【夏の思い出】カレーは飲めるが食べ物です(青ネコ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 ミラクル・トラベル・カンパニーのとある支部の企画課の昼休み。先輩社員と後輩社員で、ごく平和な会話が交わされていた。
「昨日店で食べたカレーがさぁ、全然辛さ足りなくてよぉ」
「先輩辛いの好きですもんね。まぁオレは辛さよりスパイスの配分が気になりますけど」
「アホか、ファミレスのカレーにそこまで求めんな」
 皆大好きカレーライス、人それぞれに拘りのあるカレーライス、旅先とかでメニュー見て困った時にとりあえずこれ頼んどけばそこまで外れないだろうで選ばれるカレーライス。
 平和な昼休みを彩るカレー談義。
 これが後のカレー戦争の引き金になることを、まだ誰も知らない。
「夏はやっぱ辛いもん食って汗かいてビールだろ、スパイスの配分とかどうでもいいわ」
「いやいや、その辛さもスパイスの配分で決まるし、味わいの深さも決まるし」
「あ、そういう面倒臭いのどうでもいい。辛けりゃいい」
「……だから、辛さも結局はスパイスで」
「だからぁ、香りとか味わいとかどうでもいいんだよ! いかに辛いかだろカレーは!」
「違いますよ! 香りと味わい重要! 辛さだけじゃないんですよカレーは!」
「はぁ?! 辛さだろ重要なのは!!」
「香りと味わいですよ!!」
 さっきまでの和やかさは何処へやら。
 対立する二人の男性社員に、新人の女性社員が「お、お二人とも、お茶でも飲みませんか?」と気を遣う。
 しかし、それは藪蛇だった。
 ギッと二人同時に新人を振り返ると、矢継ぎ早に問いただす。
「どう思うよ?! やっぱ辛さだよな?!」
「辛さよりスパイスによる香りと味わいだよな?! 正直に言え!」
「お前プレッシャー与えんなよ!」
「それは先輩でしょう?!」
「こいつは気にすんな! 辛さだよな? 辛さって言え!!」
「違うよな? スパイスこそ! 香りと味わいこそ!!」
 迫り来る二人に、涙目になりながらも新人は叫ぶ。
「わ、私は辛さよりスパイスより野菜ごろごろなのがいいですぅ!!」
 第三勢力誕生。具が大事。
「いや、それはお前……なんか違うだろ」
「そこじゃないだろカレーの重要さは」
「な、何でですか! 具は重要でしょう?! 具によってカレー頼むか頼まないか決めるんですよ私は!!」
 否定された新人が噛み付く。しかし二人は取り合わない。そこへ。
 バンッ!!
 強く机を叩きつけて立ち上がったのは、姐さんと皆から頼られ恐れられる女性社員。
「……スープカレーこそ、至高」
 第四勢力、スープカレーの名産地である北方出身者。
 訪れる沈黙。睨み合う四人。全員が自分の意見こそがカレーの常識であり正義であると信じて疑わない。
 その空気を壊すように部屋へ入ってきたのは、この企画課の課長。
「あー食った食った、やっぱ向かいの店の麻婆カレーは最高だな」
「邪道です!!」
 四人が一斉に切れた。
「あ゛ぁ?!」
 課長も切れた。

 こうしてカレー戦争は幕を開けた。
 もしも彼らが普通の会社の社員だったら、きっと戦争までは発展しなかっただろう。
 しかし、彼らはミラクル・トラベル・カンパニーの社員だった。よりにもよって、気軽なデートからお金をかけたゴージャスツアーまで、欲望願望入り混じった大抵の企画は実行できてしまう、ミラクル・トラベル・カンパニーの企画課所属の社員だったのだ。
 そして、ミラクル・トラベル・カンパニーと提携しているところと言えば……。

「はい、どうもこんにちはー! 毎度おなじみミラクル・トラベル・カンパニーです!!」
 とあるA.R.O.A.支部。
 入り口のドアを勢いよく開けて入ってきたミラクル・トラベル・カンパニーの社員は、よほど急いでいるのか、ポスターやツアー簡易パンフレットをA.R.O.A.職員に渡し「夏だ! 海だ! カレーだ!! という内容ですすみませんそれ掲示と配布お願いします! 今日中に他も回らないといけないんで!」と早口で言って出て行った。
 残されたのは、ぽかんとしているA.R.O.A.職員と、ポスターと簡易パンフレット。
「……カレー?」
 A.R.O.A.職員はポツリと呟いて、渡されたポスターと簡易パンフレットに目を落とした。


『夏だ! 海だ! カレーだ!!
 究極のカレー決定戦 夏のカレー祭り!! inパシオン・シー

 ●暑い季節に食べたくなる、海の家の定番メニュー『カレーライス』
  色々なお店の極上カレーを取り揃えました!
  ゴールドビーチに来たならば、カレー祭りへ参加しよう!! 

 ●メニューはこちら!
  1、辛さが一番!『HOTカレー』
    やっぱりカレーは辛さでしょう! 激辛カレーをお試しあれ!!
    特製スパイスで更に辛さを倍増出来ます!
  2、絶妙なスパイス配分!『香るスパイシーカレー』
    カレーとは何か? それはスパイス!
    食欲をそそる独特の香り、口に入れれば豊かな味わい、これで完璧!
  3、具がたっぷり!『ごろごろ野菜カレー』
    具が大きい! 夏野菜をたっぷり使用した野菜カレー!
    トマト、アスパラ、ズッキーニ、ナスetc 野菜を存分に楽しめる一品!
  4、海と南国のコラボ!『海鮮スープカレー』
    濃厚な海老味をベースにココナッツの甘みも加えました!
    海老を丸々二匹に大きいホタテ! サラサラスープカレーを召し上がれ!
  5、カレーは何にでも合う?!『特製麻婆カレー』
    麻婆豆腐とカレーが恋をした!!
    異なる辛さと味わいが混ざった時、あなたは新しい世界を知る・・・!

 ●一番美味しい究極のカレーはどれ?!
  カレーを食べたら人気投票に参加しよう!
  あなたの一票が究極のカレーを決める・・・?!
 ●一位のカレーを予想しよう!!
  人気投票に参加された方は、一位予想にも参加しよう!
  見事正解された方の中から抽選で1名様を『カレー大使』に任命!!
 ●カレー大使とは?!
  任務その1、任命式の時にステージ上で「カレー大好き!!」と叫んで下さい!
  任務その2、この夏、カレーの魅力を色々な人に伝えて下さい(特に一位のカレー!)
  特典その1、今祭りでの飲み物代がタダに! さらにフルーツどっさりかき氷付き!
  特典その2、一位を獲得したお店のカレーをこの夏いつでも食べ放題!
  ☆任命式では写真も撮るよ! スマイル忘れずに!!

 料金:フリーパスチケット(全カレー食べ放題)300Jr
 会場:ゴールドビーチ内催事エリア
 主催:ミラクル・トラベル・カンパニー』

解説

カレーはどれも半人前位なので、よほど小食でない限りは複数食べられます。
プランに食べたいカレーの数字を記入してください。複数でも構いません。
全部食べたい場合は『全』という字を記入してください。
投票するカレーの数字、一位予想のカレーの数字も記入してください。
(例 …… 食:全、投:1、予:1)
飲み物も売ってるようです
・ビール 35Jr
・チューハイ 30Jr
・ラムネ 25Jr
・コーラ 25Jr
・オレンジジュース 25Jr
・ウーロン茶 25Jr
冷えた水はただで飲めます。

神人と精霊、それぞれ投票・予想できます。
皆さんの投票で一位を決めさせていただきます。
予想が当たった方が複数いたら、こちらでくじを行いカレー大使を決定します。
カレー大使に拒否権はありません。拒否権はありません!!

ちなみに、海水浴場なので皆さん水着です。もしくは濡れても構わない格好です。
どんな格好をしているのかもプランに書いてください。
特に記載が無い場合はこちらで似合いそうなものを決めさせていただきます。


ゲームマスターより

暑い夏、綺麗な海で美味しいカレーを仲良く食べてください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)

  相棒が俄然ヤルキだ(苦笑
俺?まあ…嫌いじゃないな

『全』部少しずつ食べたい
なので、俺は別皿を用意して貰い半分ずつ食べるのを提案だ
これなら全種類楽しめるし食べすぎにもならないだろ?

舌が狂うと困るので、海鮮、野菜、麻婆、スパイス、HOTの順に頼む
どれが一番美味いかな(もぐ

飲み物は要らないよ
水で十分
それも美味しいカレーなら本来は不必要な物さ
次の味に移る時に口を濯ぐために飲む程度、かな

食通?
いや常識でしょ

俺の好みはスパイスカレーだ
複雑な旨みと辛さが記憶に残る

ランスが推すカレーの味は記憶しておこう
俺はグリーンカレーも好きだ
マトンの塊がゴロゴロ入ったカレーも良いな
わかったわかった、順番に作ってやるから(苦笑



柊崎 直香(ゼク=ファル)
  食:2・4・5、投:5、予:5
野菜カレー避けたのは
口に出すのも恐ろしい魔の食材を回避するためだよ
あとラムネ注文する。ビー玉あるかな

今日の装いは白の浴衣
カレー食べるときに超慎重になる白です勝負服ってやつです
まあ汚れたら脱ぐよ。残念ながら水着は着てる

HOTカレーも除けてるのは
僕辛すぎるのは食べられないんだ
他のカレーもご飯と程よく絡めつつもぐもぐ
カレー“ライス”なんだからご飯との相性も重要だと思う
その点カレー+麻婆はご飯との夫婦仲ばっちりなんだから
最高だと思うよ。グループ交際の成功例……
あ、麻婆とカレーが恋仲ならご飯は二股?
複雑な味の三角関係やー。まあいいや

しかし社員さん、戦後の職場の空気大丈夫なの


天原 秋乃(イチカ・ククル)
  食:全、投:2、予:2

◆服装
水着+Tシャツ

◆行動
いざ食べようとしたら、イチカが何か言ってる。
「……イチカ、お前暑さで頭やられたんじゃねえの?……大丈夫か?」
夏の暑さで頭おかしくなるやつって本当にいたんだな…。いや、元からか…。

しかし、どのカレーも美味しくて甲乙つけがたいな…。
カレーなんてどれも一緒だろうと思っていたが、意外と奥深いな…。

投票先はいろいろ凝ってそうなスパイスカレーにして、予想先は…カレー大使とやらになる気はないからテキトーでいいか。

◆カレー大使に任命された場合
…正直めんどうなんだが、やれと言われたらやるしか…ない…!
任務は嫌々ながらもきちんと遂行。任命式の写真の笑顔はぎこちない。



■カレーは何もかも(ただしピーマン除く)受け入れます
 暑い夏の日、目に涼しい装いをしているのは『柊崎 直香』だ。
 花柄模様をあしらった白の浴衣は、直香の華奢な身体を可憐に見せる。
 ただし男である。
 そして此処はカレー祭の会場である。
「あえての白です。カレー食べるときに超慎重になる白です、勝負服ってやつです」
「どんな勝負だ」
 意味不明な事を言い出すパートナーにツッコミを入れたのは『ゼク=ファル』。
 こちらはラフな格好で、特に勝負服というわけではない。というか、カレーを食べるのに勝負するな。
「さーてさて、何食べよう。ゼクは全種食べるの?」
「世のカレーがどんなものか気になるからな」
 自身も料理をするゼクは、心なしかわくわくそわそわしているように見えなくも無い。
 直香は「カレー食べて興奮する変態にならないでね」とからかいながらカレー屋台へと向かった。

「ゼクが作るのに近いよね」
 もっもっ、と食べながら直香が言う。
「本当はスパイス、野菜、どちらにもこだわりたい」
 もっもっ、と食べながらゼクが言う。
「却下。特に野菜却下」
「……おい」
 二人はスパイシーカレーを食べていた。
 ゼクは全種類制覇する予定だが、直香は辛すぎるのが食べられない、口に出すのも恐ろしい魔の食材(またの名をピーマン)が入っているかもしれない、という理由から1と3を選べない。
「野菜っつーかピーマン食え。好き嫌いするな」
「せっかくのお祭りに不適切な単語を聞いた気がする」
「ピーマン農家に謝れ」
 ちなみに、野菜カレーにピーマンは入っていなかった。
「カレー“ライス”なんだからご飯との相性も重要だと思う」
 直香は新たなカレー、麻婆カレーを手に取っていた。
 スプーンでカレーとご飯を程よく絡め、ぱくりと一口。
「その点カレー+麻婆はご飯との夫婦仲ばっちりなんだから、最高だと思うよ。グループ交際の成功例……あ、麻婆とカレーが恋仲ならご飯は二股?」
「何だその泥沼」
「愛しているのは勿論貴方(ご飯)よ? でも彼(麻婆)の刺激が私(カレー)を(味覚的に)満たしてくれるの……!」
「やめろ、食事に昼メロを持ち込むな」
「複雑な味の三角関係やー」
「食う気が失せるぞ、そんな修羅場」
 アホな会話を交わしながらも、二人はもぐもぐカレーを食べ続ける。堪能し続ける。
 鮮やかな夏の青空の下、焼ける肌に髪を揺らす潮風。
 辛さが残る口と喉に、直香はしゅわりと冷たいラムネを、ゼクはキンと冷えた水を流し込めば。
「はー、しあわせー」
 食欲は失せるどころか、まだまだ止まらない。


■(悲しい目で)見つめてないでカレーを食べて!
 ハーフパンツ水着にTシャツの『天原 秋乃』と、同じくハーフパンツ水着にパーカーの『イチカ・ククル』。
 いかにも夏の海という格好の二人は、カレー祭りの全メニューを制覇しようと屋台に並ぶ。
 まずはスープカレー。やはりこの南国の海にいるからには、海の幸を味わいたい。
「秋乃秋乃! アーンして、アーン!」
 味わいたいのだが、何だか隣に可哀想な人が笑顔で声をかけてくる。
「……イチカ、お前暑さで頭やられたんじゃねえの? ……大丈夫か?」
 眉根を寄せ、心の底からの感想を述べれば、笑顔がそのままビシリと綺麗に固まる。
「……うん、秋乃がそういう反応するって僕ちゃんとわかってたよ。ただ言ってみたかっただけなんだ……」
 ギギッと音が出そうなほどゆっくり首を横に回してぼやけば、そのぼやきすらしっかり聞き取っていた秋乃が、更に眉間のしわを深くする。
「夏の暑さで頭おかしくなるやつって本当にいたんだな……いや、元からか……」
 カレー祭より病院か。でも元からだから……やっぱり病院か。どうしよう、いい病院知らないから探さないと。
「……ごめん、お願い、悲しくなるからそんな目でみないで」
 キラリ、その目尻に光るものが浮き出ていたような気がするのは気のせいか。とりあえずスープカレー美味い。海老味濃厚。

「しかし、どのカレーも美味しくて甲乙つけがたいな……カレーなんてどれも一緒だろうと思っていたが、意外と奥深いな……」
 スープカレーに続いて野菜カレーとスパイスカレーを制覇した二人は、今は麻婆カレーの屋台へ並ぶ。
「確かに、カレーはどれも美味しいね。僕としては『焼きカレー』も好きなんだけど、今回はないんだよね。残念だなあ」
「へー、焼きカレーってどんなの?」
 本当にどんなものか知らなくて、でも気になったから素直に訊いてみる。
 それだけの行為がイチカにはとても嬉しいものだった。
「カレーにチーズと卵をかけてオーブンで焼くんだ。卵は人によって乗せなかったりするけど、でも乗せた方が僕は好きかな。で、よく言われるのがカレードリアとどう違うのかって事でね……!」
 カレーの香り漂う場所で、さらに此処には無いカレーの話で盛り上がる。
 もうすぐ新たに麻婆カレーが口へと運ぶ。
 そうしたらまた、二人でカレーの話題で盛り上がるのだ。


■二人(の周りは人だらけ)の世界において、カレーは小道具
『アキ・セイジ』は苦笑する。自分の相棒がやる気具合に。
「カレーは大好物だぜ! とくに肉! 牛肉の塊がドーンと入ってる奴が良いな!」
 ひゃっほーと掛け声でも上げそうなテンションで『ヴェルトール・ランス』はカレー祭の会場を見渡している。
「セイジは?」
「俺? まあ……嫌いじゃないな」
 普通だよ。と冷静に言う。
 それが嘘だと、少なくともランスがそう判断するまで、あと十分。

「全部少しずつ食べたいな。別皿を用意して貰い半分ずつ食べるのはどうだ? これなら全種類楽しめるし食べすぎにもならないだろ?」
 一つのものを二人で分け合うなんて、いかにも恋人同士みたいじゃないか。
 ランスはそう思ってニヤニヤしながら「それいいな!」と答えた。
「じゃあとりあえず近くのこの屋台から……」
「いや、舌が狂うと困るから、海鮮、野菜、麻婆、スパイス、HOTの順で行こう。どれが一番美味いかちゃんと判断しなくちゃな」
 うん、真面目だ。だけどそんなところもいい。
 ランスはそう思って笑顔で「わかった!」と答えた。
「そしたら飲み物はあっちに売ってるから……」
「いや、飲み物は要らないよ、水で十分。それも美味しいカレーなら本来は不必要な物さ
次の味に移る時に口を濯ぐために飲む程度、かな」
 うん? うん、まぁセイジがそう言うならそうなのか、な?
 ランスはそう思いながらも何だかさっきから微妙に思っていた事を口にする。
「……セイジは結構食通だったりする?」
 この端々に出てくるこだわり。恐らく間違いない。そう思ったが。
「食通? いや常識でしょ」
 何を言ってるんだランス、ははは。と軽く返される。
 しかしランスは今度は信じられない。例え愛するセイジの発言でも。
 だって明らかに『嫌いじゃない』とか『普通だよ』とかいうレベルじゃない。
 ―――こいつ、絶対食通、もしくは物凄いカレー好きだ……!
 ぴしゃーん! と雷でも落ちたようにランスは確信する。
 確信するが。
 だから何だというのか。カレー好きでも何も問題はない。むしろ俺も好きなのでウェルカムです。
 というわけで。
「ほら、セイジ、あーん」
 一つ目のカレーはスープの出汁から具材にスパイスまで全て知り尽くそうと夢中になって味わっていたセイジ。それを見かねたというか構ってほしいと思ったランスが、二つ目の野菜カレーで行動に移る。
 恋人同士のよくあるアレ。カレーの載ったスプーンをセイジの目の前に出す。
「お前なぁ……」
 この時ばかりはカレーへの集中が途切れる。
 セイジは突然の突き出されたスプーンを見て、ランスを見て、恥ずかしそうに周囲を見て、そしてしばし赤い顔で「う~……」と小さく唸ってから、決心したようにパクリ、スプーンを口に含んだ。
「……ん、お、美味しいな」
 もぐもぐ咀嚼し、赤い顔のままぽつり。
「ご馳走様です!!」
 パン! と思わずランスは両手を合わせて感謝する。何に? 神に。この素晴らしい恋人をこの世界へ送り出してくれてありがとう! そしてセイジに。ナイス反応ありがとう!
 本当はセイジにもやってもらいたいけど、恥ずかしがってやってくれないから。
「さぁセイジ、まだまだあるぞ!」
 だから俺がやってやらないとな! 世話が焼けるなぁアハハハハ! 肉ゴロリが無いから一寸しょげたけど野菜ゴロリも美味いぜアハハハハ! 具沢山うめぇじゃんアハハハハハハ!!
 調子に乗りすぎたランスがセイジに怒られるまで、あと一分。


■君こそまさに、ナンバーワン!!
「ところでゼクの予想は?」
「4か5」
「なんでそこで冒険するかな」
 予想投票箱の前で直香が不満を零す。だがゼクは「誰がカレー大使になどなるか」と揺るがない。
「一途に2を追いかけたまえー」
 しかし、揺るがない精霊は揺るがすもの。直香はゼクの投票を邪魔して邪魔して邪魔しまくって、2へと変更させる。
 ゼクは呆れながらも、どうせ当たらないだろう、とそれを許容した。
「あれ、もしかしてお仲間?」
 ゼクが投票箱に入れたのを確認してから、直香が隣にいた秋乃に声をかける。その左手に刻まれた紋章を見たからだ。
「ん? お仲間って……」
 秋乃が首を傾げると、直香がほらほら、と左手の紋章を見せ、それでウィンクルムだと知らせた。
「へー、こんなところでウィンクルムに会えるなんて思わなかったぜ」
「結構遊びに来てる人いるみたいだよー、あ、柊崎 直香でっす! こっちのでかいのはゼク=ファル」
「いきなり悪かったな。だがまぁ、よろしく」
「こっちこそ、俺は天原 秋乃だ」
「僕はイチカ・ククルだよ、よろしくね」
 投票を終わらせた四人は、どうせだからと行動を共にする。
 日も斜めになってきた。もうすぐ投票結果も発表されるだろうと、簡易ステージの前へと移動する。
「あれー?」
「お?」
 と、そこには仲良くカレーを食べているセイジとランスがいた。
 直香達と秋乃達、両方ともそれぞれ任務でセイジ達と知り合っていたので、気楽に声をかける。
「おひさ~、まだ食べてるの?」
 直香がひらひら手を振れば、セイジとランスが苦笑して「のんびり食べてた」と答えた。
「先に投票したのか。でもそれだと後から食べたのが美味かった時失敗したって思わないか?」
 素朴な疑問を秋乃が口にすれば、セイジとランスはきょとんとした顔をして、そしてすぐ、同時に目と口を大きく開く。
「カレー祭にご参加の皆様、大変お待たせ致しました! これより人気投票の結果、つまり究極のカレーの発表と、カレー大使の任命式を始めまーす!!」
「投票ー!!」
 ステージ上に出てきた司会が声をあげる。ほぼ同時にセイジとランスが叫ぶ。
「まさか二人とも忘れてたの? 何やってんのー!」
 直香が弾けたように笑い出し、ゼクがそれを諌めるが、秋乃もイチカも口元を手で覆っている。
「いや、忘れてたワケじゃないんだ、投票しようとは思ってたけど、あれ、もうそんな時間か?」
「ワリィ、セイジ、話に夢中になりすぎて気付けなかった」
「いや、俺だって気付かなかったんだ、ランスのせいなんかじゃない」
「セイジ……」
「ランス……」
 トゥンク……! という謎の擬音が聞こえそうになる空気を、直香が「あ、なんか大体わかった、よし次行こう」とパンパンと手を叩いて切り捨てる。
「二人はどれに投票したの?」
 直香が秋乃達に尋ねる。
「人気投票は美味かったしいろいろ凝ってそうなスパイスカレーにした。で、予想は……正直、カレー大使とやらになる気はないからテキトーでいいかと思って、同じスパイスカレーにしたぜ」
「僕も人気投票は秋乃と同じところにして、でも予想はなんだか新鮮な味だったから麻婆カレーにしてみたよ」
 二人の回答に直香とゼクが目を輝かせる。
「だよねー! 麻婆カレー新鮮だったよね、新しい出会いだったよね!」
「あれは意外に合ったね、うん、良い出会いだったよ」
「やっぱりカレーはスパイスだよな、美味かったもんな、分かるぜ、その気持ち」
「お、あんたもスパイスカレー? 分かる分かる」
 直香とイチカ、ゼクと秋乃でそれぞれ盛り上がる。
 そうこうしている内に、ステージ上ではとうとう発表が行われた。
「第一回カレー祭! 皆さんの心を射止めた究極のカレーは!!」
 安っぽいドラムロールが鳴ると同時にステージ上で照明が踊る。
 ジャジャン!!
 真っ直ぐな光に照らされた司会が読み上げたのは。

「絶妙なスパイス配分! 『香るスパイシーカレー』です!!」

 拍手、拍手、そして歓声。
「はぁ?!」
「嘘だろ?!」
 さらに驚愕と嘆き。
 何という事でしょう、秋乃とゼクは見事一位を当ててしまいました。
 吹き出したのは直香で、素直に「凄いね!」と喜んだのはイチカ。
「ゼク最高! やってよ! 是非ともカレー大使やってよ! 僕全力で写真とって動画とってあらゆる方面に拡散して永久保存するから安心して!」
「やるなよ! 絶対やるなよ!! というかカレー大使なんてやってたまるか!!」
 腹を抱えて笑う直香を睨みながら、やはりスープカレーか麻婆カレーを予想しておけばよかったと後悔するゼク。
「なる気ゼロだから適当に入れたのに、くそ、もっと真剣に考えればよかった……!」
「え? 大使になれたらスパイシーカレー夏の間食べ放題だよ? 喜ぶところだよここは! やったね秋乃!」
「特典はいいんだよ、任務が嫌なんだよ!」
 面倒臭さを前面に出して嘆く秋乃に、まるで自分の事のようにはしゃぐイチカ。
「……楽しそうだな」
「……そうだな」
 ちょっぴり淋しげなセイジとランス。
「さぁ、それでは見事予想的中した方の中から、カレー大使を選ばせていただきまーす!」
 ステージ上で司会が箱に手を入れてがさごそ探る。
「外れろ、外れろ!」
「頼む、外れてくれ!」
 必死なゼクと秋乃。
「あったれー! あったれー!」
「どうか当たりますように!」
 能天気な直香とイチカ。
「…………楽しそうだな」
「…………そうだな」
 やっぱりちょっぴり淋しげなセイジとランス。
 そうしてステージ上。司会が箱から勢いよく取り出した、その一枚の紙に書いてあるのは。

「天原 秋乃さん! ステージにどうぞー!!」

「うわあぁぁぁぁぁッ!!」
 頭を抱える秋乃。
「いよっしゃぁぁぁッ!!」
 ガッツポーズをとるゼク。
「ざーんねーん! でもおめでとー!!」
「やったね秋乃!!」
 直香はケラケラ笑いながら、イチカは心底嬉しそうに拍手を贈る。
 おめでとう、二人の明暗が今分かれました、お気の毒に。
 周囲の笑顔と拍手に、そしてイチカに物理的に背を押され、秋乃は無理矢理ステージに上げられる。一人で辱めを受けてたまるかと、イチカの胸倉も掴みながら。「え、僕関係ない!」などという精霊の声は無視される。
 そうしてステージ上では引き攣った顔の秋乃を主役にした任命式が始まった。

「うーん、麻婆カレーは何位だったのかにゃー」
 カレー大使の任務と特典が司会に読み上げられるのを眺めながら、直香が名残惜しそうに呟く。
「そんなに気に入ったのか?」
「まぁねー」
 カレー大使になるゼクも見てみたかったが、同時にスパイスカレー以外が、出来れば麻婆カレーが首位になって欲しかった。
 そうすれば、今後ゼクが作るカレーにも影響が出るのでは、と期待したのだ。
 しかし、今回の結果はきっとゼクの普段の料理に自信を持たせただろう。きっと今後作るカレーもさらにスパイス調合を追及していくのだろう。
(いや、あれも美味しいんだけど、変わり種が好きなんだよー)
 ちょっと残念、と思っている直香にゼクが言う。
「それなら今度作ってみるか」
「え!」
 思わずゼクの顔を仰ぎ見れば、さっきとは逆にからかうような笑顔のゼク。
「たまには子供のワガママを聞いてやろう」
 ふふん、と鼻で笑う。いやいや、その子供相手に『勝った』って顔してるお兄さんてどうよ? などと内心突っ込みながらも、直香は悔しさと恥ずかしさが少し混ざった嬉しさを噛み締める。
「しょうがないなー、お礼は僕の裸でいい? ゼクってばむっつりー」
 するり、浴衣を半脱ぎすれば、勝ち誇った笑顔がもろく崩れ、苦虫噛み締めまくった顔になる。
「馬鹿か! こんなところで脱ぐな!」
「え? 何処で脱げって? まさかベッドの」
「何処でも脱ぐな!!」
「まぁ残念ながらこの下は水着だけどねー」
「水……」
「ここ海だよ? 当たり前じゃん。裸だと思ってたの? うわぁ、ゼクってホントむっつりー」
「直香!!」
 そして始まる仲良し喧嘩。

「スパイスカレーが好みだったな」
 バタバタしている直香とゼクを見守りながら、セイジがランスに言う。
「複雑な旨みと辛さが記憶に残ったよ。投票したかったな」
 残念そうに、それでも満足そうに呟くセイジに、ランスは少しだけ淋しくなる。
 ランスの鼻にはスパイスは強すぎた。鼻が利かなくなるほどだ。しかし、セイジはそれを「いい香り」と捉えるのだ。
(セイジと俺は別の種族なんだなって実感しちゃうぜ)
 ほんの少し、他の人間からすれば気がつかない位、ほんの少しだけ、ランスの感情が淋しく揺らぐ。けれど、セイジはその揺らぎを見逃さない。
「俺はグリーンカレーも好きだ。マトンの塊がゴロゴロ入ったカレーも良いな」
 今度、俺の家で食べないか?
 セイジが笑顔でランスを誘う。するとランスから揺らぎが消える。
「え? 作ってくれるのか? マトン肉がゴロゴロ!? すげえ!」
 次のデートの約束が結ばれれば、ランスは眩しいほどの笑顔になった。

 ステージ上で仲間たちの様子を見ていた秋乃は、仲良き事は素晴らしきかな、でも俺カレーとここまで仲良くなる気はなかった、などと軽く現実逃避をする。
「是非! 是非ともこの夏、スパイシーカレーの素晴らしさを! 周りの人間に勧めてくださいね!!」
「あ、はい」
 やたらと熱く語るこのミラクル・トラベル・カンパニーの社員は何なんだろう。そしてステージ横でギリギリと悔しがってる他のミラクル・トラベル・カンパニーの社員達は何なんだろう。
 ともあれ、その熱く語る社員との一方的に熱い握手を終えれば、残っている任務はあと一つ。
(……正直めんどうなんだが、やれと言われたらやるしか……ない……!)
「それでは、初代カレー大使に着任しました天原 秋乃さんに、カレー大好き宣言をしてもらいましょう!」
 司会が笑顔で秋乃にマイクを渡す。
 ブカブカの王冠にカレー大使と書かれたたすき。何で大使が王冠なんだ。冷静にそう思うと何だか心底アホらしくなって。

「カレー大好き―――ッ!!」

 自棄になってやたらと大声で叫べば、返ってくる盛大な拍手と笑い声。
 そんな任命式が終わり。
 ステージ裏で、特典のフルーツ沢山カキ氷をイチカと一緒に食べていると、任命式での写真が渡される。そこにはぎこちない笑顔の秋乃と、ちゃっかり入り込んだ楽しそうなイチカが写っていた。
「いい笑顔だね」
「変な顔」
 喉を鳴らして笑いながら、シャリ、と氷を口内へ。
 まだ熱い肌をオレンジ色の日が照らす。夏の思い出が、また一つ。
「今度、早速スパイシーカレーの店に行ってみるか」
「うん、いいね、行こう!」
 そしてきっと、もう一つ。



依頼結果:成功
MVP
名前:天原 秋乃
呼び名:秋乃、あきのん
  名前:イチカ・ククル
呼び名:イチカ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 3 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 07月16日
出発日 07月22日 00:00
予定納品日 08月01日

参加者

会議室

  • [3]アキ・セイジ

    2014/07/21-17:37 

    アキ・セイジだ。

    ちなみに全種類食べる予定。
    どれも美味しそうだから別にどれが一番でもいいんだが、まあ、投票はしておくよ。

  • [2]柊崎 直香

    2014/07/21-14:47 

    通りすがりのカレーという魔性に魅せられたものです。こんにちは!
    ぎりぎり参加だけどよろしくね。

    一位予想ってことは自分の投票先伏せとくべきだよね、と思いつつ
    僕のはあえて宣言しておこう。『特製麻婆カレー』に一票入れるつもりだよ。
    ちなみに精霊の方は別のに投票するみたい。
    さてさてー?

  • [1]天原 秋乃

    2014/07/20-23:59 

    カレー……どれも美味しそうで迷うな


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