【夏の思い出】いつもより回る、スイカ割り(叶エイジャ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ


 夏、空には白と青のコントラストが映える。
 確かに日差しは強く、暑い。しかしそんな暑さを感じないくらい楽しい事はないのか?
「そーんなアナタにミラクル・トラベル! スイカ割り大会のお知らせでーす!」

 A.R.O.Aに現れたミラクル・トラベル・カンパニーのツアーコンダクターは、元気よくツアーの説明を始めた。
 ちなみに『夏、空には~』から、声色を変えながらの語りである。
 場所はコバルトの海と極彩色の花に彩られし南国、パシオン・シー。
「参加条件はウィンクルムにもぴったり、ペア参加! 一人が海に浮かべられたスイカをゲット、砂浜にセットします。パートナーはセットと同時にスイカ割りをスタート、スイカが割れるまでのタイムを競います! ただし!」
 ツアーコンダクターは傍らに置いてあった、台座のような装置を指さす。
「スイカを取りに行く方も、割る方も、この台座の上で目を回してもらいます!」
 ……どうもこの装置、乗った後でボタンを押すと、凄まじい回転をするようだ。
「低速、中速、高速、一線越え。回転力が激しいほどポイントが加算され、タイムによるポイントと合算されます。もちろんタイムが速いのはいいことです……が!」
 この大会のメインは競争ではなく、ふらふらしつつ行うスイカ割りを、みんなで楽しむことだ。
「というわけで、見ている人も暑さを忘れるくらい、回転して楽しんで下さいね!」
 そう言ってコンダクターは「中速」のボタンを押した。
 大きな音が生まれたのはその時だった。瞬間的に巻き起こった風が、A.R.O.Aの建屋内で渦を巻く。あまりの回転速度に、微小規模の竜巻が起きたのだ。

 ちなみにこの大会、回転はそれぞれのパートナーが選んで押すそうだ。
「神人の皆さん、精霊って身体能力が高いですよね。いっそのこと、限界を試してみるのも面白いかもしれませんよ?」
 『待て待て待て待て』と見ていた精霊から声が上がるが、コンダクターは今度はそちらへ笑顔を向ける。
「精霊の皆さんも、ちょっとした悪戯くらい大目に見てもらえますって――後で介抱してあげる口実にもなりますし」
 前半の内容にSっ気な笑顔を見せる精霊や、後半の小声に――ばっちり全員に聞こえたのだが――頬を赤らめる神人もいる。
「最後はみなさんが割ったスイカを食べますよ~。というわけで……ツアーにご参加される方、いらっしゃいますか?」

解説

●ツアー参加費について
400Jr

●目的
楽しい一日をどうぞ!

●大会概要
それぞれのペアで、海に置かれたスイカを取りに行くA、スイカを割るBに分かれます。
まずはBになった人が、台座に乗ったAに回転を加えます。
Aはそのまま海にダッシュ、岸から十メートルほどの場所で浮かせているスイカを取り、指定された場所まで戻ってスイカを置きます。
それからAは、台座に乗ったBに回転を加えます。
Bになった方、スイカ割りをお願いします(目隠しは自由。あると観客の好感度アップ)。

●時間帯
開始は午後、すべて終わった頃には夕刻ぐらい。

●必要
水着か、それに準ずるもの(明記なくとも着用していることになります)

ゲームマスターより

プロローグ閲覧、ありがとうございます。
初めまして、叶エイジャと申します。

大会進行は、コメディっぽい雰囲気になるかもです。
いろいろ書いてますが、要はフラフラになって競技に挑む所を面白おかしく楽しんでいただければ!
二人で協力する普通のスイカ割りです。ただちょっと回転が激しいだけで……
回転装置は目を回すためのものです。
パートナーが頑張っている間、もう片方は応援タイムか、目を回してそう?

Aの方が若干体力を必要かと思われます。
なので、Aを精霊と推定していますが、反対でも構いません。
お客様同士の話し合い次第では、神人タッグVS精霊タッグもありかと。
最後はスイカを食べて終わり。
相手がまだふらつくようなら、介抱が必要ですね!

今回、初エピソードのため傾向が掴みにくいかもしれませんが、
それでは皆様のプラン、お待ちしています。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

月野 輝(アルベルト)

  スイカ割りって初めてするわ、楽しそうね
上手に割れるといいな

スイカ取りに行くのはアルにやって貰おうかしら
私、割ってみたいんだもの

■水着
ブルーのモノキニタイプ
ちょっと背中が開いてるけど、デザイン気に入ってるの

■回転
今「中速」で竜巻起きなかった!?
でも回転速い方が高得点なのよね…
アルなら、これくらい大丈夫よね?頑張って(にっこり笑顔で「高速」を押す

……ひょっとして私、まずいスイッチ押しちゃったかも

■B担当
目隠し装着
えっと、アル?さっきはごめんなさい
だから……や、やっぱりそうくるわよねっ
後の事を考えなかった私が馬鹿だったわ
回りすぎて気持ち悪い…

何だか意識がぼんやり
アルの手冷たくて気持ちいい
何だか安心…



リゼット(アンリ)
  勝負事で負けは許されないわよ
勝てなかったらいつものアレよ。わかってるわね?

これだけのギャラリーがいるんだから
やっぱり楽しんでもらう必要があるわね。ふふふ…
さあアンリ!取ってらっしゃい!(一線越えボタンぽち)

ちょっとアンリ!こっちに戻ってきてどうするの!
スイカは海のほうでしょう!さっさと行きなさいよ!

よくやったわアンリ
あとは私に任せなさい!
方向はバッチリ。目隠しもして…よし、完璧よ!
ここは低速で確実に叩くわよ…って!それじゃない!
このバカ犬ぅーっ!

…回された後どうなったのか、さっぱり覚えてないんだけど…
とりあえず退いてくれない…?
うーん…まぁいいわ…もう一休みしてから帰りましょ…
うぅ…気持ち悪い


手屋 笹(カガヤ・アクショア)
  わたくし山の出身なので海は初めてなんですよね…。
このような蒼一色の景色、見た事がありません…。

スイカ割りは分かりました!
柔術で鍛えた…と言ってもあまり頼りになりませんけど…折角担うからには果たして見せます!

カガヤも泳ぎに行く前に回るのですよね?
少し頑張って頂きましょうか…「高速」のボタンをぽちっと。

スイカ割りの前の回転…覚悟しましょう…。
あると楽しいという事で目隠しを渡されたので付けましょう。
ふらふらします…が、カガヤの声に合わせてスイカへ向かって割ります!真っ直ぐに向かいたいけど難しいです…

水着:ワンピース水着の上にTシャツとショートパンツの水着を更に着ています。
髪型はシニヨンにしています。


エメリ(イヴァン)
  スイカ割り!楽しそう
…えっと、イヴァンくんもしかしなくても機嫌悪い?

でもなんだかんだいってイヴァンくんて優しいよね
結局帰らないでいてくれたし

私はBをやるね
スイッチは一線越え!と言いたい所だけど低速にするね
私がだったら構わないけど無茶を押し付けるのも悪いし

スイカ取りの間は応援しておくね
ふらふらしてるの可愛いなって思うけど
口に出したら絶対冷たい目で見られるから黙っておくよ

戻ってきたら私の番!目隠しで頑張るよ
ボタンはお任せしようかな、ちょっとどきどき

うーわー、今私生きてる?生きてるよね?
今どっち向いてるのかもさっぱり…
イヴァンくーん、スイカはどこー?

うう、まだふらふらするー…
でもスイカは食べたい…



水田 茉莉花(八月一日 智)
  …これ、絶対スイカに釣られたわよね、あのチビ!
っと、人前ではほづみさん、ほづみさん
水着は…スポーツタイプのビキニ着て参加するわね

神人が割る係だわよね
え?ほづみさんが割るの?!
回数稼げってんならあたしも腹はくくるわ
何回も行ってやる

溺れないように気をつけるけど
あれ?スイカどこー?

スイカ取った後は、ほづみさんを台に乗っけて
中級でGO!
ほづみさんが目を回してひっくり返ってたら
彼の脇の下に自分の両腕通して
膝で肩甲骨の真ん中押して気付けしてやるんだから
「いっぱい喰いたい」って言ってましたよね~ほづみさん
後はポイッとスイカの方へ投げるわ

ケンカは…売られたら即買うわよ
怪我をしてたら…手当してやらなくもないけど



●大会開始前
 手屋・笹の前に広がるのは、青い世界だった。
「わたくし、山の出身なので海は初めてなんですよね……」
 どこまでも広がる蒼穹と、水平線。空には白い雲が輝いていて、波の音に混じって海鳥の声が聞こえる。笹の黒瞳はそれらを鏡のように映しこんでいた。
「このような蒼一色の景色、見た事がありません」
 そう言う彼女の背を、パートナーであるカガヤは見ていた。
(そっか、笹ちゃん海初めてなのか)
 笹の幸せは巫女になる事で、それが彼女の生き甲斐でもあった。全てであったかもしれない。それを山の中の小さい世界しか知らないからと、カガヤは言うつもりはないし、仮に言う者がいれば許さないだろう。
 ――何故でしょう。わたくし、とても悲しいのです……
 今でも思い返せる、妖精の森での言葉。彼女の夢は、神人となることで奪われたのだろうか。顕現せず、オーガに狙われなければ、笹は今頃夢に出てきたあの神社で神楽舞を行っていたのだろうか。目指した夢を掴み、日々を幸せに送っていたのだろうか。精霊である自分と逢うこともなく。さすがに背は伸びなかったかも、しれないけれど。
 だが現実は、笹は彼と契約せし神人であり、こうして初めての海を見ている。
 笹は心のどこかで望んだ未来を失ったと感じているかもしれない。だがそれ以上の何かを掴める可能性だって、決してゼロではないのだ。
 ――と、カガヤ・アクショアが本当にそう考えていたかは本人以外知る由もないが。
(俺達なりに、他にも楽しい事あるんだって知ってもらいたいな)
 その時笹へと向けられた彼の表情は、とても温かなものだった。
 そんな彼の視界に一瞬、長い黒髪の少女と眼鏡を掛けたマキナのウィンクルムが映る。
「スイカ割りって初めてするわ、楽しそうね」
 上手く割れるといいけれど、と月野・輝は期待を隠しきれない。
「ふむ、今年は何度目の海でしょうね」
「……アル、もしかして嫌だった?」
 海を見て呟く精霊・アルベルトに、輝は一瞬不安げな顔をした。無理して付き合わせてしまったのだろうか……?
「いえ、私も楽しんでますから構わないですが」アルベルトはいつもの涼やかな顔で応じた。「なにぶん、去年まではほとんど来なかったものですから」
「そう? ならいいのだけど」
 輝の表情が和らぐ。精霊はそんな彼女を見て――内心複雑になった。原因は輝の格好だ。
 彼女が身につけているのは青のモノキニだった。デザインを気に入り輝は着ているが、背中の露出は思いのほか大きい。それは輝の外見も合わせ大人びた印象を強めているが、自然と視線を集めてもいた。それを輝は気付いていない。
(無防備な……)
「これを着てなさい」
 アルベルトは近付いてきた出番に、パーカーを脱ぎ、輝に渡すのだった。
 大会の準備は整い、いよいよスイカが海に投入される。
「水着っつったってフツーのしかねぇんだよな」
 と、ぼやきつつも楽しげな八月一日・智を見て、水田・茉莉花は思う。
(……これ、絶対スイカに釣られたわよね、このチビ!)
「っと、人前ではほづみさん、ほづみさん」
 つい「チビ」と声に出しかけ、慌てて口元を押さえる茉莉花。スポーツビキニを着た茉莉花と、トランクスを履いた智は順番を待つ。
 ずらりと並ぶスイカに目を輝かせているのは、智だけではない。
「スイカ割り! 楽しそう」
「また海ですか……」
 先日ゴールドビーチに行ったばかりのせいか、はしゃぐエメリに比べてイヴァンの声は硬い。
「……えっと、イヴァンくんもしかしなくても機嫌悪い?」
 精霊は、冷めた目でエメリを見返した。
「いえ、別に。見たままです」
 不本意ですが、ここまできたらやるしかないでしょう、とイヴァンはストレッチを開始する。今日はちゃんと水着を持ってきたようだ。相変わらず態度は素っ気ない……でも、
(なんだかんだいってイヴァンくんて優しいよね)
 結局帰らないで、一緒にいてくれている。その事実に、エメリはイヴァンに見られないよう、こっそり微笑んだ。
 その二人の後ろを歩くウィンクルムは、大会への闘志を燃やしていた。
「勝負事で負けは許されないわよ」
 係員に『リゼット・ブロシャール、アンリ・クレティエ』と記入した用紙を渡すと、リゼットはアンリへと振り返る。紫の瞳は、今日も自信たっぷりな光があった。
「勝てなかったらいつものアレよ。わかってるわね?」
「メシ抜きだろ? わかってるって」
 準備運動をしていたアンリは、黒色の水中眼鏡を指で回し、ニッと笑う。
「俺らが負けるわけねぇだろ!」
 そして大会が、始まる――

●スイカとり、スイカわり
 いよいよ大会が始まった。参加者は約二十組で、ほとんどが人同士のペアだ。抽選で走る順番が決められ……そして前走するペアに、ウィンクルムたちは回転装置の性能を目の当たりにするのだった。
「今『中速』で竜巻起きなかった!?」
 巻き起こった風に、輝は驚き――そして考える。
(でも回転速い方が高得点なのよね……)
 そして精霊が人間である彼女よりも頑健なのは、パートナーを見て分かっている。
 なら、少しくらい強くても問題ないはずだ。きっと。
 順番がきて、装置の上に乗った精霊に輝は思案する。
「アルなら、これくらい大丈夫よね? 頑張って」
 アルベルトにとっての不幸は、この時竜巻の方に気を取られていたことだ。
 だって回転にやられて、多くのペアが死屍累々の態で運ばれていたのだから。
「凄まじいですね……って、輝?」
 にっこり笑って起動スイッチを押した神人――その指先が「高速」から離れるのを認めたくないため、彼は動揺した声を紡ぐ。
「今、何のボタンを……」
 輝の顔が悪魔へと変貌する。いや、景色全てが奇怪に歪みだしていた。そう思った時には世界の色が混ざり合い、円運動の衝撃が脳を襲っている。
「……っ」
 足を踏みしめて、その余韻をこらえる精霊。笑顔を浮かべて歩き出した彼に、よく耐えきったという声援が送られる。しかし、
「この後の事を忘れてるようですね」
 その笑顔が黒い波動を放っていることに気付いているのは、輝だけだった。
(……ひょっとして私、まずいスイッチ押しちゃったかも)
 暑さとは違う汗を、感じた。不思議なことに、危なげなく海から戻ってきたアルベルトが死刑執行人にも見えてしまう。
「えっと、アル? さっきはごめんなさい」
「どうぞ台の上に」
「うぅ……」
 有無を言わせぬ言葉に、装置に上がる輝。
「あのね、アル――」
「目隠し」
「……はい」
 あれだけワクワクしてた目隠しが、まったく違う意味(主に恐怖)でドキドキするのはなぜだろう?
 おそるおそる目隠しをした彼女に、精霊は告げた。
「本当は、低速にするつもりだったんですよ?」
「アル、お願い話を聞い……」
 中速という無慈悲な断罪は竜巻を伴っていた。
(や、やっぱりそうくるわよねっ)
 後の事を考えなかった自分を悔やんでももう遅い。足の呂律が回らない。ぐるりぐるりと襲ってくる感覚に、輝は何度も倒れそうになった。
「アルのいじわる」
「失礼ですね。これでも手加減してます」
 涼やかに笑い流すアルベルト。
 成敗完了。良い笑顔である。

「私はスイカ割りをやるね」
「では僕は調達ですね」
 イヴァンは前走のペアを見る。ちょうど観客席に混ざるところだった。両者とも派手に転んで、笑いを呼んでいた。観客席で話しかけられ、前走ペアは観客と共に笑顔を浮かべている。正直自分が醜態を笑われたとして、笑い返せる気がしなかった。そういう趣旨の祭りだから、我慢するしかないが。
 それにしても。
(スイカ割りで命の危険を感じる事になるとは思いませんでした……)
 台の上に乗り、イヴァンは緊張の息を吐く。エメリなら嬉々と『一線越え』を押す可能性があるからだ。
(せめて早くスイカを取って、終わらせよう)
 そう思い、少年は目を瞑った。
「それじゃイヴァンくん、いくよっ」
 ボタンに向かって、エメリが指を伸ばす。
(ここは一線越え!――と言いたい所だけど)
 そこでチラリと緊張しているイヴァンを見る。
(無茶を押し付けるのも悪いよね)
 回転が始まり、そして終わった時、少年はおぼつかない足取りながらも走りだしている。
「イヴァンくん頑張ってー!」
 背中にエメリと、観客の声援を受けて走る時間は思いのほか気楽だった。何より身構えてた分、加減してくれた事実に驚く。エメリが選んだのは低速だった。
(認識を改めた方がいいかな)
 イヴァンの頬が一瞬緩――みかけて、強張った。不埒な視線を感じる。
 しかも、
「イヴァンくんファイトっ」
 どうにも神人の声援と同じ場所から来てる気がする。今は考えない事にしよう――そう思い、少年は海に入っていった。
(ふふ。フラフラしてるの、なんだか可愛いっ)
 絶対に口にできない感想を抱きつつ、エメリはやがて戻ってきた精霊を迎えた。自らの番と、目隠しをつける。肩で息をする少年は、台の前で聞いた。
「ボタンはどうします?」
「お任せしようかな」と、少しどきどきしながらエメリは答えた。
「では、中速でいきます」
「うん」
 直後、凄まじい力が神人を襲った。砂へと踏み出した足は実感をつかめず何度も足踏みを行い、エメリはそのたびにバランスを崩す。
「うーわー、今私生きてる? 生きてるよね?」
 実際、今どっちを向いてるのかもさっぱりだ。「イヴァンくーん、スイカはどこー?」と聞き、言われた方向に棒を振るう。
「違います、スイカは逆側です。僕ではありません!」
「わ、ごめん!」
 慌てる声に、エメリは「反対、反対」と呟きながらスイカのあるだろう方向へ振り返る。
 イヴァンから見てその行為は、華麗に一回転を決めたようにしか見えなかった。
「今度こそ!」
「だから違いますって!」
 思い切りの良い一振りを避ける精霊と、なぜか彼を更に追い詰めるエメリの動き。ハプニングに、観客から笑いが起こった。

 そろそろ出番というとき、智が呟いた。
「おれはすいか割りやりてーなー」
「え? ほづみさんが割るの?!」
「いいだろ? おれよりでけーし、体力あんだろ」
「……っ。言ってくれるじゃない」
 途中の一言に、茉莉花の眉がつり上がった。言い返そうとしたその時、出番が来る。
「ってことで、取る係任せた」
 大丈夫、一番弱いのにするから――そう言う智に茉莉花は気持ちを切り替え、頷いた。
 回転タイミングの都合上、スイカを取りに行くのは一回のみ。但し観客が沸くパフォーマンスをすれば、スイカは複数もらえるらしい。沢山食べたがっている精霊を思えば、少しくらい頑張るのもやぶさかではない。
「ハイハイ、わかったわよ」
 あたしも腹はくくるわ――そう返した茉莉花の視界が、歪む。
(けっこう、くるのね)
 走りだした茉莉花は何度かふらつくが、それでもかなり速いペースで海へ入った。
(溺れないように気をつけないと……あれ?)
「す、スイカどこー?」
 目標を見失った茉莉花は次の瞬間、波にのまれた。
 ……。
 …………。
「おーい、生きてるかー?」
 霞みがかった茉莉花に、そんな声が投げられた。智だ。返事をしたいが、身体が全然動かない。
「ああ、仕方ねぇな。任せろ、気道確保ぐれーはしてやっからなー」
(きどう、かく、ほ……って、え?)
 聞こえた単語に、少しだけ意識が戻った。
 ――もしかして、人工呼吸!?
 茉莉花の狼狽をよそに、動けぬ身体の向きが変えられる。何者かが茉莉花の上に影を作り、近づいてくるのが分かった。やがてその人物は、茉莉花の唇に……
「!?」
 噴水のような働きをさせる。背中からの衝撃に、茉莉花はむせながら水を吐き出した。
「人口呼吸だと思った? 残念、水吐かせでしたー」
(こ、の、ドチビ!)
 なおも背中を叩いて笑う智に、茉莉花の目が据わった。
 ――いいじゃない。その喧嘩、買った!
 茉莉花は両脇に抱えていた二つのスイカ――執念で取ってきた――を転がすと、急きたてるように智を台に乗せる。無事だったことに観客から拍手が上がっていたが、茉莉花は気にもしない。
「ほづみさん、スイカ食べたいよね?」
「もち、俺はいっぱい喰いた……」
「GO!」
 完全な不意打ちでの回転。ひとしきり回った智は、頭を揺らしながらひっくり返る。
「ダメですよ~ほづみさん」
 茉莉花は笑顔のまま彼の脇の下に両腕を通すと、膝を智の肩甲骨の中線へと押し当てた。
「『いっぱい喰いたい』って言いましたよね~ほ、づ、み、さん――少しは根性見せてこい!」
 鈍い音が響いた気がするのは、おそらく空耳だろう。
気付け後、精霊をスイカにブン投げる茉莉花。彼女の豪快な行動は夏の暑さのせいか、男女問わず歓声が上がる。

「スイカ取りに行くのは俺がやるよ!」
 宣言するカガヤ。初めての海で溺れさせる訳にもいかない。
「スイカ割りは頼んだよ!」
「分かりました。担うからには果たして見せます!」
 大会の熱気にあてられてか、笹の声にも熱がこもっている。
 入念にストレッチをしたカガヤは、装置の上に立った。
「カガヤ、少し頑張って頂きましょうか」
 スタートの合図と共に回転するカガヤ。ふらつくだろうとされた彼に、ギャラリーはどよめいた。
 速い。「高速」の回転負荷を掛けられたと感じさせない機敏な動きは、身体に対する理解の深さを示している。ハーフパンツを着たカガヤがスイカをもって現れた時には、大会最速を叩きだしていた。声援が大きくなる。
 だが問題は、後半のスイカ割りだ。
(割りに行く前の回転、覚悟しましょう……)
 目隠しをする笹。装置の上で息を整えた時、スイカをセットしたカガヤが到着する。
「笹ちゃん、中速を押すよ!」
 コクリ、と頷いた笹が、次の瞬間高速回転をする。
(これは、想像以上に……!)
 なんとか立とうとするが、ふらふらは止まらない。雲の上にいるようだ。
「頑張れー、笹ちゃんー! 斜め右だ!」
「分かりました!」
 カガヤの声に合わせ、スイカ目指して進む。真っ直ぐに向かうのも難しいが、その都度カガヤに軌道を修正してもらい、着実に進んでいく。そして、
「そこだ!」
「はい!――あっ」
 ふらついた拍子に、手にした棒が落ち、地面を転がっていく。
 迷ったのは一瞬だった。「カガヤ、スイカはどこでしょうか?」と声を張り上げる。
「正面だ!」
 その声を信じて、笹は柔術でいう手刀を降ろす。
 暗闇の中の、確かな手応え。続いて聞こえたのは数多の拍手だった。

 大会も後半。ウィンクルムたちは善戦している。中でも笹・カガヤペアは暫定一位だ。これはスイカ取りの速度と安定した高回転、そして最後には手刀によるパフォーマンスが加味されている。
 しかしこの大会は、最終的にアクシデントをカバーした茉莉花・智ペア(現在六位)のように、観客向けのパフォーマンスに重きを置いている。
 リゼットの見た所、付け入る隙はそこにあった。勝ちにいくなら、ハイリスクハイリターンを狙うしかない。
 すなわち、尊い犠牲(アンリ担当)による先行逃げ切り!
「これだけのギャラリーがいるんだから、やっぱり楽しんでもらう必要があるわね。ふふふ……」
 含み笑いをするリゼット。装置の上に乗ったアンリに稲妻のような予感が走った。
(リズのあの笑いは……確実にヤられる!)
「あー、リズ」
「なぁに?」
 リゼットが柔らかに微笑む。その笑顔が怖い。
「俺、さっき結構ガッツリ昼飯くっちまったんだよなー。これけっこう回転酔いしそうだし、さ」
 アクシデント(主に口から出現)で場を白けさせたらまずいだろー。そう言う彼に、リゼットはうなずいた。
「そうね。私のデザートも食べたわね」
(あれ、これ地雷踏んだ!?)
 アンリが自らの危地を悟った時、アナウンスが流れる。
『それでは、スタートです!』
「さあアンリ、取ってらっしゃい!」
 紫の髪を揺らし、少女は躊躇なく『一線越え』のボタンを押しこんだ。
「や――」
 やっぱりそれかよ! という声は出なかった。ズン、と大砲でも発射したような音が響いた時には、回転するアンリの身体は冗談のように宙を舞っている。
 パパすごい、人って空を飛べるんだね!――思わず静まり返った会場に、興奮した子どもの声。旋転する精霊の身体は砂浜に突き立ち、一拍置いて割れんばかりの拍手と歓声が上がった。
 大変なのはアンリだ。歩き出した彼の視界は高速で回転している。進むのもままならない。
「ちょっとアンリ、こっちに戻ってきてどうするの! スイカは海のほうでしょう! さっさと行きなさい!」
 鬼だ。
 鬼が現れた。
 そしてこの容赦ない態度が観客受けしている。アンリは鬼の声に従い歩いた。
(もう、だめだ。スイカ……どこだスイカ)
 海だ。どこだ。西と右の区別はなんだった?
(持って帰らねぇと鬼……リズにボコられる)
「どうせぶっ倒れるなら、リズの平らな胸へ倒れこんでやる!」
 切羽詰まると、人はとんでもないことを口にし、生きる糧にする。三半規管をフル稼働し波間から戻った彼の手には、見事なスイカがあった。
「よくやったわアンリ。あとは私に任せなさい!」
 台に乗ったリゼットが設置場所を確認。方向よし。目隠しよし。完璧だ。
「ここは低速で確実に叩くわよ」
「後は頼んだ……ぜっ!?」
 ボタンを押そうとして、アンリはついに倒れた。
「あ、ゴメ……」
「え?」
 指が押した起動ボタンは、低速ではなかった。
 中速でも高速でもない。
「この、バカ犬ぅーっ!」
 声は遥か上空からだ。一瞬後、盛大な砂の柱が巻き起こる。
 身体を張ったペアに称賛が投げられた。特に「低速」と言って、見事周囲を騙した神人には。その神人は、目に螺旋を浮かべ倒れている。
 その手に握った、棒の先には――

●大会の終わり
 夕刻。スイカ割り大会は無事終了した。
 以下、今回参加したウィンクルムたちのその後を簡単に記す。
 第七位、茉莉花・智
「ラッキーナンバーでスイカ大量ゲットとか、さすがおれだな」
「目を回したまま足で割っただけでしょう。駄々っ子みたいでこっちが恥ずかしかったわ」
 ちなみにこの後、食べきるとか誰が持って帰るとかで、口喧嘩が起こる。
 第六位、輝・アルベルト
「回りすぎて気持ち悪い……」
「はしゃぎすぎたからですよ」
 輝はしれっと言う精霊に文句を言いたいが、ぼんやりとした意識ではそれも叶わない。アルベルトは苦笑しながら輝の額に保冷剤で冷やしたタオルを乗せた。
 その手が、捕まれる。
「アルの手、冷たくて気持ちいい」
「……私の手が、ですか?」
「うん。なんだか安心する」
 手は保冷剤で冷えただけ。だが幼くも聞こえる素直な神人の言葉に、精霊はほんの少し優しい顔つきになる。
「しばらくこのままでいましょうか」
 輝は小さくうなずいた。
 第四位、エメリ・イヴァン
「酷い目にあいました」
「あはは……ごめんね」
「いえ、こちらも悪乗りで中速にしてしまったので。申し訳ありません」
 会場から離れる彼女らに「お疲れ様!」「災難だったなぁ」「なかなか見応えがあった」と声が掛けられる。
 不思議と嫌な気には、ならなかった。
「うう、まだふらふらするー」
「少し休みますか?」
「うん……でもスイカは食べたい」
 そう言ったエメリの前で、少年はほんの微かに、苦笑した。
「今はゆっくり休んでください。スイカは逃げませんから」
 第二位、笹・カガヤ
「海って、夕方には赤一色になるのですね」
 オレンジに染まる景色を、笹はじっと見つめている。
「笹ちゃん、どうだった? 初めての海と、スイカ割り」
 カガヤのその問いに、笹は――
 第一位、リゼット・アンリ
 リゼットはなぜ自分が倒れているのか、全く分からない。
「奇遇だな。俺もさっぱりだ」
「そう……とりあえず退いてくれない?」
 リゼットの胸の上にアンリの後頭部があった。なんでだ。
 いつもなら即刻叱るとこだが、今は怒る気力もない。まだくらくらする。
「うぅ、気持ち悪い」
「んー気持ちいい」
 予想よりも主張する、慎ましやかな起伏に、精霊はそんな声を出した。
 どつかれた。

 目の回る、一日だった。



依頼結果:成功
MVP
名前:リゼット
呼び名:リズ
  名前:アンリ
呼び名:アンリ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 叶エイジャ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月16日
出発日 07月24日 00:00
予定納品日 08月03日

参加者

会議室

  • [5]リゼット

    2014/07/21-19:53 

    リゼットよ。連れのアンリと一緒に参加するわね。
    初めての人もお久しぶりの人も一緒に楽しみましょ。

    観客が何を求めているか、私はわかっているつもりよ。
    覚悟を決めてもらいましょう。

  • [4]エメリ

    2014/07/21-17:50 

    はじめまして、エメリです。
    皆さん、今回はよろしくね。

    スイカ割り面白そうだよね、今から楽しみ!
    目が回りそうだけど頑張らなくちゃ。
    イヴァンくんはどっちもイヤがりそうだけどなんとかなるといいな。

  • [3]手屋 笹

    2014/07/21-17:17 

    手屋 笹と申します、よろしくお願いします。

    茉莉花さんと、エメリさんは初めましてでしょうか。
    リゼットさんと輝さんはお久しぶりです。
    今回もよろしくお願いしますね。

    わたくしも海に来る機会が無かったので今回楽しんで行きたいと思います。
    それにしてもスイカ割り…回るのも、泳ぐのもそれぞれ大変そう…
    どう分担しましょうか…

  • [2]水田 茉莉花

    2014/07/20-00:34 

    ・・・どうも、はじめまして。水田茉莉花です。呼び方は『まりか』で、いいですから。
    ついこの間ここに来たばかりなんだけど、宜しくおねがいします。

    ってか、精霊のチビ・・・じゃなかった、
    マキナのほづみさんのお得センサーが働いて、あたしが連れてこられたんだと思うわ。
    数多くスイカを割る方向に行く感じかしら?

    とにかく、みんな楽しんでいこうね。よろしくお願いします♪

  • [1]月野 輝

    2014/07/19-11:25 

    こんにちは。
    茉莉花さん達には初めまして、笹さん達はお久しぶりです。
    私は月野輝、パートナーはアルベルトです。
    今回は宜しくお願いしますね。

    私、スイカ割りって初めてなの。
    私達は今のところAをアルが、Bを私が担当する予定なのだけど、
    出発日までまだ少しあるし、もうちょっと考えるつもり。
    楽しい一日になるといいわね。


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