解説によるとヤシの木に酷似したパームトレントという生き物もいるそうですね。
    もしパームトレントだった場合は、退治する必要はないと思っています。
    ただ、オーガと間違えて怯える人が多いと思うので、
    もっと人の少ない別の場所に行ってくれるよう説得できるといいんですが…。

    説得…。で、できるのかしら…。(汗)


    とりあえず出発日までまだちょっと時間がありますし、
    もう少し人が集まるのをまってみましょうか。
    また別の案も生まれてくるかも知れません。

  • [1]空朱音

    2014/07/23-12:48 

    ふむ、まだ俺だけか。
    失礼する。
    空朱音(アキアカネ)とパートナーの鴇色灯火だ。
    ジョブはシノビ。
    とはいえLv1でな…主に物理攻撃での応戦…となるだろうな。

    音楽を流すと襲ってくる木…なんとも面妖で面白い木があるものだな。
    これは一度姿を確認するべきか。
    どれくらい人数が集まるか判らないが、これは広い範囲で音楽を流すべきか。

    何体紛れ込んでいるか判らないからな。
    折角5台用意してくれてる事だし、一人一つずつ、音楽をかけてまわれ…ということか。

    さて、退治するかしないかは本当に分かれるだろうが…。
    その時の状況と場合により倒す。はありえるだろうな。

    …さてどうなることやら(楽しげ


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